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検索対象: 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3
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1. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

「 : : : 僕だってこういうので初めて女の人に見せることになるなんて、思ってもいません でしたよ : しかも・ = = までされた。 うな なが ふきげん 耳まで赤くなって、不機嫌な顔で拗ねるリンゼを眺め、ピーチはふうんと唸る。 明日には起きられるようになると思うけ 「新品だったんなら、大目に見てあげるわ。 こ、フ はっこう ちょう ど、今日一日は安静にして。腸が正常に動けば、腸の内容物が発酵してできたガスが、肛 門から出るようになるの。だいたい術後一一、三日ね。これが出れば、もう大丈夫。安心し ていいわ。あとは、六日目ぐらいに抜糸して終わりよ。水飲む ? あと、ジェイがスープ を作ってくれたみたいよ」 「・ : ・ : ありがとう。でも、どっちももうしばらくしてからでいし となり 「そう。ここは病室で隣は診察室。何か用があったら呼んで」 じゃあねと手を振って、ピーチは部屋を出ていった。 手術といっても、そんなにたいしたものではなかったとわかって、リンゼはほっとす 鷹 白 る。一人で落ち着いてから、ついさっき聞いたピーチの一一 = ロ葉を思い出したリンゼは、おや の . し・たた 海と目を瞬く。 ( 初めて見た、ってことは : : : ) 大小の比較などできるわけがないとわかり、リンゼは少し気を楽にする。男ばかりの船 もん

2. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

300 なか 笑うとお腹が痛いリンゼは、笑わないよう、必死で堪えようとするのだが、二人はそれ を面白がってリンゼを笑わせようとする。船の生活で退屈していたのは、リンゼではな く、この二人のほうである。笑いながら涙を浮かべて痛がるリンゼにつきまとい、調子に げんこっ 乗って諧謔けていた一一人の頭上に、背後から拳骨が振り降ろされた。 「患者で遊ぶな」 強烈な一撃を頂いて、セトとルーオは頭を抱えてその場にしやがみこむ。 不届きな見舞い客を成敗し、ジェイはリンゼに近づく 「どうだ ? : はい、なんとか : : : 」 うなず にじ 助けてもらったリンゼは、目に滲んだ涙を指で拭い肩で息をしながら頷く。顔色も悪く ないし、心配はなさそうだ。そろそろ昼食の時間かと思ったか、ジェイは何も持ってきて いない。なんだろうと、不思議そうな顔をするリンゼに、ジェイは言った。 「ショコラは ? 食べたいと言ったことなどすっかり忘れていたリンゼは、ちゃんと覚えて買っていてく うれ れたジェイに、ものすごく嬉しそうに笑った。 「はい・ カカ ぬぐ こら

3. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

112 きげん 「寝起きなんて、もうすつごく機嫌悪いから、怖いですよ。初めて会う人は、みんな緊張 しちゃうんですけど、ジェイって普段からああいう顔で、あんな感じなんです」 シェイと 仏厠で無愛想。くわえ煙草でにこりともせず、必要なことしか言わない。、 初対面の者は必ず、ジェイが怒っているのかと思う。 いっしょのときにはと言いかけて、リンゼははっとして口をむ。 ( 昨日もしも、あのとき : : : ) ほげた 帆桁の上にいたアーウインにからかわれたときに、ルミがそばにいたならばきっとあん なふうに険悪な雰囲気にはならなかった。言い返したことで帆桁に登ることになったのは じ′」うじとく リンゼの自業自得だが、これまでに訪れた場所でジェイが乱闘騒ぎを起こしたことはな はため かった。傍目にはどう見えようと、ジェイはあの生格で、いつでも普通にしているだけ 「どうした ? 」 「あ、いえ、なんでもありません」 あわ 押し黙ってしまったリンゼは、慌ててアーウインに返事をする。 ちゅうぼう 「じゃあ僕、厨房のほうに行きます」 したく そろそろ昼食の支度をする時間になる。お辞儀してばたばたと走っていくリンゼを見 こわ

4. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

はジェイとリンゼを、強引にこの船に乗せて、連れていくつもりなのか。窓のない部屋に 入れられ、揺れるのが当たり前だと思わされて、出航していたことに気づかなかったの うかっ は、まったく迂闊だった。 ( リンゼーーー ) ジェイにはこの場に呼ばれなかったリンゼのことが引っかかる。帽子を見せられて、こ の船に来ているものと思って、足を運んだわけだが、果たして本当にいるのか。スクルー ドがどこまで本気なのかもわからない。 こうしやくけ 「 : : : フォルティネン侯爵家のルミナティス氏については、貴族であることを十分にわ ししよう かっていて、同行している。ミゼルの使徒としての活動に支障を来さないかぎり、意見す るつもりも、行動を規制するつもりもない。ミゼルの使徒は、ミゼルの神より不可視の翼 を与えられている。船など、どれでも同じことだ。だが、乗り換えるのならば、荷物も 取ってこなければならないし、もう一人の仲間にもそのことを告げなければならない」 かま ほまえ 申し出を受ける素振りを見せて鎌をかけたジェイに、スクルードは微笑んだ。 「ああ、君の言うことはもっともだ。だが、荷物については心配はいらないよ。出過ぎた まね 真似かと思ったが、君たちの荷物は教会の牧師館から、この船に運ばせていただいた← スクル 1 ドに合図され、別室に隠していたジェイのショルダーポストンとリンゼの鞄と うやうや 帽子、ルミの薬品鞄を、ワゴンにのせて従者が恭しく運んできた。 か , ん つばさ

5. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

227 蒼海の白鷹 て、調子が悪いようだとは思っていたが、こんなふうに容体が急変するとは予想もしてい なかった。 ぐらぐらと揺れた船を、また横殴りの強い衝撃が襲う。 「静かにさせろ ! 」 どな これでは診察できないとジェイは怒鳴る。入り口の縁に掴まりながら、従者は頷く。 「は、はい・ ど」しよう がんがん揺れる船に、何がどうなっているのかわけがわからない。座礁するような海域 くじら そうぐう ではない。回遊している鯨の群れにでも遭遇したのか 「調べてまいります・ : 彼にとっての最大の関心事は、ジェイやリンゼではなく、主人のスクルードだった。主 人のもとに急ぐため、従者は危なっかしい足取りで急いで部屋を出ていった。 にわか 多くの者がばたばたと移動し、船は俄に騒々しくなる。 「お腹・ : かたひざ 真横に来て片膝をついたジェイに背中を支えられながら、顔を顰めてリンゼは声をしば り出す。 「腹 ? 」 「お腹が痛いです : : : ! 」 なか よこなぐ しか うなず

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138 ひど これだけ酷い乗り物酔いを、リンゼは経験したことがなかった。腹の痛みは、激しくて きゅうくっ 我慢できないような痛みではない。寝返りを打つのも窮屈な狭い寝台で、寝てばかりい たし、気分がもっとよくなれば、これもきっとおさまるはずだ。薬だ診察だと、大騒ぎす るほどのものでもないだろう。 のぞ 部屋を覗きにきたルミは、起き上がっているリンゼの姿を見て、微笑む。 「おはよう、リンゼ。具合はどうだい ? 」 「おはようございます」 寝台から下りて、リンゼは微笑む。 「もうほとんどいいみたいです。本当にどうもすみませんでした」 おけ 寝こんでしまったばかりか、汚してしまった桶やハンカチーフの始末を任せてしまった ことに、リンゼは恐縮して頭を下げる。 あらし 「具合の悪いときはお互いさまだからね。あの嵐ではロラン殿も調子を崩されたし、船員 のなかにも、具合を悪くした人がいた。船の旅は初めてだったのに、よく頑張ったと思う ねぐせ 近づいてきたルミは、にこやかに微笑みながら、寝癖のついたリンゼの頭を褒めるよう に撫でた。 「朝ご飯は食べられそうかい ? ままえ

7. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

ここうしゆらおう 「孤高の修羅王とは、よく言ったものだと思ったよ。偽物と本物は、ひと目で見分けがっ ようしゃ きようあく いた。血に染まった剣で、凶悪な男たちを容赦なく斬り捨てていく姿は、本当に恐ろし かた ぞくほうむさ こう′」、つ 、そして神々しいほどの威厳があった。あの男の目的は、名を騙った賊を葬り去 ることだった。でも、人魚の真珠は秘宝だ。奪われてもおかしくない。だから俺は、ここ に突っこんだ : きずあと 心正しき者の手に渡るべき、神からの聖なる預かり物。ゼルアドスは、大きな傷痕を指 まね で開く真似をして、左上腹部を押さえて笑う。無我夢中でそれしか思いっかなかった。 まゆひそ 大胆なことをしてのけたゼルアドスに、ジェイは眉を顰める。 「預けておいてやるって、言われたよ」 ちゃんと奪いに来るので、そのときまで。ゼルアドスは不敵な男を思い出し、肩を竦め る。事実は伏せられたが、以来、本物の人魚の真珠は行方知れずになった。 ひりゅう 、あの男の乗った飛竜が、この船の近くの空を 「ついひと月ほどまえもそうだったが : 鷹 舶飛んでいたと聞くと、はらはらする。今日こそ俺のところに来るんじゃないかってな 海 運がよかったのは、俺のほうだ : 蒼 ゼルアドスが黙っていたから、人魚の真珠はあの男が持ち去ったことになった。笑って たた ゼルアドスはジェイの肩を叩き、視線を落とす。 0 にせもの き すく

8. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

かわからない。しかも、ルミになんの連絡もなく。 「 : : : 失礼ですが、メイエンさん、そのときの用事とはなんですか ? ざんげ 「はい、同郷の者はいないかと呼ばれまして、懺毎の一言葉を聞いておりました」 「そうですか」 あや ぐうぜん ますます怪しいとルミは思う。たまたま偶然いないときではなく、呼び出されたとき に、その使いというのは来ている。 わずら 「どうも、気持ち悪いですね。ロラン殿、手を煩わせて申し訳ありませんが、ジェイとリ ンゼがどこにいるのか、捜していただけませんか ? 」 うかが あお 「はい 0 わたしもそのほうがよいように思って、お伺いした次第です。碧の三角は狭いで すから、船員たちを動かして皆で手分けすれば、すぐに見つかることと思います。念のた めに、碧の三角のほうには、どんな形であれ船を防波堤の外に出さないよう、朝一番に圧 力をかけておきました」 「ルミナティス・フォルティネンの名を使ってください」 鷹 白 碧の三角の事務局からの通達であっても、出航に制限をかけられた貴族は、いい気分は の 海しない。、 とうしてそんな制限がかけられねばならないのか、聞いてくるはずだ。ポルカー ししゃ′、け ノ子爵家の名前よりも、フォルティネン侯爵家の名前のほうが、カが強い。侯爵家の名前 もんく でかける圧力ならば、面と向かって文句を言う者はいない。

9. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

夫の仕事は重労働だ。格式ある貴族家の所有する、品位ある船や、大金持ち相手の豪華客 船ならそういうことはないだろうが、死に近い危険と背中合わせで航海を行う一般の船 まカ そうくっ は、ならず者紛いの乗員ばかりの、屈強で荒くれた男どもの巣窟といっても、けっして過 言ではない。い くら男性として生を受けていても、とてもこんな、か弱くたおやかな美人 に船員の仕事が務まるはずがない。 しと 「ミゼルの使徒になって、四年が過ぎましたけれど、船に乗らなければいけない今回のよ うなことは初めてで : : : 。船に乗せてもらえるものならば、なんでもするのに : しぐさ まっげ 上品な仕種で乱れた髪を直したルミは、悩ましげに溜め息をつき、長い睫毛をそっとお うれ あで そうぼう ろした。憂いを含んだ、美女もかくやというその艶やかな相貌に、ロラントスはどきりと する。 、それは : ( な、なんでもするって : ・ これほどの美人に、もしもそんなふうに、懇願されたなら : : : 。男だろうと、どうでも くさ しいと思うような連中は、それこそ腐るほどいるはずだ。ましてや、船といえば、洋上の せいさつよだっけん 密室である。どこにも逃げ場などない。すべてを委ねて、相手に生殺与奪権を持たせるよ よそお うなものだ。そしてもしも、もしもそれが善意の人を装った極悪人であったならば、騙さ あくま たぐいまれ れて悪魔の船に乗りこんでしまったかの美人は、その類稀なる容姿ゆえに、運命も肉体 もてあそ るてん も弄ばれ、商品として扱われて、悲劇的な流転の人生を送る羽目になってしまう・ : こんがん ゆだ だま

10. 蒼海の白鷹 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒 3

220 ゅうぐう こうしやくけ のミゼルの使徒でありフォルティネン侯爵家のルミナティス殿だけを優遇し、君たちを 船員のように扱っていると聞いて、わたしはとても驚いたのだ。迎賓饉で様子を見せてい たたいたか、ロラントス殿はルミナティス殿と親しくなられたいがために、船を使って近 づかれたのだということがよくわかった」 それはもう、目に余るほどにと、スクル 1 ドは芝居がかった動作で、大きく溜め息をつ く。ジェイにお茶を供した従者が、クリームと砂糖の好みについて尋ねたが、そのどちら もジェイは素っ気なく断った。水と酒はロにするが、ジェイはお茶を飲まない。 「ルミナティス殿にしても、貴族としてのつきあいを優先なさりたいようにお見受けし た。そこでひとっ提案なのだ。どうだろう、わたしの船で君とリンゼイ・ホ 1 クくんの二 人を、ザガディーまで送らせてもらえないだろうか。神のお使いである君たちが、不当な 扱いを受けて卑しめられているということに、わたしは耐えられないのだ。ロラントス殿 のポルカ 1 ノ家の船よりも、ビズウェイ家の船のほうが優秀で、ザガディ 1 には早く着け るだろう。ロラントス殿の船に乗りたいルミナティス殿のことは、おっきあいもあること これは君たちにとって、 だろうから尊重してさしあげて、ザガディ 1 で待たれればいい。 けっして悪い話ではないよ」 親切めかして語るスクルードを眺め、ジェイは思う。 ( この男 : ・・ : ) しと なが