びぼう あお なルミは、あえかな美貌もあいまって、見るからにか弱そうである。碧の三角にいる者 あらしほんろう つら は、皆、海をよく知っている。嵐に翻弄される船で、ルミがどれだけ辛い思いをして航海 くもん をし、碧の三角に到着したのかを想像し、ツェペシは苦悶の表情を浮かべる。 あいさつうかカ 「お呼びいただけましたなら、わたくしどものほうからご挨拶に伺いますものを : ・ まれ 高位の貴族は一般の者には姿を見せることなど稀で、自分からわざわざ、店に足を運ん でくるなどということは、ほとんどない。宝飾品を求められたのならば、店はその希望に そろ さん 見合う商品を揃えて、貴族のもとに馳せ参じるのが普通なのだ。貴族家の者が直接に関わ るときは、宝飾品を仕入れるときも同様で、指定された場所へ商人のほうから商品を受け 「ありがとう。しかしそれでは、わたしどもの宝石がどのようにして人の手に渡っていく : ああ、 ものなのか、見ることはできません。迷惑を承知で押しかけてしまいました。 裏から入るべきでしたね。すみません」 まっげ 客ではなく、関係者であったのだから。思慮が浅かったと、長い睫毛を動かしてそっと 視線を落とし、頭を下げるルミに、ツェペシはおろおろする。 めのう ばっ 「美を愛でる神、瑪瑙のターレスの罰を受けてしまいます : ・ どうぞお顔をお上げに なってくださいませ : 一生のうち、もう二度と足を運ぶことなどないかもしれない貴人に、裏から入れなどと 力。カ
104 第五章人気 朝のジェイは、目を開けてから三時間ぐらいは、ばーっとしている。普段に輪をかけて ぶあいそう 無愛想で、何もしない。しかも、頭のなかが半分寝ている状態のときに機嫌を損ねると、 はもの ところかまわず左手の刃物を振り回すので、とても危険だ。ジェイを起こすのには手順が あって、部屋に光を入れ、肉桂の香りのする目覚め用の煙草に火をつけ、匂いを嗅がせて ぶっそう から声をかける。不用意に揺り起こすと、、機嫌極まりないジェイに切り刻まれる。物騒 だが寝惚けているので、よほど運動神経が、くないと怪我をすることはないが、知らない きも で近づくと、朝つばらから肝を冷やすことになるだろう。 じじよ ジェイが朝食の段取りをつけてきてくれたので、朝はゆっくりできる。侍女がワゴンで 運んできてくれた朝食をリンゼが受け取り、中に運んで、気兼ねなしのいつもどおりの朝 こぼ 「ああ、あまりたくさん入れないように。零れるから」 ひか ルミに注意され、リンゼは杯に注いでいた水の量を控える。 につけい きげんそこ にお
こ・は ひりゅう すばらしく躾がいし 。クロスにアプリコットの汁一滴零さない小さな飛竜を見つめ、ロ ラントスは感心する。 飛竜を所有していることは、騎士としての格のひとっとして考えられている。ロラント スも飛竜を手に入れたくて、三年まえからこれまで何度か飛竜の里に足を運んでいるが、 自分としつくりくる飛竜になかなか出会えず、いまだに飛竜を手に入れてはいない。成獣 であっても、捕らえることが困難な飛竜だ。飛竜の里の者であっても、こんな赤ん坊の飛 竜を連れている者などいない。群れの仲間がいるはずなのに、どうしてここにいるもの か、まったく見当もっかない。 「馴れているのではありませんよ。この子はわたしの大切な友だちです。いつもはもっと ゃんちやで暴れん坊なのですけれどね、素敵なお茶にお招きいただいた今日は、わたしの 顔を立ててくれるようです」 いったいこの世の誰が、聖獣である飛竜を飼うことなどできるだろう。うっとりとする ような笑顔でやんわりとルミに言われ、ロラントスは赤くなる。 白「あ、はい、そうですね : 海浅はかな一一一一口葉を口にして、印象を悪くしただろうかと、ロラントスはルミの顔色を窺っ ほほえ こゞ、ルミは気分を害した様子もなく、につこりとロラントスに微笑みかける。 「ロラン殿は、どうしてバルクスへ ? しつけ うかが
うに、うっとりするようないい匂いもしない。例えるならばそれは、駄菓子と高級果実の ) ヾ ? 」 0 違し 「畜生、飲むぞっー 「おうつー 「僕も飲みますっー 「よおし飲めつー 一番若いスワンは、あまり酒が好きではなくて、普段からほとんど酒を口にしないが、 なんだか今日は飲まずにいられない気分だ。まだ真っ昼間で、存分に日は高かったが、船 やけざけ ビールとうきはい あお を降りた船員たちは、自棄酒のように麦酒の陶器杯を呷った。 「ジェイ先生って、料理が巧いんだ ? 「巧いなんてもんじゃねえよ : ありや芸術だ ! 芸術 ! どんどん飲んでくれと陶器杯に注ぎ入れられたウイスキ 1 を、ア 1 ウインは一気に流し こむ。声をかけてきたのは、まったく知らない男だったが、この男もどこかの船の船員 だ。船に乗っている者同士、雰囲気でわかる。悪い奴じゃない。 ひま 「へ 1 え、で、ジェイ先生は暇なときには何やってるんだい ? 「ああ ? たいてい、新聞読んでるよなあ ? 煙草吸いながら : : : ! 」 にお
133 蒼海の白鷹 りと横になっていたリンゼは、熱を測るジェイに軽く耳の下から顎のあたりの頬に触れら あお れて、蒼い顔でうっすら目をあける。 「 : : : 気持ち悪いです : ・ 熱はない。燃やすものがないから、体温が下がっているぐらいだ。 「胃に何も入れない状態だと、吐き気もおさまらない , 食べたくないのはわかるが、そのままではよくない。 「リンゼ、スープだけでも、飲んでみよう。ね ? 美味しいから」 入ってきたルミは、子供をあやすように優しく声をかけながら、寝台で横になっている リンゼの頭を撫でる。ジェイの料理が美味しいのは、リンゼにもよくわかっている。わ おうとかん かっているけれど、目の前がぐるぐるで嘔吐感がやまないのでは、食欲も減退する。 「食べたいものはあるか ? かんまんまばた 少しでも元気を出させるには、それが一番だ。ジェイに尋ねられ、リンゼは緩慢な瞬き をしながら考える。 したく くだものかご 居間に支度しておいてくれる果物籠のなかに、ときどき四、五個入っている。言われて 思い出すと、キーウイフルーツは必ずリンゼが全部食べていた。 消え入りそうな声で言ったリンゼを、ジェイは仏厠配で見つめる。 ほお
と思っていたスクルードは、少しがっかりする。 「申し訳ありません : 「ああ、お前が悪いわけではないよ。責めるつもりはなかったのだ」 軽率なことを口にしてしまったスクル 1 ドは、気にしないようにと笑った。 「先にいらした方がいたのだからね」 爽やかに言ったスクルードの言葉に、後から来たロラントスに横槍を入れられて、 ししやくけ 部屋をとられた従者は、ずきりと胸が痛んだ。しかし子爵家の次期子爵と主人とのあいだ かしこ つぐ にいさかいの種を播くわプこま ) ゝ 。冫冫し力ないので、賢い従者はそのことに関して口を噤ん 「ほかにどなたがいらしているか ? 」 「ナコリー伯爵家のフェイズ様と、ベルタ 1 ク子爵家のアリオス様をお見かけいたしまし はたち 二人とも二十歳を少し過ぎた年齢の、沿岸地域に領地がある、スクル 1 ドと同年代の青 年貴族だ。三人でゲ 1 ムをすることもある。 「昼食の都合を尋ねておいてくれないか」 十一時のお茶の時間に誘うには急だが、昼食ならまだ余裕がある。顔見知りと話をしな 葺がらのほうが、食事は楽しい さわ よこやり
169 蒼海の白鷹 ほまえ いた青年が、それを買ってしまっただろう。紳士はどうしようかなと微笑みながら、ルミ に金細工のペンも買っていいかと尋ねた。ルミが欲しいと言ったので、それはその商品価 さつかく 値以上の、世界に二つとない、とても素敵なものに感じられたのだ。まったくの錯覚なの びれい だが、それを所有すると、ルミのように美麗になれるような気がする。売り物なので、も かいだく ちろんルミは微笑んで快諾する。予定よりも高い買い物になったが、本当にいゝ しものを手 に入れたという充実感で、紳士はとても満足した様子をみせた。 「ーー恐れ入りますが、わたしにも、指輪を見立てていただけますでしようか ? 近々、 だんしやくけ むか 男爵家の姫を婚約者として迎えるのです」 かつぶく すす 恰幅のいい紳士に首飾りを勧めていたルミの様子を、うっとりと見つめていた青年は、 近づいて軍人の礼をしてルミに言った。王立海軍の船も停泊していた。青年は王立海軍の 将校なのだろう。面識のない侯爵家の子息に対して、本来ならこのようなことを頼めるも のではないのだが、ここは宝飾品店で、ルミはそれを製造している家の者だ。フォルティ ネン家の子息に直接見立ててもらったものならば、箔がつく。 「石は何をお望みですか ? 冾幅のいい紳士に一礼し、ルミはにつこりと青年将校に微笑みかける。もちろん、お得 意様を逃がすはずはない。
「いや、朝、姿を見なかったから、どうしてるのかなあと思ってさ」 船酔いでもしたのだろうかと、心配してみせるようにアーウインは一一 = ロう。 昨夜美味しいシチューにありついた船員たちは、朝食もひょっとしてと、ジェイが調理 のぞ ちゅうぼう していることを大いに期待していたのだ。先を争うように覗きにいって、厨房にジェイ の姿がなく、がっかりである。あれだけ美味しいものを食べさせておいて、一度きりとい ごうもん うのも、拷問に等しい嫌がらせだ。ちょっと深読みをすると、ジェイはかなりの意地悪と いうことになるだろう。昨夜のシチューを嬉々としてお替わりをしにいった時点で、ア 1 ウインたちはジェイに完敗している。長い航海中、美味しいものが食べられるなら、何回 えら 降参してもかまわない。気取ってて偉そうで乱暴で、気に食わなくても、そんな些細なこ しと とは大目に見る。医師としてきちんと資格をとったミゼルの使徒だし、全員一致で、文句 なしに『先生』である。ジェイがどんな性格で、何を考えているのかは、美味しいものを さぐ 食べさせてもらいたい船員たちとしては、大いに気になる。探りを入れたくもなるだろ 鷹 白 「ジェイは、朝ってあんまり得意じゃないんですよ。ジェイの作ってくれるご飯は美味し の 蒼いから、三食食べられたらいいなっていつも思うんですけど」 「へーえ、そうなんだ : ・ そういう生活習慣なのかと、アーウインは納得する。朝が苦手では、仕方ない。
さっきの連中がどんな誤解をして、てて立ち去ったのかは、容易に想像がつく。溜め息 くぎさ をついたゼルアドスは、念のためジェイに釘を刺しておく。 さぐ うかっ 「俺に関して、誰に探りを入れられても、迂闊な返事はするな。つまらんことを喋ると、 お前を連れごと海に捨てる。わかったな」 「ああ」 かっこう 医者には守秘義務がある。当然のことだとジェイは頷き、いつまでもこんな格好をして ボタン いることもないなと、シャツを着る。シャツの釦を留め、織の留め具に手をかけたゼルア ドスは、静かに口を開く。 「俺は『入れ物』だ」 そで けげん シャツに袖を通したジェイは、怪訝な顔をしてゼルアドスを見る。 「『人魚の真珠』を知っているか ? 」 すいしようりゅう 問われてジェイは頷く。水晶竜と同じように、人魚についても聖書に話が載ってい 鷹 かしこ 白 る。人魚は海の精霊で、人魚の真珠は、銅の時代に海の神ゼルギアヌスが心優しく賢い漁 の 海師に贈った、海の聖なる宝である。清い心の持ち主がこれを所有すると、海は豊かな恵み を与えてくれるらしい つめまっ しん 「お前の町で水晶竜の爪を奉っていたように、俺の家では、海の守護神ゼルギアヌスを信 うなず よろ、 しゃべ の い
335 蒼海の白鷹 快の オしし ) でのれ ト 、周た晴ゼたか 畜的はカ いき海 ル 棒 倒り コ生はゼリ っ 進に カ ) っ いあアやろ 年たん何 し 冫ま ルオ の ド ー殺ア う大 ま り ス 太しゝ 0 や てカ 、ス ト 上 行ら も リ に と し ド に 倒オも何海打しな の 船何くく騒豸 でス 横が賊てたた鉄 ス の船 あ にが鯨じ々 し とらし ト倒ど団れあ球 る船団 乗 て っ 海いい も の し っ と てるをく ? 豚 : も 、吹者鎖 て 、四にな 欲 取 敵隻苫なっ 数 つはで い をの てに飛唸要繋 て囲 り る 見を のの い 頼び 数船 が て咸 そ り いま し ) ノ【ン、 う 、をオ だ 眉じ は るむ るれ 減 。なのカ巻あ棒 のた を 勢かリ き げを らそ でゼ ん 顰毟診 いはオ添て振 な な め察 え襲る 船ア も る室 いかでわ ス ト を ド か へ し ) の 脱激ら海連かて 窓 ス を の 出しな賊れか 攻 の 目 を い団てる近 撃 船 す く 開 に る 揺がで船要鉄 つ、 す はで け 、は縁球く 、は よれ る た う動海 、を に者 砲弩 船 の いは七越打を を白 医 に は 、て 琉 んた薙 イ吏ー 丘 ま の いれ近てれき い海 な ち る た て と ヤ ら い 人に う ま く な く の にはて数落た っ 初 リ 乗 、の下あ剣 る て め イ ゼ船違するを り 不呈しゝ て は 移 いる者振 だ ル は 。は アノ 恐か 船 り つ の ろあ少振上 て ド の げ っ数り 真 く ス し - のリ た精回て く るの の船揺 。鋭さ襲 を