僕らはみんな生きている 高橋が苦々しく出した煙草、一本だけ抜升本「足があるだけ幸せなこの国でさ」 き、それを高橋に渡してパッケージを懐 窓外を指すと、バザール近くに不具の乞 線路沿いのスラム におさめる。 食たちが数人いる 窓も扉もないトタン張りの一軒の座敷で、 高橋は一本の煙草を手に、ゲンナリとし高橋「 ( 眼をそらして ) 多いのかな、事故とか」 セーナの女房と赤ん坊が昼寝をしている。 たため息を洩らす。 升本「親がやるんだ。祈って、切って。手前 セ 1 ナが顔を出し、煙草を売った金を 高橋『 ( 皮肉に ) ありがとう。 : : : 次はなに の子不具にするのも親心だ、あの商売同情 そっと枕もとに置く。 も言わないで俺の懐から勝手にいただくわ が武器だから」 けだ。 ( すべてのいら立ちがこみあげてく 高橋、蒼白。 井関の部屋 井関がファミコンのゼビウスをしている る ) この国じゃみんな手前のことしか考え升本「職がねえんだ。おたくの運転手だって かたわらには、。 てない日本の援助だって自分の懐に入れ ヒニール袋につまった大 ソルポンヌの大学院出てる」 ることしか考えてない、その煙草みたいに。高橋「 ( 愕然 ) セーナ : 麻。 も・つろ・つ ここは発展途上国か嘘だ。発展落下国だ升本「フランス語ペラベラでパスカルの権威 紙巻きでふかし、朦朧としながら、ただ ゼビウスに溺れている。 セーナ『 ( 荒々しく降りる高橋を見送って ) 中井戸「もとは軍人の息子でエリートだった。 4 線路沿いのスラム 三年前のクーデターですべてパ 、似てる 3 苦笑し、ロ笛を吹く。 な、だれかと」 セーナが眠っている赤ん坊の頬にそっと 唇をあて、そして、出ていく。 富田「 ( 背中が強張る ) 」 かげろう 陽炎燃える線路の上を、ふり返らずに歩 軍人が運転するトラックの中 高橋は混乱している スーツ姿の高橋、中井戸、富田、升本が き去る 背中合わせに座っている。 トラックか走り去る 中井戸と富田は、互いの鞄からはみ出し 平穏な、タルクの町。 郊外のカツツの別荘・広間 たクカツツ大佐ハッピ・ ースディクの 軍人や若い女たちがにぎやかな立食パ 精力剤の巨大な看板が太陽をギラギラ反 ティー カードがついたプレゼントを睨み、目分 射する 量で比較している。 一角に拍手がおこり、蘭の首飾りをした 高橋は靴の埃を拭いている カツツが現れる 升本「 ( 失笑して ) 精が出るな」 挨拶して回って、やがて、中井戸たちの セーナが屋台の煙草売りのおばさんに日 高橋「 ? 」 前に来る 本の煙草を売っている 9- L.n
が澤井さんはマキノさんの直弟子で、自ら雑巾がけの芝居 を演じながらの演技指導。 「最初は声だけで ( 室内でまだ寝ている ) 政夫に呼びかけ る。次は腰を障子にトントンとぶつけてみる。それでも起 きないので、業を煮やして脚で障子を蹴り上げる。最後に は『よ 5 し。怒った』と言って思い切って障子をガラリと 開ける。そこへ兄嫁が来て「なんです民さん、はしたない』 と怒る。それが二人が気持ちを通わせるきっかけになるん だ。判るね、聖子 スタッフ一同、ぶりつ子で生意気だという評判の聖子が どう応えるかに興味津々だったが、 聖子自身、アイドル歌 手から脱皮する勝負作だと考えているらしく、この日から クランクアップまで一度も根を上げることなく、澤井流の シゴキに耐えた。 僕はサンミュージックの聖子担当者、吉田達、演技事 務の和田徹 ( 後に主として吉永小百合企画の ) と共にし んどいスケジュール調整をしながら、澤井さんの構想を清 書して毎朝号外を出すという作業に追われた。 そして残業がない夜は荻窪の旅館に赴き、『大奥猟奇犯 罪史』の執筆。 昼は純愛、夜は異常性愛。まるでジキルとハイド。 問題が起きたのは、無事にクランクアップし、初号試写 を終えた時である。初号を観終えた脚本家の宮内さんが激 怒し、吉田を通じて強権発動をしてきたのだ。 ラストシーンに・、・ O する「さよ、つなら民さん』 AJ い、つス ーを削除しなければシナリオ作協に訴え、ひ いては裁判闘争も辞さないというのである 『「さようなら民さん」は、トップシーンからの僕の演出 の流れの帰結としてあるので、そこだけ取りだして、文句 を言われても困るのですが、シナリオ作りのプロセスでい ろいろあったわだかまりが、最後の最後で感情的に出たの かもしれません。プロデュ 1 サーは、そんなことで揉めて もつまらんから泣いてやれよ、と僕に言う。結局、外した。 「さようなら民さん」があるのは、零号と初号プリントの 二本だけなんです』 ( 『映画の呼吸澤井信一郎の監督作法』 ワイズ出版刊 ) 宮内さんの脚本は一本調子で、年上のいとことの結婚は まかりならぬという封建時代の日本の家制度を縦軸に盾に しているだけで、主役二人の幼くも強靱な感情が十分に描 けていなかった。 酷な言い方をすれば、アイドル映画はこれで良し、と見 下したようなもので、ただ者ではない松田聖子 ( その証拠 に、三十年後の今もトップアイドルである ) を甘く見て、 周囲の状況 ( 時代背景と脇役たち ) から民子と政夫を攻め 上げようとするものだったのだ。 それを澤井信一郎は由とせす、主として民子の心情描写
合唱「 ) 響き渡れ、ばくたちの歌。生まれ変てほしい」 ゲート ( イメージ ) わる、神戸のまちに。届けたい、わたした 清春は、歌詞を刷ったプリントを凝視し 一本の道を遮断するゲート ちの歌、しあわせ運べるように : ている朝海をちらと見る 降りしきる雪の中、警備員姿のつもりや んがゲートを閉める 清春「超えられへん壁はない。 ・ : お別れ会 復興の様子 では、『しあわせ運べるように』を唄う」 朝海の朗読「傷ついたふるさとを、もとの姿 避難所のドラム缶の焚き火、高速道路の 朝海がふいに立ち上がり、紙をふたつに にはもどそ、つ」 引き列衣 / 、 撤収、瓦礫の集積、ルミナリエでこの歌 を合唱する児童たち・ : 清春と部員たちの注目を浴びた朝海が、〇『 LIVE! LOVE! SING! 』の店内 ( 夜 ) 合唱「 ) 地震にも負けない、強い絆をつくり 言い放っ 朝海「 ( 清春に ) いっ ? ( 表を指す ) どうやっ 亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生朝海「 : : : 唄えません」 きてゆこう。傷ついた神戸を、もとの姿に清春「 : もどそう。やさしい春の光のような : ・・ : 」 朝海「先生のお母さんも言ってた。忘れたい LIVE! LOVE! SING! 』の店内 ( 夜 ) って」 〇 神戸の私立女子高の音楽室 勝もピザを貪るように食べ、店内は静か になっている 清春「『しあわせ運べるように』を作ったん 神戸の小さな喫茶店の中 ( 五日前 ) は被災した教師でな、それで先生は先生にアスカさん「その歌とこの冒険、どう関係あ 清春と朝海の前に、オーナーのミドリ ( 現 なりたいと思たんや。 : : : 神戸の小学校に んの ? なんで来たの ? 」 在浦 ) がカウンターの中からコーヒーを かよ まぢ 通た人は音楽の時間に唄たはずや」 本気「こご、俺らの町だがら」 置く アスカさんが驚いて一同を見る < 「 ( にく ) 唄た ? 」 「『しあわせ運べるように』 ? わた 「 ( 囁き返す ) 唄た」 本気が、朝海が、香雅里が頷く ( 勝はピ し苦手や、あの歌寒い避難所やら仮設を < は覚えていないらしく、周囲の数人と ザを食べている ) 。 思い出してしまうんやもん」 首をかしげる アスカさん「そんじゃ : : : 四年前に、こごが清春「 : : : お別れ会に来てほしいんや。おか 清春「二十年前はみんなが産まれる前や。で んにも」 も乗り越えてきた人たちがおるから、いま 朝海がキーポードを人差し指で弾く がある。 ( 黒板に書いたふるさとバージョ朝海「 ) 傷ついたふるさとを、もとの姿にも清春「朝海に唄てほしい、 おかんに聴いてほ どそう」 ンの歌詞をなぞる ) 傷ついたふるさとをも しいもう、過去のことや」 それは二人に対する、清春の願いだ との姿に戻した根性を胸に刻んで、卒業し 〇 〇 〇
タ子はゆっくり歩いて、写真が見える位タ子「 ( 引きつった笑いを取り繕って ) 失礼美穂「結真実 ! 」 置に行く。 します」 結真実「 ( スマホを落としそうになる ) æ: 」 タ子「ーー 太壱を引きすって、植え込みの陰に行く。 黒枠の中で笑っているのは太壱だ。 タ子「 : : : 変だと思われた、私にしか見えな〇 同・廊下 ( 夕方 ) タ子は太壱を見るーーー太壱は、照れ臭そ いんだよ。 ( 太壱に ) : : : なに迷ってるの ? 結真実「離してーっ ! 殺す気 1 っ」 うに笑い返す。 とっとと成仏しなよ。悪いけど、もう太壱 とわめく結真実の手を引いて、美穂たち タ子は思わず、一歩、出る。 くんとはロきかない私、私が大ッ嫌い が走る タ子「 : : : 先生」 ・ : 見える私が嫌いなの」 きびす 踵を返して、歩き去っていく。 廣田「 ( 写真のことだと分かって ) ・ : : ・先々 〇同・地下宴会場 ( 夕方 ) 月 : : : 交通事故で」 太壱「・ : ・ ( ポケーツと、見送っている ) ー いまは使われていない、円卓や椅子が散 タ子「ーー らかったカビ臭い空間。 廣田「僕らもショックでしたが : : : 気の毒な〇 チサンホテル上野・外観 ( 夕方 ) 結真実、美穂、明菜、聖子が床をきしま のは、お父さんです。息子さんの死を受け せて上がるステージは朽ちかけていて、一 容れられなくて、この中にいるんじゃない〇 同・ 301 号室 ( 夕方 ) ギターやドラムが埃をかぶっている かって : : : ほら。タクシーで、ずっと」 カギを開けて、狭い部屋に女子たち四人聖子「 ( べースを掴む ) : : : たまってんだよ、一 タ子は廣田の視線を追って、慄然とする。 が入ってくる 悶々だよお」 ーーー日い杖をついたサングラスの中年男 全員がダッシュ・ーーデスクのコンセント美穂「デシリットル、修学旅行バージョン」 が遠くにいて、それは太壱の父親だった に真っ先にスマホの充電ケープルを差し ドラムを鳴らそうとするがーーー結真実が のだ。 込んだのは結真実だ。 それを止める 目が見えない父親は、生徒たちのはしや女子「結真実、鬼じゃん。空飛んでたし」 美穂・明菜・聖子「 ? 」 ぎ声を聞いて微笑んでいる。 ホルンスマホを充電しようとしたとき、結真実「 : : : ドラマなんだけどね。 : : : 母ち タ子「 ( 太壱に ) : : : 幽霊恐いって、あんた 着メロが鳴るので、結真実はビクッとす ゃんの」 が幽霊なんじゃないー るーーまたメールの着信だ。 美穂・明菜・聖子「・ : 太壱「えへへー 結真実「 : ・ ( イヤな予感に占められながら、結真実「クラリネットが、ホルン先輩にメー タ子「えへへじゃないのよ、きみはねえーー・」 読みはじめる ) 」 ルで告るの。ホルンは、そうだ、すごい優 そばにいた角田が、不気味そうにタ子を 別室の美穂、明菜、聖子が廊下から飛び しいから、「マジうれしい』って返信した。 こんでくる 見ている。 クラリネットはバカでプスだから真に受け 9-
あの、私、このスマホを拾っ結真実・美穂・明菜・聖子「 ( ポーズをキメて ) 升美「 ( 五年ぶりなのだ ) : : : 先輩」 た、東北原高校の馬場結真実という者です」 デシリットル ! 」 〇同・海辺のデッキ 同・舞殿あたり 升美と水野尾が海を見ている。 〇停車している①バスの中 鳩に餌をやって黄色い声をあげている美 だれもいないバスの後部で、見学をサ升美「あのコ、早慶上智狙ってたんだけど たかのぶ 穂、明菜、聖子のところへ、結真実が転 ポった梨本貴延 ( 片 ) が、「新宿ガイドマッ ・ : 先月、受験しないって、急に。学年の げるよ、つに走ってくる プ』にマーカーで印をつけている ホープなのに」 結真実「あのさあ ! 」 離れた席から、倉田有紀 ( 片 ) が貴延を水野尾「オレみたいだな」 見つめている 三人「 ? 」 升美「 ? 結真実「 ( ふいに照れ臭くなる。だから ) : ステップに足音がするので、貴延はとっ水野尾「成績トップ。みんなが羨む一流企業 母ちゃんが見てるお昼のドラマがあるだよ。 さに伏せるが、有紀は遅れ、覗き込んだ に就職した。それがどうして、運転手 ? 空港で、女がひと目惚れした男のスマホを 升美に見つかってしまう。 升美「 ( いちばん、知りたいことだ L 拾うの」 升美「倉田さん。 : : : 体調悪いかな ? 水野尾「あのコに訊いた」 三人はポカンとしている。 有紀が不承不承立ち上がり、貴延はし水野尾「なんで気持ちが変わったのかって」跖 結真実「で、男から電話がきて、男と女の帰 れっとガイドを見ている 升美「 ( それは訊いていない ) : : : よくある一 りが同じ日だから飛行場で待ち合わせて返 ことなの。あの年ごろって、五分で変わる すことに決まったんだ。 : : : 結末、いかカ〇 新江ノ島水族館・駐車場 そのコロコロに振り回されるのーーー」 なものかな」 水野尾「いい学校がいい人生か ? 少しは成 升美と有紀が①から降りてくる。 美穂「べタじゃん、べタ」 升美「倉田さん。 : : : 進路のこと、考え直し長したかと思ったけど、変わらない。大学 ンよりべッタベタだ 明菜「ウチのチャーハ てくれた ? 」 のころと同じだ」 ね」 有紀「私、もう決めたんです。 : : : 見学して升美「 ( カチンとくる ) 先輩もです」 聖子「ハグしてキスしてハッピーエンドで音 きます」 水野尾「ーー .. 一 楽ドーン 取りつく島もないのを、升美が追いかけ升美「いつも上から目線。キャンパスでもピ よ、つとする 結真実「 ( 上気する ) だよね ! だよね ! だ ザ 1 ラのバイトでもそうだった。みんなが よね ! だよね ! 」 升美「 ( 気配を感じて ) ・ バカに見えるんですよね」 ・ ( 振り返る ) 」 もた 鳩を蹴散らし、三人も理由もなく心がは ハスに凭れてスポーツ紙を開いていた水水野尾「見える。ピザーラカニマヨからカニ ずんできて、はしゃぐ。 野尾が笑いを堪えている を抜いてくれって注文に、お前、それはで 〇
バスの前で、 2 組担任の畑香織 ( ) が 中列の長太郎は、ずっしりと落ち込上機嫌で ) きみ初添乗だよね。青森帰った 健一郎に事情を聞いている んだ健一郎をぶつきらばうに励ましてい ら、打ち上げ行こう。ふたりで。 る 香織「 ( 教頭に ) ・ : 羽田でソウル便に乗り 店、知ってる」 タ子の肩を叩く、というより撫でて、去っ 継ぐはずが、迷っちゃってウチのバスに。長太郎「先生やみんな恨んだって、はじまん 私立函館学園の生徒さんです」 ねえよ。お前ずっといなかったんだから、 て行く。 教頭「どこがソウルなの。ヒュンダイ走って いないのに気づくほうが変だろう。 呆れて見送ったタ子は、ふいに右腕が軽 ないでしよう」 あ、おい」 くなって驚く 健一郎「 ( 途方に暮れている ) 難儀だなあ」 睡眠を妨げられた榎ハルミ ( 絽 ) が、不 岡本太壱 ( 片 ) が、タ子の重そうな書類 鞄を持ってくれたのだ。 愉快そうにふたりを睨む。 〇走る②バスの中 タ子「あ 。いいんですよ」 最前席で、教頭と香織が声をひそめて対〇 鶴岡八幡宮・駐車場 太壱「へーキ」 策を練っている 笑、つ顔に愛嬌があるーーータ子は、この少 四台のバスの前で、添乗員の普天間タ子 香織「引きこもりの不登校なんだそうです」 年を可愛く思う。 ( 幻 ) が、先輩の角田 ( ) に向き合っ ている。 教頭「ー 太壱「 ( 角田の背中を見て ) : : : あの人と、 お酒を飲みに行くの ? 」 香織「修学旅行が学校に行くチャンスだとタ子「大場くんをひとりでソウルに行かせる ク 思って、勇気出して参加したのに : のはムリです。だいたい本人が行かないっ タ子は、思いっきり顔をしかめて首を ラスメートの顔、だれも知らないからこう て言い張ってます」 振って見せる。 い、つ一」とに」 角田「三泊四日、預かるの ? 無茶だよ。大太壱「 ( 安心する ) よかった」 教頭「ずっと引きこもってくれてれば。 ( 胃大口客なんだぞ、修学旅行は。きみがちやタ子「 ( そんな太壱がおかしくて、笑う ) 」 んと数えないから」 が痛い ) ・ : : ・香織先生、水かなにか ? 4 組に置いてきた」 タ子「点呼は添乗員の仕事じゃ 。 ( 我慢〇同・売店 大凶のおみくじを引いてプルーになった 香織「ロ、つけちゃったのでよろしければ」 して口をつぐむ ) 函館学園もこちらの先生 よ 飲みかけのコントレックスのペットボト がたも、もう仕方ないって : ・・ : 」 結真実が、「」と飛び上がりそうになる。 る あ ルを渡す。 角田「 ( 身を乗り出す ) 納得してるの、先生 『ムーンライト・セレナーデ』の着メロ で せ教頭「 ( どうも、みたいなことをモゴモ がた ? 」 バッグから取り出したのはホルンス マホだ。 ゴ言って ) ー タ子「 ( ポカンとして、うなずく ) 」 頬を赤らめながら喉を潤す。 角田「なら、いいんだ。なら問題ない ( 一転、結真実「 ( ごくりと唾を飲んで、電話に出る ) 8
ハスガイドさんの邪魔しちゃーーー」 生徒たちを急き立てている 達也「 ( いっしょに、息で ) ) 幸せであるよ 升美「みんな急いでね、遅れてるんだから。 唄「 ) 幸せであるように心で祈ってる。幸うに : : : ( 泣いているのを周囲に気づかれ せであるように心で祈ってる」 ないよう、身体を折り畳む ) ー ( 自分も乗り込んで、運転手に ) 四日間、 よろしくお願いします」 廣田「 ( その歌を聴いて ) ( 言葉を詰ま スポ 1 ツ新聞を読んでいた運転手、水野らせてしまう ) ー 〇②バスの中 あきひと ホルンスマホをカップホルダーに置いた 乾長太郎 ( 片 ) が、隣席の健一郎を不思 尾彰人 ( 四 ) は、升美を見て目を丸くする 結真実が、廣田を覗きこむ。 議そうに見ている 升美「 ( も気づいて ) デシリットル 結真実「これ、演るんだ。『』で」 長太郎「 : : : 転校生 ? 」 水野尾「 : : : 升美」 と訊こうとしたとき、 iPad で写真を撮っ 升美「 ( 生徒たちの目があるので、他人行儀廣田「 : : : デシリットル ? ていた健一郎が振り向く。 結真実「おらのバンド。卒業ライプでやった に ) よろしくお願いします」 らガン泣きだよね、三年連中。先生、知ら健一郎「 ( ロごもりながら ) : : : ども 水野尾「・ : : ・ ( あいまいに、うなずく ) ー ソウルも、日本語だらけだ」 ないっしよ、新しい曲 ? 」 〇 高速道路 廣田「 ( 呆れる ) これなあ、カバーだ。古い長太郎「 : : : ソウル ? 」 こ走る ③のバスが快調。 歌なんだよ。 ( ありありと思い出している ) 健一郎「ハワイと同じだ。外国って感じがし : これを聴きながら、泣いたことがあっ ないよね、まるで」 長太郎「ーー」 バスの中 〇③ 廣田は、一瞬、遠い目をする。 健一郎の学生服をよく見ると、東北原高 若作りのバスガイドが、大半寝ている生 校とは校章が違う。 廣田「 ( ふっと、笑う ) : : : むかし話だ」 徒たちに語りかける。 健一郎の手の冊子を見るとーー・『韓国修 結真実は、ヾ ノンド仲間の美穂 ( 片 ) 、明 バスガイド「では、三泊四日の鎌倉・東京修 学旅行のしおり』。 学旅行、超楽しんで参りましようね。鎌倉 菜 ( 片 ) 、聖子 ( 片 ) とお菓子交換で笑 いはしゃいで、聞いていない 長太郎「 ( 信じられない ) : : : お前 : : : お前」 までは約一時間のドライプです、ひと休み 健一郎「・ : しながら参りましよう。ここで、目的地、廣田「 : ・ : ・ ( 苦笑いする ) ー ハスの最後尾に、初めて聴いたこの 湘南のサウンドをーーー」 曲が胸に沁みて、車窓を見ながら泣いて〇インターチェンジ ハスガイドの声をさえぎって、ポップな トイレ休憩 いる今川達也行 ) がいる 曲が流れはじめる。 結真実が iPhone から音楽を出したのだ。唄「 ) 幸せであるように心で祈ってる。幸 ④のバスから駆け降りた教頭が、②に走 る 廣田「 ( やっと目を覚まして ) : : : おい、馬場。せであるように心で祈ってる」
女子「えと。 ・ : じつは」 徒を追うのがやっとだ。 0< が「 ? 」となり、教頭はイヤな予感健一郎「 ( 人ごみに圧倒されて汗を噴き出し、始「 で真顔になる。 息が荒い ) : : : 難儀だなあ」 〇 操縦室 操縦室 ( 朝 ) 〇同・コンビニ 管制官のしわがれた声「ジェイエイエル ゅまみ ワンシックスゼロファイブ 手袋を投げるようにはずす浜田山の顔色 馬場結真実 ( 片 ) が、おしつこを漏らし 1 6 0 5 ・ターン・、不クスト・レフト・ を、副操縦士 < が窺う。 ちゃったような顔だ。 トウ・アルフア・タクシーウェイ」 うすい 副操縦士 < 「 : : : 友だちの誕生日のために用 視線の先ーー葛飾高校の碓氷始 (E=) が 浜田山が苦笑して副操縦士 < に尋ねる。 意したそ、つで、クラッカー。とほけよ、つと フリスクを買っている 浜田山「アルフアだよな ? 年々、聞き取り 思ったけど、急に恐くなって」 結真実「 ( 完全なひと目惚れだ ) 」 にくくなる。酒とタバコで潰した声だ」 浜田山「まとめて言えよ、田舎者。これタク 始が結真実の肩をかすめてタ 1 ミナルに 副操縦士 < 「 : : : 知り合い ? 」 シーカ ? いつ出発できるんだ ? ・ 出ていく。 浜田山「声だけな。 : : : 機長になった二十年 めし ら、じつはは大ッ嫌いだ」 前から羽田の主だ。 結真実「 ( ポーツと見送って ) ・ ・ : 会ったことは、な レジに、始が財布といっしょに置いてい 〇メイン・タイトル た、ホルン ( 楽器 ) のストラップがつい管制官の声「ジェイエイエル 1605 ・ウィ一 のどかな青森空港とは一変した羽田大空 たスマホが残っている ンドカルム・クリアフォティクオフ」 港に B737 が着陸する。 結真実ははじかれたように走り、スマホ を掴み、外に駆け出す。 〇 管制塔 羽田空港・ターミナル 結真実「ーーー ( 雑踏を、見回す ) 」 パイボをくわえた管制官の口元。 東北原高校だけでなく、都立葛飾高校、 管制官「ハプ・ア・グッド・フライト ! 」 私立函館学園の修学旅行生が混ざり合い、〇地上走行中の B737 の機内 ごった返している 葛飾高校の修学旅行生の中に、フリスク〇 滑走路 よ函館学園の添乗員の声「はい、函館学園、は をかじる始がいる。 B737 が加速し、重力から解放されて あ ぐれないでください ! 修学旅行生が多い 「安全のため、携帯電話やスマートフォ 高い空に舞い上がる で せ ですから、この旗についてきてください ンは電源を切るか、機内モードに設定し 幸 てください : 羽田空港の団体バス乗り場 ますみ とい、つアナウンスを聞き、ポケットを 函館学園の大場健一郎 ( 片 ) は、前の生 1 組担任の中島升美 ( が①のバスに 〇 〇 〇 探ってーー変な顔になる。 え」 8
中井戸と富田「 ( 悪態をつづけようとするが ) 思いだしたように靴の汚れを拭く高橋と、テレビ画面 ( 深夜 ) ・ ( しみてきてしまう )_ 失笑する升本。 戦闘のスチール写真や、日本人や欧米人 とり残された升本、一一人を鼻で笑って出 ビジネスマンで混乱する空港をバックに、 ていく。 OZZ のアナウンサーがまくしたてる。 洞窟の中 ( 夜 ) 高橋、ためすようにスイッチに手を伸ば 升本はウイスキーのミニポトル空にして、アナウンサー「本日、六時、現地時間 すと、中井戸が止める 寝入っている の正午に、南西アジアのタルキスタンで 歌「子供が育って年をとったら、俺より先 高橋が不気味に見やる先、中井戸と富田 クーデターが勃発しました。現在、ムイニッ に死んではいけない。たとえわずか一日で が手帳にむかっている ト将軍率いる政府軍と反乱軍が激戦をつづ もいい、俺より早く逝ってはいけない」 真剣な顔の富田の手元をのぞきこむと、 け、内戦状態に突入しています。現地駐在 眼をうるませた中年二人にゾッとし、高 『富田優子殿、武殿、春恵殿』とあって、 の外国人はほとんど空港に待避したとのこ 橋も洞窟を出る。 富田、狼狽して隠す。 とですが、三人から五人ほどの消息が不明 歌「なにもいらない俺の手を握り、涙のし高橋「よしましようよ、縁起でもない」 とのことです。各国の救援隊は現在 : : : 』 ずくふたつ以上こほせ。お前のおかげでい しかし中井戸と富田、頑なにペンを走ら ここは美由紀の部屋、早ロの英語を背に、 い人生だったと、俺が言、つからかならす言 せつづける。 美由紀が毛抜きで足のムダ毛を処理しな 、つ、カ、ら : がら電話にまくし立てている 美由紀「そうよ、信じらんない。クロ 1 ズな 珊瑚礁 ( 夜 ) 高橋が波うち際をジープで疾走する 洞窟の前 ( 夕方 ) んだって芝浦のゴールド。ホント青春終 升本の横で、鞄から井関のファミコンを なにもかも忘れたい、サンドバギーのよ わったって感じ。ひさびさにショックよね」 出し、汚れを拭う高橋。 、つに岩で跳ね、窪みでジャンプし、そし 世界のニュースを背に、日本のニュース 高橋「 : : : ほんとうにまちがえたのかな」 てと、つと、つ、海につつこんで動かなくな にため息ついている る 升本「 ? 」 高橋「ラジオ。タルクじや戦闘はないって タルクの戦闘で半島のむこうの空が赤く 珊瑚礁 ( 深夜 ) : もしかして、井関さんはほっとけなく 染まっている 時間がたち、潮が満ちて車は半分水没し ている。 もぞもぞと手帳を出す。 升本はさ、んぎるよ、つに 、ただ小さく微笑 抵抗あるけど、やつばり書き出してしま 高橋、手帳に夢中で書いている、へたく んで見せる 、つ・・・・・・「倉本美由紀様』。 そだけど美由紀の全裸図だ。 高橋「 : : : ( も黙って、微笑み返す ) 」 乳首を描くときは至福の表情になる。
ーを出し、見つめる 離す。 高橋は、やっと、我に返る 空港への道 ムイニットの銅像が立っ道にジープが走 岩場の洞窟の中 ( 夕方 ) 高橋『セ 1 ナ : ・ ( どう言葉をかけていい り出してくる。 ラジオを囲む一同の前に、中井戸が戻っ かわからない ) がんばれよ』 てくる。 とたんに、眼前に火柱があがる ひどく間が抜けてしま、つ セーナ「 ( 苦笑するが、真顔になり ) 俺たち 空港への道は大通り以上の激戦だ 中井戸「 ( 富田に ) 夜明かしにや恰好だよ が勝って民主国家になればここはほんと、つ高橋「だから言ったでしよう ! 」 く知ってたなこんな所」 の発展途上国だ。今度は新婚旅行で来い 急転ターン、逃げ出していく 富田「去年、来た。 ( 虫ペールを塗りながら ) 中井戸は爆発から身をかがめ、シートの家族で住もうと思ってとりあえず家内を一 リゾートホテルを作る、俺。リビエラみた ーを見つ 週間呼んだ。街はあまり見せたくない、景 脇に転がっているトランシー いなさ』 高橋は頷き、ファミコンを鞄にしまいな 色のいい所回ってね。けど知らなかったん がらジープに走る だ、このへん多いんだハマダラ蚊」 こちらに向けて回転する戦車の砲身 中井戸たち「ーーー」 珊瑚礁の海 ( 夕方 ) 銃撃戦の間隙を縫って中井戸が無茶苦茶 ジャングルに隠すようにジープが停まっ富田「刺されてさ、家内。マラリア、四十度 ている の熱出して三日三晩うなって : ・ : ・二度と来一 な運転をし、再び前線に戻るセーナの姿 日本人たちが疲れ果てて地図を囲んでい ないって」 が、そして井関が小さくなる る 富田が合唱する 中井戸「わからねえんだよ、あいつらにや。 升本「車捨てて、朝になったら歩いて越えよ ・ : 前、サウジでプラント作ってたころ、 ジ 1 プは歩道の屋台をつき飛ばし、 う、空港まで十五キロ」 ザールのテントを破り、ムイニットの肖 俺の同僚が家庭崩壊しちまって。砂漠で這 鬱蒼としたジャングルを見やり、一同は いずってる亭主をさ、カミさん二年が待て 像を殴る蹴るする貧民たちをつき抜けて 走る。 暗い気持ちになる。 なくて : : : 発狂寸前だった、あいつ。わか 首をふりふり、背後の洞窟へと入ってい らねえんだ、あいつらにや」 富田「 ( 眼をおおって ) ここで交通事故で死 んだら笑い者だ」 一人、中井戸が残る 気のせいか蚊の羽音が聞こえて、高橋と 高橋「 ( 中井戸に ) セーナが海に出ろって 中井戸はビクッとする 中井戸「 ( 一同につづこうとするが ) なにか思いついた顔になる 中井戸、あの、と虫ペールを借りよ、つと 中井戸「 ( かまわず ) 飛ばせば十五分だ、空 するが、気配を察した富田がしまってし 港まで」 鞄の中からジープで拾ったトランシー 4 一口