時間 - みる会図書館


検索対象: 時の螺旋
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1. 時の螺旋

いちいち偉そうな言い方だったが、事実なので一応うなずく。 やっかい 「あそこは、時間の流れる速度を変えたり止めたり逆流させたりと、いろいろ厄介な仕掛けで あふ 溢れ返ってる場所でな。おれがお前を見つけた時には、お前はすっかり影響を受けちまって て、自分がどの時代に生きてる人間かも忘れてた。ここまでもわかるな ? 」 そなく うなずきながら、つい覚えてしまった素朴な疑問ーーーその二。 「ずいぶんあそこのこと、詳しいみたいだけどどうして ? 」 返ってきた、素朴な答えーー・ーその二。 「おれが作ったんだから、詳しくないわけがないだろ ? 」 なにやら、全ての元凶は、目の前の青年のような気がしてきたからといって、誰もシェンツ ア・リーウエンを責めたりはしなかっただろう。 「幸いにも、お前は時間のことは忘れちまってたが、場所についちゃあ覚えてた。それで、本 当ならお前は知る必要のないことなんだが、説明してやるなら、お前のいたっていう一フンティ スって国は、おれの生きてる時代には滅んじまってるわけだ。で、滅亡する時期ってのはわか ってたから、一応確かめに行ったわけだ。お前が変な影響受けてなけりや、わざわざ出掛ける きた までもなかったんだがな、ちょいと変調来してるもんでな、いくらおれでも確認するのに少々 手間取ったってわけだ。まあ、あの怖い女の邪魔が人ったとはいえ、しつかりあの前後一世紀 さかの のあいだ、お前がティンダを訪れた気配はないってのを確認したからな、これからは時間を遡

2. 時の螺旋

まい 麻維にとって、それは信じがたい展開だった。 しこんようしゅ えいしじゅっ 紫紺の妖主の気まぐれで、影糸術をほどこされ、人形へと変えられた彼にとって、自身の末 来などとうにないも同然だった。 人間でなくなった以上、普通の人生など夢でしかない。そもそも、寿命があるのかどうかさ えわからない。永遠にも等しい時間を、ただ送りつづけるしかないのか、それともある日予兆 もなにもなく命が終わるのか、それすらもわからない。 ただひとつだけはっきりしていたのは、二度と大切な者たちと近しくは暮らせないという現 実だった。 しようき あふ 紫紺の妖主の手によって、人形とされた彼から、妖気とも瘴気とも呼ぶべき気配が謚れるこ とはない。腕のいい人形師が、自らの望む命、気配を作品たる人形にそそぎこむように、紫紺 の妖主は彼にかけらとて『魔性』の気配をそそぎこむことはなかったのだから。 ずい 創造主たる妖主が、彼を作り上げるにあたって、意図したことは『骨の髄まで人形師である

3. 時の螺旋

可笑しそうにロの端を歪める。 「いいのか ? おれがお前の名前を呼んだら、その瞬間にもお前を支配してしまうかもしれな ことだま いぞ ? 名前ってのは、最強の言霊だからな」 やはり、こいつは魔性なのではあるまいかーー声から感じる異様なまでの説得力に、シェン ツア・リーウエンはうーん、と考えこんでしまった。 : とにかく、お前呼ばわりだけはやめて」 「じゃあ、愛称でいいから。シェンでもリーでも : かたくな 頑までに言い張るシェンツア・リーウエンを相手に、青年は『折れてやる気』になったらし 軽く肩をすくめて、先程の質問を繰り返す。 「じゃあな、シェン。改めて聞くが、お前の体はどこにあるんだって ? 」 「どこにつて、ここに : : : って、え ? やつばり、これ夢なの ? 」 思わず目を落とし、自分の両手を見つめてしまったー・ー透けてはいないようだった。 青年が呆れたように言葉を重ねてくる。 「おれにとっての現実と、お前の夢が重なってる可能性については否定できんが、少なくとも 旋 螺このままじゃ、永遠に覚めない夢になるだろうよ。人間ってのは、体と魂が離れてる時間が長 時いと、どっちにとってもろくなことにはならんからな」 彼の言っていることはよくわからなかったが、少なくとも、以前のように夢に体ごと引きず い。 おか たましい

4. 時の螺旋

手の思っているような存在ではないと主張したりすることではないとわかっている。 かば 背中に庇ったシルへが、るような目で、自分の左手を握りしめているのだから。 「退けば : : : この子を人柱にするつもりだろう ? 」 敬意のこもらぬ声と口調に、相手ーーー黄呀はあからさまに不機嫌な態度を見せた。 「なんてロのききよう : 。けれど、いいわ。いまは許してあげる。お前は我が君が遣わした 者ですものね」 けれど、あとで覚えてらっしゃい 憎々しげな声には、本気で殺意が宿っていた。 「わたしの問いに答えて貰っていないようだが : 尋ねながら、ラエスリールはまずいと感じた。 ろうどく この封印とも結界とも牢獄とも呼べる空間は、あまりにも長い時間、相手を抱えこみすぎて いたーーー空間そのものを満たす気が、彼女の気配にたやすく反応するほどに。 こんな空間 そして、相手はいま、その機嫌のせいで、強烈な妖気を全身から放っている むしば に、シルへをこのまま置いてはおけない。呼吸しているだけで、命が蝕まれてしまう。 げせん 「なんて、生意気な人形 ! 紫紺の方の腕も落ちたものね : : : それとも、元々が下賤な人間だ った記憶を引きずっているのかしら ? 仮にも我が君の使いだからと気を遣ってやっていれ はなは ば、田 5 い上がりも甚だしい。お前の問いになど答える義理はわたくしにはないのよ ! 思い上 つか

5. 時の螺旋

ればいいってだけのことだ。ちょっと時間はかかるだろうが、見つかるのは時間の問題だろう よ」 「遡るって : : : 自由に時間を行き来できるの ? 」 信じられない、とつぶやいたシェンツア・リーウエンに、千禍は「過去にならな」と短く答 えた。 もっと自慢するかと思ったのに、意外な反応だと思った時、また脳裏に響く声が聞こえた。 『彼は哀しみを見せない : : : だが、哀しみを知らぬ者ではない : あふ 胸をしめつけられるような、切なさに溢れた声だった。 シェンツア・リーウエンは田 5 う。 この声はなんなのだろう この声のひとは誰なんだろう : 「どうした ? 」 不意にかけられた声のせいで、忘れてしまった思いだったけれど。 「うん ? なんでも : : ただ、簡単そうに言うけど、簡単なことじゃないんだろうなって思っ 螺「当たり前だろうが」 時平然と、千禍が答える。 その、簡単なことではないことを、彼はわざわざやってくれた。いや、これからもそうして

6. 時の螺旋

青年のつぶやきが聞こえたのはその時だった。 まひ やっかい 「急いだつもりだったが、時間感覚が麻痺させられたとなると厄介だな : : : 」 明らかに、なにかを知っている口調であり内容だった。 「どういうこと」 説明するのが面倒くさいのか、青年は一言で片づけた。 「ここはそういう場所だってことさ」 全然わからない。 「だから、それはどういう意味かって : 聞いてるんじゃない ! 突っこもうとしたシェンツア・リーウエンのロは、しかし、青年に塞がれてしまった。 「説明なら、後でしてやるから、とにかく出るぞ。これ以上、影響受けさせるわけにやいかん からな。しかし、ランティスとなると滅びてどれくらいになるんだったつけ : : : ? まあい じかんじく い、適当な時間軸に照準あわせとくことにするか」 られつ 意味不明の一言葉の羅列としか、シェンツア・リーウエンには思えなかった。 たましい そくばく 旋 螺 が、場の束縛が消え、自分の身柄ーー現在魂だけの存在だという青年の言葉を信じるなら、 の が、そことは別の、どこかに移し変えられたのはわか 時身柄というのもおかしいのだろうが 5 っこ 0

7. 時の螺旋

られたわけではないらしい。 だからといって安心できる状況でないのは、青年の言葉からもはっきりしていたが。 「永遠って : : : だって、目が覚めたら夢なんて終わりじゃない」 たとえ、意識がどこに飛んで行ったにしろ、目覚める時は、体に戻るものではないかーーーそ れが夢というものだ。 「ここから出ないことには、絶対戻れないんだよ。でもって、ここは出るのが大変な造りにな ってる場所だってことだ。わかるか ? 」 わなろうごく 罠か牢獄みたいなものだろうか。 そう尋ねると、青年は「そんなものだ」と答えた。 「あと、眠った時期も思い出してもらいたいもんだな。いくら場所がわかっても、時間がずれ かんしよう てちゃ話にならん。ここは外界と違って、時間の流れってやつの干渉を受けてない場所なんで な。お前のことなぞどうでもいいが、手掛かりまで消えるのはよくない」 青年の説明は、相変わらずよくわからないもので : : : しかも、後半部、シェンツア・リーウ はら エンにとっては不愉快な意味合いを孕んでいた。 こ、こいっ : : : 性格悪いわ。 ひとよ なまじ、いつも馬鹿のようにお人好しな幼なじみと一緒にいるせいで、なおさらそう感じる えんりよ のかもしれない : : : と思い、それでも確かにこんなところにずっといるのは遠慮したいから、

8. 時の螺旋

「見つけた」 誰かがつぶやいた。 「ようやく、見つけた」 うれ 嬉しそうに、誰かが笑う気配が伝わる。 そうして、シェンツア・リーウエンの奇妙な旅は終わった。 まくあいげき もっとも、隠された幕間劇が、存在してはいたのだけれど りがんじよう 璃岩城が無礼な客人の侵人を認めたのは、歴史上初めてのことだった。 しこんようしゅ らんし 璃岩城の主は紫紺の妖主ーー藍絲は不機嫌ながら、突然の訪問者を迎え入れた。 ざくろようしゅ 「どうやら、わたしのよく知る柘榴の妖主とは違うようだが : : : まあ、歓迎しよう」 っちか 皮肉な一言を忘れないあたり、一部の知己に嫌われる要素は時間の経過が培ったものではな 0 0

9. 時の螺旋

わからないまま、一フェスリールは逆流する時間の流れに身を浸す。 けれど、そばには闇主の気配があった。 「本当に、大丈夫、かな : : : ? 」 心配なのは、残してきたあのふたりのことだ。 シ・エンツア・リーウエンとラウシャンの治せるだけの傷は治したが、なんとなく気にかかっ てしまう : : : 同じ時を生きているわけでない自分には、もうこれ以上係わることができないか らこそ、なおさらにそう思うのかもしれないが。 そんな彼女のすぐそばで、「大丈夫だ」という声が聞こえた。 「お前がいる」 なぜだか、違う風に聞こえた。 お前が生まれた。 そうなのか、とラエスリールは思った。そういうことなのか、と彼女は田 5 った。 だから、うなずいた。 「そうだな」 旋 螺思いは心を叩くだろう。 時心は思いに扉を開く。 的そうして未来は歩きだすーー自分にとっては過去であっても、彼らにとって、それは末来に

10. 時の螺旋

訴えられても、ラエスリールにはどうしようもないことだった。 それに、戸惑ってもいた。亜珠との出会いも別れも、すでに過去のものであったけれど・ 一度として、彼は自分に敬意めいたものを示したことはなかったのだ。なのに、いま、ここで 出会ったばかりの自分に、彼は敬意を示している。 闇主の身内だと誤解したからか : : : それとも、この身が魔性であるせいなのか。 だが、その答えは、闇主が引き受けてくれた。 じかん・しく 「そいつは時間軸の歪みに巻きこまれただけだよ しかし、亜珠は信じ難げな顔で、闇主に目を向ける。 「柘榴の君の血族ともあろう御方が・ 思いがけない言葉に、一気に脱力しそうになったのは、恐らくラエスリ 1 ルだけではなかっ たろう。 「お前 : : : ちゃんと目はついてるか ? よくよく見てみろ、こいつの赤くない方の目の色は何 色だ ? 」 金色ーーに輝いているはずだった。 螺亜珠の美貌に、衝撃が走った。 時「だが : : : そのような : それでも、亜珠は立ち直った。 びにう