ぎゅう ク寝床ツを演じている志ん魚。 師匠「うん、牛はどっさり入っていたかい ? 」志ん魚 ( びつくりして ) 「古典はダメですか ? 志ん魚「旦那の方はといいますと、もう語り オレは : : : 」 志ん魚「入ってました。もう牛丼なみです。 だけど師匠、どうしてそんなことまで細か師匠「いや古典をなぞるとナア、せつかくの始まったらもう夢中になりまして、三味線 の間もなにもあったものじゃありません、 くきくんですか ? おまえのあの面白さが小さくなっちまうよ ただもうガーガーキーキーわめきあってる ・ : 自分ではどうな 師匠「うん、この間ネ、外人の落語研究会の うな気がするんだョ、 ばかり、集まった連中はと言いますと、う 話を聞いたんだがネ、その時にネ、マクド んだい ? 」 まいうまいとこう飲み食いしていますと腹 ナルドのあのハンバーガーのことを、食べ がつつばり、目の皮がたるみ、一人横にな た時のことをネ、こと細かに絵絵のように 舞台 ( インサート ) り二人横になり、みんな寝てしまいました」 また、話をするんだ、具が何が入ってたと か何だとかネ、あれを聞いて妙におかしく 志ん魚「医者にみてもらったが何が原因だか 判らない、ようく心当りを聞いてみると義客席 なってネ、不思議なもんで、今すぐ食べら 志ん魚の落語を聴いて寝ている客、客、客。 れるもんでも、ああティネイに具が何か太夫を聞いてからでた熱だっていうんで義 入ってたとか何だとかって言われると懐か太夫熱だ」 客たちアクビをしている しくなるもんだネ」 道路 セダンタイプのエリザベスの車が走る 志ん魚「そうかもしれませんね」 師匠の家・部屋 師匠「うーん : ・・ : そうだおまえね、新作すこ しやってみたらどうだ ? 志ん魚「古典でがんばります」 車の中 志ん魚が運転している。助手席にエリザ 師匠「うん、がんばるのもいいがネ : : : わざ ベスがすわっている。いきなりマジメな わざ遠い道を歩くこともないだろう。で、 舞台 ( インサート ) 顔をする志ん魚 今の時代だったら新作と古典の乗り入れが ク寝床なを演じている志ん魚。 できるんじゃないかと思うがね」 志ん魚「 : : : オレ、高校生の女の子とっきあ 志ん魚「ひところ、大変はやったお稽古事に ぎだゅう 、つことにしました・ 義太夫というのがございます。師匠方とし志ん魚「かなしいですよ、師匠。新作なんて ・ : 今まで誰ともっきあってな エリザベス「 : ・ ても、弟子が大家の御主人などということ誰に教わったらいいんですか ? 」 かったの ? 」 になりますと、少々調子が悪いからといっ師匠「あはは、泣くなよ、志ん魚。おまえの ためを思って言ってるんだ : : : まあ、ゆっ志ん魚「そんなこともないですけど : : : 」 て断れば収入の方に関係して参りますから、 エリザベス「そうよね : : : 」 くり考えてみなさい」 我慢をしてぐっと我慢をして」 志ん魚「 : : : だから、も、つ会えないかもしれ ないというわけで : : : 」 舞台 師匠の家・部屋 ク寝床をを演じている志ん魚。 一 4- 8
・ : 君、どうやって生活 志ん魚「志ん魚です : : : 」 らいかせぐのに、 由実の家・居間 父「落語は : : : むずかしいもんだとか聞い ク二十四孝をハナシている志ん魚。 してるの ? 」 クしかし、親孝行ってエものは志ん魚「 : : : なんでそこまで心配するんです てるけど ( 百科事典の直ウケウリのうんち志ん魚「 : か」 くを述べる ) ・ ・ : 志ん魚なんて、きいたこ大したもんだナ、俺が酒を飲んですっ裸で 眠ってたのに蚊は一匹も刺していねえ、す 父将棋盤を出して、 とないョ」 なわち、これが天の感ずるところだクみ 志ん魚「まだ二ッ目で、テレビやラジオにも 何父「君ね、くやしかったらこのツメ将棋と 言ってんだよ、あたしが一晩中ウチワであ 出てませんから : : : 」 いてゴラン」 父「どんな落語やってんのかナ、 : : : 聴い おいでいたんだよ气 ・ク二十四孝ツでした」 今まで黙っていた由実が急に口を開く。 てみたいもんだネ」 拍手する由実。由実をたしなめるような由実「父さんの言う通りだと思う。志ん魚さ 表情の父 ん下手よ ! 」 志ん魚 ( ちょっと考えて ) 「 : : : それでは、 やらせていただきます」 由実「えつ、 いいの ? 」 私鉄の駅 ( 東武線 ) 駅前ーインサート 私鉄の駅 ( 東武線 ) 駅前ーインサート 志ん魚が正座してハナシを始める 終電が行ってしまって、どうしようかと 志ん魚「えーっク二十四孝クという親孝行の 志ん魚ションボリ歩き始める おハナシを一席おうかがいします。クこっち 寂しく立っている志ん魚。 へお入り % まだ酒は飲みたくないよを : : 」 由実の家・居間 由実が予想外のことを言ったので、父も 真剣に聴いている由実とむずかしい顔を由実の家・居間 して聴いている父。 父「 : : : なってないねえ : : : 志ん朝や談志 志ん魚もビックリしている 志ん魚「誰が酒を飲ませるって言ったよ : にくらべると : : : ずいぶんへタだよ : : : 」志ん魚「オレ、帰ります どうして、おまえの家はそうケンカばっか志ん魚「まだ二ッ目ですから : : : あの人たち由実「 : りしてるんだ : ・ : この長屋は三十六軒ある は真打ちだしキャリアも違いますから」 志ん魚と由実が顔を見合わす。 けどナ、こう一二日にあげす、ケンカばっか父「年いくっ ? 」 志ん魚「失礼します : : : 」 りしてるのは、お前のトコだけだよ」 急いで玄関に向かおうとする志ん魚 志ん魚「二十三になりました」 父「その時には志ん朝とか談志のは、もっ父「もう少し、勉強してから出直しなさい と、つまかったヨ : : : 」 私鉄の駅 ( 東武線 ) タイミングずらして、母が出てくる 最終電車が行ってしまって、ホームの灯志ん魚「そうかもしれません、でもこれは人 りがすべて消える それぞれですから : : : 」 母「またお寄り下さいネ : ・ 父「サラリーマンだって一年生でも十万ぐ志ん魚「ハイ」
志ん水「え ? 創作ネタって ? タ美「なんだ志ん茸来てんじゃん」 二つ目昇進のお祝いにつて着物誂えて貰っ 山田「 ( 無視して ) お詫びも兼ねて、出目金志ん茸「・ : てんだぜ」 の供養のためにネタを一つ作ります。そ、つタ美「カットモデルになってくんない ? 」 志ん麦「ピンクの ! 」 志ん魚さん本人が言ったわけですから」 志ん茸「この髪型気に入ってんすよね。志ん志ん水「そう。俺なんか手ぬぐいだよ」 田じやダメなんすか ? 志ん米「 ( 唸る ) ・ 志ん麦「俺も。兄さんは ? 」 志ん水「 ( 訳もわからず唸る ) 」 タ美「あたしがやりたい髪型、たぶん似合わ志ん米「 : : : んなことはいいんだよ。いい、。 ないと思うんだ : ・・ : 」 援助打ち切られてみろ。小さな小屋で地 7 志ん米師匠宅・玄関 ( 夜 ) 志ん田「 : 味いにやるか ? 中学校の体育館で寒々と 志ん田が玄関周りに掃除機をかけている。志ん茸「ああ、そりやマズイすね」 やるか ? それじゃあ師匠に申し訳が立た と、脱ぎ散らかされた靴が気になり掃除タ美「志ん茸がピッタリなんだけどなあ : ねえだろ」 機を止める。 志ん茸「いつですか ? 」 志ん水「面子丸潰れだな」 志ん田、靴を丁寧に整然と並べ替える。 タ美「明日」 志ん麦「でもまあそうは言っても、結局は出 すると今度は、壁にかかった絵が四十五志ん茸「師匠には言っといてくださいよ」 してくださるんじゃないですか。昨日今日一 度傾いているのが気になり修正する。 タ美、親指を立てて力強く頷く。 の付き合いじゃないんだし」 志ん田、再び掃除機をかけ始める そして自分の部屋へ。 志ん米「バカ。そうゆう問題じゃないんだよ。一 すると、そこにタ美が慌ただしく帰って 志ん茸、鏡の前に立ち髪型をチェック。 おまえみたいな木偶の坊の唐変木をこうし 来る。 て上海ガニがたらふく食えるまでにしてく 志ん田、そんな志ん茸を一瞥し憮然とし 靴を脱ぎ散らかし、玄関を上がる て乱暴に掃除機をかける。 だすったのは誰だ ? 」 行きかけて、ふと志ん田を振り返り見る。 志ん麦「そりやもちろん師匠です タ美「ビール券てさ、酒以外のものも買える 8 先の中華料理屋 ( 夜 ) 志ん米「その師匠がだ、さんざん世話になっ からね」 山田はすでに帰っている。 てんだよ、あの会長に」 と、すぐに奥へと向かう 志ん麦は紹興酒をちびちびやって酔って志ん水「兄さんの一言うとおりだぜ。おい志ん いる 志ん田「 : 麦。ココ ( ハ 1 ト ) ぶれてんじゃねえか」 居間から志ん茸が、ひょっこり顔を出し、志ん麦「あの会長、ほんとは天使の顔した悪志ん米「 ( 志ん麦に ) それによ。会いたいじゃ 志ん茸「何の話 ? 」 魔なんじゃありませんかねえ」 ねえかあ、志ん魚によお。な : : : 」 志ん田「・ : : ・」 志ん水「俺はよ、こう見てんだ。つまり、会志ん水・志ん麦「 ( しみじみ頷く ) , 長は志ん魚に会いてえんだ。憶えてるか ? 志ん米「でだ。志ん魚はどこにいんだ ? 」 タ美、志ん茸の声に振り返る 8
る人物像をガーツと追いかけていく。ある殺魔」と同じじゃないか、といわれそうだ。 なんだから、そいつの内面っていったらど いは掘り下げていくのが一応の劇構成の骨井土難しくなかったですか、つまり足立 ういう具合になるか俺は分かってないから 法じゃないですか主人公に、入り込んで さんのやりたいビジョンというのを窺って書いてないんだ。内面を描く必要がどうし いくか、ピッタリと伴奏するかあるいは いると、例えば、内面的な芝居はいらない てもっていったらやるけど、ほんとに黙っ それを突き放すか。時代に突き放されるの んだと。しかし、足立さんがいない時代に て坐っているだけにしてくれって頼んだん か、とい、つよ、つなことまであるんだけど。 役者の心構えや演技の質も変わったはずな ですよその話し方も悪かったかもしれな そういったやり方をこの「断食芸人ーの主 んです。もっと無表情に、棒読みでいいん いけど、彼はほんとに黙って坐ってるだけ 人公でも考えたんですよ。断食芸人の側か だっていう芝居ではなくて、俳優さんはど だから、周りはガチャガチャワイワイやる ら考えてそれを突っ込んでいったら、最後 こか内面的なお芝居、なにか実存的な振る し、それに取り囲まれてるから、ほんとに は看守人の武器をとって殺して姿消すぐら舞いっていうものをやりたがると思うんで きつくてきつくて、どうしようもないって いしかなくなるな、と。それは面白くない すね。実際、今回の映画はわりあい役者さ洩らしてました。 で、むしろそういう劇的に入り込んでいく、 ん、そういう芝居をしてると思うんですけ井土俳優は絶対不安になるはずです。 あるいはその人間の感情を描くことによっ れども。昔からの付き合いがあるような演足立反応したくなったりするわけでしよ。 て入り込んでいくという仕方で、僕は今回 劇の方々は面白い芝居をしてるなあと思、つ井土そうですよね メッセージを出すつもりはないというのが んですけど、例えば、若い俳優さんを含め 足立「監督、シンドイですね」と、言い あった。何故なら、そこへ入っていったら てそういう内面的な芝居を壊すとかやめさ にくるんだもん ( 笑 ) 。それが一つ。さら メッセ 1 ジだらけになる。それはもうた せるとか、そういうことはあんまりされな に面白かったのは、引きこもりの青年と自 まったもんじゃない、メッセージ映画はい かったんですか 傷癖の女の子の会話のところ。読み合わせ やだっていうのがあって、じゃそれを、き足立いや、二つありました。断食男を とか練習とかするなよって言ってたんだけ ちっと距離を置いて見ることによって初め やった山本 ( 浩司 ) さんが、「監督、ホン ど、隠れてやってたんだ、若い二人がそ て、その演じてるもの、あるいは最初に福はこうなってるけど、わたしの内面もある して、「監督、相談があります」って二人 島の原発の前で、もう怨むしかない。怨嗟んですよね ? 」っていうから、「うん、ある、 に呼び出されて、その日の撮影終わった後 の眼差しで立っしかないという側から描く ある」って騙してね に。話を聞くと、どうも二人は隠れて稽古 という具合に整理していった。その怨嗟の井土内面のこと言ったんですね していたらしく、「会話の内容がプチプチ 眼差しっていうのをすっと生かした紙芝居足立うん、そういうものは出てくるかも切れてるし、意思疎通が全然できないんで にするのを今回テーマにした。井土さんに しれない、と。だけど、誰か分からない人物、す」「わたしたちの会話書き変えていいで 怒られるかもしれないけど「略称・連続射 どこから来てどこへ行くかも分からない男すか」って言う。お、きたなと思った。だ 1 16 ー
く商品として作られてますよね。 いまでが限界ですね。それ以後はもう、自 右 足立そうですね。 氏分たちが撮れる映画のホンを作ろうという 生 井土で、僕も多少かじった程度ですけど、 仕方に入っていって。もう映画が斜陽で、 正 プレヒトなんかを読むと、まっこうからそ 立俺のクラスの者は映画会社にほとんど就職 レ」 れを批判するというか して、映画に入れない者はテレビにいった 左 足立壊して新しいものを出そうとしてみ り。結局、私たちはインデイベンデントの たり。だからアンティ・テアトロ ( 反演 、こ氏映画作りを続けようと思 0 たら、すたれて 劇 ) の問題を映画ではどうするんだろうと 紀 いない映画はピンク映画で、ピンク映画の い、つぐらいには映画を好きになったりしま 井現場を勉強しないとダメだろうというんで した。ただ、勉強したのは日大芸術学部で 若松孝二のところに行ったんです。ピンク シナリオといえば野田高梧から新しい人で 映画は凄まじい世界でしたね。一週間で撮 は橋本忍とか、そういう系列ですよ。笠原 影する、なおかっ極貧の予算で、べッドシー 和夫さんのシナリオ骨法みたいなことは野 ンが川分に一ついるとか。とんでもない条一 田高梧から叩き込まれてるんです。だけ 件だけど、べッドシーンでなくてもいし ど、クラスで自分たち流のホンを書く試み んだろ ? と若松さんに言ったら、 をやり、週に 1 本ぐらいみんなで書いたの ていうような若松さんでしたからやれたよ を読み合ったりした。そういうことの続き うなもんです。それでだんだんピンク映画 で、後年、東宝のアクション映画や普通の のシナリオを量産したんですね。 映画のシナリオライターになっていった人 井土その時代って、例えば大和屋竺さん もいるにはいた。ですが、むしろ、それは 力いらっしやったり。 書けるけどちょっと違うな、という気持ち あった。最後には「ロトを殺した二人の息足立そうそう。若松のところには吉沢 が溜まって行った。この極貧の鬱屈した僕子」というのを書いたんですが 京夫さん、寺島幹夫さん、ハンガャさん らの情況と実感を映画にするにはちょっと井土佐藤重臣さんがやられてた「映画評 ( ? ) 、そして、だいたいあとで鈴木清順さ 違うというのがあって、どういう具合にし論」にシナリオが掲載されてますね、拝読 んを中心にしたシナリオ研究の具流八郎グ たらいいのかという模索を続けた感じでし しました。 ループの曽根中生、大和屋竺、田中陽造さ た。だからそういうものの中で、何本かシ 足立あれなんかけっこう普通の映画風に んたちが、「大谷義明 , という名前で順番 ナリオを書いて映画を作ろうとしたものが見えるじゃないですか。だから、あれぐら に書いて提供しはじめた。そこへ型破りで
井土観客にカタルシスを味あわせ、気持展開でこういう流れで行くという大バコみ人でワイワイ映画の話していましたね。特 ちよくさせて終わるんじゃなくて、観客に たいなものは多少一致してるんだけど、あ に戸田さんに、「怪談」 ( 年小林正樹監 考えさせる、観客の喉元に匕首を突きつけ んまりそれに沿わないで壊す仕方をするた督 ) の巨大セットを作り続けて、スタジオ に入り切らす、飛行場の格納庫に作り込ん る。まさにプレヒトを通過した映画表現に めに僕を入れたわけね。 だ、それやこれやで美術が「怪談」を潰し なっていた、と。その後、田村孟さんとも井土なるほど、コンストラクションを、 かけたという話などを聞いたり、映画作り ガチガチにするんじゃなくてね お仕事をされてますけど、田村さんから得 の勉強会風だった。 たもの、学んだものがあればお聞かせくだ足立そう、壊し係ね ( 笑 ) 。「帰って来た 井土なるほどね。 ョッパライ」 ( 年 ) にしろ「新宿泥棒日記」 足立本人に言ったことないけど、僕はシ 足立ああ、それで本題に戻すと、田村さ ( 年 ) にしろ、あ、大島が僕を呼んだの んの脚本はとてもスマートなんです。その ナリオの師匠は田村さんだと思ってる、勝は壊し屋を求めているというのがありまし 手にね。彼のすごいところは、さっきも言っ たね。だから、あまり壊し屋風にしないこ極意を知ろうとして聞いてみたら、田村さ とにした。 んは「ト書きもセリフも、書きたいことを たような映画の全体イメージをどうやって きちんと出すのかというのをテーマにして井土その辺は、さすが大島渚ですね。 全部書き込んじゃいけない。ト書きは出来一 るだけ要の事柄だけ書く」といい、「セリ いた。それは田村さんの資質だし。後年、 足立策士ですよ 大島監督の映画で 2 本ほど一緒に仕事をさ井土 ( 笑 ) 。 フは演説じゃないのだから、主張をそのま一 ま描くのではなく、その人物が主張したい してもらったりして、一層そう思った。大足立映画の世界だけじゃなく、人物とし 気持ちを表す言葉を書く。生きている人物 島渚、田村孟、佐々木守さんの共同執筆者て。 が揃っていて、私が加わった。佐々木守は 一週間ぐらい旅館で合宿して、展開や進を描こうとするのだから」と、 % 表現説 行に詰まるといったんバラして、来週また と呼べるようなことを、簡潔に語っていた。 200 字詰めの原稿用紙を置いて、皆が合 意した上でシーン描写を語り始めるのを待集まることにしたりした。その間に、みな なるほどとうほど、セリフも人物も生き つ。大島さんが、最初のシーンはこの場面さんいろいろ仕事していた。田村さんもテ生きしたものに書き上がって行く。勉強に なった ! レビの連続物を 2 本か 3 本抱えてたり、守 からいこう、と提案し、皆が頷くと、田村 さんが僕に向かってシーンの柱とト書きを さんになるともう 5 、 6 本から川本抱えて 語り、登場人物のセリフで話しかける。僕 いて大変だから、ちょっと休むことにす 現代の紙芝居ふうに は、セリフで応えないといけない。それを る。何もしていないのは僕でしよ、その間 芝居にしていく。 時には立ち稽古ふうに 一旦脚本から離れて美術の戸田重昌さ井土「断食芸人」では、プロデューサー やったりする。こ、つい、つテーマでこ、つい、つ の小野沢稔彦さんと脚本が連名になってま んや旧友だったカメラマンの吉岡康弘と 3 1 14
の・ようなもの かい合っている エリザベス、風呂の湯かげんをみる。 スチール オカミさん「今日は、一一十三歳の誕生日おめ志ん魚「実は、俺、落語家なんです」 志ん魚がトルコに入った瞬間の写真。 でとう ) 」ざいます」 エリザベス「落語家 ? 」 ストップ・モーション 志ん魚「ありがとうございます」 志ん魚「はい」 はなしか フロント ( 声 ) 「いらっしゃいませ。どうぞオカミさん「落語家というものは、歳をとれエリザベス「じゃ何かおもしろいこと言って お上がり下さい」 ば味も出していかなければならないし、う くれる」 志ん魚、フロントをみるーーーストップ・ ま味も出さなければならないのです , 志ん魚「おもしろくないですよ、俺、生活に モーション 志ん魚「はい おわれてますから」 志ん魚とフロントーーーストップ・モー オカミさん「気のぬけない商売なんです、で エリザベスと志ん魚、それぞれ服を脱ぎ ション はじめる すから、おまえの二十三歳は誰の二十一二歳 ・ : じゃ、 フロント「どなたかご指名は、 でもない、おまえの二十三歳なんですよ」 エリザベス「生活におわれてるなんて顔して い子をご紹介しましよう : : : エリザベスさ志ん魚「はい」 ん、エリザベスさん」 オカミさん「わかりますネ 志ん魚「じやどういう顔してますか」 : でもかわ 志ん魚「はい」 エリザベス「魚眼レンズみたい : ・ はなしか 師匠の家・玄関 オカミさん「だから、落語家というのは、歳 はなしか おかみさんがニコニコ出てくる。 をとるにも落語家らしく歳をとっていかな志ん魚「しかし、お客さんにメチャメチャ言 おかみさん「あら、志ん魚、待ってたんだよ、 ければいけないのです、そういうことを頭 いますネ」 しようじん おまえ、遅かったじゃないか」 に入れてこれから先も精進して下さい」 エリザベス「ちゃんと人考えて言ってるもん」 おかみさんの時計のアラームが鳴る。 志ん魚「よ : ーしこれからもョロシクお願いし志ん魚「でもお風呂のある部屋っていいです 志ん魚「おかみさん、気味悪いナア」 ます」 志ん魚の時計のアラームが鳴る。 エリザベス「トイレも台所もついてないのよ」 3 トルコ風呂・個室 志ん魚「ふーん、俺ん家もねえナ」 おかみさん「何言ってんだよ、あのネ、お 2 まえのお誕生日の師匠のお言葉があるの、 トルコ風呂ホステスのエリザベスが急に あが 上っとくれ」 正座をして志ん魚に挨拶する。 道路 志ん魚「はい」 エリザベス「エリザベスと申します。よろし 志ん米、志ん水、志ん肉、志ん菜が何か 言いたそうに歩いている。 くお願いします」 貶師匠の家・部屋 志ん魚「志ん魚です、よろしく 志ん水 ( 志ん米を見ながら ) 「何、カんじゃっ オカミさんと志ん魚がまじめな顔して向エリザベス「なんですか、志ん魚って ? 」 てんですか、何よろこんでんです ? 0 りき
井土その上で、それを否定しようと思わ分が考えてたものが一つ達成されてるとい 立ち尽くす石工たちの顔を延々と写して終 れた、と。 う思いはあったんですね。 わる。その辺りが、なんとなく自分たちが 足立まあ、否定とまで : : : そ、つではない 足立そうそう、片一方でね。それよりもやろうとしてた映画の方向のイメ 1 ジだっ ぞ、なんか自分たちが提出したい世界とか 同じ時期に、田村孟さんが出した映画ね、 た。だから、あ、この時代の抉り方ははっ イメージとはちょっと違、つなとい、つものが これが良くてね。 きりしていいなという具合に掴まえてた。 ありましたね。伝統的なというか、オーソ 井土「悪人志願」 ( 年田村孟監督 ) 。 井土なぜ他の人間は立ち上がらないん ドックスな映画の作り方やシナリオの書き足立これが、ああなるほどなと、井土さ だっていうことですよね、あのエンディン 方では自分たちの映画つくりにはむいてい んもどっかで話してらっしやったけど。僕グは。 ないなあ、という具合に、溜息のほうがっ は日大の映研で、彼を呼んで話聞いたりし足立そう、日本的状況っていうのはこう よいですね、否定するというより。それで て。 だった、と。年の反安保闘争も、結局、 どうする、というところへ自分を追い込ん井土大島渚じゃなくて田村孟にみんな注 みんな一緒に立ち上がったら勝てただろう 目したと。 でた時代だったと思っている。もう一方で けど、そうはならなかった。後では、、誰 黒澤の映画だって面白いと思っていた。大足立特に、「悪人志願ーに描かれたラス でも言えることだけどね。 学 1 年生から 2 年生になる頃に、それこそ トシーンの、日本的状況の描写。石切場井土それを映像として空間と人物、それ でヤクザがテンパって悪いことやってい から関係性ふくめて、 井土松竹のヌーベルバ 1 グ、大島渚でする。石切場の危機だから石工たちが集まっ 足立関係性だね。 ね。 て来る。ひとりが我慢しきれなくて石コロ井土それをきっちり映画として表現して 足立ああこれは僕らが作りたい映画をも ひとっポーンと蹴ったら、コロコロコロっ いたってことですね。 う作ってるんだと思った。じゃあ僕らのお て転げていく。それでも全員は動かすシー 足立だから他の映画だったら、日活とか 役目は終わりかって。だけど、傍にいる皆ンとしてる。あそこの凄さね。つまり風景東映とかの映画だったら、ヤクザが総蜂起 んなも、そうだ、半分は済んだとかなんと としては、メキシコだったら、悪人軍団を して悪玉ヤクザをつぶすとか。 ( 石原 ) 裕 か言ってる : 取り囲んだ農民のひとりが石コロを蹴落と ちゃんたちの映画だって、最後は裕次郎の 井土その後、大島渚とも共闘されていく したら、全員が次々と怒りを露わに蹴とば グル 1 プが勝ってしま、つとか、そ、つい、つぐ わけですもんね。 し、もう雪崩になった石での流れがヤクザあいに普通なら青春映画にして描かれてる 足立後でね。そういう感じでした。 たちを埋めつくすだろうというシーンの筈 いやそれも僕はいつばい観たんですよ、勉 井土そうか、松竹ヌーベルバーグが出て だ。それを、田村さん、一つが転がり落ち強として。それに比べて田村さんの映画は きて、特に大島渚を見た時は、ある種、自誰ひとり続かず、立ち上がらない。黙して凄いと思った。 「日本の夜と霧」が出てくる。 1 13 ー
いうぐあいに、最後は皆が納得してくれた。 だ」とまた言いだす ( 笑 ) 。フルサイズを けど二人の作った内容は普通の会話になっ 撮るとアップで切り返しカットまで撮ろう てるんだよ。そこで僕は説明不足を反省し楽しめましたよ。 井土なるほど。スタッフはどうでしたか。 とする。僕は「撮っても使わない ! 」とむ て話してみた。たまたま横に坐っている二 くれたりした。 人。前に会ったこともなければ恋人同士で撮影はもともといっしょにやられていた山 もなければ親類でもない。まったくお互い 崎裕さんですけど。 井土例えば、年代から E 年代前半にか 知らない二人。興味もない二人がただ坐っ 足立日大の頃からいっしょに。 けて、足立さんが映画を撮られてた時期と てただけ。だから、その二人の会話だから、井土カメラマンっていうのは、キャリア比べて、足立さんのやりたいイメージがス タッフ、キャスト含めてやりにくくなって 意思疎通もチグハグで不可解なところで話があればペラベラした絵を撮るのは嫌うん じゃないですか るという実感はありますか し合っている。チグハグさを生かしてほし いと頼んだ。「ああ、そういうことだった足立だから最初から言った。今度は紙芝足立それは、あります。 んだ」って悩んでいた彼らは分かってくれ居だから、最近は情緒的な映画の監督と付井土何が変わって : ・ き合い、世界的に情緒的な映像が撮れる有足立山崎とやったのは、風景論とか騒が 名なカメラマンだけど、今回はいっさいそれだすけど、「略称・連続射殺魔」のとき。一 もう一つ、桜井大造と流山児 ( 祥 ) の役 の情緒ってのはいらない。分かってるだ永山 ( 則夫 ) が見たであろう風景を撮るだ 振りで、流山児さんが「俺が大造の興行師 けじゃなくて、永山がいた、あるいは立っ 役だろう ' 役を入れ替えろ」と言うんですろ、と。「分かってるよ」って怒ってたけど。 てただろう空間が分かるように入れて撮る 撮影始めると普通の映像美なっていく。だ よ。「いや、申し訳ないけど逆にはしない、 のをやってた。山崎はそれは分かる。今度 これでいいんだ」と押し通したら、流山児からワンカット、ワンカット論争になるわ は紙芝居と言えば、それも分かっている が後で「その意図が分かった」と言う。要け。スタッフ、キャストはそれが面白くっ は大造はヒトラー風の権力者、あんたの方て ( 笑 ) 、映画論やってるようなもんだから。他の人はそうじゃない、大変だったでしょ 井土そうですか う。録音の志満さんなんか、「監督、紙芝 は、何度も詐欺で失敗し、刑務所にも入っ て、そんな人生の詐欺師の呼び込み屋なん足立ただ、やつばり山崎がそれでも美し居ていっても俺の作業では普通の映画と同 じだからね」って。美術とか衣裳とかメイ だから、その人生の芥を全部出してよ。「分 い画面に拘り続ける。僕はついにクお触り クの人とか聞きにくるので、「普通の映画 かった、じゃあヒゲも剃る」っていって初 山崎クって言いだしたんだけど。フレーム めて、ヒゲがないと単なるラッキョ面で、 見てて、道具や物の人物の位置とか直した作りとしてやってください」と言うしかな いで、いちばん不安だったのがチ 1 フ助 りするから、僕は「ザラザラして不均衡で なんにもない男に見える。つまりこれは、 いいんだから」って ( 笑 ) 。彼は「不均衡監督の野本さん。ちょうど荒井晴彦の「こ ドラマではない紙芝居。それから形而上学 の国の空」を終わったばっかりで来てくれ は不均衡なりに造形っていうのがあるん 的に人間像を追いかけるものでもない、と 、」 0 1 18
りを始める。 志ん田に差し出す。 志ん茸のヘア 1 スタイルは片側だけツー 志ん田、その年賀状を手に取り、写真を昭 同・居間 ( 朝 ) プロックになっていて、上下を切るたび 眺める。 志ん米が数種類の栄養補助剤を飲んでい ヘアースタイルが違っている。 る 華厳の滝の前に志ん魚が立っているのだ 志ん茸「こんにちは、旦那さま熊五郎で : が、志ん魚があまりに小さすぎて顔を近 その前に志ん田が正座している。 何かお使いを頂きましたそうで」「ああ熊 づけて見る。 志ん田「志ん魚さんの実家、ほんとに日光の さんか、忙しいところ御苦労さま。待って この住所で合ってんですかね」 たんだ、またひとつ、やってもらわなく 同・弟子の部屋 ( 夜 ) 志ん米「たまり漬けをな、しつこく送って来 ちゃならないことが出来た : : : と、言うの 志ん田が時刻表を眺めながらニヤけてい たんだよ。そこから」 る は、せがれの事なんだが : ・ 「若旦那が 志ん田「でも昨日、和菓子の『司』で検索した どうかなすったんで ? 」「うん、ひと月ほ するとドカドカと足立日がして、ノックも んですけど、ヒットしないんですよ : : : 」 ど ~ 則から : なくタ美が顔を出す。 志ん米「ヒットしないってことはアウトだ 志ん米「 ( 遮るように ) : : : 志ん田。次の寄タ美「ねえねえ、どうよ ? 」 ろ ? 」 席までになバリカン買って、こいつの頭丸志ん田「何がですか ? 志ん田「フォアポールっていうのもあります めちまえ。二つ目になりたての小僧が色気タ美「志ん茸の髪型に決まってんじゃん」 づいてたんじゃ、楽屋でナニ言われるかわ志ん田「ああ」 志ん米「バカ。俺が言いたいのはな、アウト かりやしねえや」 タ美「どうなのよ ? 」 だセーフだじゃなくて、そうゆうのもぜー 志ん茸「え、坊主すか : ・ 志ん田「似合ってるとは思えないですけど んぶひっくるめて行って来いってんだ。行 志ん米「ほら、やかんがヒューヒュー言って かなきやわかんねえことがあんだろ」 んだろ」 タ美「やつばわかんないんだね。志ん田には」志ん田「行って来ます」 志ん茸、台所へ走る 志ん田「だったらはっきり言うけど、あんな 入れ替わりに志ん田がきゅうりなしの酢の二番煎じだよ。独創性を感じない」 走る日光線・実景 の物をさっきと全く同じ位置に置く タ美「あんたの落語なんか二番煎じにもなっ 志ん米「今日からな、うちのことはあのバカ てないじゃん。小学生が国語の教科書読ん とある交差占 に任せて、おまえ、志ん魚探して来い」 でるようにしか聞こえないけど」 志ん田がスマホ片手にやって来る。交差 志ん田「え : ・ と、そそくさと出て行く 点を通り過ぎたと思ったら、戻って来て 志ん米、用意しておいた古びた年賀状を志ん田「 : 道を確かめ右折する。