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検索対象: 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6
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1. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

出入りしていた。母とすごした記憶よりも、マリエと共有した時間のほうがたくさんある。 ( すみません : ・ 、バルドザックは自分を心配してくれているマリエの気持ちがわか 飛びだしていきながら り、胸が痛んだ。だが言うことをきいてとどまれば、後悔することがわかっていた。一生悔 いて曉かねばならないなんて、とても耐えられそうにない。物心ついたときからずっと心を 占めてきた者のことを、忘れることはできない。 しようき 王都には瘴気が満ちていた。 飛竜を駆りながら、バルドザックは宝物既から無断借用してきた神剣を鞘から引きぬく。 魔物の浄化能力をもっ剣は、抜いた瞬間から熱くなり刃をうっすらと輝かせる。 魔物がこの王都に現れている。 魔物を呼びそうなものは、すべて厳格に蜥じたはずだ。 空それなのにこれだけの瘴気を感じるということは。 の何者かが魔物を連れて現れたのに違いない。 幻何百人といる魔道士が結兆を張るこの王都で、そんなことができる者は。 闇と盟約を結ぶバリル・キハノ以外にいない。 そしてキハノは。 やみ けつか、 ゃいば

2. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

てばちばちと鞣きした。言うべきことをレイムが言ってくれたことがわかっていた。 「ごめんなさい : 真っ赤になった顔から小さくもれた声に、レイムは緑したたる初夏の風のようにむ。 「行くよ」 うながされ、シルヴィンはこくんとうなずいた。 ディーノの 1 もはレイムの予想にわず、と逃げまどう兵士を焼いたのは最初の炎の ひと吹きだけだった。あとはファラ・ ハンのの力との放つものとで、小魔は勝手に 道をあけた。ただどぶんと飲みこんで取りこむだけしか能のない誣だな小魔に、銀斧を使 う勇者と天界の聖女の相手ができようはずがない。 ソニエが向かっただろう場所は、ひしめくほどにも群がり集まった兵士たちの数から知れ た。小魔に襲われ、抵抗むなしくとりこまれてはさらわれていく兵士たちは、いったいどこ からやってくるというのか、奥から奥からぞろぞろと続く。 とびら 兵士にうもれてほとんど見えない扉の向こうに、ソニエがいる。 「兵士をどけます ! 」 つつこんでいこうとするディーノの背中に、追いすがったレイムが叫んだ。

3. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

たことがわかった。 ソニエは薄く体にびたりとまといつくような、暗い赤をしたぐりの大きく開いた夜会用 の長衣をまとっている。裾を広げる優雅でな格好であるにもかかわらず、肩と腰に簡素 よろ、 な鎧。をつけている。 むらさき ソニエはゆらりと進みくるディーノを、赤みの強い紫の瞳を細めてめる。白目の割合よ りも、色をもっ瞳の部分がずっと大きい目だった。 くちびる 何もかも自由になるというような、勝ち誇った笑みがソニエの唇に浮かべられるのを見な がら、ディ 1 ノはむかむかとする。機はとことん悪いが、自由にならないために表情 は変わっていない。 「な物を置いておくれ , ソニエは椅子の前で足を止めたディーノにささやきながら、にいっと笑う。 「さあ 樹なよやかに願われて。 時 がしやりとディーノは背負った長剣を捨てていた。 影長剣をほんのひと振りすればこんな女、物の数ではないのに : 剣を拾いあげようにも、ソニエを前にして立ちつくす姿勢は微も変わらない。指一本自 分の意思では動かない。

4. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

た。フードを後ろにやり、な金色の髪を肩にこぼれさせる、見目麗しい若者である。 ひりゅう もうひとつ高みにも、もう一頭飛竜がいる。遠すぎてよく見えないが、それでも動かされ る翼の感じから、それがなんとも立派な飛竜であることがわかった。あれを乗りこなすとい うのは、かなりの武人であるのにい やかた 「ようこそお客人、わたしの土地へ。お疲れでありましよう。わたしの館で休んでおいきな どな いきなり怒鳴りつけられたわりには、女はひどく好意的な言葉を投げかけた。 「あ、はい・ ありがとうございます」 ハンを連れているわけだ 思いがけない誘いに、レイムは礼をのべる。弱っているファラ・ し、願ってもない言葉ではある。 ディーノが飛竜を降下させてきた。どうしたものかと目で訴えるレイムに、うなずいてみ せる。 「見渡したかぎり何もない。誘われてみるのもいし まもの ここに彼らは導かれきたのであるから。これまでのことから考えて、少なからず魔物のい るところに蜥の魔法陣も時のもあったのだ。こんな見晴らしのいい、殺風景な場所に 長居しても、収穫は望めそうにない。 「牙魔をする ! 休ませたい者がいる。案内を !

5. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

よろ、 黒のをまとう金色の髪の乙女がかすかに身じろぎした。 みどりひとみ はっと息をのんだレイムが見つめるなか、うっとりと翠の瞳が開かれる。 「ルージェス " " 」 地表近くになった飛竜からレイムは飛び下りた。 声のしたほうにゆっくりと、ルージェスが首を向ける。自分に向かって走ってくる者を見 ままえ あんど て、目を細めて幸せそうに微笑んだ。すっかり安堵した顔で、眠りたりないように目を閉じ る。 見いではない。 ルージェスは生きている。 駆け寄ったレイムに抱き起こされたルージェスは、確かにかく、規則的に動く心臓の音 を響かせていた。気持ちがたかまりすぎて涙すら出せず、レイムは強くルージェスを抱きし める。ファラ・ ハンの起こした奇跡であることがわかった。 空天界の聖女は、こんな奇跡までも 時 の 影 ルージェスを抱き起こすレイムの姿に、ふわりと優しくファラ・ 幻 周りのものが浄化され、まぶしく光り輝くような微笑み。 微笑んだファラ・ ハンは青い宝石のような瞳を閉じ。 ハンが微笑んだ。

6. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

い具合に、先客もだれもいなかった。音の響きかたから判断すると、けっこう広い 中は薄明るく、かなり深い穴だ。出口は上に見える、投げこまれたあのひとつだけなの したう ゆか 固い石の床に肩から落ちて打ちつけ、舌打ちして毒づいたシルヴィンだったが、しびれた ままた 舌が動かず音にならなかった。飛竜の様子をみる。ぐったりと動かない二頭は、カなく瞬き する。死んではいない。外傷もなければ、骨の折れている感じもない。あれは強いしびれ薬 のようなものであったのかと思う。口に入れていただけだが、シルヴィンも体に思うような 力が入らない。 なんとかしてここを出ないかぎりは、何がどうなっているのかわからない。 気持ちはいらいらするが、こういうときこそ落ち着いて頭をつかわねばならないことを、 経験によってシルヴィンは知っている。 樹座りこんで考える。 時落ち着くのにいちばんいいのは、何か食べることである。 影シルヴィンはごそごそと上衣の内ポケットをさぐり、油紙に包んだ干し肉の薄切りを取り だす。竜使いたちが常備する、非常携帯食料のひとつだ。人里離れたところで遭すること もある彼らには、こういった物も身につけておく習慣がある。 、カ

7. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

しかたないかなと観念して、レイムは息を吐き、に落ちた髪を軽くかきあげた。 魔物につけいられないように地を清め、明じて、地面に魔道の粉で簡単な魔法陣を描く。 もくもく そういう作業をしている間にも、黙々と死体は運びだされていくのだが、これを止める手段 も権限も、レイムとシルヴィンはもっていない。兵士たちは声をかけてもまったく聞く耳が やかた ないようだ。。 ひくりとも反応してくれない。死体は館に集められているわけだし、館で清め の魔道を行うこともできる。そう割りきるしかなかった。 「やだー、ぐちょぐちよじゃないのー ! 何考えてるのよー ! もで館に向かいながら、列を作る兵士たちの足一兀を見たシルヴィンが悲鳴をあげた。 ちぎれたり落ちたりした死体の一部を踏みにじり、ひたひたと進んでいく兵士たちの無神 経さには、目をいたくなるものがある。 レイムは青くなって口元を押さえた。低血圧者はこういう場面に弱い。 「信じらんないっー 血の気が多い娘は、かっかと元気である。 館の場所はすぐにわかった。 ディーノが感じたように、目印の何もないそこは、兵の列がなければ谷にまぎれ、見落と めじるし ひた、

8. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

ファラ ・ハンはまだとても歩けるほどに回復してはいない。当然のこととして、ディーノ はファラ ハンを抱えたまま、うながした兵士の後をついて歩く。 しよくだい 館の中は明かりとりひとつなく、黒っほい壁の高みには燭台もない。だが壁に光を発す る物質が含まれているのか、ばんやり明るく、物を見るのにさしつかえはない。風がかよわ ろうか ないのか、廊下を満たす空気はほのかに暖かく、気持ちいい。 しようもろ・ ハンの消耗具合をおしはかり、やはり無理はさせるべきで 小さく肩で息をするファラ・ はないとディーノは考える。 「カラクトール水で割っていないウイスタリアの果実酒はあるか ? ネクタリンか何か、甘 いものがいいのだが」 こさしますが ? ・」 どうしたのかと、兵士はいぶかしむようにディーノを振り返る。ウイスタリア産の果実酒 は、果汁そのものよりもいい香りがし、ロあたりのいいまろやかな酒だが、男が飲むには しいミネラル・ウォーターで薄めないもの 樹甘ったるく、カラクトール水という特別に相性の ) 時は、女が軽くたしなむくらいに飲むには強すぎる。 影酒を楽しむためにここを訪れたわけではない。それはディーノもわかっているはずだ。 「ディーノ : : : ? 」 「少し眠れ」

9. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

「俺は : : : 、泣かない」 孤高の修羅王を名乗るの若者、ディーノのぶつきらばうにも聞こえる簡潔な声を確か めながら、ファラ ・ハンはゆっくりと言葉を自分の中に取りこんで笑んだ。 ファラ ・ハンが死んでもディーノは泣かない。泣くことはすなわち、ファラ・ ハンの死を 認めることになる。ディーノはファラ・ ハンを失いたくはない。ようやく得た絶対のものを 失 , つ、わサ , こ ) ゝ し。。し力ないそれがファラ ハンにはよくわかる。ディーノを襲うのは、泣いて いられるほど小さな衝撃、失ではない。 ファラ ・ハンはディーノのから手を離し、静かにあげた腕をディーノの首にまわした。 ディーノにすがって自力で体を支え、レイムに振り返る。激痛をこらえ、必死にささやきの ような声をもらす。 「時のはあとひとつです : : : 旅を、続けましよう。癒しの魔道を、お願いします」 レイムはな翠の色をくもらせて、辛い瞳でファラ・ ハンを見る。言おうとしているこ とを読みとり、ファラ ・ハンは目でうなずく。悟し気持ちの準備ができたことを見て、レ イムはうなずいた。 「はい いん 静かに印を組むレイムに、ファラ ・ハンは背中の刀傷にほどこした魔道を解く。

10. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

じりりと後ずさるルージェスに顔を向けながら、キハノは赤く光る目をウイグ・イーに巡 らせる。 「望みをかなえてやろう」 ぞろりとした部で、ささやきかけた。びくんとウイグ・イーが耳を震わせる。 「すべてが終わった後に、恋しい主人をくれてやろうぞ。その時には好きにすればよい。 押 し開き、骨のまで余さずしゃぶりつくせばよいわ。だがその前 こ、に従わねばならぬ。 それまではそれは我のものよ」 ぐるるとウイグ・イーがの奥でうなった。確実にキハノの言葉を理解していた。 わけがわからず、ルージェスはウイグ・イーとキハノを見比べる。 ひとみ キハノを見つめ、何をなすべきかを赤い瞳の奥から読み取ったウイグ・イーが立ち上が 、ゝ、レージェスを抱きすくめた。 素早くルージェスの背後にまわったウイグ・イーカノ 樹「何をするつ」 工めじりつ 時目尻を吊り上げたルージェスに怒られ、ウイグ・イーは反射的に首をすくめたが、・鉄の 影のような腕はびくとも緩む知配はなかった。 顔を向けたルージェスとウイグ・イーの目が合った。 しん 主人の、愛おしい女の肉が、ウイグ・イーの腕の中にあった。若い娘の放つ、頭の芯がく