一部の甘さもしない険しい視線で彼女を射た。 挑むように彼女はうなずいた。 ひとみ 大きな瞳を見開いたまま。 翩けでんだ。 「わたくしが」 ささや 笑みを浮かべたままの唇で囁いた。 こぼ 見開いたままの瞳から、ほろりと大粒の涙が珠を結んで零れおちた。 ほうむ 「この手で葬りさります」 それが。 彼女が彼女である。 いる者としての証。 そして。 彼に対する真実の愛の証。 ほかの誰の手でもない。 彼女が。 手を下すべきの相手。 たま
虫の声や鳥のさえずりを聞き飽きる者はいない。 歌うこと奏でることが何より自然である存在になりたいとレイムは願う。 願いながら一心に奏で続ける。歌い続ける。 それが音によって多くのひとに認められた、レイムに課せられたこと。 である彼が、ほんの一歩、ただの芸人し魅ざえる理由。 のに捕らえた人影に、はっと顔をあげたレイムは部屋の中を見た。 いつの間に部屋に戻ったのか、ちょっとしたお茶を楽しんだりする小さなテープルセット の櫛子にミルフェ姫がいた 編みこんでいた長いふんわりとした白金の髪を解き、彼女付きのであるカリナが静か くしけず に櫛削っている。 陣レイムは弦の上に滑らせていた指を、つと止めた。 魔途切れた音に、耳をそばだてていたミルフェ姫は軽く閉じていた瞳を見開く。 空レイムの鸚色の瞳とミルフェ姫の琥珀色の瞳が、お互いを見つめた。 天 レイムは窓縁に乗せていた片足を降ろし、ミルフェ姫のほうに体を向けて立ちあがる。 「失礼しました。お戻りになられたことも気づかず、音曲にうつつを抜かしておりました」
輝くばかりにして目を奪うのだろう。 背を向けていても。 肩の線、指先だけでも、なぜ見分けられてしまうのだろう。 様々な音の入り乱れる中でさえ、くつきりと耳に届く声。 ままたひとみ 移動し瞬く瞳が、星のように輝き見える。 あの胸に一度でも抱かれることはないのに。 あの指が微かにもルに触れることはないのに。 あの声が自分に語りかけてくることはないのに。 あの瞳に熱つほく見つめられることはないのに。 胸が痛い。 苦しい 呼吸をすることも瞬くことも辛い なぜ。 生きていることにさえ耐えられそうにないほど、打ちのめされねばならないのだ ? こんな気持ちにならなければいけないのだ ? つら
はない。竜使いの里以外にドラウドとなりうる優秀な者がいるとは思えない。 現実的に見て、シルヴィンが引き受けるしかないのだ。 ひとみ シルヴィンは瞳を閉じ、意を決してうなずいた。 「わかりました。その役目、引き受けます」 はっきりと一一 = ロい切った。 あんど 女王たちの顔が、ばあっと明るくなる。安堵したように息をついた。 「正気かウ ぎよっとしてディーノがシルヴィンを見る。 シルヴィンは水色の瞳を険しくしてディーノを睨んだ。 「正気よ ! そうするしかないのよ ! 」 選ばれたというのに、シルヴィンがおめおめと逃げ帰るわけにはいゝ 力ない。を吐いて 陣逃げ帰ったところで、里の者に受け入れられるはずもない。 空 里という集団にられているシルヴィンに、選択の余地はない。 天 ディーノは軽く肩をそびやかした。 にら
「レイ、ム : : : ? 小さくつぶやいた姫の声。 耳に届いたな。 びくりとレイムの体が震えた。 ひとみ 瞳に正気の光が戻った。 ムフまさに。 ひた、 短剣の切っ先が姫のに届こうかという、その時だった。 ゃいば あわやというところで刃は方向を変えた。 殺し切れぬ勢いのまま姫を避け、上がけのと枕とにつき刺さる。 みどりいろ ぎよっと見開かれたレイムの翠色の瞳が現状を認識する。 自分が何をやっているのか。 しーたた 陣信じられず、目をばちばちと瞬い 空呼びかけに姫は淡くんだ。ついと腕を伸ばしレイムのに触れる。 まるでロづけを乞うように。 レイムはいったい何がどうなっているのかわからず困した。
43 我け泣だど彼穏そ こ女やれ 々 ど ねめ に藤与けい透すを も れか ほな け彼 どか な女 。を いは 。だ 逃痛 彼な れ々 なず 。問 い沈 け見 青ん いだ に 瞳瞳 はめ い かれ 、開 なオ 天空の魔法陣 ないが はげて泣 には 葛弯いな すな 行るい い つ ら け まは で追 も及 かでめ ど う す る も り に さ 。き追 3 ら とれに おる問つね つこっ たとた 汚も あ え て 、は尋溜た・ る ま ばでれ も な し ) しゝ は が け じ つ け ら れ な ら な しゝ そ静取 か ら息縦を駄だす緩 に 振 る つう か っ か た し か し は ま た を無むと つう頬 に繕も り な 努 カ や め ~ 女・ は る き た つ た れ の は ノし、 き を 溢た 異な
ディーノは自分にしつかりと言い聞かせた。思い起こさせた。どんなに見目、が麗しかろ ままでがそうだった。美しく着 うと、それがその人物の本質を決定するものではない。い 飾った高慢な姫君も、金ただの女にすぎない。強い者には媚びてを取ろうとし、浅ま しようふしゆくじよ しく自分の欲ばかり追い求める。娼婦も淑女も、ディーノの前では何一つ変わらない。 まど ひとみ おとめ あの乙女にしても、瞳に見える清浄さに惑わされているだけだ。 ただ、髪と瞳の色については知りたい、聞きたいことがある。だから、近寄る必要がある ただ、それだけ。 気を取り直しディーノは乙女に向かう。 が激しくなっていた。 やかた 乙女は、身をすくませ、館の中に逃げこむように腰をあげる。 かっと周囲が白く輝いた。 かみなり 耳をつんざく敲が鳴り響ぐ。 庭のすぐ向こうに、光の柱が突き立った。
何が自分に起こっているのか、わからなかった。 気になる。 息苦しいほどに、気になってない こんな気持ちになったことなど、今まで一度もなかった。 たかが女一人だ。女なら世界じゅうにいくらでもいる。確かに見たこともないほどに な顔をしていたが、議美しさなど皮一枚だ。歳をとれば、見る影もなく無に極ち果てる 女だ。刹月にしかすぎぬ美に、これほどまでに固軋するなど、とても考えられない だとすれば何故。 ディーノはいらいらと理由をまさぐった。何かしら捜し出そうと努めた。 そしてそれは、確かにあった。 ひとみ 彼女のあの長い髪と瞳だ。ディーノのそれと同じ黒い髪と青い瞳。世界で彼にだけ与えら 陣れたと思っていた、色だ。それゆえに疎外され、けられてきただ。 魔 だから「気になっているのに違いない の 空 きっとそうだ。 天 ディーノは自分を納得させるように、何度もそう頭の中で繰り返した。
212 予兆を感じたレイムは荷物の入った袋を下に下ろして符を取り出し、防御と攻撃どちら まどう にも移行できる魔道の印を結んだ。 ディーノとシルヴィンの握った刃物が、もっとも得意とする形に構えられた。 ひとみ おとめ 乙女が青い瞳を大きく見開く。 黒き影の柱を噴きあげる地の底から。 おど 小柄な魔物たちが躍りでた。 伝説に畴われた禍しい闇の生物。 瞳孔のない瞳とねじくれた角、ロを裂いてくり出たと長いルを持つ、小鬼だ。 「ダ・カウ ? 子供の頃夜語りに祖父から聞いたそのものの名称を、シルヴィンがつぶやいた。 けつにく ようやく得た自由に歓喜しながらまろび出たそれらは、柔らかい血肉を持っ旨そうな生き 物が側にいることを発見した。 引き裂き、喰らうために、にと襲いかかる。 ディーノとレイム、シルヴィンめがけて押しよせる。 自分たちのほうにむかい来る小鬼に、乙女が鋭い悲鳴をあげた。
くりと背を正して振り返った。 甘い蜜色の金髪に緑色の瞳をした少年は、涼しい切れ長のディーノの瞳に見返され、か あっと顔に知を広げてうろたえたように笑う。 「も、申し訳ありません、つい手が滑ってしまいまして : : : 」 さやふ 台の上でがちゃがちゃと音を立てて、鞘を拭こうと剣の下に入れていた布を引き抜いた。 せたけ 台の上には子供の背丈ほどもある、ディーノの長剣が乗せてあった。おそらく持ちあげるこ とができなかったので、布を鞘や櫨の下に敷き動かして、磨こうと思ったのだろう。物音を たててしまい眠りをけたというえとびの入り交じった複雑な表情が、な笑みの形 に見えたのだ。 ディーノは青い目をすうっと細め、少年から目をそらす。 少年はどう見ても家柄と育ちのいい貴族の子息だった。行儀見習いに、高位の者のもとに 奉公しているというような重月だ。 体のどこにも異常がないことを確かめながらカを入れ、ディーノはゆっくりと上半身を起 こした。痛む場所もなければ、不快な部分もない。 「みの用意ができています」 おずおずと、少年はディーノに声をかけた。