202 かわ 我ながらあいまいな、渇いた声しか出ない。 こうが しようた 翔太が必死の目をして自分を見つめているのがわかっても、今の恒河は何ひとっ返してやれ なかった。 「コーガ」 しようた 翔太の濡れた瞳に、かすかな怯えが走る 「コーガ、オレのこと見て」 「・ : 見てるよ」 「ちゃんと見て」 ふるえる指先が伸びてくる。 こうが その指先はおずおすと巨河の頬にふれた。 」、つカ こうが 恒河が黙って見つめていると、翔太は両手で恒河の短い髪の毛を引っぱり、自分のほうへと 顔を引き寄せようとする。 しようた こうが 巨河はされるがままになり、翔太の顔へと自分の顔を近づけた。 こうが しようた 翔太の赤い唇がつんと突き出て、直河の唇にくつつく こうが それが翔太の不器用なキスだと気づいたときも、恒河は応えてやれなかった。 「オ、オレ、コーガのこと、好き」 あわ しようた 翔太の声は哀れなほど揺らいでいる。 しようた しようた 0 0
「ほんと ? 」 「うん。ほんとにそう思う」 こうが しようた 恒河か言い返すと、翔太がニハッと笑う。 」、つが 恒河はすかさす言ってみた。 しようた 「僕の幸せは、翔太くんがそうやってそばで笑ってくれてることだけどね」 しようた 翔太はたちまち食欲を失ったらしい しようた 真っ赤になってうつむいた翔太は、箸の先をくわえ、もしもししながらつぶやく 「オレ、さあ、コーガとはたしかに兄弟ってことになるんだけど、でも、オレはおとんの連れ 篇子だし、コーガとは直接血はつながってねーわけだし」 倪「え ? 」 しようた こうが 引翔太が何を言いたいのかわからなくて、直河は聞き返す。 校「血のつながってない僕とは一緒にいられないってこと ? 男「あー、やー、そういうことしゃなくてよー」 しようた 寮翔太の声はますます小さくなる。 しようた こ、フ ~ 恒河は首をかしげ、翔太のほうに耳を近づけた。 しようた 翔太はさらに耳たぶまで真っ赤にしながら、ばそばそとっやく 0 0
どうやら布いらしい こ、つ ~ 巨河の腕に両手を回して、きよろきよろと森の暗がりを見回している。 、」うが しようた しようた 恒河はそのまま翔太のほうに向き直り、真正面から翔太の体を抱きしめた。 「大丈夫。何もいないよ」 「え、な」 しようた こうが こうが 翔太は混乱して恒河から離れようとしたが、恒河はことさらぎゅっと強く抱きしめる。 「コ、コーガ・ : ツ」 こうが 苦しがってあえぐ翔太の首すしに顔をうすめて、巨河は言った。 「海賊になれなくてごめん」 弟 倪「もう一回だけチャンスをくれないか。そうしたら、僕は必す翔太くんをさらっていく」 : コーガ」 語 しようた 校翔太はもう暴れない。 しようた 、」うカ 子 男 恒河は翔太の細い腕が自分の体をしつかりと抱き直してくるのを感していた。 寮こんなにびたりとくつついたら、きっとドキドキいっている自分の胸の鼓動が伝わってしま 、つにちかいない。 こ , つが しようた 直河はそっと翔太の頬にキスをした。 しようた しようた
真っ赤になって、すがりつくように見つめても、相手が無反応なままだからだ。 しようた こうが 、 ) っしよ、フけ・んめいに机ナた。 それでも翔太はせめて恒河に自分の気持ちは伝えようと 「だ、だってオレ、こないだああいうことされて、そんときオレ、コーガになら何されたって イイって思ったんだ」 何をされてもいし うれ 本当ならそれは、どうしようもなく嬉しく響く言葉のはずだったが。 「いつ、行くなよ」 かす 学」 , つが しようた ゆっくりと翔太の手を振りほどき、立ち上がろうとする巨河に、翔太が声を掠れさせた。 「行かないでよ。コーガ : ・ しようた こうが 篇立ち上がった恒河が、しっと翔太を見下ろす。 しようた 兄 翔太は空いた両手を今度は自分のまぶたに押し当てて、あふれそうになる想いを堰き止めて 語しオ こ - つが 物 亘可ま。 校↑冫ー 男やつばり何も言えない。 寮何か言え。何か言葉をかけてあげるんだ。このまま立ち去っちゃだめだ。 」、つが 頭の中では誰かがガンガン響く声でそう叫んでいたが、直河にはできなかった。 しようた 言葉をかけることも、立ち去らないで翔太の頭を撫でてやることも。 しようた せ
こうがぼうぜん すうっと目の前が白くなってゆく感覚に、直河は茫然と身を任せる。 まりか 「和久井、茉莉花・ : ? 」 口が勝手にその名前をくり返す。 たった今、形になった名前だ とな 篇唱えてみても何の感動もない。 兄 ただその名前が、自分と、目の前で自分を見つめている恋の相手とを、一気に引き離してし まったのがわかるだけだ。 校「ゴメン しようた 男翔太の唇がまた、ふるえた。 寮「ちゃんとすぐ言おうと思ったんだ。けどなんかオレ、楽しくて。コーガとフツーにしゃべっ てんのが楽しくて、 : ・言いそびれちゃったんだ」 「 : ・うん・・」 わくい ( 7 ) ほんとうの恋人
196 「こらっー どこへ行くんだ、和久井ー しようた 「翔太くんッ卩」 久しりの合同練習の日。 しようたこうが 和久井翔太は恒河の顔を見たとたん、ものすごいスピードで道場から逃げ出した。 こうカ あぜんと立ち尽くす部員たちの中、翔太を追いかけて恒河が猛然とダッシュを切る。 道場の裏は大きな竹林が続いていた。 剣道着を着けた一一人の少年たちが、竹林の間を風のように駆け抜けてゆく しようた しようた 「翔太くん ! 翔太くん、待ってよ ! こうがしようた 竹林の奧まで行ったところで、巨河は翔太に追いっき、その腕をつかんだ。 「なにも僕を見て逃げ出すことないじゃないか ! 僕はなんにもしないよ ! 翔太くんがいや カるようなことはなんにもしないー 「ちが、フ ! オレが ! オレがコーガのいやがることするんだー ( 6 ) 勇気ど真実 わくい しようた 0 しようた
188 た よ。 「だいじよーぶかよ、まったく翔太のやっ、あいかわらす人騒がせなやつだなあ。ほら起きろ ・ : あちっ卩」 しようた 他の少年が翔太のほっぺたをピタピタとたたいて正気づかせようとして、ビクッとその手を しようた 引っこめる。彼はあわてて翔太のおでこにさわって体温を測った。 「うわ ! こいつ、すごい熱だぞ ! 」 「医者だ医者 ! 保健室 ! 」 しようた 周囲が騒然となる中、翔太はひとり倒れたまま、何やらぶつぶつ口にしている。 コーガに・ : ほんとのこと話さなきや・ : 」 「ほんとのこと : ぶつつ、ぶつぶつ。 熱 ( 慣れない告白をされたことゆえの知恵熱と思われる ) に浮かされて、翔太はっやき続 ほほえ 一人、翔太にだけ微笑 またに映るはるかな夢の国には背の高い王子様が住んでいて、ただ みかけるのだ。 けれど夢の中の翔太は、その素敵な王子様を見つめ返すことができないでいる。 しようた なぜなら、翔太の胸には重たい秘密が宿っていて、今やもう自分の体をまっすぐにすること もできなかったのだから。 しようた しようた しようた しようた
170 こうが 直河は彼の試合を思い出した。 最初のほうで、菜の花東の一一年生にいとも簡単に吹き飛ばされていた小さな少年だ。 「えーっと、ありがと、つ。あの ? 」 しようた わ くいしようた 「オレ、翔太 ! 和久井翔太ってんだ。桜花の一年 ! 」 「和久井 ? 」 」、つカ 返す。何かが印象的。 少しばかりめずらしいその姓を、直河がばんやりくり こうが やがてハッとしたように我に返って、直河はあわててつけ加えた。 「あ、僕は」 「コーガ ! だろ ? 「え」 「みんなにそう呼ばれてたしゃん。覚えちゃったぜ。あんた、強えーんだもん」 こうが こ、つ ~ ああ、と巨河は納得する。上級生もいる部内では、兄と区別する意味もあって、直河は姓で はなく名のほうで呼ばれていた。 ほほえ こうが はしゃいだ顔つきで自分を見上げてくる少年に、巨河は照れたように微笑む。 「でも、僕さっき、負けちゃったんだけど」 「、ハッ、榎本副会長が相手しやしかたねーや。打ち込んでっただけでもすげーぜ ? 」 「・ : あの人、そんなに強かったんだ」 えのもと
こ、つが しようた 翔太に教わって始めたばかりのゲームはなかなか複雑で、恒河はかなりのめり込んでいる。 しよ、った すぐポットウしてオレのこと忘れる ! と、教えたはずの翔太には不評な今日この頃だ。 しようた なま 」、つが 今も生返事を返してきた恒河に、翔太は、はふーと溜め息をつきながら言った。 「オレさ、ケコン、もーちょい考えとくな」 コントローラを持っていた手がびくっと止まる しようた 広い個室の豪華な絨毯の上で、翔太がごろんと転がって言った。 「いやー、おかんのあんな話、初めて聞いたからさー。なーんか考えちゃうよ 篇「ああ。え、つと、でも僕たちはべつにそんなに考え込まなくてもいいんしゃないかな」 倪「コーガ ! ケコンしてえの ? 」 「う、うーん、ケコンねえ」 校「ケッコン」 しようた 男言い直してみせて、ニッと翔太が笑う。 しようた 寮巨河は思わず体を折り曲げて、ちゅっと翔太の唇にキスをする。 そうして一一人で近くなった瞳を見つめ合ったら、今は満足するけれど。 しようた 「したいかも。僕、翔太くんとすっと一緒に暮らしたいよ」 ロ 二ロ 0
254 大成功のうちに演奏会が終わり、ふたたび日常が舞い戻ってきた頃。 こうがおうかがくいん えのもときようや 直河は桜花学院高校の寮に潜り込み ( この行動に当たっては、榎本京夜がかなり特別な便宜 わくいしようた を図ってくれていた ) 、和久井翔太の個室でゲームのコントローラーを操作していた。 「なあ、コーガ」 こうが ちょっとした優越感に浸っている巨河に、立ち上がった字宙が勢いよく声をかける。 こうが 「おい、亘河 ! 行くぞー そらにい 「はいツ、宇宙兄ー ヤ」、つカ こた 直河もまた勢いよく、、フれしそ、フに兄に応える。 」、つが 兄の呼びかけに応えて、直河がまずしなければならないのは、兄の愛器・モンタニャーナを 運ぶことだ。 たつや この先いろいろなことを竜哉に譲るにしても、この、兄のチェロを運ぶという役目は、まだ こうが しばらくのあいだ自分のものにしておこうと、ひそかに心の中で決めた巨河だった。 ( エピローグ ) 僕たちのこど ひた