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検索対象: シナリオ 2016年3月号
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1. シナリオ 2016年3月号

志ん魚「・ : ど、怪しいもんだ」 がら通り過ぎるが、我慢できずに戻って 志ん米・志ん水・志ん麦「頼む」 志ん田「またですか ! 僕には荷が重過ぎま 来る。 と、頭を下げる。 すよ」 志ん魚「 : : : 」 志ん米「一門の明日がかかってんだよ。当た 志ん田が店先で餃子をさっそく食べてい 志ん米・志ん水・志ん麦「 る。 って砕けるしかねえだろ」 志ん魚「志ん魚は師匠と一緒に灰になったん志ん田「 : 後ろから「志ん田 ! 」と声がかかる です : : : 。お役に立てず、すいません」 志ん田、志ん米にハミガキセットとうが 振り向くと誰もいない。キョロキョロ見 と、深々と頭を下げる。 い薬を渡す。 渡すが声の主はいない。「ここだここ」 志ん米「・ : 志ん米、それを手に立ち上がる 良く見ると向かいの果物屋の中に志ん魚 志ん水「 志ん米「 ( 志ん田に ) 吉報以外は持って帰っ 力いる 志ん麦「・ てくんじゃねえぞ」 志ん田「あ ! 」 と、楽屋を出て行く。 志ん魚「そんなとこで何してんの ? 寄席 志ん田「 ( 困惑 ) ・ 志ん田「餃子が大好物なんですよ」 デコボコ兄弟が舞台で漫才をやっている。 と、旨そうに食べる。 日暮里の架線橋 志ん魚、物欲しげに餃子を見る 同・楽屋 気が重そうに志ん田が歩いて来る 志ん田「志ん魚さんこそこんなとこで何して 志ん田が、志ん米の着替えを手伝ってい るんですか ? る ヒマラヤ杉の > 字の道 志ん魚「 ( 餃子を見つめて ) 店番だよ」 志ん米、掛け時計を見やる。 スマホの地図を見ながらキョロキョロと志ん田「果物屋だったんですか」 志ん米「志ん田」 歩く志ん田 志ん魚「 ( 餃子を見つめて ) ここのバアサン 志ん田「はい が病院行ってる間だけね。代行だよ代行」 志ん米「おまえ、ひとっ走り行って来い 三浦坂 志ん田「へえ : : : 」 志ん田「どこにです ? 」 三浦坂を下る志ん田 と、最後の一個を食べてしまう。 志ん米「志ん魚のとこだよ」 志ん魚、がつくり。 志ん田「何しにです ? 」 下町の商店街 志ん米「決まってんじゃねえか。志ん魚を説 志ん田が歩いてくる ある古びた民家・玄関・中 得するんだよ。灰になったとか言ってるけ ティクアウト専門の餃子店を横目で見な ガラガラと扉が開いて志ん魚と志ん田が 8

2. シナリオ 2016年3月号

かい」 志ん魚「忘れたよ。ただ、競輪の予想のやり イターとか観てますから」 志ん田、柱時計を外すと裏をみる。 方を教わったつけなあ」 志ん魚「そこは父親似だな。で、そんなタ美 志ん田「あれ電池どこだ ? 」 志ん田「そうですか : 志ん米師匠は、全のどこがいいの ? 志ん魚「バカ。これはネジを巻くんだよ」 然稽古つけてくれないんですよね」 志ん田「は ? 」 と言って志ん魚が前を開けネジを巻き始志ん魚「盗むんだよ。ひたすら聞いてさ」 志ん魚「好きなんだろ ? 」 める。 志ん田「そんなもんですか : : : 」 志ん田「 : : : はい 志ん魚「最後まで強く巻き過ぎないように 志ん魚「ほら、言っちゃった」 蕎麦屋・店内 志ん田「言っちゃいましたね」 6 感心して見ている志ん田 志ん田と志ん魚が天麩羅蕎麦の大盛を 志ん魚、どんぶりを掲げて、 食っている 小春「 ( 台所から ) 新入りかい ? 」 志ん魚「志ん田の恋路に、乾杯」 志ん田「志ん田と言います」 志ん魚、海老天を頬張りだし汁を啜る 志ん田、照れ臭そうにどんぶりを掲げる。 小春「志ん田 ? 落語家みたいな名前だね」 志ん魚「ここは、蕎麦も美味いがだしも美味志ん田「乾杯 : : : ? 」 志ん田「まあそんなようなもんですかねえー 志ん魚「・ : 志ん田もだし汁を啜る 志ん魚の家・中 ( 翌朝 ) 小春「こう見えてちょいと落語には詳しいん志ん田「うん。美味い 食卓に納豆、海苔、生卵といった定番朝一 食の用意が出来ている だよ。志ん生の『火焔太鼓」だって、あた志ん魚「わかってるねえ」 しや生で見てんだからね」 志ん田「うちの師匠がだしにはうるさいんで」 寝ほけ眼の志ん魚が置手紙を手に取る。 志ん田「そりやすごい 志ん魚「佐世子さん、料理うまかったもん ク冷蔵庫にシジミ汁ありますみ 志ん魚、そんなやりとりに耳も貸さずなあ」 志ん魚、ふと部屋を見回す。 黙々とネジを巻いている 志ん田「佐世子さん ? 」 部屋が少し片付いている 志ん魚「兄さんの死んだ奥さんだよ。タ美に そっくりだろ」 住宅街の道 B< ある家の庭 志ん魚が障子を張り替えている 志ん田「ああ : : : 確かに : 志ん魚が歩いて来て、とある一軒家の門 扉を開け、中に入ってゆく。 志ん田は油のこびり付いた換気扇を掃除志ん魚「タ美は料理とか作るの ? 」 している 志ん田「まったくですね」 志ん魚「おはようございます」 志ん田「亡くなった志ん扇師匠は、稽古つけ志ん魚「ガ 1 デニングとかも ? 奥から爺さん・日暮雄一が杖をつきなが ら出てくる てくれました ? 」 志ん田「まったくですね。晩酌やりながらナ -4-

3. シナリオ 2016年3月号

うとなんだろうと洒落で済む」 志ん水「よお、やってるねえー 志ん田「できません」 志ん魚「これは兄さん。どうも 四志ん米師匠宅・前の道 志ん田がリュックを背負って歩いて来る。志ん水「できませんじゃねえんだよ。やるの」志ん水「ほら都せんべい、好きだろ」 背後から志ん茸が走って来て、横に並ぶ。志ん田「 : 志ん魚「あ、お茶にしましよ。冷たいのでい 志ん茸「よ ! 」 志ん麦「いいかい。大事なのはね、おまえさ いですか ? 」 志ん田「あれちょっと背が伸びました ? 」 んの感情じゃなくて、わが一門の面子なん志ん水「いいよ」 志ん茸「伸びねえよ。あ、これおまえの大好だよ」 きな餃子。師匠が買って来いってね。俺は志ん田「僕は志ん魚さんの落語が好きです。 二人が無言でせんべいをポリポリかじっ ている 内弟子じゃねえつつうの」 なんて言うか、じわじわと染み込んで来る 志ん田「いや、でも絶対伸びましたって」 あの感じがたまらないんです , 志ん水「 ( 眼を伏せる ) ・ 志ん水「おまえの気持ちはわかった。ただよ、志ん魚「で、今日は何を ? 、つん : 同・居間 、そのおなんだ 志ん魚のことはおまえの好き嫌いで決めれ志ん水「いや : ・ 8 志ん茸がテープルの上にいい具合に焼け るような問題じゃないの」 な、暑いな・ : : ・」 た餃子を置く。 志ん田「 : 志ん魚「 : : : ( 扇風機の向きを変える ) 」 志ん米、志ん水、志ん麦が並んで座って志ん米「まあ今回の一件じゃあおまえもよく コップのお茶を飲み干す。 いる やってくれた。褒美って訳じゃねえが、今 志ん魚、ペットボトルのお茶を注ぎ足す。 志ん米「好きなだけ食べなさいー 度の高座をな、おまえの二つ目昇進披露に その手を両手で止めて見つめる志ん水。 蛇に睨まれたカエルのように志ん田が正 しようと思う。どうだ、ありえない話だろ」 フリーズしたまま見つめ合う一一人 : : : 突 座している 志ん田「 : ・ 然、 志ん田「 ( 怪訝そうに ) いただきます : 志ん水「 : : : すまん。この通りだ」 と、食べる様子を三人がじっと見ている 志ん魚の家 と、土下座する 志ん水「美味いだろ ? 志ん水が手土産を持ってやって来る。 志ん田「 : : : はい」 志ん水、部屋の前でノックしようとする 志ん米師匠宅・居間 ( 夜 ) 志ん米「まあ食いながら聞いてくれ。今度の が、中から志ん魚の稽古する声が漏れ聞 志ん田、志ん米、タ美が揃って食事して こ、んる いる 一門会でな、例の「出目金」おまえが演れ」 志ん田「 ( 吹き出す ) ・ : 無茶ですよ」 逡巡する志ん水 タ美「志ん田が「出目金」やるって、お父さ が、ノックしてドアを開ける。 志ん米「おまえはまだ前座だ。下手くそだろ ん、頭おかしいんじゃないの」 8 一 4

4. シナリオ 2016年3月号

なるようになったわけですから」 一門会会場・楽屋 志ん麦「 ( 志ん水に ) 兄さん。そろそろじゃ 志ん魚の家・表 志ん米、志ん水、志ん麦が一息ついた志 ないですか」 志ん田がやって来る ん魚を囲んでいる。 志ん水「お、いけね。仕度するわ」 表で小春おばちゃんが掃除している。 モニターには次の落語家の高座の様子が 志ん田を見つけて、 と、楽屋を出てゆく。 映し出されている。 志ん魚、師匠の扇子と手ぬぐいを見つめ小春「もういないよ」 ている 志ん水「いい味出してんなあ。なんだか、グッ 志ん田「もうって ? と来ちまったぜ」 小春「競輪だかの予想屋やるとかってさ、荷 志ん米「志ん魚らしい、実にいい 高座だった」 墓地が見える場所 物まとめて出てったよ」 志ん麦「真剣に、復帰考えたらどうです ? 」 志ん田とタ美が仲良く出前の鴨せいろを と、部屋に入ってゆく。 志ん魚「無理無理」 食っている。 志ん田、踵を返す。 志ん米「会長もあの喜びようだ。これで一 の面目も立ったってわけだ。志ん魚、ほん 志ん米師匠宅・玄関 ( 数週間後 ) 路地 とにありがとな」 志ん田が自分の靴をダンポールに詰めて 志ん田が歩いてゆく。 いる 志ん魚「師匠は聴いてくれましたかね : : : 」 と、師匠の扇子と手ぬぐいを見つめる。 そこへ志ん米がやって来る 坂道 志ん米「当たりめえだ。来てんだよ。ここに」志ん米「風呂ねえんだろ。うちの使っていい 志ん田が坂道を登ってゆく。 志ん魚「やっと区切りがっきました」 からよ」 四人、しみじみと師匠の扇子と手ぬぐい 志ん田「はい ヒマラヤ杉の > 字の道 の も を見つめる。 志ん米「それと二つ目んなったからって浮か 志ん田、今度は迷うことなく、真っすぐ う志ん魚「志ん米兄さん」 歩いてゆく。 れてんじゃねえぞ。大事なのはこっからだ おしまい の志ん米「ん ? からな」 も志ん魚「志ん田のことよろしくお願いします」志ん田「はい う志ん米「 ( 嬉しそうに ) あの野郎、生意気な 志ん米、奥へと消えてゆく。 真似しやがって : ・ ・ : 。バカな弟子を持っと、 志ん田、ふと壁の絵を見上げる。 の 心臓が幾つあっても足んねえや」 いつも通り四十五度に傾いた絵。 志ん水「まあ、人間万事塞翁が馬つつうか、 志ん田、微笑みまた靴を詰め込む。 113 114

5. シナリオ 2016年3月号

エリザベス「うん、いつでもいいから電話し 女の子が脱いでいる ないですか」 て、夜中でも朝でもいいから」 その近くで志ん米たち三人が服を脱いで志ん米「いいから、ロに含んで、含んですぐ いる 志ん魚「いいんですかー 冷えるから」 エリザベス「今度、ゴハン食べに行こう」 志ん米「ヨ、ヨ、ヨ、どうだ、志ん魚いるか ? 」 水を飲んで湯船に入る志ん水。 眼をみつめあう二人。 志ん肉「まじめに裸になってますよ」 志ん水「本当だ : : : 水みてえ」 志ん魚「エッ、本当ですか、ありがとう ) 」ざ志ん水「俺脱ぐの恥ずかしくなっちゃった」 仲良く湯船に入っている志ん魚たち四人 いますー 二人「え卩 バックに富士山と山中湖の絵がある。四 志ん米と志ん肉ふりかえり志ん水をみる 人が背中をみせて並んで体を洗っている 道路 志ん水「アニさん、湯船入ったのはいいけど 風呂で遊ぶオモチャをカタカタいわせな 銭湯・洗い場 なんだかチンボコモコモコして変な気持ち がら、志ん米、志ん水、志ん肉の三人が 気持ちよさそうに湯船に入っている志ん ですネ」 志ん魚の入浴シーンを見るため銭湯に向 魚。志ん米たち一一人が不気味な態度で洗志ん米「うん、うん、当り前だよ、そりや古 かう。志ん米が、志ん魚のモテたハナシ い場に入ってくる。三人に気づく志ん魚。 い昔から日本じゃ浮世風呂とか、今でいう を二人にきかせている 志ん魚「あっ、みなさん、何しに来たんですトルコ風呂とか、風呂へ入ると、何かこう 志ん米「オレもネ、十回ぐらいトルコに行っ ムカついてくるらしいよ、それ落ちつかせ たけど、電話番号なんて教えてくんないぜ」志ん米「牛丼食いに来たんだよ、牛丼を」 るにはネ、水、水 : : : 水かけると落ちつく 志ん水「ついてるな志ん魚は : : : 」 志ん肉「紅しようがみたいな顔して入んない らしいよ」 志ん肉「やつばりデカイんじゃないんですか のよ」 志ん水「ちょっとやってみますか ( 水をか ね」 志ん水「アチッー ける ) 、ホントだ、水みてえ : : : アニさん、 志ん水「デカイんだよナ」 志ん魚「志ん水アニさん、どうしたんです志ん魚の奴、いきますか」 志ん米「そうとしか思えねえよナア」 志ん米「おまえ洗う時まで前かくすなよ、ケ マジメな顔して考えている三人。 湯を手でかきまぜながら湯船に入れない チらないでサ、おまえ」 でいる志ん水。 志ん魚「別にかくしてるわけじゃないですよ」 銭湯・湯船 志ん水「ちょっと待ってくれよ、オレ、全身志ん水「志ん魚、意識するなョ : 目をつむったままうっとり入っている志猫舌なんだよ」 志ん魚「何だかみなおかしいすね」 ん魚。 志ん米「志ん水よ、水を含んで入ってみなよ、志ん肉「見せろってばョ : 体が冷えるからすぐ入れるよ」 志ん魚「何をですか ? 」 銭湯・脱衣場 志ん水「それだったら、うめた方が早いんじゃ志ん米「志ん魚、洗う時、チンポをかくすな ねこじた 4

6. シナリオ 2016年3月号

の・ようなもののようなもの すつ出し合ってよ。大凶引いた奴が総取志ん魚「またまたあ」 志ん魚「やつばりやめとくよ」 志ん米「そこでだ。志ん魚。実はな折り入っ と、踵を返す。 りっての」 て頼みがあるんだ」 志ん米「やったやった。大凶引きますように 志ん田「皆さんお待ちかねですよ」 ってみんなで拝んでな。で、結局誰が引い 志ん魚「何か ? 」 志ん魚「そんなことないよ」 たんだっけ ? 」 志ん米「斉藤の会長憶えてるな」 志ん田「そんなことありますよ」 志ん魚「 : : : ああ、あの美人の」 志ん魚「皆さんによろしく言っといて」 志ん麦「 ( 不満げに ) 僕ですよ」 と、歩き出す。 志ん水「こいつ大喜びしてよ。三万も儲けて志ん米「おまえあそこの池にゲロ吐いて、出 目金死なせたろ」 奢りもしねえ」 志ん水の声「遅せえよ ! 」 志ん魚「 : : : そんなことありましたつけ」 その声に立ち止まるが背を向けたままの志ん麦「飯奢ったじゃないですか」 志ん米「とばけちゃいけないよ。おまえ、そ 志ん魚「吉野家だろ」 志ん魚。 の詫びのしるしにネタ作るって言ったそう みんなが笑って家の前に立っている 志ん水「それも並と味噌汁限定じゃねえか」 じゃねえか」 この志ん米「俺たちに内緒でソープに行きやがっ 志ん米「 ( 嬉しそうに ) こっち向け ! てよ。ところがその帰りバイクに撥ねられ志ん魚「 ( 思い出してる ) : 大馬鹿野郎」 あ、言った」一 志ん米「ほらみろ。ネタは作ったのか ? 」 たんで、バレた」 志ん魚、ばっ悪そうに振り返る 志ん魚「はい。「出目金』ってネタをー 志ん水「足の骨折りやがった」 志ん米「 ( 頷く ) その「出目金』をな、今度 同・中 志ん米「バカだね」 の十三回忌特別一門会でおまえに演って欲 一同、大笑い 志ん扇と書かれた扇子と、家紋とトレー 、つすね。我が家に しいんだよ」 ドマ 1 クの扇子が描かれた手ぬぐいが床志ん魚「 : : : なんか、いし 志ん魚「相変わらず冗談きついすね」 の間に飾られてある。 帰って来たって感じで」 志ん米「離れ離れに暮しててもな、家族じゃ志ん米「会長お直々に、おまえの「出目金』 全員が勢ぞろい がどうしても聞きたいって言ってんだよ」 宴がガャガヤと始まっている ねえかな」 志ん麦「会長には散々世話なってんだからさ」 志ん魚が志ん米、志ん水、志ん麦に囲ま志ん魚「来てよかったです」 れている。 志ん水「おまえが引き受けてくんねえとよ、 志ん水「毎月よ志ん扇師匠の月命日にはこ その脇に志ん田もいる。志ん茸と志ん水うして集まってんだ。これからは来てくれ想像を絶するとんでもねえことになっちま うんだぜ」 よな」 の弟子志ん穂もいる。 志ん米「みんなで初詣に行ったつけな」 志ん麦「志ん魚兄さんがいないと、今ひとっ志ん米「そうよ、出船亭一門が木っ端微塵に 砕け散るかもしんねえんだ」 志ん水「おみくじ、憶えてるかい ? 三千円盛り上がらないんですよね」 つな 4

7. シナリオ 2016年3月号

志ん米「志ん魚のヤツ、ボディ洗いなんかさ志ん水「アニさん、アニさん、俺ダメ ? 」 志ん魚「はい れちゃってあせってんじゃねえかー 志ん米「おとといギョーザ一切半おごったろ、エリザベス「 ? 志ん水「生まれて、初めてだと言ってました オレ、アイツと一緒に帰ってくるからあと志ん魚「 : : : でも、朝でもないのに歯をみが はよろしく、ネ」 からネ」 くなんておかしいですネ」 志ん米「俺、ちょっと行ってくるよ」 トルコに急ぐ志ん米。志ん米にはマケた 木馬に乗った志ん魚とエリザベス。 と見送る志ん水、志ん肉、志ん菜。 志ん水「アニさん、税務署でも行くんです エリザベス ( 身体を動かしながら ) 「ネ、夜 みやげばなし でもないのにセックスするのもいいで か ? 」 志ん水「アニさん、土産話たのみますよ」 しょ 志ん米「志ん魚がやってるかと思うと何か落 ちつかなくて」 志ん魚「そうですネ」 トルコの個室 ( エリサベス ) 志ん菜「ガマンできないんですか、オクさん 志ん魚、風呂に入っている エリザベス「気持ちいい ? 師匠の家で待ってんのに」 エリザベス来て、歯プラシを渡し、歯み志ん魚「いいですネ」 三人「このヤロー」 がきをつけてやる。 エリザベス「もっと気持よくさせてあげるネ」 エリザベス「はい」 志ん魚「はい」 師匠の家・部屋 ( インサート ) 志ん魚「これやるんですか」 エリザベス「かわいい : 赤飯を前に、みんなの帰りを待っているエリザベス「みがいて下さい」 志ん魚「ワー、ワー」 志ん米の女房と柳感、君丸。 志ん魚「はい ・ ( みがきながら ) これ何処エリザベス「どう ? 柳感「遅いですネ、志ん米さんたち へ捨てればいいですか」 志ん魚「ワ 1 」 エリザベス「その辺に」 妻「そうネ」 君丸「大丈夫ですよ」 志ん魚「いいすか」 道路 エリザベス「ペッ」 三人歩いて来る 志ん魚「あの芸能界では誰が好きなんですか志ん水「おい、志ん肉、志ん肉、おまえどう % 道路 立ち止って話している志ん米、志ん水、エリザベス ( 泡だてながら ) 「私、三平さんすんだ」 が好きだったナ」 志ん肉「パチンコでも行って来ますよ」 志ん肉、志ん菜。 志ん肉「アニさん、アニさん、よく金ありま志ん魚「三平師匠、俺も好きでしたよ。あの志ん水「おまえ、パチンコしかねえナおし すね、アニさん、このアッシも連れてって人、大きいですもんネ」 おまえ、志ん菜は」 エリザベス「志ん魚さんも ? 」 志ん菜「レコードでもみに行って来ます」 下さいよ」 、やっ買って来いよ、 志ん水「レコードか、いし 志ん米「アッシだなんて、時代劇みたいなこ志ん魚「はい あとで俺に聞かせてくれよ」 とい、つなよ」 エリザベス「大きかった ?

8. シナリオ 2016年3月号

いけないのは : : : 」 フスイング ) こっちの方はどうです ? 志ん麦「まいりましたねえ : : : 」 客人「肩があがんなくてね」 志ん水も肩で息してやって来る タ美の声「トトさん ! 」 志ん茸が駆け込んで来る。 志ん水「弟子総出で探したんだけどよ。いね 三人、一斉にその声に振り返る 志ん茸「志ん田がいないんすよ」 えぜ」 入り口から志ん魚と住職が駆け込んで来 る。 志ん米「さっきまでいたじゃないか。ちゃん志ん米「志ん田の野郎 : : : 破門だ破門 ! 」 その様子をポカンと見ている師匠たち三 と探してこいー 志ん麦「破門でもなんでもいいですがね、そ 人。 れよりどうするんです ? 志ん茸「はい 駆け寄るタ美に志ん魚が志ん田からの手 志ん水「なんとかしてこの穴埋めねえと、と 4 一 同・ロビー 紙を渡す。 んでもないことになりますぜ」 9 志ん米が大慌てでキョロキョロしている。志ん米「なんだか頭がクラクラしてきやがっ志ん魚「志ん田、頼むよ」 タ美「・ : タ美を見つけ駆け寄る。 志ん米「おい、志ん田見なかったか ? 突然、志ん茸を見て、 志ん米「おまえ、頭丸めろって言っただろ ! タ美「 ( 不機嫌に ) さあ : 同・客席 秋枝婆さん、小春たちの姿がある 志ん米、急いで探しにゆく。 なんだ、このやろ」 と、志ん茸の頭をグチャグチャにする。 住職の姿もある タ美「 ( 嬉しそうに ) : : : あいつ、やったかあ」 ク出船亭志ん田みの捲りがある 志ん水「兄さん、落ち着いて ! 今そんなこ 出囃子が鳴り出す。 同・客席 としてる場合じゃねえぜ」 すると舞台袖から志ん茸がスルスルっと 満員の客席に一一番太鼓が響き渡る すると、志ん米の動きがピタッと止まる。 出て来て、志ん田のク田クに書き加えク魚ク 志ん米「 : : : そうだ。志ん魚がいるじゃねえ の も として引っ込む。 同・ロビー か。なあ。楽屋行ってな、志ん魚呼んで来い」 そこにピンクの着物を着た志ん魚が緊張 志ん米、志ん茸を見つけ手招きする。 志ん水「兄さん、気は確かですか ? 志ん魚 よ の 気味に現れる。 志ん茸、携帯を手に走って来る。 は来ないんですよ」 斉藤会長は大笑いして拍手している。 も志ん茸「電話も出ないんすよ。ここのスタッ志ん麦「志ん水兄さんが頭下げに行ったんで 山田、あまりの会長の笑いように驚いて すから、来る訳がない」 フも見てないって言、つし」 よ いる 志ん米「 ( 時計を見て ) なにやってやんだ、志ん米「 : : : そうだったよなあ」 の 顔を上げ枕に入ろうと客席を見て再び声 あんちくしよう ! 」 志ん水「しつかりしてくださいよ」 に詰まる 志ん麦も息を切らせてやって来る 志ん麦「いいですか。とにかく今考えなきや 6 9

9. シナリオ 2016年3月号

金を受け取る志ん水 志ん米「あ、そう、じゃあ電話かけなさい」 志ん肉べッドから下りる 全員「どうもありがとう ) 」ざいます : : : 」 女房「どこへ ? : ・ : どこへ 志ん菜「どうしたんですか ? 」 有名落語家「それからネ : : : 山田五十鈴と一志ん米「天気予報 : : : 晴だったら朝から出か志ん肉「うん、まアナ」 緒だったことは、これは内緒だよ、くれぐ けるし、雨だったら三回やってみよう」 ようかんを口に入れる志ん肉 れも内緒ネ」 女房「できるかしら : ・ 志ん菜「あれつ、それ本当に食べられるんで 全員「はい ! どうもお疲れさまでした」 志ん米「えつ、だいじようぶだよ : : : だから、 すか」 タクシーが立ち去る。バンザイして見送それは雨だったらのハナシ : : : さ」 志ん肉「ああ、まアナ」 る志ん水たち。 電話をかける女房 ( 佐世子 ) 。 全員「万歳 : : : 万歳 , 女房「雨だって : : : 」 ホテルの部屋 ( 志ん水と志ん魚 ) 柳感「じゃ僕たちこれで失礼しますー 雨の音。志ん米 : : : 佐世子をみる。 ふとんの中に入っている志ん水と志ん魚。 志ん肉「行っちゃうの」 志ん魚、ほとんど眠っている 志ん水「行っちゃうの」 志ん水「志ん魚、おい、もう寝ちゃったのかよ、 旅館街 柳感と君丸別れる 志ん水たちがいい歳をしてグー ージャ志ん魚起きて話しようぜ、師匠のこととか、 志ん水「じやナ : : : あいつらいいか」 ンをやっている。アベックがそれを見て オカミさんのこととか、ホラ、アニさんの ブップッいいながら歩く志ん魚たち。 笑って通り過ぎる ことでもいいじゃねえか、おまえの好きな 女の話でもいいじゃねえか : : : 志ん魚」 トルコ・個室 ( エリサベス ) 志ん魚「勘弁して下さい、アニさん、今度しつ 8 ホテルの部屋 ( 志ん肉と志ん菜 ) 一日の仕事を終えたエリザベス。空気 ペアになった志ん肉と志ん菜がおとなし かりやりますから」 マットを洗い壁に立てかける。 くしている。ポットのお湯でお茶をいれ志ん水「そんなこというなよ、おもしろい話、 いつばいしてさ、だんだん眠くなっていく ている志ん菜。だまってうつむいたまま の志ん肉 ・ : 回転べッドの上に座って 志ん米の部屋 のがいいんじゃねえか、ナア」 志ん米、部屋に入る。女房、抱きついて いる。隣りの部屋から女の喘ぎ声、聞こ志ん魚「眠いすよ、アニさん」 えて来る。 迎える。ムネの大きさが目立っ女房。 いきなり志ん魚に抱きつく志ん水。 ( 照 も女房「おかえりなさい」 志ん菜「アニさんは、こういうとこ、よく来 明、赤になる ) 、つ 少しジャレあ、つ一一人。 るんですか」 志ん水「志ん魚、オレ、前からおまえのこと よ 志ん米「お : : : おつばいじゃなくて明日休め志ん肉「ああ、まアナ」 好きだったんだ」 の るかい佐世子 ? 志ん菜「お茶はいりましたよ」 志ん魚 ( びつくりして ) 「ダ、ダメですよ、 女房「休めるの」 志ん肉「おっ」 アニさんかんべんしてくださいよ : : : 」 あえ

10. シナリオ 2016年3月号

志ん米師匠宅・玄関 ( 朝 ) 志ん田「もう一度行ってきます」 志ん田「 : : : 志ん魚さん ! 」 志ん米がトイレから出てきて壁の絵に眼 志ん米、棚の上にある財布から一万円を が留まる。志ん米、絵に歩み寄り四十五 抜き出し、志ん田に差し出す。 近所の路地 度に傾ける。 志ん米「あいつ、天麩羅蕎麦が好きだからよ。 志ん魚があわてて何軒かの家の前からゴ これで大盛りでも食わせてやれ」 ミ袋を回収して走る 同・居間 志ん田「・ : : いただきます それを手伝う志ん田 テープルの上に茶碗と箸、朝刊、青汁を と、一万円を手に立ち上がる。 志ん魚、さすがに息絶え絶えになってき こ 0 儿帳面に並べてゆく志ん田。 タ美「トトさんとこ行くの ? その様をじっと見ている志ん米。 志ん田「うん」 タ美は寝起きの顔でポーっとテレビを見タ美「じゃあ、なに着て行こうかな」 表通り ている 志ん田「 : : : 来なくていいです」 ゴミ収集車が走ってゆく。 志ん水がグルメ番組に出ている。 タ美「なんでよ ? 」 それを追う志ん田と志ん魚。 志ん米「玄関の絵、あれ、おまえが直してん志ん米「 ( タ美に ) ゴロゴロゴロゴロしてな 志ん魚は足がもつれかけている。 のか ? 」 いで、おまえは仕事を探しなさいー 志ん田「はい タ美「 ( ポソッと ) あ 1 あ、トトさんに会い 志ん魚の家・中 志ん米「バカヤロー。だからおまえの落語は たいなあ : : : 」 帰って来たばかりの志ん魚が手にゴミ袋 杓子定規なんだよ。あの絵はな四十五度傾 と、つまらなさそうにまたテレビを見る を持ったままつっ立っている けて観るからこそ味わいがあるってもんだ。 志ん魚「また、忘れちゃったよ 志ん魚の家・表 おまえはな額縁しか見てねえんだ。絵を観 と、脇にいくつか積まれたゴミ袋の山に ろ。絵を。心の目がねえ奴あ落語家にはな 志ん田が大きなリュック背負いやって来 ゴミ袋を置く る。 れねえぞ」 志ん田「すいぶん貯めましたねえ」 志ん田「 : 来たはいいが家がわからず行ったり来た 志ん魚が靴を雑に脱ぎ散らかして、散ら 志ん米「 : : : で、志ん魚の様子は ? 」 り探していると、隣のドアの中から「あ かった部屋へ上がる 志ん田「 : あっ ! 」という声が漏れ聞こえる 志ん田、不愉快そうにその靴を揃える。 志ん米「どうした ? 志ん田、そのドアの方を見やる。 志ん魚、さっそく扇風機をオンにする。 志ん田「何だか不思議な人ですよね」 すると、勢いよくドアが開き志ん魚が飛志ん魚「ところでまた何しに来たの ? 」 志ん米「・ : び出してきて走り去る。 志ん田「今日からしばらくお世話になります . 4 一 4 ・