アテネ - みる会図書館


検索対象: ミエザの深き眠り
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1. ミエザの深き眠り

132 顔には出さなかったが、リュシアスは内心感嘆した。 おおざっぱ きわめて大雑把ではあるが、まさしくフィリッポス二世の思い描くとおりではないか。 ( そこまで読むか : : : さすがのフィリッポス二世も、ちと老いたかな ? ) ポリス アテネでは今、都市国家を一一つに分けての大論争が際限もなくくり広げられている。 一方は、大国ベルシアの力を借り、新進気鋭のマケドニアを封じこめ、都市国家の自立 をあくまで守ろうとする、反マケドニアのデモステネス派。 もう一方は、 ) しや、多少辺境の出身ではあるが、マケドニアのフィリッポス二世こそ神 の与えたギリシアの英雄だから、今こそ彼を先頭にたて一致団結してベルシアに踏みこ ふくしゅう み、度重なる侵攻の復讐をするときだと主張する親マケドニアのアイスキネスやイソク ラテス派である。 だが当のフィリッポス二世にとっては、どうでもいい論争であった。 得られる獲物がこれほど大きい以上、彼がアテネを手に入れようとしないはずがない。 まさに機は熟したとフィリッポス二世は見ていた。 セレウコスは続けた。 しくさ 「これにはおれもなるほどとうなった。そこでだ。鼻のきく商人たちは、戦の臭いを早く も嗅ぎつけ、ビュザンティオンあたりに寄るアテネの船や積み荷をそろそろ避けはじめた そうだ。もしアテネの政治家たちが堂々巡りの議論をやめ、この商人たちの動きを敏感に

2. ミエザの深き眠り

131 「フイロタス ( パルメニオンの長男 ) あたりか ? 」 「ならばお前も驚くまい。おれがそれを聞いたのは、なんと妹のところに出入りしている シチリアの革商人からだ」 リュシアスは笑った。「商人か」 いなか なるほど、王からの命令を待つだけのそこらののんびりした田舎貴族よりは、国境を股 にかけた命知らずの商人の方がよほど目先がきく。リュシアスはこのことを二年の旅の間 にいやというほど体で覚えさせられた。 「ひょっとして、たかが商人ごときにまで国策が漏れているとあわてたのかセレ ? 港に 出入りする貿易商人を甘く見るなよ」 「ああ、今回よく思い知らされたよ。で、そいつの言うシナリオとはこうだからよく聞い てみてくれ。近いうちにフィリッポス二世が発表するマケドニア軍の外征先は、みんなに りは意外なようだが、たしかにペリントスだ。だがマケドニア軍はペリントスを攻め落とし きて、一気にビュザンティオン攻撃に転じる。その際、ポスポロスに停泊しているアテネの 商船団を勢い余って襲撃してしまう。あくまでも勢い余ってだ。だがそのあと、最終的に 工はその襲撃をきっかけとして、アテネを宣戦布告せざるをえない状況にもっていく : と、こうだ」 「なるほど」 また

3. ミエザの深き眠り

ミエザの深き眠り 369 攻には巨大な軍船が不可欠だ。 そのトラキアの地を、サラは二年ぶりに踏みしめていた。 だがサラに別れを告げたとき、アレクサンドロスはサラがこれからどこに行くのか、あ えてたずねようとはしなかった。彼はサラがトラキアにいることをまったく知らずにい る。 このことが、サラとアレクサンドロス、そしてリュシアスの間に、新たな悲劇を呼ぶこ とになる。 そしてマケドニアは今、ギリシア本土を押さえるため、いよいよアテネ、テーべを相手 に最後の決戦のときを迎えようとしていた。 歴史に名高いカイロネイアの死闘が、若きアレクサンドロスを待っていたのである。 ロマンス 「アレクサンドロス伝奇 3 」に続く

4. ミエザの深き眠り

133 感じ取ることができれば : : : 」 リュシアスはいやな顔をした。 「ベルシアか」 しようこ 「そうだ。アテネはまた性懲りもなくべルシアの援助を求めるだろう。そうなればもちろ ん、ロードス島のあの男が波を切ってやってくる」 「メムノン : ・ リュシアスは低くつぶやくと、深く背もたれにもたれ、押し黙ってしまった。 セレウコスはうなずいた。 メムノンは今やベルシア海軍を率いる大提督である。 「もしメムノンに前もってビュザンティオンを守備されれば、フィリッポス二世の目的達 成はがぜん厳しくなるぞ。今や無敵と呼ばれるマケドニアにとって、やつは唯一最後まで ふぐたいてん きず 立ちはだかる不倶戴天の敵だな。堂々たる疫病神だ。勇敢すぎるのが玉に瑕というか 眠 深 「あまり誉めるな」 工 「でも事実だろう ? そのとおりだ、とリュシアスはうなずいた。 そこでセレウコスが、ちょっと探るような目つきになった。 だいていとく

5. ミエザの深き眠り

口さがない使用人たちは、静まり返「た別邸を、ひそかに御誠と呼んでいた。 蛇御殿 庭園の鬱蒼とした茂みにおおわれ、たしかに爬虫類の好みそうな匂い がする。 ここに一月ほど前から、アレクサンドロスの生母、王妃オリムピアスが移り住んでい しせい 市井ではもつばら、王宮の奥からここに追放されたという話になっていたが、どうして どうして。 彼女は自らこの離れの改装に取り組み、アテネやテーべから当代随一の職人を呼び、考 えられうるすべての最高級品を集め、それこそ何か月もの時間と驚くような費用をかけて 自分のねぐらをここに調えたのだ。 満を持して本拠を移したといっていし 今朝も、この蛇御殿の秘密の小部屋で、常人の目に触れてはならない儀式が行われてい る。 くろうと あや 妖しい噂を聞けば、遠くべルシアやインドにまで秘術の知識を求めるという玄人はだし のろ の彼女の儀式は、ときに占いであり、彼女自身の祈りでもあり、あるいは敵に対する呪い でさえもありうる。 彼女は特に、黒海沿岸に古代から伝わる酒神密儀の熱心な信者だった。 うわさ ひと

6. ミエザの深き眠り

246 ふびん 「 : : : 以前殺された妻が不憫だというのか ? わかるわかる。若き日の恋は忘れがたいも のだ。わしもいまだにお前の母の夢を見ることがある。やはりあれがいちばん愛しい だが亡霊を寝台に引きずりこんではいかん。あ「たかい柔ルを抱きながら、恋しい女の夢 を見るのがいちばんだ。おまえも早くわしに孫の顔を見せろ」 と豪快に笑う。 こう′」う それに姫君は、アテネにまで聞こえた神々しいほどの美しい少女だというではないか。 できれば自分が嫁にもらいたいくらいだと、フィリッポス二世は恥ずかしげもなくまわ りに何度もばやくのだった。 だが、御殿のオリムピアスは激怒した。 ( 美しいだって : : : ? ) 嫁にくる姫はまだ十四歳で、オリムピアスがマケドニアに嫁いできてからエピルス王家 に授かった宝物だ。 オリムピアスにとっては、異母妹であっても、対面したことさえない。 かれん このことがのちに、可憐な花嫁に不幸を呼んだ。いやたとえともに仲良く育った姉妹 ほ , 」 だったとしても、誇り高いオリムピアスにかかれば同じことだったかもしれない。 はたん こ、リュシアスとの間に決着 なんとしてもこの婚姻を破綻させるか、さもなくばその前冫 をつけるか。 とっ

7. ミエザの深き眠り

ミエザの深き眠り 365 ( 自分の異母妹を : : : ! ) はなむこ 回廊を進んでいた花嫁のすぐ後ろには、異母姉であり、かっ花婿の義理の母にあたるオ どたんば リムピアスが介添えについていたはずだ。彼女がなんらかの方法を使って、この土壇場に 花嫁を殺害しようとしたに違いない。 フィリッポス二世はすぐに医師を集めた。予断を許さぬ状況がしばらく続いたが、花嫁 はなんとか命をとりとめ、王宮内でしばらく養生することになった。 リュシアスはオリムピアスが許せなかった。 ただの事故だと主張する王妃派と、この婚姻を妨害する陰謀だとする反王妃派との対立 おちい は決定的となり、直後マケドニアはかってないほどの内乱の危機に陥った。だが、フィ リッポス二世はあくまで慎重だった。彼はアテネとの決戦をひかえていた。ここで王妃派 と決裂し、エピルスと断交することはできない。 一月ほどして、結婚を辞退するむねの書式が、正式にエピルスからマケドニアに届けら れた。 しようしん オリムピアスが仕組んだとおりに、婚姻は破談となり、キュンナは傷心のままエピル スに戻ることになった。 「承服できない」 とリュシアスは貴族会議で主張した。悲劇的な事件ではあったが、キュンナが命をとり ひと