野次馬 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年3月号
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1. シナリオ 2016年3月号

の付き人 ( 呼び込み屋 ) 、その後ろには ロの方にいた人々が、断食男の姿を見つ い声で読経を続けながら座り込んでいる 自警団員を一一、三人引き連れて現れる。 野次馬たちが、その声の清澄さに一瞬静 けて駆け寄って来る。 まり、断食男から離れる。そして、 自警団長に一礼して、断食男に向かって 一番乗りした件の男の子が息せき切って 演説を始める 野次馬 7 「また、仕事帰りに寄るから」 = = ロ、り、刀け・つ 0 男の子「オジサン ! オジサンの『考える野次馬 8 「とにかく、元気で頑張れよー ! 」興行師「ご苦労様でごじええます ! 私ども は、断食の再開を大いに歓迎するものでご と、それぞれ去って行く。 人』の写メ、学校中で評判になって、僕は じええます。わが世界見世物会社は断食芸 他の通行人たちも次々と離れて行くと、 作文も書いたんだよ。でも、そっちは、今 一、評判が悪かった。だけど、また、写メ 少し離れた路上に、一組の若い男女が断人である貴君と、政府の許可のもとに、こ こに、契約をするものでごじええます」 食男を見つめて座っている やるからね ! 」 若い女が、座ったままで、あひる歩きを呼び込み屋「さあ、喜べ ! 君はもう、単な そんな語りかけに、やはり、断食男は反 しながら断食男に少しづっ近づいて来る る行き倒れではない。栄えある見世物戦士 応しない として、栄光の断食芸人になったのだ ! 」 手には、粘土の塊を握りしめている 取り巻いた野次馬たちが、 若い男も、断食男を見つめたまま引き寄興行主「今後は、わが世界見世物会社の戦士一 野次馬 7 「やられたんじゃないかと、心配し として、あなたは、能動的な平和外交の特 せられるように近づいて来て、呟く。 たぞ ! 」 野次馬 8 「退院のが出たのか ? 」 若い男「初めまして : : : 俺、初めの頃から使となり、全世界に断食芸を送り届け、人々一 の心を噴き立たせる任務を負うのでごぜえ 野次馬 9 「いやあ、本当にヤバかったぞ。今ず 1 っと、あっちから見ていたんです・ : ます」 度も二週間過ぎたら、自分で止めるんだな」俺、生きているのが苦しくて : : : あんたの 呼び込み屋「君こそが現代のヒーローだ ! 野次馬 7 「待て、待て。人騒がせはこのくら仕方なら、大丈夫なのかなあと考えて・ : いにして、今度は、ちゃんと、言うことを俺、実は何度も自殺しようとして、失敗し世界中の人々は連日繰り広げられるマスコ 、あんたを見てると、 て、死ねなくて : ミ報道に、君を脅威の目で見、英雄として 言い、主張することを主張し、お上から貰 見つめることになる」 うものを貰って、早めに終わりにしようよ」少し楽になって : と、囁きかけるが、気後れして黙ってし興行主「貴君は真の飢餓を演じることで、英 野次馬 8 「しかし、まあ、よく戻って来た。 まって後ずさる 雄を待ち望む要望に応え、人々の心を捉え まだ偽物が出ないうちで良かったじゃない る。貴兄は最早、飢餓術士となるのでごじえ えます」 と冗談めかし、野次馬たちは楽しげに大 同・深夜 自警団長と一緒にダークス 1 ツの初老の呼び込み屋「この町でも、世界でも飢餓で死 笑いする。 紳士 ( 興行師 ) がヘルメットに作業着姿ぬ人は多い。それがこの世界の日常だ。し その野次馬の後ろに、僧二人が一段と強 126

2. シナリオ 2016年3月号

足。 呼び込み屋「何が起こっても、それは、お前 弾丸乗り「タマ乗り芸人参上。マラを刈り取っ の自己責任だと言ってるの ! 」 て、取って取って百人切りを超えて、目標 取り囲んだ群衆の中から、以前のように マラ切り千人 ! 男共覚悟ー 「表現の自由を守れ ! 」「弾圧反対 ! 」の 声が上がり、その一方では、 と、男たちの股間めがけて弾丸ごと頭突 % きで突入を繰り返す。 野次馬 9 「早くゴミを撤去しろ ! 」 檻を取り巻いている群衆がヤンヤの喝采。 野次馬川「ウジ虫を片づけろー 野次馬 9 「街を穢す輩は抹殺しろ ! 」 などの野次が大きく上がる 同・「死のう団」が走る 和服で正装の「死のう団」団長を先頭に、 その様子をカメラが追う。興行師が カメラに向かって喚く 檻の前を「死のう ! 」と叫びながら走り、 ビラを撒きながら往復する。 興行師「時が来れば、物理力を行使する。そ その動きを避けた群衆が場所を開けると、 の時、何が起こっても、この男の自己責任 団長が檻の前に決然と座り込み、 でごじええます。国家が、全国民の意志を 代表して、全国民に安心をもたらす代わり団長「死のう ! 」 と、一声叫ぶと、全員が腹を切る。 に、不安と不幸を招く者を取り締まること。 血飛沫が高く飛び、画面全体が赤くなり、 これは、ものの道理でごじええます」 と、凄味を利かせる 全員が倒れる。 そこに、あの冒頭の子供がオモチャの機 関銃を持って現れ、 四同・芸人たちの登場 この世は、生か死だ。その 興行師の演説途中から、檻の周りを、ス子供「そうだ ! 中間はない ! 」 マホ少女隊がヒラヒラと踊りまわる。 と、機関銃をバリバリバリッと音響激し 少女隊「よしや、この身は滅ぶとも : : : 」 く連射するが、噴出するのは水である。 さらに、檻の上空から巨大な弾丸の張り すると、「死のう団」全員が居住まいを ばてに跨った「弾丸乗り女芸人がプラ 正し、 ンコを漕ぐように現われる。その装東は、 黒の燕尾服に下半身はむき出しの長い生団長「お粗末でした ! 」 と、断食男と群衆に一礼する 人々から疎らな拍手が起こると、「死の う団」全員が手を振りながら去る 元の路上・檻の前 もう人影も疎らになった深夜。 断食男をじっと見つめている僧一一人、若 い男女の四人。 若い女は黙々と粘土をこねて何かを作ろ うとし、若い男は、若い女と断食男を見 比べながら何かを呟き続けている。 僧二人はただただ瞑目して般若心経を唱 えている。 と、そこにチンピラ三人が現われ、いと もたやすく若い女を抱き竦めて連レ去る。一 若い男が、その後を追尾する。 同・シャッター街外れの公衆トイレ裏 チンピラたちが、手際よく、若い女を半 裸に剥き、レイプを始める。 少し離れた物陰から、若い男がその光景 を見ている 若い女は抵抗せず、ただ、レイプが続く が、それはまるで規則通りのチームプレ イのようだ。 若い女の身体のあちこちに切り傷痕があ るが、チンピラたちは気にしない

3. シナリオ 2016年3月号

断食芸人 あ ! 」「命がけでやってんだって ! 」と ら、なおも動かずに蹲っている断食男 看護師に注射を打たれて急にぐったりと 感嘆の声を上げ、拍手が巻き起こる。 その前におかれた菓子箱に札や硬貨が増 静まり、そのまま運び去られる えている 労務者風 1 「そうだ ! 働く者の危機だ ! 残された野次馬たちは、「弾圧反対 ! 」「闘 全国の非正規雇用者、今こそ闘いに結集せ 少し離れたシャッター街では、路上ライ いを潰すな ! 」と口々に叫び、シュプレッ プのグループが怒声で謳い上げている ヒコールを繰り返すが、断食男が運び去 労務者風 2 「プラック企業を糾弾し抜くぞ ! 」 られた路上には、そこだけ虚ろな空間が 労務者風 3 「安倍戦争政権をブッ倒せー ! 」 同じ路上・女医の再登場 残っているだけとなる。 と、叫ぶ声が続くと、断食男の横に「ス 一〇日が経った頃、通行人が立ち止って 新たに通りかかった通行人が噂し合う トップ派遣殺し ! 」などの旗と立て看板 様子を見ると、断食男は青黒い顔に陽光通行人 4 「何だ ! あの男、もう止めさせら を持ち込み、マイクで演説を始める数人 れたんだって ? を浴びて横たわっている のグループがいる 急にサイレン音を響かせて救急車が来る。通行人 5 「いや、急遽入院させられたらしい グループ代表「 ( マイクで叫ぶ ) 私たちはっ 緊張する断食男と群衆の前に先日の女医 : 本当かどうか怪しいけど、商店街の浄 い捨てのモノ、部品扱いされている ! 仕 が、担架を持った看護師たちとやって来化週間だとか言ってたから、追っ払ったん一 事は企業の都合次第で、残業ばかりさせら て、てきばきと断食男の体温と脈拍を測 だろ ? 」 れ、必要がないと言っていつでも首を切ら 通行人 6 「いやあ、結構名物になって、賑や一 れる ! 時給は最低賃金法を無視した格安女医「言ったでしょ ! もう体力が極限だっ かだったのに、惜しいよなあ : だ ! 」 て ! このままでは、危険です ! うちの 断食芸人の居た虚に般若心経の読経が木 それらの騒動に構わず、体力が衰えて病院で入院治療します ! 」 霊する。 来たらしく断食男はうつらうつらとし、 と宣言し、看護師たちに命じて断食男を 時々周りをながめているが、おおむね機 担架に乗せようとするが、断食男が拒む。貶シャッター街の別の路上・再び断食男が 嫌よさそうであり、時々、ペットボトル 周りの野次馬が騒ぎ出す。 現れる の水で唇を濡らして横たわっている。 野次馬 4 「断食抗議を妨害するのか ! 」 更に一〇日後、心持顔色の良くなった断 野次馬 5 「彼の抗議行動は、全くの合法だ ! 」 食男が、再びシャッター街の奥の方から 同・男が断食を続ける 野次馬 6 「そうだそうだ、人権侵害だ ! 」 ふらりと現われ、陽が差している場所を 風が埃を舞い上げる吹きすさぶ路上で断野次馬 4 「個人の表現は自由であるべきだ ! 」 見つけて座り込む。 食を続ける断食男。 と、抗議するが阻止する者はいない。 何処からともなく。読経が続いている。 徐々に、頬肉は落ち、薄汚れて行きなが 断食男は必死に暴れて逃げようとするが、 多少賑わいを残しているシャッター街入 125

4. シナリオ 2016年3月号

記者 2 「何故ハンストなんですか ? 何座り込みの抗議行動やったんだ」 大胆に行こう ! 」 に対する抗議ですか ? いや、誰に対して労務者風 2 「しかし、今じゃ、こんな消極的写真マニア 2 「そうだ ! ちょっと、セクシー の抗議でしようか ? 」 な方法では、抗議の声は強くならない ! 」 もやっちゃおう ! 自慢しちゃう ! あん 記者 3 「あなたも、戦争国家を目指す首労務者風 3 「いや、抗議行動は、一人で始め たたち、ネットで大当たり間違いなしだ 相と、その内閣への抗議ですか ? るところからカを貯めて行くんだ」 それを取り巻いた野次馬たちは、 労務者風 1 「そうだ、今日から、みんなで一 と、手を貸して少女たちのセーラー服の 野次馬 1 「真面目にハンストやってんだよ、 緒に座り込もう ! 」 胸をはだけさせると、断食男にまとわり 静かにしといてやれよ ! 」 と、立ち上がって左手を腰に、右拳を突 ついて肢体をくねらせる少女たち。それ 野次馬 2 「他にやることもねえから、好きで き上げて「やるぞ ! 」と勢いが良い を撮りまくる。 やってるんだろ ? 」 それを、ニュース記者、アナウンサー 野次馬 3 「なーに、単なる目立ちたがり屋 カメラマンなどが取材して廻る 9 同・女医の出現 断食男は何も語らず、だがほっねんと路 突然、不機嫌そうな白衣姿の女医が闖入 などと、声を投げ続ける。 上に蹲っている する だが、断食男はうなだれて動かない。 そこへ、セーラー服姿の少女たちがスマ女医「ちょっと、失礼するわよ」 その間に、通行人たちは「頑張ってね ! 」 ホ画面を見つめたまま近づいて来る。 と、少女たちを断食男から引き離し、断一 と声をかけ、食物や花東、寸志を「断食少女 1 「居た居た ! ク考える人気ここよ ! 」 食男の眼、喉、額、手首を調べてみる。 男」の前に置いて行く。 少女 2 「これ、なかなかケッコウ ! 」 女医「私、内科医。保健所から来たの。あなた、 少女 3 「予想以上にダサイね ! 」 今日はまだいいけど、準備しないで長く続 8 同じ路上・断食男が名物となる と、断食男の傍で自分を入れ込んだ記念けると命に係わるわよ。危険なの。どう ? 五日も経っと、断食男の前に重ねられた 写を撮り、そのまま写メを送ったり、嬉 一旦、ここで止めたら。一週間以上になる 寸志の札の上に、風で飛ばないように硬 しがって、きゃあきゃあと騒々しい : ど、つしてもやるつ と本当に危険なの ! 貨が載せられている。断食男は仕方なさ 写真マニアたちが少女たちに近づき、 て言うんなら、また来るけれど : : : それま そうにそれを見ている 写真マニア 1 「君たち、これ、確実にグラビ でに止める決心をしときなさいよ : アものだよ ! ちょっとポーズしてくれ 若い労働者風の男たちが弁当を食べたり、 と命じ、ペットボトルを置いて行く。 酎ハイを煽ったりしながら、断食男の傍る ? 」 周りの野次馬が「一週間以上は危険なん で活発にトークを展開している と、声をかけて撮りまくるが、 だって ! 」と後方の群集に大声で伝え、 労務者風 1 「俺たちも、最初、同じように、写真マニア 1 「そこでキスするとか、もっと、 人々は「へえー ! 」「やつばり、危険か 124 ー

5. シナリオ 2016年3月号

断食芸人 三人がもんどりうって倒れる。 見物人 2 「本当は、単なる行き倒れだろ ? 」 夫でしよう。ま、そのうち、疲れたり、飽 商店街の役員が慌てて、母子を男から引見物人 3 「いや、ネットの書き込みじゃ、抗きがきて、行ってしまうでしよう」 き離し、 議行動らしいぞ。」 警官「商店街の方で、保健所に通報なさった 商店街役員「な、そっとしといてやんな。お見物人 1 「そうなんだろ ? 頑張れよ ! 」 らど、つでしよ、つ ? 」 腹空いて動けないんだから・ : などと声をかけ、更に見物人が増え、男自警団副団長「明日もいるようだったら、そ 男の子「だって、あのオジサン、ロダンの「考 に興味を募らせていく。 うしますか。また、交番の方に相談に行き える人』そっくりだよ ! この写真、ネッ そこへ、 パトロール警官と商店街の自警ます」 トに投稿するからね ! 」 団長と副団長がやって来る。 警官「いや、私も、時々、巡回で来てみましょ 商店街の役員「そうそう。そうやって、みん警官「君、ここに寝転がったり、泊まり込ま なと遊んでる方が良いの : れちゃあ、道交法違反になる : : : どうし と、頷き合って去る と、母子を去らせる。 た ? 具合でも悪いのか ? 腹が減って動 見物していた通行人の間に「何も食って けないそうたが、歩けないのか ? : : : 通行 7 同じ路上・断食男が流行る いないんだって」「ハンガーストらしい の邪魔になる、と抗議が来ている。通りの 早朝から、野次馬が群れ、見物と撮影に一 よ」「断食やってるのか ? 」などと呟き 向こうの公園とかに行ったらどうだ ? ・ 来た人々が溢れ、断食男の周りが賑わっ 合う声がこだまして広がる 家は遠いのか ? 」 て行き、死んだようだったシャッター街一 商店街役員は、膝を抱いて動かない男の の一部が店舗を開き、通常の商店街に と、話しかけるが、男は「違う」という 前に立っているが、追い立てを断念して なって行く。 風に手を振って蹲ったまま動かない。 去る 警官が困って自警団長を見る 突然、断食男に煌煌とライトを当てられ、 カメラが数台並び、、取材が開始さ 男は、ただ差し込んで来る陽光に顔を晒自警団長「やはり、ロが利けないんだ : : : 周 して動かない。 りの店や通行人に迷惑をかけるんじゃない れると、周りがびっしりと野次馬で埋ま る ぞ。あんたがここに寝転がっている間に、 6 同じ路上・断食男が有名になる 記者たちが、先を争って断食男に質 何かが起こったら、あんたの責任になるん 問する 早朝、寒さに身震いして目覚める男。 だぞ」 時たま通る人々が立ち止り、見物人が増 と、脅かしてみるが、男が反応しないの記者 1 「どうか、お名前だけでも教えて えて来る。 下さい。わが局には、視聴者の皆さん で、頭を寄せ合って相談する。 見物人 1 「ここだ、ここだ ! ネットで噂の自警団長「特に乱暴を働く気配もないし、病からの問い合わせが山のように届いていま 断食男 ! 」 気でもなさそうだし、放っておいても大丈す、お名前は ?

6. シナリオ 2016年3月号

断食芸人 「馬鹿馬鹿しい騒動を中止しろ ! 」「街か 彼らは口々に「ハエ・カ・ゴミ、路上に 見えた」」 ら汚物を撤去せよ」「命を弄ぶ遇行を許 屯する汚いもの、これを追放しよう ! 」 してはいけない , などの画面と記事。 などと、叫びながら粛々と吐き続ける。 檻の前・ケロイド・ショウの悶絶 檻の中にくずおれている断食男 引元の檻の前 演劇『審判の再演 断食男の側でショウの二人 ( 男は断食男 ) 寂れきってしまったシャッター街。 沖縄の「亀甲幕」、アイヌの「シャクシャ がさらに激化したショウを展開する 読経する一一人の僧と作業を続ける若い女 インの像」、更に旧日本軍の「二百人斬り」 その男が、断食男を見つめ、断食男もうつ が、断食男を見守っている のスチール写真等が積み重ねられる。 すらと目を開いてショウの男を見ている 檻の周りは、花や寸志台は無く、ペット それが荒野の風景に移り変わると、あの 見物客が一人もいない檻の周囲は、ペッ ポトルや空き缶などが散乱している。 映画「審判』 ( オーソン・ウエルズ監督 ) トボトルなどが氾濫し、異臭を放ってい そこにチンピラがやって来る。 る。 のように、断食男が興行主と付き人に両 チンピラ 1 「終わっちまったな、まったく。 腕を取られ、まるで刑場へ向かうように もはや、シャッター街には、人影一つな あの騒ぎは何だったんだ」 引き立てられて行く。 くなっている。 と、札を探し回るが、小銭しかない Z 「 ( カフカの「審判』の最終章より ) 二 やがて、激しいショウの二人が、この世ロ チンピラ 1 「こんなんじゃあ、シノギにもな人の紳士が彼の住居にやってきた。二人は に向かって怒りを吐きだすかのようにお一 りやしねえ。もう、早くくたばって楽にな石切場を見わたしながら山高帽をとり、 びただしい吐血と共に絶頂の叫びを上げ んな。そうすりや、またが「断食芸人 ンカチで額の汗を拭っている。論旨はゆる て悶絶する 死すーとニュースで流す。多少の所場代も がないにしても、生きたい人間には抗えな 集まる : : : そんなことにはならねえか」 いものだ。いちども出会わなかったが、裁 同・「死のう団」ショウの大団円 と、愚痴りながら去る 判官はどこにいたのか ? 一度も至りつか 装東を全開した女団員 ( 弾丸乗り ) が、 なかったが、上級審はどこなのだ ? は 股間を晒して狂ったように踊り続ける 同・「清掃運動」 両腕をのばし、指をすべて突きだした。そ そして、その絶頂で路上に正座し、切腹 市役所の衛生課職員風に真っ白の制服に のとき紳士の一方が彼のノドをつかみ、も を行う。飛散る飛沫。 身を包み、気合の入った数人が、あたか う一方がナイフを心臓に突き刺すと、その それを合図に、他の全団員が「死のう」 も「ハイレッドセンタ 1 」の儀式のよ、つ手で二回こねた。うすれていく彼の目に二 と高く叫んで腹を切り、首に刃を立てる。 に路上を掃き清める。彼らは、断食男に 人の紳士が、自分のつい鼻先で頬と頬を 血飛沫が舞い散る。 罵詈罵倒の言葉を浴びせた野次馬たちだ。 くつつけ、結果をじっと見守っているのが そこへ、自転車を漕いだ警察官が駆け付