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検索対象: 全寮制男子校物語! 兄弟篇
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1. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

270 えのもと 「お、おい、榎本」 つや 艶めいた視線を投げかけられて、菱田がたしたしと後すさる。 きようや 京夜は楽しそうに笑いながら、菱田のたくましい腕に指を伸ばした。 「僕は気にしないよ。でもきみは気にしてるんだよね ? その証拠に、ここでは絶対に僕にふ れようとしない」 「俺は、あなたの声を誰かに聞かせたいとは思わないな」 「ふふ」 きようやひしだ 京夜は菱田に近づき、その腕の中にすつばりと身を寄せる。 きようや きようや ひしだ 菱田もあきらめたのか、京夜をそっと抱き返してきた。しかし京夜はじっとしてはおらず、 な うれ ひしだ 菱田を見上げると、薄いあごひげを撫でながら嬉しそうにつぶやく 「僕はきみの発火薬だね ? ボクがさわると困る ? 」 えのもと 「榎本、あなたがそうやってじらすたび、俺がどんなに耐えているか知らないだろう」 はい携帯 「知らないに決まっているだろう ? きみは敵校の副会長なんだよ ? ひしだ きようや 京夜が花のように微笑んで、菱田に紺色のスタイリッシュな携帯を返した。 ひしだ と、菱田が画面に目をやって驚いたように言う。 「おい、まだ先があるようだぞ」 ひしだ ひしだ 0

2. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

258 ( 恋ってちっとも落ち着かないよ。どうしてみんな、こんなのしたがるのかなあ ) でも恋を知ってしまったら、もう一一度と知らない自分には戻れない。 こうが それは恒河にもわかっていた。 自分の内側に特別な音程でも備わってしまったかのようだ。 その音程でメロディを流されたら、心も体もくたくたになってしまう。 こうが そのとき、土手のほうから巨河を呼ぶ声がする 見ると、土手を駆け下りてくるのは宇宙だった。 こうが 「おっせーよ、巨河 ! さっさと橋を渡って来ー わざわざ迎えに来てくれたのだろうか。 つが 弟に対するときのこういう過保護なところは、そういえば、あまり変わってないなと直河は 少し嬉しくなる。 こうが 字宙は戻ってきた恒河を両手を開いて迎え入れ、そのままぎゅうっと固く抱きしめた。 くにえだたつや こうが 宇宙の肩越しに土手の上に向けられた恒河の目は、字宙に付き添ってきていた国枝竜哉の姿 を映す。 明るい月明かりの下では、苦々しいその表情まで読み取れてしまいそうだった。 ( うわあ、こつわー ) 0

3. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

「なんだこりやーツワ 「いやー、最近あいつ、なんかばーっとしてること多いなあって思ってたんですけど、やつば おうか 相手、桜花の生徒だったみたいですね」 「桜花ッ ? 敵かよ パイレーツ・ディ 桜花学院と聞いて即座に敵と判断を下すあたり、宇宙もだいぶ海賊の日システムに染まって きている模様である。 「あ、あのバカ・ : つ」 メモ用紙は宇宙の手の中でぐしゃぐしやに握りつされた。 残るは天を突く叫び声。 篇「やつばり男子校の寮なんかに入るんじゃなかったぜ ! ちくしょーツツツー 倪「おい、宇宙。どこへ行く気だ ? 」 たつや 駆け出そうとした字宙の肩を、竜哉の手ががしりとっかむ。字宙はじたばたして言った。 校「決まってるだろ ! あいつを連れ戻すんだ ! 男「やめておけ。逆におまえが桜花の連中に拉致られるのが関の山だ」 寮「なんだよその言いぐさ ! オレだってけっこう強いの知ってるだろ ! ちゃんと連れ戻せる 全 「だめだ」

4. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

200 「オレ。 しようた 翔太の声はふるえている。 しようた そんな翔太がかわいそうでたまらない。こんなにかわいいのに泣いてるなんて。 こうがしようた 巨河は翔太のひたいに手をやって、ゆっくりと撫でながら一一一一口う。 「僕が泣かせてるの ? 僕が悪いんだね」 しようた 翔太は、ううんと首を振る。 「ちが : ・、ちがう。おまえしゃない。悪いのはオレだ。オレ、おまえにウソ言ってた」 「ウソ ? のど しようた 」、つカ 巨河の瞳に間近で見下ろされて、翔太はごくっと咽を鳴らした。 「オレ、おかん : ・おかーちゃんと血のつながり、ねえんだ。だからオレ、最初からおまえのこ と知ってた」 しようた 「 ? 翔太くん ? 何のことを言ってるのかわからないよ ? 」 こうが いきなり母親の話など持ち出されて、巨河は軽く目を瞠って微笑む。 こうが 巨河の指は翔太の頬をそっと撫で続けている。 まりか 「オレの今のおかんの名前、茉莉花ってゆうんだ」 しようた 翔太はしやくりあげそうになっていたが、あえてそれをガマンして叫ぶように言った。 きりゅう 「うちの親父と再婚する前は、桐生茉莉花だった・ : しようた みは ほほえ

5. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

レキの声に一一人は顔を見合わせ、一一人だけの世界から離脱する。 土手の上の、木立になった場所へ移動すると、そこにはレキの他にも菱田副生徒会長を始め 多くの戦闘要員たちが集まっていた。 「なに ? もうこっちの勝ちは決まってるんじゃないのか ? 」 字宙がけげんな顔をして訊く。と、レキのほうがけげんな顔になって聞き返してきた。 「なんでよ ? まだ十一一時になってねえぞ」 ドール 「だって向こうの花姫は捕まえたんだろ ? 」 「ああ、桜花の花姫ね。罠だろ」 「罠 ? 」 きようやひとすじなわ 篇「京夜は一筋縄でいく男しゃねえからな。裏の裏に罠はってくるよ。わざと花姫ラチらせて、 倪帰り際の油断したところを総攻撃とかな。ほら」 そう言ってレキは橋の向こう側を指さす。 校森の奧から黒い戦闘服で身を固めた一団が現れてくるのがわかった。 男「おびき出されたな」 寮菱田副生徒会長がばそりとつぶやく。レキがうなすいて言った。 「ああ。こっちの作戦ルートを知ってやがるんだ。スパイから情報仕入れたんだろう」 「スパイ ? ツ・そんなものまでいるのかよ ? 」 ひしだ ワナ ひしだ

6. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

なはなひがし 菜の花東の寮の風呂場は、各部屋のせまさのわりに広々としている。 なつめあきひさ 脱衣所で知らせを受けた夏目理久は、頭を拭いていたバスタオルを取り落としてしまうほど 驚いた様子だった。 「なに ? なんかマズイわけ ? なかじようあっし すぐ隣で湯上がりのほかほかした上半身をさらしている中条陸が、 ( たぶん無理やり ) 関心 あきひさ なさそうな顔をして理久に横目を向ける。 「いや、マズイとかしゃないんだけど」 あきひさ なかじよう 理久はトランクスをはいただけの中条に視線を戻すと、そのはだかの上半身にバスタオルを ふわりとかけた。男ばかりの男子寮の脱衣所とはいえ、中条の上半身が周囲の注目を浴びがち あきひさ 篇なのは、本人は知らなくても理久はよく知っている。 あきひさ 兄 むろん理久にしてみれば、それはあまり望ましい事態とは言いがたかった。 なつめ 「夏目 ? なかじよう あきひさ 校中条にうながされ、理久があわてて答える。 男「いや、ただ姉ちゃんて、自分から出てくるようなタイプしゃないと思ってたから」 寮「人見知り ? 「というか、うちの中が好きな人。うちにいて、詩を書いたりとか、絵を描いたりとか」 「ふーん」 ふ なかじよう

7. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

弟和久井翔太はいつだって、恒河の想像力をはるかに越えた存在だった。 兄 からかってくるネタも ( 下ネタをのぞけば ) 、相当かしこくなければ思いっかないようなも こうが 疆のばかりだったし、誰かに話しかけるタイミングも絶妙で、けっして直河の練習をしやまする 校よ、つなことはなかった。 子 男 たぶんとても頭がいいのだろうと思って、ひそかに質問してみたこともあったが、どうやら 寮学校の成績はそれほど良くはないらしい かん 発想の奇抜さやタイミングを見極める勘の良さはあっても、翔太には勉強に対する集中力が 欠けているらしかった。 「んー ? 知りたいの ? く 4 っぴる こ、つ ~ 榎本京夜が唇の横にその白くて長い指を当て、ちらりと恒河を見上げる。 しぐさ なんとも艶つほい仕種だ なはなひがし ひしだこうじ その美しい人の横には菜の花東側の主将・菱田浩一一がいつもびったりと寄り添っている。 」、つが・ 恒河が頬を赤らめながらうなすくのを見ると、京夜はにつこりと微笑んで言った。 「そう。きみは和久井と仲が良かったね。いいよ、教えてあげる」 わくいしようた しようた ほほえ

8. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

132 それだけ。 ほほえ こうが だが恒河は満足そうに微笑んで、自分に並んで歩く兄を見下ろした。 兄弟だからというより、一一人で過ごしてきた時間の親密度が高すぎて、この兄弟は心理状態 を伝え合うのにあまり多くの言葉を必要としない。 こうカ パイレ 1 ツ・ディ 恒河には兄が海賊の日を楽しんだことがわかっている。 この一晩の経験によって、兄が生まれ変わるような予感さえ感していた。 そらにい 「ねえ、宇宙兄 : ・」 そ、フしてさらに話しかけよ、フとしたときだった。 きれい 「やつばりきみたち兄弟は綺麗だね。どう見ても僕の好みだ。欲しいな」 振り向いた字宙たちの目に、そのあでやかな人の姿が映る。 ししゅう おうかがくいん えのもときようや 桜花学院の副生徒会長を務める彼は今夜、黒に銀の刺繍が施されたゴシッ 榎本京夜 クパンクの着物風の衣装を粋に羽織っていた。 こ、つ ) り 刺繍の模様は蝙蝠・蜘蛛・髑髏。 ふうぼう 清らかで、悪いことなど何ひとっ知りませんといった風貌の京夜がこういうダークな印象の 衣装を着けると、最強というインパクトが増す。 表の京夜というものがいるとしたら、これは裏の京夜だ。 どくろ

9. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

274 菱田はそうしてめったにロにしない名前を、その舌に乗せた 「誰よりもあなたが大切だ、・ : 京夜」 かあっと体を火照らせた京夜を、菱田の腕がさらに強く抱きしめてくる。 くちびるか きようや 京夜はきゅっと唇を噛んでうつむいた。 そう思ったのも、この腕の中だったと思い出す。 どうしてもこの男を愛し抜きたい さび そんなことを思い出すのは危険だ。思い出せば、そのときにたまらなく淋しかったことまで リフレインして、自分から菱田にしがみつきたくなってしまう。 このせまくて薄い壁に囲まれた部屋では、それは本当に危険なことだったから。 きようや 京夜は必死に菱田の腕を押しどけながら言った。 こ、つじ 「こっ、浩二 ! 次の質問を見てみないか卩 なかじよう 「面会っ ? 姉ちゃんが来てるって卩マジ卩」 ひしだ (a 3 ) 中条の恋心について ひしだ きようや ひしだ ひしだ

10. 全寮制男子校物語! 兄弟篇

260 最初は不安だった全寮制の生活も、今の幸せのためには必要だったんだなと思う。 菜の花東高校に来ることが、すべての始まりだった。 変わることを怖がらないで、勇気を出して飛び込んでみる。 はしめは失敗しても、きっとそのときには次に向かう何かが起こってる そらにい 「ねえ、字宙兄」 こうが 自分の腕から離れようとしない兄に、月を見上げたまま巨河がばそっと言った。 「僕たち、この高校に転校してきてよかったねえ」 「ふん。まあな。悪くはなかったかもな」 こうが それが兄の最大のホメ言葉だと、恒河は知っている。 悪くはない。 ノッ・ソウ . ヾンにー。 僕たちの明日は次から次へと変化の渦。 でもそれも悪くはない。 こうが 月の光に白く浮かび上がる夜の道を、宇宙と直河、一一人の兄弟が歩いてゆく 明日へとつながる光の道だ。 いずれ会うことになる、まだ知らない人々の呼ぶ声が、その道の向こうから聞こえているの 」っつ」