ヴェルトライゼン - みる会図書館


検索対象: 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6
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1. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

すべてはそのために。 ( ばかな : アール・フィージに龍珠を渡してしまう手伝いになるような、そんなことを、守であ りザイフリート公爵嫡子であることをりに思う、賢い少年であるロワールがするなん て。 くちびるか みちび 唇を噛んだメリンダだが、ロワ 1 ルのこの行動の結果導きだされるものは、仲間たちの おもわく きわ 思惑を無視した、極めて自己中心的な目的であると判断するしかない。 箱舟のヴェルトライゼンもまた、同様のことを考え、眉をひそめた。 「これはなんだか : ややこしいことになりそうですね : : : 」 つぶや ふる ひりゅう こうはん 呟かれたことがわからず、震える小さな飛竜を抱きながら、甲板に座りこんだままのチュ またた ニア・リニーはヴェルトライゼンに振り返り、不安そうな顔で目を瞬く。 かいもく 「どうなっておるのじゃ ? わらわには皆目わからぬ : なぜに公子があのような姿に ゃいば 王なって、ディーノ殿に刃を向けねばならぬ e: 姫様が血を流されねばならぬ e: ジューン・ るグレイスやマーカラインたちはどうなった e: 」 うる に、ヴェルトライゼ 麗言葉を重ねるうちに興奮し、しだいに目を潤ませるチュニア・リニー ンは静かに目を閉じた。 「・ : ・ : あせらずとも、時がすべてを解き明かすことでしよう」 まゆ

2. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

フラナガンの衣装を前肢でみながら、小さな飛竜が鼻を鳴らした。フラナガンは、いま ごうきゅう ゆが にも号泣しそうに顔を歪める。 きぜん いっさいの感情を見せず、毅然としたその男の心の放つ、気。仕草に表さないからこそな おも かな お、その想いは深く強く、そして哀しかった。 気を読める魔道士たちに、サフィア・レーナの生命が焜であると聞かされた ヴェルトライゼンは、サフィア・レーナを連れていくディーノを見送りながら、憂える。 われわれ 「我々から、『ディーノ』は去ってしまうのか : つぶや 呟いたヴェルトライゼンの声に、フラナガンは何も言わずに首を振り、再び顔を伏せた。 立っこともできないまま、サフィア・レ 1 ナを連れ去るディーノを許してしまったジュ 1 ン・グレイスは、視界から小さく消えた巨大な飛竜の姿に、あげていた顔をゆっくりと、け る。メリンダは胸の前で右手を握って目を伏せ、ヘイゼル・ヒンドは視線を落として溜め息 をつく。 からだしんりゅう サフィア・レーナの身体が神龍へと変化した場合、いちばん最初に引き裂かれるのは、 ディーノである。そうなることがわかっていて、誰も止められなかった。 老ソール・ドーリーが、荒々しい動作でを返した。ニーナ・クレイエフが、閉ざしてい くちびる た唇を開く。 うれ うむ い

3. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

術師ヴェルトライゼンは、溜め息を漏らすように呟く。今度は完全死について研究する ヴェルトライゼンは、世界が終末に向かうというより、時代がある程度、飛び抜けた優秀さ かとき おんわ を必要としないような、穏和な過渡期を迎えているのかもしれないと思った。 リカルドが龍珠から分離されると同時に、と化していた頭部を、元の形に戻したダイ さいごひとすじ アナは、最期に一筋涙を流した。 それで、終わった。 リカルドのものであった龍珠のかけらを保管するため、サフィア・レーナがしたのと同じ こくじ ように、身体におさめたディーノは、あらためてダイアナの顔を見た。酷似した顔を持っ二 人の人物。ダイアナの、この顔を見たなら、何もかもわかったはずなのに : : : 。最初にアー ル・フィージ、ヴァイ・グーンと名乗った男に逢った時、その間からディーノは、自分 の誣にほんの少し、汚れのように黒魔道が絡んでいたのだとわかった。 覇魔道を使わず、絶対に無茶をしないという条件つきで、オルファンの外出許可が出た。 さぐ だいじよう しんけん な神剣がどちら方向にあるかと、探るだけで、連れられて移動するならば、なんとか大丈 ひりゅう 華夫だろう。フラナガンが自分の飛竜にオルファンを乗せることで、ようやく、ジューン・グ レイスが魔道で蜥印したサフィア・レーナを迎えに行くことが具体化した。同行を希望する 者が多数いたため、首脳陣は会議を開き、小隊を組む者たちを選出した。 じゅっし つぶや

4. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

122 「サフィア・レーナ姫 ! アール・フィージを止めよ ! 」 「彼を王都に向かわせてはなりません ! 」 お 墜ちていく箱舟から、ニーナ・クレイエフとヴェルトライゼンが叫んだ。 不安定に揺れ、斜めに傾いでいた箱舟は、あの恐ろしい爆発よりもわずかに早く行動を起 こしたフラナガンがたどりついてをとり、荒れう大気のなか、なんとかして平衡を取り 戻そうとしていた。 そう、王都。 そうせい 創世の神が、最初に降り立った地。 あそこにあの勢いで一撃を加えられたなら、世界は糸の切れた首飾りのように、ばらばら ほうかい めぐ に崩壊してしまう。世界のすべての生命力は、あそこを中心として巡っているのだ。 そしてアール・フィージを止めるということは からだこうちよく ぎくりと身体を硬直させ、サフィア・レーナは目を見開く。 「お前に殺せるのか ? 」 静かにさえ聞こえる声で、ディーノか問い力した みずか 止めるということは、殺すということだ。自らも死ぬつもりで世界を破壊しようとしてい るアール・フィージを阻止するためには、彼を殺さなければならない。そうしなければ止ま はこぶね なな

5. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

わるぢえ に、メリンダは舌を打つ。どこまで悪知恵が働くものか、知れたものではない。 みに操作され、一度んでしまった思考回路は、多くの場合被認想にとりつかれ、正 常に周りが見えなくなっていて、そう簡単に修正できるものではない。 ふおん そしてさらに不穏なものを想像し、ヴェルトライゼンは目を細める。 「おそらく、この次にくるものは : そうなると、事態は最悪になるか 「ロワール ! あなた何を言っているの e: 驚くサフィア・レーナにかまわず、ディーノを睨みながらロワールは剣を抜き、笑う。 「姉様は殺されますよ。この男は、姉様の幸せを祈って、姉様のために、自分から身を退い てくれるような、そんな男じゃないー 自分に得られぬものならば、誰のものにもさせない。利己的で激しく、そしてそれを実現 させるだけの行動力を持った者。 こわば まちが 言われて、ぎくりとサフィア・レーナは身を強張らせる。ロワールの言葉は、間違っては いない。それはきっと、起こるべきこと : ひげきてき 男として、戦う力を持つ者として、フラナガンはディーノのとるだろうその悲劇的な行い が理解できた。そして、それを阻止しようと考えたロワールの気持ちも。 した にら

6. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

すでに、運命の歯車は噛みあい、まわり始めている。 「なんじゃ、それは」 はぐらかすようなヴェルトライゼンの言葉に、ようやく腰をあげたチュニア・リニーは癇 しやく 癪を起こして乱雑に足を踏み鳴らした。 まどうもち しの魔道を用い、手短に傷の表面をふさいだサフィア・レーナは、ロワールに向き直 そうして、龍のかけらの力を用いて、懐かしい兄・リカルドそ「くりの若者にな「た ままえ ロワールをまぶしそうに見て、艶やかに微笑む。 「ロワ 1 ル、あなたの持っ龍珠のかけらを」 渡してくれるようにと、優しい声で願った。 ある意味、気心の知れた信頼できる自分たちの仲間が龍珠を持っているということは、望 ましくもある。サフィア・レーナは龍珠のかけらを用いたロワールを、責めるつもりはまっ たくなかった。 剣を下げ持ち、既 いたまま動かないロワールに、サフィア・レーナはうなずく。 はず 弾みとはいえ、自分のしでかした行為がどんなに大きな意味を持っていたのかわかれば、 そうめい この聡明な少年のことだから、恥ずかしくてとても顔もあげられないのに違いない。 あで かん

7. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

154 み取られた。 階をおろし、老ソール・ドーリーとニーナ・クレイエフ、そしてヘイゼル・ヒンドとメリ はこ ひりゅうかか ンダが下に降りた。小さな飛竜を抱え、涙ぐんだフラナガンはヴェルトライゼンとともに箱 けがにん ね 舟の番に、マーカラインはダイアナと怪我人たちのために、残った。 ひとみ ままた 一度長い瞬きをし、サフィア・レーナは静かに近づき来る者たちに、瞳を向けた。 「・・ : : すみません : : ・ , 」 かすかな、声。 サフィア・レーナは負けた。 非情になりきれなかったがために、敵を殺しうる最高の機会をしてしまった。 薄く、老ソール・ドーリーは笑った。 「そういうことも、あろうよ」 まぎ ふじようり 正義が必ず勝利するものと、いったい誰が決めたのだろう。不条理もまた、紛れもない現 実。 今、いちばん辛い思いをしているのは、誰あろうサフィア・レーナ本人だ。サフィア・ レーナには、まだこれから神龍に変化し、世界を滅ばすという酷な運命が待っている。 箱舟から降りた者たちには、急いで何か、サフィア・レーナのために手を尽くそうとか、 懾てて駆け寄るという素振りは、なかった。逃れられないものに捕らわれたサフィア・レー つら

8. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

は こうはん すようにして甲板に座りこんだ。ヴェルトライゼンは、ほっと息を吐く。メリンダとフラナ ガンは、それぞれに驚きで目に涙をにじませながら、大きく肩で息をする。 そしてディーノは。悪の惨尉が、危ういところでかろうじて未遂に終わったことを知 またた り、痛みを覚えるほど見開いたままだった目を、ゆっくりと瞬いた。思わずつめてしまった しんぞう 息と同じに、心臓の動きや時間さえ、あの瞬間に止まったような気がしていた。一瞬にし て、全身の血は凍え、冷たい汗がを濡らしていた。 刃かられたサフィア・レーナが、傷口を手でかばいながら、静かにディーノに振り返 る。 もうわけ 「大変な非礼、申し訳ありませんー た 自らの見苦しい姿を恥じ、出血を続ける傷の痛みを耐えてやや青ざめながらも、だからこ さ りん びぼう すず そなお冴えて見える美貌をまっすぐに向け、サフィア・レーナは凜とした涼やかな声で わ ディーノに詫びた。 けが 王「どこか、お怪我はありませんか ? 」 覇まどう る魔道の力によって治療しようというサフィア・レーナに、サフィア・レーナにかばわれた 麗ことにより無傷ですんだディーノは、小さく首を振る。 なお 「・ : : ・自分の傷を治せ : ・ 他者を気にかけるまえに、どうして、その流れ落ちる血を止めないのか。あくまで礼儀を

9. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

130 空も風も、波も、まったく静かだった。さっきまでいたあの場所のほうが、悪夢であった のではと、現実感を欠くような事態である。 「鑑斧の攻撃をサフィア・レーナ様の攻撃魔道とあわせてくださ s_ 本当は死んでもこんなことはロにしたくない、絶対にみたくはないのだと、はっきりわ かる顔で、ジューン・グレイスはディーノに言った。 もち 「アール・フィージはロワール様の魔道力とあわせて、黒魔道を用いるでしよう。それを無 効にしていただきたいのです。お二人のためのは、この神剱をもって、わたしが受け 持ちます , かわおび はこぶね ジュ 1 ン・グレイスの腰に、しつかりと革帯で固定されたオルファンの剣。箱舟に集めら れた魔道力を引き出せるようにと、で繋げられた神剣のの魔道石が、陽の光を反射し て、きらりと光り輝いた。 たて 箱舟は一度、盾となって、ロワール公子の攻撃魔道を弾いている。チュニア・リニーが火 炎の攻撃にやられたのは、箱舟の防御能力を、より有効に使いこなす術を知らなかったから だ。箱舟にとって、常に完全防御すべきものとなっていた船体、固定され、その一部と同化 もうかおそ していたヴェルトライゼンは、あの猛火に襲われても無傷だった。その防御力を、意思を もって、魔道騎士たるジューン・グレイスが使うとなると、それは十分信頼に足りる。 静飃を持っのサフィア・レーナと、銀斧の戦士であるディーノが、防御に気を醢 えん はじ

10. 華麗なる覇王 プラパ・ゼータ外伝 精龍王 6

炎に包まれ、衣装も長い髪も、一にして炎の塊に変えたチ = = ア・リ = ーが、凄まじ い悲鳴をあげながら、炉の中に投げこまれた虫のように激しく暴れい、甲楓に転がり落ち た。予言者は欲をかかず、己の幸福を切り捨てることによって、他者の未来を見とおすもの なのだ。優秀な予言者であればあるほど、自分のことについては見えない。 「チュニア " " 」 はこぶね 固定され、箱舟の一部のようになっていたヴェルトライゼンは、熱を感じながらも箱舟そ はじ のものと同じように、見えない薄い膜のようなもので炎を弾き、焦がされることはなかっ た。しかし身動きできぬ彼は、激しくのたうちまわるチュニア・リニーを、ただ見つめるこ としかできない。火山地帯に生息する種である小さな飛竜も、全身を包んだい鱗のおかげ でなんとか無事でいられるのだが、とても目やロをあけていられるような状況ではない。焼 びこう まえあし かれぬように強く目と鼻孔を閉じ、前肢で耳をふさぐのだけで必死だ。 ふなべり 狂おしく甲板を転がりまわったチュニア・リニーが、階のため低くなっていた船縁の部分 を越えて海に落下した。長く耳に残るだろう、身もる少女の絶叫は、勢いよく高くしぶ みずばしら きをあげた水柱とともに消えた。 そうだしゃ ゆる 操舵者をなくし、上空を渡る風に緩く揺れる箱舟は、甲板を舐めた炎を、その不思議のカ で間もなくかき消した。 さけ あくむ ロワールが恐ろしい声で叫んでから、ものの二秒とたっていない、悪夢のような出来事 おのれ