156 それだけではない。 殺された川路弥生さんが持っていた手紙の差出人の名前は、亨くんだった。 じようほく 城北警察署。 かしわばら おじいちゃん、柏原さん、そして、ママと亨くんとわたし。 深夜に、警察署に集まっている。 ろうか 川路さんは、校舎の棟と棟の一一階をつなぐ渡り廊下の下で襲われた。 そして。 川路さんの首を絞めたひもは、鳳凰学園高校の男子の制服のネクタイだった。 それは。 こういしつ 亨くんが、きのう、体育の授業のとき、更衣室でなくした、名前入りのネクタイだっ きよ、つ」 ぬす 犯人は、亨くんのネクタイを、更衣室から盗みだして、凶器に使った。 亨くんは、体育の授業が終わったとき、ネクタイがないことに気づいた。 だけど、あまり、気にとめないで、きようは、予備のネクタイを締めていった。 鷹取刑事の、亨くんを見る目は、きびしかった。 たかとり とおる おそ

102 ーーその日の夜遅く とおる 亨くんは、長い事情聴取が終わって、やっと帰ってこられた。 かしわばら 刑事部長のおじいちゃんと、新米刑事の柏原さんがいっしょだった。 おじいちゃんはともかく、柏原さんが、頼りになると思ったのは、今夜が初めてよ。 亨くんびいきのおじいちゃんは、名前が利用されて、警察で亨くんがきびしく事情聴取 されたということで、ムッとしている。 ほん′」う 「いくらうわ言で名前を出されたからって、本郷くんを疑うなんて、とんでもないこと だ。第一、犯人が、パンクした自転車を押して、犯行現場の近くを歩いているわけがない そうさ じゃないか。犯人を突き止めるためにも、もっと、広く、捜査をするべきだ」 柏原さんが、もっともだというように、首を縦に振った。 「そうですよ ! 本郷くんが、警察に犯人として疑われるなんて。それこそ、犯人の思う かつらぎ つばじゃないですか。それに、桂木先生や里奈ちゃんに、こんなに心配をかけるなんて。 かいじん たいほ 学園の怪人とやら、かならず逮捕してやります。里奈ちゃん、ばくが来たからには、安心 にんだ。 おそ しんまい たよ

たかしま 最後に、鳳凰学園高校の女子生徒・高島さんを、亨くんの名前を使って呼び出した。 そして、残酷きわまりないやり方で、重傷を負わせた。 高島さんの携帯電話に入っていた男の声は、ママもわたしも、もちろん亨くんも、聞き 覚えがなかった。 きようぼう 犯人は、これで、間違いなく、凶暴な男で、計画的に犯行を仕組んだということがわ かった。 わたしの頭には、繰り返し繰り返し、なぜという言葉しか浮かんでこない。 なぜ ? なぜ ? 偵亨くんの名前を、犯人は利用したの ? さおり かわじゃよい 会 たしかに、高島沙織さんは、川路弥生さんとつるんでいた。 生川路弥生さんが、亨くんに手紙を届けてきたときも、高島さんはついてきた。 結局、川路さんの逆ナンパは、成功しなかった。 生徒会探偵団解散要求のグループにも、高島さんや川路さんは入っていた。 おそらく、亨くんにフラれた腹いせだったんだと思う。 高島さんも、もしかしたら、亨くんがハンサムだから、川路さんと同じように、付き合 ほうおう ざんこく けいたい

116 どうすればよかったんだろう ? かいじん 犯人は、学園の怪人だ。 一度、その姿を、この目ではっきりと見た。 どこのどいつなんだ ? けむり 煙のように消えてしまった。。 そして。 なぜか、ばくの名前を使った。 いままで、だれかに恨まれたことなんて、ない。 里奈は、女の子を振ると、恨まれて怖いよって言ってたけど。 かわじ ばくが川路さんを振ったら。 高島さんが、なぜ、襲われなきゃいけないんだ ? それも、あんなひどいやり方で。 ばくの名を使って、犯人は高島さんをおびき出した。 ばくは、どうすればいいんだろう ? どうやって、責任をとればいいんだろう ? そのとき、亨の部屋のドアが、そっと開いた。 うら おそ こわ

文彦先生も、美也子先生の太ったからだの後ろから、言った。 「桂木さん、犯人は、この中にいるんだね ? 犯人の名前を、教えてくれ」 「真犯人は : わたしは、マイクを、左手に持ち替えた。 ゆっくりと右手を上げる。 まっすぐ腕を伸ばすと、犯人を指差した。 しゅじかまた 「主事の蒲田さん。あなたが、犯人よ」 団 かまた 偵主事の蒲田は、そのとき、よろよろっと、よろめいた。 けれど、すぐ、からだを立て直した。 徒 ひとみ 生 いま、初めて目にする、慨しみに満ちた蒲田の瞳。 ギラギラと光り、わたしを見すえた。 蒲田が、叫んだ。 あ かいじん 「そんなっー 言いがかりだっ ! 学園の怪人は、わたしじゃない。わたしは、人殺しな んかしていない。うそも、 いいかげんにしてくれつ ! 」 会

122 亨くんは、無断で帰っちゃうし。 それに。 あこがれのショーンからデートの申し込み。 かいじん 「大丈夫。ボクが、リナのボディガード役をするから。デートしていて、怪人が現れた ら、ボクのパンチでノックアウトしてやる , きやっ D ショーンて、たのもしい でも、その必要はないのよね。 だって、わたし、武道はおじいちゃん仕込みだもの。 自分の身は、自分で守れるの。 わたしは、ショーンと、学校から少し離れた喫茶店のハンプトンコートに行った。 はちあ ここなら、同級生と鉢合わせなんかしないはずよ。 このお店の店長さんは、わたしのママと同じ大学を卒業したの。 店長さんの名前は、知さん。 わたしと亨くんとママは、よくこのお店に来る。 とても親しいから、店長さんと呼ばずに、美鳥さんて呼んでいるの。

高島さんのお父さんも、お母さんも、まるで、ばくが犯人みたいな目で見た。 「帰ってくれ ! 」 高島さんのお父さんは、はっきりと言った。 せつかく佳乃さんが用意してくれた花束も、目の前で、床に投げ捨てられた。 ひび いまでも、高島さんのお父さんの声が、響いている。 さおり 「沙織は、おまえがくると思って、夜の公園に出かけていったんだ。沙織とどんな付き合 いをしていたんだ ? こうなったのも、おまえのせいだ。もしも、沙織に万が一のことが あったら、どうしてくれるんだ ! 」 いわけ 言い訳したくても、できなかった。 名前を利用されていただけだと。 団 偵本当に自分は関係ないと。 しカ′、る 会怒り狂うお父さんと、泣いているお母さんに、どうしても言えなかった。 生 ただ、ただ、頭を下げるだけだった。 ああ・ : てんじよう 亨は、天井を見上げた。 あ ばくは無力だ。 高島さんを助けられなかった。 ゆか

いままで、一発で犯人を割り出したことなんて、ないじゃない。 たよ 頼りにならないよ。 ほ′ル′」、つ 「本郷。おまえは、どう考えてるんだ ? 高瀬くんが、訊いた。 「うーん」 亨くんが、きびしい顔つきで、腕組みをした。 ちょうせんじよう 「ばくたちに対する挑戦状は、ともかくとして、美也子先生の写真のロひげ事件は、た だのいたずらともいえる。だけど、その次に起こした事件が、いきなり、猫を殺すなん て。なんだかわからないけれども、なにか引っかかるものがあるんだ」 「なにか引っかかるものって、なに ? 」 わたしは、亨くんに向き直った。 かいじん 「一一一一口葉じゃ、うまく説明できないんだけど、たしかに、どの事件の現場にも、学園の怪人 の名前が残されている。だけど、ロひげ事件と、今回の事件とを比べると、ちぐはぐな感 じがするんだ。たしかに、犯人は、『学園の怪人より』と書いたが、手口が違うような気 がする」 秀が、身を乗り出した。 「まさか、学園の怪人がふたりいるとか、共犯者がいるとか、そういうこと、考えられな ねこ

あれつ ? 五十嵐先生の後から入ってきた男の子を見て、みんな、目が点になった。 うそーっー こんなことって、あり ? おどろ 教室じゅうの生徒が、驚いて声も出ない。 ここま、、 リ . ウッド ? ・ 大柄な五十嵐先生のとなりには、長身の、金髪の男の子が立っていた。 ほ、つお、つ 鳳凰学園高校の男子の制服を着ている。 信じられない。 まるで、制服の Oäみたい。 ひとみ 足が長くって、サラサラのプロンド。青い瞳。 会超美形なの。 生五十嵐先生が、話しはじめた。 しおん 「転校生を紹介しよう。名前は、詩音・カーターくん。カ 1 ターくんは、アメリカのカリ な ぶフォルニアから、お父さんの仕事の都合で、日本に来た。カーターくんのお母さんは日本 人で、お父さんは、アメリカ人。ハイスクールでは、、ー ノ ード大学を目指していた秀才 だ。お母さんが日本人なので、日本語も話せるし、アメリカにいたときも、日本文化につ プロンド

106 いたいと思っていたのかもしれない。 だからこそ、ふたりで亨くんのところに来たんじゃないかしら ? ひとけ 犯人は、亨くんの名前を出せば、高島さんが、たとえ人気のない夜の公園にでも、やっ てくると考えたんだわ。 亨くんが、ママに言った。 「桂木先生、ばくがいけなかったんだ。こんな事件が続いているっていうのに、閉館まで おそ 図書館にいたり、自転車のタイヤがパンクして、帰宅が遅くなったりして。アリバイす ら、ばくにはない。む配かけるばかりで、本当にごめんなさい」 ママが、亨くんの肩に手をかけた。 「大丈夫よ。誤解されただけなんだから。だれが、どうしてだかわからないけど、亨くん をこの事件に巻き込もうとしているのよ」 わたしは、亨くんに訊いた。 「図書館にいたなら、だれか亨くんを見た人がいるはずよ。鳳凰学園高校の生徒はいな かったの ? もし、亨くんが、だれかに見られていたら、今回の事件のアリバイは証明で きるわ。タイヤのパンクだって、うそじゃないんだから」 「だけど、きようは、図書館が混んでいて、鳳凰学園高校の生徒がもしいたとしても、ば くは気がっかなかった。ばく自身、机のとなりにだれが座っていたかなんて、覚えていな