夕方 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年2月号
27件見つかりました。

1. シナリオ 2016年2月号

幸せであるように 聞き入る。 た。フライトも、そして : 恵「 ( 耳をそばだてる ) 」 に頭を下げる ) おかげさまです」 浜田山の声「白状しますが 機が恐い」 機内 ( 夕方 ) 乗客全員が固まる。 恵の瞳にふくらむものがある 〇 操縦室 ( 夕方 ) 〇 操縦室 ( 夕方 ) ワンツーゼロセブン 浜田山「毎日、同じ出発、同じルート、同じ管制官の声「ジェイエイエル 1207 ・ウィ ツーハンドレッドファイブ 着陸をしながら、毎回、違、つんです。・ : ・ : 風。ンド 200 ・ 5 ノット・クリアフォティ〇 機体のコンディション。貨客の重量。 クオフ」 くり返しなのこ、、 。しつも違います」 浜田山「クリアフォティクオフ」 復唱して、年季の入ったセーム皮の手袋 〇 機内 ( 夕方 ) をつける。 乗客たちが聞き入っている 管制官の声「ハプ・ア・グッド・ライフ」 浜田山の声「生活と同じだと思います。出会浜田山「 ( 動きが止まる ) 」 いは数え切れないけど、その人と会う確率 は奇跡に近い。失恋はありふれたものです〇 管制塔 ( 夕方 ) が、そのたびに残酷です。 : いつも初め パイボをくわえた管制官の口元が動く。 ての道を、飛びつづけてきました。 ・ : 今管制官「機長、お疲れさまでした。 日も、また、離陸です」 ア・グッド・ライフ」 廣田が、達也が、有紀が、貴延が、升美が、 ハルミが、タ子が、太壱の父親が、勝利〇 操縦室 ( 夕方 ) が、恭平が、長太郎が、そして結真実が 虚を突かれた浜田山が泣きそうになって 聞いている しまい、目をしばたく。 副操縦士「チェックリスト・コンプリート」 〇 操縦室 ( 夕方 ) 浜田山「 ( スラストレバーを操作して ) ・ ティカル 浜田山「幸い、私は無事故で過ごしてきまし ・ : 私は、飛行 〇 。 ( 放送なの副操縦士「オールスタビライズド」 浜田山「ーーー・チェック ! 」 〇 滑走路 ( 夕方 ) B737 が加速し、やがて、空へ舞い上 かっていく 海 沖縄かどこかの景勝地ーーー修学旅行の集 合写真を撮っている。 クラスが次々に変わり、やがて学校が変 わり、多くの笑顔が画面を埋め、そうし一 て、苦く、甘く、真摯な祈りの唄が流れ つづける。 『幸せであるように』が流れはじめる。 JASRAC 出 1 515498 ー 501 終

2. シナリオ 2016年2月号

を勧める。 水野尾「 ( 自分の湯呑みに口をつけて ) ・ 〇同・前 ( 夕方 ) 冷めちゃったな」 ディズニーランドの土産を抱えた有紀た 升美「 : ・・・・うん・・・・ : 冷めちゃったね」 ちが戻ってくる 〇 船の科学館の前 電柱に凭れているのは貴延だ。 勝利と恭平が寒風の中で地べたに座りこ 有紀は仲間たちに、すぐ行くと告げて、 んでいる。 貴延に近寄る 勝利「 : : : 参加表明 : : : 十二人だろ ? 」 ーーー有紀と同じ班の女子たちは、ふたり 恭平「 : : : 忙しいんですねえ。 : : : 東京の人 を興味津々に見ながらホテルに入ってい カモメが群がる空は、だんだん夕方の色 貴延と有紀が向き合う。 になっている 貴延「 : : : 同じ、迷子だ」 有紀「 ? 」 チサンホテル上野・ロビー ( 夕方 ) 貴延が歩き出す。 「疲れた疲れた ! 」 有紀「 ( あわてる ) ねえ。梨本くんは、なん と言い合いながら、達也たちのグループ で新宿にーー」 が帰ってくる。 貴延は答えず、黙々と歩く。 帰着チェックの準備をしていた香織とみ 有紀は一瞬、迷っているが、小走りに貴 ずほが時計を見る。 延のあとを追う。 みすほ「きみたち、まだ五時半だよ」 廣田の声「 ( 次のシーンからズリ上がって ) 班長がみずほの前に立つ。 ・ : 高校生のころって、不安だった。 よ班長「ハンパじゃないです、人と車が。青森明日が見えなかった」 帰りたい。 引班六人、帰りました」 せ 達也は、ソフアにばんやりと座り込んで〇同・ロビー ( 夕方 ) 幸 いる廣田を見る 廣田が、となりに座った達也に語ってい る。 〇 有紀「 : ・ 〇 廣田「だからグレたり、壊れたおもちゃみた いにはじけたり、引きこもったり、みつと もない自分のかわりにだれかをいじめた り」 廣田「いっから、明日が見えるなんて思っ ちゃったんだろう ? 」 ふたりが目を向けるーーガラス越しの往 来。 行き交うサラリーマンや買い物の主婦や O*-Äたち。 片歳の廣田と達也が、道行く片歳たちを 見つめている。 江ノ電が走る ( 夕方 ) 暮れなすむ海沿いの線路を、ガタゴトと。 車内 ( 夕方 ) 健一郎ひとりが、暗くなる車窓を見てい る。 腕時計を見ると、六時を過ぎている 〇チサンホテル上野・ロビー ( 夜 ) 生徒たちがお土産や汚れ物を段ボールに 詰めて宅配便業者に渡していて、騒然と している 〇

3. シナリオ 2016年2月号

〇 〇 〇 かざぐるま の「幸せであるように』が流れはじめる。 数百の風車が風を受けている。 〇 長谷寺の地蔵堂 ( 夕方 ) 廣田「 : : : ( 足を進める ) 」 山肌に並んだ数え切れないほどの水子地 廣田と達也が地べたに座っている。 蔵。 廣田「 : : : ねぶたの夜は、みんな。 : : : 条件 〇 ローカル列車 ( 回想 ) 廣田「 : : : ( 圧倒されて ) : : : ( 眩暈がする ) 」 反射だな。それで青森は、六月の誕生日が ローカル列車に揺られる片歳の廣田と少 女が、一台の 0 ウォークマンのイヤホ〇同・同 ( 回想 ) 達也「ーー ンを片耳ずつに挿して、音楽を分け合っ 片歳の廣田が、小さな地蔵たちの前に崩廣田「夢中だった。初めてだったから : ている れ落ちる。 わけ分かんなくなって駆け落ちして、電車 廣田は泣いている の中で「幸せであるように』聴いてたら、 〇同・同 ( 夕方 ) あっさり補導されて : : : 堕ろした」 長谷寺・山門 ( 回想 ) 十七年前の廣田と同じ場所に座りこんで達也「 ! 」 いる少年がいるーー達也だ。 「幸せであるように」の中、山門をくぐ 廣田「十七年前だ。 : : : 修学旅行でここに来 るのは片歳の廣田だ。 廣田がゆっくりと歩み寄る て、水子地蔵見たら、ほら、 ( 風車の音が ) 一 顔を上げた達也は、あわてて頬の涙の跡責めてるみたいに聞こえて、ごめんなさい、 8 をゴシゴシとこする 同・境内 ( 夕方 ) ごめんなさいって、オレも、お前みたいに : もしかして : : : ねぶ 引歳の廣田が歩く。 廣田「 : : : 達也 た ? 」 達也「ーーー先生。じ、じつは。オレも : ・・ : じ 〇同・同 ( 回想 ) つは ! 」 歳の廣田が歩く。 廣田はうなずき、声を詰まらせた達也の 〇 ねぶた祭り ( イメージ ) 肩を抱いてやる。 同・坂道 ( 夕方 ) 真夏の夜を光溢れる山車が走り、男も女廣田「ここに、いたんだ」 廣田の顔が、だんだん険しくなる。 も熱狂する。 達也「 ? 」 海岸の少年と少女が祭りで火照った肌を廣田「お前は : : : オレだ」 同・同 ( 回想 ) ぶつけ合う。 肩を並べる廣田と達也が、迫るタ闇に包 まれていく 片歳の廣田の顔も、同じく。 裸の背中を、雨に打たれたような汗が流 れる。 水子地蔵たちの持っ風車が色とりどりに 回っている 〇同・地蔵堂 ( 夕方 ) 〇 めま、

4. シナリオ 2016年2月号

タ子はゆっくり歩いて、写真が見える位タ子「 ( 引きつった笑いを取り繕って ) 失礼美穂「結真実 ! 」 置に行く。 します」 結真実「 ( スマホを落としそうになる ) æ: 」 タ子「ーー 太壱を引きすって、植え込みの陰に行く。 黒枠の中で笑っているのは太壱だ。 タ子「 : : : 変だと思われた、私にしか見えな〇 同・廊下 ( 夕方 ) タ子は太壱を見るーーー太壱は、照れ臭そ いんだよ。 ( 太壱に ) : : : なに迷ってるの ? 結真実「離してーっ ! 殺す気 1 っ」 うに笑い返す。 とっとと成仏しなよ。悪いけど、もう太壱 とわめく結真実の手を引いて、美穂たち タ子は思わず、一歩、出る。 くんとはロきかない私、私が大ッ嫌い が走る タ子「 : : : 先生」 ・ : 見える私が嫌いなの」 きびす 踵を返して、歩き去っていく。 廣田「 ( 写真のことだと分かって ) ・ : : ・先々 〇同・地下宴会場 ( 夕方 ) 月 : : : 交通事故で」 太壱「・ : ・ ( ポケーツと、見送っている ) ー いまは使われていない、円卓や椅子が散 タ子「ーー らかったカビ臭い空間。 廣田「僕らもショックでしたが : : : 気の毒な〇 チサンホテル上野・外観 ( 夕方 ) 結真実、美穂、明菜、聖子が床をきしま のは、お父さんです。息子さんの死を受け せて上がるステージは朽ちかけていて、一 容れられなくて、この中にいるんじゃない〇 同・ 301 号室 ( 夕方 ) ギターやドラムが埃をかぶっている かって : : : ほら。タクシーで、ずっと」 カギを開けて、狭い部屋に女子たち四人聖子「 ( べースを掴む ) : : : たまってんだよ、一 タ子は廣田の視線を追って、慄然とする。 が入ってくる 悶々だよお」 ーーー日い杖をついたサングラスの中年男 全員がダッシュ・ーーデスクのコンセント美穂「デシリットル、修学旅行バージョン」 が遠くにいて、それは太壱の父親だった に真っ先にスマホの充電ケープルを差し ドラムを鳴らそうとするがーーー結真実が のだ。 込んだのは結真実だ。 それを止める 目が見えない父親は、生徒たちのはしや女子「結真実、鬼じゃん。空飛んでたし」 美穂・明菜・聖子「 ? 」 ぎ声を聞いて微笑んでいる。 ホルンスマホを充電しようとしたとき、結真実「 : : : ドラマなんだけどね。 : : : 母ち タ子「 ( 太壱に ) : : : 幽霊恐いって、あんた 着メロが鳴るので、結真実はビクッとす ゃんの」 が幽霊なんじゃないー るーーまたメールの着信だ。 美穂・明菜・聖子「・ : 太壱「えへへー 結真実「 : ・ ( イヤな予感に占められながら、結真実「クラリネットが、ホルン先輩にメー タ子「えへへじゃないのよ、きみはねえーー・」 読みはじめる ) 」 ルで告るの。ホルンは、そうだ、すごい優 そばにいた角田が、不気味そうにタ子を 別室の美穂、明菜、聖子が廊下から飛び しいから、「マジうれしい』って返信した。 こんでくる 見ている。 クラリネットはバカでプスだから真に受け 9-

5. シナリオ 2016年2月号

てくる いんだ、スープが澄んだ金色で」 もん 『幻年前』 清春「食い物の話はやめような。特にあった 演歌とラップをミックスし、小気味よく 『阪神淡路大震災の瓦礫の原から、歌が かい物の話は」 スクラッチする 生まれた。』 寒風の中、空腹を抱えた五人の足は重い。 311 に倒れて壊れた理髪店のサイン 『「しあわせ運べるように」は神戸の復興清春「・ : ・ : それで : : : どうなん ? 塩ラーメ ポールの前、『イ es. We are OPEN!J の に寄り忝 、冫い、いま、東日本大震災の被災ン」 札を掛けたクラブの店名は TLIVE! 地でも唄われ始めている。』 朝海「 ( 大きく目を見開く ) ・ : ・ : あ」 LOVE 一 SING 二。 「ーー生きて、愛して、歌、つこと。』 貝でも拾っていたのか、中腰のアスカさ メイン・タイトル ん ( ) が五人をポカンと見ている LIVE! LOVE! SING!J の店内 ( 夜 ) びゅうびゅうと風の吹く浜で、双方はし 床屋だった時代の名残を残す一角で、生 砂浜 ( 2015 年 2 月 1 日日曜日の夕方 ) ばらく黙っている き生きした顔の勝が、一一台のターンテー 青い海とたくさんのカモメが舞う空を仰アスカさん「 : : : 誰 ? こご、人がいるはす プルから音楽を溢れさせている あさみ いで、水島朝海 ( リと、派手なメイク ねえ場所だよ」 カウンターの電子レンジがチンと鳴り、 かがり の橘香雅里 ( リが歓声をあげる 朝海たち「 : : : 」 アスカさんがピザを出す 朝海「変だよ : : : すつごくきれい ! 」 朝海、清春、香雅里、本気がとにかくか一 となみまち 香雅里「海、貸し切り ! 貸し切ってんじゃ〇 富波町 ( 夕方 5 夜 ) ぶり付 / 、。 ん、、っちら ! 」 無人の通りに黄色い信号が点滅する 朝海「あの、なんで : : : 。 ( 音楽がうるさいの 一一人は、瓦礫が散乱し砂に自動車が突き拡声器の声「富波町は避難指示解除準備区域で、声を張り上げる ) なんで、この町に一 刺さる、 311 から変わらない景色の中 です。六時にゲートが閉まり、スクリーニ 人で」 きょはる まさる きやぐ を、岡里清春 ( ) 、佐藤勝 ( 絽 ) 、スー ングが終了します。一時帰宅や除染作業のアスカさん「遊びに来る客をガッカリさせ ツでネクタイを締めた渡部本気 ( ) と方はそれまでに町を出てください。富波町ちゃいけないでしょ ? 」 連れ立って歩いている は避難指示解除準備区域です : : : 」 香雅里「誰も来ないよね ? 誰もいねえし」 かじ さえぎ 遠い岬の向こうに数本の排気筒が見える 人っ子一人いない常磐線の駅 アスカさんもピザを齧って、質問を遮る い、 - んナい 本気「ラーメンはなんつったって家系だべ。 駐輪場で四年も持ち主を待っている自転 よ、つに訊く 太麺の」 車たち アスカさん「どこから ? 」 香雅里「中華街にチャンピオンてラーメン屋 地震でヘしやげたままの古い商店。 朝海「 : : : あたし、神戸」 あってさ、そごの塩がうちの一等賞。やば 路地の奥から場違いな音楽が聞こえアスカさん「神戸 : : : 」 〇 〇 タイトル もん 4

6. シナリオ 2016年2月号

幸せであるように 〇 水野尾「 : : : 決めた。・ : : ・再就職」 結真実「 : : : じつは」 チを入れる。 升美「 ( 耳を疑う ) 」 すべてを告白しようとして、ハッとする。浜田山「ご搭乗のみなさまにコックピットか 水野尾「ちんけな金融会社だ。 : : : 青森くん いつの間にか、クラリネット ( ) が立っ らご案内します。羽田空港混雑のため、当 だりの」 ている。 機、しばらく離陸を待っことになりそうで 升美は驚く。 始が結真実に頭を下げ、クラリネットのす」 升美「 : : : 先輩、実家九州だし大学東京だし、 前に行き、ふたりはなにか小声を交わし 浜田山が、副操縦士を窺う。 青森に来る理由なんか」 ながら歩き去っていく。 副操縦士「 : ・ ・ ( どうぞ、と目で促す ) 」 , ーーー 6 さか ? ・と思、つ 結真実「 : : : ( 呼び止めたいが ) 」 浜田山が口を開く。 かん わたくしごと 水野尾が初めて顔を上げるが、素直にな 明太子を手に取り残される。 浜田山「この間に、私事のご報告とお礼を れる性格ではない。 いつまでも、動けないでいる。 述べたいと思います。 : この青森行き いきなり、バスの扉を閉める。 結真実「 ) 夢のジャパネットたかた ? 」 1207 便が、私、機長浜田山のラストフ 升美「 ( びつくりして扉を叩き ) 笑お、つとした頬に、涙がポロリとこばれ ライトとなります。本日、定年退職を迎え る。 を重ねようとするが ) ー ます 疑惑が確信に変わり、ふいに涙が溢れ、 歓びで全身が震え、どうしていいか分か〇スポット ( 夕方 ) 機内 ( 夕方 ) らなくなり、自分でも思いもかけない言 ブッシュバックされた 7 37 のエンジ 浜田山の妻と思われる恵 ( ) だけが熱 葉が溢れる。 ンが轟音とともに回転する。牽引車が離 心に耳を傾けているが、修学旅行の一団 升美「 : : : 生きててよかった」 れて、 B737 は地上走行をはじめる。 155 名は、騒がしく、まったく聞いて 扉に、おでこを預ける。 しオし 操縦室 ( 夕方 ) 浜田山の声「思い起こせば三十七年前、新生、 同・ターミナル 操縦しているのは、副操縦士と、浜田東亜国内航空に入社、パイロットとしての 山だ。 ホルンスマホを持った結真実が立ってい 第一歩を踏み出しました : : : ( つづく ) 」 る。 7 3 7 は前を行く 7 7 7 と同時にプ ーーー窓外を見ながら上機嫌にハミングし 人ごみから現れたのは、始だ。 レーキをかけて停まる。 ている升美は、隣席のハルミが、やはり 始は照れ臭そうに、福岡土産の明太子を副操縦士「ラッシュですね。 : : : 相当、待 ハミングしながら、大水槽に捨てたリン 手渡す。 たされそうです」 グを玩んでいるのに気づき、顔を見合わ 結真実は震える手でスマホを渡す。 浜田山はヘッドセットのマイクのスイツ せる。 ・ ( 質問 〇 〇 107 ー

7. シナリオ 2016年2月号

僕らはみんな生きている 金、どんどん運んでくれるよ。 (v) この で憤然としている。 小学生じゃあるまいし」 ピラニアどもがさ』 井関「パ ーティーに呼ばれるだけならいいで えび 高橋「僕は帰ります。プレゼンはっとめまし 中井戸家・高橋の部屋 ( 夜 ) すよ、うちなんか海老の買いつけだけの小 た、タルキスタンエア、何番ですか」 茫然としている高橋の耳に、受話器から さな商いだから。日本人がいきなり海老食 立とうとした眼前に、中井戸は一枚のテ 美由紀の声。 わなくなりや帰れるんですけどね : レックスをかざす。 「お電話ありがとうございます。せつかく んな国でも中華屋とゴルフ場は日本人だら 中井戸「三課からが来た、君の出張は一 ですが、倉岡美由紀、留守です : : : 」 けだ。日本人ていっから狩猟民族になった 週間延びた」 散々交換手に待たされた様子の高橋、苛 のかな」 高橋、愕然。 立ちをこめて受話器を叩きつける。 中井戸「入札の結果発表までいてくれ、 ( 富高橋「 ( 時計を見て ) 5 時間待ち : : : ラッキ井関「中井戸さん、赴任して三年、一度も帰 田を気にして声をひそめ ) リべートを倍に 国してないそうです」 してカツツのご機嫌をとりむすべば逆転も 高橋、耳を疑う。 ありえる。奴に会、つ方便として、君が必要 魚市場 ( 数日後の夕方 ) 井関「入札の結果が出しだい帰れるんでしょ なんだ」 高橋と仲買人姿の井関が魚を選びながら う。同じ便だといいですね」 昭子「私たちも頑張りますから、軍への根回 歩く。 高橋「 ( 訝しく見るが ) : : : 井関さん ? 」 し。あら、ほらおいしそうな蟹」 高橋「 ( 不機嫌だ ) 毎日面会待ってるだけで井関「 ( 頷いて、喜びを隠せず ) 任期切れな 高橋は聞いていない、テレックスを睨んすよ。今度の土曜はカツツのお誕生会 : ・ んです。今日はご馳走します。三年間鍛え 分 2 歩 徒 中 っ ) 3 ・話 9 田電 ポレポレ東中野 毎月抽選で 10 名様 招待券プレセント ヨ月上映スケジュール 1 月 2 日 ~ 「ヤクザと憲法 土方宏史監督作品 11 : 00 13 : 30 16 : 00 18 : 30 1 月 9 日 ~ TDOGLEGS ヒース・カズンズ監督作品 21 : 00 本気で向かってきなよ・ 本気で応えるから・ 鄭第 0 レス・ドキ野ン衂 - 1 月 16 日 ~ 「ふたりの死刑囚」 鎌田麗香監督作品 10 : 20 16 : 40 ご希望の方はハカキて、〒 107-0052 東京都港区赤坂 5-4-16 シナリオ会館 4F 「シナリオ」編集部「ホレポレ東中野 係宛にお申し込み下さい。締切は、毎月 月末必着。

8. シナリオ 2016年2月号

笑っている ぜんぶ書け」 升美「なにか、あったの ? 」 ハルミ「先生こそ」 結真実は、デシリットルの面々にハ貴延「 イテンションだ。 達也「ーー 升美「聞かないで。喋っちゃうから」 ハルミ「 ( 別人のように明るく ) あたしにも結真実「 ( o< の真似 ) 飛行機から脱出した有紀「 聞かないで。喋っちゃうから」 あと、この紐を引くと救命具に空気が入り廣田「ぜったい載せる たちの問題だ」 ハルミはリングを爪で弾いて、くすりと ます。空気が足りない場合は、このチュー 笑う。 プに息を吹き込んでください」 貴延「 : : : 先生」 明太子をくわえるので、美穂、明菜、聖 廣田は照れ臭そ、つに席に戻る ハルミ「 : : : ばあか」 長太郎がそんなハルミを見て、なに 子が笑い転げる。 達也「 : : : ( 有紀を見る ) 」 かを察している様子だ ・ ( うなすいて見せる ) 」 美穂「もう寝かしてよ。タフだな、結真実」有紀「・ : ふたりの手は、しつかりとつながれてい 長太郎「 ( 健一郎と肩を組んで撮ったスマホ結真実「このチュープです。どうぞ、どうぞ、 る。 どうぞ、どうぞ」 の写真を見て ) ・ ・ ( 笑う ) 」 貴延は、悲壮な決意を胸に、窓外を見つ一 ーーータ子が、遠くの席の太壱の父親を気 仲間たちのロに押し込んで、笑いはしゃ める。 にしている。 笑ってないと泣いてしまうからだ。 ーー廣田が静かに目をつぶる。 父親「 : : : ( 見えない目で、窓の外を仰いで ーーー廣田の隣に座っているのは香織だ。廣田「 : : : ( もう、遅刻はしない ) 」 いる ) 」 タ子「 : : : ( ちょっと、鼻をすすってしまう ) 」香織「教頭、着きましたかね」 〇 操縦室 ( 夕方 ) 勝利と恭平は並んで座っているが、廣田「急な不幸なんでしよ」 浜田山がマイクに話しつづけている。 まだ気まずいままだ。 香織「詳しくはおっしやってなかったけど、 : きっと大変だ、 浜田山「 : : : そして本日、定年の日を迎える 急なんでしようねえ。 勝利「 : ・ ( ふいに、すべてが滑稽に思えて、 ・ : あの : : : じつは、 ことができました。 いまごろ」 噴き出す ) 」 廣田は迷っているが、前の座席に身を乗ですね」 恭平「 ? 」 り出す。 副操縦士「 ? 」 恭平のまぬけ面がおかしくて、勝利は笑 ーー貴延、達也、有紀が座っている。 い転げる。 〇 機内 ( 夕方 ) 笑う勝利が嬉しくて、恭平も笑いはじめ廣田「 : : : 書け」 る。 浜田山の声「 : : : じつは」 三人「 ? 」 騒いでいた修学旅行生たちも、「 ? 」と ふたりはいまは、ド突き、小突き合って、廣田「 ( 貴延に ) 文集に書け。 ( 達也と有紀に ) ・ : その先は、お前 108

9. シナリオ 2016年2月号

はせでら きませんて言い張ったろう。カニを入れな : ここ、二回目」 長谷寺・駐車場 ( 夕方 ) きゃいい」 健一郎「 ? 」 ③のバスに帰ってくる結真実たちを廣田 升美「カニが嫌いなのにカニマヨを頼む方が ハルミ「停学くらってダブったから、修学旅 が迎えている。 間違ってますー 行、一一回目」 廣田「班長、人数確認してね。 ( スカートが 水野尾「カニが入ってないカニマヨを食べた健一郎「 ! 」 、ノッ見えてるな」 短い女子に ) おい、 ( い気分もある。メニューを自分で作っちゃ ダメか ? 」 ( 0 、、、「な〈停学か分か , ( 息がかか女子「 ( 平 1 と ) 見なくださ」 廣田「ーー ほど近づいて ) 援助交際」 升美「だから運転手なんですか ? 」 屈伸運動をしていたおじさん運転手が廣 健一郎は真っ赤になり、鼓動が激しくな る。 田に笑いかける。 水野尾「・ : ・ ( その質問には、答えない ) 」 ハルミ「ウソ。タバコ ・ : 興奮してる」 運転手「いまどきですねえ」 〇 同・相模湾大水槽 健一郎「 : : : してません」 廣田「はあ。 ( 相手が赤の他人の気安さで ) ハルミが左手の薬指からシルバーのリン ハルミ「してる」 ・ : 以前は、生徒の気持ちが見えてたんで グを外す。 すー 健一郎「 : : : してないです」 ハルミ「 : : : さよなら」 ハルミ「 ( 右手で握る仕草をして ) たしかめ運転手「 : : : 」 無表情のまま、大水槽にポチャリと落と よ、つか」 廣田「三十過ぎたころからかなあ : : : 分か一 す。 らなくなった。・ : ・ : 顔が見えなくなった。 健一郎「 : : : それは ( 困ります ) 」 健一郎「 ( マイワシの群れをばんやり見てい ハルミ「ーーあたし、透明人間なんだ。いっ ・ : みんな、どっかに行っちゃった」 るが ) ・ ・ ( えッと、気がつく ) 」 こ年上だから、だれも話しかけてくれない。 引班の班長 ( 男子 ) がバスの窓から首を 出す。 : ちっちゃいことでヘコんじやダメだ 沈んでくるリングと、階段上からそれを 見ているハルミの姿。 班長「先生、今川だけまだっす」 健一郎「 ( 落とし物だと勘違いし、係員に ) 健一郎「・ : 廣田「 : : : 達也 ? 」 ゲンナリし、運転手の苦笑に送られて歩 ・ : すいません。落とし物です」 ハルミか半ハり、健一郎は、とにかノ励ま よ ハルミかその前に立っ きだす。 されたことは感じている。 る あ ハル、、、「いいんた、、も、つ ・ : あれは」 ハルミの背中にペコリと頭を下げる で せ健一郎「・ : そうして、見るーー水底に沈んだ、ハル〇同・山門 ( 夕方 ) ハルミは歩き出そ、つとするが、思い出し ミのリングの銀色の光 廣田が歩いてきて : : : ふと立ち止まる たように健一郎を見る 心の中で、むかしの、 FLYING KIDS 〇 冖 /

10. シナリオ 2016年2月号

升本「新劇じゃねえぞ、これ以上哀れんでど 高橋は、あたりまえだという憤りを苦く井戸さんと」 うすんだ」 昭子「もちろん同胞ですよ、中井戸さんは。 呑みこむ。 : 桜小路幸 係員「救援機なんですが、明日の夕方着くそ私たち助命嘆願の署名運動しようと思って。高橋「 ( メモを探し、えッと ) ・ でもその前に、内戦後の復興プロジェクト 枝殿」 うです。ま、今月中には落ち着くと思いま 富田も升本も、ポカンとする。 すよ。反乱軍、ほば全滅だそうです。あっ の根まわし、今夜からでもーーー」 升本「愛人か」 ちにおにぎり用意してますから」 高橋、うんざりしてその場から去る 富田も、もう聞いていない 高橋「桜小路幸枝殿。私の赴任中に君が由香 高橋「 ( 眼を泳がせて ) ・ を連れてわが家を去り、桜小路君と暮らし 腹立ちと虚しさで、唇を歪める。 てはや一年 : : : 」 タルクの街 ( 夜 ) 富田と升本「 ! 」 同・公衆電話の前 ( 夜 ) 市街戦はますます激しさを増している ロケット砲がだけの反乱軍兵士たち 高橋が電話に喋っている。 反乱軍基地・監禁バラック ( 夜 ) をミンチにする。 高橋『はい、国際電話です。東京 : : : 日本。 先方はミス・ミュキ・クラオカ、番号は 満身創痍の中井戸の前には、葉虫と脂が一 浮いたスープが手つかすだ 空港・ロビー ( 夜 ) ・ ( やつばり、そんな気になれない ) あ しいです、キャンセルです』 高橋の声「由香のビデオを、いつもありがと一 領事館員から茫然と離れた高橋、おやと 受話器をそっと置く。 う。せめて由香は私の戸籍に残せと主張し 立ち止まる。 てきたが、いまとなっては一度でも帰国し、 ポカンとした富田を、雀崎と昭子が囲ん 桜小路君ときちんと話しあうべきだったと でいる 同・小さなバー ( 夜 ) 後悔ばかりこみあげる」 高橋、富田、升本が、氷を浮かべたビー 昭子「つまりね、 o さんの天下だって言 中井戸は部屋の隅のサソリに気づく。 ってるんですよ」 ルを呑む。 身体中が痛い、緩慢な動きでスープをか 雀崎「政府軍が勝てばおたくのパイプはこれ升本「 : : : うめえなあ」 け、アルミ食器をぶつけてサソリを追い までどおりだ。でも万一反乱軍が勝ちゃお高橋「 : : : うまいねえ」 出す。 たくは反政府会社だ。ところがですよ、中 全然、、つまくない 井戸さん」 高橋は思い出したように中井戸の鞄から高橋の声「いや、君が桜小路君と出会う前に 一時帰国をしていたらと。君が詰るとおり、 手帳を出す。 昭子「スパイでしよ、反乱側が組むわけない 一瞬、富田と顔色をうかがいあうが、ペー 私は種をまいたが父親ではなかった」 わよ三星建設と」 ジをめくってみる。 中井戸はネクタイを強く噛み、ただ噛ん 富田「 ( 唖然 ) : : : 君たち、つるんでたろ中 ・ : セーナ」