142 裂けた繭から首を出した幼虫が、と見なしてソニエの左肩に食いついた ! 肩を保護したこと、ばりりと噛みかれ、ソニエがすさまじい悲鳴をあげた。 くわえられたまま幼虫に振りまわされるソニエの咽からほとばしる悲鳴が、広間の壁にわ んわんと反響する。 ぶつつりと止んだ聞こえぬ音に、解放されたディーノたちは肩に入っていた力を抜く。 「あの方を助けて ! 時のをに渡さないで " " ・ハンが悲鳴をあげる。 宝珠ごと食らわれようとしているソニエに、ファラ ディーノの手の内に斧が現れた。 レイムが印を結んだ。 うなりをあげて空を薙いだ銀斧が、幼虫の首を刎ねた。 火花を散らす聖魔道力の光弾が幼虫に炸裂した。 微に体を礒された幼虫の首が、ソニエをくわえたまま、ばとりと落っこちる。 腐。のような体液をまき散らし、顎にとらえたソニエを盟し、跳ねながら激しくのたう っ幼虫の首。魔道の粉を持ってソニエに駆け寄ったレイムが、魔物浄化の魔道でもって幼虫 を分解する。 魔物にわれていた館が、核となる魔物を失って、おぞましい鳴き声をあげながら溶け崩 れた。魔物によって命奪われた兵士や、支えていた小魔をなくして崩れ落ちた、どろどろの さくれつ
154 あまりに聞き慣れた部に、マリエは溜め息をつく。 「ヾールドザーックー 子供をりに呼びつける口調で、マリエは印をほどきながら大声を張りあげた。 しばらくして、ばたばたと忙しい足音とともに戸口に張った幕が開かれる。 「呼びましたか ? さん」 息をきらせながら 、バルドザックが首をだした。立ちあがったマリエは、ゆったりと肥え た体を運びながらバルドザックに近寄る。 「トーラス様はもう王宮にはいらっしやらないよ」 簡潔に一言われ、ぎよっとバルドザックは目をむく。これまでトーラス・スカーレンがバノ ドザックら衛の者に何も告げず、どこかに行ったことなどない。、 しったい何が起こってい るのかと青くなるバルドザックの肩を、マリエが肉厚いかな手で叩く。 「エル・コレンティ殿がついておられる。案じることはないよ。お前なんかより、ずっと頼 りになる方だからね」 「どこへ けしき 気色ばって、噛みつきそうな勢いで、バルドザックはマリエに尋ねる。マリエは首を振 「お前の入れない所だよ」 こ
なぜ笑われなければならないわからず、ル 1 ジェスはキハノを見つめる。 ばかりこう おろ 「さすがに血をわけた兄妹よ。愚かしい賢しさまでもよく似ておるわ。もう少し馬鹿か利ロ であったなら、救われるものを」 ぐっぐっと笑いを噛み殺した声でキハノがつぶやいた。 キハノはルージェスに向かって腕を広げる。 「さあおいでなさい。一緒に行くのです。血にまみれた天界の乙女と六つのを得て、約 束の地へ , さそ 誘われ、ルージェスは嫌々するように緩く首を振る。 キハノは小さく舌を鳴らす。来る気がないなら引きずっていくまでだ。 すべ 目を細めて腕を下げ、今にも音もなく滑るように近づきくるかの様子を見せるキハノに、 ルージェスは色をなす。 「来るな ! 」 悲鳴のような声をあげ、ルージェスは腰を浮かせた。知らず今まで一緒にいたものの、そ れがたとえようもなく鴉悪な存在であることに気づいていた。 動けぬまま首を動かしてルージェスを目で追うウイグ・イーは、情けない顔でおどおどと キハノの出かたをうかがう。 した さか
うなずいた。首にまわしたカの入らぬ奢な腕は、確かにこの若者の抱擁に応えていた。 ・ハンは知む。 ディーノが心の中でつぶやいたことに、ファラ 「約束します : ・・ : 」 愛らしい声で言われたそれが、けっして破られることのないものであることを、ディーノ は知っている。 術を終え、レイムはかざした手を下ろし、印を解いて息を吐く。 のように白いルを這う光の形は、しだいに小さくなり、消えていく。 ひざ ・ハンが背を震わせるたびに、きつく レイムの後ろに膝で立ち、激痛でびくんとファラ 。を噛みながら強くを握りしめていたシルヴィンは、へたりこむように腰を落とす。 まどう しようす ) に浮いた汗をぬぐい、憔しきった様子のレイムは肩で息をする。大掛かりな魔道に よる体力の消費よりも、連続する精神疲労による影響のほうが大きかった。 樹「キャウ D 」 時腰の後ろでディーノのマントを握り、うるうると目を潤ませる小さなもに、ファラ・ 影ンが淡く微笑む。 ・ハンが楽なように抱き直す。 癒えたらしい背中の傷に、ディーノはファラ と飛竜たちが首をあげた。
ファラ ・ハンが甲高い悲鳴をあげ、ディーノが獣。のように吠えた。ぐるりと錐もみした飛 ころ 竜から、衝撃をくらって目を回した小さな飛竜が転げ落ちる。 ( ンを抱き支え、歯をくいしばったディーノが、強く笋 どっと胸に倒れこんだファラ・ ついらく を握って飛竜をむりやり正気づかせ、墜落する飛竜の体勢をたてなおす。 「しつかりしろ ! 」 ・ハンは、びくんと背を震わせて目を 間近い位置で怒鳴られて、気絶しかけていたファラ 日肝く。 地表に激突寸前で首をあげた飛竜が、空にあがる。 した ディーノはいまいましげに舌を鳴らす。 ゅうずう 「融通のきかぬ奴らだ ! 」 世界を救えだの勝手なことを言「ておいて、この土職場でこの有り様とは : ファラ ハンは、はっと顔をあげる。 空「もう一度、この天蓋の頂上へ行ってくださいー の「強行するのか ? 」 0 銀斧で破「てを破壊するのか。 ディーノの瞳に浮かんだな考えを読み、ファラ 毬る やっ ・ハンは首を振る。きつばり一言いき
ないではいられない。時の瑪や印の法陣はファラ ・ハンにとって重要だが、わざわざ げれつ こんな下劣なものまで見ておく必要はない。 ディーノの体にもたれかかるようにして、ファラ ・ハンは目を閉じる。規則正しく刻まれ こどう る鼓動が力強くファラ・ ハンを揺すり、吐きだされる呼気がかすかにルにあたる。血状態 であり、体力もすっかり底をついていたファラ ・ハンにとっては、ディーノの発散するその 熱い生気を感じているだけで、少しカづけられるような気がする。 鼓動を感じられるほど近く寄りそって、言葉もなく、ただ風に吹かれ : このままでいられたなら。 ここで永遠にかなうはずもないことを願い、ファラ・ ハンの心が震える。 「どうした ? 」 小さく揺れたファラ・ ハンの長、に、動揺を見たディーノが問いかけた。 ファラ ・ハンはけぶる瞳を向けるディーノに、はかなく笑み少し首を振る。 くちびる ひどく心細い様子をするファラ ・ハンに不安になり、ディーノは唇を寄せる。 結びあって。をたてる必要はないのだと、ファラ ・ハンは唇が触れあう前にディーノの首 筋に顔をうめた。の聖女の名しかもたないファラ ・ハンはディーノの唇を受けられな 天界の聖女であるファラ・ ハン。隠すのではなく語られず、まだ完全にわかりあえない部
・ハンは、眼下の様子を見 抱かれた形のままにディーノの鞍の前に乗せられていたファラ ハンの頭を引き寄せた。 ようと目を開ける。ディーノは自分の胸一兀に、そっとファラ・ 「見るな」 ハンは、ディーノの胸にかばわれながら小さく 簡潔に命じられ、一度目を閉じたファラ・ 首を振る。 の聖女ファラ・ ハンは、世界から目をそむけるわけにはいか しかも時ののあるべき場所に導かれでたのであるから。 ・ハンを引き寄せた手を放す。ファラ ディーノは静かにファラ ひとみ く笑み、寂しい瞳を眼下に向ける。 世界にある、もろい命の物があった。 シルヴィンはを降下させ、肉眼で果恥に確かめて、辛そうに目を伏せて首を振る。 樹レイムは驚きのあまり口元を手でかばい、声もなく惨状を見つめた。研ぎすまされたレイ 時ムの感覚には、かすかにも生きている命の存在を感じとることはできなかった。 影自然を守護する神に守られた迷信深い民族であるシルヴィンは、胸の前でひとっをき る。 「アン・クロス・タ・ナーゼ ( 魂よ、安らかなれ ) 。悪しき死に神が来るわ。夜までに死骸 たましい くら ・ハンはディーノを見て
開放して卓を整え、せっせと接客に応じる。各地から集まった者たちに持ち寄られた荷がほ はで どかれ、酒や食べ物が惜しげもなく振る舞われる。派手に着飾った歌手や宮廷楽士たちが宮 殿の隅で、念入りな調整を行う。 もれ聞こえるの部に楽士としての気分が抜けきらず、そわそわと首を巡らせるレイム に、マリエがわざとらしく払いする。レイムは小さく首をすくめる。 あつら ごうしゃ マリエが先頭にたって連れているのは、救世の英雄たち。新しく誂えた豪奢な衣装に身を 包んだディーノとレイム、シルヴィンとルージェス。ディーノの腕には指定席とばかりに、 聖光竜として貢した小さな飛竜がくつつき、ルージスの腕には子犬のウイグ・イーが 抱かれている。 ろうまどうし とびら 客を集め、扉を閉ざした広間の前で、一行を待ち受けたエル・コレンティ老魔道師が、う ゃうやしく礼をする。 「皆様お待ちでございます」 空「まいりましよう」 時 にこりと笑み、マリエが四人をうながした。 の 影ぎよくざ 幻玉座に腰かける女王トーラス・スカーレンのもとに伝令が渡った。 協を持っトーラス・スカーレンは優雅に衣装の裾をさばき、玉座から立ちあがる。 「世界救済の功労者、我が世界の英雄たちに道を開けー すみ
187 だいじようぶ 「ないものならば、作ります。大丈夫。まかせて」 ハン』。背に翼をもつ者。レイムのように飛翔の術、印をもたないファ 彼女は「ファラ・ ハンが空を行くには、どうしてでも翼をもたねばならない。 可で愛らしく、あまりにも力ない、見目麗しくたおやかな姿形をもっ乙女だが、その強 つらぬ こくふく い意思でどんな困難をも克服してきた。主張を曲げることなく、理想を貫いた。 そんなファラ ・ハンがやると断言したものを、ディーノに引きとめることはできない。 ひりゅう しぐさ ハンを抱きよせたディーノは、飛竜をファ ぐいと一度、強くファラ 荒つばい仕草で、 ハンの望む位置まで向かわせる。 ほうようこた ・ハンが、腰をディーノの腕に支え 抱擁に応え、ディーノの首に腕をまわしていたファラ ンをうかがうように、そっと体を傾ける。 られ、静かに足を宙に置く。飛竜がファラ・ 一アイーノがファラ・ ハンにム叩じる。 「約束を忘れるな」 樹 「はい 空 の上空をいく風に長い髪をやわらかく泳がせながら、ファラ から 影 ほんの少しの間、視線を絡め。 ファラ ハンはディーノの首にまわしていた腕をほどいた。 すべ 支えを緩めたディーノの腕から、細くくびれた腰の重みが滑って消える。 ひしよう ・ハンはディーノを見つめる。
125 シ矢ぐ眼 。鼻浮た 飛飛壁ぼ カゝ とす ノ、の つ く らず と耳 つぬに ! る 尸跳とて続に れオ も う飛のび の乗びに たか 投し ) ノ、く げナ に積 がたげばを伸悪の こ物 つひび臭 集み け飛 めあ て らげ 紅ぐの竜き イ日 れら う発熱ら たれ 死オ 体そ どのはヴ 吐しゝ おを しか から たび けか を色のみを鳴 異ん いだ見を し回 の首 首の 物を ぶの 立巡 飛ノレ 中・立 日す かの ぶ底 白を 幻影の時空樹 の に めせ逃の尾 る 竜飛て 蓮ほをたが 見 、し ま 。も カゞ じびヴ か カゝ る ル てヴよ イ ン つ球 う咽 な 、満ががら鞍つへ き 尾にな . コ乞 . 、た き た 、な竜響乗 の が放先飛ら を、 る よ を つ だ黽ゅん り が シ のうで枚ばか だ た 向 う で か と く 7 メ 、の の か に 届 日 に シ 館乱 に雑 設に とがを曲あ て あ る け の 炎 を き が く た遅し い を ね ま げ た レ イ ム の 飛 せ は 飛 び を飛奥経し い も ぞ飲周 み く シ イ ン は 。飛 の 手た の神た の き な ぐ り り 、すた 、膿ろ壁 の 、のる混ろ間 じ る し 。も の の ち ち に ら ち 大 き く だ ん 叫 で 声 。な う は ン イ ル が い た 肉も染し翼悲 はで動の 、たかよ もす が か た ど り と 、をめ あたた て な が ら 中 動にヴ ま ぎ 。れは 質 ル イ ン と せ る う ら 投 げ ま れ た も の た ち を 握 る 濁ぞ満