ため息 - みる会図書館


検索対象: 嘘 : キル・ゾーン
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1. 嘘 : キル・ゾーン

130 「ーーどうした ? 」 キャッスルが小声で尋ねると、ラファエルは無言で首を振った。言いたくない、とでもいう よ、つこ。 「ラファエル」 キャッスルが重ねて問うと、ラファエルはあきらめたようにため息をつき、吐き捨てるよう に一一 = ロった。 「女だよ」 「何 ? こ 「隣に、女がいる」 キャッスルは首を傾けたが、すぐに目を見開いた。さきほどの男たちの会話が、ひとつの結 論を導き出す。 なんてことを、とは声にできなかった。怒りのあまり、舌がよく動かなかったのだ。 軍隊にはよくあることだということは、知っている。 彼らは、女将校、と一 = ロっていた。 クアラルンプールでキャッスルたちは、生きて捕らえられている将校は、指揮官のスクリバ しよけい ちゅ、つさ たいさ 大佐とチェルヌイ中佐の二人だけであり、あとは全員処刑されたと聞いた。しかし隣にもう一 かし

2. 嘘 : キル・ゾーン

102 きんちしっ クルゼルは緊張していた。 いよいよ今から、ポルネオ島に向かうのだ。 ( 今度こそ、ダメかもしれない ) プーツの紐を結ぶ手が震える。兵舎の中にはもう誰もいない。ラファエルたちはとっくに準 備を済ませ、ポルネオへ向かう輸送機の待っ飛行機へ向かっていた。 ひとじちきゅうしつ 人質救出。本来ならば、より抜きの特殊部隊が担当するような任務だ。それなのに、ただポ ルネオからの脱出に成功したというだけで自分までがそこに加えられるなんて。クアラルンプ ールの人員不足が深刻ということもあるのだろうが、みな僕たちのことを誤解している、とク ルゼルは思う。 ( いや、僕たち、じゃない。僕だけだ ) クルゼルはため息をついた。 自分以外の人間は、本当に凄いと思う。キャッスルもエイゼンもアヴドウルも、もちろんゲ 五ポルネオへ ひも

3. 嘘 : キル・ゾーン

ししことですよ」 「大尉も言うようになりましたね。、、 キャッスルがにやりと笑うと、ゲヴァラもまた苦笑した。 「君に誉めてもらえるようになれば、私もたいしたものだな」 そう言って、ゲヴァラは再び真面目な表情に戻った。 「さて、話を戻すことにしよう。ほとんどの将校が戦死、あるいはレジスタンスに処刑された ことから見て、この地下壕、および抜け道は使用されなかったと見ていいと思う」 「なるほど。で、道はどこに通じているんですか ? 「ここだ」 ゲヴァラは地図の一点を指し示した。コタキナ。ハルの東方、直線距離で見れば約十キロとい ったところか。 「基地背後の森の中に出るわけですね。地下道の距離は ? 」 「九・六キロと聞いている」 「中の状態は ? 「高さは百八十、幅はちょうど百だったかな」 えんえん へいしよき、っふししっ 嘘「それが十キロも延々と続くんですか。閉所恐怖症になりそうですねえ」 キャッスルはため息をついた。 ね」

4. 嘘 : キル・ゾーン

144 る。真っ青な視線にさらされ、男はらしくなく緊張した。 「ほうっておけ」 は たんれい 端麗な唇から吐き出された言葉に、男たちは顔を見合わせた。 しきゅ、つ 「はかな。部隊をいくつか、至急向かわせたほうが」 マックスと呼ばれた男はものうげに目を閉じると、ため息をついた。 う ずつうたね 「ほうっておけと言った。よかったではないか、君たちの頭痛の種である隠された地下道の有 無がいよいよ明らかになるわけだ」 じトでつだん 「冗談を言っている場合ではない」 「冗談を言っているつもりはないが」 「マックス ! 」 あら たまらず、男たちは声を荒らげる。 まぶた しかしマックスは、その瞼を閉ざしたままだった。周囲の怒りにもまるで頓着する様子がな 実際、彼はそんなものなど少しも気にかけてはいなかった。彼は今、違うものに気をとられ ていたのだ。 近づいてくる気配。これは、覚えのあるものだ。 マックスは、報告を受ける前からすでに、敵の部隊がーー正確にはラファエルがこの基地の む とんちゃく

5. 嘘 : キル・ゾーン

ゲヴァラは一瞬言いづらそうな表情を見せたが、ため息まじりに事実を述べた。 しよけい 「処刑された。わざわざ処刑場面のテープまで送りつけてくれたそうだよ」 キャッスルは沈黙した。 「 : : : わかりました。では二人ですね」 やがて感情を押し殺した声で彼女は言った。 しんにゆう とつば 「基地に侵入する方法は ? こちらの兵力では、ゲートを突破することもできないと思います 「そうだろうな。地下から行くのがいいだろう キャッスルが怪訝そうな顔をする。 「地下ですか ? ちか′」う 「コタキナバル基地は、 255 などの前進基地とは違う。当然、地下壕の規模も大きいし、抜 け穴もある」 キャッスルは軽く目を見開いた。 「抜け穴」 そんなものが存在するなど、初耳だった。 「ま、君たちには知らされていないだろうがね。あの基地には、君たちが知っている避難用の ちょっぱっぱう 地下壕の他にも、懲罰房の下に小さな地下壕がある。そこからは、外に通じる地下道が走って が」 けげん

6. 嘘 : キル・ゾーン

195 嘘 けげん 男は怪訝そうに眉を寄せた。 マックスはため息をつく。なぜこんなことがわからないのだ、といわんばかりに。 ひろ、つ 「連中を追って、未熟な腕を披露してやればよい。あまりしつこく追わず、逃がしてやれ。そ うすれば、彼らも安心して、次の空からの攻撃を計画するだろう。コタキナバル基地、いまだ 戦力としては不十分、と判断してな」 数秒の間をおいて、男の双眸にようやく理解の色が灯ゑ ぎそう 「偽装か」 マックスは頷いた。 男はいそいで地下道の中の部下と、航空編隊の担当者に通信を送る。にわかに活気づいた兵 士たちをちらりと見やり、マックスはその場を立ち去った。もう、彼を止める者はいなかった。 「やはり、生きていたな」 ものいわぬ少年に、小さな声で語りかける。 「おまえが死ぬはずはないと思っていた」 聞こえていないのは、承知の上だ。 今、この少年の外界に対する感覚はすべて閉さされているだろう。すべての力を、内面の回 そうぼう とも

7. 嘘 : キル・ゾーン

224 まれていない。当時研究所で矯正訓練を受けていた幼いユ おまえの年頃のユーベルメンシュがいるはずがない」 「だから、ちがうって言ってんじゃねーかー 「しかしおまえが普通の人間であるはずがない」 「ふつーだよ、俺はー 拗に言い募るラファ = ルに、 , クスはため息をついた。彼は壁から背を離しラファ = ル おび の前に進み出ると、再びサーベルを抜いた。途端、ラファエルの目に怯えが走る。 「証明してやろう」 短く宣言した後、マックスはラファエルの胸にサーベルをつきつけた。 ラファエルがかすれた声をあげた時、サーベルを握るマックスの手が動く。よけようと椅子 に手をかけたが、遅かった。 「つ ! はさきひふ 刃先が皮膚をなそり、ラファエルは声にならない悲鳴をあげた。体を引いた拍子に椅子が倒 よゅう ぶざま れ、ラファエルは床に投げ出されることとなった。しかしそれを無様だと恥じ入る余裕など今 の彼にはよ、。 見下ろすと、胸には大きな切り傷が走り、はやくも血が滲みだしている。 「何すんだよ ! 殺すつもりか卩」 きさっせいくんれん ーベルメンシュたちも、全減した。

8. 嘘 : キル・ゾーン

142 も彼女は、シドーを睨み返すのをやめなかった。 シドーもまた、グッドリーから目を離さない。ふたつの激しい視線が、至近距離で交差する。 「わかりませんね。俺はあいにく男ですから」 いくぶん さきほどよりは幾分トーンを落としたものの、やはり乱暴な口調で彼は続けた。グッドリー の双眸がさらなる怒りに燃え立つ。 なぐ 「ー・ーでもあなたをこんな姿にした連中をいますぐ殴り殺したいぐらいには、俺も怒ってる。 がまん それなのにこれ以上、あなたの命を連中に奪われるのも我慢しなけりゃならないのか。冗談し ゃない」 。クツ、ドリ . ーは目を見開いた。 そむ その真っすぐな視線にさらされて、さすがにシドーもきまり悪くなったのか、顔を背ける。 そして何度か気を落ち着けるために呼吸を繰り返した後、目をそらしたまま静かに言った。 「・ーーあなたは以前、俺たちを逃がしてくれた。だから今度は、俺があなたを助ける。借りを 返すだけだ。そういうことで、むりやり納得してください」 グッドリーはしばらく黙ってシドーを見上げていたが、やがてため息まじりに言った。 りちぎ 「 : : : 律義なのね」 「生まれつきです」 無然と答えると、グッドリーがかすかに笑 0 たような気がした。 そうぼう しきんきより

9. 嘘 : キル・ゾーン

115 嘘 や、かっては兵士だったものだった。 はっこっか すでに白骨化しているから、コタキナバル陥落直後に「狩りにあって殺されたのだろう。 ずがいこっ しかも首が妙な方向に折れており、頭蓋骨もところどころ陥没しているところを見ると、かな ひさんさいご り悲惨な最期を迎えたらしい。おそらくレジスタンスの連中は、この兵士を追いつめて追いっ なぶごろ めて、嬲り殺しにしたのだろう。 あんど 殺された兵士には悪いが、キャッスルはこの時、怒りよりも安堵を感じた。 レジスタンスがポルネオ全土で行った「狩りーについては、彼女もよく知っている。一歩ま ちがえば、自分たちも目の前の兵士と同じ姿になっていたかもしれないのだ。実際、ポルネオ から無事脱出できた者は、いまのところ自分たちの他にはいないという。そう考えてみると、 きせき 自分が今ここでこうして大地を踏みしめているのが奇跡のように思えてくる。 たしかに奇跡なのだろう。 っこのような姿になるか、わからないの しかし、奇跡は何度も起こるものではない。い 「隊長、これどうしますか」 アヴドウルの問いかけに、キャッスルはため息をついて首を振った。 まいそ、つ 「このままにしてくしかないでしよ。埋葬する時間なんてないし。どうせ基地にたどり着くま で同じようなものいくつも見ることになるわ。いちいち埋めてたらキリないもの」 かんらく かんまっ か

10. 嘘 : キル・ゾーン

114 「あれは : : : 」 やせんふく 幹の向こう側に、森にあるはずのない布が見える。一目でわかる、あれは野戦服だ。もっと ちあん も、それが治安部隊のものなのか、レジスタンスのものなのかは、ここからではよくわからな い。とにかく野戦服を来た人間が、こちらに背を向けて座っているのだ。キャッスルたちの目 から見えるのは、彼ーーあるいは彼女の、左肩から下の部分だった。あとは木に隠れてしまっ ているが、小柄な人間であるらしいことはわかる。 しかしその人物は、動かない。これほど近づいているのならば、キャッスルたちの気配や足 音に気づいていないはずはないというのに。 ( まさかーー・ ) キャッスルの頭の中に、ひとつの仮定が浮かんだ。アヴドウルに目をやると、彼もまた同じ ことを考えているようだった。なんともいえぬ表情をしている。 びどう 二人は無言で頷き合うと、ゆっくりと木に近づいて行った。やはり座っている兵士は微動だ かくしん にしない。キャッスルは一歩ごとに自分の予想が確信にかわるのを感じた。 そしてとうとう木の向こう側にまわった二人は、やはり、とばかりにため息をついた。 「 : : : 連中にやられたんですかねー 「それしかないでしよ」 せあず 木に背を預けて座っているのは、・ほろ・ほろの野戦服をまとった治安部隊の兵士だった。い こがら