富江「ねえ、伸子さん」 富江の顔色が変わり、震えるような声を 出す。 富江「ーーーおじさん、なんかおかしかよ」 靴を蹴るように脱ぎ捨ててダッと部屋に 駆け上がったおじさん、伸子の額に手を 当てると大声で叫ぶ。 上海のおじさん「医者 ! 医者ば呼んで来 土間に下りて手早く靴を履くとドタドタ と足音荒く家を飛び出す上海のおじさん。 取り残された富江、呆然と生気を失った 伸子の横顔を見つめている そして呟くように語りかける。 富江「あんた、たった一人で、一人きりで死 んでしもうたとね。ーー・可哀想に、可哀想 富江の目から涙が溢れ出し、声を上げて 泣き伏す。 天井から下がったワット数の低い電灯が ゆらゆら揺れている 掛け布団の上の伸子の細い指にもう血の 色はない。 教会・中 聖歌隊が心を込めて葬送の聖歌を歌って 伸子の葬儀に集う親戚や近所の人々。 冬の柔らかい日差しが、つましいステン ドグラス越しに参列者たちを照らしてい る 祭壇に置かれた伸子の棺。 花に飾られた在りし日の写真。 参列者たちの最前列に町子と正圀が並ん で立っている 町子、溢れる涙をしきりに拭う。 参列者の中に懸命に鳴咽を堪える上海の おじさんの姿もある その悲しい葬儀の中に佇む二人の姿 伸子と浩一一。 じっと町子と正圀の姿を見つめている浩 二の目に涙が浮かぶ。 その横顔を見た伸子が浩一一を促すと、一一 人背を向けて歩き出す。 参列者の中に和代と娘のすみれがいる すみれ、伸子の姿を認める。 笑顔で手を振る伸子。 嬉しそうに応えるすみれを和代が叱る やがて、教会の扉が開き、伸子と浩二の 姿は明るい光の中へ消えていく 聖歌が交響楽に変わると共に、一一人を包 む世界が美しい天国の色彩に彩られる その色彩が雲のように動き、何千何万の 人々の姿が見え隠れする中に伸子と浩一一 の姿が消えていく。 そして、クレジットタイトルが始まる タイトル この作品を井上ひさしさん に捧げる。 終わり
新しき民 〇 や失礼、今日は久しぶりに憂さが晴れた、〇同・中 治兵衛「 ! 喬之介」 いやあかたじけないー 杉作が入ってくる。 治兵衛は辺りを見回し自分の長屋へ喬之 治兵衛「いえ」 治兵衛はわらじを黙々とっくっている 介を連れて入る。 伊織「実はな、 杉作「あっこやったらここ痛い、そこやっ と、刀に手をかける伊織。 同・中 たったらまたどこ痛いゅうてほんまわしな〇 はっとする治兵衛。 んか全部痛いゅうねん : : : 」 治兵衛と喬之介が入ってくる 伊織「待て : : : どうした」 治兵衛「 : : : それがおめえの仕事じやろう治兵衛「ここにおれ」 刀を少し鞘から抜くと竹光。 が」 と、治兵衛は長屋を出る 治兵衛「・ : : ・」 杉作「わかっとるわ」 杉作と喬之介が見あう。 伊織「笑えよ」 治兵衛「 : : : しゃあないな、横なれ」 治兵衛「 : 杉作を横にすると、指圧を始める治兵衛。〇 伊織の長屋・中 杉作「痛つ、へたくそ、痛いがな」 治兵衛がやってきた。 〇 伊織の長屋・中 ( 夜 ) 治兵衛「辛抱せえ」 伊織が伏している しんは内職で張りばての地球儀をつくっ 隣の長屋から何かの壊れる音。 しんが傍で放心 ている 治兵衛ははっとする 立ちすくみ何も出来ない治兵衛。 伊織、神妙に座する。 すぐに隣の壁に耳を近づける。 しん「長いほうも手放してはどうでしよう」伊織 ( オフ ) 「おおおお」 治兵衛の長屋・中 伊織「 : : : そうしよう・ : ・ : しん、お主の里へしん ( オフ ) 「 ( 悲鳴 ) ー 身震いの喬之介。 ともに帰るか・ ・ : はじめから出直そうでは治兵衛「 ! 」 となりには杉作。 ないか、侍ではなく」 長屋を飛び出す治兵衛。 治兵衛が戻ってくる 治兵衛「おいー 治兵衛の長屋・前 同・前 喬之介「神尾伊織 : : : この手で」 杉作が来る 出たところで喬之介と衝突し倒れこむ治治兵衛「 ( 呟く ) あんごうが」 不審な青年 ( 喬之介 ) とすれ違う。 兵衛。 喬之介「五十一人が斬首、さらし首、磔・ : 青年を見る杉作、あまり気にせす治兵衛 見合うふたり。 あいつはその御大 : : : 山中を捨てたそなた の長屋へ。 治兵衛「 : : : 」 には分かるまあ」 喬之介「治兵衛さん」 と、震えながら。 〇 〇
を る人間として動いているわけですが、日本の場算がらみで、どうするの ? ということは求めら 合は撮影所があった時は、ただデザイナーと一一一口れてるわけです。プロデューサーは、この予算 制本 日 美 われていました。撮影所では製作課というお金の中でやって下さいとしか一言わないわけですか 督 を扱、つところがあって、その中に美術部があっ ら。だから予算が減ったとか減らないとかじゃ て、ロケハンしたり、セットの図面を書いたり なくて、極端にいえば五百万でも五億の予算で して。その図面がいくらかかるか社内の予算が も一緒なんです。五億の予算がかかる作品とい 高台 舞初 出ます。それが出て、今度は製作課の中で、デ 、つのはそれだけの内容を持ってるわけです。そ ザイナーからこう返ってきたぞ、こうしろってれを使って余るということはないんですよね 澤 レ長 テ日事言ってるよ、いくらだよとなって、それを最終五億というのはオー ーですけど、二億三億の 。白理 退「会的な出口まで、予算の中で組み込めるか、組予算を使うとなれば、それなりの内容を求めら 中年協 科 1 督み込めないかということをやってきたわけです。れているはずなんです。じゃあ、三百万とか 文 8 監 だから独立して立っプロダクションデザイナー 五百万とかだったらどうかと言ったら、当然そ イ 9 筰 学 1 美 が育たなかったというか、意識としてあった人の中で、やり繰りして、どれだけ十全な空間を 大、ピ 治てレ はいますよ、創成期から、水谷浩さんは衣装メ 作れるかであって、三百万も三億も変わらない 明経テ イクまで、『新・平家物語』 ( 一九五五 / 脚本依んです、僕らにとっては。だから映画の予算が ラジ田義賢成澤昌茂辻久一 / 監督溝ロ健一 l) では全少なくなってどうだこうだって言ったって、そ 一仂。部書いてます。ただ撮影所の製作課の中にいるれが現実だからしようがないんですよ。その現 工の限りにおいては、なかなかそういう意識が育た実を受け止めて、じゃあ三百万でなにができる 義イ かをやっていくための知力とか体力とか経験値 仁龍」制なかった。逆に内田さんとかそ、つだとうけど、 る纉ル物撮影所外のプロダクションは否が応でもプロダを逆に一一一〕えば、今求められている。だから経験 の少ない若い人たちが集まって撮ったら、その 開ル森クションデザイナーにならざるを得ないわけで 也 すよ。撮影所では、大先輩たちはいいセットも 三百万がど、ついう使われ方するのか分からない 哲剛神胸 学「 2 建てられますけれども、お金に関しては、プロ ですけど、たぶん僕らがその三百万を使えば、 / 面 ) 品仮 内 ダクションデザインという考え方はちょっとなそれなりの使い方ができるんじゃないかなとい 」かった。なかったとい、つか、それは企業として う感じがしますね 当夜 担 ( 十ム ちょっと長くなりますが、ある時から、 O(.D 画儚一やったんで。で、今、撮影所は昔のような機能 用れの回を果たしてないから、じゃあど、つなるのかと が使えるということになった。僕の話をつい 場一 9 奪 劇ゅ」生言ったら、結局は美術監督と一言われてる人たち、でにしますが、オムニバス映画『怖がる人々』 な屋ン人 主酒ゴ 2 若かろうが年取っていようが、台本に対して予 ( 一九九四 / 脚本・監督和田誠 ) に『五郎八航空』
外に出た一一人は立ち止まり、 〇きこり場 めえもしよっぴかれようが、気つけねえ」 新六「たみはええようになりよるか」 切り倒した樹で遊ぶかのように作業する喜八「ふふ」 治兵衛「もうだいぶ近こうなっとるように田 5 木地師たち。 治兵衛「へい」 いますー 喜八と喜重が作業をしながら話している。 過ぎ行く治兵衛。 新六「そうか : : : 治兵衛」 喜八「なんほ樹出してもおえんわ」 治兵衛「へい」 喜重「百姓らも今年はおえんでいいんなさる」〇 万蔵の住処・外 新六「わしもたみも出所は木地師じゃ、山の喜八「あいつらは世話ねえんで」 治兵衛がやって来て戸をたたく。 ことは分かっても正直百姓のこころはよう喜重「なして」 万蔵 ( オフ ) 「おおい」 分からん、」 喜八「食いもんつくりよんじやけえ、なんば 木戸を開け、中へと入る治兵衛。 治兵衛「へい こころですか」 うでも持っとらあ」 新六「うん ? 」 喜重「じゃあじゃあ」 〇同・中 治兵衛「いや」 喜八「そねえなもんじゃ 中は薄暗くわずかに光が射すだけ。 新六「父上も厳しゅうなった年貢を納めきれ喜重「わしら木地のもんは樹切って、なんば 床に座り、咳き込む万蔵 ( ) がひとり いる んで、この所あのような振る舞いばあじゃ椀作っても椀やこう食えりやせんけえな」 けえ、悪いな」 喜八「いっぺん食うてみねえ」 万蔵は寒さのあまり震えが止まらない 治兵衛「せわねえです」 喜重「あんごう」 万蔵「治兵衛か」 新六「すまん」 治兵衛「万蔵、いまあどっこもまともな食い 喜重「おいよー」 もんのうてな」 〇 大衆浴場 ( 夜 ) 喜八「あいやー」 万蔵「今に始まった事じゃなかろう」 湯煙うっそうと上がる中、たみ、みち、 掛け声と共に大木が下へ転がる 治兵衛「こんだけしか分けれん」 喬之介が浸かっている 治兵衛がそれを横目に通りかかる と、少々の食料を万蔵に渡す治兵衛。 たみ「喬ちゃん、この子生まれてきたら遊ん喜八「おお治兵衛」 袋の中を確認する万蔵。 じゃってえな」 治兵衛「ご苦労さんです」 万蔵「悪い : : : 麦はもう蒔いたんか」 喬之介「おお」 喜八「こねえな奥まで来てどけえ行くん」 治兵衛「蒔けれんけえ往生しよる」 みち「えらそうに」 喜重「万蔵とこじやろう」 万蔵「なして」 たみは腹を気にする 治兵衛「へい」 治兵衛「秋米みな納めんと蒔いちゃいけんゅ 喜重「あげえな盗人百姓と関わりよったらお うて」
ていくと、ドラマをやった時に苦しむ。苦しむ 私も部屋の中、飾りのどういうことを、 美術助手さんが作ってよみたいになっちゃうん んだけど、用意する側の親分になってるわけで じゃないかね、ばやばやしてると。 どの位の大きさでって、デザイナーになって初 こっちに仕事が増える分、仕事がなくなめて意識して見ることができたということがすから、おかしくても誰も文句を一言わないんで る業者も出てくるということじゃないですか。あって、それがさらに私よりも下の人間になっすよ。そこへ役者が入ってくる、話が戻るよう てくると、デザイナーにならなければ経験できですが、今村さんのように中も外もみんな作れ そういう意味では特撮の三池 ( 敏夫 ) さんがミ みたいな、緊張感の中に入っていくのとは違っ ないんだなあってすごく思います。私は最初に ニチュアの仕事が随分と減ってるという話をよ くされますけど。 稲垣 ( 尚夫 ) さんの身近にいて見ることが多少て、あれちょっとおしゃれねってことで事が始 まっちゃ、つと、役者の緊張も下がるとい、つこと それはよく聞きますね。以前、東宝映像美できたんですけど、今の助手さんは名刺一枚作 が十分起こりえますね。僕の知る限り、今、幾 術でちょっと仕事したんですけど、もう特撮部るのに何日もかけてみたいなことしかやってい らでもありますよ。僕、たまたま東映の撮影所 ない子かいつばいいる。だからこそデザイナー が遊んでるって言ってました。 にいるんで、持ち込まれるコマーシャルや映画 になるきっかけも狭まってきているのかもしれ 特撮氷河期って一一一口うけど、やつばり波が の図面を見る機会があるんですが、ホンを読ん ないですね。彼女をデザイナーにしようって声 あって。デジタルで何でもできるからデジタル でないから分からないけど、それにしてもって をかけるチャンスとい、つか、プロデューサーか ばかりになると、やつばりアナログチックな いうのは結構ありますね。昔は撮影所の中にデ らしても助手の時点での力量を見ることができ ちょっと不安定なほうが、ぬくもりがあってい てないから、彼らをデザイナーにできるのか見ザイナー室があって、誰かが描いていると先生 7 いという風になったり。『ウルトラマン』も一 ハランスも 時はフルになったけれど、今はまたミニ分けがっかない。窓口というのか、デビューすたちが覗きに来て、これおかしい、 るタイミングとい、つのはもしかしたら難しく 変だぞっていうようなことがあった。自分はの チュアのビルを並べて壊したりしてる。なんか なってるのかも めり込んで描いているから気づかないんですよ その繰り返しのような気がしますね。 若い人がいつばいコマーシャルやりますもうホントビックリするような経験か何度もあ りました。そ、ついう経験はも、つできないですよ よね。彼ら、先生がほほいないんですよね。ちゃ 助手をどう育てるか さきほどデジタル化で便利になった反面、んとした建築知識もないから変なことをやってね。だからさっきの話でいえば、そういう風に してデザイナーになっていく人はも、つ仕方ない 美術部の仕事が分業化されてしまい、助手さんも、別に監督が画を見ていいじゃんって言えば というか。僕らは自分についた人には要以上 もうそれでいいんですよ。例えば茶室を作るに がオペレーター化しているというお話が出まし に意味も話します。昔は先生たちは一々教えて たが、そんな中でどう助手さんに知識や経験やしても、「茶室』とネットで引いて色々出てく くれないですから、見て覚えろだったんですよ る画像の中から一個選んでこっちとこっちを組 技術を伝えていってるんでしようか 内田これからホントにどうするんでしようね。み合わせて、これでどうだっていうようなことね。今はみんなフリーだから、ずっとチームで はやってはいけないけど、ついた助手さんには をやるんですよね。だから変な茶室ができたり、 ホントの映画作りと言ったら何ですけど、そ、つ いう経験のない人が上に立ってどうなっていく滅茶苦茶やってるわけです。彼らだって一生懸出来るだけ理屈を教える。もう見て覚えろって んだろ、つ、ちょっと分からない 命勉強するんだろうけど、そ、ついう環境で育っ時代じゃないんですよね 岩城 内田 岩城 小澤
後 のスー バイザーが山崎貴さんです、白組の。 やりますと言って、東宝に大きなプールを作っ の そ て、そこに船を入れてやりました。にも限 当時、山崎さんは二十八、九才で、彼自身だっ 事 てそんなに技術はなかったはずです。で、かな度があるわけですよ。だからそこは誰が引っ り苦労されて、十年経って三張っていくかって話になるわけで。で、抜けの 夫参 丁目の夕日』三〇〇五 / 脚本山崎貴古沢良太プールの先はやって下さいよって。朝になって 尚こ 垣品 / 監督山崎貴 ) にいくわけなんです。僕はその海がすっと続いてるって、それはホントうまく 海 の剛 やってくれましたよ。その後、僕は『俺は、君 後「北京原人』 (一九九七 督映 物南 監の / 脚本早坂暁 / 監督佐藤純彌 ) を一年かけてや のためにこそ死ににいく』 ( 二〇〇七 / 脚本石 美多 りました。これこそのあけばのですね、日原慎太郎 / 監督新城卓 ) をやって。これは東映 岩 卒 本の。その頃にオムニバスジャパンが合成編集の特撮研究所の佛田 ( 洋 ) さんが指揮しながら、 学克 大澤 機器のインフェルノを二台入れて、二十四時間 ミニチュアは完璧に作りましたが、そこで僕は 期中 動かしながら、ずっとやってました。「北京原いよいよの時代だな、昔の東宝映画みたい 短の 術督 にミニチュアでゼロ戦が飛んで、雲流して、寄 人』はえらい思いをしてやりました。字宙行っ 美監 子術 りだけコクピット撮ってとい、つのとは違う時代 たり何したりですから。宇宙船の中もワイヤー 女美 で吊って、何十本というワイヤーをフィルムでかいよいよ来たなって感じがしたんですね。で、 3 という一篇がありまして、台風の中、セスナとすから一コマすっ消していくわけです。その辺 「怪物くん』三〇一一 / 脚本西田征史 / 監督中 いうか飛行機が飛びまわるんですね。僕らはミ のところで育った人がいまトップになってるん村義洋 ) 。これはインドのお城の一部を作った ニチュアを作り、コックピットを作り、あとは だけで、あとはほば OC 。だからロケは何日も ですよね。 スクリーンプロセスなり何なりでやる。で、見 してないですが、と、つと、つここまで来たかって 『北京原人』が日本の合成のあけほのとい た眼は撮ってくるという方法論しかみんな思い うのはすごいですね。 感じがしましたね。もうそこである種行き着い つかなかったわけですよ。だけど、プロデュー てる感じがしたんですね。その代わり、その時 その後『花田少年史幽霊と秘密のトン サーがってどこまでできるかと一一一一口うわけで なにをしたかというとぜんぶの図面を書いたん ネル』三〇〇六 / 脚本大森寿美男 / 監督水田伸 す。当時、はほほなかった、ってなん生 ) をやるんですけど、その年にイマジカが > ですよ、お城の。塀も敷地も中にあるべき建物 も。資料を集めて、城の中になにがあるかって、 だっていう感じ。たかだか一一十年前でそれです部門を正式に、前からあったかも知れない その一個一個の図面をぜんぶ書いて、チー からね。パソコンなんか誰も持っていません。けど、立ち上げて、やらせてくれと。で、僕に 監督がやりたいって踏み切ったんです。スク ムに渡すんですね。で作る空間とセットで は船を作ってくれたらいい、彳 ( ぜんぶ自分た リーンプロセスして、下地を撮り、コックピッ ちでやります、嵐も何もって言ったんです。あの実写を繋ぐ、共通するコンセプトデザインが トはセスナを割ったやつを借りてきて、それを 必要なのです。かなり人手もかかったんですけ なたたちの挑戦しようという気持ちも分かるけ セットに入れて撮ったりして。その時の ど、僕はちょっと効果が分からないんでナマでど、でもまあ、それなりにみんな分かってくれ 小澤
母と暮せば ようにして家の中を覗き込んでいる ことばかり、母さんに会いたか母さんに会 浩二、笑う。 いたか、そればっかい思い続けていたんだ 謙一、その中に加わり、兵士たちを引き 浩二「したした。そがんもんで食っていける よ。そいけど、ほくの方はさ、お別れを言 連れて雨の中を去って行く。 かって言われて頭に来てさ」 う時間なんかなかったとさ。あっという間 居間の障子が音を立てて乱暴に開き、伸 伸子「喧嘩したってどうせかなわんくせに」 に消えてしもた。何があったか分からん 子が顔を出す。 浩一一「柔道二段やもんな。肩幅なんてこんな やった、自分でも」 で。父さんに似たんだな、あの体格は」 階段を浩二が下りてくる。 伸子、慌てて浩一一を宥める 伸子「そのお兄ちゃんが最後に私に会いに来浩一一「母さん、どうしたと ? 伸子「そうだったわね。突然消えてしまった たときは、こんなに細うなってしもうて」 電灯を付ける。 んだもんね、浩二は。ごめんね、変な言い 伸子、青白い表情で呟く。 浩二「会いに来た ? 」 方して」 伸子「ほら、あんたが大学に入った年。四月伸子「お兄ちゃんが来たの」 浩一一「出征する前の日に、兄ちゃんはほくに 九日。お兄ちゃんが戦死した日よ」 浩一一「ええっ ? 向かって浩二は文科じゃなくて理科に行け 浩二「ああ、夢枕に兄ちゃんが現れたって。伸子「そこに。髭をほうばう生やして」 浩一一、指差された場所を見ると、板の間 あの晩のこと ? 」 そいで医者になってお母さんを守らんばぞ、一 怖い顔してまるで遺言みたいに言うたけん、 がびっしより濡れている。 まく、その言葉に従って長崎医一 伸子「戦死したとよ、あの子。きっとそうよ」仕方ない、 ( 同・台所 ( 回想 ) 大を受けたっさ」 ガラス窓から月光が差し込んでいる。 伸子、突然、顔を覆って泣き出す。 伸子「医科大学なら召集猶予だし、卒業して 上がり框にポロポロの軍服を着てびしょ 召集されても軍医だから戦死することはな 濡れになった長男の謙一がうな垂れて 同・浩ニの部屋 ( 回想あけ ) そう思って安心しとったんだけど」 浩一一、伸子の傍らに腰を下ろす。 座っている 浩二「結局、同じことやったね」 暗い居間の布団の中で、苦しげにもがい浩二「兄ちゃん、母さんに会いに来たんだ。 伸子「そうね」 よっほど会いたかったとやろな」 ている伸子。 伸子「遠いビルマから遙々お別れを言いに来浩二「しようがないよ、そいがばくの運命さ」 叫ばうとするが声が出ない。 たのね。浩二はどうして来てくれんやった伸子「運命 ? 起き上がることもできない。 伸子、戸惑ったような表情で浩一一を見つ 謙一、深々と溜息をつくとよろよろと立 と。すぐ近くにおったのに」 め、首を横に振る 浩一一、悲しげに伸子の横顔を見る ち上がり杖をつきながら台所を出て行く。 開け放したガラス戸の向こうの暗闇に大浩一一「あんね、兄ちゃんはさ、何日も何日も伸子「違う。台風や津波は防ぎようがないか ら運命だけど、これは防げたことなの。人 勢のやつれきった兵士たちが折り重なる ジャングルの中を彷徨いながら、母さんの
日本シナリオ作家 協会ニュース JAPAN WRITERS GUILD BULLETIN VOLUME 432 美術監督の仕事とは すうの ま負る フィルムからデジタルになって、どのような変化があ 背き りましたか。 伺をで を来が 僕らの技術って、もう頂上までいってるんですよ 話未に アメリカだってどこだって、これ以上の開発はあるんだろ おのな うかと。本物を建ててもしようがないわけで、いかに本物 し映し と同じようにできるか、道具やセットでもなんでも。もう と 子 召か会技術的には届くところまで届いている。使っていく技術の おの協中にが入ってくるということだと思うんですよ。僕 へ協莊大。 らは映る物を想定し、監督と話しをして、その中に技とし ル督城 てのが入ってくる。そこでなにが変わったかといえ ば、昔はシナリオを読んで、こんなの撮れないよね、とい タ襤岩田。酬 会ど難 うのは前段で弾かれてたわけです。村一個って言われて 美称 、敬太協よ困 もって。だけど今はできちゃう。僕らの仕事は書いてある 画デヒ也 野督が 企 ことをいかに実現していくかとい、つことですから。プリプ 載ら ~ 哲中襤仕』 ロダクションとは撮影前の準備作業全体を指しますが、僕 生美督く 連か・ 一画ス内紀は監敷らの仕事は、作品の目指す世界観を具現化し、セ「ト・ 0 田目術をケ割り等の方向性を決めていく設計をすることです。文字 木回美ル紳 としてのシナリオをどういう映像空間に持ち込むか。プリ ル本高 行第りレうプロのプリともいえる仕事です。その後、撮影が始まり、 進」な。田 5 イ日秀 編集などのポスプロに行く訳です。予算の制約の中でシナ へ」 ~ 、か A 」 オが行きたい場所に、スタッフをガイドするというのか 澤 ル、つのばリ タよくれな。それがなければ、カメラと照明を持ったってどこにも ンるいけ 行けないわけですから。だからどこに行くか、どこで何を れてい らさてて演じさせるのか、どういう光が入るのか、どこから撮るの 、用育え かっていうことをセッティングしていくのが美術の仕事だ ム多う考 レカどにと思います。 >< を共 それから、アメリカやヨーロッパでは、プロダクション 手 フ 助かデザイナーといって一つの作品のプロダクトをデザインす 小澤
4 てゆく。 くる開演中の音楽に懐しげに耳を傾けて 酒の海の中に上半身弓なりのロ 1 ズ。 劇場の楽屋 倒錯した屈辱と快感 夢中で麻雀牌をかき廻しているローズ。 エレン「ね、場つなぎにわたしに踊らせない 窒息しそうになって絶叫するローズ。 傍に置かれた酒には見向きもしない。 かい。お礼はチュー一本でいいからさ」 他のメンバーの正邦、富田、ミチ子、しミチ子「おばさんがæ: ( ブッと失笑して ) で ローズのアバート てやったりというように頷きあう きるわけないわよ」 と、ローズは、酒のグラスをとり、油断 眠っていたローズ、自分の叫び声に眼を さまし、ガバと起き上る。 なく口へ運びながらッモリ始める。 同・舞台 怖そうに身震いしてあたりを見廻す ゲッソリして、顔を見合わせる三人 エレン、敷布一枚で『テンプテーション』 隣りで、寝たまま新聞を読んでいた正邦正邦の声ーーー 「もちろん酒をやめさせるため を踊っている。見違えるような貫禄と妖 が、不審げに見る にはあらゆることをしました。麻雀でも覚 艶なストリップ演技である えさせたら酒をやめるかと思ったがだめで ローズ、不安が治まらぬように、枕元の 袖で眼をみはっているミチ子。 ウイスキ 1 をガブガプあおる。 した。ところが巡業で浜松に行ったときのミチ子の声「度肝を抜かれちゃったわ、ちょ一 手が震えてガチガチとコップが鳴る。 ことですーーー」 っと貸してって敷布一枚で踊りだしたらピ 2 明らかにアルコール中毒なのである タッと決ってまるで見違えるみたいだった 溜息をついて、見ている正邦 の」 浜松のストリップ劇場・裏出口 ローズ、突然天井を見上げ、バッタとグ ミチ子の前に、買物籠を提げた、中年女 ラスを落とす。 の後姿が立っている。みすばらしい身装 同・楽屋 である。 見た眼にーー天井からザアザア雨が降っ ミチ子が着到したばかりの正邦、土井、 てくる。 富田に興奮気味に話している ミチ子「ジプシーさんならまだよ」 ミチ子「わたしでもとてもああは ロ 1 ズ、べッドから飛びだして、コーモ女「ふうん、これを見て来たんだがね」 ノーだった人だと リ傘をパッとひろげ、天井を指して、 と傍に張ってあるポスターを見やった横きっと名のあるストリツ。、 顔は、痴呆のように変り果てたエレン滝 思ったから訊いてみたんだけど、チューだ ローズ「パパ、雨だよ ! 濡れるよー 川である け持ってさっさと帰っちゃったの」 正邦「雨 ( と天井を見上げてキョトン ) 」 ローズ「早く早く ! 」 ミチ子「私たちは先乗りよ ( うさん臭げに ) 土井「へえ、一体誰かな」 訳の判らぬまま、引っぱられて、コーモ おばさん、知り合い ? 正邦「 ( 独り言のように ) エレンだな」 リ傘の中に入る正邦。 エレン、それには答えず、中から洩れて富田「え ? あのエレン滝川でつか ? 」
汽車が走ってゆく 楽屋の階段 ローズが赤い絨毯を踏んで、ミチ子に風 を送らせながら堂々と舞台へ向ってゆく。 正邦の声「巡業はどこでも大歓迎でした。旭 川のキャパレーでは、楽屋から舞台まで赤 い絨毯を敷きつめるというほどでした」 登別温泉・旅館の大浴場 ( 夜 ) 湯の中で、正邦、ローズの乳房をしゃぶつ ている のけぞってクックッと身悶えするローズ。 二人以外には誰もいない。 ズ正邦の声「巡業先ではいろいろ面白いことも ロ ありました。北海道の登別温泉に行ったと きのことです」 シ プ 突然、ガラッとガラス戸が開く。 ジ 録 ハッとして、離れる二人。 実 見ると、白衣を纏った。盲目の男女のア ンマが入ってくる 正邦「えー」 ローズ「こんなはずじゃなかったわ、したい ことができると思ってスターになったのに ( とさっさと出てゆく ) 」 正邦「 ( 慌てて ) お、おい、君 : : : ! 」 8 アンマ二人、手探りで風呂桶を探り当て、 つまろびっ飛びだしてゆく。 冷たい水を汲む。一一手に別れ、それをい きなり、バサッ ! バサッ ! とふりま 劇場の道具置場 狭く、薄暗い中で、正邦がミチ子を壁に 真っ向から水を浴びせられるローズ、 押しつけ、汗まみれで立ってシている カッとして立ちあがろうとする。 なかなか出ない様子。 正邦、目顔でとめる。 遠くきこえる舞台からの音楽ーー。 アンマ二人、明らかに人の気配に耳をそミチ子「まだ ? わたし、くたびれちゃった」 ばだてている。 正邦「 ( 焦ってカむ ) 待て待て : : : もうすぐ 安心したように白衣を脱ぎ、裸になる そして、浴場の床で、堰を切ったように そのとき、鋭く射し込む光線。 コトを始める。 正邦、顔をふりむけ、ギクッとなる。 濛々たる湯煙りの中、それは奇怪な悪夢 戸口を背に立っシルエットーーー舞台衣裳一 めいた光景である。 のままのローズである 片唾をのんで見ているローズと正邦。 愕きのあまり声もないローズ、その顔が一 アンマたち、床を転って視界から消える 見る見る怒りと哀しみに歪む ローズと正邦、もっとよく見えるように、正邦「 ( かすれて ) ジプシー そっと人工岩に這い上って見物する。 叩きつけるように戸が閉まる。 一一人とも、昂ってきて、押えようとして も息使いが荒くなってくる 貶ローズの家 正邦、耐えかねたようにローズに挑む。 豪華な天蓋つきべッドに横たわってロー 声を殺して、迎え入れるローズ。 ズがミステリーを読んでいる。パジャマ 二組の男女の交合はクライマックス の正邦がおずおずと隣りに潜りこもうと と、ツルッとローズの足が滑る する つながったまま、ドボン ! と湯の中に ローズ、無言で手荒く押しだす。 転げ落ちるローズと正邦。 正邦「いい加減、ロをきいてくれたっていい 二人のアンマ、物音にパッと離れ、こけ じゃないかもう二ヶ月になるってのに。 105