首 - みる会図書館


検索対象: 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5
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1. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

116 ならない。なぜこんなに泣かなければならないのかわからなくって「泣きたく』なってしま う。そしてディーノは、むっとした顔で横を向いたまま、ファラ・ ハンを見ない。見ること ができない。なんだかわからないが動揺していた。おたおたしている姿を必死でおしかくそ うとしているから、和な感じの表情になり、怒っているようになる。 をみころしているファラ・ ハンと、押し黙ったディーノを、大きなの首にしが みつき、ぶら下がったままの小さな飛竜が首をかしげて見る。小さな飛竜はこうして自分の 手でしがみついているより、ディーノかファラ・ ハンの腕に行きたいのだが、なにか二人の ふんいき 雰囲気がおかしくて、近づくことができないのだ。ディーノとファラ ・ハンは体を寄せあっ ていながら、心で顔をそむけている。離れようとしていてなお、触れあわずにはいられな 惹きよせられずにはいられない。 手持ちぶさたで、んむんむと閉じたままのロを動かしていた小さな飛竜が、横手からやっ てきた二頭の飛竜の姿を発見してをあげた。 小さな飛竜の声にぎくりと首をめぐらせたディーノは、なにか自分が見られてはいけない ことをしているという錯を起こした。懾てかけ、その原因が自分にないことに気づく。 まどうし 「魔道士と竜娘が来たぞ」 「はい・ ぶつきらばうなディーノの声に、ファラ ・ハンは顔を伏せたままうなずいた。

2. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

彼女のそばにいなければならない聖戦士は、今ひとり足りなかった。 ファラ ・ハンは腰を浮かせ、素早く首をめぐらせた。 びくんともたちが首をあげた。 ぞくりとレイムとシルヴィンの体に悪が走った。 それは魔道を知る者だからこそ、自然を感じる心をもつ者だからこそ、畏怖せずにはいら れないもの。 ( つまらぬ半魔が、よけいな真似をしてくれたものよ ) 声が聞こえた気がした。 ハンの真後ろに、突然に影がわきあがった。 白い翼を広げるファラ・ 道えっと目を見張ったレイムたちの前で。 魔 ハンの腹から、ずばりと鋼鉄の手が突き出した。 色 ぎようこ ・ハンは、目を大きく開き、その姿勢のまま凝固した。 息をつまらせたファラ 衣装を裂いて出た ハンの肉を割ったわけではない。 白い衣服を通り抜けた手は、ファラ・

3. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

血をげた者であるならば、ウイグ・イーがルージェスの命令を実行できなかった理由も わかる。ウイグ・イーはレイムの血の匂いを知っている。引き裂いてはならない者のひとり として、覚えこまされている。 きば やかた けもの 肉親に対して牙をむかぬものとして、ウイグ・イーは館で飼われることを許された獣。 ルージェスのものであり、なおかっその血そのものを守る、そのためだけにいる生き物。 レイムはこの娘を、内なる深い場所で、知っていた。 そうだ。 産まれたばかりのこの娘と、レイムはあっている。同じ屋根の下で暮らした時代が、たし かにあった : 膝を突いたまま、ルージェスを見あげていたレイムの体が。 レイムの意思にかかわりなく動いた。 きよ、つがく 道驚愕の表情をしたまま、やにわに立ち上がったレイムは。 の両手でルージェスの首をつかんでいた。 闇うするレイムを無視し、レイムの手はルージスの首をぎりぎりと絞めあげる。 「レイム、兄、様 : ・ 苦しげに顔をめたルージェスが、あえぐように口を動かした。

4. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

無傷のようだった。 うすぎぬ 薄絹の花びらをもっ花のように、ファラ ひたゝ 激痛をこらえた白いに、汗がにじんだ。 「大丈夫よ : : : 、守ってあげる 腕を突き、そろそろと体をもちあげたファラ 「ファラ・ レイムがもから飛び降り、駆け寄った。 ・ハンは、レイムに顔を向け、痛みをこらえたけなげな笑顔で 女の子を抱きよせたファラ 問いかける。 「この子に剣を向けた兵士はどうしましたの ? あなたが追い払ってくださったの ? かな レイムは哀しいような、厳しいような顔をして、首を振った。 ハンは、軽く首をかしげる。 女の子を抱きしめたファラ・ 道泣き顔をこらえたシルヴィンが口を開いた。 まろし の「消えちゃったわ。幺なの。この街も火事もひとも、全部。今わたしたちがいるのは、ず はいきょ 闇うっと昔の夢の中なのよ。本当のここは、廃虚よ。焼けた街のあった、それだけの場所。時 のを追って、過ぎた時間の中にまよいこんじゃったの」 ままえ ・ハンは微笑んだ。 ・ハンは、矼の上に横座りになった。

5. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

顔面を押さえ、瓦礫の上をのたうちまわる。 「シルヴィン ! 」 翼を細くたたませ、矢のように飛竜を低く速く瀧させたレイムが、シルヴィンに手を伸 ばす。 ばっと顔を輝かせたシルヴィンは、レイムの手をつかんだ。 火事場のばか力だったか、ぐいとレイムはシルヴィンを自分の前に引っぱりあげた。 うまくいったと、飛竜が首をあげ、翼を広げて高く飛ぶ。 その飛竜の後ろ足に。 ウイグ・イーが跳びかかった。 がくんと飛竜が高度を落とす。 へた くように両手のルをかけて飛竜の体をよじ上る。 つかむことの下手なウイグ・イーは、 ほうえすそ 長く伸びたウイグ・イーの爪に、深緑色の法衣の裾が引っかかった。 くら 道左足のほうにいきなり重みをかけられたレイムが、ずるんと勢いよく鞍から滑った。 の声をあげたレイムは、緒を落とした。鞍の端をつかんでしがみついていたシルヴィン 闇が、驚いて首をねじ曲げる。 「いっリ」 法衣にウイグ・イーをぶらさげたレイムは、石のように落下した。

6. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

・ハンが、首をかしげてレイムを見あげ ディーノに助けられ一緒に飛竜を降りたファラ る。声をかけられてはっと目線を下げたレイムは、少し不安そうな顔をしたファラ・ 気づいて、あわてて淡く知み、首を振る。 「なんでもありません」 ですか ? 」 「そう : ・ ・ハンは、気をつか レイムと同じように、なんだか落ち着けないものを感じていたファラ われるより、むしろこの気持ち悪いものを認めてもらえたほうがよかった。言うに言えず、 ぐずぐずとしている二人を、ディーノがばかにしたように見る。 「なんだ ? 暗がりが怖いのか ? ー 心を悩ませている要因は、そんなに単純なことではない。言われてレイムは溜めをつ き、ファラ ・ハンは小さな飛竜をぎゅっと抱きしめて、怖いなら怖いと言ってみろといわん ばかりのディーノをにらんだ。ぜったいに弱部など吐くものかという目で見つめてくるファ 士ラ・ ハンの元気そうなようすに、ディーノは目を細めてにやりしめる。 魔「好きにしろ」 色「言われるまでもありません」 軽いで言葉をかわすディーノとファラ・ 会話をする二人ではなかったはずだ。 ハンに、レイムがびつくりする。こんな

7. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

れた小犬のようにぶるぶると首を振りながら、シルヴィンが悲鳴をあげる。どこにどう まーた いう形で出たのか、まだよくわかっていなかったレイムは、ばちばちと瞬きし、悲鳴を耳に してちらっとシルヴィンに振りかえったディーノは、大口を開けて笑った。 「なによ ! 」 髪の上に乗った水滴を払い落としながら、怖い顔をしてシルヴィンはディーノをにらむ。 ディーノは涼しい顔をする。 「寒くはないようだぞ」 「よかったわね ! 」 ぶっとをふくらませ、シルヴィンはそっほを向いた。 レイムは首をめぐらせてのかを探す。闇の中、きらきらと輝く導球は簡単にレイ ムに発見され、泥の上を遊ぶように飛んだ後、とぶんと泥の中に沈んだ。 泥の中に、時の驪があるらしい。 ハンと、どうしたものかと振りかえったレイム 同じように導球を目で追っていたファラ・ の目があった。 ハンの作った綺兆で守られているため、闇の中でも に乗る四人は、レイムやファラ・ ほの明るく、お互いをはっきりと認めあうことができる。本来ならば、ここは鼻をつままれ てもわからないような闇だ。導球という光源を泥の中に沈め、なくしてしまった今、まわり ナつか、

8. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

218 まどうしほうえ おばえるのはなんとなく理解できるとしても、見習い魔道士の法衣をまとう、この細身の若 者に対してウイグ・イーがそんな感情を抱くなど、考えられない。 いったいなにが起こったのか、なぜ印も文も必要なくなったのか。わけがわからず、レ イムはウイグ・イーを見つめる。ウイグ・イーは、きゅーんと小さく鼻を鳴らし、レイムを 見て顔色をうかがうように首をすくめた。 がれき じゃりつと瓦礫を踏みしだいた間近い足音に、はっとレイムは振りかえった。 すばやくめぐらせたレイムの首の動きについてゆけず、法衣のフードがはずれ、金色の長 い髪がこばれた。 近い位置でレイムとルージェスの目があった。 みどりひとみ 翠の瞳と金色の髪。 受け継いだ色をそっくり同じにした者が、そこにいこ。 そしてルージェスは。 彼とそっくりの、もうふたつの顔を知っていた。 「兄上・ : 悲鳴のように叫んだ声の響き。 その響きを、たしかにレイムは『知って』いた。 こうしやく カルバイン公爵、ベルク、ネレスに続く三人目の公子が、そこにいた。

9. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

反射的にひるんだウイグ・イーを、シルヴィンの革紐が打つ。 「ぎやいん ! むきだしになった首を烈に打ちすえられ、ウイグ・イーはそのまま横に弾きとばされ まよざ がれき た。ウイグ・イーは瓦礫の上をごろごろと転がり、恨みのこもった差しでシルヴィンをに らみながら、四つんいで身を起こす。 けん 短く握りかえた革紐をひゅんひゅんとうならせ、間合いを見て牽しながら、シルヴィン はウイグ・イーを見つめる。 獣の調教は慣れている。どうしてもひとと折り合わず、それでいてひとの世界にせ ずには生きられないような、ひとを捕食する獣に対して、このような荒つばい調教法を行う ことがある。場合によっては、殺す。 手加減したつもりは、シルヴィンにはまったくなかった。今の一撃で首が折れていてもお きようじん かしくなかった。ダメージはたいしたことはない。見かけで判断するより強靱だ。飛竜が 道直接に戦ったとしても、ひょっとするとウイグ・イーが勝っかもしれない。 の「おまえ : : : 、本物の化け物ね : 色糶きと愍のこもった目で、シルヴィンはウイグ・イーをにらんだ。 ぞうお 憎悪と殺意のこもった目で、ウイグ・イーはシルヴィンをにらみかえした。 な きば ウイグ・イーはカで自分を馴らそうとする者を知っている。そのような者に牙をたて、引

10. 闇色の魔道士 プラパ・ゼータ 5

らむ。 「俺に命じるつもりか ? 」 「「お願い』ですー もを降りて目の高さを同じくして、心底辛そうな表情で、レイムは激しい炎を宿す青い 瞳を見つめた。その誠実さがさらにおもしろくなく、ディーノはむっとして横を向いた。 「時のを、探しましよう ? 」 ・ハンがくるんと背を向けた。 はかない声で、無理に明るく誘いかけ、ファラ 「キャウ ? 」 ごこち ハンの動揺を感じ 抱かれ心地のいい胸にきゅっと抱きしめられた小さな飛竜は、ファラ・ て目をばちくりし、首をかしげる。それでも小さな飛竜が得していることにちがいはない。 これはなかなかにいい ことかもしれないと、小さな飛竜はファラ・ ハンの腿に顔をすり寄 ・ハンに甘える。 せ、べったりとファラ ・ハンに、あっと首をめぐらせたレイムだが、小さな飛竜を連れていれ 士背を向けたファラ 魔ばまったく一人歩きとは言えないことに安堵し、肩にはいった力を抜く。氷の山で果恥に戦 ハンと小さな飛竜のことは、まだ記憶に新しい魔物ならば恐れるに足ら 色い進んだファラ・ ず、ひとならば小さな飛竜に警戒し、すぐに取り囲まれることはないはずだ。声を上げれば 四聞こえるだろうし、小さな飛竜が炎を吐けば、これだけの毬だ、すぐにわかる。 まもの