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検索対象: クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳
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1. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

らせている。 : ・今度こそ ! 昴が半ば怒りに似た祈りを込めて送り出したこの料理も、雛の皿はそっくりそのまま手付か ずで戻って来た。 うわさ 『こりゃあ、たまらん ! 噂に聞いてただけのことはあるね。いや、レストランが閉まっちゃ じま ったから三鷹さんの料理はもう食べられず終いだって諦めてたけど、こんな形で実現するとは 思わなかったよ。ほんとに何て言うか、こう、噛み締めるほどにロの中で肉の味がじわ ~ っと 広がっていく感じ : ・。う ~ ん、深いコクって言うのかなあ、それとこのまろやかな甘み ! 一 「度食べたらやみつきになるってのは本当だね』 工 シ 『ええ。このトリュフのおソース、沸き立つようなうま味だわ。あんなに若い男の子が、どう 才 天したらこんな味を出せるのかしら ? 』 、って感じⅡ』 『ほんと、これ何なのスミレ、美味し過ぎて、もうどうなっちゃってもいし イ かゆ ポ などなど、昴の首筋が痒くなるような絶賛の言葉を並べ立てながら美味しいの表情を大きく おおげさ グ広げて食し、少々大袈裟過ぎるリアクションを見せたのは芳賀ファミリーの三人だけだった。 キ彼らの皿はどれもソースまできれいになっている。 これまでに出した料理、〈ホワイトアスパラガスのソテートリュフの香り添え〉も〈ラバ ンのテリーヌ〉、〈オマールのムニエル春野菜添え〉も〈仔羊セルのローストソース・リヨネ なか あきら

2. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

ず て、ポン酢と薄いにんにくオイルを全体にまぶした〈ヒラメのカルバッチョ〉。 なまはるま そのさざ波立っ青い海の片隅には、〈緑の小島の生春巻き〉。 水菜、ゴーヤ、きゅうり、玉ネギ、アポカドディップをプーケ状にして、その半分を透明な 生春巻きの皮で巻き、ホウレン草のタルタルソースをかけた。周りに海ブドウを散らしてあ る。 そしてヒラメの海の手前には、〈ボワローのビネグレッド〉。 ゅ とろとろになるまで茹でて冷水で冷やした真っ白なボワローを適当な長さに切り分け、白い 砂浜のように平らに並べてビネグレッドを回しかけた。 その砂浜の切れるところ、右手前には、雛が母親と住んでいたという家に見立てた〈豚肉の クレープ巻き〉。 む とき べにいも 豚肉を蒸して筒状にしたものを紅芋のクレープで包んで、美しい鴇色のクランペリーソース をかけてある。 昴はこれらの料理を、可能な限り沖縄で取れたものを送ってもらって作っていた。雛が生ま はぐく れ育った土地の太陽や水、土に育まれた食材が、今の彼女に優しく語りかけてくれると思った から : 雛はそんな料理を泣きながら黙々と食べていた。時折、しやくり上げながらも、一口一口噛 み締めるように小さな口を動かしている。 かたすみ もく・もく

3. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

盟とトロフィーとフランスの三つ星レストランでの研修旅行、副賞の百万円を獲得した。 前出の三つはどうでもよかったのだが、とにかく賞金が欲しかったのだ。 一年前、勢いよく家を飛び出したまではよかったのだが、手持ちのささやかな旅費はすぐに きゅう 底をつき、食べる物にさえ窮するようになるのにそう時間は掛からなかった。 働こうと思っても、学歴も外での社会経験もなく、まして住所不定の十五 ~ 六歳の少年にま っとうな仕事を与えてくれる処などあるわけがない。 そうして何日も食事を取れずに空腹で気を失いかけた時、目の前にあった小さな中華料理店 に入って手当たり次第に注文し、無我夢中で食べた。 お金は一円の持ち合わせもなく、警察に捕まって家へ連れ戻されることも頭をかすめたが、 あの時は、何よりも食べることが先決だったのだ。これについては、何の弁明もない。 それからも旅を続けることができたのは、あの中華料理店の主人の情けに他ならなかった。 『すみませんでした ! 俺、金を持ってません。それを承知で食べました』 こら ぎようそう おにがわら どげぎ と、土下座した昴を主人は鬼瓦のような形相で睨みつけていたが、やがて、こう言ってく れたのだ。 『あんたが食べた分、ここで働きなさい』と : 『ありがとうございます。俺、なんでもやります ! 』 みが 昴はその言葉通り、何でもやった。皿洗いでも床磨きでも接客でも何でも。 みばし ところ

4. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

鴨志田先生は、一人、いて、小さなため息をもらした。 しん 自分の作った料理に完全無視を決め込まれた昴にとっては、かなり意味深な言葉だった。 「やつばり、って ? 」と、さりげなく聞いてみる。 「それが、雛ちゃん、最近、何も食べないらしいのよ。まあ、何かしらは食べてるんでしよう けど、家ではまったくらしくてね」 「 : ・拒食症とか ? 」 「じゃないことを祈るけど、あの娘、それぐらいガリガリだったでしょ ? 幽霊みたいな真っ さお 青な顔しちゃって : ・。この間、久しぶりに見かけたら、そんな感じで見る影もなくて驚いちゃ ってねえ。車と自転車だったから話もできなくて。気になったもんだから、昨日、いるかなあ って電話してみたのよ。日曜だったしね。でも、おじさんが出て来て、雛ちゃんは占いのお客 さんが来てるって言うわけ。けつきよくあの娘と話せなくて、しようがないから、おじさんに 聞いてみたの。雛ちゃん、あんなに痩せちゃってたけど、具合でも悪いのかって。そうした ら、このところ食事をしなくなって困ってるって言うじゃない。彼も理由がわからないって相 当弱ってたみたいだけど : ・」 まゆ 鴨志田先生は、三日月型の細い眉をまったく解せないという様子で互い違いにして、 「ま、それで、ちょうどあの娘の食欲が出るような美味しいものを届けてくれるところはない かって聞かれたわけなんだけどね。でも、お宅のを食べないとなると、ほんとうに食べないん

5. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

「雛ちゃん、これも美味しいぞ。せめて一口だけでも食べようよ。ね ? 」 おじさんがのグルメ番組のリポーターのように何とも美味しそうに食べて見せても、雛 はウンでもスンでもない。 からだ 「食べるのが嫌なのはわかってるわ。でもね、食べないと身体がもたないでしよう ? そんな にガリガリになっちゃって、おばさん、見ていられないわ」 のぞ 奥さんが心配そうに顔を覗いても、雛は視線さえ動かさない。 ディナーの間中、ずっとこんなふうだった。 かみぎ テープルには、上座のババ席に雛が収まり、その正面におじさん、彼の横が奥さん、そして 「奥さんの前にスミレが座っている。 たんのう シ芳賀ファミリーの三人は料理を堪能しながら、代わる代わる雛に食事を勧め、諦めては勧 たわい 天め、そんなことを繰り返す合間に他愛のない話を交わして笑い合っていた。 じらい 雛はもちろん、三人の話に加わることも笑い合うこともなく、楽しい食卓に埋まった地雷の ポようだった。たつぶり一時間以上そんなふうに押し黙ってじっと座っているのは、本人だって グ苦痛じゃないだろうか ? テープルに着く時の、あの諦めとも取れる小さなため急は、この苦 痛を覚悟したものだったのか : かたく ・食事のこともそうだけど、何でこんなに頑ななんだろう ? 昴はせっせと洗い物の手を動かしながら、再度、雛に目をやった。もしかしたら、今、この あきら

6. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

162 小学生の頃、昴は給食の時間が大嫌いだった。目の前に、当時苦手だった牛乳を置かれ、担 こら 任の先生にそれを飲み干すまですっと睨みつけられていたのだ。その嫌いだった先生と今の自 分がだぶってしまう。苦手なものを強制されて口にするほど嫌なことはなかったのだ。 まして、雛は〃食べられなくていい〃 と言う約束でここまで来てくれた。それは裏を返せ ば、もしかして食べられそうだったら食べるかも、というニュアンスが含まれていたように思 う。彼女はそこまで前進してくれたのに、その食べられそうなものを提供できなかったのだ。 いさぎよ もう、この場は潔く引き下がるしかない。 「ごめん。嫌な思いさせちゃったね ? 」 さえぎ 昴がオードヴルの皿に手を伸ばそうとしたら、息吹が黙って首を振ってそれを遮り、雛の手 元に目を向けて見せた。 雛は膝の上に置いた文庫の上に、トさな手を重ねている。 じっと目を凝らすと、彼女の小さな手の上に涙がポトリと落ちたのが見えた。次は、その手 がゆっくりと動き始め、やがてテープルのフォークとナイフを手にする。そして、フォークと ナイフが白いボワローを取り、それが口元に運ばれ、小さな唇が開き・ : 。とうとう彼女は料理 を口にした。ハ ラハラと涙を流しながら : その涙が今度は、オードヴルの皿の上に落ちる。 ひらぎら うすづく 南国の海の青が塗られた平皿の上、中央は斜めに、ヒラメの薄造りをさざ波のように並べ ひぎ

7. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

戻した。 いい ? 」 「仕事の依頼、 「 : ・ありがとうございます。シェフの出張ですか ? 」 「それでもいし 、し、何でもいいわ。とにかく、また、雛ちゃんにお料理作ってほしいの。あ あ、昨日は昨日よ。今度は、雛ちゃん一人のために作ってあげてちょうだいな。あの娘がいや がおうでも食べたくなるようなのをね」 す 鴨志田先生が自分のアイディアにいたく満足げな笑みを浮かべて、昴に目を据える。 昴はばりばりと首筋を掻きながら、スミレにフォークを突き付けられてそっぱを向いたまま かたく 唇をキュッと結んでいた雛の姿を思い起こした。ああやって頑なに食べることを拒否する原因 い。だったら、まず、その大本を取り除かなければ食 は、どうやら心の問題からきているらし べる物も食べられないんじゃないかなどと、考えた昴の横で、 「わかりました。先生、お任せ下さい ! 」 りんうなず 息吹が鴨志田先生に凜と頷いた。そしてスッと弟を向く。 「ね、昴 ? 」 その何か固い決意を持った目をまっすぐに突き刺されて、 「 : ・うん」 おおもと

8. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

114 しゆさい さち ぜんさい 「まず、前菜に、〈海の幸と温度卵のはいった木の子クリームのカプチーノ仕立て〉。で、主菜 どり しら ) は、〈白子のムニエルロックフォールのソース〉。それと、〈ホロホロ鳥と鳩のマリアージュ 野生の木の子ソテー〉、それに〈色とりどりの野菜サラダ〉と〈ニンジンのシャーベット〉、あ ・つて、どうかしら ? 」 と、デザートに〈木苺と苺のムース〉。 息吹が再び、昴に顔を上げる。 「 : ・あの娘が食べるかどうかだろう ? 」 まゆ 昴が首を横に振って見せると、息吹のつるつるの額の下できれいなアーチ型を描いている眉 がひそめられた。 「どうして ? 」 いちょう 「あの娘、最近、食べてないんでしょ ? だったら胃腸とか弱ってるだろうしさ。そんな時に こんきょ あぶら 脂つばいものとか食べたくないんじゃないかなあ・ : って思っただけ。大した根拠じゃないよ」 「 : ・・ : そう言われればそうだけど。でも・ : 」 息吹がふうとため息を落とした。その大きさが、彼女のありったけの誠意を込めて、雛の心 なぐさ を慰めるような料理を選んだことを物語っている。おそらく湯船の中で考え込んで、だから、 こんなにのばせ上がった顔をしているのだ。 ハターたつぶりオイルとろとろっていうのはさ」 「けど、フレンチの宿命でしょ ? げた と、駐車場に一番に足を踏み入れたのは、哲朗の下駄だった。 きいちご ひたい

9. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

たら楽しくてさ。で、作ってる間、ちくしょーこれ絶対、仙川さんに食ってもらいてーって思 ・ : だから、なんだ、あれだよ、サンキ ってたんだよね。自分でもよくわからないんだけどさ。 ュウって言いたかったんだ。それだけ」 と、言い終えた時、昴は隣の息吹がもらした細く寂しげなため息を聞いた。 ん」と、張り子の虎の そのため息の意味を考えるもなく、反対側では、哲朗が「ふ ように首を上下に振りながら、ニマ ~ ッと横を向く。 「なるほど。そうだったんだ ? 」 「な、なんだよ」 昴は自分が知らぬ間に熱く語っていたことに気づいて急に極まり悪くなり、哲朗の首を抱え 込んで「この、この」と、見せかけパンチを連打した。照れ隠しに外ならない。 「昴、哲ちゃん ! 雛さんが : ・」 息吹に腕をつかまれて昴が顔を上げると、雛がゆっくりと三人に向き直ったところだった。 「 : : : 食べられなくてもいいですか ? 」 それは、とにもかくにもトレーラーハウスには来てくれるということだろうかと、三人は顔 を見合わせる。 「もちろん。食べてもらえたら嬉しいけど。でも、来てくれるだけでも大歓迎よ」 うれ とら

10. クッキング・ボーイ! : 天才シェフは16歳

『先生、捜しましたよ。いつものホテルを取りましたから、これから入っていただきます。も う逃がしませんからね ! 』 なわ 秘書のお兄さんはそれこそ首に縄をつけるようにして、鴨志田先生を車に押し込んでしまっ 『見てのとおり、私、すぐには、雛ちゃんの処へ行けなくなっちゃったけど、お料理のことは あんたたちに任せたわよ。そうだわ、うちのキッチン使うなら、勝手に使ってちょうだいな。 それと、あの娘、好き嫌いはないはずよ。何でも美味しいって食べてたから。ああ、それか ら、昴 ! 今度、私にもあんたのお料理食べさせてちょうだいよ。首が伸びきっちゃうほど待 フってたんだから ! 』 シ 鴨志田先生は車から顔を出して、普段の倍速のスピードで喋りながら、桜の並木道に消えて 才 天 行った。 ばくぜん イ「ふ ~ ん。けど、何でも美味しいってのも、却って難しくない ? 何か漠然としててさ」 げた ポ哲朗が下駄をカランカランと鳴らしながら、ピーナツツを放り上げた。 グ 「そうなのよね。だから、けっこう悩んだんだけど、お父さんのアラカルトの中から女の子が ン うれ キ 好きそうな感じのを選んでみたんだ。見た目もきれいだし、わたしもこんなのだったら嬉しい ク なあって思うメニューにしてみたの」 「どんなの ? 」 っ ) 0 ところ かえ しゃべ