清春 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年2月号
26件見つかりました。

1. シナリオ 2016年2月号

がない」 埋めた」 清春「 ( 朝海に ) なんでも好きにぶちまけろ。 清春「 : : : タイムカプセル」 帰るぞ」 〇 同・改札ロ 朝海「高校を出る時に集まって掘り返そうつ 朝海が清春の手を激しく振り払う。 四人が出てくる て約東した」 本気や香雅里が朝海を護るように立ち塞 朝海「本気くん・ : カる 清春が、「 ! 」と、朝海ら四人を見る 香雅里「うわ、ださつ」 香雅里「完璧に忘っちえだのに、本気に呼び 清春は当惑し、困惑する まったく似合わないスーツとネクタイ姿出されでさ」 の本気が立っている。 本気「福島さ残った奴。県外さ避難した奴。〇 山間の道を走るバスの中 本気「 ( 照れ臭そうに、手を挙げる ) よ クラス十八人さ連絡して、集まったのが、 ガランとしたバスに、散らばって座って お帰り」 このバカ四人」 いる五人 清春だけが、怪訝に周囲を見回している 清春は唖然としているが、やがて、重要朝海「あ」 のぼり なことに思い至る 窓の外を何本もの幟が流れていく 駅前のバス乗り場 清春「小学校は : : : 制限区域に ? 『除染作業中』、『町土の除染なくして復一 五人と数人の客がバスを待っている 本気が、なせだか得意そうに頷く。 興なし』、『帰れる日思い願って除染作業』囲 朝海が、やっと清春に知らせてやる。 清春「危ないよな、それ」 といった文字と、延々と積み重ねられた 朝海「同級生なの、あたしたち」 廃棄物を入れた黒袋 本気「 ( まだ清春の素性を知らない ) : : : お 朝海「テレビと同じ : : : 」 清春は本気を無視して朝海の肩を掴む。 清春が朝海の隣に来る 〇 富波町立小学校の教室 ( 六年前 ) 清春「帰ろう」 清春「タイムカプセルに、なに入れたんや ? 十数人の生徒の昼休みの喧騒 朝海「 ( ゲンナリする ) だから言いたくなかっ朝海「 : : : 忘れたのですよ、それが」 朝海と香雅里が騒ぎ、本気と勝が格闘技た。邪魔したら : : : ( ことさらの大声で ) 清春が呆気に取られる の真似ごとをする 先生があたしに手を出したこと、ぶちまけ朝海「忘れちゃった。なんであの町に行くの 朝海の声「六年前・ : 。福島県福原郡富波町 る」 かも分からない : でもこれは必要なこ 立小学校六年一組」 客たちが、驚いたように清春に注目する とで、それは確かなんだ」 ・・マジ ? げえ、清春「ーーー」 香雅里「 ( も引く ) え。 〇 駅前のバス乗り場 先生って、マジでガチで ? 」 香雅里がバッグから出したマスクを着け る。 朝海「卒業式の後、校庭にタイムカプセルを本気「 ( 顔が険しくなる ) ・ 〇 けげん ・ : へえ」

2. シナリオ 2016年2月号

清春「」 〇神戸線の車内 朝海と勝が乗る 閉まろうとする扉を肩で押し開けて乗り 込んでくる清春。 ・ : なんでっ」 朝海「 ( びつくり ) 勝は興味なさそうに一瞥するだけだ。 清春「 ( 朝海に ) どこ行くんや」 朝海「 : : : 六年前」 清春が混乱を隠せない顔になる。 朝海「本気くんから、タイムトラベルをする 清春「分かるように説明しなさい。 ( 勝を窺っ て ) 彼は ? 朝海「佐藤勝」 清春「 ( 苛立っ ) 何日も部活に来おへん。電 話に出えへん。トイレで私服に着替えて、 サトウマサルとなにするんや ? 」 朝海「 ( 呆れ返る ) : : : 尾行してたん ? 」 朝海は勝を引っ張って車両から車両へと 歩き、清春が追う。 清春「 : : : ( わけが分からないまま、尾ける ) 」 改札付近でキョロキョロしていた朝海は、 「 ! 」と、一人のもとに走り寄る ヘッドフォンで音楽を聴いている勝に話 しかけている。 勝は薄く失笑しているばかりだ。 横浜駅 ( 深夜 ) ホームはこの時間も混雑している。 〇 米原駅の構内 5 ホーム 朝海が勝の腕を掴んで走り、清春が追う。〇 東海道線の車内 ( 深夜 ) 朝海「ここまでにしてください」 朝海「時間と号車は伝えたの。四年ぶりやも ん、一緒に探して」 清春「 ? 」 スマホをプラウズして、ボーツと立って 朝海「ちっと分かっちゃったんよね。・ : ・ : あ たしと先生は違う」 いる勝に押し付ける。 清春「 ? 」 清春「 : : : ( 覗き込む ) 」 発車のチャイムが鳴る中、清春は、朝海 いくつかの記事、制服姿の清楚な女子高 と勝が乗った東海道線に飛び込んでくる。 生の写真と、『震災に負けず、看護師に 清春「どこ行くんや」 なって福島の復興に役立ちたい』などの 朝海はウンザリする。 見出し。 清春「 ( 名前を読む ) 橘 : : : 香雅里 ? 走る東海道線の中 「朝海 ! 」 ポックス席 という嬌声が弾けて、乗り込んで来た茶 髪でピアスだらけの香雅里が朝海に飛び 朝海は漫画に「 ( よだれが ) じゅるり」 つく。 と没頭し、勝は虚空を睨んでヘッドフォ ンの音楽に聴き入り、清春は所在がない。朝海「香雅里引 ( 記事と見比べて ) 派手くな い、きみ ? 」 富士山 ( 夕方 ) 香雅里「気のせい。あるいは、気のせい」 東海道線の鈍行が走っていく。 笑、つが : : : 勝に気づいて真顔になる。 香雅里「 : : : 勝。・ : ・ : 来たんだ、あんたも」 走る東海道線の中 ( 夜 ) 勝は応えず、閉まった扉にもたれて音楽 朝海も清春も勝も、器用に身体を押し込 を聴く。 み合って眠っている 朝海「 ( 香雅里に ) 勝、カッコつけて喋れへ んのよ。むかしはバカばっか言ってたのに」 〇 〇 〇 〇 8

3. シナリオ 2016年2月号

アスカさんは不可解そうに、ジャケット 朝海と清春が、から大音量で流れる ぶつ倒れた高速道路、ビルが横倒しに 姿の清春を凝視する なった三宮あたり、火災が広がりほうほ 『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』に合わ 清春「 ? 」 せて叫ぶように唄、つ うから黒煙が吹き上がる : アスカさん「どうして一人だけおっさん ? 」清春「 ) 昨日のあなたが偽だと言うなら」 清春の声「あんまし、覚えてへん。先生は五 清春「いや、僕は : 。 ( あちこちのポケッ朝海「 ) 昨日の景色を捨てちまうだけだ ! 」 歳やったから覚えてへんねゃ。気イついた トを探る ) 名刺が」 清春「 ) 新しい日々をつなぐのは、新しい君ら : : : 」 本気「世も末だ。教え子に手を出した高校教と僕なのさ」 電子ピアノの伴奏が聞こえてくる 師」 朝海「 ) 僕等なぜか確かめ合う、世界じゃそ 清春「 ( うろたえる ) 本気くん ! 」 れを愛と呼ぶんだぜ ! 」 避難所になった小学校の校庭 ( 1995 朝海が爆笑して、唖然としているアスカ 朝海はハンドルを握る清春を引き寄せて、 年 2 月日 ) さんに釈明してやる 頬に唇を押しつける。 音楽に導かれて校舎から出て来る清春少 朝海「朝昼晩深夜、山ほどラブメールを送っ 年 ( 5 ) とミドリ ( ) 版 たのはあたし。半年間」 神戸の私立女子高の音楽室 場 音楽教師が電子ピアノを弾き、教え子数一 劇 アスカさん「うほっ」 十人が唄う 時間に遅れた朝海が、後部扉から足音を と 忍ばせて入る 合唱「 ) 地震にも負けない、強い心をもって。一 神戸の私立女子高・外観 ( 十日ほど前 ) 『春☆合唱部お別れ会』と板書している亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生 て し 清春 きてゆこう」 愛 同・廊下 清春「今年のお別れ会はな、い つもと違う歌 被災者たちが、それぞれの思いを胸に聞 き 朝海と同級生 < とが、漫画を取り き入っている にしたいんや」 生 合い、萌え騒ぎながら歩いてくる 合唱部員 < 「直太朗やろ ? 『さくら』」 合唱「 ) 傷ついた神戸を、もとの姿にもどそ 音楽室から出てきた清春とすれ違う。 「くるよね、あれはあたし去年、号泣」 う。支えあう心と明日への、希望を胸に」 一瞬ーー朝海と清春は、それぞれの指を清春「変えたいねや、今回は二十年やから清春の声「震災の日から、火事の音、サイレン、 絡ませ合う 初め な。阪神淡路大震災から」 ヘリコプター、泣き声ばっかり : なにごともなかったよ、つに、両者は離れ てきれいな音を聞いたんや」 合唱部員たち、そして朝海が、キョトン ていく と清春を見つめる 清春少年の頬を、幾筋もの涙がったう 手をつないでいるミドリは無感動で、表 情が変わらない。 1995 年 1 月日早朝の神戸 〇 走る車の中 ( 一週間前の日曜日 ) 〇 〇 〇

4. シナリオ 2016年2月号

朝海「 : ・ ( 清春の優しさと無神経さに、複 雑な思いが渦巻く ) 」 絶句したミドリから、清春は朝海を引き〇 神戸の私立女子高の音楽室 ( 三日前のタ ミドリは話題を変えたくて、微笑んで朝 戻す。 方 ) 海を見る。 清春「朝海ツ」 清春が合唱部員たちを指導している ミドリ「聞いたよ、清春から。 ( ほかの客を朝海「富波町の被害って、神戸みたいにちや合唱「 ( まとまりがない ) ) 地震にも負けない、 気にして声を潜める ) あそこの出身なんや らくない」 強い心をもって : : : 」 清春「 ( 激昂する ) ちゃらいってなんや 清春が窺、つ いつも朝海がいる所は、 コーヒーをかき混ぜていた朝海の手が止 うちは一瞬で瓦礫になった」 空席だ まる。 朝海は、クしまったクという顔になって いる ミドリ「 ( さらに声を落とす ) 避難して来はっ 繁華街 ( 昨日・ 1 月田日土曜日の午後 ) たんよね ? 」 ミドリや清春、こちらを見る客たちを正 清春が歩 , 、ーーー学校帰りの朝海を、離れ 視できない 朝海「 : : : なんで小声なんですか ( 憤りが て追っている 朝海は立ち上がり、逃げるように出て行 場込み上げる ) 水素爆発の時、あたしは富波 清春は朝海に近寄るが、なぜだか声をか一 町にいました。福島県福原郡富波町にいま けづらい と した」 清春「朝海 ! 」 携帯を出して発信ボタンを押す。 「富波町」と「福島」に、特に力を入れる 荷物を取りまとめて、じたばたしている 朝海はコートのポケットからバイプして 歌 し朝海「微妙ですよね、息子の彼女が福島産っ いるスマホを出し、発信者を確かめて電 愛 て。今度親戚に頼んで桃を送ります。検査〇 歩道橋の上 ( 時間経過・夕方 ) 源を切る。 て き してますよ。でも口に入れるの、恐いです 夕日が街を染めるのを、痛い胸を抱えた清春「 : : : ( 白い顔になる ) 」 生 よね」 朝海が眺めている 清春は切実な面持ちで朝海を追、つ ポケットからバイプしているスマホを出 Ⅸミドリ「 ( 当惑しながら ) 食べるわ、わたし」 朝海「ぜったい捨てる」 す。 神戸駅の構内 > ミドリ「食べます」 朝海「 ( キョトンとした顔になる ) : : : 本気 トイレから出て来た朝海は私服だ。 朝海「食べるんや。 ( 止まらなくなる ) 優し くん ? 」 い人やと思われたいから勇気を出す。味よ メッセージの冒頭は、『タイムトラベル 朝海は制服を入れたらしい大きな紙袋と り自分にウットリする。桃は踏み絵ゃない、 のお誘い』。 学生鞄をコインロッカーに入れ、リュッ いい人ごっこの道具にせんといてくださ朝海「 : ・ ( 目をばちくりさせる ) 」 クを背負、つ 〇 清春「 : 〇

5. シナリオ 2016年2月号

モニタリングボストが線量を表示する道 朝海「 ( つもりゃんに ) なに ? なに つもりゃん「カウントダウンて、盛り上がる 朝海が扉を開くと、暗い路地にサイン を、二人が歩く やろ ? だから五分に一回カウントダウン ポールが倒れている 清春「傷ついたふるさとを、もとの姿にもど してるんや。そうと思えば楽しい、つもり」 寒々しく鳴るのは、 fYes. We are OPEN! 』 そう。 : : : 朝海に唄わせるのは、暴力や」 歌手「 ) 男のつもりと女のつもりの、掛け算 の札 朝海「 ? 」 引き算足し算割り算。愛し合ってるふたり 清春「お別れ会の歌 : : : 「さくら』にしよう。 の、つもりー 〇 森山直太朗の」 洋品店『鄙稀 (hinaki) 』の前 ( 深夜 ) 朝海が、信じられないように目を見開く。 朝海と清春が歩いてくる。 朝海「 ! 」 櫓の歌手の横で太鼓を叩いているのはア朝海「ご紹介します ! あたしんち」 やっと分かって貰えて、朝海は嬉しく、 スカさんと漁師さんだ。 清春「 ( 看板を読む ) ヒナ : : : キ ? 有り難い ひな 朝海「漁師さん : ・ 朝海「母さん神戸出身だから、「鄙には稀な』朝海「ありがとう。 : : : 先生、ありがとう」 一一人の睦まじい姿に、歓喜が込み上げる。 って、田舎バカにした名前付けた。神戸に 清春が朝海の手を握る。 つもりゃん「 ) 311 はなかったつもり、地避難する時もラッキーってノリだった」 朝海はふいに跳ねて、清春の頬にキスを一 清春は苦笑する。 する。 震も津波もないつもり。日本はひとつであ るつもり、それで安心な : : : 」 朝海「避難て、そんなの二、三日だと想って やがて清春が、ゆっくりと真顔になって一 た」 朝海「 ( 今度は嬉しく跳ねて ) ) つもり ! 」 歌手「 ) 地球はいつでも回ってる、みんなは 朝海は鍵を取り出して、戸口に近寄る。 次のことを誰かに告げるのは、清春に つもりで歩いてく。そういうつもりで眺め朝海「 : : : ただいま ( そう言いかけて、ロご とって初めての経験だ てみれば、僕らはみんな生きている」 もってしまう ) 」 長い間、躊躇している 花火と群舞、漁師さんが生き生きと打っ清春「 ? 」 清春「震災で : : : 兄貴が死んだ」 太鼓ーーー。 やがて、朝海は家を背にして歩き出す。朝海「ーー ( 自分の耳を疑う ) 」 清春「 ( 入らなくて ) ええの ? ・ : 四年ぶ清春「ひとつ上の、兄貴が」 〇同・店内 ( 深夜 ) りやろ ? 」 扉に手をかけて幻想に浸っていた朝海が、 朝海は振り向かないで歩く。 〇 避難所になった小学校の校庭 ( 1995 ビクッと強張る 清春「・ : ・ ( なんとなく、気持ちを察する ) 」 年 2 月日 ) 隣に来た清春が、案じるよ、つに肩に手を 音楽教師が電子ピアノを弾き、教え子た 置いたのだ。 ちが唄、つ 〇道 ( 深夜 ) まれ -0

6. シナリオ 2016年2月号

合唱「 ) 響き渡れ、ばくたちの歌。生まれ変てほしい」 ゲート ( イメージ ) わる、神戸のまちに。届けたい、わたした 清春は、歌詞を刷ったプリントを凝視し 一本の道を遮断するゲート ちの歌、しあわせ運べるように : ている朝海をちらと見る 降りしきる雪の中、警備員姿のつもりや んがゲートを閉める 清春「超えられへん壁はない。 ・ : お別れ会 復興の様子 では、『しあわせ運べるように』を唄う」 朝海の朗読「傷ついたふるさとを、もとの姿 避難所のドラム缶の焚き火、高速道路の 朝海がふいに立ち上がり、紙をふたつに にはもどそ、つ」 引き列衣 / 、 撤収、瓦礫の集積、ルミナリエでこの歌 を合唱する児童たち・ : 清春と部員たちの注目を浴びた朝海が、〇『 LIVE! LOVE! SING! 』の店内 ( 夜 ) 合唱「 ) 地震にも負けない、強い絆をつくり 言い放っ 朝海「 ( 清春に ) いっ ? ( 表を指す ) どうやっ 亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生朝海「 : : : 唄えません」 きてゆこう。傷ついた神戸を、もとの姿に清春「 : もどそう。やさしい春の光のような : ・・ : 」 朝海「先生のお母さんも言ってた。忘れたい LIVE! LOVE! SING! 』の店内 ( 夜 ) って」 〇 神戸の私立女子高の音楽室 勝もピザを貪るように食べ、店内は静か になっている 清春「『しあわせ運べるように』を作ったん 神戸の小さな喫茶店の中 ( 五日前 ) は被災した教師でな、それで先生は先生にアスカさん「その歌とこの冒険、どう関係あ 清春と朝海の前に、オーナーのミドリ ( 現 なりたいと思たんや。 : : : 神戸の小学校に んの ? なんで来たの ? 」 在浦 ) がカウンターの中からコーヒーを かよ まぢ 通た人は音楽の時間に唄たはずや」 本気「こご、俺らの町だがら」 置く アスカさんが驚いて一同を見る < 「 ( にく ) 唄た ? 」 「『しあわせ運べるように』 ? わた 「 ( 囁き返す ) 唄た」 本気が、朝海が、香雅里が頷く ( 勝はピ し苦手や、あの歌寒い避難所やら仮設を < は覚えていないらしく、周囲の数人と ザを食べている ) 。 思い出してしまうんやもん」 首をかしげる アスカさん「そんじゃ : : : 四年前に、こごが清春「 : : : お別れ会に来てほしいんや。おか 清春「二十年前はみんなが産まれる前や。で んにも」 も乗り越えてきた人たちがおるから、いま 朝海がキーポードを人差し指で弾く がある。 ( 黒板に書いたふるさとバージョ朝海「 ) 傷ついたふるさとを、もとの姿にも清春「朝海に唄てほしい、 おかんに聴いてほ どそう」 ンの歌詞をなぞる ) 傷ついたふるさとをも しいもう、過去のことや」 それは二人に対する、清春の願いだ との姿に戻した根性を胸に刻んで、卒業し 〇 〇 〇

7. シナリオ 2016年2月号

くたさい 朝海「先生。 いる 清春「無理すんな。時間をかけて、いっか痛清春「ーーー」 モーさんの姿は、なせだか、見当たらない みを忘れたらええ」 「しあわせ運べるように』の伴奏が流れ 朝海はもどかしい 出す。 〇 砂浜 朝海「神様なんかいねげど、祈る人の中には アスカさんが海を眺めている いる。あたしは祈りたくて、ずっと祈って、〇神戸の講堂 ( 2 月日の午後 ) 合唱「 ) 地震にも負けない、強い絆をつくり。 祈りだい : 生徒や父兄や地域の人々を前に、清春の 亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生 朝海はセロテープを外し、ガチャポンを 指揮で合唱部が唄う きてゆこう」 < とも大きな口を開けている。 子供たちの笑いはしゃぐ声が、荒涼とし合唱「 ) 地震にも負けない、強い心をもって。〇 神戸の講堂 た空間に流れ出す。 亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生 朝海が唄う 朝海「 : : : ( 泣き笑いする ) 」 きてゆこう」 合唱「 ) 傷ついたふるさとを、もとの姿にも 本気「 : : : ( 男泣きする ) 」 朝海が一番大きな声で唄っている。 どそう。やさしい春の光のような、未来を一 香雅里「 : : : ( 手紙に顔を突っ伏して泣く ) 」朝海「 ) 傷ついたふるさとを、もとの姿にも夢み」 勝「 : : : ( 写真を抱き締めて泣いている ) 」 どそう。支えあう心と明日への、希望を胸 清春だけはなにも感じられず、取り残さ 旅の終わりの本気 ( 朝海の主観 ) れて立ち尽くしている 指揮をする清春の背後ーーーそっと会場に 東北本線が小さな駅を発車する。 清春「 : ・・ : どうした、朝海 ? 」 入って来たのは、ミドリだ。 本気はホームを全力疾走して、朝海たち 朝海がきつばりと止ロげる。 合唱「 ) 響き渡れ、ばくたちの歌。生まれ変 に手を振り続けた。 朝海「こごは復活する」 わる、ふるさとのまちに。届けたい、わた合唱「 ) 響き渡れ、ばくたちの歌。生まれ変 清春「ー」」 したちの歌、しあわせ運べるように」 わる、ふるさとのまちに。届けたい、わた 朝海「そ、ついう : : ) っ・も・り」 ミドリは立ち見の人々の後ろから、心な したちの歌、しあわせ運べるように」 清春には朝海の心が見えない。 しか柔らかい顔で、指揮する息子の背中 清春「 : : : つもりって、なんや ? 」 を眺めている 旅の終わりの香雅里 ( 間奏・朝海の主観 ) 朝海はいま、明確に、知る。 横浜で東海道線を降りながら、香雅里は 朝海は清春を仰ぐ。 牧場 ( 間奏 ) 朝海に投げキッスした。 淋しそうに微笑んで、ロを開く。 腹を減らした牛たちがモーモーと鳴いて なが 〇 : さよ、つなら」 〇 〇

8. シナリオ 2016年2月号

の前に走り込む。 カラーコーンやゴミ箱などを次々に倒し 合唱「 ) 地震にも負けない、強い心をもって。 亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生 て回り、「お前なあ ! 。と片付ける清春と、アスカさん「 ? 」 おか 朝海はなにをどう言っていいのか分から 可笑しそうに追いかけ合っている きてゆこう : : : 」 ず、思ったままを伝える 泣いている清春少年と、無表情なミドリ。 朝海「見つかる。漁師さん、きっと見つかる」 沿岸地区 ( 翌朝 ) おんばろのワゴン車が走ってくる。 アスカさん「 〇もとの道 ( 深夜 ) 朝海「見つかるよ。そうして、すっとアスカ 朝海「 : ・ ・ ( 言葉を失くしている ) 」 さんのそばに 砂浜 ( 朝 ) 清春「おかんはいまでも僕をちゃんと見いひ〇 アスカさんはいきなり朝海を引きずり倒 ワゴン車が停まる。 ん。兄貴が重なるからや」 運転していたアスカさん、そして朝海、 して、髪を掴んで揺する。 朝海「ーー」 アスカさん「見つかるって、なにが ? 見つ 清春、勝、香雅里、本気が降りる。 清春「分からんようなる。生き残ったんが、 かるわけねえべ ! 」 アスカさん「じゃあね」 自分でよかったんか ? 」 版 砂を掴んで朝海の顔にこすりつける。 朝海たちに礼を言、つ隙も与えず、タタタ 怒りと悲しみが突き上げて、路上の看板 場 劇 アスカさん「見つかった瞬間に終わる。この と浜へ降りていく。 などを闇雲に蹴飛ばす。 クソみでえな景色が本当になる。悪い夢が一 と清春「僕がおるだけで、おかんの傷を開いて朝海たち「・ : : ・ ( 拍子抜けして、取り残され : 見つかってたまっかー 現実になる。 血まみれにする。 いつになったら終わ る ) 」 歌 て 本気「 ( 大声で ) ありがとう ) 」ざいました ! 」見つけでたまっか ! 私はもう、私がなん んねや、震災って」 し 礼をし、朝海たちも頭を下げ、本気を先でなにしてるのが分がんねえ」 て朝海「 : : : 地震だ」 朝海の顔に、アスカさんの涙がポトボト 頭に歩き始める。 爨清春「 ? と垂れる 瓦礫をまたぎ、砂に足を取られながら進 朝海「あたしたちの足元だけ、まだ地震なん む。 朝海が半身を起こし、泣きじゃくるアス 力さんを抱く 朝海「 : : : ( 振り返る ) 」 ーー遠くの清春たちは、放心して二人を アスカさんは瓦礫を動かし、棒を手に 少し落ち着いた清春は、蹴り倒した看板 眺めている 取って砂をほじくっている やゴミ箱を片付け始める 全身で泣くアスカさんを、朝海は抱き包 朝海はいたたまれなくなって、駆け戻る。 朝海「教育者やなあ」 むことしかできない おかしみが込み上げて、ふつふっと笑う。清春「朝海 ? 」 驚いた四人から離れ、朝海はアスカさん 朝海「ほれ。先生、ほれ。こっちも、ほれ」 〇

9. シナリオ 2016年2月号

さんの腕を撫でる くつも転がっている 清春がいつばいに延ばした手を、勝が掴 香雅里「入りだいんですよお。入っちえなあ、 む。 朝海、香雅里、清春、本気が乗り込み、パッ 町に : ・・ : ど、つしても クの陰に隠れる。 清春「 ( 踏ん張る ) 勝くんっ ! 」 モ 1 さん「悪いごどは言わねえ。 ・ : 悪いご香雅里「 : : : 勝がこの旅に参加したごど自体、 みんなが引っ張って、勝が荷台に転がり どは、モーさん言わねえど びつくりだった」 込む 勝「 ( 肩で息をしながら ) ごめん。 「男子 ! 」 香雅里「勝ン家、海沿いで、津波で流されだ」 めん」 香雅里がトラックを背に駆けて来る。 本気「面倒くせごどすんな、お前」 香雅里「バカ、ゲット ! 乗せでくれるって ! 香雅里「家と親」 勝「 ( ただ、くり返す ) ごめん。 朝海が捕まえでつけど、フェロモン足んな清春「 ! 」 香雅里が勝の頭を、ばんほんと撫でてや いがら早ぐ ! 」 る。 朝海も、本気も、初めて知って言葉を失っ いぶか 香雅里が訝しい顔になる。 ている 朝海と清春の目が合う 清春が見守る中、本気と勝が睨み合って香雅里「戻りたいけど見だくない。見だいけ なにか柔らかい気持ちになって、二人は一 いる ど戻れない。 : どっちも本当なんだよ。 笑い合う 本気「 ( 香雅里に ) 勝が帰るって言うんだ」 勝は、これでよかった」 勝「 ( 平然と ) だって、寒くね ? 本気「 ( 目を泳がせて、気づく ) : : : 勝 ? 」〇ゲート 本気「はああああっふざげんなよ、お前 脇道から飛び出した勝が、トラックへと モーさんが差し出す通行証と運転免許証 ビビってんのか、いまさら」 走ってくる。 を、つもりゃんと警備員がチェックする 香雅里が本気を止める。 香雅里「勝」 つもりゃん「荷台は稲パックですね。ご苦労 香雅里「いいじゃん。 : ビビってんの連れモーさんの声「いいがあ ? 出発すつどお ! 」 さまです、入ってくんちえ」 てったら、足手まといだし」 トラックが動き始める。 ゲ 1 トを開けて、礼をする 本気「ーー ( それはそうだが、釈然としない ) 」朝海「 ( 運転席に叫ぶ ) モーさん ! モーさ のんき 呑気に空を眺める勝を、清春がじっと見ん待って ! 」 走るトラックの荷台 つめている 勝が全力で走る。 ゆっくり走り出したトラックの荷台で、 本気が、続いて清春が身を乗り出して腕 全員が息を詰めている。 〇トラックの荷台 を差し出す。 朝海がそっと幌を開けてーー慄然とする。 幌で囲われた空間に大きな稲パックがい 勝が泣きそうに顔を歪めて走る 至近距離で、つもりゃんと目が合ってし 〇 ・ : ごめん」

10. シナリオ 2016年2月号

ガチャポンを閉じ、セロテープを巻いて、 にすんだ」 朝海「 ( 手紙を読む ) 質問。香雅里さん、お いまの空気を密封した。 朝海が次の質問を読もうとするが、香雅 元気ですか ? 」 里は込み上げた涙を拭き、 香雅里「元気だよ。その上、顔もきれいだよ」 〇同・校庭 朝海「 ( 読む ) 郡山に進学する夢は叶いまし香雅里「あどは、自分で読む」 朝海が大事そうにガチャポンを撫でる。 たか ? 」 手紙を取り、鼻をすすりながら読み入る。 清春と本気も、優しい気持ちでガチャポ 香雅里「郡山どころか横浜だよ、横浜。やっ本気「 : : : 朝海」 ンを見る 朝海の袋を手渡す。 たね」 朝海が立ち上がる。 朝海「 : : : あたし : : : なに、入れたんだろう」 朝海「 ( 読む ) もうキスはしましたか ? 」 きやぐ まいにぢ 袋を開く。 いろんな客と」 一階をぶち壊された校舎、荒涼とした更 香雅里「毎日してるよ 5 地に散らばる瓦礫や漁船、すべてが変 ーーー離れた場所で、勝が袋から出したの朝海「 : わってしまった場所を見回す。 出て来たのは、なにも入っていないガ は、お気に入りだったや漫画の単行 チャポンのケ 1 スだ。 朝海はガチャポンを見つめる。 本、そして一枚の写真。 朝海「 : : : 大事な物は、手で掴めない」 場朝海「 ( 読む ) いま十二歳の私に言いたいこ清春「なんや、それ ? 」 劇 朝海は突然、すべてを思い出す。 清春「 ? 」 とはありますか ? 」 朝海「大事な物ほどカタチがない」 こ香雅里「酒屋のおやじは露出狂だからつい ポカンとしている清春に、朝海は告げる。 てっちゃだめ。あとね : : : 」 〇同・教室 ( 六年前 ) 歌 たたず て し 佇んでいる勝の背中を見遣って、答える。 本気が逆立ちをし、足を掴むはすの勝の朝海「『しあわせ運べるように』を唄いたい」 清春は驚く。 顔面を蹴り、勝はのけぞり、本気は机や で香雅里「いま居る場所を、よぐ見て、感じて、 清春「頑張って唄う必要なんか、ないんや」 椅子を倒して転がる 生大事にしよう。そごはつまんねえとごだげ ど、そこに全部があんだ」 十数人の生徒が爆笑する。 朝海「傷ついたふるさとをもとの姿にもどそ : そ、つしよ、つ」 勝は両親と撮った家族写真を手に泣 香雅里が囃し、朝海も手を叩いて笑って いている 清春「神戸はもとに戻せた。ここはーー」 朝海「誰も祈りは奪えない。サンタクロース > 勝「 ( 写真に語りかける ) 全部流されちゃっ朝海の声「雲がかけらもない青空のように、 : ようやく会時間が止まってほしいほど楽しい時があっ だって ( 本気が持っ ) ミニカーだって、信 たから、この一枚だけだ。 て。もうすぐ卒業だから、ずっと、ずっと じることは奪えない。本気くんは何度も火 えだなあ」 この空気の中にいたいと願って、それであ事を消したんよ、本当じゃないけど本当な 香雅里「退屈だろうけど、そこが百点満点で、 の。『しあわせ運べるように』を唄わせて そこが一等賞なんだ。だがらそごを、大事たしは : : : 」 はや