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検索対象: クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳
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1. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

昴は言葉を詰まらせてしまう。 「 : ・再建なんて、できないって思ってる ? 」 : って言うか : ・」 大好きだった父の店を復活させたいという息吹の気持ちはわかるけど、だからといって、彼 女をこの状況下に置いてはおけないと思うのだ。 トレーラーハウスに住んで、学校もやめて、自分で仕事をして : ・。そんな今の生活は、何の 不自由もなくあり余る愛情の中で育ってきた息吹のこれまでとは掛け離れ過ぎている。幸せな ・も、ど 星の下に生まれた彼女は、ずっとそのままでいなければいけなかったのだ。こんな苦労をして はいけないのだ。 だからと言って、今の昴は彼女に元の生活を取り戻してあげられるだけの力をとうてい持た ず、それは自分が一番良く知っている。でも、せめて、むかしの家の息吹の部屋が再現できる くらいの部屋を借り、学校に戻してあげるくらいのことはしたかった。 そのためには、工事現場の掛け持ちでも何でもする。 旅の途中、何度かホストをやらないかと声を掛けられたことがあったけど、どんなにお金に 困ってはいても、それはやりたくなかったし、できないと思うし、やらなかった。でも、今は できる。 息吹がレストラン三鷹を再建したいと言うのなら、なんとしてでもその資金を貯めて、いっ

2. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

ったらなんだけど : ・。鴨志田先生から、雛さんにお料理をプレゼントしたいってお話をいただ かんづめ いたの。先生は今、ホテルに缶詰になってて、こっちにはいらっしゃれないけど、でも、なる べく早くプレゼントしたいから 0 て : ・。すごく不だけど、今から来ていただけませんか ? 」 息吹は声を落として手短に説明し終え、やわらかな笑みを広げた。 「そうそう、うち、トレーラーハウスなの。ちょっと珍しいでしよう ? でも、けっこういし しゃちほこば とこなんだよね。鴨志田先生の家でって話もあったんだけど、こっちの方が何かと鯱張らな いでいいかもってさ。どうかなあ・ : ? 」 まゆ 哲朗が両方の眉をクイツと引き上げておどけたような笑みをおまけする。 かたずの フ三人がちょっと固唾を呑んで雛の返事を待っと、 シ ・ : 今、何も食べたくないんです」 才 天 彼女は小さな声で、が、きつばりと言い放ち、機械的に頭を下げた。他の理由ならともかく ) うしよう らくたん イそう言われてしまったら、これ以上、交渉の余地はない。三人の間に落胆の空気が漂う中、 ポ雛の足が校門の外へ向く。 グ 「待って ! 」 ン キ 昴が思わず小さな背を呼び止めると、雛は再びひっそりと立ち止まった。 ク 「あのさ。俺、料理、ガキん時からずっと嫌々やってたんだ。けど、なんでか、今回は、・ : や

3. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

今では、 " かっての〃をつけるべきなのだろうけれど、レストラン三鷹は縦長の細い窓を並 こみどり がき べたクリーム色の一軒家で、四方を囲む濃緑の低い生け垣とともに美しい街並みの中にしっと り溶け込んでいた。 らんまん 春爛漫の今、何の異変もなければ、正面に面した桜の並木道がレストラン三鷹に淡いピンク いろど の彩りを添えていたはずだ。 そんな、もう見ることもない懐かしい景色を抜けて、昴は並木道を東へ向かった。 このまま真っすぐに進めば、息吹が世話になっているという隣町の久石酒店に行き着く。距 離にして 4 ~ 5 0 0 メートルとい , っところだろ , つか : 息吹は今、どうしているんだろう ? やみくも 昴は闇雲に走りながら、癖のないさらさらの髪をかきむしった。何も知らずにのほほんと日 ほう・ろ - う とほう 本中を放浪していた自分が、途方もない大バカ野郎に思える。 ひと 息吹は兄に別れを告げられ、独りばっちになっていた。そんなことになってるなんて、夢に も思わないじゃな、ゝ , ちか そう、康平は将来を誓い合った息吹の元を離れ、あろうことか蘭子と婚約したと言うのだ。 こぶし ほお 康平は、昴の拳を受けた頬に手の甲を当て、あの優しい笑みを浮かべた。 『まいったよ。おまえのバンチ、また強くなったな』と : くせ なっ

4. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

176 ほの 春の夜にばんやりと浮かぶ丸い月が、並木道に連なる桜の花々に仄かな光を落としている。 「わたし、鴨志田先生にお手紙を出します。素敵なプレゼントをありがとうございましたっ 雛がそう言って、並んで歩く三人に目を上げた時、タイムリーにもその鴨志田先生から息吹 の携帯に電話が入った。 んえ。食 「はい、今、雛さんと一緒です。 ・ : そうです。今日、来ていただいたんです。 ・エッ・ ? ・ べていただきました。 事故」 息吹が携帯電話を耳に当てて鴨志田先生の話を聞きながら不意に立ち止まり、雛に深刻な顔 を向ける。 「 : : : わかりました。これから、行きます」 「・ : 事故って ? 」 「おじさんが怪我をして病院に運ばれたんですって。車でどこかにぶつかったそうなの。えっ と、でも、安心して。命に別状はないって。それと、おばさんとスミレさんは、今、おじさん のところにいるって・ : 」 「じゃ、とにかく、その病院へ行こう ! 」 昴は雛を促し、タクシーを拾って四人で乗り込んだ。 しよう そうして芳賀氏が運ばれたという市立病院への道すがら、息吹が鴨志田先生との電話の詳

5. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

「何だそりや ? : ・何か悪いもんでも食ったか ? 」 「何で ? 」 「変にしおらしいから : ・」 まじめ 「ばか、ふざけてる場合じゃないの。真面目なハナシよ。昴が家出なんかしてなかったら、初 めからあんたにシェフをやってもらってたんだから」 「だから、昴は今からこの " デリバリ ・シェフ・三鷹みのシェフね ? 」 息吹は腕を解きノ 、ヾトンタッチでもするように昴の肩をポンと叩いた。姉の権限でこうやっ てこともなげに決定を言い渡すくせに、そのくせ、弟が返事をするまでちょっと不安そうな表 のぞ 情を覗かせるのは、むかしと変わらない。 昴はそんな彼女の心配を吹き飛ばすように、大きくいて見せた。自分の中では、今は息吹 すで の好きなようにさせてあげることが一番なのだと既に結論を出している。 「よかった」 まなざ 息吹はそう言いながらも、改めて真剣な眼差しを昴に刺し直した。少し固めの表情を未だ崩 してはいない。 「 : ・雛さんへのお料理も、だから、昴の思うようにやってみて。でも、今回は特別。こんなオ ーダーってイレギュラーだし、レストラン三鷹を再建する時は、やつばりむかしのままの味を

6. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

は雛にいて、「こいつが立ち入り過ぎ」と、哲朗の後頭部をペシッと叩いて見せた。 姪っ子が外部の人間と話すことを嫌うというのもおかしな話で、今までの一連の流れから、 芳賀氏はやはり、雛に何らかの苦痛を与えていて、それを外に漏らされると困るからじゃない かなどと鴉もしてしまう。 だから、昴も内心では、その事情を聞いて雛から黙っていられないような応えが返って来た なら、すぐにでも何とかしたいと思ったけれど、今、彼女はやっと少しだけ心を開いてくれた に過ぎないのだ。その事情に踏み込むには時期というものがある。と言うわけで、この場は、 「でも、何かあったら、いつでも言って来てよ」 フ と、付け加えるだけにとどめた。 工 シ 才 天 雛がその目に一瞬、涙を戻して言葉を詰まらせたのは、昴の掛けた一一 = ロ葉を余計なお節介とし うれ イてではなく、むしろ、嬉しく受け止めてくれたことを物語っている。 ポ「そ , つよ。これからは、、 しつでも遊びに来てね」 息吹が言葉どおりの歓迎の笑みを向けると、 ン キ 「・ : ありがとうございます」 雛は深く頷き、そうして上げた顔には得も言われぬ穏やかな表情を浮かべていた。 それから三人は、雛を送り届けにトレーラーハウスを出た。 175 せつかい

7. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

172 昴は明るい声を出して、残りのデザートをいっぺんにロの中に流し込んだ。 : って一一 = ロうか、おいしかったの、驚くほどよ。・ : 味も、・ : 舌触りも、・ : 香りも、こんな の初めての兼ね合いだった。信じられないくらい : ・ : 絶妙で・ : 。それは確かよ。でも・ : 」 息吹は途方に暮れたように口をつぐみ、引きつった笑みを浮かべる。 おやじ 「だいじようぶ。俺、ちゃんと親父の料理、作るからさ」 昴は大きくいて見せた。 ついさっき、捜していた道は自分の料理を作ることだったのだと気づいたばかりだけど、そ れはそれとして、今は、息吹の心の再生が最優先だった。 彼女の『でも・ : 』の後は、 " 三鷹の料理としては失格気たぶん、そんな一言葉が続くんだと思 う。それに、かなり歯切れが悪かったけれど、この際、そんなことは関係ない。息吹の口から うれ 流れた言葉の一つ一つが心にじわじわと響いて、どうしようもなく嬉しかった。今は、それだ けで、満足だ。 その時、哲朗の携帯電話のメール受信のメロディ、 " 運命〃のジャジャジャジャ ~ ンが鳴り、 彼はふと雛に目を向けた。 「そう言えば、携帯とかって持ち歩かない ? 」 「いえ、持ってるんですけど : ・」 「いや、さっき、僕ら、雛ちゃんのおじちゃん巻いちゃったでしょ ? だから、携帯かかって

8. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

274 修学旅行で使ったポストンバッグに、当時はきっと大切だったものを詰め込んだのでしょ 他の物は忘れましたが、日記と預金通帳だけはしつかり収めたのを思い出しました。かなり 激していたはずなのに、けっこう現実的だったです。 で、意気込んで家を出たものの、駅に着くまでにはすっかり頭も冷えて、いろいろ考えたわ : けつきよく けです。・ : これからどうやって生きていこう ? : ・何もできないじゃないか ? のたじ ひご 最後は野垂れ死にだ。 ・ : 今はやつばり、親の庇護の元で生活していくしかないんだわなどと。 そんなわけで、こっそり家に帰って部屋に戻り、ふて寝です。 てんまっ なんたる情けない潁末 ! 記憶の底に沈んでいたのも当然です。つまるところ、な ~ んにもなかったのですから。 母は、今でも、家出宣言した娘が玄関も出ずに部屋に籠っていただけだと思っているようで すし、ケンカの原因はすっかり忘れていました。もちろん、私も。と、言うことは、大したこ とじゃなかったんですよね、きっと。 でも、昂がそこに至ったのには、彼なりに重大な問題を抱えていたからなのです。そして、 ひと 一年間、何とか独りでやってみて、帰って来たのです。 彼がたくましく成長していたか、へつばこになっていたか、その判定は、みなさまにお任せ むぼう いちず しますが、無謀だけど一本気で一途な昂を応援していただけると幸せです。

9. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

ひそ 「昴は、密かにお父さんの自慢の息子だったのよ。もちろん、ロが裂けてもそんなこと言わな い人だったけど。誰かにあんたのこと褒められたりすると、もう目尻が垂れ下がっちゃって隠 せないくらいだったんだから」 おやじ ふしよう 「 : ・嘘だろ俺は不肖の息子。で、親父の自慢の息子は兄貴って、むかしから相場が決ま ってたじゃんか」 「そりゃあ、もちろん、康ちゃんもよ。でも、康ちゃんはお父さんタイプ。だから、お父さん は康ちゃんにお店を継いでもらいたいって思ってたんだと思う。それで、昴は自由に、貫井さ んみたいなシェフになってもらいたいって : ・」 工 くら お昴は面を喰いながらも、心の頑なだった部分が満たされるのを感じていた。今の今まで、父 天 にはまったく認められていなかったのだと思っていたから : ・。実は認めてほしかったんだと気 イづき、ばつが悪いのと照れ臭いのとで、何げなく息吹にそっぱを向いて歩く。 ポ「わたし、ここ何日か、昴のお料理見てて、やつばりそういうことなんだなあって思った。で グ も、昴がお父さんのお料理から離れていきそうで、寂しかったのよね。それと、たぶん、昴は ン キ わたしの弟なのに、わたしのお父さんじゃなくて、貫井さんタイプだって認めるのも : ・。どう ク しようもないことで、ひねくれまくってました」 おやじ 「けど、俺、親父の味、守るよ」 うそ くさ かたく

10. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

調理台の上いつばいに、完成間近の二〇個のランチボックスが並べられている。 ふた 蓋付きプレートの中には、トマトやカプやにんじん、それからジャガイモ、アスパラガス、 のぞ 歳 ー・ド・ヴォーの煮込 ペロスなどの野菜がほば原形のままに色とりどりの顔を覗かせる、〈ク フみナヴァラン風〉。 こうそう みずみず シ その奥には、さらに、瑞々しい青を添える、〈香草のサラダ〉。 天すばる 昴は、今、スライスしたパゲットを〈香草サラダ〉の隣に順に収めていた。 イそうしながらふと思い出したのは、で少しの間、アルバイトしていたアジアンカフ = 。 そうざい ポこうしてランチボックスに惣菜を詰めていたのもそうなのだが、そこのユニフォームが今の昴 てつろう グ ーバイス。その上に白の長エプロンをピタッと巻き の格好 ~ 黒の哲朗オリジナル e シャツにリ ン ひたい いぶき 付け、頭は息吹が出してきた黒のバンダナに包んで広い額を全開にしている ~ と、ほとんど同 ク じようなものだったからだ。 それはともかく、今日のランチボックスは、後はデザートのスペースを埋めるだけだった。 四章きみだけのメニュー