作っ - みる会図書館


検索対象: 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2
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1. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

「大変ですね」 「大変なんです」 けが うかっ はもの 左手に刃物を仕込んだ黒い革の手袋をしているジェイの場合、迂闊に起こすと怪我をす うなず ることになる。リンゼは実感をこめて、ミランに頷いてみせた。 ミランはジャガイモでパンケーキを作り、その上にチーズをのせてオ 1 プンで焼いた。 きいちご すぐ近くにあると教えられ、リンゼは木苺をたくさん摘んできて、クリームチーズで作っ たレアチーズケーキに、たつぶりと添えた。 ぶあいそう きれい みじたく リンゼが手伝って身支度を綺麗に整えたルミと、頭の中が半分まだ寝ていて、無愛想に 輪をかけた状態のジェイが下りてきて、朝食だ。ジェイの飲むジュースは、昨日約束した とおり、リンゼが作った。 にお 「やあ、いい匂いがすると思ったら、これだったのか」 食卓についたルミは、香ばしく焼き上がったパンケ 1 キを、にこにこと見つめる。 花 の「たいしたものも用意できなくて : : : 」 あで 絶恐縮して小さくなったミランは、ルミに艶やかに微笑みかけられ、頬を赤くした。 だめ 「駄目ですよ、熱いですからね ! 」 したやけど ルミの場合、舌を火傷してもわからない。左手が使えないルミのために、フォークだけ かわ ほまえ ほお

2. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

きるだろう。 「そう、ですか」 ミランは恥ずかしそうに微笑んで 「僕なんかに、もったいないお話ですね」 「認められて、期待されてるんですよ。頑張ってくださいね」 にこにこと微笑むリンゼに、ミランははにかむ。 「精一杯、やってみます」 一生懸命、それしかミランにはできない。 葡萄酒の枻を傾け、ジェイはミランに言う。 「なんのために描くのか、それを忘れなければいい みちしるべ それはきっと、生きるための道標。 ジェイの一一一一口葉に、ミランははっとして顔を上げ、そしてゆっくりと微笑んだ。 「はい・ 食事を終え片づけをして、ミランと別れて屋根裏部屋に上がってきたジェイに、ルミは につこりと微笑みかけた。 「もう大丈夫かな」

3. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

みじたく 身支度を整え、新聞を持って、ルミが屋根裏部屋から下りてきた。どうにか三角巾が取 れたルミは、まだ左手が使えず本調子ではないが、少しばかり身軽に見える。野菜の汁の かゆなべかま 粉末を水で戻し、ジェイのジュ 1 スを作っているリンゼと、粥の鍋を掻き混ぜているミラ あいさっ ンに、ルミはにこやかに朝の挨拶をする。 「今朝は、オートミ 1 レゝゝ ノ力し ? ・」 「いえ、すみません、ポリッジです」 鍋で煮た粥という点では同じだが、オートミールはカラス麦で作る。鍋の中には、小麦 を挽いたときにとれるあらびき粉や細かく挽いたプラン等が入っていて、カラス麦だけで と、つ 作った粥ではないので、ポリッジだ。オートミ 1 ルやポリッジは、プラウンシュガーや糖 蜜、ミルクやクリームを添えて、栄養がある朝食として、食卓に並べられる。 きのこ 「ルミさん、この茸、食べられますか ? かご のぞ はいぜをたい ミランに配膳台の上の籠を指し示され、ルミは籠を覗きこむ。 『小さい人たちの円卓』じゃないか。珍しいものを見つけたね」 ようせい ミランがとってきた茸は、普通の茸ではない。妖精が夜中に、そこに集まって遊んだ印 絶となる、妖精の茸だ。野原や花畑にぐるりと輪を描いて、一夜のうちに生え出ていること で知られている、超自然の産物である。妖精は直接的表現で呼ばれることを嫌うので、少 し遠回しな言い方をするのが常識だ。姿は見えなくても、どこかで聞かれているかもしれ みつ さんかくきん

4. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

チューののったトレイを置かれながら、寝台に座ったルミは残念がる。 「さっさと食べて寝ろ」 のんき 呑気に冗談など言っている間があれば、スプーンを動かせと、ジェイはルミを睨む。怪 かば 我をしたルミを助けるのは、当然、庇ってもらったリンゼだ。要領が悪かったからだろう たた はねぶとん が、羽布団を整えるために、振って叩いてと頑張ったリンゼは、柔らかい茶色の髪がばさ あとうかが ばさに乱れていて、奮闘の跡が窺える。ルミをここまで連れてくるために、森の中を早足 かわいそう で歩いたのだし、これ以上こき使うのも可哀相である。 「いただきまあす ! なか お腹がペこペこだったリンゼは、ルミの寝台の近くに寄せた三つ編みマットの上に座 かか り、ばさばさ頭のままルミに背中を向けて、シチューの皿を抱える。自分はほとんど作る だけだが、ジェイの料理は店で出せるほどの一流品だ。どんな食材でも、ジェイが料理す ごちそう ると御馳走に変わる。茶色い子犬が、餌皿に頭を突っこむようにして食べている姿を連想 し、くすくすと笑ったルミは、リンゼの頭についたアヒルの羽を払い退け、ジェイを本気 で怒らせないように、おとなしく食事をした。三つ編みマットに腰を下ろし、吸っていた かばん 」しかに′、 煙草を置いたジェイは、自分の鞄から出した新聞を読みながら、鹿肉の燻製を口に運び、 レッドカランツのワインを飲む。 リンゼが台所に下りて食事の後片づけを終えたとき、ミランは休むために寝室に入って えさざら はらの くんせい にら

5. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

160 やっかい ジェイを怒らせると厄介なので、ルミはおとなしく、ミランのいる居間に引っこむ。 わなかか さく 獲った鳥と罠を抱えて戻ったミランは、鳥を家畜小屋の一角に作った柵の中に放し、納 ごごフ 屋に罠を片づけて、絵の作業を続けるために居間に戻っていた。入ってきたルミに、 ンは尋ねる。 「 : : : 鳥、お昼にと思って獲ってきたんです。絞めたほうがいいですよね ? 」 けものえさ 野生の獣が餌をとるのと違って、人間の場合、殺してすぐに、動物の肉が食べられるも のではない。鳥ならば、絞めてからすぐに台所で調理にかかることができるので、ほとん ど問題にならないが、大きな獣では、殺してすぐに肉として調理することは、難しい。死 後硬直が始まった肉は、筋肉が固くしまっている。気温の高さにも左右されるが、生前の 運動が激しかったものほど、硬直の始まるのもとけるのも早い。この過程をみた後、熟成 させて寝かせた肉のほうが、柔らかく食べることができる。副食として肉を食べる者は、 よく熟成させた柔らかい肉のほうを好み、主食として肉を食べる者は、あまり熟成させな い硬い肉を好む傾向がある。 えもの マギーザックという、大物の肉は手に入ったようだが、あれはあくまでジェイの獲物 だ。しかも今、あれを肉として調理することは、硬直しているだろうということと、熟成 か足りないという点で、好ましくないように思える。どうしようかという目をしているミ ほまえ ランに、ルミはにつこりと微笑む。 かた

6. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

きげん 8 く機嫌が悪いのだ。急いでロを噤んだリンゼを、屋根裏部屋から下りてきたジェイが、く わえていた煙草を手に取りながら、不機嫌極まりない顔で睨んだ。 「ジェイ、向こうで待ってよう。まだもう少しかかるみたいだから」 あで ほまえ リンゼから気を逸らさせるように、ルミは艶やかにジェイに微笑みかけて、居間のほう うなが ひりゅう に行こうと促す。振り返ったルミの抱いていた小さな飛竜が、ジェイを見た。 「キュ : じ「と見つめる真紅の瞳を、佐のジ = イは深緑の瞳で睨み返す。 低血圧で朝が弱く、まだ半分寝ている状態のジェイは、起きているときよりも物騒だ。 えたい めんどう 得体の知れない珍客を歓迎する気など、さらさらない。うっとうしいものは嫌いだ。面倒 こうむ なので自分から構うのは御免被るが、気に入らないとなれば、実力行使で排除する。 びこうふく 殺意のこもった目で睨まれた小さい飛竜は、ふかっと鼻孔を膨らませた。 「キヤオ ! 」 ルミの腕を蹴って飛んだ小さい飛竜は、ジェイの顔面に飛びついた。 「うわー ぎようてん あにはか 仰天したのは、ルミたちのほうだ。襲いかかったのかと思ったが、小さい飛竜は豈図 つぐ にら ぶっそう

7. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

266 ふられることなど端から全部わかっていたのだと、リンゼに言われたフェレスは、不貞 くさ 腐れた表情で、横を向く。 「まあね、当事者たちよりも、周りで見ている者のほうが冷静な目で見られるものだよ」 ほまえ ルミは言って、につこりとフェレスに微笑みかける。不満たつぶりの目でフェレスに見 返され、ルミは苦笑する。 「どれだけ数が集まったって、片方だけしか見てないんじゃ、あてにならない。そうだろ スザナとフェレスを結びつけて考えていた村の者たちは、フェレスといっしょにいるス ザナのことしか見ていなかった。フェレスがスザナのことを好きで気にかけていたし、ス ザナは親切で優しくて頼りになる、兄のような存在としてフェレスのことを慕っていたか ら、勘違いされても仕方ない。 ルミはスザナとミランのことで話をしたことがある。そのときに、スザナがミランに対 いた してどういう感情を抱いているか、簡単に予測がついた。はっきりした態度をとっている わけではないが、ミランもまんざらではない様子だ。村に通っているジェイやリンゼに話 を聞いてみたが、スザナは奉仕活動を理想として、活動している娘ではなかった。独り暮 らしで不自由している者は村にも何人かいるが、スザナにとっては、ミランだけが特別な のだ。 かんちが やさ した

8. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

ても頼りになる。しかもどれも美味しく調理してくれるので、最高だ。 うなぎ はいぜん 釣り竿を片づけ、鰻の入った籠を持ったリンゼのあとから台所に入ったミランは、配膳 たい きれい 台の上に置いてあるレイヤーケーキに目を留めた。綺麗なケーキだが、ジェイがいつもデ ザートのために作ってくれるケ 1 キとは、雰囲気が違う。 「これ・ : : ・」 「スザナだ」 簡潔に言い ジェイは袖捲りをして手を洗う。リンゼはミランに微笑みかける。 「帰ってくる途中で、森で逢ったんですけど、元気そうでしたよ」 「そうですか」 ミランはレイヤ 1 ケーキを見つめて、優しく微笑む。 「すごいなあ。とても美味しそうにできてる。上手ですよね、ジェイさん」 「ああ」 うれ 花鰻を持ったジェイに、始めると声をかけられるまでずっと、ミランは嬉しそうにケーキ のを見つめていた。 色 彩 夕食のときに、ルミはフェレスから頼まれていた伝言をミランに伝えた。 領主が支援してくれるとなれば、きっとミランはい ) し先生について、絵を学ぶことがで っざお そでまく かご やさ ほまえ

9. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

「 : : : お礼を言われるほどのこと、何もしてないわ」 視線を落とし、スザナはくすんと鼻を鳴らす。 ひど 「最初の頃、お料理なんて酷かったし : お弁当にしたものを届けることから、一歩進んで、ミランの家で料理を始めた頃。混ざ りきっていない生焼けのバノックや、真っ黒焦げの料理は、毎日のことだった。味付けも 酷い、家畜でも食べないようなものを、ミランは黙って食べてくれた。スザナはジェイた ちが来るまで、ミランの家で料理を練習させてもらったようなものだ。最初は洗濯だっ て、家に持って帰って母親にやってもらったのを運んでいただけだ。 うれ 「僕は嬉しかったよ。どれも全部、スザナが僕のために作ってくれたものだから。昨日、 作ってくれたケーキ、すごく美味しかった。とても上手にできてて、食べてしまうのが うま もったいなかったよ。 こんなに巧くケーキが焼けるようになったんだなあって思う と、君がすごく遠くなった気がした : : : 」 スザナはここに通うようになった頃の、七年まえの小さな娘ではないのだ。 花 の スザナはちょっと目線を上げ、拗ねるような顔でミランを見る。 車 「ミランのほうが変わったわ。ほんの少し逢わなかっただけなのに、色が黒くなってる し、お魚なんて釣りにいってるし、いろんなことができるようになってるし」 ふっしよく 痩せているのはあまり変わらないが、弱々しい印象が払拭され、以前よりなんだか逞 たくま

10. 彩色車の花 プラパ・ゼータ ミゼルの使途 2

気を失わず立っているだけで、もう精一杯の娘は、震える声でリンゼに詫びて両手で顔 を覆った。 ちしぶき 馬車の前で戦っていた従者の一人が、血飛沫をあげて倒れた。 とびら 「扉を閉めて中に入れー じじよ あわ 怒鳴ったジェイの声に、勇敢にも馬車の中から矢を躰ていた侍女は、慌てて弓を下ろす きようこう かぎ と急いで扉を締め切り、中から鍵を掛ける。ここを通りかかった際に突然に恐慌をきた がけ した馬が、暴れて崖に寄って足を止めてしまったために、馬車の片側の扉は切り立った崖 にぶつかってしまい、まともに開くのは鍵を掛けた一方だけだ。 きよ、つじん ひるがえ 倒れた従者に向かって振り下ろされる凶刃を、白いコートを翻して間に割りこんだ ジェイは、左手に装着した五本の刃で、がっちりと受け止めた。真新しい血に濡れた剣 はかえちぐも にぶ は、何度も人殺しを行ってきた剣だった。鈍く日の光を跳ね返す血曇りは、昨日今日でで かわ きるものではない。人殺しの剣を受け止めた、ジェイが黒い革の手袋で左手に装着してい きようじん のる、透きとおる銀の色に輝く刃は、薄くしなやかでありながら、恐ろしく強靭だった。 てら 色形にこだわり奇を衒った武器など、簡単に折り飛ばせるものと、見た目でなめてかかって まゆっ いた賊は、眉を吊り上げ、ぎりつと歯噛みする。 やっ じゃま 「邪魔する奴は死ね ! 」 おお たお