中井戸 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年2月号
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1. シナリオ 2016年2月号

四べッドルーム三バスルーム二百三十平米、 中井戸は唇を噛むが、自分をはげますよ 『タルキスタン建国一二周年』「ムイニット 家賃三万ダッカ、六万円か」 、つに語調を変える 将軍に栄光あれ』ほかのたれ幕が、タル キスタン語と英語であちこちにさがって中井戸「優秀なんだな、高橋君は。課長の代高橋「 ( 広さに嬉々としながら ) 中井戸さん、 いる ここに一人で : : : 」 理か」 行進する兵隊や戦車を、大半の市民は無高橋「このていどのプロジェクトだから任さ中井戸「娘が受験でな、中学の」 ーレムですね」 視している れたんです、僕なんかまだまだ」 高橋「 ( 女中たちをこなし ) 靴磨きの少女が、そっほむいて手鼻をか 謙遜のつもりのクこのていどクという言中井戸「この部屋、使え。電気ガス水道完備、 んだ。 もっとも水道は半期に一度コレラ菌が入っ 葉に中井戸はひそかに傷つく 中井戸の声「ムイニットがクーデターで独裁 突然、タルキスタン語の怒声が聞こえる てるし停電も時報がわりだ」 体制を敷いて三年。この国もやっと人なみ 渡し船の船頭が、二人を指してなにごと高橋「 ( 顔をしかめ ) ・ かわめいている。 中井戸、出張者に見栄を張りたくなる の発展途上国になった。日本の開発援助も 本格化する」 中井戸は顔をしかめ、高橋をうながして中井戸「これくらいの広さで、初めて家って セーナが、待つべンツにむかう 言えるんだ。三年住んでると馴れちゃって一 ね、日本は息がつまる」 街はすれの川っぷち 高橋「なんですか」 水上生活者や渡し船が行き来する、幅中井戸「 ( 詰まるが ) ・ : ・喜んでるんだ。橋高橋「人もみんな素朴な感じですよね」 二百メートルほどの川 ができて便利になるって」 中井戸「 ( 頷きたいが ) ・ ・ ( 頷けない ) 」 高橋と中井戸が設計図を見ながら歩く 高橋は釈然としないが、まあいいか、と高橋「暮らしものどかだし」 中井戸「・ : ( やはり頷けない。話題を変え 中井戸「 ( 誇らしげに ) その第一弾が、俺た 中井戸に従う。 ちかここにかける橋だ」 て ) 君も来ないか自分の裁量で動ける。 上役の顔色うかかうことないんだ、ここ 高橋「 : : : 入札、さ来週でしょ ? 」 中井戸家・外観 ( 夕方 ) る じゃ」 拳銃をさげたガードマンが立つ、プール 中井戸「 ( 顔が曇る ) 一次入札で、うちと— て き 高橋「 ( 上役で思い出して ) 吉田部長」 が残った。金曜の技術者プレゼンが最 つきのお屋敷。 生 中井戸、ビクッとする。 後の勝負だ。 ( どう切り出したものか、迷 はかまだ ん み : 設計一課には、袴田課長を貶 同・中 ( 夕方 ) 高橋「中井戸さんによろしくって」 いながら ) しばらく間がある、中井戸は、どう切り 眼もくらむほど美しい女中、、 O が 引送るよう頼んだが」 出したものか迷っている 控える中、中井戸が高橋を案内する 高橋「課長、ベトナム沖の石汕プラントが忙 みせ しくて」 中井戸「築四年、支店からべンツで二十分、中井戸「 : : : で」 : コレラ」

2. シナリオ 2016年2月号

高橋「 ? 中井戸「差別じゃないぞ。区別だ」 むな、まだ話し中だ。国際電話は半日待た 中井戸「部長、ほかには」 高橋は中井戸を見送り、困ったおっさん、 せるくせに市内は一分で切るのか : : : あ、 高橋「 : : : ( 首をふる ) 」 と、女中たちと笑いあう ガルシアスか ? だからカツツ大佐に面会 中井戸「・ : 女中たちの笑顔が嬉しくて、高橋は軽い したいんだ : : : 」 沈んだ気分を悟られまいと、案内を再開 タップなど踏んで見せ、さらに美しい笑 して声をはりあげる。 顔に興奮する 中井戸家・プールサイド ( 夜 ) 中井戸「ここからプールに出られる」 「ロン ! 」 高橋「 ( 電話を見つけて ) 国際電話、大丈夫昭 同・高橋の部屋 ( 夜 ) 中井戸の部屋では、中井戸が雀崎 ( 四 ) 、 ですよね」 荷物をほどいた高橋が、美由紀の写真を その妻昭子 ( ) 、助手のピラ ( ) と 中井戸「 : : : 5 、 6 時間で通じりやラッキー 飾り、箪笥にアルマーニを吊るす。 麻雀をして盛りあがっている 電話をかけようと受話器を取るが、時計雀崎「ひどいよ、中井戸さん」 高橋「 ( 耳を疑、つ ) 5 、 6 時間 : : : 」 を見る。 昭子「下請けいじめないでくださいよお」 中井戸「 ( 皮肉に ) オペレーターが優秀でね。高橋「 : : : 6 時間」 アロハ姿の高橋はプールサイドで女中 < 一 ( 窓辺に行き ) そっちは女中部屋だ」 苦笑して、諦める。 CQO と、鼻の下を伸ばしてトランプをし 外をのぞいた高橋、眼が点になる。 ている 庭の隅に、家畜小屋のようなみすばらし三星建設・オフィス ( 翌日 ) 高橋 f(—) ( ロづてにタルキスタン語を教わ い建物 だだっ広い部屋にビデオ、テレビ、テレッ りながら ) 私、フンちゃん、仲良し仲良し」 中井戸「どうした」 クス、そして神棚。 黄色い声に囲まれてトロピカルドリンク 高橋「 : : : あんまりで」 高橋がフロッピイを四散させ、中古のパ をかたむけ、天国にいるようだ。 中井戸「 ? 」 ソコンにデータを入力しながらプレゼン 高橋「余ってる部屋いつばいあるんだから の英語を練習する横で、中井戸は電話に 陸軍基地の中 ( 金曜日 ) がなっている ・ ( 女中たちに ) ねえ」 セーナのべンツから手分けしてパソコン こひるよ、つに、笑いかける。 中井戸「 ( みごとなプロークン・イングリッ を担いだスーツ姿の高橋と中井戸が降り る。 中井戸「偉そうにしろ、ナメられる。奴らに シュ ) そうだ、カツツ大佐に面会したい。 やこれでも上等だ」 ・ : 二、三日あとってなんだよそれは、軍中井戸「頼むぞ、今日が勝負だ」 あさって 高橋「そういうの、なんか : : : ( 言いよど はいつもそうだ。きちんとアポイントメン高橋「明後日は日本か : む )- トを : ・・ : もしもしツ、おい交換手、割り込 のんびりしてきたいな」 6 あと五、六日、

3. シナリオ 2016年2月号

中井戸「カツツ大佐、お誕生日ーーー』 カツツが人ごみにまぎれ、明暗一一人のお助ですよ。乞食に金の投げかたに文句言わ 富田『 ( 横取りして ) 自分のことのように嬉 じさんがとり残される れる筋合いないさ」 しい、今日この日です。おめでとう ) 」ざい富田「 ( 歓喜で身体を震わせ、むこうで酒を中井戸『 ( 大声で ) カツツ大佐、いま富田君 ます』 飲んでる升本に ) 升本君、本社にテレック が言ったのはですねーーー』 竸うように、プレゼントの箱を渡す。 スだ ! 」 富田「 ( あわてて ) 汚いぞツ」 カツツ『ありがとう。昨年のプロジェクト立 中井戸は痴呆のよ、つに棒立ちだ。 高橋「 ( もまわりを気にして制止し ) 中井戸 案から、君たちには苦労をかけた』 高橋「 ( どう慰めていいのかわからす ) 大佐さん」 中井戸「苦労なんて、すこしもーーー ( と日本も言ってましたよ。一一次三次のプロジェク 高橋に支えられて、中井戸は部屋の隅に 的に謙遜しかけると ) 』 トで : : : 」 行く 富田「そのとおり、わが社の総力を結集しま中井戸「 ( やっと ) : : : また、三年」 中井戸「 ( グラスを重ねながら ) ここを抜け した』 だす唯一のチャンスだった。この案件で軍 中井戸、立場がない。 中井戸「出張が一週間延びるくらいなんだ、 とのパイプを作ればインドに栄転のはず カツツ「入札の公式発表は明後日だ。しかし俺なんか三年延びるんだ。お前の言うとお だった。吉田部長が約東したんだ、銀座の一 りだよ、課長をよこすまでもないセコいプ ・ : 君たちには、私から直接伝えたかった』 いな菊でな。いな菊で三万円のてんぶら食 一一人と高橋、思わぬ言葉に顔を強張らせ ロジェクトだ、でも三年待ってやっと始 いながら : : : 土瓶蒸しがうまくて、秋だっ る。 まったこの国始まって以来のビッグ・プロ たんだよ、三年前の。 ( しばり出すように ) カツツはもったいぶって二人を見比べ、 ジェクトだった」 君のトシなら、辞めてるんだが」 やおら、巨大なダイヤの指環をした手で ワインをあおり、歯止めがきかなくなる。高橋「 中井戸の掌を握る 中井戸「川つぶちで俺たちを怒鳴った船頭が中井戸「・ : : ・一一三の二二五六だ」 中井戸と富田「 ! 」 いたろ。戦車を運ぶ橋作る金があるなら高橋「 ? 」 カツツ『三星建設とは、二次一二次のプロジェ 井戸を一本掘ってくれって怒鳴ってたん中井戸「タルキスタン・エア。今夜のダッカ クトで手を組む機会があるだろう。ほんと じゃあ だ、みんな雨水をためて飲んでる、井戸一 行きに乗れば、明日は日本だ : 、つに亠のり・かと、つ』 本で長生きできる、でも井戸じや金になら な」 中井戸「ーーー ( 頭で意味を探って、言葉が出 ハッピ ん。 ( せめて自分を慰めようと ) そんな橋 ースディの合唱の中に、ふら てこない ) 」 だよ、日本の企業とリべートで稼ぐ軍人し ふら入っていく。 富田は感極まってカツツの手を握る か望んでない、そんなクソ橋だよ」 富田『ありがとう ) 」ざいますッ』 富田「 ( 成功の美酒に酔いながら ) 日本の援 高橋「 ( 神妙な表情で、見送る ) 」

4. シナリオ 2016年2月号

たれこむ君の無線をすっと傍受してた』 高橋「中井戸さん : : : ? 」 自分のトランシー ーを見せる。 中井戸「 ( 眼を伏せて、応えない ) 」 プスの村娘の眼前に機関銃が迫るーーが、高橋たち「æ: ( 中井戸を見る ) 」 ふいに、静かになる < 「我々の本部を発見される前でなにより ヘリがひきあげていく だった』 中井戸「俺じゃない ! 俺は日本人だ、中立 そして、号泣と苦悶だけが残る。 修羅場と化した集落に、四人はのろのろ 出てくる。 村人 f(æ) (< に ) 村の恩人だ』 < は無視してに合図する。 背後の納屋からなにか怒鳴り声がする が頷いて中井戸らのトランシ 1 バ 陸軍基地・カツツのオフィス 高橋「 ( 振り返って ) ・ 取り上げる。 軍人たちがあわただしく行きかう中、ガ 眼を疑う。 マイクに息を吹きかけると、 < の持って ルシアスが無線に応える。 隠れていた反乱軍兵士 < 、が、村人 しるトランシ ーハーから聞こ、んる ガルシアス『こちらガルシアス。どうした、』 を押しのけながら出てくる。 中井戸『 ( 以下カットバック ) 君たちのヘリ 村人 ga 『 (v) これ以上、まきぞえはごめん < と「 ( ニャリとする ) 」 がいま攻撃してるのはただの農村だ、反乱 軍基地じゃない。むだダマだぞ』 兵士 < 「 ( — ) 国のために戦ってるんだ、俺中井戸「 ごくりと唾をのむ ガルシアス『 ! 』 たちは』 ふいに、踵を返して納屋の背後に回り、 中井戸『機体に八五四二つて書いてある。こ 村人をつき飛ばし、硬直して動けない そこからジャングルに逃げる。 ーを睨 こは基地じゃない、子供もいるんだ ! 子 中井戸と、その手のトランシー みすえる。 < f(—) ( 村人に高橋たちを指し ) そいっ 供だ ! むだダマだ ! 』 る らを逃がすな』 ガルシアス、マイクを握ったまま傍らの < 「 ( 流暢な英語 ) : : : やっとお眼にかか て き と二人、中井戸を追って駆けだしてい デジタル無線機のスイッチを入れる れたね、さん。仏心を出したのが運のつ 生 きだ。我々の補給基地を守ってくれてあり 村人に囲まれ、高橋たちは身を固くする。 みもとの集落 、刀 A 」、つ』 ら その眼前の荒れ地で、中井戸は < 、に ヘリが急旋回して、再度、攻撃してくる。中井戸「 : 僕 追われて必死に走る。 無線のスイッチを切った中井戸を、高橋 < 「今朝から君を探してた。この一帯のプー たちはポカンと見ている。 ビートラップの位置、地形、一時間おきに 轟音がして、納屋の壁を壊して兵士 0 の 畑に穴があき、農民が泣き叫ぶ。 中井戸「 ( 煩悶しているが ) 意を決するとトランシー ーを出し、鞄 を高橋に預ける。 中井戸ズスイッチを入れ ) ガルシアスー 俺だ、だ』 高橋たち「 ( 突然のその行動に、眼を丸くす る ) ー 9 ・ -6

5. シナリオ 2016年2月号

ぞうへい まうので憮然とする。 中井戸「奴は雑兵だ。この国をよくするんだ れ、突然、日本語が流れだす。 中井戸、ふいに、ふふんと鼻で笑う。 って血イ流して、勝てば反乱軍のお偉いさ日本語「本日のディゲーム、巨人阪神戦は三 んがいい女を抱けるだけの話だ」 対二で阪神の勝ち。西武オリックス戦は八 中井戸「この国にも神さまはいた。大逆転だ高橋「 ( 血が昇って ) そういう言いかたーー」対〇、西武の圧勝でした」 な」 中井戸「 ( 富田に唐突に ) よこせよ、二百五 一同、雷にうたれたように聞きいる 富田「ーー 十ドル」 日本語「こちらは海外短波放送です。 中井戸「反乱軍が勝てば現政権と癒着してた富田「 ? 」 つづいて東京都足立区からバングラディ おたくは反政府会社だ、橋はうちのものだ。中井戸「さっきのジープだ、割り勘だ」 シュのダッカに駐在されている江東エンジ クーデター ハンザイだよ」 富田「領収書は」 ニアリングの山田徹さんからのリクエスト、 富田「勝ちめがあるのかね、百姓部隊に」 中井戸「ばッ さだまさしさん、「関白宣言」」 おんしゃ 中井戸「神風が吹く。 : : : 政府軍が勝ったっ富田「領収書もない金が出るわけですか御社 イントロが始まったラジオに、一同はそ て状況が変わる。入札の正式発表はまだだ、 は、あいにく当社はー・ー . 」 ろそろと近づいてくる うちが食いこむ余地もある」 こらえかねたように升本がふきだす。 歌「お前を嫁にもらう前に、言っておきた 富田「 ( すこしムキになり ) カツツは私の手升本「セーナだよ、あんたたちも。律儀な雑 い事がある。かなりきびしい、話もするカ の内だ」 兵だ。御社だ当社だ神風だ、生きるか死ぬ俺の本音を聴いておけ」 中井戸「 ( ひとりごとのように ) まだ、手は かってときまで会社背負って」 中井戸「 ( やっと我に返って、失笑 ) 百姓の ある」 富田と中井戸「ーーー 結婚式か」 富田「 ( 訝しく ) ・ 升本「あんたたちが、日本が、先進国がよっ歌「俺より先に寝てはいけない。俺よりあ 高橋「 ( 苦笑して ) まともな政府ができれば てたかって後進国を食い物にしてる。その とに起きてもいけない。めしはうまく作れ。 わいろ そんなこと関係なくなります。賄賂もリ おこばれを巡って殺しあいもおこる。 ( 洞 いつもきれいでいろ。できる範囲で構わな る べートもなくなる。この国はやっとふつう窟の外を指して ) 俺たちの戦争だ」 いから」 て き 中井戸「黒柳徹子かお前」 富田「電池のむだだ」 な中井戸「ばか、なんのためのクーデターだ。富田「君だって月給取りだ」 歌「忘れてくれるな、仕事もできない男に、 み いまムイニットが独占してる銭を俺たちに中井戸「そんなにここが好きならゲリラに志家庭を守れるはすがないってこと。お前に ら よこせ、それが反乱軍だ」 願しろ、いつも斜に構えて口ばかりじゃな はお前にしかできないこともあるから、そ 僕 高橋、愕然とする。 いか」 れ以外はロ出しせず、黙って俺についてこ 高橋「でもセーナは 升本がカッと立ち、はずみでラジオが倒 ヾ、、尸っ

6. シナリオ 2016年2月号

ーを出し、見つめる 離す。 高橋は、やっと、我に返る 空港への道 ムイニットの銅像が立っ道にジープが走 岩場の洞窟の中 ( 夕方 ) 高橋『セ 1 ナ : ・ ( どう言葉をかけていい り出してくる。 ラジオを囲む一同の前に、中井戸が戻っ かわからない ) がんばれよ』 てくる。 とたんに、眼前に火柱があがる ひどく間が抜けてしま、つ セーナ「 ( 苦笑するが、真顔になり ) 俺たち 空港への道は大通り以上の激戦だ 中井戸「 ( 富田に ) 夜明かしにや恰好だよ が勝って民主国家になればここはほんと、つ高橋「だから言ったでしよう ! 」 く知ってたなこんな所」 の発展途上国だ。今度は新婚旅行で来い 急転ターン、逃げ出していく 富田「去年、来た。 ( 虫ペールを塗りながら ) 中井戸は爆発から身をかがめ、シートの家族で住もうと思ってとりあえず家内を一 リゾートホテルを作る、俺。リビエラみた ーを見つ 週間呼んだ。街はあまり見せたくない、景 脇に転がっているトランシー いなさ』 高橋は頷き、ファミコンを鞄にしまいな 色のいい所回ってね。けど知らなかったん がらジープに走る だ、このへん多いんだハマダラ蚊」 こちらに向けて回転する戦車の砲身 中井戸たち「ーーー」 珊瑚礁の海 ( 夕方 ) 銃撃戦の間隙を縫って中井戸が無茶苦茶 ジャングルに隠すようにジープが停まっ富田「刺されてさ、家内。マラリア、四十度 ている の熱出して三日三晩うなって : ・ : ・二度と来一 な運転をし、再び前線に戻るセーナの姿 日本人たちが疲れ果てて地図を囲んでい ないって」 が、そして井関が小さくなる る 富田が合唱する 中井戸「わからねえんだよ、あいつらにや。 升本「車捨てて、朝になったら歩いて越えよ ・ : 前、サウジでプラント作ってたころ、 ジ 1 プは歩道の屋台をつき飛ばし、 う、空港まで十五キロ」 ザールのテントを破り、ムイニットの肖 俺の同僚が家庭崩壊しちまって。砂漠で這 鬱蒼としたジャングルを見やり、一同は いずってる亭主をさ、カミさん二年が待て 像を殴る蹴るする貧民たちをつき抜けて 走る。 暗い気持ちになる。 なくて : : : 発狂寸前だった、あいつ。わか 首をふりふり、背後の洞窟へと入ってい らねえんだ、あいつらにや」 富田「 ( 眼をおおって ) ここで交通事故で死 んだら笑い者だ」 一人、中井戸が残る 気のせいか蚊の羽音が聞こえて、高橋と 高橋「 ( 中井戸に ) セーナが海に出ろって 中井戸はビクッとする 中井戸「 ( 一同につづこうとするが ) なにか思いついた顔になる 中井戸、あの、と虫ペールを借りよ、つと 中井戸「 ( かまわず ) 飛ばせば十五分だ、空 するが、気配を察した富田がしまってし 港まで」 鞄の中からジープで拾ったトランシー 4 一口

7. シナリオ 2016年2月号

高橋「・ : 中井戸「明日、カツツにも、つ一回説明だ、結ツツ大佐はーーー』 果発表まで一週間しかない」 中井戸「会議だろ。今日も明日も、明後日 タルクでただひとつの中華料理店 ( 昼食 近くで女の子とじゃれているセーナ「 ( 困惑 も。 ( ムッとしたガルシアスにのし袋を渡 した高橋に ) 煙草、ある ? 』 す、驚いて返そうとするガルシアスの手を 人近い客はほとんど欧米ビジネスマン 高橋が渡した煙草を十本ほど抜き、残り握り ) 聞きました、ご子息が大病だそうで。 や背広の日本人で、遠くに富田や井関も を返す。 いる お見舞いという日本の伝統です。私も人の ・ ( つられて笑、えない ) 」 子の父です。お察しします』 ガルシアス「ありがとう、中井戸さん。 ( 眼 驚く高橋と、中井戸、雀崎、昭子、ピラ 陸軍基地・カツツのオフィス・秘書室 ( 翌をしばたいて ) この国の医療は最低だ。街 がひどい中華を食べる。 日 ) にはハシシがあふれているのに医療用のモ高橋「でもあの人、子供が病気 : : : 」 井関修次郎 ( ) や欧米人ビジネスマン ルヒネさえ不足気味で』 中井戸「女房も子供もいない。にぶいな、ロ が面会の順番を待っている 高橋「 ( 同情して ) : : : お大事に」 実なしに渡せるか、袖の下」 パソコンを抱えた中井戸と高橋が入って中井戸「昨日、申しあげそびれたことを、う高橋「袖の下って : ・ 。 ( ゾッとする ) 犯罪一 くる ちの技術者から直接カツツ大佐にーー』 ですよ、捕まったら出張者の僕まで : : : ( こ 高橋は人なっこい顔の井関と会釈をかわガルシアス「今日は国防省の大切な会議なん の論理はあまりにわがままだと気づき ) こ しあ、つ です』 んなことだから世界で村八分になるんです、 井関「暑いですね、毎日」 中井戸『 : 日本は」 高橋「 ( 苦笑まじりに ) ホントに」 雀崎「 ( 拍手して ) 新聞に投書するといいで ガルシアスは無線機で基地内の連絡をし 軍の射撃演習場 すよ」 ている。 『カツツ大佐、ナイスショット 中井戸「金のかわりにアメリカみたいに武器 無線から「 (—) こちらゲート 0 、ナンバ 兵士たちが射撃訓練する傍らで、カツツ流しゃいいのか」 x x—x x のダイムラーが来てます』 と富田がラウンドしている 中井戸、富田のテープルに運ばれてきた ガルシアス f(æ) イギリスだ。日の沈む国力ツツ「クラブのせいだよ、こりや悪くない』 にはおひきとり願え』 富田「日本の最高級品です。はつねに 豪勢な蟹料理を睨む。 中井戸は無線を切ったガルシアスの前に最高級を提供します : : : もちろん、橋の話中井戸「ピラ、負けるな、こっちも蟹だ」 ですよ』 ピラズ— ) ( 店員に ) 蟹、こっちも。 ( お追 ガルシアス「みなさんお待ちなんですが、カ カツツ、ばか笑いして富田の肩をどやす。従丸だしの日本語で ) みなさんが日本のお 2

8. シナリオ 2016年2月号

るが、農作業をしていた数人の村人と眼 茂みの奥に来た中井戸が、ベルトをはす 富田、ミネラルを飲もうとするが、瓶が が合ってしま、つ しながらあたりを見まわす。 空だ。 村人 < IF(—) ( 立ちあがり、大声で ) 外国人 中井戸が自分のボトルを渡す。 人気がないのを確かめると、ベルトを戻 外国人だ ! 』 し、鞄をあける。 中井戸と富田「 : ・ ( 照れくさい ) 」 トランシー 虫がわくように、人々があふれ出してく 1 を出す。 ヘリが再び降下し、急接近、爆音が大き る。 くなる。 中井戸「 ( 憑かれたように、操作する ) 」 四人は狼狽して戻ろうとするが、ジャン 中井戸「 ( 怖い、叫びだしそうだ。そんな思 グルで作業していたらしい村人たちも いをすこしでも紛らわそうと ) り・ん・ご 日のほとり 上空を政府軍のヘリコプターが旋回しな : ご、だぞ」 戻って来て、逃げ道をふさがれる がら近づいてくる 村人たちは手に手に鶏や果物を持って高 高橋はうながされ、合点するが、恥ずか しい、ためらう 橋たちに迫る 四人は茂みの奥に伏せて身を隠している。 : し しかし、ヘリの轟音が迫ってくると、 高橋・中井戸・富田「 ( 生きた心地もない ) 」 升本「反乱軍の基地を探してるんだ。 っこいな」 高橋「 ( たまらず ) ・ : : ・ごりら」 升本「 ( 村人たちの言葉を聞き、苦笑して ) 買一 ってくれってよ。 ( プスの村娘を押しつけ ヘリの轟音の中で、滝のように汗が流れ富田「 ( もしかたなく ) : : : らつば」 る られる高橋に ) 嫁にしねえかって」 升本「 ( ばかばかしいと笑いかけるが ) 高橋「 ! 」 手持ち無沙汰にパスポートを見ていた富ばんつ」 拍子抜けと困惑、そのとき、村の中心で、 田が、あ、と小さな声を出す。 中井戸「つくね」 ドンと大きな火柱があがる 同「 ? 高橋「ねんど」 一同「 ( 仰天 ) 」 富田「パスポートの表紙って、菊の御紋なん富田「どんじゃらほい 政府軍のヘリが急降下、攻撃をしかけて 這いあがってくる蟻を払い、一本のミネ くる ラルを回し飲みしながら、悲壮なしりと りをしている 逃げ遅れた老婆や赤ん坊を抱いた母親が 機関銃の餌食になる。 四人は蒼白で納屋の陰に飛びこむ。 三十戸ほどの小さな集落 ジャングルから出てきた四人、民家がな中井戸「 : : : ( また上がる炎を、凝視する ) 」 地面をなめる機関銃で、また一人、村人 らんでいるので眼を丸くする が倒れる 顔を見かわしてジャングルに戻ろうとす それぞれ、内ポケットから自分のパス ポ 1 トを出し、表紙を見る。 中井戸「 : : : 特攻隊じゃねえぞ」 富田「 : : : 特攻隊じゃないよ」 なんだか情けなく、顔見あわせて笑いあ 、つ -8 -6

9. シナリオ 2016年2月号

でも働くんだよ身体がひとりでに。 : : : 勝指揮官『 ( その前にコインをしまい ) 悪運が 見て、高橋、愕然とする。 セ 1 ナだ。 手に殺しあえ、政府もゲリラも関係ない、 強いな』 金払う奴が神様だ。メイド・イン・ジャパ 高橋たち「ーーー , 一 高橋「セーナ : ・ ンだ ! 」 指揮官 f(—) ( 兵士に ) 奴を解放しろ』 セーナ f(w) ( も、唖然 ) なにしてんだ、こ こぶし大の石を擱み、にふりかざ 副官を従えてバラックに戻って行く んな所で』 して壊そうとする ので、四人は放心する 高橋「 : : : 商売』 荒い息で指揮官を睨む 監禁バラックの前に兵士がやってくる セーナ、よくわからないまま、苦笑する 小屋の鍵がはすされる、中井戸も、そし 思い出したように、ポケットからバンダ 中井戸「 ( ただただ、高橋を見つめる ) 」 て高橋たちも信じられない ナにくるんだ包みを渡す。 富田と升本「 : ・・ : 」 井関の時計、手帳、結婚指輪・ : 中井戸は立てない、戸口、そして階段を 副官が腰の拳銃に伸ばそうとした手を、 這い降りる 日本人たち「 : ・ 指揮官が止める まぶしい太陽を見あげ、なにもかも嘘の高橋『 ( 握りしめて、セーナに ) ありがとう』 よ、つだ。 高橋の前にゆっくり歩みよる セーナ「 ( 頷く ) 』 指揮官『日本の身勝手な援助の三菱トラック 高橋が駆けより、身体を支えてやる。 升本「・ : ・ : さあ、行くぞ」 オート三輪に乗りこみ始める。 が軍用に改造されて、私の部下がずいぶん中井戸「・ : : ・ ( ありがとう、と言いたいのだ 殺された』 けど ) 」 富田は、中井戸を無理矢理に運転席に座 高橋たち「 : : : 」 苦痛と感動で言葉にならない らせる 指揮官『が : : : 君たちの勇気には敬意を感じ高橋「 ( 頷きかけて ) 」 高橋はセーナになにを言っていいのか言 葉に困っている。 る。チャンスをやる』 中井戸を背負うように、歩き出す。 高橋たち「 : : : 」 中井戸「 ( やっと ) ばかだな、お前ら」 セーナ『 ( 疲れた顔に、精一杯の微笑で ) 今 る 指揮官『 ( コインを出し ) 表なら、君たちの高橋「ばかに言われちや世話ないですよ」 度は俺のリゾートホテルで会おう』 て き勝ちだ』 中井戸は、升本、そして富田に、言葉に高橋『 : ・ : くたらない夢だ』 事な できない眼をかざす。 高橋たち、息を詰める。 セーナ「 ( 瞬間、頬が強張る ) 』 ん み 指揮官、コインを投げ、掌に受ける。 中井戸と富田「 ( それぞれに ) ・ 高橋「君に持てるのは、せいせいリゾートコ ジャングルからおんばろトラックが走っ 引副官『 ( そのコインを見て ) ・ テッジだ』 てくる 高橋たち、近づいて、恐々コインを見よ 一一人は笑い、そして握手をかわす。 、つとすると、 傷ついた兵士たちが降りる、その一人を 高橋は未練を断ち切って歩きだそうとす 冖 /

10. シナリオ 2016年2月号

同・会議室 中井戸、じゃあ三年いるかと言いたいが、高橋『 ( 日本人どうしで英語は照れくさいが ) こら、んる。 ムイニットの肖像画を背に立った高橋が、 ナイス・トウ・ミーチュ』 どのう カツツやガルシアスたち十人ほどの軍人 高橋、道路側のそこここに土嚢と機関銃富田「どうです、この国は』 が配備してあるので戸惑う。 たちを前にパソコンの O<Q で橋の説明 高橋『マーベラス』 をしている 中井戸「最近またキナ臭くてね、ゲリラが」富田『 ( 半分はカツツに聞かせるように ) こ ひら 背後で心配そうな中井戸、微笑で見やる 高橋「 ( 興奮気味で ) ほんものですよね」 の橋がタルキスタンの未来を拓くんです。 富田、寝ている升本。 建物の前で、富田賢三 ( ) とカツツ大がんばりましよう』 佐 ( ) が談笑している。 高橋『ザッツ・マイ・プレジャ』 高橋『 ( メモを見ながら、ったない英語で ) かように、地震国日本できたえられた当社 中井戸「 ( 高橋の耳元に ) 英語で喋れ。ナイシ 秘書のガルシアス ( ) が出てくる きようりよう ョ話だと思われると困る。あれがのガルシアス『両社のみなさん、本日は入札を独自の橋梁技術を使用しておりますので、 x トン級の戦車一一十台が同時に乗っても問 富田。五年前まで国際建設のオーナー社長控えての技術説明をお願いします。どうぞ 題ない柔構造になっております : : : 』 の御曹司だった。それがに乗っ取ら 会議室に』 そこに、門番にパスポートを見せ、安手 れて国際建設になって飛ばされたん O で、橋の 3 が縦横にアニメー みつ ションする だ。カツツにそうとう貢いでやがる」 のシャッ一枚の升本達也 ( ) と娼婦ら 言葉と裏腹の満面の笑みで近づいていく。 しい女を乗せた輪タクが走りこんでくる。高橋の声「 ( ズリ上がって ) みんなおとなし一 く聞いてくれました、質問もなかった。プ 中井戸「カツツ大佐、ごぶさたであります』升本 f(v) ( 娼婦に金を渡し ) 扇風機でも買 レゼンは大成功でした」 カツツ『中井戸さん、お元気そうだ』 え』 富田『 ( みごとなクイーンズ・イングリッシ娼婦 f(—) ありがとう、マス』 二人は熱烈にキスして、輪タクは女だけ 絽女の子のいる、この国精一杯の、しかし ュ ) 大佐こそ顔色がおよろしい。どうです、 貧相なクラブ ( 夜 ) 乗せて走り去る。 回ってますか、最近 ( ゴルフの手真似 ) 』 る 女の子の肩を抱いて打ち上げ気分の高橋 中井戸、カツッとの会話を横どりされて升本「 ( 唖然としている富田たちに屈託なく ) て き くやしい。 と、険しい顔の中井戸。 寝すごしちまって」 な中井戸「 ( 両者の談笑をさえぎって、紹介す富田「 ( 舌うちしながら高橋に ) 当社の駐在で、中井戸「おとなしく聞いていたのはパソコン み に驚いたからだ、橋なんか上の空だ。 ( イ る ) 出張者の高橋です。開発担当のカツツ技術担当の升本です』 十 6 ライラと女の子の脚を撫で ) 質問がなかっ 引大佐と、の富田氏』 高橋『 ( 呆れるが ) ・ : ・ : ナイス・トウ・ミーチ たんじゃない、質問さえなかったんだ」 富田「ミスタ・タカハシ。 ( 名刺交換しなが 高橋「ーー」 ら ) よろしく』 → /