ファラ - みる会図書館


検索対象: 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6
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1. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

ないではいられない。時の瑪や印の法陣はファラ ・ハンにとって重要だが、わざわざ げれつ こんな下劣なものまで見ておく必要はない。 ディーノの体にもたれかかるようにして、ファラ ・ハンは目を閉じる。規則正しく刻まれ こどう る鼓動が力強くファラ・ ハンを揺すり、吐きだされる呼気がかすかにルにあたる。血状態 であり、体力もすっかり底をついていたファラ ・ハンにとっては、ディーノの発散するその 熱い生気を感じているだけで、少しカづけられるような気がする。 鼓動を感じられるほど近く寄りそって、言葉もなく、ただ風に吹かれ : このままでいられたなら。 ここで永遠にかなうはずもないことを願い、ファラ・ ハンの心が震える。 「どうした ? 」 小さく揺れたファラ・ ハンの長、に、動揺を見たディーノが問いかけた。 ファラ ・ハンはけぶる瞳を向けるディーノに、はかなく笑み少し首を振る。 くちびる ひどく心細い様子をするファラ ・ハンに不安になり、ディーノは唇を寄せる。 結びあって。をたてる必要はないのだと、ファラ ・ハンは唇が触れあう前にディーノの首 筋に顔をうめた。の聖女の名しかもたないファラ ・ハンはディーノの唇を受けられな 天界の聖女であるファラ・ ハン。隠すのではなく語られず、まだ完全にわかりあえない部

2. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

「俺は : : : 、泣かない」 孤高の修羅王を名乗るの若者、ディーノのぶつきらばうにも聞こえる簡潔な声を確か めながら、ファラ ・ハンはゆっくりと言葉を自分の中に取りこんで笑んだ。 ファラ ・ハンが死んでもディーノは泣かない。泣くことはすなわち、ファラ・ ハンの死を 認めることになる。ディーノはファラ・ ハンを失いたくはない。ようやく得た絶対のものを 失 , つ、わサ , こ ) ゝ し。。し力ないそれがファラ ハンにはよくわかる。ディーノを襲うのは、泣いて いられるほど小さな衝撃、失ではない。 ファラ ・ハンはディーノのから手を離し、静かにあげた腕をディーノの首にまわした。 ディーノにすがって自力で体を支え、レイムに振り返る。激痛をこらえ、必死にささやきの ような声をもらす。 「時のはあとひとつです : : : 旅を、続けましよう。癒しの魔道を、お願いします」 レイムはな翠の色をくもらせて、辛い瞳でファラ・ ハンを見る。言おうとしているこ とを読みとり、ファラ ・ハンは目でうなずく。悟し気持ちの準備ができたことを見て、レ イムはうなずいた。 「はい いん 静かに印を組むレイムに、ファラ ・ハンは背中の刀傷にほどこした魔道を解く。

3. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

倒れた。 「ファラ・ ど′」う 怒号にも似た声でシルヴィンが悲鳴をあげた。 しつこく ・ハンはその場にくずおれた。 長い漆黒の髪を広げ、舞い落ちる羽ほども優雅に、ファラ きようがく 驚愕し、一瞬我が目を疑って硬直した者たちの間をすり抜け、誰より早く近寄ったエ ろうまどうし ハンを抱き起こす。 ル・コレンティ老魔道師がファラ・ ひりゅう 矢のように飛竜を飛ばせたシルヴィンが地面に飛び下りた。 ハンのそばにひざまずく。 トーラス・スカーレンとバルドザックがファラ・ ハンのもとに集まる。 魔道士たちが静かにファラ・ 息をつまらせ、レイムが顔をあげた。 ハンの命を用いたものであったことがわかっ ルージェスを復活させた奇跡が、ファラ・ た。魔道原理はこの世界の絶対法則である。天界の聖女といえど、まったくの例外ではない ことが、わかった : 小さな子供のようなあどけない表情で眠るルージェスを抱きあげて、レイムはゆっくりと ファラ ハンに近づいた。 ・ハンが笑む。 悲痛な顔で足を進めるレイムに、薄く目を開いたファラ もち

4. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

・ハンには両手で捶えてもつらいはずだ。 「強いぞ。慌てるとむせる。ゆっくり飲め」 ハンの唇の前に持っていきながら、ディーノは静かに言う。 杯をファラ・ 「はい」 ・ハンは杯を受けとろうとディーノの支える銀杯を両手で包むように持 うなずいてファラ ハンははっとする。 つ。手を放す様子のないディーノの顔を杯の向こうに見て、ファラ・ さっきディーノが口をつけたのは、この銀杯のどこだったのか。瀧らかな銀面は酒を綺麗 に弾き、しかも指でぬぐわれてしまった後である。癜蹣を捜すことなどとてもできるはずが ささい ・ハンは恥ずかしくなって視 ない。ひどく些細なことに敏感になっているとわかり、ファラ 線をさげた。 伏せられた長いが、ディーノには理解できない。 「どうした ? ・ハンは首を振る。こんなこと、言えるわけがない。 問われて、ファラ 空 ハンの横に腰を下ろした。 ハンを見かね、ディーノはファラ・ 時どうも動作の遅いファラ・ 影ファラ・ ハンの背を支え、銀杯を動かして飲むようにすすめる。 顔色を見て様子をうかがいながら、唇にあてた杯をゆっくりと傾けてくるディーノによっ て、ファラ・ ハンの咽に酒が流れこんだ。果実酒の甘い年いが強烈に鼻を刺激するが、不快

5. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

186 ゝえ、『入り』ます ! 」 「入れなかったではないかー こどう しようヂき 体を襲った衝撃から抜けきれず、胸の鼓動を激しくしているファラ・ まゆ ・ハンは意を決し、まっすぐにディーノを見つめる。 は眉をひそめる。ファラ 「わたしひとりなら、入れるはずです : ・ ファラ ・ハンは。の儀式で具現した天界の聖女。ひとと同じ姿をもって、しかもけっ して『ひと』ではないもの。 ろうまどうし その『ファラ・ ハン』を、術に溶けて五官をもなくしているとはいえ、あの老魔道師が判 別できないはずはない。 ・ハンのために、開かれるべきものでな 王家の庭を守る強固なる壁も、救世の聖女ファラ ければ意味がない。 「お願い、降ろし下 真摯な青い瞳に見つめられ、内識しようとして、ディーノはためらった。 「お前、翼が : : : 」 さよく キハノにもぎ取られ、左翼を失っている。片翼だけでは飛べない。飛べないファラ・ を、ひとりで空に放りだすことができるはずがない。 ・ ( ンは花がほころぶほど優しく、ふわりと笑む。 案じるディーノに、ファラ ンに、ディーノ

6. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

くろまどうし ハンを阻止し、世界を滅亡に導くこと。 キハノが黒魔道師としてできるのは、ファラ・ じくうじゅ 時空樹の存在は、闇と盟約を結んでいた彼だからこそ知っていた。 「影は多であって個。すべてががったもの。七つ目のは、時の宝珠の影そのもの、 ファラ ・ハンは首を巡らせ、キハノの姿を捜す。 「影があるのなら、光とともに。わたしはあの方に宝珠をっていただかなくては : 完全な形にもっていかなければ、本当の世界救済は行えない。 時空樹の出現にもなお、あきらめることのないファラ・ ハンに、レイムは驚く。 ファラ ハンはレイムに願った。 「野鴉の二重五芒星を ! 王家の庭を囲んで、時空樹の成長をくい止めてください ! 」 それは時空をも超える「絶対』の力を有するもの。 レイムのもにファラ・ ハンを助けられ、ひとまずほっとしたシルヴィンは、ディーノの 姿を捜した。ディーノは吹き飛ばされるファラ・ ハンのかを先に読んで、行動を起こして いた。ファラ・ハン救助には、シルヴィンが向かい、レイムに助けられたため、出番こそな かったわけだが、ディーノがファラ・ ハンを見捨てることはない。 ディーノの乗るのは巨大な飛竜。見回したシルヴィンが、すぐに見つけることができたそ れは、鞍の上にきちんと主人を乗せている。どこかに向かっているらしいディーノの飛竜の くら こ やみ

7. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

ディーノは、じいっと見つめてくるファラ・ 「一人寝は寂しいか ? ー 「そんな : ・ ハンは顔をうように、さらに上掛けを引っぱりあげようとす 忙しく第。きし、ファラ・ る。自分がそんな顔をしていたのかと思うと、恥ずかしくてならない。 「すぐ戻る」 バラ色に頬をほてらせる可な顔をめ、ディーノは言った。 ハンの目に涙がにじんだ。泣きたかったわけでもなんで 言われた瞬間、じわっとファラ・ もないのに。ファラ ・ハンは、涙の珠をこばさないように目をばちばちさせながら笑む。 「眠ってますから平気です」 「それが平気な顔なのか ? 指摘されて、こそこそとファラ 樹「無理するな」 時「してません」 影「そうか ? 」 こうてい ファラ ・ハンは黙った。嘘や強がりは見透かされそうで、肯定することができなかった。 「俺がそばにいては牙魔か ? 」 ・ハンは顔の下半分を上掛けの中に隠す。 ハンに笑う。

8. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

人間としての力しかもたぬ『今の』ディーノ。 我が身を盾としたディーノの前で。 闇が弾けた。 ディーノの声に、びくんと背を震わせてファラ 闇が弾けた瞬間だった。 ぐらり、ディーノの乗る飛竜が傾く。 ハンはディーノに向かって飛ぶ。 悲鳴をあげ、ファラ・ 背後から求め抱き支えるように、矢のように飛びながら腕を伸ばしきたファラ・ 飛竜の手をぐいと引いたディーノが顔を向ける。 その右手に斧があった。 空不思議のが、キハノの放った闇の力すらも打ちいていた。 時 いまにも泣きそうな顔をしているファラ の ・ハンに、ディーノはあのいつもの表情で、にや 幻りと笑う。 変わらぬ様子をみせるディーノの胸に、光の翼を消失させたファラ ・ハンが飛びこんだ。 一アイーノは、しつかりとファラ・ ハンを受け止める。 たて ・ハンが振り返った。 ノ、

9. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

ではない。ひとくちごとに目を閉じながら、こくんこくんと咽を鳴らし、ファラ・ ハンは ゆっくりし榊を干した。ロあたりのいい酒は、体の中を落ちていきながら少しずつ熱を帯び る。ファラ ハンの背にあてられたディーノの大きな手のひらが、熱い。杯の傾け加減を示 すために杯を支えるディーノの手を包んだファラ・ ハンの両手は、触れるかぎりのディーノ の手の形をくわしく感じ、知ろうとしている。 酒のせいかディーノを意識しているせいか、かああっとファラ・ ハンの胸が熱くなった。 杯を寝台横の小机に置いたディーノは、ファラ・ ハンを軽く抱きあげ、そっと寝台に横た えた。横たえさせ、間近い位置から自分を見おろすディーノに、ファラ・ ハンの心臓はどき こどう どきと鼓動を早くした。頬が赤くなっていくことがわかる。隠れるようにファラ・ ハンは上 掛けを胸の前に引っぱりあげる。 「では戦士様はどうぞこちらへ , ていちょう 丁重な声で、兵士はディーノを誘った。 「ああー とびら ディーノは簡単に返事し、先にたった兵士は扉のところで待つ。 「この酒よ蛍ゝ、ゝ 。弓しカ後に残らぬ。短い時間でも熟睡できるはずだ」 「はい・ 寝台から腰を浮かすディーノを、ファラ・ ハンは目で追う。 ほお さそ

10. 幻影の時空樹 プラパ・ゼータ 6

187 だいじようぶ 「ないものならば、作ります。大丈夫。まかせて」 ハン』。背に翼をもつ者。レイムのように飛翔の術、印をもたないファ 彼女は「ファラ・ ハンが空を行くには、どうしてでも翼をもたねばならない。 可で愛らしく、あまりにも力ない、見目麗しくたおやかな姿形をもっ乙女だが、その強 つらぬ こくふく い意思でどんな困難をも克服してきた。主張を曲げることなく、理想を貫いた。 そんなファラ ・ハンがやると断言したものを、ディーノに引きとめることはできない。 ひりゅう しぐさ ハンを抱きよせたディーノは、飛竜をファ ぐいと一度、強くファラ 荒つばい仕草で、 ハンの望む位置まで向かわせる。 ほうようこた ・ハンが、腰をディーノの腕に支え 抱擁に応え、ディーノの首に腕をまわしていたファラ ンをうかがうように、そっと体を傾ける。 られ、静かに足を宙に置く。飛竜がファラ・ 一アイーノがファラ・ ハンにム叩じる。 「約束を忘れるな」 樹 「はい 空 の上空をいく風に長い髪をやわらかく泳がせながら、ファラ から 影 ほんの少しの間、視線を絡め。 ファラ ハンはディーノの首にまわしていた腕をほどいた。 すべ 支えを緩めたディーノの腕から、細くくびれた腰の重みが滑って消える。 ひしよう ・ハンはディーノを見つめる。