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検索対象: シナリオ 2016年1月号
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1. シナリオ 2016年1月号

* 註 〔註 1 〕笈川武夫 ( おいかわたけお。一九〇一 5 六〇 ) 俳優。「ゴジラ』「六人の暗殺者』『大番』『蜘蛛巣城』な どに出演したバイプレイヤー。妻は元松竹の舞台女優で 「帝劇三姉妹」の一人として知られた村田みね子。 〔註 2 〕高田保 ( たかだたもつ。一八九五 5 一九五二 ) 茨城県土浦生れ。旧制土浦中学を経て早稲田大学英文科 へ進む。野田高梧とは大学時代からの親友。また、中学 時代のエピソードに取材した青春小説が、原節子のデ ビュー作「ためらふ勿れ若人よ』の原作となった。雑誌 記者をやりながら劇作もこなし、大正十四年に久米正雄 の原作を得て監督に挑んだのが連合映画芸術家協会製作 の汞の影』で、御橋公、結城一郎、笈川武夫らが出演 している。戦後は随筆に健筆を揮い、新聞連載された代 表作「プラリひょうたん』シリーズは、大ベストセラー となった。 〔註 3 〕猪熊兼繁 ( いのくまかねしげ。一九〇二 5 七九 ) 京都大学教授。専門は法制史。 〔註 4 〕出揃い「出払い」ともいう。集落の成人がいっ せいに出揃って、共同作業を行う民俗的な行事。春と秋 の年二回行われることが多い 〔註 5 〕久緒野田静の弟、山田久雄のこと。筆名に「山 久緒ーを用いた。英子は久雄の細君。 〔註 6 〕「ラジオ東京」の略称。現在の 〔註 7 〕宮田重雄氏と伊藤次郎左衛門氏ともに野田高 梧の母校・旧制愛知一中の卒業生。宮田は医者で画家、 ェッセイスト。成瀬巳喜男監督「石中先生行状記』でタ イトルロールを演じてもいる。伊藤は松坂屋創業家の歴 代家長名で、ここは第十四代か十五代と思われるが、詳 細不明。 〔註 8 〕山口松三郎 ( 一八九九年生まれ。没年不詳 ) 松 竹大船のプロデューサー。手がけた作品に「とんかつ大 将』「君の名は』「君美しく』などがある。 〔註 9 〕まことにおかしなこと桜むっ子の父君が急死 され高梧らは弔電を打つが、実は生きていたというこの 逸話。これにヒントを得て、野田・小津は次回作、中村 鴈治郎主演の「小早川家の秋』を書くことになる。 〔註川〕ノンちゃん葉山町に住んだ青木昇の愛称。「横 須賀線グループ」の若者の一人。 〔註Ⅱ〕高橋みどり俳優・高橋貞二の未亡人。高橋貞 二 ( たかはしていじ。一九二六 5 五九 ) は佐田啓二、鶴 田浩二 ( 後に大木実 ) とともに「二代目三羽烏」とし て売り出された人気俳優で、『早春』『東京暮色』「彼岸 花』の小津作品に出演、将来を嘱望されていた。昭和 三十四年二月二十七日浅井みどりと挙式、同年十一月三 日、酒気帯び運転していた車で横浜市電に追突、事故死 した。小津はその日の日記に「馬鹿な奴也ーと認めてい る。みどり未亡人も三年後の三十七年一月二十六日、東 池袋の自宅アパートでガス中毒によって事故死した ( 享 年三十三。自殺説もある ) 。 137 ーー

2. シナリオ 2016年1月号

リネール監督 ) 脚本家・橋田壽賀氏、 お蔵出し映画祭 2015 、グランプリに 審査員特別賞日「ス 1 丿ー・オプ・アスー ( ケ 文化功労者に選ばれる 榊英雄監督『トマトのしずく イロン監督 ) ス テレビドラマ「おしん」や「渡る世間は鬼最優秀監督賞Ⅱムスタフア・カラ ( 「カラン お蔵出し映画祭 2015 は、Ⅱ月 6 日から ばかり」などの脚本家・橋田壽賀子氏が、日ダールの雪」 ) 8 日まで、広島県の尾道市と福山市で開催さ 本文化の向上発達に関し特に功績顕著な人を最優秀女優賞Ⅱグロリア・ピレス ( ニーゼ ) ) れ、最終日にはコンペティション部門の授賞 ポ オ顕彰する、 2015 年度の文化功労者に選ば最優秀男優賞 = ローラン・モラー / ルイス・式が行われた。同部門には四本の作品の応募 れた。 ホフマン ( 「地雷と少年兵」 ) があり、左記の通り決定した。 、 / 橋田氏は、 1925 年生まれ。京城出身。最優秀芸術貢献賞Ⅱ「家族の映画」 ( ォルモ・グランプリ日「トマトのしずく」 ( 榊英雄監督 ) 日本女子大国文科、早大芸術科卒。松竹大船ォメルズ監督 ) 審査員特別賞Ⅱ「ゾウを撫でる」 ( 佐々部清 撮影所脚本養成所修了後、脚本部入社。退職観客賞ⅱ「神様の思し召し」 ( エドアルド・監督 ) 後フリーに。主な作品、映画「砂糖菓子のこファルコーネ監督 ) 観客賞Ⅱ「トマトのしずく」 われる時ー「風の慕情」など。テレビ「あし賞日「カランダールノ雪ー ( ムス たこそ」「おふくろの味ー「時間ですよー「おタフア・カラ監督 ) 「 I—CDDI--<>< クリエイターズ・プログラム」 しん」「東芝日曜劇場・おんなの家シリーズ」〈アジアの未来部門〉 グランプリに中江和仁氏の『嘘と寝る女 「大家族」「いのち」「春日の局ー「渡る世間は作品賞「孤島の葬列」 ( ピムバカ 1 ・トー 鬼ばかり」など多数。 ウイラ監督 ) が新たな映像クリエイター 国際交流基金アジアセンター特別賞Ⅱデグ発掘を目的に映画企画を募集、初めての試み だったが、 ナー監督 ( 「告別」 ) 6 月から 2 カ月間の募集でプロ・ 第回東京国際映画祭、閉幕 〈日本映画スプラッシュ部門〉 アマ問わず 474 本の企画が集まった。 作品賞「ケンとカズ」 ( 小路紘史監督 ) グランプリを獲得したのは、 Oäディレク 第回東京国際映画祭のクロージングセレ〈賞〉 ターの中江和仁氏の「嘘と寝た女」。実際に モニーが川月引日、シネマズ六本木山田洋次監督 / ジョン・ウー監督 あった事件をもとにしたサスペンス。脚本を 年前から書き直してきたという。 ヒルズで開催され、各賞の受賞結果が発表さ〈賞〉 れた。 樹木希林、日野晃博、広瀬すす、細田守、 受賞した企画は、映画化実現に向けて最大 リー・フランキ 1 〈コンペティション部門〉 5 千万円の製作費を提供し、完成した作品は 東京グランプリⅡ「ニーゼ」 ( ホベルト・べ での展開が確約されている 122 ー

3. シナリオ 2016年1月号

多少の妥協はあったとしてもね。だから僕に 思ってたんですよね。カメラって誰がなにを見水谷さんが寄付したってものがあったんですよ、 とってシナリオとい、つのはそ、つい、つことで、そ てる映像なのかって。この二人でやってる芝居水谷さんはフランスで映画を撮りたくて、結構 こが決まったら、いよいよセリフの一つ一つを を誰がこのカメラでって ? いたんですよね。撮る寸前までになったらしい 内田 じっくりと読みますね。するとやつばり色々思 そ、ついえばそうですね。 ですけど、短編の脚本をものすごく書いている うんですよね。ああこいっこうか、お母ちゃん 小澤 小津安一一郎みたいにピターツといつもなんです。絵コンテもあって。シネマテーク・フ こうかとかね。最初は分からないですよね、空んか畳の目みたいなことでやっていれば、家の ランセーズに寄付しているのがあることは知っ 間のことばかり考えているから。 中の定点みたいなことで、それはそれで分かる てたんですが、そしたらフィルムセンターの岡 内田 シナリオに書いてないことが膨らんだり、気はしてたんですけど、よく分かんなくて。で 田 ( 秀則 ) さんがフランスと連絡をとってくれ 勝手に解釈したりしますよね。ロケでたまたま も、今、僕が思ってるのは脚本の目じゃないかて。フランスは番号を振って整理してあるんで 見た場所があって、この芝居は部屋の中だけど、 なって。じゃあ、脚本の目ってなんだって言すよ。でも作品の一部分なんですよね。で、こっ あそこを歩いた方がいいんじゃないかって出てわれたら、うまく答えられないけど、だけど脚ちとやり取りしませんかと申し入れたら、ぜひ 来ちゃ、つこともあるよね。 本の見た目って結局は空気なんですよ、ひるが したいと。向こうのデジタルデータが送られて 岩城 勝手に裏設定を作って、キャラクターが ングして、 えって一言えば。シナリオ協会の人だから言ってきて、それをウチのほうでナンバリ 動いたりしてますよね。 るんじゃなくて ( 笑 ) 。そう言わないと四十年それで合体したりとかやっています。 小澤お母さんが買い物に行くにしても、決め以上もやってきて、なんか僕の中では説明がっ それから、やっと松山崇さんのが終わりまし っていうん た家の近所の商店街に行けばいい かないんですよ。なんかそれだと自分が納得で て。ものすごい量で、すべてが完全に揃ってる じゃないんですよ。やつばりそのトーン、その きる気がするんですよね。自分が空気を理解でわけじゃないんですが、『七人の侍』 ( 一九五四 家がどんな街の中にあって、このお母さんとか きた時にカメラマンにも監督にも口がきけると / 脚本黒澤明橋本忍小国英雄 / 監督黒澤明 ) の お婆さんが通った商店街ってどんな商店街だっ いうか話ができる。ということは自分が脚本を図面は全部やりました。いままで誰も見てない て考えて、やつばり飛ばさなきゃいけない、千理解したというか自分の体内に入れたっていう と思いますよ。あとは戦後とか戦前の映画のロ 葉まで行かないにせよ、飛ばして商店街を選択ことだと思うんで。多分僕らの目じゃないんで ケハン写真が山のようにあるんですが、そのロ するとか。でもスケジュール合わせで、時間がすよ。そんな感じがします。 ケハン写真が僕らにとっては一番大事なんです。 ないんで色々妥協しつつっていうこともあるん 水谷さんのロケハン写真は全部スキャンしてあ だけれども、南海ちゃんが言った全体のトーン美術協会のこれから ります。それから松山崇さんのも、全部スキャ ということは、全体の街の空気とか、そ、ついうーーー最後に協会のことについて、も、つ少し。 ンしよ、つよって、スクラップはほばみんなやり ことなんでそれを整えるのがやつばり仕事なん 小澤 四年がかりで、フィルムセンターに寄付 ました。特定できる場所は可能な限りして、松 ですよね。それは僕はやつばりシナリオが裏か されていた水谷浩さんの全資料、下絵も入れて山だとか京都だとか。これは貴重な資料になる らっているとい、つ感じがしますね。で、も、つ 三、四千枚、全部整理して、デジタルデータに と思います。例えば戦後すぐの渋谷のガード脇 一つ、カメラの目ってなんだろうってすっと スキャンして、もう終わるって頃にフランスに だとか、どこ探してもそんなものないですから

4. シナリオ 2016年1月号

のか、おう ! 」 と応じる。 僕と志賀さん、お互いの息が酒臭い。 連日、強行軍が続き、いったん眠ると起きられないので、 それぞれに朝まで酒を飲んでいたのだ。 こうして国会議員の事務所が林立する平河町の路上で朝 早くから取っ組み合いを始めるのだから、たちまち御用に なり、またもやサツにしよっ引かれる。そんな毎日だった。 スタッフルームに泊まり込み、家に帰れない日々が続く 朝メシは撮影所の食堂で海苔・納豆・玉子にうす 5 い味噌 汁。昼と夜は打ち合わせを兼ねてロケ先でメインスタッフ と食べるから、使うのはたばこ銭のみ。差し入れの酒は豊 富にあるし、たまに数時間の空きがあると示し合わせて雀 荘に行き、人生、降りる場合も必要なのヨということを敢 えて無視してツッパる一方で「ええい、通ればリーチ ! 」「い え、通しません . と、べーさんからまんまと金を巻き上げ るので、財布は膨れに膨れる一方である。 おまけにテレピ映画就労の条件として ( 頭打ちではある が ) 一定程度の残業料が支払われることになったから、す べての撮影が終わってから、それまで買おうとしてもなか なか買えなかったみすず書房の『現代史資料』全菊巻を、 この機を逃してなるものかと、さっそく買い込んだ。 そんな激動の半年が過ぎると、珍しく一ヶ月あまりの休 みが与えられた。 すると、元労務担当で今は企画部付になっている小寺駿 吉から「酒を飲まんか」とお誘いがかかった。 小寺とは、毎度毎度、組合の団交で激しくぶつかり合っ た関係である。 少し警戒しながら池袋の酒場に出向くと、小寺が数冊の 猥本を取り出した。 「天尾 ( 完次企画部長 ) さんの発案で、東撮でも本格的に ポルノを作ろうということになったんだが、 まだ本社の決 裁を受けていないので予算がない。 とりあえず五万円ほど 支払うから、この中で気に入ったものを選んで脚本を書い てくれ」「えつ。僕が ? 」「ああ。きみは助監督になりたて一 の頃から『仮面ライダー』を書いていたし、「艶歌で つづる任侠の系譜』の構成台本も書いた。それに常々、将 来は監督より脚本家になりたいと言ってるそうじゃない むむ、さすが東撮の 0—< 。大泉の安酒場で酔った勢い で叫んだセリフまで掌握しているとは : 「五万じゃとてもプロのライターには頼めない。チャンス だと思ってやってみないか 「オリジナルじやダメなんですか ? 」「ます最初は『発禁 本シリーズ』と銘打って作りたいんだよ」「でもそれって、 日活がロマンポルノで既にやっているのでは ? 「ああ 著名な作品はね。だからこっちはゲリラに徹して『埋もれ

5. シナリオ 2016年1月号

月刊「ドラマ」別冊 基本からわかる 踊る ) シナリオライターの明快創作メゾッド 里島美和著 シナリオを書こうと思い立ったも のの、どう書けばいいか分からな 基本からわかる 第ルナリオ購座 0 躍るシナリオライターの明快創作メソッド そんなあなたへ、脚本家で、「東 放学園」「シナリオ講座」など 講師経験も豊富な " サトちゃん " こと筆者が、シナリオを分かりや すく解説。 プロとして仕事するにあたって必 要な情報も網羅し、「実戦で使 える」これまでにないシナリオ作 法本です。 ドラマ別冊 シナリオマガジン 里島美和 定価 1 , 296 円 ( 本体 1 , 200 円十税 ) 送料 102 円 〒 107-0052 東京都港区赤坂 5-4-16 シナリオ会館 4 F TEL 03 ( 3585 ) 0965 振替・ 00140 -7-110502 映人社

6. シナリオ 2016年1月号

実録ジプシー・ローズ 近くのソフアに仰向けに寝転んでミステ水原「ケッ、うるせえゴミパンだぜ ( と離れ 一人黙々と稽古に汗を流しているローズ。 丿ーを読んでいたローズ、ハッと起きる て小便の瓶をとって ) ほれ、くれてやるか 正邦「それだけ踊れて大酒飲みとなるとまずらもっと気分だせよ、婆ア」 楽屋 エレン以外にない。ふうん、あいつがこの 意地悪く瓶を動かしエレンの手をじらす。 読書に没頭しているローズ。 浜松にな」 エレン「何でもするよオ : : : チューおくれ正邦の声「 ( 前シーンにもかぶって ) ローズ 土井「 ( 皮肉に ) 全く雀百までですねェ」 がきつばりと酒を断ったのはそれからまも ローズ、思いを馳せている顔。 ひったくるようにとってうまそ、つに飲む。 なくのことでした。本人にはさぞ苦しかっ ニャニヤして見守る水原。 ただろうと思いますー 裏街の路地 ( 夜 ) 魔窟のような雰囲気。ローズが手みやげ 同・表 まち の酒瓶を持って探しながらくる。前方の 衝撃にローズの手から酒瓶が落ち砕ける。 ローズと正邦が、腕を組んで、陸じくやっ 異様な光景に足をとめる。 物音に、エレン、顔をふりむける。眼が てくる。 三下地廻りの水原が瓶に小便をしている 合う。他人を見るようなエレンの眼差し。 ピャホールのウインドウにビールがある。一 それを持って横丁に入ってゆく。 ローズ、ゾッとしたように馳け去ってゆ ローズ、チラッと目がいくが我慢する ローズ、何となく気になって横丁をのぞ 正邦「 ( 不憫になって ) 飲むか、一杯だけ」 き、ハッとなる。向、つで、水原があくど ローズ「 ( パッと顔を輝かせ ) ほんと引」 ローズの家 化粧の、明らかに売春をしているエレ 正邦「ああ、たまにはええやろ」 ンに瓶を見せびらかし、一軒に入ってゆ のどかな朝。ステレオから流れる音楽。 ローズ「行こ行こ ! 」 く。あとを追うエレン。ローズ、その方 ソフアにそっくりかえって新聞をめくっ とび上るように喜ぶローズ、正邦をせき ヘーー破れた窓ガラス越しに中を覗いて ているローズ、ギクッとなり食いいるよ たてて店へ入ってゆく。 息をのむ。 うに見入る。ローズ、茫然、その手から 新聞がすべり落ちる うまそうに ) ンヨッキをあけるローズ エレンのポロ長屋 三面記事の片隅に全盛期のエレンの写真ローズ「うわア ! おいしい ! 」 ととーもに 生臭くからみあっているエレンと水原。 『戦後ストリップ界の女王 水原に押しひがれたエレン、快楽の声の エレン滝川、行き倒れで死す』 ローズの家 合い間に切れ切れに、 次々に引きあけられてゆく冷蔵庫、戸棚、 エレン「チュー ・ : チューおくれよオ : タンス。ひっぺがされる敷布。ぶちまけ 舞台 109

7. シナリオ 2016年1月号

たみに近づいてくるその男、前まで来て、 ねえが」 神社境内 ( 夜 ) 被り物をとる。 新六「 : : : 樹がのうなったらあるとこ行って 村祭り。 切ればええ、土地に縛られるだけがええと 村歌舞伎が始まっている。 近くにあった鍬を手に取り、治兵衛に向は限らん」 五〇人ほどの村人が観劇している。 けるたみ。 たみ「また難しいこと言うて」 たみとりつ、新六もいる 治兵衛「・ : 新六「考えちゃいけん、思うたとおりにせえ」 賑やかで騒がしい 去っていく治兵衛。 象の被り物の治兵衛が舞台へ突然現れる。 〇 万蔵の住処・中 ( 夜 ) あまり違和感なく交ざった治兵衛。 〇 新六の家・外 たづがいる あたりはサプライズに盛り上がる たみとりつ ( 7 ) がやってくる。 治兵衛「 ( オフ ) おばさん、暫く居ってもえ たみはハッとしている りつ「おじちゃんおるか」 えか」 笛や太鼓もクライマックスに向け盛り上 新六「おおりつ、来たな」 戸を開けるたづ。 がりはじめる りつ「相撲しよう」 治兵衛が立っている 象が芝居に交ざろうとするがなかなか入一 新六「相撲か、よしとろう」 れてもらえない。 たみ「大丈夫か」 〇同 ( 朝 ) 笑いが起こり観衆は象の滑稽さに釘づけ一 新六「大丈夫じゃ、世話ねえ」 目覚める治兵衛。 になっていく りつ「あたし徳右衛門な」 棚に置かれた大徳利に気づき、それを手 突然、治兵衛が動きを止めた、動かない 新六「 ( 微笑み ) おお、こい」 に取る。 音楽も止まり、辺りが静まる りつ「いくよ」 開けてみると中には以前自分が入れた天 被り物を脱ぐ治兵衛。 狗状が入っている 「どうした」「治兵衛じゃ」「だらすが、何 〇 新六の家・居間 治兵衛は天狗状の裏に何か書かれている 処で遊んできた」などと観衆がざわめく。 床に横になる新六 のに気づく。 新六とたみは治兵衛を見つめる。 たみがかゆをつくっている。 見てみると、 治兵衛「 : : : わしはここから逃げた、たみを 新六「お前はどねえしてえんじゃ」 「きんきらきんはきんきらきん、死ぬ気残して、自分の命ほしさに逃げたんじゃ」 たみ「正直よう分からん」 で生きろ、どあんごう」と書かれている 「よう帰ってこれたもんじゃ , などと。 新六「まだ好いとんか ? 笑う治兵衛。 観衆からものが飛んでくる。 たみ「七年も居らんかった人、そねえなわけ 治兵衛「・ : ・ : 」 たみ「 ! 」 〇

8. シナリオ 2016年1月号

ち、 3 年半もの間、岡山で生活することになるとは、当 新しき民』ノート 時の私は知る由もなかった。 新しき民』に至るささいな手記 山崎監督は、真庭市で農業をしながら、映画を作ろう とする異色な作家だ。私は月並みだが東京で仕事をしな ( プロデューサー ) 桑原広考 がら、自主映画を製作していた。そして、初めてプロ デューサーを務めた映画『へばの』 ( 木村文洋監督 ) が 『新しき民』に関するあれこれを記そうとすると、一体岡山で上映され、そこでの山崎監督との出会いから「ひ 何から書けばと迷ってしまう。私にとって、強烈な出来 かりのおと』の企画が生まれることになった。『ひかり 事がたくさん起こっていたのは間違いないのだが、どれ のおと』は地元の酪農家をモデルにし、全編真庭市で撮 影した。完成した年、東日本大震災が起こったことも影 も曖昧な記憶としてしか浮かび上がって来ない。 響して、劇場公開ではなく、まずは作った場所から、自 「新しき民』は、江戸時代中期、現在の岡山県真庭市に あたるところで起こった百姓一揆をモチーフにした時代分たちで上映して回るという方法をとった。そして、こ 劇映画。それを自主映画として製作する。いわゆる大作の巡回上映が、私の人生をさらに変えていくことになる のだった。 と呼ばれるような映画に携わったこともなく、何か大き 真庭市は、岡山と言っても、北に位置し、鳥取との県 な後ろ盾もない私には、あまりに無謀な試みだった。そ のことが私の記憶を朧気にしているのかもしれない。し境に近い。特に山崎監督が住んでいる山間の地域は、冬 の時期は雪深く寒さが厳しい。私は監督の家にお世話に かし、映画は無事に完成し、岡山県内での上映や国内外 の映画祭出品を経て、いま劇場公開を迎えようとしてい なり、歳を超える監督のおばあちゃんと三人で共同生 る。その成り立ちの断片を、私が岡山県に移り住むとこ活をしながら、宣伝と上映に明け暮れた。埼玉県のべッ ろから紐解いていこ、つと思、つ ドタウンで生まれ、ほとんどを都市で生きてきた私に とって、その暮らし全てが驚きの連続だった。大を見、 2011 年 9 月。私はそれまで働いていた会社を辞め た。山崎樹一郎監督の前作「ひかりのおと』を岡山県内猿を見、雉を見た。鹿は食べた。本題と逸れるので以下 は省略。最終的にはカ所、 100 回の上映をするまで 各地で約半年間、巡回上映するためだ。この時、私は芻 となり、多くの人たちと出会い、直に向き合うことが出 歳。この選択もだいぶ無茶なものだったが、それからの

9. シナリオ 2016年1月号

主的な人である。民主的であろうと努力し人情家でありながらインテリでありたいみ ている人である」と ( 笑 ) 。僕も久さんは たしかに努力して民主的だったり誠実だっ 渡辺山野一郎さん的な芸の道っていうの たりされた部分があるような気がしてですもちゃんと流れ込んでいる気がしますし。 ね。 森川非常に知的でありながら、やつばり 森川体質的にはそうじゃない。民主的非常に情のあつい人であると じゃないですよ久さんは。努力してそうあ渡辺そこらへんですか、重喜劇に必要な りたいと。 のは ( 笑 ) 。 渡辺そうですよね。だから、ほんとに優森川やつばり単色に染まっちや重喜劇に しかったりストレートな正義漢そのものな ならない。色は赤だと思ってたら青だった んですけど、もちろんそういう資質の人りね、面白いのは だったんだと思うんですけど、やつばり戦渡辺僕なんかずいぶん長く付きあわせて 争体験で、言葉にできないようなきつい目 いただいたんですが、やつばり「山内久」 に合って、人間のどうしようもないところ は全然わからないですね も見て、自分は絶対その反対を生きると心 森川わからないほうがいいです。いろん に決めたようなところがあったんじゃない な面があるほうが魅力的です。ただ僕が結 , 刀 論を一点挙げれば重喜劇の担い手がほしい 森川久さん、いろんな面ありましたよね。なと ( 笑 ) 。 やつばり兄妹のなかで揉まれてもいるし、 渡辺おまえら重喜劇を書けるか、という 自分のなかの正義感をバッと出すようなと ことですね。 ころもあるし、思いやりもあるし、非常に 書いてほしいというね。 山内久 ( やまのうち・ひさし ) 1925 年生まれ。東京都出身。東京外語大仏 文科卒。松竹大船脚本研究所を経て、年、同 脚本部に入る。年以降フリーに。主な脚本、 映画「幕末太陽傳」「果てしなき欲望」「豚と軍 艦」「若者たち」「私が棄てた女」「アッシーたち の街」など。テレビ「若者たち」「海のあく日」「春 風馬堤曲」「破獄」「北の海峡」「雪」など。 9 月 四日老衰のため死去。 森川時久 ( もりかわ・ときひさ ) 1929 年生まれ。東京都出身。映画監督、演 出家。主な作品、テレビ「われら青春」「夏」「若 者たち」「みつめいたり」「女のがん病棟」など。 映画「若者たち」「若者はゆく続若者たち」「若 者の旗」「わが青春のとき」など。 渡辺千明 ( わたなべ・ちあき ) 1950 年生まれ。兵庫県出身。脚本家。主な 作品、映画「十八歳、海へ」「かまち」「ジャイ ブー海風に吹かれて」など。テレビ「あいっと私」 「ドキュメンタリードラマ昭和・連合赤軍の崩壊」 など。

10. シナリオ 2016年1月号

お勘定はこれでね」 エレン「わたし ? わたしゃ幸せにやってる だと賞めさえすれば何でもくれちゃうんだ と大入袋をポンと放って奥へ よオ、結婚したの結婚。大森でね、飲み屋から。せびれるだけせびりとるつもり」 主人が袋の中をさぐると五十円札が出て始めてね、こんな小汚ない店じゃないよ、土井「小娘のくせに、やるな、お前」 くる。逆さにふってもそれ一枚きり、眼 一度飲みにおいでよオー ミチ子「フフフ、どうせ向うはスターじゃな をパチクリの主人。一同もあっけにとらローズ「惜しいわ、おねえさんほどの人が引 れている。 退したなんて」 正邦「すみません、金を持たせなくなってかエレン「今更なにいってんの、そうそ、あん雪ヶ谷のローズの豪邸 らあいつ、五十円も一万円も区別がっかな たに会ったら渡そうと思ってたもんが クラシックの流れるデラックスな居間。 くなっちまって」 ( と懐をゴソゴソ探ってツンパをひつばり 婆やがソフアのローズのところへしずし 主人「ようがすようがす、ジプシーさんなら だし ) これね、五年もわたしが愛用したや ずと紅茶を運んでくる。ローズ、見飽き これでも、 つだよ、多少匂いはあるけどさ、わたしの たよ、つな顔で山のよ、つなファンレターの 〇 代りにうんと男をノーサッしちゃってよ」 宛名だけ見てポイボイ放り出している 手拍子を打って賑やかに乱れている一同。 言うだけ言ってローズの胸にもたれコ 正邦が来て、 ローズ、富田や土井の酌を受け、一人静 トッと眠るエレン。 正邦「どうしたんだい。ばかに浮かない顔を g かに女王然と飲んでいる。正邦はローズローズ「 ( ツンパを手にほろりとして ) おね してるじゃないか」 の眼を盗んでミチ子の尻を撫でている えさん : : : 」 ローズ「 ( 立ってピアノのキーを叩き ) 前か そのとき、声 ら言ってるでしよ、旅に出たいのよ」 安ホテルの一室 「よオ ! お酒もってきてよオ ! 」 正邦「判らんね、君の気持。ギャラはどんど ローズ、見ると、向、つの席でべロべ口に べッドでもつれあっているミチ子と土井。ん上ってるし、こうして家も買ったし、何 酔っ払ったエレンが喚いている 土井、ミチ子の指にはまっている指輪に が不足でそんなーー」 眼をとめ、ぐいと引き寄せて、 ローズ「 ( 立っていって ) おねえさん : ・ ローズ「 ( ピアノをバタンと閉じて ) つまん エレン「はン ? ( と酔眼ですぐには分らぬ様土井「ダイヤじゃねえか ! どうしたんだ ! 」 ないのよ、家と劇場を行ったりきたりして ジプシーちゃんじゃな 子だが ) よツー ミチ子「貰ったのよ、ジプシーさんに。安く るだけなんて。それにわたし一人で思いっ みても三十万はするわね」 切りワンマンショーもしてみたいし。ね工 久しぶりだね工 ! ( とローズに抱き 巡業に行こうよ」 つきひっくりかえりそうになる ) 」 土井「サ、三十万 ( と改めてみる ) 」 ローズ「 ( エレンを椅子に坐らせて ) おねえ ミチ子「 ( 指輪をサッとひっこめ ) チョロイ正邦「しかしなーー・」 さん、いまどうしてるの」 もんよ、ジプシーさんなんて。綺麗だ綺麗ローズ「 ( すねて ) わたし、引退しようかな」