ゼルアドス - みる会図書館


検索対象: 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3
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1. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

第十一章同士 「八度はあるだろう。いっからだ ? 仏嵶で問うジイを眺め、ゼルアドスは相手が悪いと判断した。 「 : : : あがってきたのは、お前の荷物を調べさせてもらったときだ」 「厄飛だな、お前たちの肌の色は : へきえき ジェイは辟易するように舌打ちする。ゼルアドスは発熱していた。ルミのように色白な けんちょ よ あ らば、顔色の変化はもっと顕著に表れて、体調の善し悪しを知るのは容易だが、ゼルアド スたちのように浅黒い肌では、個々の日常を見慣れていないと見落としてしまう。 多少具合が悪くてもゼルアドスがそれを言わないのは、仲間たちを不安にさせないため 鷹 白だ。だからジェイは理由を言わず、一人でゼルアドスのところに来た。 海 「無茶苦茶だな」 蒼 頼んだわけでもないのに、強引に往診に押しかけたジェイに苦笑し、ゼルアドスは肩を ボタン おおかわよろー 覆う革のの留め具を外し、シャツの釦に手をかける。

2. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

「お前もここですませていけよ」 ちゅうぼう 厨房ではやたらと話しかけられるし、何をするのかと注目されるので、出入りするの を最小限にしたくて、ジェイは自分の夕飯も包んで、厨房を出てきた。ゼルアドスに食事 を供したら、診察室に行って食事をするつもりだった。断る理由もないので、ゼルアドス の皿を整えたジイは、仏のまま席に着く。料理はするが、ジ = イの食事はいつも したく どうしゅ のように干し肉と葡萄酒だけだ。普通ならば違うものを支度してきたジェイに疑問が持た れるものだが、ゼルアドスはそのことには触れなかった。 王都とか聖地って、どんなところだ ? 」 「女王領の食堂ねえ : たか 白い鷹のために小皿に魚の肉を取り分けてやりながら、ジェイは目をあげてゼルアドス いたらこぞう を見る。ゼルアドスは悪戯小僧の顔で笑う。 「話せよ」 秘密にするようなことでもない。診察のためにこの部屋に来たとき、ゼルアドスに昔話 鷹 めんどう うなず 舶を聞いていたジェイは、面倒だが自分のことも話さなければならないだろうと、頷いた。 海 蒼 ゼルアドスが食事をとった料理の皿は、部屋の外に出しておいたところ、就寝のために ジェイが退出する頃にはなくなっていた。誰かが下げにきたらしい。夜遅くまでゼルアド

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268 したジェイには、笑えない。ゼルアドスの体調不良の原因はこれだ てきしゆっ 「すぐに摘出手術だ ! 絶対に海軍に拿捕されない海域に船を向けて停泊しろー かいぞく 「賊に味方する気か ? 」 ふきげん 嘲るゼルアドスに、ジェイは不機嫌な顔をする。 じゃま 「手術の邪魔はされたくないー まーびらごめん 医療行為の最中に海戦は、真っ平御免だ。きつばり言い切るジェイを見上げ、ゼルアド ほまえ スは静かに微笑んだ。 「これはここにあっていい」 「よくない ! 」 からだ 実際にその異物は、ゼルアドスの身体にとって負担になっている。 「俺の身体だ。俺がいいと言っているのだから、 ししかまうな」 ほのお こはくいろひとみ 奥底に黄色い炎を宿した琥珀色の瞳で、ゼルアドスはまっすぐにジェイを見つめる。ど しよくしん うあっても従う気はないと見て取り、ジェイは小さく溜め息をついた。触診は終わりと、 ながいす かご ゼルアドスは起き上がる。長椅子の近くにあった卓に、果物の入った小さな籠があるのを みばしよう 見たジェイは、そこから実芭蕉を一本取ってきて、ゼルアドスに渡す。 「解熱効果がある」 薬物を用いるばかりが治療ではない。ゼルアドスは実芭蕉を受け取り、肘掛けのほうに だほ ひじか

4. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

かいじゅう て′」ま 部た。ゼルアドスの油断を誘い、懐柔させる手駒としての必要性がなくなったので、毒殺 されたのに違いないと、ゼルアドスは思う。叔父は一年と経たないうちに新しい妻をもら い、ゼルアドス : : : 家出をした次期領主の少年は、療養先で治療の甲斐なく死んだことに されて、帰る場所を完全に失った。 人魚の真珠を入れた左上腹部を、ゼルアドスはそっと手で押さえる。 「海の宝は海にあって悪くない。だが、これは神から人間が預かったものだ。海に戻すこ からだ とは、結局、持て余して捨てることと同じだ。俺の身体のなかにある限り、誰の目にも触 れない。海を守りたいと思ったように、俺はこれを守りたい。だから、手術を受けるわけ 。。し力ない」 よくわかったとジェイは頷き、ゼルアドスを見る。 「話してよかったのか ? 」 すじよう 海賊はその素性がわからないよう、名前を変え、出身地も年齢も伏せるのが普通だ。ゼ さぐ ルアドスにあれだけ教えてもらえば、少し探ったなら、彼がどこの誰なのかはすぐにわ かってしまうことだろ一つ。 ジェイにむ配され、ゼルアドスはくすくすと笑う。 「安心しろ、殺すために話したんじゃない。お前にその傷を見せられてはな : かいぞく うなず それ

5. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

剣で賊を斬り捨てたゼルアドスは、はっと顔をあげ、頭上に近い場所を飛んでいた白い くちばし 鷹を見た。白い鷹は、嘴でくわえていた銀色のプレートのついた首飾りらしきものを、ゼ ルアドスに放る。 「連中のつけてる銀のプレ 1 トを奪え ! つけてる奴のは斬り飛ばせ ! 」 白い鷹からもらった銀のプレートを首にかけたゼルアドスは、襲いかかる賊の胸にある どな それを狙って斬り飛ばしながら、皆に怒鳴る。カリオスト海賊団のその銀のプレートは、 つけている者とつけていない者がいる。 ゼルアドスに銀のプレートを吊るした紐を斬り飛ばされた賊を、プレ 1 トをつけていな い賊が斬り捨てた。 まゆひそ 不自然な光景を目の当たりにして、ジェイは眉を顰める。敵と戦いながら、ゼルアドス は仲間に一一 = ロう。 じゅじゅっ かいらい 「こいつらは生きていないー 呪術で動かされている傀儡だ ! 」 鷹 白プレートがある者は、仲間。そうでない者は敵。ゼルアドスに教えられ、チコたちは賊 蒼から銀のプレートを奪い取る。どこからか拾ってきたプレートを白い鷹に投げ渡され、そ にぎ れを握ったジェイは考える。 ( 呪術の傀儡 : : : ) たか ねら ひも

6. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

ア」く ごうもん しし こうそく さるぐっわ い。動けないよう四肢は拘束され、猿轡までさせられて。手術もそうだが、拷問にも酷 似したこんな扱いを受けるのは、生まれて初めてだ。もうどうにでもしてという気分で横 を向いて目を閉じ、はらはらと泣いていたリンゼは、腹部を刃物で切り開かれ、激痛で かっと目を見開いた。局所麻酔はまだ十分に効いていなかったが、そんなことなどおかま いなしに手術は始められた。 船で手術を受ける者の例に漏れず、リンゼも幸いなことにすぐに気絶した。 てぎわ かいぞくだん しろたか 白鷹のゼルアドス海賊団による襲撃は、実に手際よく短時間で終了した。目的の金の延 まう べ棒五箱と宝石の原石三箱、そして六樽分のオリ 1 プの強奪に成功した海賊船は、さっさ てったい と撤退しスクルードの船から離れた。根こそぎ奪うのではなく、必要なだけ奪うのが、ゼ ルアドスのやり方だ。 よろゝ かっこう 部屋に戻ってマントと織を外して身軽な格好になろうと、船倉の貨物室を出て上がって しまたた きたゼルアドスは、昇降階段の途中でたむろして座っている連中を見つけ、目を瞬く。 「何やってんだ ? お前ら、 ゼルアドスに声をかけられ、何をするでもなくそこにいた男たちは振り返る。一一十二歳 ひき という青年の率いている海賊たちは、十九歳から二十五歳までの若者ばかりだ。 たる

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298 ぶどうしゆく スと葡萄酒を酌み交わしたジェイは、診察室に戻り、リンゼのいる病室のハンモックをひ とっ借りて休んだ。寝起きの悪いジェイのことは、リンゼがピーチに話していた。手間を めんどう かけさせられるのは面倒で嫌だったが、動けるようになればそれはリンゼの仕事なのだか したく らと割り切って、ピーチはジェイのためにジュースを支度し、肉桂の香りのする目覚めの ちゅう 煙草に火をつけてから、そっとジェイを起こした。朝の苦手なジェイは、朝食を作りに厨 房に立っことはもちろんない。昼前になって、ようやく本調子で活動開始だ。先にゼルア ドスの部屋を訪問して診察したジェイは、ゼルアドスの調子にあわせて食事を作るため、 厨房に入る。リンゼも消化のよいものであれば普通に食事できるので、ジェイはゼルアド スとリンゼのことを考えて料理を始めた。今日は最初から全員分を作るので、ゼルアドス か別の献立にならなかったため、毒味と称して摘まみ食いされることは免れた。 リンゼの病室には、見舞いが来ていた。セトとルーオと名乗った二人の青年に、リンゼ きようしゆく えしやく はハンモックに横になったまま、恐縮して会釈する。 じゃま 「どうもすみません、きゅうにお邪魔しまして : 昨日手術して縫合したばかりだ。腹に力をいれると痛むので、起き上がれないリンゼは かっ ) 」、つ ねぐせあたま 失礼な格好で応対することを詫びる。会釈して寝癖頭をふわふわと揺らしているリンゼ ひとみじゅんぼく の茶色の瞳は、純朴な輝きをたたえていて、いかにも善人という感じだった。 につけい まぬか

8. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

328 海図を見せて確認したが、それはスクル 1 ドのものではなかった。だとすれば、これは ゼルアドスかカリオストの落とし物ということになる。 うわさ 「これは噂ですが : カリオストはゼルアドスの船を欲しがっていると聞いたことがあ ります」 「船 ? 」 しばたた うなず きよとんと目を瞬くルミに、フィッツへルド船長は頷く。 「ゼルアドスの船は、帆を上げることがなくても、波を切って航行することのできる変 だほ わった船なのです。そのため、王立海軍も拿捕することができず、手を焼いています。今 しろたか 回、スクルード様は白鷹のゼルアドスとカリオスト・ ノ ーンに襲われて、お気の毒なこと ぐうぜん ヾ、 になりましたが、これは偶然ではありません。カリオスト・ ノーンは、襲った船からすべ かいぞく てを奪わないゼルアドスのやり方に目をつけ、後を追って海賊行為を働いているのです。 そして : : : 」 ちらりと視線を送って気にされたロラントスは、フィッツへルド船長に頷き、後の言葉 を引き継ぐ。 「白鷹のゼルアドスに関して、ある貴族がカリオストに清報を流しているという話があり ねら かいめつ てごま ます。共倒れを狙うというよりも、ゼルアドス海賊団を壊滅させる手駒として、カリオス じゅじゅっし ト海賊団を利用しようとしているのです。呪術師を使い、ゼルアドスがいつどこにいる 0

9. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

とびらたた ながいす 扉が叩かれた音を聞き、長椅子で横になっていたゼルアドスは、目を開ける。少しうと たか うとしていたようだ。ゼルアドスの部屋にいた白い鷹は、扉に首を向ける。 「誰だ ? 返事をするのが少し遅かったらしく、訪問者は扉を開けて部屋に入ってきていた。起き 上がったゼルアドスは、長椅子に近寄る男を見、むっと険しい顔になる。 「途中に誰かいたはずだが」 「退いてもらった」 聞こえのいい言葉でジェイは言ったが、ゼルアドスが許可をしていないのに、ジェイを 一人でゼルアドスの部屋に入れるわけがない。実力行使でやってきたのに違いなかった。 つばさ するど 訪問者に対するゼルアドスの反応を見、翼を上げた白い鷹は、鋭い羽音を響かせて止まり 木から飛び立つ。 鷹 かわ 白ジェイはゼルアドスを見つめ、恐ろしい勢いで襲いかかる白い鷹に向かって、黒い革の ふしんしゃ くちばしつめ 海 手袋に包まれた左手を挙げる。ゼルアドスに近づく不審者の目玉と肉を抉るため、嘴と爪 蒼 で攻撃しようとしていた白い鷹は、ジェイが挙げた左手に、はっとした様子で翼を返し まゆひそ た。ジェイを避け、襲わなかった白い鷹に、ゼルアドスはむっと眉を顰める。 えぐ

10. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

「それでか : : : 」 かいぞくだん ゼルアドスの海賊団が人殺しを行わなかった理由がわかり、ジェイは小さく頷く。 一人で家を 「船に乗っている連中は、小さい頃から俺のことを知っている奴らばかりだ。 出た俺を助けるために、仲間になってくれた。海には私利私欲のために船を襲う海賊がい るが、うちの連中はそればかりじゃない まぎ 略奪行為について、ゼルアドスは弁明するつもりはない。紛れもない事実だ。しかしそ うして奪う多くは、自分たちのためではない。寄せというものは、いつでも弱い者にば ・カ。りイし / 、 海賊としてゼルアドスが実力行使して禁止するために、漁に出ることができ ず、苦しい生活を送らなければならなくなってしまった者たちを支えてやるために、ゼル ぜいたく アドスはその日の暮らしに困らない豊かな者から、贅沢な分だけをいただいているのだ。 やみ ゼルアドスは奪ったものを闇の市場で売買し、誰にも役立てやすいよう換金して、貧しい 者たちにこっそり分配している。 おど ゼルアドスが海賊になって脅しをきかせ、一定期間特定の海域に人間を近づけなくし 鷹 まぬか 白 て、海洋資源は乱獲を免れて守られた。海にとっては救いであっても、人間にとっては悪 の であるので、ゼルアドスは高額の賞金首なのだ。王立海軍に取り入って、多額の寄付を し、賞金を上乗せして増額させているのは、ゼルアドスの叔父である。ゼルアドスと血の 繋がっていた優しい叔母は、ゼルアドスが家を出て間もなく、病気で死んだと公表され つな うなず