交渉の場、大旦芝。 新六「神尾さま、」 万蔵「毒じやろう、一揆やこう」 伊織の手を振り解こうと。 新六の隊列が来た。治兵衛もいる 治兵衛「・・ : : 」 無数の民衆が湧き出すように集まってい 万蔵「治兵衛、おめえは百年後も小作じゃ、伊織「狂うな新六、百姓に何ができる」 る やっと手を離した新六は屋敷をでる。 小作の子、治兵衛」 治兵衛は集まった民の多さに言葉を失う 治兵衛「おめえもじやろう」 新六「 ( 振り向き ) 百姓はあんたさまらの食う もんつくりよるんです、自分らはひえや麦食 万蔵「一揆やこうやめとけ、はよ麦蒔いて、 うて、あんたさまらの米つくりよるんです」〇 同・大庄屋屋敷前 やや子の餌頑張ってつくれえの」 数名の見張り侍と大群集。 伊織「 : : : ( 呟く ) 命しらずが」 治兵衛「決まりじゃと、行かにやいけん」 いっしか万蔵はいなくなっている 去ろうとする新六。 〇同・大庄屋屋敷奥の間 伊織「新六」 中央の湯釜の湯が煮えたぎる。 藩側は三つ寺、郡代・山本、大庄屋・福 と呼び止める伊織 田が百姓と対峙。 伊織「お主らの用意しておる六カ条、みな認 津山藩城下伊織屋敷・玄関 ( 夜 ) 百姓側は徳右衛門、新六ほか、弥治郎、 めよう」 伊織が玄関へ。 忠七郎、喜右衛門 新六が先日の小判の包みを持って立って新六「 ! 」 いる 外の民衆の唸り声が徳右衛門らを後押し一 伊織「その代わり、ただちに徳右衛門の居場 する。 所を教えろ」 伊織「待たせたな」 睨み合い 新六「この銭はやはり受け取れませぬ、身分の新六「・ : 福田「徳右衛門、ええから引かせえ、それか 違いゆえ、侍さまの施しが怖うなりまして」伊織「悪い話じゃなかろう」 らじゃ」 新六の胸倉を締め上げる伊織 新六「 : 徳右衛門「何も決まらんまま帰れ言うても帰 伊織「何を考えておる、大旦芝に際し多勢を伊織「お主も藩内に取り立ててやってもよい らんでしよう」 のだぞ、どうじゃ」 集わせておるお主らの報はすでに入ってお 新六「 : : : 正々堂々やりましよう、神尾伊織福田「こねえな睨み合いばあしよってもええ る」 ことにはならん」 さま」 徳右衛門「みな覚悟しとります」 走り去る新六。 伊織「お主を見込みよきに計らうつもりだっ 三つ寺が山本に耳打ちする。 たが見損のうたぞ」 三つ寺「 ( 小声 ) ように聞いてくだされ、山 胸倉を掴まれつばなしの新六は気が遠く なる。 年貢、運上銀以外はお認めになられ」 〇 〇 大旦芝・大庄屋屋敷を望む丘 8
干し柿を頬張る治兵衛、新六と一一人。 弥治郎「徳右衛門、みな気を張り続けて、こ新六「 : : : 帰ってやれ」 治兵衛「いったいどうなりよるんじゃ : : : 新 突然ものすごい複数の足音。 りや続かんぞ」 陣が襲撃される音。 六さん、わしは死にとうねえ」 徳右衛門「 : 遠目からそれを伺う一一人。 新六「侍いうもんは人のこころまで奪おうと 立ち上がる徳右衛門 しよる : : : わしは何も出来んかった : : : 何 徳右衛門「みな、一旦陣を解く、今夜は帰っ かあったら、喬の介を頼む」 てゆっくり休んで、あすまた明け六つ集〇 同・本陣 ( 夜 ) 寝込む数人が足軽によってすばやく縄に。 まってくれ」 河原にて足軽に連行される百姓たち 逃げ出すものも追いかけられお縄。 弥治郎「今夜はおっかあたんとかわいがって やれ : : : なお留守居数名志願のものは居ら足軽「 ( オフ ) 他にもおるぞ」 万蔵の住処・中 んか」 眠っている治兵衛と新六のもとへたづが 〇同・丘 ( 夜 ) あわてて来る。 陣と逆方向へ逃げ出す治兵衛と新六。 津山藩鎮圧隊の陣 ( 夜 ) たづ「大変じゃ」 足軽「 ( オフ ) 逃げたぞ、追え追え」 暗闇に松明少々 治兵衛と新六は起きて、 谷に隠れ陣を張る三つ寺率いる不気味な 〇 新六「どねえされた ? 」 部隊。 山道 ( 朝 ) 先を逃げる新六に必死でついていく治兵たづ「 ( 動揺 ) 谷いってみい」 異様に統率が取れ、乱れひとつない。 と向こ、つを指差す。 衛。 松吉が来て三つ寺に耳打ちする。 松吉「陣を説いた模様、約東は守ってくだせ 河原 〇 万蔵の住処・外 えよ」 縄をかけられた百姓たち。 にんまりする三つ寺。 新六と治兵衛がやってきた。 侍が監視する。 治兵衛「おばさん」 松吉が侍に百姓の首を斬るように脅され たづが戸を開け出てくる 百姓衆峠の陣・丘 ( 夜 ) ている。 留守居で残った治兵衛、満天の星空を眺新六「しばらく世話になる」 めている。 たづ「へえ」 同・丘 住処に入るふたり。 そのもとへ新六がきて隣に座る。 河原の見える丘に来てはっとする治兵衛 新六「たみが心配か」 と新六。 同・中 治兵衛「 : : : わしや一揆やこうどうでもええ」〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 -6 8
いいますか、映画に志があったんですか ? 阪さんが座長で、三崎千恵子がその奥さん 間は久さんとは接してないんですね。 森川そうそう、文化放送に行く前に、映で、だから僕は三崎千恵子から月給もらっ 渡辺これは島田清次郎の『地上』を原作 に、金沢を舞台に陸軍中将の娘とそこの馬 画に行きたくて当時の大映にね。これも古てたんですよ ( 笑 ) 。 丁の恋愛をやろうというゴッイものでした い話だけど六車修という人がいたんですよ が、しばらくオクラになってて、よ、つやく 五社じゃなくて六車 ( 笑 ) 。この人を紹介『若者たち』への流れ 年にオンエアになったというものですね。 してもらって撮影所に会いに行ったんです これは初めから立原さんと ? よ。そしたら、いま復員者が多くて、みん渡辺話を戻しますと、久さんと「夏』を やられて、その後は奥さんの山内玲子 ( 筆森川そうですね。立原さんもすっとお父 な撮影所に戻ってきてるんで新しく入れる さんの野田 ( 高梧 ) さんのアシスタントや 余地がない、本社なら入れてやると。でも 名 / 立原りゅう ) さんと「みつめいたり』 られていたからご自分でやりたいという気 本社で何やるかよくわからない。いま考え ( 年 / フジテレビ ) に掛かられたんですね。 るとプロデュ 1 サ 1 でしようね、きっと 森川年は久さんは『私が棄てた女』 ( 本持があって。久さんのほうから僕のところ に立原にやらせてくださいという話がきた あるいは経理とか。そっちの方は僕は向い 誌前号所載 ) を書かれていて、僕が立原さ てないと思ってお断わりしたんですよ。そ んと仕事をした「みつめいたり』は連続も んじゃないかな。だから久さんが『私が棄一 ので長く時間が掛かってましたから、その てた女』を書いてた頃は、久さんと安保の町 れで転々として、ムーランにいたり。 話をしたことがないんですね。話をしたら、一 渡辺ムーランってい、つのは、 ムーランルージュ。 ちょっと困っちゃったんじゃないかと思、つ んだけど。 森川ええ、これはアルバイ 渡辺ぶつかっただろうということです トで。要するに進行係、体よ くいうと舞台監督 ( 笑 ) 。 森川じゃないかと。いま思、つとね。その 渡辺新宿のあそこ、新宿国 頃の僕がいまみたいに考えてたかどうか 際というエロ系の映画館が 定かではないけど、『私が棄てた女』をい あったところですよね。 ま読み返してみると久さんの考え方とは 森川そうそう。僕とか、そ ちょっと違、つかなと。いま話し合えば面白 れから前進座にいった小沼一 氏 しと田 5 、つけど。 郎とかかいて。当時ムーラン 明 をを千渡辺それはどうい 0 たあたりですか ? にいたのは森繁久弥とか三崎 渡ズレというのは。 千恵子とか宮阪将嘉とか。宮
治兵衛「どうした」 杉作「おまえに言われたくない」 伊織「心配するな、すぐに決まるさ」 杉作「大家来る・ : ・ : 銭ねえ」 杉作は被り物のままだったので、それをしん「わたしは、今の毎日が嫌いではありま 治兵衛「ええよ」 取ってやる治兵衛。 せん」 難しそうな本 ( 聖書 ) をひとり読み始め 杉作の眼鏡が一緒に取れて落ちる。 伊織「そ、ついうな」 る杉作。 それを見る治兵衛。 しんが伊織に部屋着を着せ終わった。 それを見て治兵衛はそっと杉作に象の被治兵衛「それ質にいれえや」 しん「少しも辛う ) 」ざいません」 り物をかぶせる。 杉作「ええよ」 伊織「まあそういうな」 杉作「治兵衛、やめえ」 治兵衛はにんまり。 〇 伊織の長屋・中 ( 夜 ) 〇 質屋・中 杉作「とれや」 伊織「帰ったぞっ」 治兵衛が杉作の眼鏡を持ってやってくる。 と少し暴れだす。 酔っ払っている伊織の声は大きめ 伊織「これはお隣の」 治兵衛「わかったわかった」 しん「おかえりなさい」 治兵衛「へえ」 と、杉作の被り物を取ろうとすると、外伊織「今日は古い父上の友人の田沼さまにお番頭「それではお預かりで」 で大家の声。 会いできた、お役目を下さるかもしれん」 と、伊織の脇差を掲げる。 大家「 ( オフ ) 治兵衛や、大家じゃが、ちょっしん「さようで」 伊織「御免」 とええか」 伊織「父上がたいそう面倒を見たお方じゃ」 あわてて、奥へ隠れる杉作。 刀を抜き、着物を着替えるのをしんが手〇 居酒屋 一ム、つ 大家が入ってきて、 静かな居酒屋。 大家「杉作見なんだか」 丁寧に伊織の背中を布で拭うしん。 すでにお銚子が転がっている 治兵衛「さっきまでガキらと遊びよりました伊織「明日また来るようにと言われたので、 伊織は机の上にある箸やおちょこを使っ けえど : : : 」 て、 今度こそ決まるかもしれん」 大家「あいつまた逃げよったな : : : 」 しんは後ろから伊織にくつつく。 伊織「これが百姓、これが侍」 と、去る。 伊織「・ : とおちょこの上に箸を置く。 治兵衛「杉作、行ったぞ」 しんは離れ、伊織に襦袢を着せる 伊織「その上に国があって、幕府がある、さ と、杉作に。 しん「何よりです」 らに南蛮列国、その下にも多くの民がおる 杉作「おおきに : : : 銭かしてくれや」 伊織「長い間、そなたには苦労をかけたな」 であろう、枠とは何か、度し難い : : : 人の 治兵衛「あめえ遊びすぎじやろう」 しん「 : ・ 一生などで何ができるわけでもなし : ・ 8
〈登場人物〉 ジーナ緑 ( ストリッパー・才 ) 森甲津子 ジプシー ・ローズ ( 志水敏子・Ⅱ才、才 ) メリー谷 ( ストリツ。ハー 才 ) 真木ひろみ ひろみ麻耶水原要 ( ヤクザ・才 ) 中平哲仟 正邦乙彦 ( ストリップのプロモーター・才、 島村謙次 土井達 ( 軽演劇役者・四才 ) 坂本長利細川光夫 ( キャパレーのマネージャー・才 ) エレン・滝川 ( ストリツ。ハー 才、才 ) ミチ子 ( ストリツ。ハー 一一条朱実 . 津留子 ( 女社長 ) 富田大吾 ( ストリップの演出助手・才、れ才 ) チンピラたち 五条博 : 実録ジフシ ! 口にス 主月…寺 大原清秀 監督〕西村昭五郎 原案 . 正邦乙彦 1974 年日 ) 盾作ロ プロデューサー樋口弘美 企画担当 栗林茂 撮影 山崎善弘 画面一杯七色の光の渦 追憶の虹の如くおばろにゆらめ」ーーーそ の中から聞こえてくる現代の人々の声。 ・ローズ ? 聞いたことも 若い男「ジプシー ねえな、誰だい、それ」 中年男「ジプシー ・ローズですか我々には 忘れられないですな。あれだけのストリッ パ 1 は二度とは現れんでしよう」 若い女「だけどいい名前ね、ジプシー ズって : : : さすらいの紅バラ : カメラの焦点が定まると 2 浅草ロック座・舞台 ス , にリ . ッヾ 、ノーたちが勢揃いしてフィナー レーー幕が降りる。観客は席を立つ。と、一 かぶりつきに名残り惜しげに坐っている 六十男。正邦乙彦。 俳優の坂本長利、くる 坂本「正邦さん : : : 正邦さんですね」 正邦、 ? と坂本を見る。 坂本「私、今度日活で正邦さんの役をやるこ ・ローズと とになった坂本です。ジプシ 1 ずっと御一緒だった正邦さんに、いろいろ 想い出を聞かせて戴きたいのですが」 正邦「 ( 気さくに ) ええ。ジプシーのことで したらいくらでも」 -6 9-
もう兄貴たちがそういうことだから、なん ・爻、、つよ、ヾ れは久さんの長年の蓄積と、それと自分の リエーションか、似たもの とかお前はエリートになれと ( 笑 ) 。 兄妹のね。 が出てきたんですけど、第一シリーズにか 渡辺昔はいまと違って、上の学校行くっ 渡辺久さんのところは、お兄さんが俳優なわないのは、ああいうキャラクターです ていうのはそういう切実さで上がってまし だった明さんで、ご自分は次男で、次がさっ よね。キャスティングも良かったですけど、 たからね。 きお話にも出た正さん、そして末が幸子さそれぞれのキャラクターに裏付けがある 森川そうそう。だからエリートになるた んという妹さんなんですね。 しかも、その裏付けに、時代的な裏付けが めになんとか大学に入れという、そう言わ でもいまのお話を聞きますと、下手をすちゃんとあるわけですから。 れれば言われるほど重荷になっていくとい ると図式というか、五人それぞれがある典 、つ ( 笑 ) 、そういう設定で、そこで彼らが型を背負うみたいな、見てて味もそっけも 重喜劇 時代の激変をどう受け止め、傷ついていく なくなりそうなのが、これがエンターティ のか、あるいは乗り越えていくのか、その メントになってしまうんですね 森川ひとつ大事なのは重喜劇というやっ へんをやっていこうと。それは非常に面白森川「若者たち』はテレビのレギュラー ですよ。これはやつばり久さんがあの頃「幕 い設定で、最終的に久さんがこれならいけ番組ですから、よほど五人を書き易くとい 末太陽傳』とか『豚と軍艦』とか、川島 ( 雄一 るという五人の設定にしたんですけど、そ うか、大胆に色分けしないと、久さんは困 三 ) さんや今村 ( 昌平 ) さんたちと重喜劇 らないかもしれ の路線を作ろうと、そういう考えがあった ないけど、他の んですね。「豚と軍艦』なんか思いきった ライターが何書重喜劇と言えるだろうけど、人間の喜劇で 税 部 いていいかわか 十 いえば「幕末太陽傳』ですね。ああいうも 画 企体 らなくなっちゃ のよ、、 しまでも大事なもんだと思ってるん 像ン本 う。だから人間 ですけど、『若者たち』にもなんとか喜劇 映オ 像をはっきり、 的な要素を入れたいと久さんとも話しあっ ビャ 8 レキ 3 少し単純気味に て、ちょうどあの頃、時代としてものすご くザラザラとした、明日ど、つなるかわから はっきりさせよ ちフポ万 、つ A 」い、つ、」 A 」は ない不安というか、ある種の苛立ちがあっ 者元元格あ 0 たかもしれ たんですよ。その苛立ちとか不安とかを喜 発販価◎ ないですね。 劇的にとらえる、そうするとああいう形 渡辺でもその になるんですね ( 笑 ) 。それに輪をかけて、 0 thanks つジテレピ 第をら こ
る。ツンパもむしりとられる。全裸のロー ズに獣のようにのしかかる男、男、男。 ローズ、仰天、パラソルでひつばたき、 0 、 0 、 ローズ「ノ 慌てて駈けつけてくる正邦、富田 たちまち大乱闘となる 四同・楽屋 全裸のロ 1 ズ、正邦に抱きかかえられる よ、つに入ってくる 正邦「くそツ、何て奴等だ」 とローズにタオルのコートを着せかける ローズ、さすがにショックの面持ち、茫 然と外を眺めて立っ 正邦「 ( 痛ましげにその背を見つめ ) ・ プシ 1 、もうやめようか、この稼業」 ローズ「 ( 黙って煙草に火をつける ) ー 正邦「あんなことされるようじゃ、君だって 辛いだろ。いっそこの辺でーー」 ローズ「パパ ( と平静になった顔をふりむけ ) わたしは好きで踊ってるのよ。辛いなんて 思ったことないわ」 ギュッと煙草を灰皿につぶし、ツンパを 持って出てゆく。 正邦「 ? 同・舞台及び寄席 チンピラたち、よってたかって富田を小 突き廻している 突然、突拍子もなく始まる音楽。 チンピラたち、オヤ ? と舞台を見やる 楽屋の階段 何事もなかったかのように登場してくる 正邦がローズを背負ってヨタヨタと降り ローズ、恐れ気もなくチンピラたちを睨 てくる。廻転椅子を担いで続く富田 みつけ、踊り始める。くわれたように顔 正邦の声「 ( 次のシーンにもかぶって ) を見合わせるチンピラたち。 、、ツとなる とうとう広島のキャパレーで立っこともで 袖にくる正ナノ きなくなりました。それでもローズが踊り 正邦「そうか : : : あいっ踊りがまだ途中だも たいというので、やむをえず廻転椅子を んだから : ・ 正邦、感動したようにスポットライトに使ったダンスでその場をごまかしました」 とびつき、ローズにあてる 舞台 踊るローズ。 廻転椅子に坐ったきりのローズが苦しげ そよぐ薔薇。 に脂汗を流しながら腕と足の振りだけで 踊るローズ。 踊っている。 ( 曲は「黄金の腕し 怒涛。 次第に魅きこまれたように見入るチンピ ラたち。一人が怒鳴る。 キャパレーの事務室 キャパレーのマネージャーの細川の前に 「ええぞ ! ねえちゃん ! 」 正邦が呼ばれて来ている。 それをきっかけに拍手が巻き起る 細川「正邦さん、白状して欲しいですな」 踊るローズ。 正邦「は ? : : : 何をですか ? 」 細川「あんたが連れてきているジプシー ストリップ小屋・舞台 8 ーズ、あれはニセ者でしよう」 正邦「前 ! 前 ! : : : はい、そこでターン ! 」 物蔭の正邦のプロンプで、ローズがよろ正邦「 ( 驚いて何か言いかける ) 」 細川「いや、隠さなくてもいいです。私も十 めきながら踊っている 正邦の声「しかし、そのローズも、酒のた めに次第に思うように体が動かなくなり 114 ー
たみに近づいてくるその男、前まで来て、 ねえが」 神社境内 ( 夜 ) 被り物をとる。 新六「 : : : 樹がのうなったらあるとこ行って 村祭り。 切ればええ、土地に縛られるだけがええと 村歌舞伎が始まっている。 近くにあった鍬を手に取り、治兵衛に向は限らん」 五〇人ほどの村人が観劇している。 けるたみ。 たみ「また難しいこと言うて」 たみとりつ、新六もいる 治兵衛「・ : 新六「考えちゃいけん、思うたとおりにせえ」 賑やかで騒がしい 去っていく治兵衛。 象の被り物の治兵衛が舞台へ突然現れる。 〇 万蔵の住処・中 ( 夜 ) あまり違和感なく交ざった治兵衛。 〇 新六の家・外 たづがいる あたりはサプライズに盛り上がる たみとりつ ( 7 ) がやってくる。 治兵衛「 ( オフ ) おばさん、暫く居ってもえ たみはハッとしている りつ「おじちゃんおるか」 えか」 笛や太鼓もクライマックスに向け盛り上 新六「おおりつ、来たな」 戸を開けるたづ。 がりはじめる りつ「相撲しよう」 治兵衛が立っている 象が芝居に交ざろうとするがなかなか入一 新六「相撲か、よしとろう」 れてもらえない。 たみ「大丈夫か」 〇同 ( 朝 ) 笑いが起こり観衆は象の滑稽さに釘づけ一 新六「大丈夫じゃ、世話ねえ」 目覚める治兵衛。 になっていく りつ「あたし徳右衛門な」 棚に置かれた大徳利に気づき、それを手 突然、治兵衛が動きを止めた、動かない 新六「 ( 微笑み ) おお、こい」 に取る。 音楽も止まり、辺りが静まる りつ「いくよ」 開けてみると中には以前自分が入れた天 被り物を脱ぐ治兵衛。 狗状が入っている 「どうした」「治兵衛じゃ」「だらすが、何 〇 新六の家・居間 治兵衛は天狗状の裏に何か書かれている 処で遊んできた」などと観衆がざわめく。 床に横になる新六 のに気づく。 新六とたみは治兵衛を見つめる。 たみがかゆをつくっている。 見てみると、 治兵衛「 : : : わしはここから逃げた、たみを 新六「お前はどねえしてえんじゃ」 「きんきらきんはきんきらきん、死ぬ気残して、自分の命ほしさに逃げたんじゃ」 たみ「正直よう分からん」 で生きろ、どあんごう」と書かれている 「よう帰ってこれたもんじゃ , などと。 新六「まだ好いとんか ? 笑う治兵衛。 観衆からものが飛んでくる。 たみ「七年も居らんかった人、そねえなわけ 治兵衛「・ : ・ : 」 たみ「 ! 」 〇
喜重「ほんまじゃ、あんた昔侍になるゆう新六「ありがたきしあわせ」 をしている とったのに」 と、頭に天狗状の東を託す。 喬之介もそばで観劇している。 新六「 ( 笑い ) おう」 新六「天狗のごとく、これを村々へー みちが来て、 奥にいる木地師の頭のもとへ行く新六。 頭「 ( それを見て ) 天狗状か」 権右衛門「こんな折でもな祭りは祭りじやせ 頭の妻・さち ( ) も近くにいる。 ( ゃいけん、いうていうてたとこなんじゃ、 新六「ご無沙汰しておりますー 〇 治兵衛の家 のう、治兵衛ー 大徳利のふたに、天狗状を仕込む治兵衛。治兵衛「権右衛門さんちいと飲みすぎでさ 新六「頭」 あ」 頭「どうした」 万蔵の住処・外 権右衛門「治兵衛、おめえも飲め、明日はね 新六「本年の、日照り干ばつ、合わせて過剰 治兵衛が大徳利を持ってやってくる。 えぞ」 になりゆく年貢によって、」 たづは干し柿を吊るしている と、酒を注ぐ。 頭「動き出したか」 治兵衛「おばさん万蔵おるか」 新六「へい たづ「 : 「万蔵が死んだ」との報が舞い込む。 頭「 : : : わしらは百姓のつくるもん頼りに 中を覗く治兵衛、万蔵は臥しているので、 あたりが騒がしくなる しとる、が、ここ数年高値のうえ、なかな治兵衛「これ、」 「あの米泥棒か」「死んでも仕方なかろう」 か回ってこん、加えて運上銀、山年貢、苦 と、大徳利をたづに渡す。 などの声が上がる。 しいのう」 たづ「薬じゃな」 その時、治兵衛周辺の雰囲気が一変し、 新六「その件この度の交渉六カ条に加えまし治兵衛「薬じゃ」 治兵衛の隣にふっと万蔵が現れる。 たゆえ、 たづ「いつもすまんな」 まわりは誰も万蔵のことは見えない。 頭「なんじゃと ? 」 去る治兵衛。 治兵衛「万蔵ー 新六「山年貢、運上銀の御免」 万蔵「八百万の神々さんはわしを生かせはせ 神社境内 ( 夜 ) なんだ」 新六「ゆえに百姓たちと共に加わっていただ 村祭り。 治兵衛「はあ」 きたい」 民 松明が辺りを照らす。 あたりを見渡し状況を無理やり飲み込む。 し頭「新六 : : : それは確かか」 鐘や太鼓が鳴り始め村歌舞伎が始まって万蔵「治兵衛、毒入りの酒なんぞ持って来 新六「へい」 いる よって」 頭「わかった」 治兵衛は升席で酔っ払う権右衛門の相手治兵衛「毒 ? 〇 〇 8
ととなった。 総製作費億円の大作の助監督をつとめつつ、一方で 300 万映画のホンを書いた僕は、次第にこれからの生き 方を考えるようになっていた。 『二百三高地』の成功を受けて二匹目のドジョウを狙った 『大日本帝国』の製作が本決まりになり、監督の舛田利雄は、 演出部を含むメインスタッフを前作と同じ人間でとの要望 を出したとの噂が伝わってきた。 西井剛製作部長に確かめると、その要望は事実で、「 ( チ ーフの ) 馬場 ( 昭格 ) がテレビ版で監督に昇進したから、 佐伯、おまえ、ことによるとチーフを任されることになる ぞ」とのこと。 それはそれでヒジョ 5 にありがたいお話ではあるのだ が、またもや準備半年、撮影一年、仕上げ半年の日々を送 らねばならないのか、ポルノとはいえ本編のシナリオライ ターとしてデビューした今こそ本格的な脚本家となるチャ ンスなのではないだろうか、と考えは巡り、悩みに悩んだ。 西井さんはかっては東映東京制作所長として東制労の 面々に首切りを宣告した張本人だが、東撮に復帰以降、ス タッフ独自の持ち味を活かせるような斬新な改革案を提起 し続けていた。 たとえば、伊藤俊也や澤井信一郎、梶間俊一、脚本家志 望の僕を演出部から企画部付に「配転ーさせ、自社作品の みならず、テレビ局を含む他社にレンタルしようという構 想を実行に移そうとしたりしていた。 僕は思い切って西井さんに相談した。 「僕、脚本家になりたいんですけど」「そうか : : : やつば りか」「撮影所に契約者として残りながら修業する道はな いもんですかねー「昔は脚本部というか本社の文芸部に所 属するというコースがあった。笠原和夫や神波史男なんか がそうだよな。京都じゃ鈴木尚之や高田宏治。でも今はな ア。特におまえは契約者だし、脚本家見習いとして契約を 更新するのは難しいだろうな。知っての通り、本社からは ひとりでも多く解雇しろという無理難題を押しつけられて いるし , 「 : 「天尾さんには相談したのか ? 」「いえ、 まだです」「いきなりフリーになっても、すぐに仕事があ一 るわけじゃなかろう。当面、天尾さんの下について企画書 やプロット書きをしたらどうだ。俺からも頼んでやる。た だしその場合、今までの年間契約というわけにはい、 おそらく月契約ってことになる」「天尾さんに気に入られ なかったら、即刻、クビってわけですね ? 」「まあ、そう いうことだな」「しばらく考えさせてくださいー「ああ、い いよ。だけど考える時間はあんまりないぞ。来週末には「大 日本帝国』の演出部を編成せにゃならないからな」「編成 されると、また約二年、拘東されちまうわけですね」「そ うだ。台湾への長期ロケも予定しているし、長丁場になる ぞオ」「 : ・