ゲヴァラ - みる会図書館


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1. 嘘 : キル・ゾーン

117 嘘 「このあたりのはずですよ」 キャッスルもまたコンパスと地図で確認する。 「そうね。このあたりに地下道への入り口があるはずね。目印はなんだっけ ? こ みつしゅうかんぼく 「密集した灌木の右手ーーそこに幅一メートルほどの岩とその半分ぐらいの岩が三つ」 キャッスルたちは周囲を歩き回った。やがて一人の兵士が声をあげた。 「あった。ここです」 声の方に向かうと、たしかにアヴドウルが言った通りの光景があった。 ちょうど岩と灌木の陰になるような場所に、入り口はあるはずである。 「ここだな」 ひざ 草の密集している地面に、キャッスルは膝をついた。一見したところ、奇妙なところは全く かん あや ない。もっとも、すぐに怪しいと思われるようでは、地下道の意味がない。それにしても、完 。へき 璧なカモフラージュだ。 けいたいよう キャッスルは携帯用のスコップを取り出して、足元の土を掘りはじめる。たちまちのうち かんしよく かんたんといき に、固い感触にぶつかった。周囲から、感嘆の吐息がもれる。 「本当にあった。凄い、全然わかりませんでしたよー しっこう ほしん 「将校連中め、自分たちの保身の対策だけは完璧なんだな」 皮肉な笑い声が、兵士たちの間からもれる。ここにゲヴァラがいたら、渋い顔をしたことだ すご

2. 嘘 : キル・ゾーン

った。今回の任務に、女兵士は一人も参加してはいないはずだ。二日蔔こ、 官が計画から外されたのだから。 「お、おまえ・ : : ・ ? 」 驚きの視線が集中する。ゴーグルの兵士は、軽く肩をすくめた。 「ああ、どうも。クルゼルが来る途中でハラこわしたんで、私がかわりに来たのよー 平然と言いながら、彼女はヘルメットをこころもち上にあげ、目を覆っていた暗いゴーグル を取り去った。 あらわれたのは、居合わせた者たちの予想通りというかなんというかーー鋭く輝くへイゼル の瞳であった。 そうちさっ 「キャッスル曹長卩」 「隊長 ! 」 複数の声が同時にあがった。いずれも強い驚きをたたえている。 「こんばんは。遅刻は謝るけど、そんなにジロジロ見られると困りますー うらはら 言葉とは裏腹に、キャッスルは不敵な笑顔で一同を見渡した。 「し、いったいどうして : : : 」 ぼうぜん 呆然と問い返したのは、一番奥に座っていたゲヴァラ大尉である。 うな 「一言ったじゃないですか。途中でクルゼルがハラこわして唸ってたんでね、空の旅はちょっと はず あやま おお 目冫ただ一人の女下士 するど

3. 嘘 : キル・ゾーン

ぐち 囲い愚痴でもなんでも、全部聞きたいのに。 しかし彼がそれらの言葉を口にする前に、キャッスルは再び歩き出した。 「ど、どこ行くんだよ ? そっちの方向はーー」 ラファエルもあわてて後を追う。 「ここの指揮官の所よ。確認してくる」 「確認して、どうするつもりだ ? 」 しじよう 「こんな私情はさみまくった人事はやめろって言うに決まってんでしょ卩考えてもみなさい よ、私がいなくなったら、この作戦ほんとにやばいわよ ? ただでさえ、成功率低いっていう いつけんごうまん キャッスルの言葉は一見傲慢なようだが、真実であった。この作戦の指揮官はゲヴァラ大尉 だが、実際に動いて指示を出すのはキャッスルの役目なのだ。経験においても能力において も、今度の部隊の中に彼女の右に出るものはいない。 お 本音を言えば、キャッスルだって命は惜しいから、こんなに危険な任務はあまりやりたくは ない。しかし命令が下って、しかも自分の分隊の者たちがみな出ていくというのに、自分だけ がまん 軍の実力者とのつながりゆえに免除されるというのは、我慢がならない。しかもそれが、あの ひご 父親の差し金となれば、なおさらだ。あの男の言いなりにだけはならない、あの男の庇護を受 けるぐらいなら体を売って生き抜くほうがまだマシだと思っていた。 ほんね めんじよ たいし

4. 嘘 : キル・ゾーン

不吉な赤。 火星都市の工作員が残していった、徹底的な破壊のための血の約束。 ほういもう 「そのとおり。もしこの包囲網が完成したら、この基地ももう長くはない。半島は一気に全方 かんらく 面から攻められ、陥落する危険がある。おそらく今の時点でホンコンの部隊が威嚇程度に空か おんぞん . こ、つげき らの攻撃だけにとどめているのも、来るべき一斉攻撃に向けて戦力を温存しているためだろ くや それがわかっていても、たいした対抗策を講じ得ぬのが、じつに悔しいがね。あのシ ュレンドルフなる男は、封じ込めがうまい。戦力を分散させるこつを心得ている。いまいまし いことだが」 せんな そこでいったん言葉を切り、ゲヴァラは小さく苦笑した。いまさら言っても、詮無きこと 0- 」 0 「ま、そんなことはいい。 とにかく、ポルネオをこのまま放置しておくわけにはいかん。が、 奪回するはどの兵力もない」 「・ : ・ : では、どうするので ? みちはかい 「残された途は破壊しかあるまい、とここの連中は言っている。コタキナバルと南部の基地 たた まあ、たしかにこうなっては、そ を、レジスタンスの連中ごと徹底的に叩くのだそうだ。レーー れしかないだろうな。連中にみすみすねぐらをくれてやるぐらいならー 「ーーーどのように ? 」 0 「 はかい かく

5. 嘘 : キル・ゾーン

があるため、借り受けたのだ。おかげで命令がスムーズでたいへんやりやすいが、レシー が激しい動きでもはずれぬよう耳のかなり深くまでつつこんであるので、どうにもむずむずす る。数時間で慣れるとゲヴァラは言ったが、誰かの声が耳の奥で響くという感覚はやはり気持 ち悪い 耳のつけねのあたりをかきつつ、アヴドウルたちが命令通り移動するのを確認する。 準備が整い、キャッスルは再び通信機を引き寄せる。 「ーー行くよ ! 」 鋭い声とともに、地面を蹴る。 見張りの兵士たちが突然闇の中からあらわれたキャッスルたちの姿に目を見開く。次の瞬 ぜっめい うめ 間、彼らは全員、目を見開いたまま絶命していた。首を掻き切られ、押さえられたロからは呻 きひとつもらすことなく、彼らは地面に倒れこむ。 はいごひか キャッスルが合図を送ると、背後に控えていた隊員たちが走り寄る。 「ラファエル、中の様子は ? 」 、つ・か ~ 窓からそっと中を窺っていたラファエルは、首を傾げた。 「 : : : よく見えねー。奥の壁んとこに、一人よりかかって座ってるけど : : : スクリ・ハかチェル ヌイかわかんね 1 な」 暗視装置ごしでは無理もない。

6. 嘘 : キル・ゾーン

123 嘘 か じよっゼっ 言葉を交わしながら、兵士たちはライトで照らされた長い梯子を見上げる。緊張が饒舌にさ せているのだろう。しかしふいに、沈然が訪れる。 誰が、はじめに昇るか。 大きな問題が、彼らの前につきだされる。 この上はもう、基地の中である。懲罰房の真下とはいえ、扉を開けた途端に敵とはち合わせ ることもありうるのだ。 さっち ゲヴァラは地下道の出入り口はまだ察知されてはいないだろう、と言っていたが、それは単 すいそく なる推測にすぎない。もし、気づかれていたらどうするのか。 らっ 輸送機がこの島の上空を通ったことは、レジスタンスたちも当然気がついているだろう。落 げん かさん もくげき 下傘が舞い降りるところも、目撃した者がいるかもしれない。となれば、基地内はいっそう厳 じゅうけいかい 重な警戒につつまれているにちがいない。 そんな所に、真っ先に飛び出すのは、危険きわまりない役割である。 ここにいるのはそろって豪胆で経験も積んでいる者ばかりだったが、それでもすぐに「俺が やさき 先に」と言い出す者はいない。しかたなくキャッスルが口を開こうとした矢先、 「じゃ、俺先行っていい ? 緊張感の欠けた声で言った者がいた。 全員の視線がそちらに集中する。背の高い少年兵 , ーーラファエルの元へ。 物こうたん

7. 嘘 : キル・ゾーン

「無論、我々が担当するのはコタキナバル基地のほうだけだ。南部の正規部隊基地には、また 別の部隊を向かわせるそうだ」 「 : : : 今からたったの二週間の間に、すべてをやれと ? 計画から実行まで、すべて」 「急なのは承知している。しかし、それ以上は待てない」 そこでゲヴァラは急に声をひそめた。 ここだけの話だが、じつはコタキナバル陥落の連絡を受けてから、一度救出部隊をひそ かに向かわせたのだそうだ。 : 、 カ一人として帰ってはこなかったようでな」 「で、ここの指揮官の言い分はこうだ。『しかし君たちは、一月もポルネオのジャングルをさ まよいながらも、見事に脱出を果たしてみせた。それにコタキナバル基地内部や付近の地理に くわ かんすい ついても、詳しいだろう。君たちならば、この危険かっ困難な任務も完遂しえることを確信し ている。やってくれるね ? 』だと。勝手に確信されても困るのだがね」 キャッスルは苦笑した。この大尉も、ずいぶんと人が悪くなったものだと思う。コタキナバ ルではじめて会った頃は、エリート将校の典型のような人物だったのに。 「まったくですね。しかし、一一週間以内にすべてやれ、ですか。無茶苦茶ですね。ま、上がお しつけてくる仕事なんて、いつも無茶苦茶ですけど。で、救出に向かう人数は ? 「まず我々と、この基地の中の生え抜きの兵士 , ー・・これはあくまで指揮官の言葉だからな、実

8. 嘘 : キル・ゾーン

「さっきも言った事情で、陸戦部隊は動かせない。海もわたらねばならんしな。となると、空 爆しかあるまい。時間的に見ても、それが最も効率がよいだろう キャッスルは眉を寄せた。 「空爆ですか」 「クアラルンプール基地の航空部隊は、爆撃機の編隊が主流だ。もちろんこちらが大量の機体 を動かせば、ホンコンもすぐに反応してくるだろうが、そこはハノイの空戦部隊が引き受けて や、機会は一度きりといった くれるだろう。無論これは、そう何度も出来る方法ではない。い ほうがよいかな。相手の不意をつかねばならないし、こちらも基地同士の連動という問題があ る。そこでこの基地司令部の討議の結果ーー決行は、二週間後の夜ということになった。ある いは天候を見て、一日二日のずれは生じるかもしれん」 「しかしーーコタキナバル基地にはたしかスクリバ大佐他、こちらの人質が : 「もちろん承知している。だからこそ私が司令部に呼ばれたのだし、今君をここに呼んでもい るのだよ」 ゲヴァラは苦虫を噛み潰したような顔で、キャッスルに向き直った。 「今言った通り、爆撃は一一週間後だ。それまでに私たちは再びポルネオに入り、人質を取り返 嘘さねばならんそうだ」 キャッスルは驚かなかった。この命令を、ある程度は予期していたからだ。 にがむしかつぶ ひとじち

9. 嘘 : キル・ゾーン

よゅ、つ を投入する余裕はないそうだ。さらに、君も知っているとは思うが、ホンコンとダッカには、 もっとも、これも元は我々の それそれレジスタンスの地方軍本部に相当する基地がある。 ものだったのだがね」 じちょ、つ ゲヴァラは自嘲の笑みを浮かべたが、それは一瞬のことであり、すぐに真面目な表情に戻る と、地図の上に指を置いた。 「もし今、我々ーーもしくは他のアジア地方基地のいずれかがポルネオ奪回のための大きな動 きを見せたとしたら、即座にホンコンやダッカも動くだろう。この二つの基地にはいずれも、 そろ 空母も航空部隊も揃っている。実際、この半島上部では、連日のように空を荒らされているし な」 と言って、彼はインドシナ半島とマレー半島の境目の付近を指し示す。そのあたりでは連日 くうしゅ、つ 激しい空襲と、空戦が行われることをキャッスルも伝え聞いていた。 「でも、このままポルネオを放置しておくわけにもいかないでしよう。放っておけば、ホンコ ンの時と同じように、すぐに火星都市の部隊が乗り込んできて基地の装備を整えてしまいま す。ホンコン、ダッカ、ポルネオの三方基地の完成というわけでしよう、それこそなんとして さ も避けねばならないんじゃないんですか。たしかにこの基地もどうやらあまり余裕はないよう ですが・ : ・ : 」 キャッスルが今あげた三基地には、赤い印がついている。東南アジア地域をぐるりと囲む、 とうにゆ、つ そ、つと、つ さかいめ だっかい

10. 嘘 : キル・ゾーン

112 ラファエルは平然と言い切った。普段の彼からは考えられない、じつに堂々とした態度であ き る。つまり彼は体面を気にする神経を断ち切るぐらいに、怒っているのだ。 ぽかず 「い、言っとくけどね、私はこういう仕事では少なくともあんたよりは場数ふんでるぶん強い からね。守られる必要なんてないわよ」 キャッスルはラファエルに対してというより、ただ周囲の冷やかしの目に対抗するためだけ はんろん に、反論した。 ラファエルは聞いているのかいないのか、「見てろよェイゼンのクソばか野郎」などとブッ ブッ呟いている。 その様を見ていたアヴドウル伍長が、しみじみと言った。 ちわげんか 「 : : : 実戦前に痴話喧嘩できるようなら、大丈夫だよな」 う生 9 彼の隣にいたシド 1 も、無言ながら深い同意をこめて頷いた。 やがてポルネオの森林地帯上空にさしかかり、輸送機の扉が開かれる。 らっかさん 落下傘をとりつけた兵士たちが、速度を全く緩めぬまま飛行する機体から、次々ととび降り る。闇の中に消えていく兵士たちを、ゲヴァラは複雑な思いで見送った。いったし , 、彼らのう ち何人が再びここに戻ってくることができるだろうかと。 キャッスルたちが降ろされたのは、地下道の入り口があるはずの地点から十キロほど離れた 森の中だった。出入り口のすぐ近くに降下するのは、危険だ。みすみす敵に、入り口の場所を つぶや たいめん ・」ちょう 」、つか た ゆる たいこう