治 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年1月号
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1. シナリオ 2016年1月号

万蔵「地主か」 じゃねえが」 そこへ万蔵の母・たづ ( 絽 ) が捕まえた 治兵衛「いや」 万蔵「治兵衛、きんきらきんはきんきらきん 野うさぎもって戻ってくる 万蔵「庄屋か」 じやけ」 たづ「かかっとったで」 治兵衛「いや、藩じゃいうて」 とむくっと立ち上がる万蔵。 万蔵「おおものじゃ、おかあ、治兵衛にわけ 万蔵「じなくそじゃのう」 治兵衛「何じゃそれ」 ちゃってくれえな」 治兵衛「 ( 笑い ) じなくそじゃ」 万蔵「相撲とるぞ」 治兵衛「ええんか」 万蔵「おめえたみは元気しょんか」 と外へ出る万蔵。 たづ「おお、たみちゃん精つけにやいけん 治兵衛「おう、 ( 笑い ) やや子ができそうじゃ」 じやろ、つし」 万蔵「おおそうか ! やったな」 〇 同・外 治兵衛「おばさん何で知っとん」 治兵衛「おお ( 笑う ) ー 治兵衛「はあ ? 」 たづ「何でも知っとんよ、ここらの山の衆が、 万蔵「飲むか」 と治兵衛が外へ。 たたらや木地師、山伏もな」 治兵衛「 ( 頷く ) おお」 万蔵「奉納相撲じゃ」 治兵衛「そうなんかー 万蔵は徳利からぐい飲みに酒を注ぎ、ひ 突進してくる万蔵。 万蔵「天狗もおるがな」 とつを治兵衛に。 がつぶりよっ。 治兵衛「ほう」 治兵衛「万蔵、また下りてきて一緒にやらん万蔵「わしゃあきんきらきんをきんきらき か」 んって言うただけじゃ 〇 治兵衛の家・外 万蔵「できん」 治兵衛「 : : : 」 治兵衛が薪を割り。 治兵衛「そうか : ・・ : 万蔵ー 万蔵「わしらがつくった米をわしらが食う、 たみは縁台に腰を下ろす。 それが違ゃあおかしかろうが」 たみ「万蔵元気しよった」 治兵衛「おめえ何で話さんかったん」 治兵衛「 : : : 万蔵、おめえカ入らんのか ? 」治兵衛「ちいと弱っとった」 万蔵「はあ ? 万蔵「おめえあったけえな」 たみ「兄さんに言って少し食べ物分けてもら 治兵衛「しよっ引かれた時、ぜんぶ言うて治兵衛「 : : : すまん」 おうか」 謝っときゃあそれほどの罪にはならんかっ万蔵「はあ ? 治兵衛「いや」 たじゃねえんか」 民 治兵衛「助けてやれんで」 たみ「なして」 し万蔵「言うたよ、わしがこさえた米じやけえ万蔵「あんごう、これからじゃ、ここで野の 黙々と薪を割る治兵衛。 ゅうて」 もの食ろうて生きてっちゃるけえ」 たみ「兄さんとこの蔵から万蔵の食う分くら 治兵衛「わしらがこさえた米でもわしらの米 万蔵の投げが決まる。 い減ったってだれも分からんよ」

2. シナリオ 2016年1月号

新しき民 〇 や失礼、今日は久しぶりに憂さが晴れた、〇同・中 治兵衛「 ! 喬之介」 いやあかたじけないー 杉作が入ってくる。 治兵衛は辺りを見回し自分の長屋へ喬之 治兵衛「いえ」 治兵衛はわらじを黙々とっくっている 介を連れて入る。 伊織「実はな、 杉作「あっこやったらここ痛い、そこやっ と、刀に手をかける伊織。 同・中 たったらまたどこ痛いゅうてほんまわしな〇 はっとする治兵衛。 んか全部痛いゅうねん : : : 」 治兵衛と喬之介が入ってくる 伊織「待て : : : どうした」 治兵衛「 : : : それがおめえの仕事じやろう治兵衛「ここにおれ」 刀を少し鞘から抜くと竹光。 が」 と、治兵衛は長屋を出る 治兵衛「・ : : ・」 杉作「わかっとるわ」 杉作と喬之介が見あう。 伊織「笑えよ」 治兵衛「 : : : しゃあないな、横なれ」 治兵衛「 : 杉作を横にすると、指圧を始める治兵衛。〇 伊織の長屋・中 杉作「痛つ、へたくそ、痛いがな」 治兵衛がやってきた。 〇 伊織の長屋・中 ( 夜 ) 治兵衛「辛抱せえ」 伊織が伏している しんは内職で張りばての地球儀をつくっ 隣の長屋から何かの壊れる音。 しんが傍で放心 ている 治兵衛ははっとする 立ちすくみ何も出来ない治兵衛。 伊織、神妙に座する。 すぐに隣の壁に耳を近づける。 しん「長いほうも手放してはどうでしよう」伊織 ( オフ ) 「おおおお」 治兵衛の長屋・中 伊織「 : : : そうしよう・ : ・ : しん、お主の里へしん ( オフ ) 「 ( 悲鳴 ) ー 身震いの喬之介。 ともに帰るか・ ・ : はじめから出直そうでは治兵衛「 ! 」 となりには杉作。 ないか、侍ではなく」 長屋を飛び出す治兵衛。 治兵衛が戻ってくる 治兵衛「おいー 治兵衛の長屋・前 同・前 喬之介「神尾伊織 : : : この手で」 杉作が来る 出たところで喬之介と衝突し倒れこむ治治兵衛「 ( 呟く ) あんごうが」 不審な青年 ( 喬之介 ) とすれ違う。 兵衛。 喬之介「五十一人が斬首、さらし首、磔・ : 青年を見る杉作、あまり気にせす治兵衛 見合うふたり。 あいつはその御大 : : : 山中を捨てたそなた の長屋へ。 治兵衛「 : : : 」 には分かるまあ」 喬之介「治兵衛さん」 と、震えながら。 〇 〇

3. シナリオ 2016年1月号

新しき民 足軽たちに捕らえられ河原に集められた新六「引き返そう、なあ」 大勢の百姓たちが見える。 治兵衛「 : : : 」 松吉が一人の百姓の首を落とす。 治兵衛の隣に万蔵がいる 足軽や侍、三つ寺はそれを黙って見てい 万蔵「どうする治兵衛」 る。 治兵衛「 : : : 」 足軽に囲まれ憮然と縄に付いた徳右衛門万蔵「帰るか ? それとも逃げるか」 カくる 治兵衛、全身に力が入り震えはじめる 「大将確保」などと。 万蔵「たみを捨て、山中を捨て、己が生きる 鋭い眼差しで侍たちを睨む徳右衛門 ことを選ぶか、戻って捕まり、殺されるか もしれん道を選ぶのか : : : おいお前」 〇 万蔵の住処・丘 治兵衛「・ : ・ : 」 新六「 ( 呟く ) 徳右衛門 万蔵は石を拾い治兵衛に渡す。 治兵衛「新六さん、ここも危ない、逃げよう」 受け取る治兵衛。 新六「・ : 万蔵「歯をこげ、人相を変えろ」 脱力している新六、動こうとしない。 治兵衛「・・ : : 」 三つ寺が新六と治兵衛に気づく。 石を自分の顔にぶつける治兵衛。 三つ寺「あねえな所にも、働き蜂じゃ」 新六「 : 数名の足軽が、新六と治兵衛を追う。 治兵衛「わしは行く 新六の手をとり無理やり連れて逃げる治 さらに顔じゅうぶつ治兵衛。 兵衛。 血が垂れる。 新六「治兵衛」 山道 治兵衛「 : : : 」 治兵衛と新六が行く。 新六「生きて帰れ」 立ち止まる新六。 治兵衛「 : : : 」 立ち止まり振り替える治兵衛。 振り返り、新六を置いて進む治兵衛、や 新六「わしは帰る」 がて走り出す。 治兵衛「はあ ? 〇 山道 その後を万蔵が追いかけてくる。 併走するふたり。 万蔵「おい ・ : も、つ一生麦蒔かんでええな」 治兵衛「万蔵、おめえが合うとったんかもし れん : : : 一揆、すなわち毒」 万蔵「あたりめえじやろうが、わしゃ万蔵 じゃ と治兵衛を飛ぶように追い越す。 治兵衛は万蔵の妙な爽快さに何故か顔が 緩む、血は落ちる カット・イン たみが産気づき苦しそうにしている。 みちが手際よく、お産の段取りを整えて一 いる 京の町を行き交う人 テロップ「七年後」 治兵衛の長屋・中 治兵衛が暮らす京都の長屋。 目立っところに当時流行していた ( であ ろう ) 象の被り物が見える。 治兵衛は内職のわらじを編んでいる 杉作が来る。 杉作「ちょっとおらしてくれ」 〇 〇 〇 冖 / 8

4. シナリオ 2016年1月号

新六、天狗状の東 ( 蜂起のお触れ ) を治治兵衛「一揆じゃと」 てくれますかいー 兵衛に渡す。 座り込む治兵衛。 新六「 : : : たたらや木地の衆は動かんぞ」 弥治郎「はあ ? 」 新六「矢谷内の百姓に」 たみ「 : : : 男は好きじゃねえ、赤穂浪士」 新六「徳右衛門」 治兵衛「蜂起じゃゅうて : : : 万蔵もですか」治兵衛「ありや侍じやけえな、わしら根っか らの小作に覚悟せえ言うたかて : : : 」 徳右衛門「なんじゃ」 新六「 ( うなずく ) 頼んだ」 たみ「 : : : 覚悟せえ治兵衛」 新六「山年貢、ならびに諸々運上銀も御免治兵衛「 : : : じやけえどこれ」 じゃ、ちいとは山のもんのことも考えろ」新六「分かるな」 治兵衛「はあ ? 」 徳右衛門「 ( 微笑み ) よし、みな覚悟してくれ」治兵衛「 : : : わしゃよう分からん、新六さん、たみ「たたかえ治兵衛」 「おー」とややうるさい こねえなことしたら、命のうなってしま、つ治兵衛「殺されつぞ」 んじゃねえんですか」 たみ「あんごう : : : 生き抜く闘いじやろ」 弥治郎「しー、声が大きい」 新六「山中惣百姓の決定じゃー 治兵衛「百姓が侍に勝つなんか聞いたことな 新六「揆を一つに」 静まる かろ、つが」 治兵衛「惣百姓って誰のことなら、新六さん、 わしらが百姓で、なんばでも食いもんこさたみ「 : えりやええですが、無うなったら弦でも草 たみは治兵衛の頭を腹に寄せる。 治兵衛の家・中 でも : : : 野のもんも居るし、それでええでたみ「あったけえな治兵衛」 治兵衛がたみの着物の中の股に顔を突っ 込んで戯れている。 すが」 見合うふたり。 新六「 ( 漏れる ) 分かってくれ」 たみ「ひとりじゃ何も出来ねえが、ひとり 治兵衛「 : : : わしや行かん、新六さん、わしゃ じゃねえが」 〇同・外 蜂起なんかしとうねえけえ」 治兵衛「・・ : : 」 新六がいる 治兵衛「新六さん」 新六「 ( 俯き ) おめえが行きとうねえのはよ う分かる、じやけど生まれてくる子のため〇 木地師の作業場 新六「おう」 新六がやって来る。 にも、今のこの山中の在りようを変えにや 治兵衛「たみですかい ? ー あ続いていかんけえ : : : 治兵衛、山中の一 喜八「新六さん」 新六「いや、治兵衛」 新六「おう」 治兵衛「へい」 揆じゃ、行かにゃあいけん」 喜八「 ( 出で立ちを見て ) すっかり百姓になっ 新六「 ( 小声 ) 山中惣百姓が蜂起することに 同・中 てしも、ったのう」 なった」 喜八と喜重はにやっく。 治兵衛「 ? 戻る治兵衛。 〇 〇 8

5. シナリオ 2016年1月号

と、治兵衛に。 峠・山道 新六 ( 肪 ) と喬之介 ( ) が庭で剣術の さんちゅう みち「なしてそねえなこと : : : 」 1733 年の山中。 稽古をしている。 風呂敷を背負い黙々と峠を行く男・治兵 みち ( 四 ) は干された衣類を取り込んで治兵衛「へい、薪をちいとばあ届けにあがっ いる たところ、新六さんのお誘いで」 衛 ( 肪 ) 。 新六「父上」 治兵衛が炭の東を担いでやって来る 〇同・頂 みちが新六に割ってはいる。 喬之介が治兵衛に気づき、 みち「おとつつあん、治兵衛さんほんにいっ 遠くまで見渡せる頂まで来た治兵衛、片喬之介「じへー」 目には眼帯をしている。 もようしてくれて助かっとるんよ、 ( 喬之介 治兵衛「おお喬之介、元気じゃのう、ちいと 広がる山々をただ見つめ、決心し、再び は強うなったか」 を見て ) この子もよう遊んでもろうとるし」 歩み行く。 権右衛門「それがどねえした、小作は小作 喬之介「いいや、好かん」 治兵衛「父上のように強うならにゃあ、小作じゃ」 治兵衛の家・中 にやつつけられてしまうぞ、わー ( とびび新六「今の小作頭がくたびれとってから、ほ テロップ「七年前」 んで子がおらんし、今度目は治兵衛にと思 らす ) ー 治兵衛が入ってくる。 、つとります」 みち「治兵衛さんいつもありがたい、さあ 身重のたみ ( ) が居眠りしている。 権右衛門「わかりよらんの」 と薪置場へ 治兵衛はそっとたみの腹に耳を当てる。新六「飯くうてけや」 新六「治兵衛の先代は頭じゃったゆうて聞い とります」 たみ「聞こえる ? と、治兵衛に声をかける。 少しびくっとなる治兵衛。 権右衛門「おめえよそもんじやけえ一言うとい 治兵衛「へい ちゃるけえどが、こいつの家は万蔵とこと 治兵衛「お、おう」 喬之介と戯れる治兵衛。 よう似よって、取り分がすくねえだの、休 たみ「おかえりなさいー ませろだの根限りごねよった連中ぞ」 治兵衛「大丈夫か」 同・居間 ( 夜 ) 近くの甕の酒を杓であおる権右衛門 囲炉裏に鍋がかかり、治兵衛、新六、喬 たみ「うん」 たみは治兵衛の離れた顔を自分の腹に再 之介がみちの配膳を待っている。そこへみち「じやけど治兵衛さ、 び持ってくる。 みちの実父・権右衛門 ( ) が中央に来権右衛門「女は黙っとけつ」 民 静まる飯場。 て座る。 し治兵衛「 ( たみの腹を撫で ) まん丸じゃ 緊張感が高まる。 〇 〇同・外 ( 夜 ) 新六の家・外 権右衛門「何しいおめえが居るんならっー 〇 〇 〇

6. シナリオ 2016年1月号

同・中 治兵衛「・ : るんか」 〇 複雑な怒りにこぶしを握る 万蔵「 : : : わしがおめえの前に現れる、おめ 治兵衛が茶をよばれている 喬之介「御免 , えがここへけえってくる、ぜんぶ矛盾じゃ、たづ「ええ若いもんがよけ殺されたけえな、 と、少し落ち着いた喬之介は場を去ろう おめえが背負っとるその風呂敷みてえに、 じやけえど昔と何も変わらんよ、あねえな とする よっけことみんな矛盾背負って : : : きんき ことがあったゆうことやこうみな忘れてし らきんじゃ」 治兵衛「喬之介、山中は、矢谷は、どねえに まいよる」 いなっとる」 治兵衛「おめえそれ何なら」 治兵衛「 : : : 本屋のもんは、元気しよるんか 喬之介「自分で考えられえ : : : 気味の悪い怨万蔵「分かっとんじやろう、おっかしい世の な」 念じゃ : : : 」 中じゃいうこと、米は米、麦は麦、お前はおたづ「もうはあ何年前になるか、たみがおめ 前。わしはわし、あったりまえのことじゃ」 えの何や知らんかゆうて上がって来よった ひとり藁を結う治兵衛 微笑む万蔵。 ・ : はよ戻ってあげねえ」 治兵衛もつられて笑う。 治兵衛「新六は」 たづ「権右衛門が死んでしもうた後は、根限一 山中。 森のひらけた場所 りにワルモンにされてな、せえでおみちは 風呂敷を背負い、遠くまで見渡せる頂に 治兵衛が林を抜けてやってきて腰を下ろ壊れてしもうて流行り病で死んだ」 す。 立っ治兵衛。 治兵衛「 : : : ほんなら新六ひとりか」 隣には万蔵がいる 風が吹き枯葉が動く たづ「おめえの女房が世話しよる、はよ行け、 万蔵「帰ったのう、どうじゃ」 治兵衛」 治兵衛「わからん」 万蔵の住処・外 麦畑 万蔵「わからん : : : おめえはいつまでたって 老いたたづ ( ) が焚火をしている も」 治兵衛が来る。 たみが他の小作の女たちと麦蒔きをして いる 治兵衛「万蔵」 治兵衛「おばさん」 万蔵「うん ? たづ「あつりゃあ、治兵衛」 「祭り前には蒔き終わろうで」などとの声。 そこへ近づいてくるゾウの被り物の男 治兵衛「何か時が止まっとるような、ずいぶ治兵衛「 : : : 」 ん前のことじやけど」 たづ「年取ってから」 女たちはざわっきその滑稽さに微笑む 治兵衛「 ( 笑い ) おばさんも」 たみも笑っているが、表情がこわばり始 める 治兵衛「可笑しいな、何でわしは今こけえ居 〇 〇 〇 〇 〇 9 ・

7. シナリオ 2016年1月号

外に出た一一人は立ち止まり、 〇きこり場 めえもしよっぴかれようが、気つけねえ」 新六「たみはええようになりよるか」 切り倒した樹で遊ぶかのように作業する喜八「ふふ」 治兵衛「もうだいぶ近こうなっとるように田 5 木地師たち。 治兵衛「へい」 いますー 喜八と喜重が作業をしながら話している。 過ぎ行く治兵衛。 新六「そうか : : : 治兵衛」 喜八「なんほ樹出してもおえんわ」 治兵衛「へい」 喜重「百姓らも今年はおえんでいいんなさる」〇 万蔵の住処・外 新六「わしもたみも出所は木地師じゃ、山の喜八「あいつらは世話ねえんで」 治兵衛がやって来て戸をたたく。 ことは分かっても正直百姓のこころはよう喜重「なして」 万蔵 ( オフ ) 「おおい」 分からん、」 喜八「食いもんつくりよんじやけえ、なんば 木戸を開け、中へと入る治兵衛。 治兵衛「へい こころですか」 うでも持っとらあ」 新六「うん ? 」 喜重「じゃあじゃあ」 〇同・中 治兵衛「いや」 喜八「そねえなもんじゃ 中は薄暗くわずかに光が射すだけ。 新六「父上も厳しゅうなった年貢を納めきれ喜重「わしら木地のもんは樹切って、なんば 床に座り、咳き込む万蔵 ( ) がひとり いる んで、この所あのような振る舞いばあじゃ椀作っても椀やこう食えりやせんけえな」 けえ、悪いな」 喜八「いっぺん食うてみねえ」 万蔵は寒さのあまり震えが止まらない 治兵衛「せわねえです」 喜重「あんごう」 万蔵「治兵衛か」 新六「すまん」 治兵衛「万蔵、いまあどっこもまともな食い 喜重「おいよー」 もんのうてな」 〇 大衆浴場 ( 夜 ) 喜八「あいやー」 万蔵「今に始まった事じゃなかろう」 湯煙うっそうと上がる中、たみ、みち、 掛け声と共に大木が下へ転がる 治兵衛「こんだけしか分けれん」 喬之介が浸かっている 治兵衛がそれを横目に通りかかる と、少々の食料を万蔵に渡す治兵衛。 たみ「喬ちゃん、この子生まれてきたら遊ん喜八「おお治兵衛」 袋の中を確認する万蔵。 じゃってえな」 治兵衛「ご苦労さんです」 万蔵「悪い : : : 麦はもう蒔いたんか」 喬之介「おお」 喜八「こねえな奥まで来てどけえ行くん」 治兵衛「蒔けれんけえ往生しよる」 みち「えらそうに」 喜重「万蔵とこじやろう」 万蔵「なして」 たみは腹を気にする 治兵衛「へい」 治兵衛「秋米みな納めんと蒔いちゃいけんゅ 喜重「あげえな盗人百姓と関わりよったらお うて」

8. シナリオ 2016年1月号

喜重「ほんまじゃ、あんた昔侍になるゆう新六「ありがたきしあわせ」 をしている とったのに」 と、頭に天狗状の東を託す。 喬之介もそばで観劇している。 新六「 ( 笑い ) おう」 新六「天狗のごとく、これを村々へー みちが来て、 奥にいる木地師の頭のもとへ行く新六。 頭「 ( それを見て ) 天狗状か」 権右衛門「こんな折でもな祭りは祭りじやせ 頭の妻・さち ( ) も近くにいる。 ( ゃいけん、いうていうてたとこなんじゃ、 新六「ご無沙汰しておりますー 〇 治兵衛の家 のう、治兵衛ー 大徳利のふたに、天狗状を仕込む治兵衛。治兵衛「権右衛門さんちいと飲みすぎでさ 新六「頭」 あ」 頭「どうした」 万蔵の住処・外 権右衛門「治兵衛、おめえも飲め、明日はね 新六「本年の、日照り干ばつ、合わせて過剰 治兵衛が大徳利を持ってやってくる。 えぞ」 になりゆく年貢によって、」 たづは干し柿を吊るしている と、酒を注ぐ。 頭「動き出したか」 治兵衛「おばさん万蔵おるか」 新六「へい たづ「 : 「万蔵が死んだ」との報が舞い込む。 頭「 : : : わしらは百姓のつくるもん頼りに 中を覗く治兵衛、万蔵は臥しているので、 あたりが騒がしくなる しとる、が、ここ数年高値のうえ、なかな治兵衛「これ、」 「あの米泥棒か」「死んでも仕方なかろう」 か回ってこん、加えて運上銀、山年貢、苦 と、大徳利をたづに渡す。 などの声が上がる。 しいのう」 たづ「薬じゃな」 その時、治兵衛周辺の雰囲気が一変し、 新六「その件この度の交渉六カ条に加えまし治兵衛「薬じゃ」 治兵衛の隣にふっと万蔵が現れる。 たゆえ、 たづ「いつもすまんな」 まわりは誰も万蔵のことは見えない。 頭「なんじゃと ? 」 去る治兵衛。 治兵衛「万蔵ー 新六「山年貢、運上銀の御免」 万蔵「八百万の神々さんはわしを生かせはせ 神社境内 ( 夜 ) なんだ」 新六「ゆえに百姓たちと共に加わっていただ 村祭り。 治兵衛「はあ」 きたい」 民 松明が辺りを照らす。 あたりを見渡し状況を無理やり飲み込む。 し頭「新六 : : : それは確かか」 鐘や太鼓が鳴り始め村歌舞伎が始まって万蔵「治兵衛、毒入りの酒なんぞ持って来 新六「へい」 いる よって」 頭「わかった」 治兵衛は升席で酔っ払う権右衛門の相手治兵衛「毒 ? 〇 〇 8

9. シナリオ 2016年1月号

新しき民 新六「治兵衛、ひとっ教えてくれんか」 みなそれを互いに掛け合い、浴びあう。 れで直ぐにみんなが幸せになるわけじゃの 治兵衛「・ : : ・」 やがてすべてのものが釜を中心に回り始 うて、明日にも死ぬとか、家に病人がおる める。 新六「なして戻った」 とかいうもんは、今すぐ食べ物が欲しいわ : いっからか 治兵衛「 : : : 矛盾かもしれん : ・ けじゃが、そんな人は米を出せゅうて持っ しらんが人が人を殺す、殺すだけじゃねえ、〇 神社境内・歌舞伎舞台上 てる人から奪い出したんじゃ、そうしたら 傷つけることやこ、つしよっちゅ、つじゃ、 回転舞台の上で一揆の話をする治兵衛、 殿さんはそんな人たちを懲らしめるゆうて、 つからそねえに偉ろうなったんか、 それを聞くりつ。 やってきたんじゃ。そんなときもう一回み り回って遠くの誰かが死のが、生きるため 舞台背景は治兵衛の家の土壁なので、そ んな集まって戦おうゆうてな、皆命を捨て には仕方ねえ、ってか」 こが境内だとは分からない。 る覚悟してな、立ち上がったんじゃ、せえ 冷ややかな観衆。 ※回転舞台は木と木が擦れる轟音と共に でも次から次へと捕まえられてな、いつば 「わけのわからんことぬかすな」 一一度回るが、その間の話しは途切れない い殺された。捕まらずに逃げた人は罪人 「おめえ狂うたんか」などと。 一度目は、背景は同じ治兵衛の家で、身 じゃゅうて肩身がせもうてな、一生隠れて、 新六「治兵衛、何が言いたい」 重のたみが休んでいる。 静かに死んでいった。おめえがおるこの場一 治兵衛「矛盾ってもんをようけ抱えて、生き 二度目は、背景は黒で現代の出で立ちに所はそねえなことがあった所じゃ」 て、死んで、また生きて、また死んで・ : 早変わりした治兵衛とりつが会話をつづ子孫の娘 ( りつ ) 「こわいね」 ける。 矛盾背負うやこうほんに辛えけえな、忘れ 治兵衛の子孫 ( 治兵衛 ) 「 ( 微笑み ) そうか ? 」 たらええよ、じやけど一個だけ : : : 信じ直 トラックバック後、舞台前にはたみもい子孫の娘 ( りつ ) 「しにたくないー そう、お互いに、 ここのもんも、よそのも る。 ( 現代の出で立ち ) 治兵衛の子孫 ( 治兵衛 ) 「 ( 息子の頭を撫で ) んも、居るやつも、もう居ねえやつも、ほ治兵衛 5 治兵衛の子孫 ( 現代人 ) 「むかしな、 : 今、おめえが生きとろう、同じように いで、もっかいここをええとこにしよ、つや、 ここらで大事なことがあったんじゃ、日照みいんな生きとろう、想像するんじゃ、み あんな一揆ができたんや、何ないとできょ りが続いて雨がずうっと降らんでな、なん んなのことも、おめえのことも」 、つが」 ばお祈りしても降らんでな、米ができなん りつが、つなすく。 たみ「治兵衛、舞いんさい、ええけえ舞いん だ。食べ物ねえとみな生きれんじやろ、じや治兵衛の子孫 ( 治兵衛 ) 「ええこじゃ」 さい けえ、殿さんの取り分をちいと安、つしても タイトル「新しき民」 釜を中心に舞い始める治兵衛。 らえるよ、つにお願いしよ、つゆ、って、よっけ ことみんな集まってな、ほいなら殿さんは〇 現代の山中 ( 実景 ) 中央の湯釜で沸騰する湯。 わかったゆうてくれたんじゃ。じやけどそ 「わしらも舞おうぜ」と観衆も躍動する 5 エンドロール

10. シナリオ 2016年1月号

たみに近づいてくるその男、前まで来て、 ねえが」 神社境内 ( 夜 ) 被り物をとる。 新六「 : : : 樹がのうなったらあるとこ行って 村祭り。 切ればええ、土地に縛られるだけがええと 村歌舞伎が始まっている。 近くにあった鍬を手に取り、治兵衛に向は限らん」 五〇人ほどの村人が観劇している。 けるたみ。 たみ「また難しいこと言うて」 たみとりつ、新六もいる 治兵衛「・ : 新六「考えちゃいけん、思うたとおりにせえ」 賑やかで騒がしい 去っていく治兵衛。 象の被り物の治兵衛が舞台へ突然現れる。 〇 万蔵の住処・中 ( 夜 ) あまり違和感なく交ざった治兵衛。 〇 新六の家・外 たづがいる あたりはサプライズに盛り上がる たみとりつ ( 7 ) がやってくる。 治兵衛「 ( オフ ) おばさん、暫く居ってもえ たみはハッとしている りつ「おじちゃんおるか」 えか」 笛や太鼓もクライマックスに向け盛り上 新六「おおりつ、来たな」 戸を開けるたづ。 がりはじめる りつ「相撲しよう」 治兵衛が立っている 象が芝居に交ざろうとするがなかなか入一 新六「相撲か、よしとろう」 れてもらえない。 たみ「大丈夫か」 〇同 ( 朝 ) 笑いが起こり観衆は象の滑稽さに釘づけ一 新六「大丈夫じゃ、世話ねえ」 目覚める治兵衛。 になっていく りつ「あたし徳右衛門な」 棚に置かれた大徳利に気づき、それを手 突然、治兵衛が動きを止めた、動かない 新六「 ( 微笑み ) おお、こい」 に取る。 音楽も止まり、辺りが静まる りつ「いくよ」 開けてみると中には以前自分が入れた天 被り物を脱ぐ治兵衛。 狗状が入っている 「どうした」「治兵衛じゃ」「だらすが、何 〇 新六の家・居間 治兵衛は天狗状の裏に何か書かれている 処で遊んできた」などと観衆がざわめく。 床に横になる新六 のに気づく。 新六とたみは治兵衛を見つめる。 たみがかゆをつくっている。 見てみると、 治兵衛「 : : : わしはここから逃げた、たみを 新六「お前はどねえしてえんじゃ」 「きんきらきんはきんきらきん、死ぬ気残して、自分の命ほしさに逃げたんじゃ」 たみ「正直よう分からん」 で生きろ、どあんごう」と書かれている 「よう帰ってこれたもんじゃ , などと。 新六「まだ好いとんか ? 笑う治兵衛。 観衆からものが飛んでくる。 たみ「七年も居らんかった人、そねえなわけ 治兵衛「・ : ・ : 」 たみ「 ! 」 〇