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検索対象: 時の螺旋
194件見つかりました。

1. 時の螺旋

「最近見つけたなかでは、かなりな掘り出し物だと思っているが ? 」 ということだ。 けっこう気に人っている 柘榴の妖主はここで、うーんとうなった。好き嫌いは別としても、つきあいの長い分、相手 の性格や対応は、簡単に読み取れてしまうのが、寿命の長い者同士の宿命というやつだ。 「そいつは困ったな : : : じゃあ、ひとっ取り引きと行こう」 「取り引き ? 」 ふふんと鼻で笑った藍絲は、しかし提示された条件に、どうやら心揺さぶられてくれたらし かった。 「待て。それはいつの時代のことだ」 げんち 言質を取ったのを幸いと、さっさと退場しようとした彼に、藍絲が問い掛ける。 「わかりきってちゃ面白くないだろう本気で惚れてるなら、相手の言動に気をつけるこっ た。少なくとも、うまくやりゃあ、ガキのひとりぐらいは生まれるはずだ : : : 少なくとも、お れが知ってる世界じゃな」 軽やかに手を振って、交渉を終えた青年は璃岩城を後にする。 じゅうめんしこん 残されたのは、渋面の紫紺の妖主だ。 「いかがいたしましよう : 相手が相手なだけに、伺いを立ててくる側近のひとりに、藍絲は苦笑まじりに「放ってお

2. 時の螺旋

218 によじっ その思いは、珍しくも如実に顔に出ていたのだろう。 闇主が笑った。 「お前、なんか勘違いしてないか ? おれはひとことだって、この娘がおれの血族だなんて言 っちゃいないぞ ? 」 確かにそれはその通りだった。 けう ちすじ だが、魔性の王とも呼ばれる者が、自らの血脈でもない相手に、気を配ることが稀有である ことを彼女はすでに知っていた。 「言ってはいないが : : : 」 ためら ロごもり、「じゃあ、なんなんだ」と問いかけるのも躊躇う彼女の様子に気づいてか、闇主 はため息とともに、観念したようにつぶやいた。 くぐら 「九具楽が : : : 偶然拾った子供がいたんだよ。おれの後始末に出向いた先で、多分その後で捨 てられたんだと思うんだが : : : 四、五歳だって聞いた覚えがあるからな。その子供がまた奇妙 なっ な子供で、九具楽に懐いちまって : : : あいつも慕ってくる相手には冷たく振る舞えないやつで あいがん な。可愛がってる愛玩動物ってな感じだったんだが : : : まあ、それなりに気には掛けていて」 歯切れがわるい。 だがラエスリールにはその理由がわかっていた。 かぎ 九具楽というのは、闇主にとってもっとも耳にしたくない、ロにしたくない鍵となる言葉な かわい

3. 時の螺旋

「あなた、性格悪いって言われない ? 」 思わずそう尋ねてしまった彼女に、千禍は楽しそうに笑いだした。 「いまさらわざわざ言うようなやつらは知らないな」 というわけだろうか。 すでに公然の事実となっている じゅ 「まあ、いい。確かに、お前も事情は知ってた方が、こっちとしてもやりやすい。いちいち呪 縛するのも面倒だしな。その代わり、おれがいいと言わない限り、お前は黙ってるんだ、いい な ? 特におれのことを千禍だの柘榴のだの赤のだの呼ぶやつの前じゃ、絶対にだ。そいつら にとっちゃ、お前を消すことぐらい、なんでもないんだからな」 そく ここで覚えた素朴な疑問 「なんで、わたしが殺されなきゃならないの : : : ? 」 返ってきた答えも、素朴なものだった。 「そりゃあ、おれが連れてるからだろ」 罪悪感などかけらもない口調に、シェンツア・リーウエンは怒る気さえなくしてしまった。 「わかったから : : : 説明して」 旋 螺どっと脱力したものだから、つぶやく声はカないものだった。 時「まず、お前の意識は体と離れ離れの状態になって、あの『時の迷宮』に迷いこんで捕まっち まってた : : : それをおれが見つけて連れ出してやった。ここまではわかるな ? 」 ばく

4. 時の螺旋

尋ねたところで、意味のないことだった。 シェンツア・リーウエンは己の特異体質以外、なんらカを持たなかったし、この正体不明の 青年がなにを欲しがるにしても、それをかなえるだけの力など持っていなかった。 できないことは約束できない。 彼女はそのことを知っており、また自らの無力さを知っていた。 「わたしに出来ることなんか、ほとんどないわよ : ・ : ・ ? 」 ほえ つぶやいた彼女に、青年はうっすらと微笑み「充分だ」と答えた。 その徴笑みが、あまりに深く : : : 思わず見とれてしまうようなものだったから、シェンツア ・リーウエンはつい尋ねてしまったのだ。 「そんなに、大事なことなの ? 」 捜しているのはーーー求めているのは。 「ああ」 迷いもなく答えられて、彼女は思わず顔を顰めた。 ためら ここまで躊躇いなく言い切られる存在というものに、興味と嫉妬を覚えてしまう。 「誰を捜してるの ? 」 尋ねた彼女に、青年は蕩けるような、それでいて凍えるような : : : 不可思議な笑みをたたえ てつぶやいた。 とろ しか しっと

5. 時の螺旋

224 のご意見をもらい、「確かに一理ある」と思ったものですから、以来雑誌掲載作品には大幅な改 稿、書き足しはしないよう心掛けてきましたが、今回の件に関しては『よリわかりやすい表現 に近づけるため』に、必要なことだと思い、断行しました。 ど 一度発表した作品に関する問題は、難しいものだと思います。手を加える、加えない ちらが作家の誠意なのか、どちらを読む方が誠意と感じるのか、本当にそれぞれがどう感しる かという問題ですから。 硬い話題になってしまいましたが : : : しかし、この話も赤男の余裕ぶった態度を崩すことは : しくし / 、。 できませんでした : つづいて書き下ろし『紅き神の娘』について。 タイトルからして笑えます : : : 『紅き神』って、いったい誰のこと ? みたいな。 話はシリアスなのに、タイトル間違ったかなあ : しかし、この話には以前「一一度と登場しない」と明言したキャラがちゃっかり再登場してお ります ( 誰か知りたかったら本文読んでね ) 。しかし、『翡翠』のラストまで読破した読者の誰 も、以前のような素直な気持ちで、彼女の存在を受け止めることはできないでしよう : ここまで書いたら誰のことか、ネタばらししてるも同然か。 今回の敵役に関しては、我ながら珍しいタイプになったものだと思っております。 鎖縛もかーなーりー、変な性格の持ち主だったと振り返ってみれば作者は思うわけですが、 あか

6. 時の螺旋

しかし : : : あまり抑止力がなかったことは、さらに自身に加えられた衝撃で知れた。 どす、どし、げし、がす。 あしげ 新たに襲った足蹴の衝撃は : : : 手加減という言葉からは縁遠いものだった。 「おれはこういう、自分はなんにも努力しないで、他人がどんだけ頑張ったかも想像しない うらや で、単に相手のこと羨んでるやつってのが大嫌いなんだよっつ ! 」 「嫌いだからって、痛めつけていい理由にはならないだろうがっ ! 」 青年の迫力に負けじとばかりに怒鳴り返した声の主が、あの不思議な金と深紅の色違いの瞳 かば を持っ女性であろうとは想像はついたが、なぜ彼女が自分を庇ってくれるのかは麻維にはわか らなかった。 たましい ただ、その後のしばらくの出来事は、間違いなく彼の魂に刻みこまれ、決して忘れられない 永遠の『時』となったのだ。 一目見ただけで、充分すぎるほどの力を内包している事実を、こちらに知らしめてくれる女 性は、傷つき、ぼやけかけた視界しか保てぬ彼のそこですら、尋常でない輝きを発揮してくれ こ 0 あふ 螺涙が溢れるほどに美しいと、麻維は感じた。 時同時にそれが、痛みをまるで知らぬ者では持ちえぬ美しさであることを : : : いまさらながら に彼は悟った。

7. 時の螺旋

112 『まあ、 x x ったら ! そんなの当然のことでしよう ? x x は彼のこと、意識しだしたって ことよ。気になるのは恋のはじまり、ですもの。相手のことが気になって、相手のことが知り たくなって : : : 』 『でも、知りたいけど、知りたくないと思うこととかもあったりして : : : ? 』 『そうそう ! それは、だって当然だもの。誰だって自分より前に相手の心を占めてたひとの ことなんか、知りたくないけど、でも絶対気に掛かっちゃうし : : : ね』 などなど。 もし、ラエスリールが率先して、人とっきあうことを求めたとしたら、あり得たかもしれな い可能性は、過去仮定である以上、いくらだとて出てくるわけだが。 それがあくまで可能性に過ぎない以上、ラエスリールの認識も閉ざされたままだった。 なぜ、こんなに苦しいのか。 考えるのだが、一フェスリールにはわからない。だが、では彼がそばにいなければ、苦しくな いな くなるのかと問われれば、それもまた否だ。 そばにいなければ、苦しくてたまらないのに、そばにいても、苦しいのだ。 いったい、わたしはどうなってしまったんだ・ 疑問は尽きない。 かいむ だが、答えをくれる相手は皆目いない上に、くれそうな相手との接触も皆無とあっては、自

8. 時の螺旋

「だから : : : 『茅菜』なのか ? 」 ざくろようしゅ あんしゅ かって千禍と呼ばれ、現在では闇主と名乗っている柘榴の妖主のもうひとつの姿でありなが ら、『茅菜』は存在そのものも、身に纏う気配も、彼とは全然違っていた。 事情を知る者でもなければ、両者が同一人物とは決して見抜けないほどに。 「お前が村の外れで姿と気配を消したのは : : : お前の存在そのものが、封じられた魔性を刺激 するからか ? 」 問い掛けの形を取ってはいたものの、それは確認を取る響きに満ちていた。 「まあね」 と少女は苦笑する。 「とりあえず、封じておけば大丈夫だろう、なんて相手のこと、甘く見てたのは認めるけどね たくら いしゆがえ : まさか、あたしに対する意趣返しも兼ねて、こんな脱出策企んでくれるなんてね」 「じゃあ : : : 人柱の件は、封じられた魔性が・ 問いながら、ラエスリールは背筋をつたうぞわぞわした感じゃ、ふと落とした目に飛びこん ひふ あわだ g できた粟立った自分の皮膚を、必死に脳裏の隅に追いやろうとした。 きそれらが決して、この異常な事態を前にしての、不安や危機感ゆえのものでないことを知っ ているせいだった。相手が是非ともそうすべき理由を持っていることを、充分理解していても あふ ぎたい ・ : それでも、闇主が茅菜に擬態しているこの状況は、なんとも違和感溢れる、気色悪いもの せんか すみ

9. 時の螺旋

彼らは村人たちから真実を隠していることになる。そうして、わざわざ『神の娘』などと持ち 上げるからには : : : どうにも隠しておきたい真実が、底にひそんでいるとしか思えない。 赤い印を持っ娘によって二十年ごとに繰り返される封印強化の儀式ーー・だが、シル ( の話で は、現れた『神の娘』が、再び姿を見せることはないのだという。村長たちがそのことをラエ スリールに隠していた事実ひとっとってみても、その意味するところは明らかだった。 「人柱 : : : なんだろう : しんく こはく そうう やり切れない思いを深紅と琥珀の色違いの双眸にたたえ、彼女は『茅菜』に問いかけた。 黒髪の幼い少女は、なんのつもりか肩をすくめた。 「いかにも彼女らしい、陰湿なやり口よね」 肯定でも否定でもない言葉に、ラエスリールは眉宇をひそめた。 村長たちの言うところの『赤い魔性』、シルへの言う『赤い良い神さま』の正体が、自分を この事態に放りこんでくれた深紅の青年であろうことは、すでに確信していたが、ここにきて 初めて、本人ーーとは知っているが、なかなか背筋がぞわぞわする事実である からそれを 認める言葉を聞き出せたのだ。 現在目の前にいる相手の、この姿を取る理由というやつも、それで説明がつく : : : 真実、冗 まと 談や気まぐれで、敢えてこんな違いすぎる姿を纏っているというのであれば、またぞろ話は違 ってくるのだが。

10. 時の螺旋

210 はたして、柘榴の妖主の張ったらしい結界に守られた娘は、さしたる打撃を受けた様子はな いものの、衝撃は大きかったらしく、破妖刀を握る手を放し、両手で顔を覆った。 この隙に : 破妖刀を抜き、放り出そうと思った黄呀は、残酷なことを思いついた。 なぜ、この娘が破妖刀を使うのかはわからないが : : ・娘自身、魔性であることに変わりはな えじき い。破妖刀の使い手によっては、自ら餌食になる対象だった。 しかも、心臓はたったひとっーーー信じがたいことに、命さえひとつだ。 しゆらば これまでに、どれほどの修羅場を経験し、命を浪費してきたかは知らないが : 瀕死の状態じゃないの : 命数と力が、必ずしも比例しないことを、不幸にも彼女は知らずーーまた、真紅の破妖刀と きずな 一フェスリールとの間に存在する、かなり特殊な絆も、彼女は知らなかった。 えもの 「自分の得物で命を落とすがいいわ ! 」 叫び、黄呀はその柄を握りしめ、引き抜こうとした。 はば が、それは阻まれる。目に見えぬなんらかの力が邪魔し、彼女は柄に触れることさえできな そんな馬鹿な 混乱する黄呀の耳に、娘の声が届く。 ひんし おお