撮るテクニック等々 後年、 Z で『ちいさこべ』 ( 原作山本周五郎 ) の 脚本を手がけた時、映像京都 ( 今は解散した旧大映京都の スタッフたちが作った会社 ) が制作協力してくれて、監督・ 井上昭美術・西岡善信照明・中岡源権という超豪華ス タッフが集結した。その時、病気療養中だった森田さんが 訪ねてきてくれて、「きみのホンで撮ってみたかったなア。 残念だ」と言ってくださった。 その森田さんも、今はもういない ( 2014 年逝去 ) 。 さて『野菊の墓』は、「 # 斎藤家・廊下」からク ランクインした。 朝。 民子 ( 松田聖子 ) が来て雑巾がけを始める。 端から端まで掃いていって、政夫 ( 桑原正 ) の廊下の 前までくると障子を手で叩いて、 民子「コケコッコー、政夫さんまだ寝てるの ? 云うとまた逆戻りして掃いていく。 雑巾を濯いで、またやってくると、 民子「 ( 政夫の部屋を叩いて ) 政夫さん、あたしが拭き終 わるまでに起きるのよ」 云って、去っていく。 再び戻ってきて、 民子「 ( 政夫の部屋を叩いて ) まだ起きないの、政夫さん たら」 云って、去っていく。 またやってきて、 民子「 ( 政夫の部屋に ) 政夫さんの寝呆すけ。今度くるま でに起きていないともうひどいから 幼い時から仲がよかった造り醤油屋の次男坊・政夫の許 に、年上のいとこ・民子が奉公に来た初日の設定で、二人 の心情が次第に恋心に変わっていくきっかけになる重要な シーンである。 いきなりのマスコミ攻勢だった。 カメラが回る本番前だけセット内での取材が許可された が、松田聖子の一挙手一投足にひっきりなしにシャッター が切られ、異様な雰囲気である。それもその筈、前髪を垂 らして決しておでこを見せない「聖子ちゃんカット』を松 田聖子自らが打ち捨て、おでこを初めて見せたからだ。そ んな些細なことでも話題になったのだ。松田聖子おそるべ し。 澤井さんの厳しい演出よ、、 ( しきなり聖子に向けられた。 長い長い廊下を腰を屈めながら拭き掃除するシ 1 ンを、 長回しするというのである。カメラはそれに合わせてレー ル移動するから、要するに聖子のひとり芝居だ。 僕はマキノさんの現場に就いたことはないけれど、さす
仕方なく、ますタイトルバックは、黒バックに野菊の花 一輪を撮ってごまかすことにした。 そ、つこ、つしている内、サンミュージックから、早々と松 田聖子のスケジュールがファクスされてきた。 制作主任と一緒にスケジュ 1 ルを組まなければならない 僕は、一瞥して、絶望的な気分になった。連続して聖子を 撮影出来るのがせいぜい三日、後は見事なくらい飛び飛び で、『 x 月 x 日は二時間だけ撮影可能』などと書き込まれ ている。 だが、結髪 ( 一部はかつら ) やメークだけで準備に一時 間はかかるから、実質、ワンシーンどころか数カットしか 撮れない日が続くだろう。それでいてトータル、聖子は二 週間あまりしかこちらに渡されないのだ。現代劇でアイド ル性を前面に出した企画ならともかく、撮らねばならない のは時代劇なのだ。それにおそらく新人監督はネパりにネ バるだろうし、出来るだけ主役の出演時間を案配してあげ たい。ああ、目の前真っ暗。 ま、それは決定稿が上がってきてからゆっくり考えると して、とにもかくにも今は特報の算段である 気をとり直して聖子のスケジュール表に目を落とすと、 『 x 月△日日比谷野音コンサ 1 ト』と書かれている 「西井さん、撮影班を仕立ててロケ行っていいですか ? 「どこへだ。作品の舞台になる矢切の渡しか ? あんなと こ、今はすっかり寂れちまって」「違います。日比谷の野 音へです」 てなわけで、『ダンプ渡り鳥』で二ヶ月近く北海道・東 北地方ロケを共にした ( というか一緒に温泉巡りを楽しん だ ) 出先哲也カメラマン ( 『ドカべン』『暴走族シリーズなど ) に特別にお願いし、 3 カメラ体制で野音へと繰り出した。 十三年ほど前、完全武装で演壇を占拠する某党派に対し て角材片手に殴り込みをかけた日比谷野音のステージは、 その日は数千本のペンライトに彩られていた。 松田聖子はフリルの付いたぶりつこミニスカートで登場 し、超満員の観衆に応えながらヒット曲のメドレーを歌い 出す。後はカメラマンたちに任せるしかなく、勝負は編集 作業だ。 相手役のオーディション風景と若干の実景を入れた特報一 が完成した頃、決定稿が印刷されてきた。 一読すると、案の定、聖子が演じる民子という主役は出 ずつばりである。 聖子はテレビドラマの端役しかやったことがなく、演技 に関してはまったくの未知数。相手役の桑原正もズプのシ ロウトだ。ああ、難関に次ぐ難関 : すると、澤井さんがスタッフルームに入ってきた。 「どうだ。このホン」「しんどいですねえ」「だろ ? どこ がしんどいー「はア。言わせていただければ、せんぶが 「はは。正直なャツだな。じゃあ、どこをどういう風に直 したらいい ? : こことここ、民子、 「そう言われてもオ :
が澤井さんはマキノさんの直弟子で、自ら雑巾がけの芝居 を演じながらの演技指導。 「最初は声だけで ( 室内でまだ寝ている ) 政夫に呼びかけ る。次は腰を障子にトントンとぶつけてみる。それでも起 きないので、業を煮やして脚で障子を蹴り上げる。最後に は『よ 5 し。怒った』と言って思い切って障子をガラリと 開ける。そこへ兄嫁が来て「なんです民さん、はしたない』 と怒る。それが二人が気持ちを通わせるきっかけになるん だ。判るね、聖子 スタッフ一同、ぶりつ子で生意気だという評判の聖子が どう応えるかに興味津々だったが、 聖子自身、アイドル歌 手から脱皮する勝負作だと考えているらしく、この日から クランクアップまで一度も根を上げることなく、澤井流の シゴキに耐えた。 僕はサンミュージックの聖子担当者、吉田達、演技事 務の和田徹 ( 後に主として吉永小百合企画の ) と共にし んどいスケジュール調整をしながら、澤井さんの構想を清 書して毎朝号外を出すという作業に追われた。 そして残業がない夜は荻窪の旅館に赴き、『大奥猟奇犯 罪史』の執筆。 昼は純愛、夜は異常性愛。まるでジキルとハイド。 問題が起きたのは、無事にクランクアップし、初号試写 を終えた時である。初号を観終えた脚本家の宮内さんが激 怒し、吉田を通じて強権発動をしてきたのだ。 ラストシーンに・、・ O する「さよ、つなら民さん』 AJ い、つス ーを削除しなければシナリオ作協に訴え、ひ いては裁判闘争も辞さないというのである 『「さようなら民さん」は、トップシーンからの僕の演出 の流れの帰結としてあるので、そこだけ取りだして、文句 を言われても困るのですが、シナリオ作りのプロセスでい ろいろあったわだかまりが、最後の最後で感情的に出たの かもしれません。プロデュ 1 サーは、そんなことで揉めて もつまらんから泣いてやれよ、と僕に言う。結局、外した。 「さようなら民さん」があるのは、零号と初号プリントの 二本だけなんです』 ( 『映画の呼吸澤井信一郎の監督作法』 ワイズ出版刊 ) 宮内さんの脚本は一本調子で、年上のいとことの結婚は まかりならぬという封建時代の日本の家制度を縦軸に盾に しているだけで、主役二人の幼くも強靱な感情が十分に描 けていなかった。 酷な言い方をすれば、アイドル映画はこれで良し、と見 下したようなもので、ただ者ではない松田聖子 ( その証拠 に、三十年後の今もトップアイドルである ) を甘く見て、 周囲の状況 ( 時代背景と脇役たち ) から民子と政夫を攻め 上げようとするものだったのだ。 それを澤井信一郎は由とせす、主として民子の心情描写
タ子はゆっくり歩いて、写真が見える位タ子「 ( 引きつった笑いを取り繕って ) 失礼美穂「結真実 ! 」 置に行く。 します」 結真実「 ( スマホを落としそうになる ) æ: 」 タ子「ーー 太壱を引きすって、植え込みの陰に行く。 黒枠の中で笑っているのは太壱だ。 タ子「 : : : 変だと思われた、私にしか見えな〇 同・廊下 ( 夕方 ) タ子は太壱を見るーーー太壱は、照れ臭そ いんだよ。 ( 太壱に ) : : : なに迷ってるの ? 結真実「離してーっ ! 殺す気 1 っ」 うに笑い返す。 とっとと成仏しなよ。悪いけど、もう太壱 とわめく結真実の手を引いて、美穂たち タ子は思わず、一歩、出る。 くんとはロきかない私、私が大ッ嫌い が走る タ子「 : : : 先生」 ・ : 見える私が嫌いなの」 きびす 踵を返して、歩き去っていく。 廣田「 ( 写真のことだと分かって ) ・ : : ・先々 〇同・地下宴会場 ( 夕方 ) 月 : : : 交通事故で」 太壱「・ : ・ ( ポケーツと、見送っている ) ー いまは使われていない、円卓や椅子が散 タ子「ーー らかったカビ臭い空間。 廣田「僕らもショックでしたが : : : 気の毒な〇 チサンホテル上野・外観 ( 夕方 ) 結真実、美穂、明菜、聖子が床をきしま のは、お父さんです。息子さんの死を受け せて上がるステージは朽ちかけていて、一 容れられなくて、この中にいるんじゃない〇 同・ 301 号室 ( 夕方 ) ギターやドラムが埃をかぶっている かって : : : ほら。タクシーで、ずっと」 カギを開けて、狭い部屋に女子たち四人聖子「 ( べースを掴む ) : : : たまってんだよ、一 タ子は廣田の視線を追って、慄然とする。 が入ってくる 悶々だよお」 ーーー日い杖をついたサングラスの中年男 全員がダッシュ・ーーデスクのコンセント美穂「デシリットル、修学旅行バージョン」 が遠くにいて、それは太壱の父親だった に真っ先にスマホの充電ケープルを差し ドラムを鳴らそうとするがーーー結真実が のだ。 込んだのは結真実だ。 それを止める 目が見えない父親は、生徒たちのはしや女子「結真実、鬼じゃん。空飛んでたし」 美穂・明菜・聖子「 ? 」 ぎ声を聞いて微笑んでいる。 ホルンスマホを充電しようとしたとき、結真実「 : : : ドラマなんだけどね。 : : : 母ち タ子「 ( 太壱に ) : : : 幽霊恐いって、あんた 着メロが鳴るので、結真実はビクッとす ゃんの」 が幽霊なんじゃないー るーーまたメールの着信だ。 美穂・明菜・聖子「・ : 太壱「えへへー 結真実「 : ・ ( イヤな予感に占められながら、結真実「クラリネットが、ホルン先輩にメー タ子「えへへじゃないのよ、きみはねえーー・」 読みはじめる ) 」 ルで告るの。ホルンは、そうだ、すごい優 そばにいた角田が、不気味そうにタ子を 別室の美穂、明菜、聖子が廊下から飛び しいから、「マジうれしい』って返信した。 こんでくる 見ている。 クラリネットはバカでプスだから真に受け 9-
いなくていいんじゃないですか ? ー「なぜだよ」「そのオ、 スケジュールと照らし合わせるとですねェ」「この野郎 ! おまえはバカかー そのとき僕は、スケジューラーとしての目線でしか脚本 を読んでいなかったのである 「ケッカッチン ( 注時間に限界があること ) で仕方なく 俺はこのホンを印刷に回すことにしたけど、直したいとこ が一杯ある。これから連日ロケハンが続くから、俺は本直 しの時間がなかなか取れない。ロケハンで撮影場所を決め ながら直しを考えて、帰ってきてからおまえにロ述で伝え る。おまえはそれを整理しながら清書しろ。「えつ」「まア、 マキノ ( 雅博 ) スタイルのロ張り、号外スタイルでいくっ てこったな」「 : かくして、助監督としては出来るだけ聖子の出番を減ら したいと望みつつ、台本の清書屋としては否応なしに出番 を増やさざるを得ないという、はなはだ矛盾した作業に勤 しむことになったわけであります。 そこに登場したのが、大映京都の名カメラマン・森田富 士郎 『座頭市シリーズ』『眠狂四郎シリーズ』『兵隊やくざシリ ーズ』そして「大魔神』の映像美を創り上げた巨匠。 初対面で、「佐伯くん、主役のスケジュールが大変なよ うだが、なんでも相談してくれよ。出来るだけのことはす るからね」とやさしい声を掛けてくれたけど、相談して快 く O してくれたことなんて、ただの一度もない 「この日、聖子は x 時出しなんですけどー「ほ 5 ほ 5 」「澤 井さんにお願いして、まずは聖子の方だけを押して撮って ですね , 「撮るって誰が ? 」「いや、だから、我々が」「ほ 我々がね工。カメラを回すのは誰だい ? 「そりゃあ 森田さんに決まってるじゃないですか , 「だよな。それなら、 たとえ監督がしたとしても、俺にはそんな無茶なマネ、 出来ないな」「ど、どうしてです ? 」「いったんそんなこと を許したら、きみは相手役のカットバックを撮るの、別の 日にしてくれなんて言い出すに決まってる。そうだろ ? 」 「ま、まあね。どうしても撮りきれなかった場合には、そ うするしかー「きみねえ、そんなものは映画の撮影じゃない。 テレビドラマだ。それもかなり質の悪い ・ : 」「僕はそ んなものを撮りにわざわざ京都から来たんじゃないっー 後に五社英雄と組んで『鬼龍院花子の生涯』や『陽暉楼』 『吉原炎上』などを手がける森田さんは、この時が東映初 見参だったのである。 それまで主として添え物作品に就くことが多く、石井輝 男流の『なんでもござれ。後は編集技術でね、の妙味スタ イル』に感化されていた僕は、この森田さんに徹底的に絞 られ、鍛えられた。 「陽の状態が悪いから撮れないな」 「それでも撮ってください」 「ならば京都に帰る」
〇チサンホテル上野の地下宴会場 ( 深夜 ) タ子「信じてくださらなくて結構です。 しかし、父親はビールに口を付けない。 結真実「 ) 幸せであるように心で祈ってる じつは : : : さっき、ぜんぶ、見えたんです。タ子「 ? 幸せで : : : 」 太壱くんの未練が」 父親「 : : : 太壱に、伝えてください ふいに唄をやめるので、聖子たちの伴奏父親「 ? 」 も尻すばみになる タ子「事故にあった太壱くんは、集中治療室父親「男なら、約東は守れ。 : : : 約東したん 美穂・明菜・聖子「 : : : ( 怪訝顔を見合わせ に入れられて、三日間 : お父さん、枕だ。 : はたちになったら、いっしょに飲 る ) 」 元で誓ったんですよね。太壱くんが元気に むって」 結真実「嫌い、これ」 なるまでお酒は飲まないって願を掛けた」タ子「 美穂「結真実 ? どうしてそんなことをーーー父親は息を詰父親「引きすりません。でも : ・ : ・忘れない」 結真実「卒業ライプ、違うのにしよう。 めている。 タ子の瞳に大粒がふくらむ。 幸せであるようにつてラプ全開かと思ったタ子「太壱くん、ずっと幸せだったんです。 父親は、缶ビールを神社に供える。 ら、別れとか君の涙とかママ死んだとか、 いつもお父さんに感謝していた。 : だか父親「 ( いまは、迷いのない笑みで ) : : : 私は、 ネガテイプっゆだく」 ら」 忘れない」 聖子「 : : : テッガクってやっかな」 バッグから出した缶ビールを、父親に渡 一陣の風が吹き抜ける。 結真実「 ( ホルンスマホを見る ) 私は、べタ す。 タ子「 ( なにかを感じて、立ち上がる ) ・ な昼ドラがいい」 父親「 ( 感触で分かって ) 太壱くん ? 」 タ子「我慢しないでほしい。働いたら、いち 〇ホテルの近くの小さな神社 ( 早朝 ) ばん好きなものを飲んで、寛いでほしい。 チサンホテル上野の 421 号室 ( 早朝・ タ子と太壱の父親が石段に座っている。 太壱くんはいつつも見てた。大好きだった タ子のイメージ ) タ子「 : : : 太壱くんは成仏できないまま、修んです、嬉しそうなお父さんが」 太壱の姿は消えて、使った毛布が律義に 学旅行をしていますー 父親の見えない瞳から涙がこばれ落ちる。 折り畳んである。 父親「承知しています」 タ子「もう十分だから、引きずらないでほし よタ子「 ? 」 ・ : それが、たったひとつの未練なんで〇ホテルの近くの小さな神社 ( 早朝 ) あ父親「目が見えなくてよかった。 す。・ : ・ : もう、十分、有り難いから」 タ子が空を見上げている せ見える。 ・ : あいつは、みんなと、旅をし父親「・ : : ・ ( 泣いている ) ・ ・ ( そして ) 」タ子「 ( 太壱を見送っている ) : : : よかったね。 ている」 プルトップを開けて、ロを近づける : ありがとうね」 タ子が静かに切り出す。 タ子「 : : : ( 救われる ) 」 : 心で、 〇 105 ー
あの、私、このスマホを拾っ結真実・美穂・明菜・聖子「 ( ポーズをキメて ) 升美「 ( 五年ぶりなのだ ) : : : 先輩」 た、東北原高校の馬場結真実という者です」 デシリットル ! 」 〇同・海辺のデッキ 同・舞殿あたり 升美と水野尾が海を見ている。 〇停車している①バスの中 鳩に餌をやって黄色い声をあげている美 だれもいないバスの後部で、見学をサ升美「あのコ、早慶上智狙ってたんだけど たかのぶ 穂、明菜、聖子のところへ、結真実が転 ポった梨本貴延 ( 片 ) が、「新宿ガイドマッ ・ : 先月、受験しないって、急に。学年の げるよ、つに走ってくる プ』にマーカーで印をつけている ホープなのに」 結真実「あのさあ ! 」 離れた席から、倉田有紀 ( 片 ) が貴延を水野尾「オレみたいだな」 見つめている 三人「 ? 」 升美「 ? 結真実「 ( ふいに照れ臭くなる。だから ) : ステップに足音がするので、貴延はとっ水野尾「成績トップ。みんなが羨む一流企業 母ちゃんが見てるお昼のドラマがあるだよ。 さに伏せるが、有紀は遅れ、覗き込んだ に就職した。それがどうして、運転手 ? 空港で、女がひと目惚れした男のスマホを 升美に見つかってしまう。 升美「 ( いちばん、知りたいことだ L 拾うの」 升美「倉田さん。 : : : 体調悪いかな ? 水野尾「あのコに訊いた」 三人はポカンとしている。 有紀が不承不承立ち上がり、貴延はし水野尾「なんで気持ちが変わったのかって」跖 結真実「で、男から電話がきて、男と女の帰 れっとガイドを見ている 升美「 ( それは訊いていない ) : : : よくある一 りが同じ日だから飛行場で待ち合わせて返 ことなの。あの年ごろって、五分で変わる すことに決まったんだ。 : : : 結末、いかカ〇 新江ノ島水族館・駐車場 そのコロコロに振り回されるのーーー」 なものかな」 水野尾「いい学校がいい人生か ? 少しは成 升美と有紀が①から降りてくる。 美穂「べタじゃん、べタ」 升美「倉田さん。 : : : 進路のこと、考え直し長したかと思ったけど、変わらない。大学 ンよりべッタベタだ 明菜「ウチのチャーハ てくれた ? 」 のころと同じだ」 ね」 有紀「私、もう決めたんです。 : : : 見学して升美「 ( カチンとくる ) 先輩もです」 聖子「ハグしてキスしてハッピーエンドで音 きます」 水野尾「ーー .. 一 楽ドーン 取りつく島もないのを、升美が追いかけ升美「いつも上から目線。キャンパスでもピ よ、つとする 結真実「 ( 上気する ) だよね ! だよね ! だ ザ 1 ラのバイトでもそうだった。みんなが よね ! だよね ! 」 升美「 ( 気配を感じて ) ・ バカに見えるんですよね」 ・ ( 振り返る ) 」 もた 鳩を蹴散らし、三人も理由もなく心がは ハスに凭れてスポーツ紙を開いていた水水野尾「見える。ピザーラカニマヨからカニ ずんできて、はしゃぐ。 野尾が笑いを堪えている を抜いてくれって注文に、お前、それはで 〇
俊言楽生 第四十三回昼は純愛、夜は猟奇 5 僕って二重人格 ? 19 81 年春 僕は「野菊の墓』 ( 原作・伊藤左千夫脚本・宮内婦貴子 ) のセカンド助監督に編成されることになった。 それまで監督昇進を頑なに断り続けてきた澤井信一郎、 待望のデビュー作である。 澤井さんは「二百三高地』と同時期に制作されていた「動 乱』 ( 監督・森谷司郎脚本・山田信夫 ) のチーフを務めた後、 僕と同じく『大激闘マッドボリス』に数本就き、虎視 たわごと イラスト / Haruna 眈々、監督昇進のチャンスを狙っていた。 「野菊の墓』は東映とサンミュージックの提携作品であり、 人気絶頂の松田聖子の初出演作である。 当代一の売れっ子が文芸作に挑戦するというので製作発 表前からマスコミが注目し、話題沸騰だった。 相手役の募集にはなんと 2 0 0 0 人を超える応募があ り、その中から好男子・桑原正 ( 早稲田学院高校生 ) が抜 擢された が、待てども待てども決定稿が上がってこない 例によって澤井さんが準備稿に難色を示して脚本家にか なりの直しを要求していると聞き、またもや「任侠花一輪』 の時と同じくギリギリで降板劇になってしまうのではない かと誰もが心配した。 撮影所の中では、澤井さんが撮るか降りるかで賭けをし ているヤッさえいた。 そんな中、西井剛制作部長は僕に「「野菊の墓』の特報 を作れ . なる命令を下した。 「東撮にとっては時代劇みたいなものだから、チーフ ( 助 監督 ) は先行口ケハンで忙しいおまえが撮れー 撮れと言われたって、当然のことながら撮影前だから、 画はワンカットもない。 「くれぐれも、聖子の動かないスチールを繋げただけのオ モロない代物は作るなよ なこと言われたって : 4
・ : ほれ」 始のスマホの液晶 「羽田で待ってる長太郎「ほら。 ちゃって、またメ 1 ル寄越したんだ : : : 「空 と見せたのはーーースマホに写したハルミ 港まで迎えに行ってもいいですか ? 』。図 の横顔だ に乗るんだよ、こういう女。ぜったいパン結真実「ん ( ホルンの ) ストラップ ? 」 結真実が壁に凭れると、頭上のスピー健一郎「 ! ( 正直に、頬が火照る ) 」 ツ、グンゼだよ」 カ 1 からは昼メロの劇伴ふうのピアノ曲長太郎「送信してやるから : : : これで我慢し 明菜「話、見えない」 な」 が流れている 結真実「気持ち入れてよ、ヒロインに。ホル : クラリネットから貰健一郎「 ンとクラリネットの合奏を取り持っ恋の指結真実「 : : : ああ ったんだ : : : 誕生日に。 ( 本気で悲しくなっ長太郎「手ごわい姐さんだ。ライバル、多い 揮者になってんだよ。すつごくいいコなの し。 に、あんまりじゃない ? : 引きこもりの手にや負えない しか力なものか てくる ) 応援してるよ。 : : : 大丈夫、うま ・ : おやす 健一郎は、しばらく黙っている くいく。・ : : ・応援してるから。 ね、結末は」 みなさい 健一郎「 ( 静かに口を開く ) : : : そうだね」 明菜「オヤジの顔よりべッタベタだね」 電話を切って、メールを送信し、ストラッ 美穂「そこでガンガンきておばちゃん プのホルンにそっと触れたと」ーーー涙目〇同・ 222 号室の浴室 ( 夜 ) 泣かしといて、 ( 唄う ) ) 夢のジャパ ・ホルンはクラリ、不ッ 健一郎が入って来て、ドアを閉める。 ネットたかた 5 。・ の結真実に流れていたピアノ曲が終わる トにいきかける、からの、ヒロインのけな 鏡に映った自分を見る 結真実は、結末をベタにするおまじない のよ、つに、明るくはじける。 口惜しく、でも気弱で、泣いてしまいそ げに気づいて一発逆転」 うな顔を見つめている 聖子「ハグしてキスしてハッピーエンドで音結真実「 ) 夢のジャパネットたかた 5 ! 」 楽ドーン 路地 ( 深夜 ) べタはビバだね ! 」〇 同・廊下 ( 夜 ) 結真実「 ( 立ち直る ) 廣田が歩き、達也がおっかなびつくりつ 長太郎が転げるように駆けて来る いてくる 〇同・ロビー ( 夕方 ) 達也「 : : : 先生 ? 」 同・ 222 号室 ( 夜 ) 昨夜と同じメンバーの班長会議を遠目に、〇 よ 長太郎が飛び込んでくるので、風呂に入廣田「行こう。お前の十七年後に」 結真実が始のスマホを操作しながら自分 る あ ろうと服を脱いでいた健一郎がびつくり達也「 のスマホで電話している。 で して胸を隠す。 せ結真実「でも、これだけだと気持ちが伝わら ないと思うんですよ。ここは顔文字でしょ長太郎「盗撮してきた」 〇スナック『 x 0 > L.u 』・前 ( 深夜 ) 廣田と達也がやって来る。 う。私に任せてくれます ? 」 健一郎「 ? 」 〇
結真実「 ( 迷っているが ) ・ 困惑する。 実は窓の外を見る。 れて、読む ) 」 結真実「 ( いきなり、床をダン ! と踏み鳴ら そんな健一郎を、離れた長太郎が不 やがて結真実は、ホルンスマホを手に、 : べタでいこうよ」 憫そうに眺めている 自分のスマホで電話をする。 駐車場 結真実「 ( 相手が出て、小声で ) 東北原高校〇①バスの中 の馬場ですけど、碓氷さんお願いします。 多摩川を越えると、『東京都』の標識が 今日は競馬紙を読む水野尾が顔を上げる。 見えてくる。 ( 始が出て ) : : : あ、メールが来たんです。 見学を終えた升美が、進路に迷いがある なにか急ぎかと思って読んじゃったら、ホ 新宿ガイドから顔を上げた貴延が標識を らしい生徒 < 、、 0 を説得しながら戻っ てくる ルン先輩へ、クラリネットよりって書いて 見つめる。 あって : ・ へえ、プラバンなんだ。ホル 有紀も居眠りから醒めて、標識を見る。升美「専門学校にも意味はあるのよ。でも同 ンなんだ、碓氷さん。それでね : : : 」 じことは大学でも勉強できる。大学入って、 、」、つい、つ それから考えればいいじゃない ホルンスマホの画面のメールに、『じ・つ・有紀「 : : : 」 はび ( > ー > をの文字。 言い方、いやだけど、高い所から低い所へ一 は簡単よ。逆は難しいでしょ ? まず自分 結真実「告ってるんです、クラリネット。前 国会議事堂近く から好きでしたって。ほら、一年だし、恋 ハスガイドの旗について歩きながら、健が行けるトップに行かないと」 に恋するっていうか、私も経験あるけど、 一郎が勇気を出して、前を歩くハルミに 水野尾が、小馬鹿にしたように鼻で笑う。 こういうのってハッキリ言ってあげたほう 声をかける。 ・ ( 水野尾を横目で 升美「 ( 憮然として ) ・ : : : うん・ : へん : そ、つ健一郎「水族館に、電話しようか」 睨む ) 」 返信すればいいんですか ? : 分かりま した」 健一郎「落とし物。水槽の掃除のときとかに、〇東京タワーの前 最後は能面のような表情になって、電話拾って貰えば」 各クラスが交代で集合写真を撮っている。 を切る 太壱と並んでそれを見ていたタ子の顔が、 ハルミ「 : : : 取り返せないものって、あるん スーと曇る よ聖子「結真実、いっとく ? 」 だ」 あ 3 組の撮影ーー廣田が鞄から黒枠のつい と出されたポテチを見もせす、結真実は健一郎「 ? 」 で せ 機械的にスマホを操作する。 た写真を出して膝に置く。 ハルミ「ぜったい取り返せないものって、あ 幸 文面ーーー『マジうれしい。早く会いたい』。 るんだよ」 タ子「 ( 太壱に ) だれか亡くなったの ? 」 心を無にして送信ボタンを押して、結真 不機嫌にスタスタと行くので、健一郎は太壱「 : : : まあね」 ・ ( 誘惑に駆ら 〇