いまニューヨークの取引所には千五百の会社の株が上場されている。それぞれの銘柄の スペシャリストといって、専門にそれだけを扱うという業者がくつついている。約四百人 のスペシャリストが一人四つか五つの銘柄を担当している。 会員業者が—の株を買おうとしたら、—を扱っているスペシャリストのところ へ行く え スペシャリストの役目は二つある。 合 び 一つは会員のウリとカイをマッチさせること。 呼 でもう一つはウリばかりでカイがなく値がっかないときは自分がカイに向かうし、カイば ネかりでウリのない場合はウリに向かわなければならない。 スみんなが買おうと思っているとき売り、売ろうと思っているとき買うのだから、アマノ アジャクにならざるをえない。しかし、スペシャリストには金持ちが多い 兜明にも「人の行く裏に道あり花の山」という古くからの言い伝えがあゑ洋の東西を 章 第問わず、アマノジャク的投資法のほうが結果は良いのかもしれない。

1 三ロ いま、・ほくの時間の八〇パーセントは人を採用するためにあてられている。 — << 、すなわち Maltilateral lnvestment Guarantee Agency ( 多数国間投資保証機関 ) は、世銀グループの四番目の国際機関である。発展途上国の累積債務の問題が深刻化した ため、新たな債務を伴わない民間の直接投資を促進するために作られた。主要業務は、 田先進国から途上国への民間投資保証 奮図途上国の投資環境整備のためのアドバイス 長の二つである。 したがって、は、 章①保証業務 第図アドバイス業務 ③法務関係 の三つの部門を主要な柱として持とうとしている。 茶色の髪の毛、大きな黒い目。小柄だが美人である。 ・ほくが部屋に入ると、彼女もついて入ってくる。今日一日の予定を読み上げてくれるの である。

ンストンの東部の名門大学出身であるという大銀行の「頭取の条件」を何一つ満たしてい しかし、そんなことよりもたいせつなこと、人を思わずひきつけるチャーミングな人間 性、一つの専門分野においては余人の介入を許さない権威を彼は持っている。。ほくは彼が 大好きだし、心から尊敬している。 彼の部屋には家族の写真が三つも四つも飾ってある。写真スタジオでものものしく写し たものではない。とても自然なスナップである。 合 び 呼 で 「社長の部屋」 ム 会社へ客が訪ねてきたとき、日本では別の応接室へ通す。アメリカでは社長なり頭取な りは自分の部屋へ招き入れる。 アそこには家族の写真はもとより、アフリカで手に入れた手彫りの原住民の人形やインド ネシアの踊り子の衣装、多人形に至るまで所狭しと並べてあゑ 章 第だから彼の居間にいるような温かさが感じられる。「社長の部屋」ではなくて「彼の部 屋」なのである。 日本では、社長室は「社長 , が執務をとるところだから、社長が田中さんであろうが、

個人の持っている庭園としては、ここが京都で最も美しいと、・ほくは思う。 うっそう 東山を背に鬱蒼とした木々、その中に点在する趣のある茶屋。四羽の白い親子スワンが 泳いでいる大きな池。庭から東山を眺めると自分自身が山のまん中にいるような気になっ てくる。東山そのものを庭にとりこんでしまっている。こういうのを「借景」というのだ そうだ。 その夜は日本の財界のお歴々も集まった。「すし」「そば」「おでん」などの屋台も庭の 中に作られた。なにしろ一番たいせつなお客様がアメリカ人なので屋台の上にローマ字で 大きく「」「 OQQZ 」と書かれた看板を立てた。 ーティーの最中、カメラマンがスナップ写真を撮りまくった。 アメリカからのお客がまだ日本に滞在中にと、大急ぎで作らせたパーティーの豪華なア Ⅲルバムが四、五日たってでき上がった。 「どれどれ」とアメリカ人たちは子供のように目を輝かせながらアルバムをのぞき込む。 章 第一枚の写真のはってあるべージでまず一人が「オー・マイ・グッドネス」と言って笑い 出した。この場合は「いったい全体これはどういうこと」というような意味だ。 その写真にはウォール・ストリート の大物と日本の財界人が十五、六人一一コニコ笑って

9 第章 、なか ある。もっとも今の若い人たちは、この「住めば都」を「どうせ住むなら丑舎ではなしに 都会にしよう」と解釈するらしいので、用心して使わなければならない。 しかし、・ほくが大人になって住んだところと言えば、東京とニ、ーヨークの大都会だけ だから、そういう意味では若い人の間違った解釈もあながち外れているわけではない。 丿ト社員、医者、弁護士、会計士、エンジニアなどは別として ちゃんとした会社のエー ニ = ーヨークでは一人が二つあるいは三つの仕事を持っている場合はざらである。 運転手ジョン君の本職はモデルである。そもそもはプロードウェイの舞台を夢みた俳優 志望だった。背は一七五センチぐらいでぼくとそう変わらないが、均整のとれたスタイル、 いやそれよりなによりマスクが良い へ以前車を降りるとき、恥ずかしそうに彼の写真の載っている週刊誌を渡してくれたこと 一がある。普通のサラリーンにしたジ , ンが、旅行カバンをさげてホテルに入るところ を撮ったもので、なかなかどうして堂に入っている。 ュ 「三か月まえに結婚しましてね。モデルのほうは何となくやくざっぽくて長続きしない職 一業なのでやめました」と言う。いまフォーダム大学で昼間勉強し、夜ハイヤーの運転手と いう生活である。 ジョン君は何歳なのだろう。三十は出ているだろう。しかし、こういうとき年齢をきく

走り始めてからもう二時間になろうとしているのに、この東洋からの青年はひと言も口 をきいてくれない。自分の気持ちが「退屈だわ」から「つまんない」に変わっていく。 その青年、つまりぼくは、・ほんやり窓の外を見ていた。 「仏教に選民意識はない。 この世の中で目に見えるもの、形あるものはほんとうは″無〃 である」 仏教の持っ思想を英語で的確に発表するなどということは、しよせんぼくには無理。実 際にセミナーでどう発言したのか覚えていない。「 トリームーとか「ナッシングネスーを やたらに使って悪戦苦闘したことしか記憶にない。 野村證券に入社して三十四年三か月たつ。もう少しで五十七歳になる。 株もとうとうわからずじまい。 株と仏教の間に、なんとなくただよう「儚さ」、そんなことを = 、ーヨークにいる、 島野栄道老師と今度お会いしたとき、ゆっくり話し合ってみたい。

すばらしい朝 どこかの銀行が草笛光子さんに依頼して小林桂樹氏とか広岡達朗氏と対談をしてもらう とてもしゃれた広告をしている。 草笛「お酒をおやめになったんですってね。何かいいことありまして」 小林「朝の目覚めがすばらしい。深酒をしていたときは、こんなすてきな朝はありませ んでした」 題 話・ほくには小林氏の言っていることがよくわかる。ぼくも全くそのとおりだからである。 以おおげさに言えば、この朝のさわやかな目覚めのために毎日生きているようなものであ ジ る。 つら 章 ぼくの場合、六年前にぶつつり酒をやめたのも、いやなことは、辛くても翌日まで持ち 第越さずその日のうちに片づけようと努力するのも、ぐっと我慢して寝る前には何も口に入 れないのも「朝の目覚めをすがすがしくさせたい一念」からなのだ。 さわやかな目覚めにこだわりつづけているが、なかなかできない。

238 けない。元来がアウトローが好きなのである。 そんな訳で、初対面の時もそれ以後も、こちらから質問しないかぎり、ご自分の方から はウォール街のことも、ベストセラーのご本のことも口にしようとしなかった寺澤さんは、 私には意外だったわけである。 私は出逢いの瞬間に「 ! ーとこちらに思わせる人に、興味をもつ。「 ! 」がない出逢い というのは、従って次回へ続かない。お互いさまであるから、私も相手に「 ! 」を感じさ せることができなければ、次の電話は向うからはかかって来ないはずだ。 自分がいかにすぐれた男であるかとか、いかに女にもてるか、いかにその仕事が世間の 評価を受けているかということを、とうとうと喋る男たちは、そうすることによって自分 の株をぐっと下げていることにどうして気づかないのか、私は本当にいつも不思議に思う のだが、さすが本職の株屋さんは ( 失礼 ) 、ご自分の株を下げる愚を犯さなかった。能あ るタカは爪を隠すというたとえがあるが、寺澤さんの素敵なところは、あれだけのお仕事 をしながら、とても謙虚で、さらにびつくりするのはシャイでいらっしやることだ。私が 好きな男の条件を寺澤さんはほとんど持っていて、それで、ワシントンと東京の友達づき あいが始まっていったのだ。 私は、男性の色気というのは、謙虚なシャイさかげんにあると思っている。それはさて

まず決定的な違いはアメリカの男は「マメーであると言うことだ。 ペンシルヴァニア大学に留学していたとぎトム君とジョージ君と三人で暮らしてい た。三人とも洗濯日は土曜日と決めていた。トムとジョージはコイン・ランドリーからぶ ら下げてきた洗濯ずみの乾いた下着をとり出すと、パンツはクルクルっと丸め、ソックス はサッサッと伸ばし、引き出しにきれいに整理して並べる。見ている・ほくが楽しくなるほ ど、彼らはロ笛を吹きながら手際よくやってのける。 ニューヨークに住んでいる連中はそんなに金持ちでなくても郊外にウィーク・エン ハウスを持ちたがる。 金曜日の夕方、ステーション・ワゴンに家財道具をェッサ、エッサと積み込み、エンエ いなか ンと三時間もドライプして田舎の家へ向かう。 ン ポ テレビの前でゴロッとしているとか、・ほんやりほおづえをついているとかいうアメ 国リカの男はあまり見かけない。 「めんどくさい。どうでもいいや」などと言うアメリカ人は。ほくの周りには「まず、いな 章 第かった。 しり 日本の男が離婚しないのは、あの「手続き」を考えただけでユーウッになり尻ごみをし てしまうのではなかろうか。

230 ということより「そのことをやりとげること」に麻薬のような光忽を覚えていたと いうより一言いようがない。 これだけのことを話す合間に、ワイフや娘にも適当なお世辞など途中でポンポン入れる から、四、五十分は彼の独演会だった。 ・ほくたちの話す余地は全くなかった。 この夜はみんなぐったりくたびれた。 この映画の教えるもの この映画『ウォール街』のモデルがボウスキーだったかどうかは別として、インサイダ ー取引の恐ろしさをはっきり訴えていることは事実だ。 アメリカ人の四人に一人は株を持っている。だから株式市場は誰に対しても一律にオー プンで、どこからもよく見えるきれいな土俵であることがアメリカでは求められている。 日本でも株を持っている人は一千万人いゑアメリカと同様「きれいな」「誰にもよく 見える」市場を一日でも早く作ろうと、いまみんなが努力している。 ウォール・ストリート の恥部をいやというほど見せられた以上冫兜にそのテッを踏み たくないのである。