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検索対象: 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6
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1. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

112 ちりよう ひとまずォルファンの治療を終わらせたマーカラインが、海底山脈の谷底深くに落ちてい こうとするチュニア・リニーを追った。 ふる ジュ 1 ン・グレイスは、ゞ カくがくと震える手を、強く握りしめる。 ひりゅう 「飛竜の : : : 、火ではありませんね : : : 」 チュニア・リニーを襲ったものは。 きょむにら 眼前の虚無を睨みながら、ヘイゼル・ヒンドはうなずいた。 まどうほのお 「魔道の炎だわ。それも、ものすごい魔道力量を持っ : ・ は 巨大な飛竜の吐く炎でなければ、それは魔道の炎でしかない。そして今、そんなことを行 う可能性があるのは 「ロワール様・ : : 」 きようしゅう しようげき 精神を強襲した衝撃の大きさに、はからずも吐き気がこみあげたジューン・グレイス は、両手で口元を押さえた。 からだ 頭で状況を理解しても、身体の生理が、それを拒否しようとしたのだ。 認めたくはない。 かわい せいりゅうおう サフィア・レーナの可愛い甥であり、偉大なる精龍王リカルドと、あの優しいダイアナ こうし すこ むすこ オ一族の誇りたる公子が。 の息子であるロワールが。正しい教育を受け、健やかに育っこ、 むご チュニア・リニーのような少女を、そんな、惨い目にあわせるなんて おそ 0 きょひ 0

2. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

224 「これを大きくする方法を、教えろ : ひりゅう 巨大な飛竜のいないディーノが、今回ォルファンと二人で乗るのは、この小さな飛竜。 せいりゅうおう ぞうさ ォルファンというお荷物を連れても、精龍王の力を解放すれば空を行くことは造作もな かったが、それはの者たち全員を、叩き起こすようなものだ。熟練者たる魔道士を 刺激し、狡に後を追われる危険があった。抜け駆けとなれば、人選からもれた者も、ここ ぞとばかりに我先に追いかけてくるはずである。そんなことは真っ平御だ。 夜明けと同時に嬉々として起きだした老ソール・ドーリ 1 は、ディーノとオルファンが浮 じだんだ 空城のどこにもいないことに気がついて、地団駄を踏んで悔しがったが、後の祭りだった。 せいじゅう 小さな飛竜を成獣に変化させるのは、ごく容易だった。世界救済の時に、黄金竜になり、 さらに聖光竜に変化したことから比べれば、たいしたことではない。 を花にするくらい すがたかたち の、性質を変化させるわけではない、初級魔道だ。姿形ばかり大きくなった、落ち着きの ない厄飛な飛竜を御し、オルファンを連れてディーノは浮空城を離れた。 せいれい うまく出てしまえば、あとは簡単だ。浮空城の実力株の精霊魔道士にも、占術程度の魔 道力なら、距離があれば感知されることはまずありえない。 うらな 占いに魔道力の大小はかかわりない。だからこそ、チュニア・リニーのような少女でも、 せんじゅっ

3. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

192 ささ じゅくれんしゃ 駄の多い不思議の力も、熟練者たるアール・フィージの技術が支えてやれば、十二分に効 果を揮する。一途に、憎悪だけの塊であるロワールの心で挑むほうが、殺しあいという野 ばんこうい 蛮な行為においては適当であるように思えた。 「よくも姉様をつ " 】」 真の。あげる炎竜の織を、爆発的に燃えあがらせ、獣のように吠えたロワール。アー ル・フィージが、をって空に飛び、炎竜の剣を引き抜いてディーノに襲いかかった。 かろ ひるがえ かいひ 襲いかかるロワールⅡアール・フィージの一撃を、軽やかに身を翻して回避し、素早く左 みぎこし の手のひらに右拳をあてたディーノは、手のひらの中から光り輝く長剣を抜き出した。柄 ぎんふ せいりゅうおう ゅう が銀色をしたそれは、聖なる銀斧の変化したもの。精龍王たる力と、聖なる銀斧の力が融 ごう はじゃ 合した破邪の剣。 渾身の力をこめた一撃を、難なくかわされ、ロワール。アール・フィージは、懾てて体勢 きじんぎようそう くち を立て直して振り返る。鬼神の形相をしたロワール日アール・フィージに、ディーノはロ もと 許をほころばす。 「いい顔だ ! 」 にやりと笑いながら評価したディーノを、ロワール。ア 1 ル・フィージは憾怒の目で睨み つける。 「僕の姉様を返せー だ え

4. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

くんりん ひとはすべての生命の支配者ではない。世界を統べ、君臨するものではない。 規墻し飼し、翩することを知っていても、それらはすべて、自らの利益を目的とし て、何かを『破壊』するための行為であることを忘れてはならない。自然の側から見れば、 とうと りこてき ひとの尊ぶ労働とは、自分たちの生命をより豊かに、安全に維持していくための、利己的な 計画的破壊行為にすぎない。 はぐく 世界は、大いなる自然の力によって育まれている。 しかしひとは、時としてり、錯覚する。言葉を用いぬがゆえに静かに存在しあっている きんこうくず ものたちを、ないがしろにしてはばからない。静かなる均衡を崩すことによって、予期する へんぼう こともできぬ返報があるのだと知らず、威を振るう。 神は、ひとの愚かさをえ、その心強く優しきものから男女一人ずつを選び、音なき声を 聞く耳と、大いなる力を分け与え、世界を見守ることを命じられた。 しんりゅうたま′」 せいりゅうおう この時、神龍の卵を与えられし二人こそ、最初の精龍王と精龍姫である。 すぐ 初代の精龍王と精龍姫は二人とも、生まれながらにして様々な方面で優れた素質に恵まれ ひとみ た、特別な者に多く見られた、黒い髪と青い瞳を持っていた。 でん けつみやく 黒い髪と青い瞳は遺伝しない。血脈にかかわりなく生まれる。他者の期待を裏切らず、 はっき さず 十二分にその持てる力を発揮するだろう者に授けられた特別な色を『約束の色』と呼ぶ。 でんしようろく いにしえれんきんじゅっし きおく 〈失われた写本「ナム伝承録」古の錬金術師ヴェルトライゼンの記憶より〉 かみ

5. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

はおう せいりゅうおう 華麗なる覇王プラバ・ゼータ外伝◎精龍王同 かれい

6. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

ディーノの胸にすがり、顔を伏せたサフィア・レーナは、家を恋う少女のように泣いた。 サフィア・レーナが行きたいのは、城。黒魔道師バリル・キハノが現れるまえの、 せいりゅうおう クロシェの花園。精龍王、兄リカルドが生きていて、ダイアナが笑っていて、小さな少年 のロワールが小鳥とれながらお城の庭を走りまわっていた、あの日。世界滅亡が危惧さ れ、野ファラ・ ハンをしての世界救済伝説を知らないサフィア・レーナにとっては、 ほんの数日前の、あの幸せだった日に。 こうしやく 一人のただの乙女として、 亡くなったザイフリート公爵の妹でもなく、精龍姫でもなく、 誰にも不可能な我がままを言い、サフィア・レ 1 ナは泣いた。 身体にを預かる精龍姫、そして由緒正しき名門たる公爵家の姫君として、サフィ しゅうたい うやま ア・レーナを敬い、大切に扱ってくれる者たちの前では、とてもできない醜態だった。ど んな家に生まれようと、何を持っていようと、ただの女として見てくれるディーノの前だか みずか らこそ、泣けた。サフィア・レーナは、そうあらねばならないと自らを律し、強がるのに 覇すっかり疲れていた。 守られたいとすがりつき、小さく震えながら咽を漏らすサフィア・レーナを、苦しくな 華らないよう注意しながら、ディーノは広い胸にかく包みこむように抱きしめた。 サフィア・レーナが求めるのならばなんでも与えてやりたい、願いならばどんなことでも えてやりたいと望むディーノだが、サフィア・レーナの行きたい場所は、この巨大な飛竜

7. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

反った。まとっていた炎竜の織が、内側から加えられた圧に耐えきれなくなったように、ば らばらにけ散る。 りゅうし ロワールの全身の毛穴から、光の細かい粒子が噴きだし、ロワールの姿を輝かせた。 ディーノは龍珠のかけらを擱んだ手を、自分の胸の前に引き戻すように動かす。 「ディーノ様 ! 使ってくださいな ! 」 つばさ すかさず、ヘイゼル・ヒンドが銀色の小鳥をディーノに向かって飛ばした。翼で風を切っ て一直線に飛んで来た小鳥は、ディーノの顔のすぐ横で止まり、何やら見覚えのある銀色の 小箱に変化する。サフィア・レーナが龍珠のかけらを回収した時に、一時保管するのに使っ まどう ていた、あの魔道の小箱だ。 ディーノが腕を引き戻すのと同時に、輝いていたロワールの身体が小さく縮んだ。 ちゅう 目を閉じ、元の小さな少年の姿に戻ったロワールが、輝きを失って宙に投げだされた。 ひりゅう けいこく 一足早くディーノのそばに向かったメリンダが、飛竜を急降下させ、渓谷に向かって糸の 覇切れた人形のように墜落していく口ワールを受け止めた。 ばらばらに砕け散り、炎を消して落ちながら、鎧になっていた炎竜のは再び、干から 華びた一頭の飛竜の死骸へと凝り集まった。滅しているとはいえ、不思議の力を駆使した野 の遺骸を、そのままにうち捨てておけば、心ない者に悪用される危険がある。埋葬し、蜥 、いんほどこ 四印を施しておく必要があるため、ヘイゼル・ヒンドがこれを追った。 ついらく よろ、

8. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

ロワールが殺すのならば、サフィア・レーナはもう、ディーノに殺されはしない。誰に も、殺されない。 「おれもいい加減になさいませ ! 」 どな まゆっ ぎりりと眉を吊りあげたメリンダが、怒鳴りながら素早く飛び来て、サフィア・レーナを 自分の背後にかばった。 せわがかりおんなきし 世話係たる女騎士に、やろうとしていることが悪いことであると叱られて、ロワールは心 またた 細そうに目を瞬く。 しかばね 「どうしてもとおっしやるのなら、このわたくしの屍を越えていらっしゃい かみひとすじ 髪一筋も傷つけたなら、ただではすまさないという恐ろしいばかりの意気ごみで、メリン ダはロワールを睨みつける。 教育者として接していた者には、逆らうべきでないという、長きにわたる習慣で、ロワー こんわく ルは困惑する。 できないよ : だってメリンダは、僕が殺さなけりゃならないひとでは 「それは : ないから : 大事な仲間で、身のまわりによく気を配ってくれるひとで 「メリンダだけじゃない ! 俺だって同じだ ! 」 せいりゅうおう たとえそうして精龍王になったとしても、絶対に認めないと、ディーノとサフィア・ にら さか 0 しか

9. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

158 りこてき は 愛しさゆえに利己的になり、サフィア・レーナの気持ちを無視し、心ない言葉を吐いた くちびるか ディーノは、唇を噛んでジューン・グレイスから視線をそらした。思う気持ちの正しさで、 おと 明らかに劣っていた。 ニーナ・クレイエフは老ソール・ドーリーに向かって、視線を落とした。ニーナ・クレイ エフの視線を感じながら、そちらを向くこともせず、老ソール・ドーリーはうなずく。 「もう、よい。サフィア・レーナ。終わりにしよう」 た ただ一人、耐えて。もうこれ以上、辛い思いをすることはない。 ほろ 滅びるしかない世界なら、ロワール日アール・フィージに破壊されるよりも、サフィア・ しんりゅう まうかん レーナの変化した神龍のほうがいい。 それはカ及ばず、併観するしかない者たちの、究極 せんたく の選択でもあった。 名ソーレ・ドーリー の言葉に、ヘイゼル・ヒンドは伏せていた目をあげる。 「 : : : まだひとつだけ、手が残されているのではありませんか ? アール・フィージを倒し て世界を守り、サフィア・レーナ様をお救いし、ここまで御協力いただいたディーノ様との 約束を果たせる方法が、なくはないはずですわ」 何もかも、うまくいく、夢のような手段。 またた 驚いて目を瞬き、ディーノはヘイゼル・ヒンドを見る。 にがにが メリンダは唇を噛んで横を向き、老ソール・ドーリーは苦々しく息を吐き捨てた。 きゅうきよく

10. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

3 / ひりゅう ロワールから離れた巨大な飛竜のあいだに、メリンダとフラナガンが横から割りこみ、自 分たちの背後にディーノをかばう。 すご びぼうぬしね 凄みさえ増した美貌の主に睨めつけられ、気圧されてロワールはかすかに身を退いた。サ フィア・レーナがこんなに怒る様子など、これまで一度も見たこともなかった。 せいりゅうおう 「 : : : 姉様は、僕を精龍王にする気がないのですね : : : ? 」 「そんなこと、今は問題にすべきことではありませんー いらだ さすがのサフィア・レーナも、ロワールのあまりの聞き分けのなさに、苛立ちをつのらせ おさな だがしかし、幼いロワールの未来はすべて、精龍王になること、ひとつに向かって進んで いるものだった。勉強も、魔道の修も、何もかもーー・。否定はすなわち、ロワール自身 ささ あや みずか の存在理由を危うくする。自らの支えとするものを、ひとはそう簡単に手放しはしない。 ロワールは泣きそうな顔で、視線を落とす。 姉様は、そんなふうにるひとではなかった。 あの男が現れてから、姉様は変わってしまった。 姉様はあの男に殺される。 ひ