「ですが、彼らはキャッスル曹長の失踪を不審に思ってここまで来たのですよ。実際、彼女に 関しては不自然なことが多すぎますもの」 オブライエンは肩をすくめてみせた。 「私に言われましてもね」 しかしグッドリーはロを閉さそうとはしなかった。これだけは譲れない、といわんばかりに けわ 身を乗り出し、険しい顔で続ける。 「ええ、本部もそのように言っておりました。しかし閣下はそちらのほうでも大きな力を すが みち お持ちだと伺っております。もうオブライエン閣下にお縋りするしか途がないのです。しかも ぐんそ、つじゅ、つさっ ェイゼン軍曹は銃殺と聞きました。ことは一刻を争います、どうかお聞き届けください」 ぎしっそ、つ 彼女の必死の形相を痛ましげに見やり、オブライエンは首を振った。 「そうしたくても、できませんな。手遅れです」 「手遅れ」 グッドリ ーの顔から血の気がひく。 「つい先ほど、連絡が入りましてね。 = イゼン軍曹の銃殺刑は、すでに征されたそうです。 グッドリ ーは声にならない叫びをあげ、両手でロを覆った。 「集団脱走の罪は重い。それにあなたは、彼らがキャッスル曹長の失踪に不審を抱いてここま はか でやって来たとおっしやるが、逆に、もともと彼らと曹長は共に脱走を図り、アクラで落ち合 そうちさっしっそ、つふしん おお かっか
かくり 「私に言われても困る。薬の量はこれ以上増やせぬところまできている。あとは、隔離しかな 。離れるのは気がすすまんが、仕方がないだろうー 「それじゃ、どこ行けって言うのよ。まったく影響をほさない距離となると、海は越えなき ゃならないわ。それに私たち二人が出たところで、この街には他にも同種はいるはずよ」 「とりあえず、街は出る。北にアブリルたちがいるだろう、もう話はつけてある。たとえわず かな距離だとしても、同じ家の中にいるよりはアロイスにとってはましだろう」 「馬鹿みたい : とうせ船に乗ったら同じことじゃない」 「それはそうだが、近くにいる時間が少ないことに越したことはないだろう。宇宙港を出る前 に暴走されては元も子もない」 そこでようやくマックスはー 74 から目をそらし、はじめて存在に気づいたとでもいうよ うにキャッスルを見下ろした。 「聞いた通りだ。おまえにも、来てもらう」 高圧的な物言いにいいかげん慣れていたキャッスルだったが、この時は気分を害した。とに かく、人に命令されるというのは、気にくわない。 「なんで私まで」 「私たちが離れている間に、もしものことがあっては困る」 再びサリエルが現れるようなことがあったらーーマックスは、暗にそう告げているのだ。 、こうあっ ぼうそう
186 「 : ・何が誰もいないよん、だ。その声、アレクサンドルだな』 「げつ」 けげん 途端に顔をしかめたエイゼンを、キャッスルたちが怪訝そうに見やる。ェイゼンはさりげな く後ろを向き、声を落として言った。 ぼうじゅ 「驚かせないでくださいよ。だいたい、 これってやばいんじゃないんですか。傍受とかされた らどうすんですー 『今は街中が混乱しているからそんな心配はない。それよりもシュレンドルフを出せ』 「今、手術中なんですよ」 『手術中 ? 』 「そうなんです、背中がぐ 0 ちゃんぐ 0 ちゃんで、肉が抉れて背骨丸見えだし、骨はみだし てるし、神経痛んでるし、見るとメシ食えなくなりそうな傷でして」 ェイゼンの説明に、キャッスルたちはいやそうな顔をした。オブライエンも、いやだったら しい。不機嫌な声が返ってくる。 『誰もリアルに説明しろとは言っていない。とにかくやつを出せ』 「だから、手術ーー ェイゼンの声は途中で途切れた。ふいに横から手が伸びて、通信機を取り上げたからだ。 見ると、包帯をまきつけた肩の上にシャツを羽織ったマックスが立っている。
のが おそらく、この機会を逃せば、もう二度と会えないだろう。 「じゃあ、私を人質にするというのはどうかしら」 ふいに、グッドリーがとんでもないことを言った。 「はあ ? こ 「私、まだ正規軍の将校だもの「ほら、身分証明書もあるし。あなたたちは、私を楯にして警 備隊に近づけばいいわー あぜん 一同は唖然としてグッドリ ーを見つめた。 ししつい 「 : : : ずいぶん思い切ったことを言いますね、少尉」 じレっレ J 、つ 「そうかしら。常道だと思うけれど」 「たしかに常道ですね。しかしですね、少尉を楯にして近づいたとして、それからが問題です たど よ。うまく突破できたとしても、追跡される。あいつら全員撒いて、目的地に辿りつくのは不 可能ですよ。ラファエルたちの居場所をみすみす教えてやるようなもんだ」 ェイゼンの意見に、グッドリ 1 は肩を落とした。 の「それもそうね」 れ「そうです。第一危険すぎます」 怒りもあらわに同意したのは、ゾ う、とロ笛を吹く。 ひとじち ついせき 、ドーだった。珍しい人物の珍しい行動に、エイゼンはひゅ たて
「ラファエルをこのまま野ざらしにしておくほうがよほどまずい。それにおまえがこのまま死 ねば、私も困る」 そう言うなり、マックスはあっというまにジープを抜き去り、闇の中へと消えてった。 「なんかヤな感じだねえ。完全に主導権握られてるよな、つまらん」 遠ざかるバイクの音にエイゼンは顔をしかめて言った。どうも、さきほど銃をよけられたこ とを、根にもっているらしい 「しようがないでしよ、状況が状況だもの。私たち、いちおうここではお尋ね者なんだしさ」 「そう仕向けたのは結局あいつじゃないか。まったく、シドー君もね、せつかくだから背骨の 一本や二本ひっこ抜いてやればよかったんだよ」 軽く睨みつけられ、シドーは無表情ながら「すいません」と少尸で謝った。 「だいたい追っかけてきたときだってさ、メット取ればこっちがわかると思ってるあたりがイ ヤミだよねえ。たしかに目立っ髪だけど 俺だってもうちょっと伸ばせばキラキラするぞ、とわけのわからぬ対抗意識を燃やしている のエイゼンを、キャッスルはあきれ果てた顔で見た。 れ「あんたねえ、顔いい男見るとやたらケチつけるその癖やめなさいよー 「失礼な。俺より顔いい男なんているわけないだろ」 「あーそうですか。どうでもいいけどちゃんと座ってくれない ? 振り落とされてもしらない にら しゅどうけん くせ
くちびるか グッドリ ーは唇を噛んだ。 こんなところで弱気に流されてどうする。今このアクラで、キャッスルたちのことを信じて いるのは、自分とスクリバしかいないのだ。それなのに、あっさり引き下がるわけこよ、 ・クツ、ドリ . 1 ー は再び顔をあげ、まっすぐオ・フライエンを見つめた。 「メイ工大尉に会わせていただくわけにはまいりませんか」 「メイ〒大尉 ? 」 「閣下のおっしやることもごもっともだと思います。ですが私は、どうしてもおのれの目と耳 で、確かめてみたいのです。メイ工大尉は、キャッスル曹長が失踪する直前まで一緒にいらし たと聞き及んでいます。しかも、曹長に負傷させられたと。その事実を、直接会って確かめた いのですー 「なるほど オブライエンは苦笑した。簡単に言いくるめられると思っていたが、なかなかしぶとい 日 「彼女は入院中ですのでね、会うとおっしやるのならば私ではなく、病院のほうに : : : 」 の れ「病院には何度も行きました」 男グッドリー を強い語調で言った。 「ですが駄目の一点張りでした。おかしいと思われませんか ? はメイ工大尉からキャッ
220 ( できるだろうか ) わからない。しかし、やるしかない。 マックスの目の前に、ラファエルが現れる。 「呼んだのはおまえか」 彼はにつこりと笑った。心から嬉しそうな、一片の邪気のない笑顔だった。そのくせ、心が じゅうせい 寒くなるような獣性をひそめている。 「私がわからないのか、ラファエル」 マックスのロを借り、サリエルが悲しげに言った。 「わかるよ。ュリウスだろ」 「わかるのか」 サリエルは勢いこんで言った。ラファエルは微笑んで頷いた。 はんしん うつわ 「当然だ、半身じゃないか。新しい器はどうだ ? ちょっと窮屈そうだな。でも、まあまあ使 えそうじゃないか」 ラファエルの笑みの種類が変わる。 「おまえと戦えるなんて嬉しいぜ、ユリウス。一緒にいるのも楽しかったけど、同じ体じや戦 うことはできねーもんな」 「何を言っているんだ、ラファエル」 じやき きゅうくっ
162 「処分っていうと」 「家ごと爆破する」 マックスはあっさりと言った。ェイゼンの顔がわずかにくもる。 へいぜん 「 : ・あいつらって、おまえの仲間だろ ? よくそう平然としてられるな」 「仕方のないことだ」 「そりやそうだけど」 自分が彼の立場でも同じことを言うかもしれない。とは思うものの、エイゼンの中になにか だて いしよ、つ コールドプラッド わりきれぬものが残った。冷血という異称は、やはり伊達ではないということなのか。 そのときふいに、マックスの眉があがった。 「ーーまずい」 「はい ? 「暴走が始まった」 意味不明の言葉に、エイゼンはおもいきり怪訝な顔をした。 「・ : あのー、何言ってんのかな ? こ 「黙れ。彼の気が荒れているんだ。こうなっては : マックスは言葉を切り、難しい顔で宙を見つめている。その横顔を不気味そうに眺めていた ェイゼンは、遠くから近づく車の音に気づき、立ち上がった。 けげん
132 「 : : : なんていうか、あいかわらず野性的よね」 「どうも。少尉ははやく外に逃げてください。危険ですから」 「逃げろって、あなたはどうするの」 「このまま放っておくわけこよ 冫をいかないでしよう。ラファエルは、私の部下ですから」 ラファエルは、私の部下。なにげない言葉だったが、グッドリ ーはそこに隊長としての誇り きずな と、ラファエルとの固い絆を見た気がした。 「じゃあ、私も逃げるわけにはいかないわ。私にとっても、あなたや彼らは命の恩人だもの」 ろこっ キャッスルは露骨に顔をしかめた。 「ハ力なこと言ってないで、少尉。はやくしないと、ほかの部隊もここにやってきます。そう したら、あなたまでいろいろ面倒なことになりますよ」 「地球に残った時点で、そんなの覚悟してるわよ。それに私、メイ工大尉に誓ったの。動けな い大尉のかわりに、必ずあなたと会って、シドー君たちのことも助けるって」 うれ やっかい 「お気持ちは嬉しいですが、今回の件にはいろいろ厄介なことがあるんですよ。これ以上かか わったら、少尉の身も危険です そう、あの父親のことだ、何をするかわからない。 「ええ、メイ工大尉もそうおっしやったわ。たしかに厄介だけれど、それはつまり不正の匂い がするということでしよう。それならば余計黙ってはいられないじゃない」
これにはエイゼンも驚いた。 「よく承知しましたね。むこうから見れば、俺はあんたの私兵ってことになるでしよう。そん な人間の入国を許すとは」 「私もどうやって切り出すかと考えていたんだが、うまい具合に、むこうが取引をもちかけて きた」 「取引 ? 」 「君と一緒に来た二等兵で、ラファエルというのがいるだろう。あれを極秘に引き渡せと言っ てきた」 「ラファエル ? 」 意外な場所で意外な名前を聞き、エイゼンはつい大声で訊き返した。途端、頭に鋭い痛みが 走る。 なんしよく 「そうだ。それで交換条件として君の渡航を出したところ、はじめは難色を示していたが、結 しよ、つだく きかん せんにゆう 局は承諾した。むこうも、帰還目前に潜入などという真似はしたくなかったのだろう。 日 ま、こちらとしても助かった。ここで断られたら、君を火星にやる方法を別に探さねばならな の れいからね。時間も金もかかりそうだ」 そこでオプライエンはふいに表情を改め、エイゼンの顔を覗きこんだ。 「ところで、あのラファエルというのは何者だ ? 申し出があってから身元を調べてみたんだ こうかん まね ごくひ とりひき するど