245 あとがき 理久。この子は非常におもしろいキャラでした。私にとっては初めてのタイプかもしれませ なかじよう ひしだ ん。彼がこれから中条やレキとどんな関係になっていくのか、菱田とはどう相対していくの かずしきようや か、和士や京夜と対したらどう出るのか、そうしてどんな自分を確立していくのか、すごく興 味があります。理久に関しては、自分で自分の成長を外から見守ってるみたいな、そんな妙な 気分で書いてる気がします。書けば書くほどハマッてくというか こういうことを書き出したら、登場人物全部について私の目から見て、こいっこんなャツで こんなとこがおもしろいんだー とか書きたくなるんですが、それは紙面の関係でムリつば いのでやめときます。 ーの中 どの人もまだこれからです。すごくおもしろいです。人間て、誰もが自分のストーリ では主人公なんですから、今回出てきた六人もそれぞれじっくり書き出したら、一人で一冊分 くらいすぐ埋まっちゃ、フでしよう。でもそれをやらないところがまたおもしろい つまりそんなわけで、カップリングもこの先どうなるか、まだわかりません。決定項はない わけです。そこがリアルのおもしろいとこなのでした。 みつげつへん 次回は最後にお約束したとおり、【蜜月篇】になります。 み・つ・げ・つ。 ひび なかなか甘い響きですが、ほんとに甘くなるのかどーか、そこには未知数がいつばいです。 その未知数代表が菱田と京夜ですが、この一一人の問題で久々にクイズ出しちゃおっかな。
232 ( こわくて、訊けないんだ ) レキ先輩とどんな関係だったの ? 体育の国府田とはまだ続いてるの ? 今も夜遅くまで寮に戻って来ないけど、それってホントにバイト ? それとも ? 今度いっ俺たちセックスするの ? 訊きたいことは山ほど。だけど何も訊けない。恐ろしくって訊けない。 ( 恐ろしくて訊けないだって ? ) あいしゅう 理久はかかえていた洗面器に向かって哀愁を帯びた顔をした。 ( けっさくだ ) そんな感情がこの世に存在するなんて知らなかった気がする。 「夏目 ? ついうつかり深いため息をついた理久の顔を、中条がおそるおそるのぞきこんでくる。 人生は謎ナゾ。 「レキの相手のこと心配してんだろ。けどオレも口外する気ねーし、まだ他に誰も知んねーん だから大丈夫だぜ。あきらめさせんなら今のうちしゃねえ ? 何を言い出すかと思ったら、中条はそんなことを考えていたのか。理久は笑った。 「陸ー こう
「 : : : うん」 理久のひざに両ひしを乗せて、レキがしかめつつらで自分の額をぐりぐり撫でる。 理久がぶっと笑って言った。 「でこ、赤いっすよ」 「サイアク」 なが そんなふたりを横目で眺めていた生徒会役員のひとりが、菱田に耳打ちする。 「おい菱田。レキのヤッどしたの ? ドジばっか。いやまあ、レキはだいたいキテレツだけど さ。でもあそこまでヘンなレキ見んの初めてなんだけど」 「ここ一「三日、すっとあんな調子だ。夏目が心配してくつつき回っている」 「なんかあったのか ? 「どうもな。このあいだ街に出たときに何かあったらしいが、訊いてもレキは答えん」 疆「ふーん ? どーでもいーけど海賊はあさってだぜえ ? 校「まあな。だが今回は気に入りの夏目が花姫だし、レキもテンションは上がっている。心配す 男るな。フォローはする」 「たのむぜ」 そんな生徒会役員らの心配をよそに、レキはいつまでも理久の脚のあいだにしやがみこんだ まま立ち上がる気配をみせない。困ったのは理久のほうだ。 ドール ひしだ あし
「オレまだあんたの名前も知んねえんだぞ ! そんなのイヤだツツー 両手のこしを握りしめ、仁王立ちになってにらみつける。 にしのみやか・、レ 西ノ宮和士はレキのその真剣な瞳を受けとめなかった。それどころか、まるで見たくもない すが 汚らしいものがそこにいるというふうに仮面の下の目を眇めた。 ぶじよく 見られる者をいたたまれなくさせる侮辱的な視線だ。 そうして常日ごろ桜花学院生たちの背筋を凍りつかせてきた冷酷な黒い瞳でレキを見下ろ し、和士は言った。 「怒鳴れば思いどおりになると思うクセは、昔から変わらないようだな」 「え・ : 」 「きみはいつもそうだった。コンクールの楽屋でも終始さわぎ立てていたな」 「コンクール ? えつ、ってピアノコンクール ? なんでそんなことあんたが知ってんだ ? レキの目がまんまるになる。レキは男に近づいてその腕に手を伸ばした。 校「あんた、もしかしてピアノ : ・」 男「私にふれるな」 制 ム亠さつばっ 殺伐とした拒絶。乾いて、残酷な。 こんな拒絶は耐えられない。 二ロ
ひび 頭の奧で姉の言葉が鳴り響く。 ( 理久の姉は特別な呼び名をつけるのが趣味だった ) 〃ほんとうは興味ないくせに、わざわざ相手を怒らすみたいなことやるんだから〃 〃アッキーはちょっと考えてから行動したほうがいいよ〃 そんな姉の言葉を思い出す頃には、たいてい相手にボコボコにされた後なのだ。 理久は飛びかかってきた少年に組み伏せられながら、横目で地面を眺めた。 よくこんなデコボコの校庭でスケートボードなんかできるな。そう思った瞬間、ほおに一発 くらって目の前かハレーションを起こした。 よねくら 「おう、米倉、どーした ? 」 、いたかな ? ヨネクラ。そんなやっ 通りかかった生徒が声をかけてきて、ヨネクラは倒れた理久の胸をひざで押さえたまま振り 返る。理久のかすんだ視界にもその男が入った。 ああ、こっちは覚えている。教室の一番後ろの席でふんぞり返っていたヤツだ。胸元をだら さわだ しなくはだけて、むちむちした白い肌をさらしていたからよく覚えている。沢田とか言ったっ け。何人か後ろに引き連れているところを見ると、おおかたポス気取りなんだろう。ゃな野郎 「どーもこーもねえや。こいつがナマ言いやがるからよ。ちょいとシメてやんねえとな」 「へーえ」
100 なつめ 「レキ、おまえ、俺と夏目、どっちが好きだ ? 」 「、疋っ ? ーしさらに。 唐突な質問に、レキは実よ : 限りなくシンプルにできているレキの頭は、その質問がストレートであればあるほど熱中す る。後藤暦を知り尽くした菱田の戦略である。 「えーそんなん、くらべらんねえし 5 。オレ 5 、そりやカラダは菱田のがぜんぜんイケてるけ ど、んー、でもリクのもそんな悪くねえし 5 。あれ 5 、オレなんでリクこんな好きなんだろ。 あ、でも菱田も好き。すげえ好き」 「ありがとう」 「え 5 、でもどっちだろ。わー、迷うぜ 5 」 こうしてすっかり毒気を抜かれたレキが、親を見失ったひょこのようになってばうっと椅子 に座りこんでいる間に、菱田は議題を一兀に戻すのである。 「必要物資については担当者サイドでもう一度協議するとして。まずは先に前回決定した部隊 編成を確認する。異議がある者はその後で申し立ててくれ」 とどこお 菱田の議事進行はすっきりとして効率的だ。しばらくは会議もそのまま滞りなく進んだ。 しんどうド ド 1 ル 「おい待て菱田。新藤が花姫の警備隊統率するのはいい として。花姫の訓練はどーすんだ ? 」 途中、はたと気づいたようにメンバーのひとりが訊く。
篇 恋 語 物 校 男赤い満月。 キセキを導く夜の女神。 おうか 橋を渡り、塀を乗り越え、桜花学院高校の敷地内に入ったところで、レキたちの一隊は桜花 学院の戦闘員たちと真っ向から衝突した。 理久にはレキの混乱が透けて見えるようだった。こんなふうにふつうに見せているけれど、 たぶんレキの胸の中には嵐が居座っている。 「レキ先輩ー そんなレキから目を離さないまま、理久は言った。 「気をつけて」 ノイレーツ・ディ 海賊の日。 運命の一夜が始まる。 # 0 0 ワ」
102 ケンカに慣れたことなんかない人生だった。慣れる予定もなかった。暴力で決着をつけよう けいべっ とする人間など軽蔑していたし、そんな人間とは関係ないところで生きているつもりだった。 なのに今、どうしてこんなところでサンドバッグにされなければならないのか 「うつ、 あきひさ 腹を押さえてマットの上に倒れこむ。だがそうして倒れた理久を、髪をつかんでむりやり引 さわだ ようしゃ き起こし、沢田は容赦なくもう一度なぐった。くちびるが切れて血が出ていたが、その痛みは 他の痛みといっしょになって、もうどこが痛いのかさえよくわからない。 ドール ドール おうか 「弱っちいぜ、花姫。こんな弱っちい花姫しや、すーぐ桜花学院に持ってかれちまうぜ。おい おいどーす・るよ ? 化粧でもしとくかあ ? かあいらしくしとけば、ちったあやさしくしても らえるかもしんねえぜ ? なあお姫ちゃん」 生徒会役員全員がその認識を新たにする。 同時に、夏目理久に数票の同情票が集まったことは一一一一口うまでもなかった。 # 0 0 8 あきひさ
186 その満月は赤かった。大きくて赤い満月。 そんな丸い月を見上げていると、自分が菜の花東へ来て、もう一カ月も過ぎ去ったのだと思 い知らされずにいられない。 このひと月、なんていろんなことがあったんだろう。 あきひさ 理久はあの最初の日、橋の上にいた自分が何を想っていたか思い出そうとしてみた。 ひどく追いつめられた気分だったのは思い出せる。でもその気分にはリアリティがない。今 となってみると、なぜ死のうとまで思いつめていたのかわからない。 ひど ( だって俺、自分がこんな情けなくて酷いャツだってわかっても、今は死にたいなんて思わな いもんな ) そうだ。死のうなんて思わない。 なかじよう なんとかして中条にあやまって、もう一度、せめて友だちとして一からやり直させて欲しい とたのむまでは。 # 0 0
243 あとがき 元気になるのは友だちに相談できた日。 気分よくなるのは友だちと仲直りした日。素直になれた日。 きみがいて。ば / かいて かいさくら こんにちは、花衣沙久羅です。この本はでもファンタジーでもなく、最初から最後まで 現代のガッコーモノです ! しかも全寮制 ! とうぜん男子校 ! ( なぜとうぜん ? ) 最後まで読んでくださってありがとう。でもそ、フしてエピローグまでたどり着いてくださっ た方の中には、こんな←ふうに思った方もいらっしやるかもしれません。 ええっ卩そーなの卩カップリングそれ卩マジ卩話ちがうじゃんー ええ。私もそー思います。まったくもってそのとーりだと思います。あとがきを先にお読み になる方のために、あえて名前は出しませんが、あれとあれがくつつくなんてそんなばかなー でも。 ↓め AJ か医、