ひとみ - みる会図書館


検索対象: 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5
138件見つかりました。

1. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

210 くろまどうし 岩山に立っ黒魔道師。 それを観賞し、ふっとディーノは笑った。 その黒魔道師には、あるべきものがなかったのだ。 「あの空気すらよどんだ獄舎の中に、二百年ものあいだじられていたくせに、やけに外の くわ ことに詳しかったわけだな」 横目でちろりとディーノは黒魔道師を見る。 「キハノ。貴様、影をどこにやった ? ハンを探しに引き返した。 炎の正体を見定めたレイムは、ファラ・ ひりゅう ファラ ・ハンはシルヴィンの飛竜からすぐに降りている。降りて女の子を助けに行った。 最後に飛竜の上にいたのを見たところから、距離としてそんなに離れた場所に行ったわけ ではない。 まど ・ハンは、女の子を腕に 悲鳴をあげて逃げ惑うひとびとの中。小さな飛竜を連れたファラ 抱き、ひとごみに押し流されるように駆けてゆく。 石ころの中からただひとつ、宝石を探すのに似て。 ハンの姿は、の魔道をこころみたレイム 漆黒の髪を長くそよがせに走るファラ・ に簡単に発見された。

2. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

208 「どこにも同族のおらぬそなたのこと。この世界に未練はあるまい ? まどうし ディーノは目を細め、無言で魔道師を見つめる。 じ′」く ここうしゆらおう いみよう 孤高の修羅王。地獄の申し子の異名をもっ彼が、自分を受けいれることのない世界に対し て執着をもつはずがない。なけられ、しまれた恨みはあっても、恩を感じたことなどな ) 。ディーノが、黒魔道師のこれを阻止しようなどと考えるはずがない。 「の聖女は時の驪を集め、もとの形に時空を安定させようとしておる。新世界の構 築など、すべて集結した時の宝珠の力をもってすればたやすいこと。これこそ、撚のおさめ し黒魔道最高の秘術のひとつ。と盟を結んだとして知られる我が、あのエル・コレン ティをはるかにしのぐ術を使うことのできる、またとない機会。魔道究極の奥義をめる のが、我が目的。なんなりと、好きなことを言うがよい。叶えようぞ。叶わぬことは、なに ひとつないのだ」 「考えておくことにする」 かんび 冷めた表情で、ディーノは甘美な誘いを一蹴した。 いんうつ ひとのもっ陰鬱な部分にのみ接して生きてきたディーノにとって、闇は友である。光の下 で「普通に』生活することを約束され、保護されてきた者に対してのディーノの存在、それ 自体が影なのだ。したがって、キハノの存在自体も、ディーノにとっては正義になりうる。 だが、だからといって嬉々としてその言葉にのれるほど、ディーノは単純ではない。常に いっしゅう

3. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

目をいつばいに開いたレイムは、自由にならぬ自分の手を見つめる。 これは、こんなことが、前にもあった。 つらぬ そうしてレイムの握った短剣に胸を刺し貫き、死んだ姫君がいた : 「やめろおおっリ」 レイムが絶叫した。 レイムの背中に、べたりと張りついていた影が、笑うように揺れた。 ( なぜ擣まれますか ? ) ( これはあなた様の望んでいたことではありませぬか ) ( たとえ血をわけた妹君でも ) ( あなたの目的にとってこの娘は障害となりましよう ) ( ならばいっそ ) ( くびり殺してしまえばよい ) 以前聞いたと同じ声。 影の使者がつぶやきかける。 あえぐように口を動かしていたル 1 ジェスの膝から、がくりと力が抜けた。 ひとひとりの重みをつかみとめたまま、細身のレイムの姿勢はびくとも揺るがない。 レイムは狂おしいばかりに首を振った。

4. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

第九章再会 眼下に広がる街。全身のをちりちりと刺激する独特の感覚は、魔道か魔物か、およそ どうきゅう 通常の存在にないもの特有のそれである。導球に導かれ、街の上空に現れでたものの、そ じんじよう れが尋常でないものであることに気づいたディーノは、街への降下をやめた。 火炎と、渦巻く、地獄絵図にもひとしいその街。 ディーノには逃げ惑うひとびとを助けてやる義理もなければ、積極的に魔法陣や時の驪 を探そうという気もない しりぞ 退いて、ひとり高みの見物を決めこんだからこそ、ディーノはその街のことを知ることが 道できた。 の高い強固な壁に囲まれた街は台地の上にある。特徴ある形をした山々がぐるりと連なり、 闇地形はひどく覚えやすいものだ。 まゆ 見覚えがある気がして、ディーノは目を細め、眉をひそめる。 こ」にはたしか・ 0

5. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

164 この少女の肉親たち、母親も、炎から逃げているはずだ。ひとびとの動きを見ていたファ ラ。ハンは、彼らがある方向に向かって逃げていることを知っていた。避難場所が特定され ているとすれば、はぐれた者たちを探しあてることもできるはずだ。とにかく、彼らの向か この子の家の近所に住んでいたひとにあうことができ う場所に行ってみなければならない。 れば、それでファラ ・ハンはひとまず後をまかせることもできる。面識のないファラ・ が一緒にいるより、見知った者がいるほうが、この子も安心するのにちがいない。 ファラ ・ハンは女の子を抱き、炎のまわりはじめた建物から出ると、路地へと駆けだし ハンを追って飛ぶ。 た。遅れじと、小さな竜もファラ・ ファラ・ ハンを降ろし、飛竜を軽くしたシルヴィンは、街の全容を一度、上空から見てみ ようと思いたった。急上昇も急降下も、シルヴィンひとりであるならば、飛竜に負払をかけ ることなく、楽に行える。少々の危険はっきものだが、ちょこちょこを操られて飛ぶよ りも、飛竜もよく動けるはずだ。体勢が守りにはいらないほうが機動性もよく、結果もいし んとのおっきあいより ことが多い。丈かとりえのシルヴィンには、どちらかというと も、マイベースの単独行動のほうが向いている。組むとしても、同じくらいの反応速度をも つ者でなければ、肩が凝って仕方ない。 たなびく中、まっすぐ上めがけて飛竜を上昇させたシルヴィンは、気流を読み、自分 まち

6. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

ディーノの体は氷のように冷えきっている。触れたところから自分の体温が吸われてい ことが、ファラ ・ハンにはっきりとわかる。魔道を使わず火を起こせれば、ディーノもを しようもう とれ、その分、体力の消耗も少なくてすむのだろうが、燃すものがない。たとえあったと ナつか、 しても、という『閉じた領域』の中では、生の火を起こすことはできない。 銀斧の主人は人間である。銀斧は主人が死ぬ生き物であることを知っている。神が地上に あるじ しゅうちゃく いた黄金の時代から幾度か主をかえてきただろう銀斧に、ディーノひとりに執着しなけれ ばならない理由はない。ディーノの体力がもちそうにないと判断した瞬間に、銀斧はディー ノに見切りをつける。死にゆくディーノから離れてしまう。 そんなことは、絶対にさせない。 くちびるか ・ハンは、ディーノの衣服に手をかけた。上着を脱がせ、織を きゅっと唇を噛んだファラ はずす。ぐったりとなった重い男の体に果恥にみ、苦労して衣服をはぎ取った。 ・ハンはおもわず真っ赤になって横を どうにか下帯ひとつにしたディーノを見て、ファラ 士向いた。衣服をまとってさえ、彫像のように優れた容姿を見せるディーノのそれは、非の打 魔ちどころのない 、蒄なプロポーションをもっていた。それは神の一人であるファラ・ 色とも趣を同じくするもの。黄金律とうたわれる、至上のもの。聖なるもの、普なるものの もっとも好む形。これならば、彼が銀斧の所有者となった理由もうなずける。 らしん ・ハンだが、恥じらっている場合ではない。 若い裸身を前に、うろたえてしまったファラ すぐ ′ハ、ノ よろ、

7. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

きに都市をのみこむほどの高さになる。ひとびとの生活を支える水、場合によっては大いな る驚異になるそれを調節するため、パウレチアは二重の外壁に水門を持っている。外側の壁 に囲まれた水路は、外敵を防ぐ堀のような役目をあわせもったものだ。この二重の壁のおか きょてん げで、パウレチアは簡単に落ちない都市として重要な拠点になっている。水路を引き、下水 道を完備したパウレチアは、王都に負けないくらい清潔で美しい都だ。清らかな水を大量に 使う美しい染め物や、宝石のカッティング、などの技術が優れていることでも、よく 知られている。ここの名産である水子も、有名なもののひとつだ。 都市にある魔の蜥の上には、寺院や礼拝堂などの建築物があり、魔道士や僧侶らに よって、それとなく常に守られているのが普通だ。 まち 「街の中を探すのなら、夜明け前なんて都合いいじゃない」 ひとがいないほうが、ファラ ・ハンが危険にさらされる確率が低くなる。気楽に言ったシ ひりゅう ルヴィンが、飛竜を街の中に入れた。 「気をつけて、シルヴィン。どこにどんな形で魔物がいるのかわからないから」 心配そうな声をかけるレイムに、シルヴィンは、につと笑って振りかえる。 「大丈夫 ! わたしの目を信じてよ ! 」 自然にもっとも近い位置で世界を見ることのできるシルヴィンは、たくみに紛れこんだ魔 物を見わけることのできる『目』をもっている。大船に乗ったつもりでまかせてちょうだい きらく

8. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

き裂くことを知っている。 ただひとりの人間のためにウイグ・イーはあり、その血に絶対の服従のを負「ている。 死と、果てることのない闇の力に属するもの以外、ウイグ・イーを恐怖させるものはない。 「引き裂け ! 」 かんだか 甲高い声が命じた。 ウイグ・イーがシルヴィンに襲いかかった。 たとえ半身をちぎられても、ウイグ・イーはやめない。命じられたとおりシルヴィンを引 き裂くまで、その命を奪い、ほとばしる血藩をあびるまで、あきらめない。 ねじくれた、生命。 襲いかかるウイグ・イーに、シルヴィンは渾心の力をこめて紐を振るった。 かっちゅう つうれつ 痛烈な音をたて、革紐に打たれた衣服が裂けた。獣と違い、甲胄をまとっているために、 そうぜっあざ 直接その皮膚を割るところまではいかない。衣類に保護されているところは、壮絶な痣をつ くることが、せいせいだ。 のど 絶命させるには、ひとおもいに咽を短剣でかき切らねばならない。 熾烈にうなる革紐にまれ、さんざんに打たれ、翻弄されるウイグ・イーはシルヴィンに 近よれない。 冷ややかな目でめおろしながら、ルージェスは鼻を鳴らす。 やみ けもの

9. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

時間の同時存在は、かなり高度の魔道に属する。年寄りを気取っても、このくらいの魔道 でどうこうなるような、そんな人物ではない。 「そろそろ本当のことを教えてもらおうかー 青く煙る光をおびた瞳は、ぶっそうなをもって輝く。 「バリル・キハノ」 はっきりとした発音で、ディーノはルージェスたちにつき従う魔道士の名を、呼んだ。 バリル・キハノ。 一一百年前魔道師エル・コレンティの手によ「て、聖地クラシ、ケスにあったえア ル・ディ・フラの塔の地下に、下半身を蜥じられて幽閉された、黒魔道師。闇と盟を結ん よこしま だ、邪なる魔道師。 「貴様の目的はなんだ ? 世界救済を阻止して、貴様はなにを行おうとしているのだ ? 」 野を鴉しようとした真の目的は。世界じゅうのひとびとの記憶すらすりかえ、 士 ルージェスをもって運命の公女とし、もうひとつの世界救済神話を仕立てた理由は。 道 のそしてなぜ、ディーノがキハノの『王』となりうるのか。 闇黒魔道師はにやりと口元を緩める。 「我が力をもって、世界を『造る』。そのために、この世界に存続してもらっては困るのだ」 その世界の王。

10. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

と、手をさばこうとしたとき。 「があー ぐうっと身をたわめていたルージェスの従者が跳んだ。 シルヴィンの乗る飛竜めがけて、一直線に。 ちょうやくりよく とてもひとのもてる跳躍力ではなかった。 ぎよっと目を開き、素早く手綱を動かしたシルヴィンの飛竜の翼の端に、跳びかかった男 か、がきりと食らいついた。 がくんと飛竜がバランスを崩す。錐もみするように、飛竜はぐるんと回転した。 落ちれば火で丸焦げになる。ちっと舌を鳴らしたシルヴィンは、なんとか大きくする 形に、飛竜をる。 やってしまえ " ・ 「いいぞ ! ウイグ・イー のど 咽をそらし、高らかにルージェスが笑った。 道防止の補助紐を足に絡めて鐙にしつかりと足をかけたシルヴィンは、すばやく手綱を 魔はずした。短剣は届かない。革紐で翼に食らいついた魔者を叩き落とすしかない。 するど きば 色 翼にふかぶかと牙をたてられ、飛竜が鋭い鳴き声をあげた。 ウイグ・イーと呼ばれたこの男、ただの人間ではない。魔物ではないが、けっしてひとで はない。なにか、異様な生物の発する『臭い』をシルヴィンは感じる。獣相の濃いこの顔 きり