「目的がここのじしいを捕らえることだけだったら、用無し。帰されるか殺されるか、どっち か。可能性としては後のヤツの方が高いって俺は思うけど」 「あんたねー、ちょっとは相手の気持ちを考えて話そうとか、思わないわけ ? にらみ付ける彼女に、ユサは軽く肩を竦めて見せる。 「嫌がったって、現実はそんなもんだろ。もしかしたら、じしいの弟子として魔剣造りの雑用 辺りやってるかもしんねーけどさ」 「ほんっとーに、ヤな奴ね」 「優しくしてやる理由なんてねえしゃん」 馬鹿にしたみたいに、笑った。 「それよかお前、館に呼んでくれたっていう女の名前なり特徴なり、覚えてねーのかよ。化粧 がケバかったって以外で。言葉とか、何か元が割れそうなもの」 作業場を、一一人は後にする。歩きながら、ユサはカナンに尋ねた。 「一言葉 : ・・ : 名前・ 「ここのししいが取っ捕まっちまったんじゃあな、今はもフお前が接触したそいつ以外には、 ンおやじ ャ親父にたどり着ける手がかりはないんだ。本気で親父を取り戻したいなら、何か思い出せよ。 そうしないと、探しよう力ないぞ 「 : : : わかってる」 すく けしよう
) ュォル・ディ・フェロスの、ええと 「当時私はフラーナの王に仕える術士、リュ、 ですね。確か、八人いた : : : あれ、十人だったかな ? 直弟子の一人でした」 とっとっ 両手を膝の辺りで重ねて、互いの指をいじりながら、咄々と話す。 こと シェリアーク、そなたの夢はロの端に乗った、言葉となった瞬間から予言になった。言 だま 霊の力はそなたの夢を現実のものにしようと動く。それを防ぐために、私は私の夢をそなたに ろ、つ 1 ーーー 「先生の言葉だけ、何だかはっきり覚えてるなあ。『されどもし、相反する力を共に併せ持っ 剣が在れば、それは夢をも切り裂かん。さあ、シェリアーク。我々は持ち得る英知、知識、 技、希望、すべてを費やして夢魔の王を封する剣を創造らなくてはならない』」 せりふ 「台詞なんざどうでもいい」 うつぶ ュサは寝台に完全に俯せて、目だけをシェリアークに向けて言った。 それで、先生の指導の下ですねー、剣を造ることに、なりまして。他の直弟子 「ああ、はい。 どうだったかなあ。同し作業所に一緒にいたような記憶もあるんですが、手伝ってくれ ャ ジ ていたんだっけなあ。どうだったんたろう ? 、フー・ : : ・ 「お前、友達いないタイプ ? ひざ あわ
うなず 戸惑ったように、彼は頷く 「なんだか、信しられない。詩の中のイメージだと、シェリアークっていかにも天才って感じ で鋭くて尊大そうなのに。今ここにいるあなたは、その : : : とても千年に一人な術士には見え はがね 「私も何だか信しられませんー。鋼に呪を封するってのは確かに困難な技でー、あの頃は私と えとく 先生しか、まだ会得してなかったような気はしますけど。私が千年に一人ってのはー、あはは はは。笑っちゃいますねえ」 「あ、別に悪い意味しゃないわ。あたしのこと、助けてもくれたし。命もだけど、父さんのこ と」 あわ 慌ててカナンは言葉を継いだ。顔を上げたシェリアークに、実はね、と、切り出す。 「あたし、正直どうしようって思ってたもの。フレイエルはフラーナ皇国の皇帝専属なんて御 しよせん 大層なレッテルをつけてはいるけど、所詮はフラーナ時代のことだし、それ除いたらただの鍛 じし 冶師なわけだし。はっきり言ってナイアスしゃあてにならないって、考えてた。もうやんなる くらい年喰ってるから、フットワーク重いし、何だかんだでそろそろ頭の回転のほうも、落ち ャてると思うんだ」 ジ 「カナンに『カナン』とつけてくれた方ですね ? 」 いにしえ 「そう。何でもどこかはるか古の東の国の言葉で、『南の花』って意味があるはすだって言っ
ところ。てめえの生い立ちの記なんざ、どうだっていい そこだけ赤く腫れてきた額をさすりつつ、シェリアークは困った顔で笑う。 「でもそのあたりはですねえ : : : 私、あまりよく覚えていないんですよお」 「だったら思い出せ。努力しろ努力。とろくせー 「あー、はあ。しゃあ、頑張ってみます」 話せ。 ュサは命令した。 「夢を、見たんですよー」 シェリアークの話は、この言葉から始まった。 きたこんとん 夢魔の王の出現を、世界の滅びとその後に来る混沌を予言する夢 「先生が、そうおっしやったんですう。何の夢見たのかは、もお全然覚えてないんですけど」 てへ、とシェリアークは頭を掻いた むま
「あの。ごめん、なさいー ュサが部屋を出て、緊張感がなくなってしばらくすると、シェリアークの後ろでカナンの小 さな唇が、そう言葉を形作った。 ー ? どうしてです ? 」 あなた 「だってあたしのせいで、貴方あいつに : 振り向いたシェリアークは、ロをへの字に歪めたカナンに笑いかける。 「いやー、別にカナンのことがなくても、怒られてますから。もう何度も」 ク 「だけど今も、さっきだって蹴り倒されたりして」 、ヤ「あれはねえ、私が悪かったんですよ。あんなことは、本当にしちゃいけないんでー」 「でも、あたしが助かったのは、あなたが何か、してくれたからでしょ ? あたし、あの時絶 対殺されるって、わかったもの。あいっ : : : 全然、あたしのこと気にしてなかった」 森に住む引退鍛冶師のこど
262 「じゃあな。タダめしサンキュ ュサはその返事はせず、ばん、と彼女の頭を撫でた。 不満げに小さくうなり、カナンは契約だもの、と言って肩をすくめる。 あいさっ 「シェリアークにも、よろしくね。本当は挨拶したいんだけど、まだまだ神出鬼没だから、仕 方ないもんね」 彼女の最後の言葉に、微笑とも苦笑ともっかない笑みを見せて。 ュサは村の門を通り抜けた。 「ますは : ・ : ジュアンだな。あの、ししい術士の近辺から : ) エスの村に一度戻ってみたほうが良いかもし 街道を進みながら、先の予定を立ててゆく れない。 ともかく情報を : : : この辺に〃こんびにみがあったはずだから。 あんじよう 案の定、焼きたてパンの匂いがしてきた。どの〃こんびに〃にいってもする、特有のおいし さである。 匂いに引きすられるように、ユサは扉を開けた。
106 くすりと、ユサは笑った。 「助けて ! 手伝って、お願い ! 」 「タダで人助けするほど、時間持て余してねえよ」 軽く言って、彼はカナンとシェリアークの間を通り過ぎ扉へと向かう。 「行くぞ、くそ術士。俺、水浴びたい 扉を開けて、出て行こうとする背中に。 「あんたが父さんのこと無視するなら。あたし、そこら中に魔剣のこと言い触らすかもしれな カナンは低く、言葉を浴びせた。 「あの女だって、術士なら絶対そういうの興味を持つって、思うし 握り締めた拳の中に、汗が、嘘みたいに溜まるのがわかる。 「へーえ」 振り返ったユサの薄い唇に、やんわりと笑みが広がった。 間違えた カナンは直感する。失敗だ。 「じゃあさあ、今俺がお前のこと殺してしまうってのは、どう ? そうすりゃあ、ことが楽で いいって思うせ」
かじし でしたから、鍛冶師の剣のように、鋼そのものに炎の力を与えるなんて芸当はできませんけ ど」 力を込めて、、ンエリアークは訴える。 じゅ 「呪をですね、私は封してですね。それで、鋼に力を備えて」 「どーこー 彼の鼻先に、ユサは剣をつきつけた。 「こののつべれの剣のどこに、呪なんてもんの印が、あるっていうんだ ? ああ ? シェリアークは一瞬返事に詰まる。 「お前、夢遊の気でもあるんじゃねえ ? 」 小馬鹿にしたみたいに、ユサは笑う。シェリアークは満面を朱に染めた。 「私は、ちゃんと封じたんですう。すつごいすつごい大変だったんですから」 「本当かよ」 あざけ こわね 嘲るような声音に、そうです、とシェリアークは強い口調で答える。 「七つまでは、覚えてます。どうして今、それがないのかはわかりませんけど。その剣には 不意に、彼は言葉を切る。え、といった顔で辺りを見回し、耳を澄ました。つられてユサ も、注意を外へ向ける。 はがね
144 「歩けるか ? 」 「もちろんで : ・・ : 」 うなず 頷きかけて、彼は目にしたものに言葉を一瞬なくす。思わず、ユサの額を覆う白銀のサーク レットに、触れよ、フと手を伸ばした。 「何だよっ、触んな」 ぼうぜん 反射的に後ろに下がって身構えるユサに、幾分呆然とした様子で話しだす。 じゅ 「それ : : : すごい。そのサークレット。素晴らしい呪の形が刻み込まれている。信しられな 光の和声だ。なんで今まで気が付かなかったんだろう。誰がこれを ? 知り合いです か ? 」 「うっせー、どうだって良いだろう、そんなこと。触んなって言ってる ! 」 まだ迫ってこよ、フとするシェリアークに、びしやりと言い放った。 「何しに来てると思ってんだよ。んなもんにふらふらしてんしゃねえ」 頭を、一つ小突く 「ああ、すみませんですう」 そう謝りながら、シェリアークはそれでも彼の額のサークレットに目を向けたままだった。 かじし 「つたく 術士にしろ鍛冶師にしろ、ろくな人種しゃねえな。すぐに本筋を忘れててめえの世 界に入りやがる」 おお
214 多分言葉でどれだけ語りかけても、わからないだろう、この少年には。 自覚がないのだから。 「なんだよ ? 」 「やつばりちゃんと話して、その上で留守番してもらった方がいいと思いますー」 「わかんねーこと一一一一口うなよ。俺としちゃあ、最大限に依頼主を守ってやってんだぜ ? 軽い口調で言って、ユサは立ち上がった。 ふところ 抜き身になっている矢の、矢しりの部分だけを薄い布にくるんで、彼は再び懐にしまう。 「だいたい、そんな面倒臭えことやってられつか。いいから寝かせてこい。起きててこっちの 様子とか見にきたら、いないのがばれる。あいつ、妙に鋭いんだ」 腰に剣を佩き、シェリアークを促す。 「俺、先に下にいってるから。終わったらこい。急げよ」 ばん、と右手で肩を叩かれて、五歩はど間があって。 「ユサつ」 とっさ シェリアークは全然別のことを思い起こして、咄嗟にユサの肩を掴んだ。 「な、何だよいきなりつ ! 」 振り向きざまに、ばしんと手がシェリアークの腕を払う。 つか