ひとみ - みる会図書館


検索対象: 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5
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1. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

この世でただひとり、聖なる健いに選ばれた戦士に対して。世界救済なかばにして、戦 線を離脱してしまうことがあるはずがない。 レイムを支えているのは揺るぎない強さ。形や目に見える力ではない、底知れない強さ。 疑うこと、恐れることをしない、きつばりとした強さ。戦うことの基本を内なるその強さに ゅうもう おいているレイムには、容姿は関係ないのだ。盛り上がった筋肉質な身体も、勇猛な戦士ら しい見も、高位の魔道士たる威圧感のある雰弭気も、必要はない。 「ばかね : ・ こ ? たしかに、少し無理をしたみたいだ : : : 」 「応えて、くれたでしよう : ・ : ・ 「・ : : ・疲れた ? 」 「夜明けまで休みたいな。ごめんね : : : 。夜明けまでに戻るとファラ ファラ もしも、戻らなかったら ら、それまで : : : 。僕が遅れて : ・ でも行くように、僕は言ってきた : : : 」 士目を閉じながらつぶやくレイムの言葉に、シルヴィンはぎよっとする。 ・ハンは一人でどこかにいるっていうの ? ディーノは e: 魔「一人でって、なに ? ファラ 色「ディーノは、毒矢を受けて : ・、死にかけている : ・・。鑑斧が聖なる力で、ディーノを助け ようとしてる でも、もしもディーノが : 皆まで聞くことなく、シルヴィンは事情を理解した。ディーノが死に、レイムがシルヴィ ・ハンに約束したか ・ハンには一人

2. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

・レイム ・ルージェス ″魔道士スティープ″に選 カルバイン公爵の娘。も ばれた、優しく聡明な若者。うひとつの伝説にのっとり、 優秀な剣の使い手でもある。ファラ・八ンの心臓を狙う。 ・シルヴィン ・ケセル・オーク ″竜使いドラウド″に選出 ルージェスに力を貸す謎 がん・ようたいく された娘。頑強な体驅と自の老魔道士。聖戦士たちの 然を見極める能力を持つ。 行く手を、邪悪な力で阻む。 まどうし そうめい ・トーラス・スカーレン 気品と威厳を備えた麗し の女王。滅びかけた世界の 救済を、聖戦士たちに託す。 ・エル・コレンティ 世界を代表する偉大な老 魔道師。あらゆる魔道を駆 使する、女王の心強き片腕。 ・ウイグ・イー 公女ルージェスにのみ懐 しゆりようけ人 く獰猛な狩猟犬。公女を護 る獣人として改良される。 ・ハリル・キハノ 闇と盟約を結ぶ邪悪な黒 魔道師。エル・コレンティ に対抗できる唯一の人物。 げん なっ

3. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

す、しよう 「はるかなる時をしめした大晶の時計 : : : 」 「手遅れよ ! 」 こうしよう レイムの呪文にキハノの哄笑が重なった。 天を指したキハノの左手に。 かみなり 雷が落ちた ! 世界じゅうが引き裂かれるかと思われるほどの凄まじい音が鳴り響いた。 しようげき 爆弾が落ちたも等しいその衝撃で、魔法陣の周りの空気が轟と押しのけられた。 はじ / ランスを崩して転んだ。 術を途中で弾きのけられたレイムは、ヾ たまらずシルヴィンは重心を落としてしやがみ込む。 ウイグ・イーは ) ゝ、 しカふさるように、ルージェスをかばっこ。 あからさまな悪意をもってなされたそれに誰もが呼吸もできず、目を閉じる。 もうもうと砂をあげる中、シルヴィンは果恥に目を開いた。 道高く盛り上がり、際となった封印の魔法陣があ「た。 魔 ・ハンが自力で身を起こしたらしく、震える白い翼の端が上がったのが見えた。 色 はじ ほうええり 弾かれるように起き上がったシルヴィンは、レイムの法衣の襟をひつつかむ。男ひとりを ひきずる勢いで、に向かって走った。足をもつれさせながらも、なんとかレイムが立ち すさ ごう

4. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

150 闇をなくした嶽の下。 ほうか、 崩塩した街がある。 死に絶えた街がある。 住むべきひとびと、そこで生活し、暮らすべきひとびとなくして『家』は存在しない。 『家』はただ、あるだけ、待っためだけに作られたものではない。 だからここはもう、街ではない。 崩れ落ちた石、割れ礰けたその細かいものが、風に乗って白く飛ぶ。ざあっと音をたて る、砂粒の波になる。 賺。の竜は背に、それぞれの主人を乗せた。 ファラ・ ハンを探したレイムは、うなだれたままのファラ ・ハンに、静かに歩みよる。 「行けますか ? 」 包みこむほどに優しい声で、尋ねた。ファラ・ ハンは、かすかに顎を引く。 「大丈夫です : : : 。急ぎましよう。世界にしみを増やすわけにはいきません : ・ : ・」 決意と意欲に満ちた言葉を耳にし、飛竜を二人のそばに近づけたシルヴィンはにこっと笑 ! ぐずぐずしててもゝ 「いっきに行っちゃいましょ しいことないわ。あと二つ集めればいし んでしょ ? 軽い軽い まち

5. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

を、竜が翼でい打ったのだろう、女の右腕と脇腹が大きく裂けて、衣服と皮膚がべろり とたれさがっている。 「おのれ : ・ よくも大切な皮に傷をつけ、て、クレタ、ナ : うな ごばごばと泡立っ声で女は低く唸った。腕の傷口を押さえた指の透き間から、ばたばたと 泥が落ちた。見る間に腕の中身が、ひとの皮の中につまっていた泥が、こばれ落ちてくる。 女の中身が、ぶちまけられる : ・ びらりと喪服を着た女の皮がの上に落ちた。 「オマエノ、皮ヲ : ・ 「今度コソ、ワタシガ : かたまり 女の顔を浮かべた二つの泥の塊が、石畳の上をずるりと滑り、シルヴィンのほうに近づい 青くなったシルヴィンは、そこから動けなかった。避りくる醜悪な泥は、ひとである。 まもの 化け物じみてはいるが、魔物には見えない : 「ケシャアアアツツ " " 」 いた飛竜が、纃の炎を吐いた。 おぞましい女の悲鳴をあげて、泥が燃えあがった。内臓を焼く臭いが、黒煙とともに広 っ」 0 、カナ′

6. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

怒りつけるほどの声だが、必死の相で壁や門にすがるひとびとは誰もシルヴィンに 振りかえることはなかった。 した ちっと舌を鳴らしたシルヴィンは、門に向かっていくその姿勢のまま、強行策に出る。 降下した飛竜の翼が巻き起こす風で、門の周りからまずひとをどけ、そうしてからもう一 度飛竜を降下させ、門を焼き破る。 翼で風をらせて頭上すれすれに降下した飛竜のために、嵐のように砂が舞いあがった。 十にカ 誰も、そのためにびくとも動かない。髪の一本も、シルヴィンの起こした風のために動く 気配がない。 「なっ、なにつ : 目を見開いたシルヴィンは、ゆっくり驚いている状況に自分がないことに、はっとする。 目前に門がある。激突を避けるため、飛竜を上昇させねばならない。 道ぎりぎりで、壁と平行になる形に、まっすぐ天をめざして飛竜を向けかえたシルヴィン 魔 の 闇壁の方向から炎が襲いかかったー 『熱イイイイツ " " 』 巨大な顔を形づくった炎がえた。

7. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

涙にむせびながらひとびとは、泥は、真夏の氷のように崩れた。 シルヴィンの目に、天へと。われてゆくひとびとの、至福に満ちた蟻が見えた。 湿っていた畳が水分を失って緩み、あちこちで道路がばこぼことした。建物の壁 まちほうか、 が崩れ、街が崩塩してゆく。 公園のつき塔が静かに、少しずつ傾きはじめ、青銅の鐘が揺れた。 カーン : 揺らめく水蒸気に満ちた空気の中、細かな水の粒子に反射して光が虹色に輝く。 深げに目を細めたレイムは、水の底で夢を見ている、そんな気がした。 そうそう 静かなる葬送の時。 終わりを迎えながら、安らいで至福に輝くものたちの心を、レイムは感じる。 士 道 辺わたる風に花をあたえたむけの歌をは歌う 闇過ぎ越し日々に思いはせて優し君の影を抱く : ・ : ・ よく響く声。のびやかに透きとおったレイムの声が、街の者すべてのために葬送歌を歌 こま

8. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

130 ひとから忌み嫌われながら、滅亡していく世界で物の陬応になるがいいー あんまりな言い方に、ファラ ・ハンが声をあげた。 「心の弱さを責めないで ! あやまちは誰にでもあるものです」 ファラ ・ハンは静かに歩を運び、ディーノの近くに立った。 ディーノと同じ黒の髪、青い瞳をもっ畆んの姿に、ざわりと泥たちがどよめいた。 『同ジ種族ダ』 「同族がいたのか : ( 攻めてくる ) ( 攻めてくる ) ( 滅ばしにやってくる ) 恐れおののきながら小さくかわされる声に、ディーノはふんと鼻を鳴らした。 ここう 孤高であっても恐れられていたディーノに、種族を同じくする仲間がいたとすれば、それ きようい 。この世界で、孤児として育ってきた は世界じゅうのひとびとにとって脅威にちがいない パンのかけら、水 ディーノに対し、心優しく振るまってきた者など、誰一人としていない。 の一滴すら与えることを擣み、足蹴にし、あげくの果ては自分たちの生活を守るために人柱 きばむ にまでしようとした。狡に生きぬくことをおばえたディーノが、誰もに牙を剥き、奪うこ

9. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

128 ( すな : ( 生きて帰すな : ・ まち ( この街から出すな : 修羅の申し子。地獄の悪鬼。孤高の修羅王。様々な呼ばれ方をし、世界じゅうを搬さ あくぎよう せ、名を轟かせたディーノの悪行は、ここでも例外ではなかった。一睡の悪夢にも似たそ のは、大勢のひとびとの血と涙の上に存在している。 ささや びちびちと跳ねる囁き声が、泥のうねりに乗って上へと押し上げられた。 避り来る殺意にあてられて、近くに立っていたレイムがおもわず一歩後ろに下がる。 「いやね、行いの悪いひとって」 ぞくりと震えた肩を抱きながら、シルヴィンが小声で毒づく ハンをちらりと横目で見、ずいとディーノは前に進み 蒼白になって立ちつくしたファラ・ 出た。 長靴のかかとをがきりと石壁の上に乗せ、と腕組みをして塔の上に立つ。 さげす はる 目を細め、つんと顎をあげて、ディーノは遥か下を蔑むように見おろした。 うめ ぐおおと呻くように、泥がざわめいた。 「化け物がたいしたことを言うではないかー そうはく とどろ

10. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

( わたしがだめでも : : : ) ( 手に入れることはできる・ : ・ : ) ( 与えることならできる : : : ) ( 皮を・ : ・ : ) ( 皮を : ・ 形状定まらぬほどに姿を変じていても、それはまだひとであるのか。ひととしての情念を いだいているというのか。わが子、娘を思いやる心をもっているというのか : ファラ・ ハンめがけて、捨て身で泥が襲いかかった。 あっとひるんだファラ・ ハンの腕を抜け出た小さな飛竜は、その泥めがけて炎を吐く。 だの絶叫と、すさまじい臭気が弾けた。焼けただれ、崩れてゆく泥にかばわれて、さ らにその泥の後ろから泥が跳ねあがる。前で焼けていく泥を足場にしているのか、それは十 ハンに届く長さをもっている : 道分にファラ・ もくろみ ・ハンは、懾てて立ち上がるとごっごっし の泥のつぶやきから、その目論見を読んだファラ 闇た石壁に跳びつき、手をかけていた。光ゴケをルで引き剥がす勢いで、石壁をよじ上る。 ちょうどうまい具合に、さっき小さな飛竜が排水口を溶かした部分が、ちょっとした出っ張 りをもっのようになっていた。コーナーになった壁に手を突いて体を支えたファラ・