広がる 相馬「しかし、こたびは走り通しで疲れたわ〇 茂吉の畑 今村「あの年増をか : 鈴木「もう一一度と参勤交代はしたくありませ鈴木「いけませぬか ? んね」 今村「い、いや、いけなくはない。むしろいい」〇 増田「しかし信祝もさすがに腹を斬らされる増田「鈴木 ! 我らは本当の仲間だ ! 」 だろ、つ」 増田、鈴木に抱き着く。 荒木「この手で介錯してやりたいところだが鈴木「ちょ、ちょっと ! 」 な」 お咲の声「皆さま、ご飯ですよー お咲、お亀、お鶴が笹包の麦飯の握り飯 増田「ところで秋山はどこに行ったのだ ? と茶を運んでくる。 今村「江戸だ。そそくさと発ちおった」 鈴木、お亀に握り飯を渡され、照れる 増田「琴姫様のところか : : : 」 鈴木「秋山は江戸勤めになるそうです。殿の茂吉「殿さま。これもおあがりくだせえ」 やってきた茂吉、皿に盛った大根の漬物 粋な計らいですね」 を出す。 今村「お主も早く嫁を取れ。迷惑じゃ」 鈴木「えっ ? 政醇「おお、これじゃ。これが食いたかった 増田「好きな女子はおらぬのか ? 」 のじゃ」 鈴木「 : : : います」 政醇、大根の漬物をかじる 政醇「やはりうまいのう」 ズ今村「ま、お主なら選び放題だろうがの」 一鈴木「それがそうでもないのです・ : いっ茂吉「荒れた畑を見たときはどうなるかと思 もつれなくされて」 いましたが・ : ・ : 」 いったい誰じゃ」 政醇「ふむ」 代増田「え ? 茂吉「磐城の大根は、折れても、うもうござ 勤鈴木「 : : : お亀さんです」 参 います」 一同「えーっ ! 」 速 高 政醇、につこり笑って頷く。 超 あぜ道 〇 ( フラッシュ ) お咲と炊き出ししている年増のお亀。 〇 段蔵、湯長谷城を振り返って笑い、お美 代を肩車して去って行く。 祭囃子が聞こえてくる。 湯長谷村 政醇とお咲がやってくる 村人たち、総出でじゃんがら念仏踊りを 踊っている。 微笑ましく見ている二人。 村人たちにうながされて、一一人は踊りの 輪の中に入っていく。 ( 了 ) 3 )
段蔵、現れた他の敵と戦っている。 ることであろう」 鈴木、源七に向かって矢を放つが、それ 政醇、お咲を後ろにかばいながら、 段蔵、苦い顔。 は源七の胸の鎧に弾かれる 政醇「 ( お咲に ) わしの気持ちは決まってお 源七「わはは、効かぬわ ! 」 るだろう」 〇 同・正門付近 鈴木は青い矢を射、源七の鎧に再び矢が お咲「いやだ、そんな言い方。はっきり言っ幻道「開門 ! 開門 ! 」 突き立つ。 門が開き、幻道たちが入っていく。 源七「馬鹿め ! この鎧を貫けるものか・ : 政醇「ここでか ? 」 鈴木、それを追い、閉まろうとする門に ん ? 」 政醇、多次郎と段蔵を見る 突入してぎりぎり間に合う。 源七、自分の胸を見ると、矢が高速で回 最後の一人を斬った段蔵は気をきかせて 鈴木、門番を殴り倒し、櫓に入っていく。 転している 後ろをむく。 源七「なっ」 多次郎「内藤政醇 ! 柳生新陰流の恐ろしさ、〇 同・櫓付近 矢がドリルのように鎧に潜り込み、源七 見せてくれるー 帰ってきた幻道たちが湯長谷の女中たち は胸を貫かれて死ぬ 政醇、多次郎に走り寄って鎖を緩め、慌 と鉢合う。 矢が止まると、その矢羽根はらせん状に一 てて振り下ろされた鎌を剣で受け止める。幻道「全員斬れ ! 」 なっている。 政醇「 : : : 想うていなければ、側室にせぬ」 今村と増田がそれを防ぐ。 屋根から降りた鈴木は剣を抜くと、女た一 お咲「ちゃんと言って ! 」 今村「ここはわしが守る ! 」 ちの周りにいた柳生たちを斬りまくる 政醇「お咲 : : : ( お咲を見る ) 」 増田「女たちには指一本触れさせんぞ ! 」 鈴木「大丈夫か ! 」 多次郎「おい、聞け ! わしこそは柳生七本 今村と増田、活躍し、女たちも敵を罵り女中 < 「助けて ! 」 槍の一人、向井 : : : 」 歯をむき出して石を投げ、加勢する 女中「鈴木さま ! 」 政醇「やかましい ! 」 女が斬られそうになった危機に矢が飛ん 女たち、かわいらしく悲鳴を上げて、鈴 政醇、多次郎を斬る。 でくる 木の背にしがみつく 多次郎、悲鳴を上げて倒れる 今村が見上げると、屋根の上に鈴木がい 今村と増田、鈴木の前でコロリと態度を る。 政醇「お咲。会うたときからずっと想うて 変える女たちに絶望して、 おった。もうわしのそばを離れるな」 鈴木「遅れました」 今村「なんだこれは : : : 」 お咲「内藤さま : ・・ : ! 」 今村「鈴木 ! 」 増田「努力など無駄だな」 一一人、抱き合う。 鈴木「しかし、ここは高すぎましたね : : : 」 段蔵「何をくどくどと。初めからわかってお 鈴木、足が震えている 荒木は三太夫と対峙している 8
出立したよしにございます」 相馬「 ! ( 嬉しい ) ー 帯がぶら下がっている 信祝「ふふ、一揆と聞き、うろたえておろう。 上流から大きな丸太が流れてくる。 内藤め。ねずみのように走り回らせてやる」増田「危ない ! 」 〇草つばら 丸太が鈴木の後頭部にぶつかる 『陸前浜街道大沼宿』 政醇「鈴木 ! 」 一同が疲れ切って倒れ伏し、肩で息をし 『那珂川』 ている 一同、下帯姿で、川を渡っている。 一同、向こう岸に行って下流に走ると相相馬「ここじゃ。早く来てくれ」 政醇だけはポロ船に乗り、相馬が竿をさ 馬が丸太に抱き着いて漂着し、助かって 相馬、三十人の中間たちを引き連れてく して漕いでいる いる る 政醇、桶で底から浸水してくる水を掻き政醇「相馬、鈴木はどうなった」 相馬「なんとか三十人は雇えましたが」 出している 相馬「流されてしまいました : : : 。助けよう荒木「これを百人に見せかけるのか : : : 」 相馬「行きは参勤、帰りは交代。まだ参勤交としたのですがー 相馬「百人はおらぬと一万五千石の大名行列 代は終わっておらぬぞ。列を乱すな ! 」 相馬、鈴木の下帯を持っている とは言えぬからのう。やるしかあるまい」 相馬、言って身を乗り出したとたん、落増田「ええっ ! 」 政醇「行列の道具は揃ったのか ? 水する。 今村「死んだな、これは」 相馬「あるにはありましたが : ・ : ・他の大名一 おなご 増田「ご家老が落ちた ! 」 増田「あいつには女子と引き合わせてもらう が置いていった壊れものばかりでございま 荒木「自ら列を乱すとは何事じゃ 約東だったのに : して」 相馬、溺れて流されてしまう。 荒木「大丈夫だ ! 奴は泳げる」 中間たちが挟み箱や長持ちゃ駕籠、毛槍 相馬「たすけ : : : ! 」 増田「そ、そうだな ! 」 を持ってきているが、みなボロポロで家 鈴木「しまった ! ご家老は泳げません」 増田、笑顔。 紋もちぐはぐ 増田「そうだったー ご家老、しつかり ! 」荒木「殿。どうしますか ? 」 政醇「できるのか ? 」 荒木「気合だ ! 」 政醇「明日までに帰らねばならぬ。先を急 ) 」相馬「やるしかありません」 鈴木「まずい ! 」 う。きっと後から追いついてくるはすだ」 相馬、懐から矢立を出し、その中から筆 鈴木、相馬の元へ助けに行き、相馬の手 一同、走り出す。 を出す。 をつかむ。 相馬「皆の者、筆を出せ ! 」 相馬「来てくれたか ! 」 岸のそばの畑のかかしに『鈴木先に行 鈴木「我らにはご家老が必要です」 政醇』と書き置きが貼られ、首に下〇 大沼宿 〇 -0
超高速 ! 参勤交代リターンズ 女たち「きゃーっ ! 」 走っている湯長谷一行。 幻道「お主らはここで死ぬ」 鈴木「ここはどこだ。那珂川の渡しは : : : 」政醇「この森を抜ければ湯長谷じゃ ! 」 柳生の使い手たちが人間離れした技で襲 し、刀、カ Q 鈴木、女たちの熱い視線に気づき、慌て一同「おう ! 」 て羽織の前を合わす。 荒木、急に止まる 政醇、刺客を手刀で倒し、刀を奪う。 女 < 「 ( 指をさし ) 渡しならあっちですよ」相馬「どうしたに」 荒木と三太夫、激しく互角に戦い、にら 鈴木「そうか」 みあ、つ 荒木「気をつけろ。何かいる」 鈴木、上流へ走り出す。 同、うっそうとした細い街道を進む。荒木「新陰流 : : : 。柳生か ! 」 女「お侍さま、せめてこれを ! 」 一同、緊張の中、茂みの中から槍が突き三太夫「田舎の小藩になぜこのような使い手 女、女ものの浴衣を渡す。 出される がおる ? 」 鈴木「かたじけない ! 」 荒木、槍をぶん取って茂みの中の刺客に 政醇、次々と刺客たちの小手を斬り、剣 打ちこむが、白刃どりで槍を受けられる。 を落とさせる。 鈴木、かかしに貼られた伝言を見て街道増田「無刀取り」 政醇「みな、拾え ! 」 を走り出す。 荒木「何者だ ! 我らは参勤交代の途中であ一同「はっ ! 」 しばらくして戻ってきて、かかしにか るぞ ! 」 湯長谷一同、剣を拾う、 かっていた下帯を取って再び走り出す。 柳生軍、道に出てくる。 多次郎「おい、出番だ」 幻道、多次郎、諸坂三太夫 ( ) 、真柴 青い仮面の男が出て来て凄い速さで突っ 街道 込んでくる。 源七 ( たち。 〇 ポレポし東中野 毎月抽選で 10 名様 招待券プレゼント 9 月上映作品スケジュール 五島のトラさん」 大浦勝監督 ~ 9 月上旬 ~ 最終日未定 「海峡を越えた野球少年 キム・ミョンジュン監督 9 / 3 ( 土 ) ~ 9 / 16 ( 金 ) 17 : 30 「クワイ河に虹をかけた男』 満田康弘監督 ~ 9 / 16 ( 金 ) 12 : 30 「さとにきたらええやん 重江良樹監督 ~ 9 / 16 ( 金 ) 15 : 10 「モッシュピット LIVE VERSION 岩淵弘樹監督 9 / 3 ( 土 ) ~ 9 / 9 ( 金 ) 20 : 00 「マンガをはみだした男」 冨永昌敬監督 9 / / 10 ( 土 ) 9 / / 16 ( 金 ) 19 : 20 9 / 11 ( 日 ) ~ 9 / 15 ( 木 ) 19 : 30 ☆「マンガをはみだした 男」 DVD 発売記念上映 「気分を出してもう一度』 山本晋也監督 9 / 10 ( 上 ) 21 : 05 9 / 12 ( 月 ) 21 : 30 9 / 15 ( 木 ) 21 : 30 9 / 16 ( 金 ) 21 : 05 「校庭に東風吹いて 脚本 : 長津晴子 監督 : 金田敬 9 / 17 ~ 30 10 : 40 13 : 00 18 : 00 ※ P89 「作家通信」欄参照 J 日・地下鉄大江戸線東中野駅徒歩 1 分 電話 03 ( 3371 ) 0088 http://www mmjp.or.jp/pole2 ご希望の方はハカキて、〒 107-0052 東京都港区赤坂 5-4-16 シナリオ会館 4F 「シナリオ」編集部「ポレポレ東中野 係宛にお申し込み下さい。締切は、毎月 月末必着。
相馬「よし ! 」 政醇「ここかー 政醇「十分だ ! 」 一同、武器を取る。 政醇、お咲を連れて走り出す。 荒木「やはりこれがないとのう ! 」 〇同・道場の中 今村「やっと侍に戻れましたな」 政醇、道場に入ると、お咲が柱に縛られ〇 湯長谷藩内・道 ている 富江「婿殿 ! 」 幻道の一行が進んでいる 荒木「お、お、つ : : : 」 お咲「 ! 」 源七「 ( 後ろを見て ) あれは ! 」 富江「今まで何をしておったのです ! 」 政醇「よかった : ・ 皆が振り返ると湯長谷城からのろしが上 がっている 荒木、背を向け歩いて行く。 政醇、縄を切る 富江、追いかけながら、愚痴を言う。 お咲「また足手まといになっちまって : ・ 幻道「罠だ ! 戻るぞ ! 」 富江「もう少しで飢えるところでした。荒木 お咲、悲痛。 幻道の一行、大急ぎで引き返す。 家がついえるところだったのですよ ! 」 その後ろから鈴木が馬で走ってくる 政醇「聞いたぞ。他の女たちをかばったので 荒木、耳を塞ぐ。 あろう」 鈴木、幻道たちと城ののろしを見て、 段蔵、合流する お咲「あたし : : : 、牛久に帰るよ」 鈴木「何事ですか ! 」 政醇「皆、行くぞ ! 」 鈴木、馬に鞭打つ。 政醇「何を言う ? 」 一同「お、つ ! 」 お咲「身請けしてもらった金は後で送るから さ。さっさと行きなよ。あたしなんかど、つ〇 湯長谷城・道場の表 だっていいんだ」 同・本丸付近 政醇とお咲と段蔵、走っている 多次郎、踏み込んでくる政醇たちを見て、政醇「どうでもようない ! 」 お咲「待ってよ ! 」 ズ お咲、政醇の手を振り離す。 のろしを上げ、階段を駆け下りる お咲「 ! 」 ン 政醇「お主は幼いころに売られただけだ。な政醇「どうした」 タ 〇同・城内 んの咎もない ! 」 お咲「内藤さまの気持ちはどうなんだい。女 代 内藤さまが 女房たちが藩士たちを解放する。 に言わせてばかりでさ、面と向かって聞い お咲「だってきっと迷惑に : 交 あたしのせいで馬鹿にされるよー てないよ ! 」 勤 参 政醇「他の奴はどうでもよい。お主の気持ち政醇「わ、わしか」 政醇と段蔵、城内を走ってくる 速 高政醇「お咲 ! 何処だ ! 」 はどうなのだ ! 」 多次郎の声「内藤、覚悟 ! 」 声に反応して道場の戸がガタガタする そりや、一緒にいたいに 多次郎の鎖鎌の分銅が飛んで、政醇の居 お咲「そりや : 段蔵「殿 ! 」 決まってんだろ ! 」 合いに構えた腕に巻き付く。 〇
瀬川「山駕籠か : : : 」 ねばなりません」 お咲「山駕籠 ? 牛久宿・鶴屋の表 ( 夜 ) 鈴木「なるほど。目付がどこかで見ているか〇 もしれませんしね」 政醇、相馬、荒木、今村、鈴木、増田の瀬川「これは軽くてかなり早いのですが、乗 り心地が良くないのです 丸腰の一同。 相馬「牛久までは行列で来たからよいとして、 あと一度くらいは、派手な行列を見せねば政醇「これより湯長谷へ帰る ! 一同、走るお咲「かまいません」 お咲、駕籠に座る。 ならぬか・ : : ・」 駕籠かき < 「じゃあ行きますぜ」 今村「ご家老、中間を雇う金は大丈夫です一同「おう ! 」 皆、提灯を持って走り出すも、泥酔の千お咲「はい。あ、瀬川さまは ? 」 鳥足で提灯があちこちに散る 瀬川「 ( 笑って ) 拙者とて多少は足に自信が 増田「行列の道具も必要ですし : : : 」 あり申す」 相馬「、つ : ・ 相馬、つらそ、つ 駕籠かき < がお咲に ( 舌を噛まないよう 木陰 ( 夜 ) に ) 手ぬぐいをくわえさせる。 柳生の隠密、向井多次郎 ( ) が見張っ お咲「 ( みんなに向かって ) あたし、もう一 ている 駕籠かき < と「そらっ ! 」 度ここで働きます」 山駕籠が猛スピードで走り出す。 政醇「お咲 ! 」 お咲「ヴーツリ」 陸前浜街道 ( 夜明け ) お咲「身請けをした三十両、皆さまで使って〇 瀬川「お、おい、待て ! 」 朝日の中、飛脚が走っている 下さい 瀬川も走るが、差が開いていく 湯長谷一同が走って飛脚を抜いていく。 鈴木「お咲殿。そんなことを考えている者は 飛脚「なんだありや」 一人もいませんよ」 ズ 一同、近道のため林の中に突っ込んでい〇 浜松藩江戸屋敷・信祝の部屋 鈴木が微笑み、一同も肯く。 「浜松藩江戸屋敷』 一政醇「よし。支度を急げ。出立は四半刻後 松平信祝、人型の紙 ( たとえば呪術の紙 飛脚「天狗か ? 」 人形のようなもの ) に名前を書いている 代一同「はっ ! 」 「内藤政醇」という文字が見える 〇 牛久・駕籠屋 勤政醇「お咲。お主は後から駕籠で参れ」 参 幻道「信祝様」 政醇、一同の顔を見回す。 瀬川とお咲、駕籠屋に入ってくる 速 障子の向こうから声がする 瀬川「すまぬ。駕籠はあるか ? 」 高政醇「瀬川、お咲を頼む」 駕籠かき < 「あいにくこれしかねえんですよ」信祝「幻道か」 瀬川「はつ」 幻道「はつ。湯長谷の者どもは慌てて牛久を 両側に扉のない駕籠が一つ余っている お咲「内藤さま : : : 」 〇 O ′
る。 瀬川「馬鹿者 ! この一大事に何を酔っ払っ 政醇「相馬 ! どうするのじゃ ! 」 ておる ! 」 政醇「皆の者、祝言は終わりじゃ。すまぬが相馬「えつ私ですか ! 」 瀬川、増田を突き飛ばして、酒を燗して帰ってくれ」 政醇「すぐに策を立てよ」 いる桶の熱い湯をかける。 出席者一同「えーっ 相馬「いや、それは : : : あまりにも : : : 」 増田「あれつ ? 瀬川殿おええっ ! 」 政醇「悩めば時を失う。三つ数えるうちに知 増田、吐きに走る。 空つほの座敷に一同車座になっている 恵を出せ」 瀬川「 : : : 皆様、大変でございます ! 一揆政醇「一揆とはな。いったい誰が不満を持っ相馬「ええっー が起こりました ! 」 ておったのか : : : 」 政醇「一つ : 「湯長谷藩江戸家老瀬川安右衛門』瀬川「殿、ぐずぐずしてはおれませぬぞ。一相馬「できました」 政醇「 ! 」 揆が起こればお取りつぶしもありえます。増田「早っ ! 」 今村「一揆 : : : ってなんじゃったかのう ? 既に検分のため目付が湯長谷へ発ちまし政醇「よし。どうすればよい ( 酔って笑う ) ー 相馬、そろばんをはじきながら、 荒木「うるさい」 相馬「ますい ! 目付はいっ湯長谷に着くの相馬「とにかく時がありませぬ。よって、飲一 荒木、今村のみぞおちを殴って気絶させ じゃ ? 」 まず、食わず、眠らす ! 」 る。 瀬川「おそらくあと二日ほどかと : 今村「ええっ ! 」 政醇「瀬川、今なんと言うた。もう一度申相馬「二日じゃと」 相馬「そして休まず、止まらす ! 荷物を持 瀬川「は、。 し明後日までに湯長谷へ戻り、一 たず丸腰で走り通せば、間に合うかもしれ 瀬川「湯長谷に一揆が起こったのです ! 」 揆の裁きをつけておかぬと、お取りつぶし ませぬ」 政醇「なに : は確実 : : : 」 鈴木「ひどい 相馬「馬鹿なことを : : : 。我が藩に一揆など荒木「馬鹿な ! 湯長谷まであと四十里もあ増田「それじゃあ足がつぶれますよ ! 」 ありえぬ る。行きはここに来るまで四日もかかった相馬「では藩がつぶされてもよいのか ? 」 鈴木「 ( 頷き ) 殿はあれほど民に慕われてい のだそ ! 」 るではありませんか」 鈴木「参勤のときの倍の速さで帰るというこ瀬川「気をつけねばならぬのは我らは参勤を 瀬川「国元の福田より知らせて参りました。 とですか ? 」 終えたものの、まだ交代の途上です。一揆 略奪が起こり、けが人も出たようです」 増田「絶対に無理だ ! 」 が起こった上に交代のしくじりがあっては 瀬川、福田の文を渡す。 瀬川「殿 ! どうされますか ! 」 お取り潰しは必定。揚げ足を取られぬため 政醇、それを読んで出席者たちの方を見 政醇、勢いをそのまま相馬に渡すように、 にも、行きと同じく大名行列の威容を見せ 8
〇 るのかもしれませんね」 〇 増田「殿一人で行くおつもりですか」 政醇、腕を組んで瞑想している 政醇「湯長谷を荒らされ、民にもけがをさせ 信祝を先頭に大軍勢が進んでくる。 増田の声「殿、信祝が来ましたー てしまった。わしは藩主失格よ : 。この柳生「なんだあれは」 増田、物見櫓に立っている。 責は負わねばならぬ」 正面から政醇、相馬、荒木、今村、鈴木、 政醇「来たか」 一同、呆然と政醇を見る 増田、段蔵の七人の男たちが道幅いつば 政醇、カッと目を見開く 相馬「はつはつは、殿。戦に軍師無しで出る いに横に並んで歩いてくる など古今東西いかなる戦略にもございませ 菊千代が焼け焦げた湯長谷の旗を持って いる 湯長谷村 ん。お供いたします」 信祝が浜松藩の家臣と尾張柳生軍本隊を政醇「相馬 : : : 」 信祝「内藤政醇 ! 」 連れてやってくる 荒木「わしも行く。このような合戦、武士と柳生「たった七人で戦うつもりでしよう 道を埋め尽くすその数は千人。 して出陣する機会を逃すなど、ありえぬ」 か ? 」 馬に乗り、銀の甲冑を着けた派手な衣装。今村「さよう。湯長谷藩の底力、とくと見せ信祝「面白い。さすがは貧乏侍どもよ」 てやりましよう」 〇 湯長谷城・広間 鈴木「フフ、腕が鳴りますね」 〇 湯長谷城 相馬「どれくらいだ ? 」 増田「殿、最後までご一緒いたします」 瀬川「行ってしまわれましたな。殿は拙者に一 増田「およそ千人 : : : 」 菊千代「キイツ ! 」 お咲殿を守っていてくれと」 鈴木「籠城して戦いますか ? 」 政醇「お主ら : お咲「あたしは待っことしかできないのです 政醇「駄目だ。包囲されては田畑がさらに荒段蔵「わしも混ぜてもらおうか」 れる」 段蔵、現れる。 瀬川「待っこともまた戦です」 荒木「では : : : 」 お咲、頷き、 政醇「段蔵。お主まで : : : 」 政醇、一同を見る 段蔵「湯長谷の酒はなかなかにうまい」 お咲「内藤さま、ご無事で : : : 」 政醇「皆、これまで大義であった。わしのよ政醇「そろいもそろって馬鹿ばかりよ : うな藩主によくついてきてくれた。嬉しく よし、ついて参れ。狙うは信祝の首のみ〇 湯長谷村 思うぞ。今からわしが討って出る。もしゃ じゃ ! 」 政醇たち、歩いている ぶれても、わしの首を取れば老中も少しは一同「おう ! 」 相馬「七対千かこんな戦は古今東西一度も 気が済むだろう。その間にお主らは家臣た 一同、立ち上がる なかったはす・ : ・ : 」 ちを連れ、全て落ちのびよ」 荒木「なんの。我らは一騎当千。存分にほふつ せめ
関所番 < 「確かに死んでいるな」 宗春「倹約ばかりでは息が詰まる。芝居小屋宗春「うむ。頼んだぞ」 関所番「おい。こんなことしたらバチがあ も遊郭も好きにさせてやればよい」 信祝「御意」 たるんじゃないか」 宗春、ロは立つが、底の浅そうな顔つき。 信祝、立ち上がって辞する 関所番 < 「しかしなあ」 信祝「まさに。享保のご改革などとうるさく その顔には宗春を馬鹿にしたような笑い 関所番 < 、迷いつつも棺桶を開けよう 言うわりには、日光社参で一一十万両も費や が浮かぶ。 とする し、民のことをまるで考えておられませぬ」 宗春「信祝。お主は民思いじゃのう : : : 」 〇宇都宮城・広間 棺桶の中 信祝「はつ。何事も民のためでござる」 吉宗、老中の酒井忠音 ( 料 ) から報告を 増田、菊千代のロを押えている。 宗春「しかし信祝。先日は窮鼠にかまれたな」 受けている。 信祝「身勝手な田舎の小藩にはほとほと手を 「老中酒井忠音』 〇 高萩の関所・中 焼いております。こけの一念で己の土地に酒井「信祝が不穏な動きをしておるとのしら 関所番 < 、棺桶を蹴ろうとする。 しがみつき、土がどうの故郷がどうのと騒せがございますが」 政醇「 ( 腹話術 ) 開けてはならぬー ぎ立てるのですからな」 吉宗「案ずるな。江戸には大岡がおる」 関所番 < 、驚いて周囲を見回すが、死人宗春「わしの手の者はよくやっておるか ? 」酒井「しかし : : : 」 に扮した政醇と今村しかいない。 信祝「さすがは尾張柳生。上様のお庭番より吉宗「改革でわずかに余裕も出た。今はまず一 関所番 < 「おい、今何か言ったか ? 」 腕が立ち申す」 国中に幕府の威信を示し、飢饉で傷ついた 関所番「いいや」 宗春「吉宗め。御三卿など考えおって。我ら民の心の拠り所とならねばならぬ」 棺桶の中からカリカリと不気味な音が御三家をないがしろにするとは言語道断」 する 信祝「将軍就任のときも大奥を抱き込み、策〇 関所番 < 「 ! ( 恐怖 ) もうよい、早く行け ! 」 を弄されましたな」 鈴木、川岸に半裸で倒れている。 宗春「そのことよ我が父は謙虚なばかりに、 洗濯しに来た女たち、鈴木を見つけ、 〇 尾張藩江戸屋敷・大広間 吉宗に将軍の座を奪われてしまったのだ。女 < 「きゃーっ ! 見て ! 」 『尾張藩江戸屋敷』 このままではすまさぬ ! 」 女「土佐衛門かしら : : : 」 壇上に徳川宗春 ( ) 、その前に信祝が信祝「上様におかれましては理解のできぬこ女 o 「でも、 しい男ね」 いる とばかり。こうなれば次の将軍はぜひ宗春女「あら、かわいらしい仏様が : 信祝「尾張は賑やかなようですな、宗春さま」殿に 。天下を取るための手立ては着々 女、下帯のない下半身を拝む。 『尾張藩主徳川宗春』 と進めております」 鈴木、目を覚まして飛び起きる 〇 4 -0
襖を開けようとしていたお咲、立ち聞き お冨、満面の笑顔で入ってくる。 してしま、つ お冨「神主さまが来られましたよ」 お咲「 ! ( 不安 ) 」 荒木「来たか ! 」 おの声「お咲、何してるんだい ? 」 神主に扮した番頭、入ってくる お咲、振り向くと鶴屋のお冨がいる 番頭「神主でございます 5 」 お咲「お冨さん : : : 」 増田「わはは、お主、化けるのがうまいのう」 お冨、お咲をじっと見て、 今村「よし、三三九度じゃ ! 」 〇 ( フラッシュ ) 土浦・段蔵の家 お冨「殿さまが待ってるよ。さあ、入った入っ 今村、酒器の片口から直接飲む。 雲隠段蔵 ( ) 、妻や娘の美代と会って お冨「 ( 困惑気味に ) あの、もう一人来られ いる風景。 お冨、襖を開け、お咲の背中を押す。 ました : : : 」 しかし妻に酒のひょうたんを取り上げら 荒木「もう一人 ? れる 今村「おお ! 神主と来れば次は巫女ではな 同・宴会部屋 ( 夜 ) お咲、よろめくように入ってくると、盛 〇 鶴屋・宴会部屋 ( 夜 ) 大な歓声。 増田「巫女か ! 好みじゃ ! 」 今村「嫁と子供か。くそっ、良いなあ」 荒木「美しい 鈴木も見ようとするが、 今村、悔しそうに酒を飲む。 今村「くそっ。悔しいほどに」 矢場の女「見ちゃだめ ! 」 女に目隠しされる 増田「拙者はおなごの手をにぎったことすら増田「独り身には目に毒だ ! 」 ない ! 」 今村、太鼓を叩きながらじゃんがら念仏 藩士たち、期待を込めて入り口に注目す ズ る。 増田、銚子を一一本両手で持ち、同時に飲む。 踊りを踊る ン 増田も鐘を叩き、一緒になって踊る 今村「あの美しいお咲殿を娶ることができる 瀬川安右衛門 ( 菊 ) が入ってくる。 タ とよの、つ・ : : ・」 相馬「念仏踊りはやめんか ! 晴れの席じゃ瀬川安右衛門「御免 ! 」 代増田「しかしここだけの話だがな」 荒木「むつ ? 」 政醇「お咲。早く来い」 今村「 ( 泥酔して ) 巫女 ? 何やら男つばい 勤今村「ん ? 」 参 増田「殿のご親戚筋は良い顔をしておらぬら お咲、座り、小声で言う ではないか」 速 高 しい。遊女を側室にするなどもっての他と」お咲「内藤さま。やつばりあたし、側室には増田「 ( 泥酔して ) 拙者は巫女なら何でもい 超 なれないよ」 いきなりど、つしたのじゃ 増田、瀬川に抱きつく。 政醇「なに 馬の上には菊千代が乗って芸をしており、 おひねりを受け取る 鈴木「段蔵はどうしたのでしようね ? 」 増田「文が来てな、土浦まで妻と娘に会い ( 行っているそうだ」 〇同・襖の向こう側 ( 夜 ) 〇