政府軍 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年2月号
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1. シナリオ 2016年2月号

靴とか服とか汚して平気なの、ガキんと 副官 < が小走りに一番立派なバラックに高橋『あなたと取り引きに来ました、僕たち』 きの木登りとか。 ( 半分冗談、半分本気で ) ~ 行き、ノックする。 升本がタルキスタン語で同時通訳する。 元気でるね、戦争って」 セロテープでレンズを修繕した眼鏡をか指揮官たち『 : : : 』 升本「その靴を履きたくて殺しあってんだ、 けた反乱軍指揮官が出てくる。 中井戸も『・ : ・ : 』 あいつら」 壊れかけのオート三輪に乗った高橋、富高橋「あの : : : 」 三人はそれぞれの思いで黙りこむ。 田、升本が、大声で唄いながら基地に入っ 冷たい眼と銃口にさらされて恐怖がこみ てくる。 高橋「 : : : そこ、おさえててください」 あげる、言葉が出てこない。 窓の外が白みはじめた、再び作業が始ま升本「 ( 声が掠れる高橋に ) 唄え、怪しまれ 富田がネクタイを締め直し、高橋をどけ る。 たら最期だ」 て前に出る 三人はかすむ眼を必死に見開きながら、高橋「かえって怪しくないかな」 富田「みなさんは中井戸さんの無線を傍受し 小さなと格闘する。 三人は必至だ、叫ぶように唄、つ ました。でも政府軍の軍用無線はどうです」 数人の兵士がを向けるが、対処に迷 升本が通訳する。 反乱軍基地 ( 朝 ) 指揮官の顔色をうかが、つ 指揮官たち『 : : : 』 椰子の葉が揺れる、静寂。 指揮官は副指揮官に護られながら、富田「 ( 隅のバラックの無線機を指し ) みな乃 どこからともなく、車のエンジン音とか ゆっくり降りてくる。 さんが使っているのはアナログ無線だ、だ すかな歌声が聞こえてくる 升本『 (æ) 怪しいものじゃない、武器は持っ から中井戸さんのトランシー バーは聞けて 泥川で洗面歯磨きをしている兵士たち、 てない』 も、政府軍はデジタル無線です、傍受でき そして監禁バラックで一睡もできなかつ中井戸「 ( 檻の隙間からのぞいて、ただ眼を ないでしよう」 た中井戸、一人、また一人とその歌に気疑う ) 」 高橋、ギクシャク歩いて無線機のスイツ つく。 三人はラジオとをつなげた機械を チを入れる。 る 警備兵が駆けこんで来て、ニッバハウス 持ち、恐る、恐る指揮官の前に行き、高 通信兵が合点して周波数を合わせる て き から出てきた副官 < ' になにごとか伝 橋が名刺を出そうとする 雑音だけが聞こえる 生 える しかし、バカバカしく思えて捨てる。 富田「みなさんの無線は政府軍に筒抜けなの み中井戸「 ( 歌声に耳をすまして ) ・ ・ ( 愕然高橋『 : : : 高橋です』 に、政府軍の無線は聞けない。これはあん ら とする ) 」 富田『 ( も出しかけていた名刺をしまい ) : まりに不利です」 僕 f(æ) 僕らはみんな生きている、生きて富田です』 副官 < 『 ( なにか言おうとする ) 』 いるから笑うんだ : : : 』 升本『 (—) 升本だ』 富田「 ( それをさえぎって ) しかたないさと

2. シナリオ 2016年2月号

ぞうへい まうので憮然とする。 中井戸「奴は雑兵だ。この国をよくするんだ れ、突然、日本語が流れだす。 中井戸、ふいに、ふふんと鼻で笑う。 って血イ流して、勝てば反乱軍のお偉いさ日本語「本日のディゲーム、巨人阪神戦は三 んがいい女を抱けるだけの話だ」 対二で阪神の勝ち。西武オリックス戦は八 中井戸「この国にも神さまはいた。大逆転だ高橋「 ( 血が昇って ) そういう言いかたーー」対〇、西武の圧勝でした」 な」 中井戸「 ( 富田に唐突に ) よこせよ、二百五 一同、雷にうたれたように聞きいる 富田「ーー 十ドル」 日本語「こちらは海外短波放送です。 中井戸「反乱軍が勝てば現政権と癒着してた富田「 ? 」 つづいて東京都足立区からバングラディ おたくは反政府会社だ、橋はうちのものだ。中井戸「さっきのジープだ、割り勘だ」 シュのダッカに駐在されている江東エンジ クーデター ハンザイだよ」 富田「領収書は」 ニアリングの山田徹さんからのリクエスト、 富田「勝ちめがあるのかね、百姓部隊に」 中井戸「ばッ さだまさしさん、「関白宣言」」 おんしゃ 中井戸「神風が吹く。 : : : 政府軍が勝ったっ富田「領収書もない金が出るわけですか御社 イントロが始まったラジオに、一同はそ て状況が変わる。入札の正式発表はまだだ、 は、あいにく当社はー・ー . 」 ろそろと近づいてくる うちが食いこむ余地もある」 こらえかねたように升本がふきだす。 歌「お前を嫁にもらう前に、言っておきた 富田「 ( すこしムキになり ) カツツは私の手升本「セーナだよ、あんたたちも。律儀な雑 い事がある。かなりきびしい、話もするカ の内だ」 兵だ。御社だ当社だ神風だ、生きるか死ぬ俺の本音を聴いておけ」 中井戸「 ( ひとりごとのように ) まだ、手は かってときまで会社背負って」 中井戸「 ( やっと我に返って、失笑 ) 百姓の ある」 富田と中井戸「ーーー 結婚式か」 富田「 ( 訝しく ) ・ 升本「あんたたちが、日本が、先進国がよっ歌「俺より先に寝てはいけない。俺よりあ 高橋「 ( 苦笑して ) まともな政府ができれば てたかって後進国を食い物にしてる。その とに起きてもいけない。めしはうまく作れ。 わいろ そんなこと関係なくなります。賄賂もリ おこばれを巡って殺しあいもおこる。 ( 洞 いつもきれいでいろ。できる範囲で構わな る べートもなくなる。この国はやっとふつう窟の外を指して ) 俺たちの戦争だ」 いから」 て き 中井戸「黒柳徹子かお前」 富田「電池のむだだ」 な中井戸「ばか、なんのためのクーデターだ。富田「君だって月給取りだ」 歌「忘れてくれるな、仕事もできない男に、 み いまムイニットが独占してる銭を俺たちに中井戸「そんなにここが好きならゲリラに志家庭を守れるはすがないってこと。お前に ら よこせ、それが反乱軍だ」 願しろ、いつも斜に構えて口ばかりじゃな はお前にしかできないこともあるから、そ 僕 高橋、愕然とする。 いか」 れ以外はロ出しせず、黙って俺についてこ 高橋「でもセーナは 升本がカッと立ち、はずみでラジオが倒 ヾ、、尸っ

3. シナリオ 2016年2月号

るが、農作業をしていた数人の村人と眼 茂みの奥に来た中井戸が、ベルトをはす 富田、ミネラルを飲もうとするが、瓶が が合ってしま、つ しながらあたりを見まわす。 空だ。 村人 < IF(—) ( 立ちあがり、大声で ) 外国人 中井戸が自分のボトルを渡す。 人気がないのを確かめると、ベルトを戻 外国人だ ! 』 し、鞄をあける。 中井戸と富田「 : ・ ( 照れくさい ) 」 トランシー 虫がわくように、人々があふれ出してく 1 を出す。 ヘリが再び降下し、急接近、爆音が大き る。 くなる。 中井戸「 ( 憑かれたように、操作する ) 」 四人は狼狽して戻ろうとするが、ジャン 中井戸「 ( 怖い、叫びだしそうだ。そんな思 グルで作業していたらしい村人たちも いをすこしでも紛らわそうと ) り・ん・ご 日のほとり 上空を政府軍のヘリコプターが旋回しな : ご、だぞ」 戻って来て、逃げ道をふさがれる がら近づいてくる 村人たちは手に手に鶏や果物を持って高 高橋はうながされ、合点するが、恥ずか しい、ためらう 橋たちに迫る 四人は茂みの奥に伏せて身を隠している。 : し しかし、ヘリの轟音が迫ってくると、 高橋・中井戸・富田「 ( 生きた心地もない ) 」 升本「反乱軍の基地を探してるんだ。 っこいな」 高橋「 ( たまらず ) ・ : : ・ごりら」 升本「 ( 村人たちの言葉を聞き、苦笑して ) 買一 ってくれってよ。 ( プスの村娘を押しつけ ヘリの轟音の中で、滝のように汗が流れ富田「 ( もしかたなく ) : : : らつば」 る られる高橋に ) 嫁にしねえかって」 升本「 ( ばかばかしいと笑いかけるが ) 高橋「 ! 」 手持ち無沙汰にパスポートを見ていた富ばんつ」 拍子抜けと困惑、そのとき、村の中心で、 田が、あ、と小さな声を出す。 中井戸「つくね」 ドンと大きな火柱があがる 同「 ? 高橋「ねんど」 一同「 ( 仰天 ) 」 富田「パスポートの表紙って、菊の御紋なん富田「どんじゃらほい 政府軍のヘリが急降下、攻撃をしかけて 這いあがってくる蟻を払い、一本のミネ くる ラルを回し飲みしながら、悲壮なしりと りをしている 逃げ遅れた老婆や赤ん坊を抱いた母親が 機関銃の餌食になる。 四人は蒼白で納屋の陰に飛びこむ。 三十戸ほどの小さな集落 ジャングルから出てきた四人、民家がな中井戸「 : : : ( また上がる炎を、凝視する ) 」 地面をなめる機関銃で、また一人、村人 らんでいるので眼を丸くする が倒れる 顔を見かわしてジャングルに戻ろうとす それぞれ、内ポケットから自分のパス ポ 1 トを出し、表紙を見る。 中井戸「 : : : 特攻隊じゃねえぞ」 富田「 : : : 特攻隊じゃないよ」 なんだか情けなく、顔見あわせて笑いあ 、つ -8 -6

4. シナリオ 2016年2月号

升本「新劇じゃねえぞ、これ以上哀れんでど 高橋は、あたりまえだという憤りを苦く井戸さんと」 うすんだ」 昭子「もちろん同胞ですよ、中井戸さんは。 呑みこむ。 : 桜小路幸 係員「救援機なんですが、明日の夕方着くそ私たち助命嘆願の署名運動しようと思って。高橋「 ( メモを探し、えッと ) ・ でもその前に、内戦後の復興プロジェクト 枝殿」 うです。ま、今月中には落ち着くと思いま 富田も升本も、ポカンとする。 すよ。反乱軍、ほば全滅だそうです。あっ の根まわし、今夜からでもーーー」 升本「愛人か」 ちにおにぎり用意してますから」 高橋、うんざりしてその場から去る 富田も、もう聞いていない 高橋「桜小路幸枝殿。私の赴任中に君が由香 高橋「 ( 眼を泳がせて ) ・ を連れてわが家を去り、桜小路君と暮らし 腹立ちと虚しさで、唇を歪める。 てはや一年 : : : 」 タルクの街 ( 夜 ) 富田と升本「 ! 」 同・公衆電話の前 ( 夜 ) 市街戦はますます激しさを増している ロケット砲がだけの反乱軍兵士たち 高橋が電話に喋っている。 反乱軍基地・監禁バラック ( 夜 ) をミンチにする。 高橋『はい、国際電話です。東京 : : : 日本。 先方はミス・ミュキ・クラオカ、番号は 満身創痍の中井戸の前には、葉虫と脂が一 浮いたスープが手つかすだ 空港・ロビー ( 夜 ) ・ ( やつばり、そんな気になれない ) あ しいです、キャンセルです』 高橋の声「由香のビデオを、いつもありがと一 領事館員から茫然と離れた高橋、おやと 受話器をそっと置く。 う。せめて由香は私の戸籍に残せと主張し 立ち止まる。 てきたが、いまとなっては一度でも帰国し、 ポカンとした富田を、雀崎と昭子が囲ん 桜小路君ときちんと話しあうべきだったと でいる 同・小さなバー ( 夜 ) 後悔ばかりこみあげる」 高橋、富田、升本が、氷を浮かべたビー 昭子「つまりね、 o さんの天下だって言 中井戸は部屋の隅のサソリに気づく。 ってるんですよ」 ルを呑む。 身体中が痛い、緩慢な動きでスープをか 雀崎「政府軍が勝てばおたくのパイプはこれ升本「 : : : うめえなあ」 け、アルミ食器をぶつけてサソリを追い までどおりだ。でも万一反乱軍が勝ちゃお高橋「 : : : うまいねえ」 出す。 たくは反政府会社だ。ところがですよ、中 全然、、つまくない 井戸さん」 高橋は思い出したように中井戸の鞄から高橋の声「いや、君が桜小路君と出会う前に 一時帰国をしていたらと。君が詰るとおり、 手帳を出す。 昭子「スパイでしよ、反乱側が組むわけない 一瞬、富田と顔色をうかがいあうが、ペー 私は種をまいたが父親ではなかった」 わよ三星建設と」 ジをめくってみる。 中井戸はネクタイを強く噛み、ただ噛ん 富田「 ( 唖然 ) : : : 君たち、つるんでたろ中 ・ : セーナ」

5. シナリオ 2016年2月号

富田「領事館が避難命令出してるさ」 語を。タルクじや戦闘はない ? なんだよ いな」 これは」 升本はさすがに緊張をうかべて大通りに 高橋「電話出ないんです、いろいろあって ・。毎日電話してんだけど、こもっちゃっ 大通りでは政府軍の戦車と反乱軍のロ 歩きだす。 ケット砲が応酬を始める 蒼白の高橋、中井戸、そして迷うけど富 田もつづく。 高橋「 ( 銃撃戦の中心のマンションを指して ) 高橋「なんとかなりませんか。ほっとけない あそこです [ 高橋は財布から名刺の東をだす。 でしよ、一人だけ」 中井戸「ひき返そう」 升本「 (v) 撃つな。市民だ俺たちは、通行 富田「 : : : しかしね、他社の人間のために」升本「どうやって」 するだけだ」 三人は、困ってたがいの顔色をうかがう ふり返ると、いつの間にか背後でも銃撃三人 f(—) ( せえの、で ) 私たちは日本のサ 戦が始まっている 升本「 ( ラジオから耳を離して ) まだ局地戦 ラリーマンです』 だ。タルクじや戦闘はない」 両軍の銃撃が静まる。 ふと、大通りの爆音が静かになる 升本が通りに出る、井関のマンションが 升本「田舎道歩くよりタルクで車調達しよう。 杖をついた老婆が両軍に手を振って合図 はるか彼方に感じられる。 タルクまで三キロだ」 し、通りの真ん中を横断して買物に行く。三人「 (—) 私たちは日本のサラリーマンです。 高橋は救われたような顔になる。 升本「 ( 唖然とする一同に ) 市民は傷つけな 日本のサラリーマンです』 いのが世界の市街戦ルールだ」 呪文のように唱えながら、高橋は兵士た 精力剤の巨大な看板が爆発する 老婆が去ると、またロケット砲が飛びか ちに届かないのに名刺をまく。 タルクの街、を乱射する反乱軍 ( 半 富田はパスポートをかざす。 こちらを向いている銃器の銃ロたち、四 分は私服のゲリラ、半分は寝返った軍人 ) 升本「さて : : : 行くか」 人は息も絶え絶えだ。 で反撃する政府軍が壮絶な市街戦を 立ちあがるので、高橋たち、ギョッとする。 展開している。 升本「へたに隠れてたほうが危ない。日本の と、遠方からの流れ弾がビルの庇の下を 走る送電線に命中し、ショート、通り一 崩れた建物の陰に隠れて、顔面蒼白の高サラリ 1 マンだって大声で叫べ。 ( タルキ 帯が火花に包まれる。 橋、中井戸、富田、升本。 スタン語で ) 私たちは日本のサラリーマ 升本が先頭きってダッシュし、井関のマ ですー 富田「 ( 升本を睨み ) やったね : : : 君、またや ンションに駆けこむ。 ったね」 高橋たちは必死のおももちで何度も復唱 する。 升本、不貞腐れてそっほむく。 井関の部屋 富田「ときどきまちがえるんだよ、大事な単富田「 ( ハッとして ) 今度こそまちがってな 4 ひさし

6. シナリオ 2016年2月号

扉を開けた高橋たち、息をのむ。 くらえ』 井関は頭のまん中を撃ち抜かれて死んで いる 室内には大麻の煙が充満し、テレックス升本『 (v) ( 両軍を意識し、井関を殴って ) からは手つかずの受信用紙が長々とたれ失礼なこと一一一口うんじゃない』 高橋「 ( 信じられない ) 井関 : : : 井関さん ? 」 さがっている 井関「 ( 日本語で絶叫 ) 毎日暑いんんだ、こ 升本、中井戸、富田も事態に気づく。 高橋が奥に進むと、埃だらけの井関がま の野郎 ! 」 激しい銃撃戦の中、しばし言葉がない。 だゼビウスに溺れている。 高橋たち『 (æ) ( 呪文を超えて、もはや念仏 ) 中井戸、踵を返して反乱軍隊長のもとに 攻撃画面に窓外の銃撃音が重なり、井関、私たちは日本のサラリーマンです。私たち 走り、 らんらん 眼だけ爛爛だ。 は日本のサラリー マンです』 中井戸『 ( ジープを指して ) 売ってくれ、頼む』 高橋「井関さん : : : 井関さん」 やっと大通りを抜けかけたところで、高 百ドル札を一一枚渡すが、隊長、首をふる。 反応はない、升本が手を取ると、井関、 橋たちはえッと眼を見張る 中井戸、もう百ドル。 は悲鳴をあげて這い逃げる。 土嚢の陰でを構えているのは、セー 誘惑と闘いながら首をふる隊長に、やけ ナだ。 升本「帰るんだ、日本に帰るんだ」 でもう一一枚渡す。 高橋と中井戸も手伝い、 井関を立たせる。高橋「 ( 思わす ) セーナ」 隊長の顔が崩れ、一一人は笑顔で握手をか一 わして、 井関『 ( 錯乱して英語で ) よせ、なにすんだ中井戸『お前、ゲリラだったのか』 お前ら、なにすんだよ』 そのとたん、政府軍の隊長が眼を剥く。隊長 f(v) ありがとよ、銭亡者』 隊長 IF(—) 奴ら反乱分子だ ! 撃て ! 』 中井戸「 ( 日本語 ) あんたに弾丸が当たりま 貶大通り セーナ『 ( 高橋たちに絶叫 ) 隠れろ、早く ! 』すように。 ( 富田たちに ) 行くぞ ! 」 政府軍の機関銃がうなりをあげる。 『 ( ) 私たちは日本のサラリーマンです ! 』 富田、升本とともに走り、運転席に坐る。 コードが千切れたファミコンを離さない 高橋たちは気が狂ったように駆け、反乱 井関を前に放心している高橋の肩に、 井関を抱えた四人が出てくる。 軍の土嚢の陰に飛びこむ。 セーナが手を置く。 る ロケットランチャーが井関の部屋あたり 走る弾痕、間一髪で、セーナが身を挺しセーナ「俺たちが埋葬する。空港への道は激 て き に命中、四人は肝を冷やす。 て高橋を助ける。 戦区だ、海に出て歩きでジャングルを抜け な升本 T(—) 病人だ、急ぐんだよ』 高橋「 ! 」 ろ。遺品だ』 み また銃撃が静まる。 驚きで、ありがとうを言いそびれる 井関の手から砕けたファミコンを取り、 十 6 ら 精一杯の早足で、四人は道に出る。 渡す。 高橋「 ( 破れたス 1 ツに気づき ) アルマーニ 僕 井関『 ( まだ暴れながら ) あんな会社辞めて だぞ。井関さん ! だいたいあんた」 中井戸「高橋 ! 任せるんだセーナに」 やる、決めたぞ。タルキスタンなんかくそ あんぐり、ロを開く。 セーナ、無理矢理、高橋を井関からひき たま 3 )

7. シナリオ 2016年2月号

諦めてはいませんか ? やけになって、同時通訳を再開する。 いえ、いまこそ、副官 < 『 ( ) ( 指揮官の耳もとに ) 殺りましょ デジタル無線傍受機をお買い求めになる時 う、政府の大だ』 高橋「 ( こみ上げる思いをただぶちまける ) 期です」 指揮官は迷っている、やがて、へたくそ俺たちは日本人だ、天皇は知らなくてもソ 基地の中、水をうったように静かだ な英語で言う。 ニーは知ってるだろ。日本人と酒は飲飲ん 富田と升本が高橋を手伝って、三人指揮官 f(—) 君たち三人は助けよう、中井だことがなくてもサンヨーとは親友だ。お とラジオを無線機のアンテナにつなげ 前らがコレラ菌だらけの川で水浴びしてる 戸はその機械の保証書だ』 る。 高橋たち「 ( 狼狽する ) 」 あいだ、俺たちは半導体に埋もれてた。お 高橋「 : ・・ : 神さま」 指揮官『彼はスパイだ。この傍受機だって三 前らが暇な夜にヤリまくって八人も九人も 小声で祈って、ラジオのスイッチを入れ 日もっかわからん。三人は助けてやる : ガキ作ってるあいだ、俺たちは電卓叩いて る これが結論だ』 た、このクソ暑いのに背広着て」 やや間があって、スピーカーの雑音が人 中井戸、茫然とする。 富田「 ( 慌てて黙らせ ) それが日本製品です。 断固と言われて、富田ももう手がない の声になる。 キッコ 1 マンは真夏のアメリカの海水浴場 長く、暑い間がある f(w) こちら第八部隊、第十六ポイント でバーベキュ 1 やってる味音痴のアメリカ一 の反乱軍を包囲しました。ムイニット将軍 が : : : 恐怖と緊張の極限に達した高橋が、人に一人一人醤油の味を教えていきました。祐 静かに口を開く。 松下はアメリカの電気製品を絵に描いて、一 ハンザイ』 指揮官たち「 ! 』 高橋「山猿」 それと同じデザイン、同じ性能の物を半値 で売ってのしあがった、写生してたんです、 兵士たちのあいだにもどよめきが走る。指揮官たち・富田たち「 サンプルを買、つ金さえなかった。しかしこ 富田「 ( バンザイ、と叫びたいのを堪えて ) 高橋「三日もっかわからない ? メイド・イ どうです、このがデジタル信号を解ン・ジャパンだ、お前たちが全員殺される のタルキスタンには、我々が失った心の豊 析してアナログに、つまり音声に涙すんで まではもつ。 ( 升本に ) 訳せよ」 さがーーー」 す。政府軍の無線を傍受できるんです。値升本「 : : : 」 高橋「 ( 丸くおさめようとするのをはり倒し 段は、中井戸さんの身柄です」 高橋「 ( 初めて見せる剣幕で ) 訳せよ」 て ) 俺の親父は日立だ。毎年、年賀状が 三百通きてた、それが定年退職したとたん 指揮官たち、顔を見あわせる。 升本「だって」 富田「買ってください」 高橋、いきなり升本を無器用に殴る。 に七通になったんだ、七通だぞ。元旦に郵 中井戸は正座して、肩を震わせて祈る。 便受けの前で三十分っつ立ってた。笑っ 富田「 ( 一同の無言が怖くなる、日本流に頭 痛いより仰天している、やがてムッとすちゃうよ、人生の二百九十三通ぶん捧げた る。 んだ、バカみたいだろ、そうだバカなんだ、 を下げ、必死で ) お願いします」

8. シナリオ 2016年2月号

中井戸と富田「 ( 悪態をつづけようとするが ) 思いだしたように靴の汚れを拭く高橋と、テレビ画面 ( 深夜 ) ・ ( しみてきてしまう )_ 失笑する升本。 戦闘のスチール写真や、日本人や欧米人 とり残された升本、一一人を鼻で笑って出 ビジネスマンで混乱する空港をバックに、 ていく。 OZZ のアナウンサーがまくしたてる。 洞窟の中 ( 夜 ) 高橋、ためすようにスイッチに手を伸ば 升本はウイスキーのミニポトル空にして、アナウンサー「本日、六時、現地時間 すと、中井戸が止める 寝入っている の正午に、南西アジアのタルキスタンで 歌「子供が育って年をとったら、俺より先 高橋が不気味に見やる先、中井戸と富田 クーデターが勃発しました。現在、ムイニッ に死んではいけない。たとえわずか一日で が手帳にむかっている ト将軍率いる政府軍と反乱軍が激戦をつづ もいい、俺より早く逝ってはいけない」 真剣な顔の富田の手元をのぞきこむと、 け、内戦状態に突入しています。現地駐在 眼をうるませた中年二人にゾッとし、高 『富田優子殿、武殿、春恵殿』とあって、 の外国人はほとんど空港に待避したとのこ 橋も洞窟を出る。 富田、狼狽して隠す。 とですが、三人から五人ほどの消息が不明 歌「なにもいらない俺の手を握り、涙のし高橋「よしましようよ、縁起でもない」 とのことです。各国の救援隊は現在 : : : 』 ずくふたつ以上こほせ。お前のおかげでい しかし中井戸と富田、頑なにペンを走ら ここは美由紀の部屋、早ロの英語を背に、 い人生だったと、俺が言、つからかならす言 せつづける。 美由紀が毛抜きで足のムダ毛を処理しな 、つ、カ、ら : がら電話にまくし立てている 美由紀「そうよ、信じらんない。クロ 1 ズな 珊瑚礁 ( 夜 ) 高橋が波うち際をジープで疾走する 洞窟の前 ( 夕方 ) んだって芝浦のゴールド。ホント青春終 升本の横で、鞄から井関のファミコンを なにもかも忘れたい、サンドバギーのよ わったって感じ。ひさびさにショックよね」 出し、汚れを拭う高橋。 、つに岩で跳ね、窪みでジャンプし、そし 世界のニュースを背に、日本のニュース 高橋「 : : : ほんとうにまちがえたのかな」 てと、つと、つ、海につつこんで動かなくな にため息ついている る 升本「 ? 」 高橋「ラジオ。タルクじや戦闘はないって タルクの戦闘で半島のむこうの空が赤く 珊瑚礁 ( 深夜 ) : もしかして、井関さんはほっとけなく 染まっている 時間がたち、潮が満ちて車は半分水没し ている。 もぞもぞと手帳を出す。 升本はさ、んぎるよ、つに 、ただ小さく微笑 抵抗あるけど、やつばり書き出してしま 高橋、手帳に夢中で書いている、へたく んで見せる 、つ・・・・・・「倉本美由紀様』。 そだけど美由紀の全裸図だ。 高橋「 : : : ( も黙って、微笑み返す ) 」 乳首を描くときは至福の表情になる。

9. シナリオ 2016年2月号

同・廊下 カツツ『 (v) ( それを止めて ) 非常時だ、傍富田「 ( ごくりと唾をのんで ) 訳せ、早く」 出て来た高橋、一転して、これで帰れる、聴される。デジタル無線を使え』 升本「こちらはタルキスタン正規軍放送、国 タップを踏む。 ガルシアスは部屋の隅に走り、デジタル 賊ムイニット独裁体制を倒すべく、本日正 電話を探し、受話器を取るが、無音だ。 無線機のキーを叩き、手短かに交信する。午、放送局ならびに陸軍施設の一部を占拠。 廊下にいた兵士『どうした』 カツツが、それを受けて口早に命令する。 第三部隊のアタュル大尉は協力を表明、市 高橋『また交換手の昼メシか、断線か』 生き残った軍人たちが高橋たちをつき飛民から搾取し私服をこやすムイニット打倒 兵士『軍用電話だぞ、特別回線だ』 ばして駆けだしていく のため : : : 」 訝しい顔になり、近づいてくる。 高橋・中井戸・富田・升本「 : : : 」 中井戸「・ : ・ : クーデター」 修羅場に残される 高橋「 ( 実感がない ) クーデター ? 」 同・広間 足元の軍人が、呻いて、息をひき取る 中井戸「反政府ゲリラに軍の一部が便乗した 、ツピ ハースディが佳境だ。 四人「 : : : ( 棒歩きで、あとじさる ) ー んだ」 声を張って唄、つ富田、そして酒をあおる 富田「オランダから独立以来、二十三回目か、 中井戸。 同・前の道 ムイニットだってクーデターでおさまった一 ろうそく カツツがケーキの蝋燭をふき消した瞬間 軍人を乗せたトラックやジープが轟々と クチだ。あと二年はもっと思ったが」 ドカン ! 轟音がして、道に面した 街にむかっていく。 高橋「今夜のダッカ行き、飛びますか」 壁が崩れる 「乗せてくれ ! 」 富田「 ( 呆れ ) 救援機が飛ぶよ、運が良けりや 半壊した別荘から駆けだしてきた日本人ね」 表の道、走りぬけるワゴン車の窓から無 四人は叫ぶが届かず、必死に走るしかな中井戸「 ( 地図を広げ ) 日本人、とっくに避難 反動砲がっき出している、もう一発。 してるぞ。空港まで十キロないな。歩こう」 仰天して飛び込んで来た高橋の眼前で爆 一同が立ち上がる る 発し、兵士数人が転げ死ぬ すこし離れた街道沿い 高橋「なんで一日待てないんだ : : : 嘘だろ て き高橋「 ! 」 四人がカつきて座りこんでいる。 土煙の中に、悲鳴と呻きが渦巻く。 富田「 ( やっと ) ゲリラ : : : か ? 」 ひとり混乱しているが、はたと我に返る ん み ガルシアスが電話を取り、舌打ちする 中井戸、思いだしたように鞄から携帯ラ高橋「・ : ・ : 井関さん」 引ガルシアス『 (v) 切断されてる』 ジオを出す。 トランシーバ ーを出し、スイッチを入れ 早ロのタルキスタン語が流れだしてくる。高橋「井関さんどうしますか」 よ、つとする 升本「 ( 耳を傾け ) : : : おつばじまったか」中井戸「井関って、海老か」 0

10. シナリオ 2016年2月号

でも働くんだよ身体がひとりでに。 : : : 勝指揮官『 ( その前にコインをしまい ) 悪運が 見て、高橋、愕然とする。 セ 1 ナだ。 手に殺しあえ、政府もゲリラも関係ない、 強いな』 金払う奴が神様だ。メイド・イン・ジャパ 高橋たち「ーーー , 一 高橋「セーナ : ・ ンだ ! 」 指揮官 f(—) ( 兵士に ) 奴を解放しろ』 セーナ f(w) ( も、唖然 ) なにしてんだ、こ こぶし大の石を擱み、にふりかざ 副官を従えてバラックに戻って行く んな所で』 して壊そうとする ので、四人は放心する 高橋「 : : : 商売』 荒い息で指揮官を睨む 監禁バラックの前に兵士がやってくる セーナ、よくわからないまま、苦笑する 小屋の鍵がはすされる、中井戸も、そし 思い出したように、ポケットからバンダ 中井戸「 ( ただただ、高橋を見つめる ) 」 て高橋たちも信じられない ナにくるんだ包みを渡す。 富田と升本「 : ・・ : 」 井関の時計、手帳、結婚指輪・ : 中井戸は立てない、戸口、そして階段を 副官が腰の拳銃に伸ばそうとした手を、 這い降りる 日本人たち「 : ・ 指揮官が止める まぶしい太陽を見あげ、なにもかも嘘の高橋『 ( 握りしめて、セーナに ) ありがとう』 よ、つだ。 高橋の前にゆっくり歩みよる セーナ「 ( 頷く ) 』 指揮官『日本の身勝手な援助の三菱トラック 高橋が駆けより、身体を支えてやる。 升本「・ : ・ : さあ、行くぞ」 オート三輪に乗りこみ始める。 が軍用に改造されて、私の部下がずいぶん中井戸「・ : : ・ ( ありがとう、と言いたいのだ 殺された』 けど ) 」 富田は、中井戸を無理矢理に運転席に座 高橋たち「 : : : 」 苦痛と感動で言葉にならない らせる 指揮官『が : : : 君たちの勇気には敬意を感じ高橋「 ( 頷きかけて ) 」 高橋はセーナになにを言っていいのか言 葉に困っている。 る。チャンスをやる』 中井戸を背負うように、歩き出す。 高橋たち「 : : : 」 中井戸「 ( やっと ) ばかだな、お前ら」 セーナ『 ( 疲れた顔に、精一杯の微笑で ) 今 る 指揮官『 ( コインを出し ) 表なら、君たちの高橋「ばかに言われちや世話ないですよ」 度は俺のリゾートホテルで会おう』 て き勝ちだ』 中井戸は、升本、そして富田に、言葉に高橋『 : ・ : くたらない夢だ』 事な できない眼をかざす。 高橋たち、息を詰める。 セーナ「 ( 瞬間、頬が強張る ) 』 ん み 指揮官、コインを投げ、掌に受ける。 中井戸と富田「 ( それぞれに ) ・ 高橋「君に持てるのは、せいせいリゾートコ ジャングルからおんばろトラックが走っ 引副官『 ( そのコインを見て ) ・ テッジだ』 てくる 高橋たち、近づいて、恐々コインを見よ 一一人は笑い、そして握手をかわす。 、つとすると、 傷ついた兵士たちが降りる、その一人を 高橋は未練を断ち切って歩きだそうとす 冖 /