110 第五章くじけないで、亨くん ふんいき ほうお、つ 鳳凰学園高校は、重苦しい雰囲気に包まれた。 その中での期末試験。 もう、最悪よ。 亨くんは、あんなことに巻き込まれたのに。 ゝつものように学年トップになった。 メゲずに、し そして。 一一番目は。 かつらぎりな またまた、このわたし、桂木里奈。 や , 」サ . と とおる

あのおぞましい女子生徒殺人事件が起こる一か月まえ。 そろそろ春の気配が感じられる、二月の終わり。 団 偵 会「違うわ。亨くんの訳、間違ってるよ」 生わたしは、亨くんのノートをのぞき込んで、言った。 「いいんだよ、この場合、これで」 「えーっ ? それじゃ、ぜんぜん、意味が違うじゃない」 ここは、わが家のリビングルーム。 わたしと亨くんは、一週間後にひかえた期末試験の勉強をしていた。 第一章カリフォルニア・ボーイ とおる

114 小さいころ、父親と母親のけんかが絶えなくて。 ひとりつ子だったから、子供部屋で、いつもこうしていたつけ。 だから。 いまでも。 かか ひとりでひざを抱えていると、あのころみたいで。 さびしくって、悲しくって。 つらくなるんだ。 期末試験でトップになんか、ならなければよかった。 ところどころ答えを書かずに提出すればよかったんだ。 たかしま 高島さんがあんなことになっても、しゃあしゃあと勉強してたと、みんな、思ってる。 違う。 授業中、集中して、ノートをとって、予習と復習をしていただけなんだ。 それに、あんなことがあったから。 少しでも、つらい気持ちから逃げたくて。 たたただ、勉強していた。 高島さんが入院している病院へお見舞いにいったとき。

「川路さんの言うとおりよ。本郷くんなんて、えらそうなことばっかり言って、かっこっ けてるだけじゃない ! 」 亨くんは、ため息をついて、窓から離れた。 かか 校庭の連中は、プラカードを掲げたまま、 「生徒会探偵団なんてやめろ 1 っ ! 」 と、口々に叫びながら、校舎に入っていった。 次の日。 六時限目が終わったばかり。 きようの授業は、これでおしまい ふつうなら、ワイワイ、ガャガャ。 教室に残って、おしゃべりに花が咲くんだけど。 期末試験は目のまえだから、みんなそわそわしている。 わたしは、かばんに教科書やノートを詰め込んでいた。 そのとき。 こ

この程度の英訳でミスするなんて。 またまた、期末試験は、亨くんにトップを取られそう。 亨くんは、トレーナ 1 にジー ハンの変わりばえのしない格好で、どうだと言わんばかり に、ソフアでふんぞり返っている。 ほんとに、ムカつく。 かつらぎ なんで、わが家、つまり桂木家に、亨くんが、まるで自分の家のようにデカイ顔をして いるかっていうと。 ほーこう 本郷亨。 じつは、亨くんは、わが家の一員なのよ。 なぜ一員かっていうと。 これが、わけありなの。 絶対秘密の、わけありの話。 だれにも言っちゃだめよ。 話せば長くなるけど。 じつは、亨くんとわたしのママは、結婚しているの。 亨くんは、高校一年生で、十六歳。 かっこう

「まあっー 美也子先生が、のけぞった。 ちょうせんじよう ずうずう 「なんて図々しい犯人なんでしよう。生徒会探偵団のあなたたちに挑戦状ですって ? こうなったら、犯人を見つけたら、ただじゃおきませんことよ。こっぴどくお説教して、 たた 学園から叩きだしますわ ! 」 文彦先生が、ソフアから腰を上げかけた。 しようぞう 「まあ、まあ。犯人は、軽いいたずらの気持ちでやったのかもしれないんだから。肖像 写真は、新しいもの求陬り替えられるし、壁のマジックも消せる。期末試験も迫っている ことだし、なんとか穏便に : : : 」 まゆ それを聞いた美也子先生の眉が、つり上がった。 「アナタッ ! 」 けんまく 文彦先生も、わたしたちも、美也子先生の剣幕に、思わず首をすくめた。 けれど、その翌日。 かいじん 学園の怪人の犯行は、さらにエスカレートした。 こし かべ

亨くんが、答えた。 ちょうせんじようは 「たしかに、いたずらかもしれないけれど。生徒会室に生徒会探偵団への挑戦状を貼り つけるなんて、ただごとじゃない。なにかいやな予感がするんだ。万が一のことを考え しもん て、この紙は、ビニール袋に入れて、保管しておこう。だれかの指紋がついているかもし れない」 優が、肩をすくめた。 みやこ ふいちょう 「美也子先生が、生徒会探偵団のことを、あちらこちらで吹聴しているから、こんなこ とが起こるんだよ。それにしても、生徒会室に忍び込んで、こんなものを残していくなん だいたん て、大胆なやつだなあ」 亨くんが、言った。 「とにかく、期末試験を一週間後にひかえているから、このことは、ばくたちだけの秘密 にしておこう」 だけど、そのわずか十分後。

きようだい 優と秀は、ふたりでいるときは姉弟げんかばかりしているけど。 でも、どちらかが他人にけんかを売られたりすると、たちまち結束する。 こんな連中をリードして、生徒会を運営していくんだから、生徒会長のわたしの苦労、 わかってくれる ? それに。 ある事件をきっかけに、わたしたちは、生徒会探偵団を結成した。 心はひとっーーなんて、わたしたちには縁がない。 、いはバ一フバ一フ これが、現実ね。 生徒会の会長と副会長は、協力し合っていかなくちゃならないのに。 かど 亨くんとわたしは、なぜか、いつも角が立ってしまうの。 副会長は、会長を補佐してくれるのが、あたりまえじゃない。 なのに、亨くんは、わたしに対して、反対意見ばかり。 きようだって、期末試験の英語の勉強を始めたばかりで、もう、不協和音よ。 「カム・オン」ひと言で、わたし、シラけちゃった。 ヾ , 」十ノ」。 えん

わたしは、声をあげるどころか、ロの中がカラカラに渇いた。 こんな恐ろしいことが、たて続けに起こるなんて。 ほ、つお、つ それも、この鳳凰学園高校に。 やつばり、亨くんの予感は正しかった。 かいじん ちょうせん この学園の怪人は、まだまだ挑戦を続けるつもりなんだ。 しばらくして。 かつらぎまさむね 警視庁刑事部長・桂木正宗ことわたしのおじいちゃんと、部下の新米刑事の柏原守さ んが、駆けつけてきた。 さっそく、警察による現場検証が行われた。 きだ わたしたち生徒会探偵団は、その結果を訊き出した。 会火元は、四階の化学室。 生さいわい、壁を少し焦がしただけのポヤですんだ。 化学準備室に置いてあった金属ナトリウムに、水をかけたらしい ほのお ぶ金属ナトリウムは、水と反応して、激しく炎を上げる。 鳳凰学園高校始まって以来のこの事件に、生徒たちは、期末試験どころではなくなって かべ かわ しんまい かしわばらまもる

れいこく あまりにも素早く、そして、冷酷だわ。 ふみひこ 美也子先生の事件のときは、文彦先生も、美也子先生も、何度か校長室を離れた。 だけど、校長室が無人になるのは、せいぜい五、六分のあいだだけ。 内部犯行説をとると、学校内のだれにでもできる。 わたしが、ロを切った。 かいじん 「早く、学園の怪人と名乗る犯人を捕まえなくちゃ。このまま、エスカレートしていった ら、大変なことになるわ」 優が、うなずいた。 「そうだよ。生徒会探偵団の名誉にかけても、どうしても、事件を解決しなくちゃ。期末 どうよう 試験もひかえているし。きようの、あの事件で、生徒たちは動揺している。これ以上騒ぎ が大きくならないうちに、なんとかしなくちゃ」 会高瀬くんが、メガネに手をかけながら、言った。 生「ばくは、さっそく、学園全員のデータをパソコンにインブットする。徹底的に分析しょ う。学園の怪人といえども、ばくのパソコンにかかれば、イチコロさ。答えが出るのも、 な ぶ時間の問題だよ」 でもねえ。 高瀬くんは、たしかに、コンピュータに強いけど。 つか ぶんせき さわ