ハンは足を止めた。考えにふけりながら、ばーっと歩いて な竜の動きに驚いて、ファラ・ いたので、ファラ ・ハンは水音に気がついていなかった。 うなが ・ハンが見たのは。 小さな飛竜の動きに促され、振りかえったファラ 大勢のひとの顔を浮かべた泥を、いつばいにたたえる水路だった。 ・ハンに、どぶどぶと泥の顔たちがざわめく。 顔を向けたファラ ( ああ、なんて美しい ( 欲しい ) ( 欲しい ) ( あの姿 ) ( あの顔 ) ( あの皮さえあれば : : : ) 士 ( あの美しさを手にいれることができる : 魔 ( 皮を : : : ) 色 ( 皮を : ・ ( 皮を : ・
122 「でもあれ、「ひと』よ。化け物になってるけど」 まどう 「それは、僕の魔道においても実証ずみです」 「化け物は化け物だ」 にべもなくディーノに言いきられてしまって、三人はロを閉ざす。レイムは話題をきりか える。 「シルヴィン、の魔法陣は ? 」 「だめ。見つからなかったわ。この街、礼拝堂も教会もないわよ」 「地下、かしら : : : 」 ほっんとファラ ・ハンがつぶやいた。はっとレイムが顔をあげる。 「地下通路ですか ? 」 まち 「ええ。わたしの入ったのは水路のための地下通路でしたけれど、どこか、この街の方にし かわからないような形で入り口があって、それで地下街のようなところに行けるのかもしれ ません」 「地下にはあの泥がたまっているぞ」 ・ハンはロをつぐむ。彼らをおしのけて地下を進 飃な声でディーノに指摘され、ファラ ・ハンにはなかった。恐ろしいというよりも、傷つけることができな むだけの度胸はファラ いというのが、一番の問題なのだ。この世に生きる命のため、ひとびとの願いをかなえるた まち
ハンははっと目を開く。 緊張した小さな飛竜のき声に、ファラ・ 泥が。 化け物じみた恐ろしい、大勢のひとの顔を浮き上がらせた泥、小山のように盛りあがった 泥が。 さらに大きく盛りあがって : 「いやあああっ " " 」 ファラ ・ハンが絶叫した。 盛りあがった泥は、小さな飛竜よりもずっと大きかった。上からどばりとかぶってこられ れば、ゝ しくら炎を吐いたとしても、小さな飛竜なんて泥の中に埋まる。もともと小さな飛竜 じこぎせ、 を阻止しようという、自己犠牲のうえになされている行動だけに、それを防ぐ方法はない。 道自分を襲う状況を知った小さな飛竜は泥を振りあおいだまま、その迫力に圧倒され、炎を の吐くことができなかった。 色 く重い音を轟かせて、襲いかかった泥が落ちた。 崩れ落ちた石・につぶされて落ちた。
薊た、力もない、おぞましいだけの化け物にすぎなくなる。 ひとが、ひととして存在するには。 ひととしての形態を失った者たちが、ひとであろうとするには。 ひとであるには。 死を選ぶことが、救いになるというのなら、それはあまりにもしすぎる。 目を伏せたファラ ・ハンは、肩を落とした。 時のは欲しい。それとひきかえに、願いをきけというのなら、それをえてやりたい と思う。だが、それが命を奪うことであるとは。 「ねえ、側い 本当にどうにもならないの ? このひとたち、もとに戻らないの ? あんた、この世界でたった一人の、えらあい救世の野なんでしょ ? ほうえそで つんつんと法衣の袖を引くシルヴィンに、レイムは哀しく目を伏せる。「えらあい』かど うかは別として、 いくらレイムが優秀な素質をもつ、選ばれし聖魔道士であるとしても、複 こうまで固く形を結んで 雑に絡んでしまったでは、その魔道法則を探ることができない。 しまった魔道を、もとの状態にまで解きほぐすことは、世界じゅうにいるすべての魔道士の 一生を費やしたとしても可能かどうか、わからない。
めに、ファラ ・ハンはいる。その存在理由と、彼女の優しさにおいて、身動きができない。 どうきゅう 「導球は、泥を示していました」 固い声でレイムは告げた。 「時の飃をひとが得て『んだ』か。いい様だ ! 」 咽をそらし、ディーノは笑った。レイムは眉をひそめる。 「を懴ですよ」 「それがこの街のやつらのだということではないか ! 他人を犠にしてでも生きの びたい、そんなことを望んだから、こんな形になって現れたのではないのか ? あさましい ものどもよ」 「どうすればいいのかしら : ファラ ・ハンは、途方に暮れて目を伏せた。 とうとっ 唐突に思いだし、シルヴィンがぐるぐると周りを見まわす。 道「ねえ、ここって、まだ陽が上らないの ? 」 魔 問われて、はっとディーノとレイムも周りを見まわした。 色 ここは前にいた氷の山よりも南であり、あれよりも日の出がずっと早い所に位置してい 闇 しつこく る。到着した時点で、すでに陽が高くなっていてしかるべきだったのだ。こんなに長く漆黒 の夜が続いていていいはずがない。 のど まゆ
196 きゅっと首をかしげて小さな竜を見た女の子の目は。 やみいろ だが、やつばりあの闇色の目だった。 「ウー たた むっとした小さな飛竜は、すばやく女の子の前まで飛ぶと、ばちばちと翼で女の子を叩 ハンの腕を抜け、 小さな飛竜の攻撃をれるため、女の子は転がり落ちるようにファラ・ ひざうえ 膝上から下りた。 ファラ ・ハンから女の子を引き離した小さな飛竜は、なおもばちばちと翼で叩きながら、 逃げる女の子を追いまわす。 じわる 「だめ ! 地悪しないで ! 」 えりくび ・ハンは、じたばたする小さな飛竜を抱きあ ひょいと小さな飛竜の襟首をつまんだファラ げる。 小さな子に乱暴しちゃいけません」 「どうしたの ? だめでしよう ! ハンは小さな飛竜に言い聞かす。 正面から見つめながら、ファラ・ 「キャウ」 ファラ ・ハンにお説教されながらも、小さな飛竜は嬉しそうにくりつと目を開いた。びろ した んと出された舌が、ファラ・ ハンのをなめる。
246 第十一章真実 まっさきに反応したのはウイグ・イーだった。 それはかねてから命じられていたこと。主人のために、なすべきこと。それをするため に、ルージェスはこの旅に出発したのだから。 ウイグ・イーは嬉々としてルージェスに近寄ると、まだぐったりとカのはいらない様子の かえる ルージェスを心配そうにめ、命令を待って蛙のような格好で座りこむ。 ちっそくしようげ・き まどうし 窒息の衝撃が抜けきれず青ざめたまま、ゆるりと魔道士に首をめぐらせたルージェスは、 としそうおう 高慢さのかけらを張りつかせた、歳相応の幼さがのぞく疲れた顔をほっとくつろがせた。 これで終わる。世界救済という使命は果たされる。 生まれ育ちという恵まれた境遇のうえに甘やかされ続けて生きてきたルージェスにとっ て、運命の公女として気負いながら過ごしてきたこの数日は、かなりなものだった。従 者といえば、犬からっくった獣人と魔道士と、意のままになるが命じなければ動かない、魔 道によって作りだされた人形兵士団だけ。高貴のんたるルージスに対する細かい配慮
たディーノと、ファラ・ ハンの目があった。これは 夢だと思っていたことと今の状態がまったく感覚を同じくすることに、ディーノはいぶか こどう しむように目を細めた。温もりも鼓動も、体の香りも重みもなにもかもが ディーノの様子からなにを考えているのかを読みとり、真っ赤になったファラ ・ハンは顔 をそむけ、なにか言われる前にと、懾ててディーノから離れる。衣服をまとったうえに簡素 よろ ) なまなま な織まで身につけ、感触が違うディーノから、逆にさっきの感触を生々しく思いだしてし 、ノ↓よ、 ) まったファラ・ よいよ赤くなって動けなくなった。横を向き、を手でかくすよ ハンを、なにか考えるように目を細めてディーノが見る。 うに包んで座りこむファラ・ 二人で黙りこくったまま、少し時間が過ぎた。どちらからなにを言える感じでもなく、出 ぎようこ 方をうかがうように、そのままの姿勢で凝固している。 「キュアアアオオ : 入り口付近でか細い鳴き声がした。はっとディーノがそちらに視線を移し、注目から解放 されたファラ ・ハンは、ほっと肩にはいっていた力を抜いて立ちあがる。 「夜明けのようですね : : : 」 小さなもが時を知らせたのだ。吹雪を起こす術を継続させるのなら、小さな飛竜に指示 ハンは、ディーノに振りかえ を与えなければならない頃合いである。立ちあがったファラ・ る。 0
272 さて、次の六巻目では、聖戦士たちは最後の時のを手に入れます。 そうして舞台は、再び王都に戻ります。 王都の居残りキャラ復活の、オールスター・キャスト的展開であります。 はい D ゃー、とうとう終わりだなー。去年じゅうに書き終わるはずだったのに、ずるずるひき ずっちゃったわ。予定なんてこんなものよね。 キャラクタ 1 の人気集計、まだ間に合うかもよ D 間に合わなくても、参加することに意 ふで ) しよう 義がある ! ( どこがだ ! ) 今年は全然筆不精なので、お返事用の宣伝絵葉書を送るのが遅れ ておりますが、届いた分は全部目を通してますからねっ D 新刊のたびに何度も送っていただいた方、御苦労様でした。わけて考えるのめんどっちい ので、どのお手紙も一票分になってます。うーん、かたよるかなー ま、いっかー。それだ け、ごひいきにあずかってるわけですものね D あはは D ( いーかげんな集計 : : : ) かわい どの子も可愛いんですけどね。ええ。 エンディング・テーマはこいっと決めた OQ 聞きながら、どーっぷりと法ってたせいで、 もうすっかり物語が終わったような錯を起こしてます。
ファラ ・ハンは地下にいた。 小さな飛竜が、地下通路に下りる入り口を発見したからだ。幼い生き物は、とかく狭いと ころや暗いところにもぐりこみたがる。ファラ ・ハンが誰より早く地下通路を見つけること ができたのも、この小さな飛竜のおかげだ。 光ゴケが塗りこめられ、淡い黄色に輝く地下通路は、明けやらぬ闇に沈む街の中より、ず いぶんと明るく、良好な視界を確保することができる。 くろ・レ . 一う 地下通路は、川のようにどこまでも続く水路をもつ、円筒状の巨大な空洞になっていた。 水門によって調整され、街に流された水が、さらに量を細かく調節されてこの地下水路に流 、 ) こると されるのだ。さすが、水の都というだけのことはある。ここを作っている石にも ころにびっしりと、魔物よけの印が刻まれている。 水路はここでも、泥でいつばいに淀んでいた。 下水が流れていてもおかしくない場所であるのに、泥の中にはゴミひとつ見つけることが ・ハンは不安なものを感じないではい 士できなかった。生活臭が感じられず、かえってファラ 魔られない。 色「この静かな街に、ゝ しったいなにが起こっているというのかしら、ねえ ? 」 ・ハンは首をかしげる。抱かれた小さな飛竜が、ファラ・ 小さな飛竜を抱きしめ、ファラ はくとう した ハンを励ますように、びろりと舌を出して熟れた白桃にも似た頬をなめた。 こま ほお まち