エヴェレスト神々の山嶺 スーツケ 1 スの脇に、涼子が立っている。 涼子「色々とお世話になりました。今日の便 で帰ることにしました」 涼子、トルコ石のペンダントを取り出す。 涼子「これは羽生さんに返していただけます か」 深町、ペンダントを受け取る。 深町「僕は、羽生さんの挑戦を見届けます」 涼子「 ( 頷いて ) それじゃあ」 涼子、玄関を出て行く。 その後ろ姿を眺める深町 ナムチエバザール ( 1993 年材月半ば ) 川の脇にある立派なストウーパのマニ 車を回しながら、深町が歩いている。 山肌に、石造りの家が蝟集している 『ナムチエバザール標高 3 4 4 0 メートル』 吊り橋 ミルクを流したよ、つに白濁したドウ ド・コシ日 高い吊り橋を、深町が渡って行く。 キャンズマ エヴェレスト街道を進む深町。 遠くにエヴェレストの峰が見える。 深町「写真を撮らせてくれ。あんたが登って ペリチェあたり いる姿を」 水たまりに張った薄氷を割って、深町が羽生「 : 歩き続ける 深町「嫌だと言ってもついて行く。ついて行 けるところまで : : : 」 羽生「・ : 8 ロブチェ ( 朝 ) 深町、テントの横で、リンゴを皮のまま深町「 ( 縋りつくように ) 頼む」 囓っている 羽生「勝手にしろ」 e 「ロプチェ標高 490 0 メートル』 深町「そうか ! じゃあいいんだな ? 」 深町の「羽生、どこだ : : : 羽生、早く来いッ 羽生とアン・ツェリン、歩き去る 深町、慌てて荷物をまとめてふたりを追 エヴェレスト・ 5000 メートル地占 深町が岩に腰掛けて、紅茶を飲んでいる 同・キャンプ地点 8 人用の大型テントと、羽生の小型テン e 『標高 5000 メートル』 トが張られてある。べースキャンプでは 視線の先には雪稜、足元には流れる氷河 がある。 なく、羽生のプライベートなキャンプ地 氷河の下流方向を見て、深町が腰を上げ 点で、辺りにほかのテントはない。 る。 e 『べースキャンプ標高 5300 メー サイドモレーンの向こうから、荷を積ん トル』 だヤクを連れた羽生とアン・ツェリンの 『気温マイナス幻度』 羽生、大型テントに荷物を運び込んでい 姿が現れる る。 羽生とアン・ツェリンの姿を見つめる深 町 その様子を深町が撮影している 深町「あのカメラはエヴェレストで見つけた 羽生とアン・ツェリンが来る んだろ」 無言で深町の前に立ち、羽生が睨む 羽生「八千百メートル地点だ。下見で登った 4 ・
見上げる。 紅茶を飲んでいる 深町、歩き出す。 その表情が翳る アン・ツェリン「 ( 英 ) ドウマに子供ができ 涼子、心配そ、つに深町を見送る。 涼子、怪訝そうにアン・ツェリンを見る た時、妻の形見のペンダントを預けました」 アン・ツェリン、涼子の横に並ぶ。 涼子「 ( 英 ) どうしたんです ? 」 深町、振り返ることなく歩みを進める。 アン・ツェリン「 ( 英 ) すると彼は、それを、アン・ツェリン「 ( 英 ) 風向きが変わった しいかと訊ねました : 日本に送っても、 頂上へ向かう深町 ( モンタージュ ) 不気味な雲が迫り、天候は崩れようとし 深町、ストックを使い、雪原を進む ている アン・ツェリン「 ( 英 ) 彼があなたにしてあげ 慎重に、一歩一歩丁寧に進んで行く。 られることは、それが精一杯だったのですー 深町の「なぜ登るんだ、なぜ歩くんだ・ : そんなこと知るか、だから俺に聞くな : 同・ 7900 メートル地点 強い風の中、深町が、岩場を登って来る。 『サウスコル 7900 メートル』 同・ 7000 メートル地占 満月 : ・ 白く輝く頂上が見える 深町、軽快な足取りで登って来る 深町、テントの中で寝袋にくるまってい る 無線機からアン・ツェリンの声。 深町の「あれだ。もうじき俺はあそこに立 つ」 深町の「ここに俺がいるから登るんだ。羽アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 体調は ? 」 深町、山嶺を眺めて、感動に震える 生はそう言った : : : 俺はここにいるのか深町「 ( 英 ) 異常ありません」 : : : ? ここにいるのカ・ アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 現在位置は ? 」深町の「体が軽い : : : やれるぞ、俺は」 クライマーズ・ハイ状態になった深町が、 深町「 ( 英 ) 七千メートルを超えました」 速いペースで進み始める。 夜、激しい風を受けている深町のテント 無線機からアン・ツェリンの声が聞こえ 同・べースキャンプ て来る。 驚いた表情で無線機を持っているアン・ テントの中で寝袋にくるまり、目を開い ツェリン アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 天候が崩れる ! 」 ている深町。 深町「 ( 日 ) も、つすぐだ : ・・ : あと少し : : : 」 涼子が、その横にいる。 呼吸の音だけが聞こえる。 アン・ツェリン「 ( 英 ) 速すぎる。もっとゆっアン・ツェリンの声「 ( 英 ) すぐに下りるん くり」 エヴェレスト・べースキャンプ 深町「 ( 日 ) やれる : : : やってやる : : : 」 深町の声「 ( 英 ) 大丈夫です」 風が止んでいる アン・ツェリン、エヴェレストの山頂をアン・ツェリンの声「 ( 英 ) 深町 ! 」 涼子とアン・ツェリンが、岩に腰掛けて
深町の背後から、濃い雲が忍び寄る。 同・べースキャンプ アン・ツェリン、不安げに涼子を見る アン・ツェリン「 : ・ ( 無言で首を振る ) 」 涼子「・ : 山頂がみるみるうちに、雲に隠れて見え なくなる 細同・ 8000 メートル地点 先刻までとは打って変わって荒々しく変 貌した山。 身を屈めて風雪と戦いながら深町が登っ て来るが、強風に吹き飛ばされそうにな る。 アン・ツェリンの声「 ( 英 ) すぐに引き返し なさい ! 今すぐ引き返すんだ ! 」 無線の声を無視して岩場を登る深町は、 何かに取り憑かれたようで、まるで別人 である 山アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 聞こえるか : の 々 応答しなさい 神 深町「 ( 日 ) 頂上はもうすぐそこだ : : : あと ス 少し : ・ レ ヴ涼子の声「すぐに降りて ! このままじや死 んでしまいます ! 」 深町「行くぞ : : : 必ず登ってみせる : : : 」 涼子の声「深町さん ! 約東したでしよ、必 小さな布の包みを取り出す。ピスケット ず生きて帰って来るって ! 」 とチョコレートが入っている。それを食 深町「俺は頂上に立っ ! 」 べようとするが、強風に吹き飛ばされて しま、つ 風に煽られ、倒れた深町の手から無線機 が離れ、斜面を落ちて雪煙の向こうに見 深町の顔に、初めて恐怖の色が浮かび上 えなくなる。 かる 深町の「羽生、俺はここに来ちゃいけな かったのか ? ・ 川同・べースキャンプ ・ : お前は、俺を笑っている 涼子、無線機を握り締めている。 くそッ : : : 神でも悪魔でも何で 涼子「深町さん、すぐに戻って ! 」 もいい誰か、俺を助けてくれ : 無線から応答はない。 寒さと恐怖でガクガク震える深町 : 涼子「深町さん ! 深町さん ! 」 涼子、心配そ、つにアン・ツェリンを見る 同・ヘースキャンプ テントの脇に、アン・ツェリンと涼子が 立っている。 同・ 8100 メートル地占 アン・ツェリン、無線機に叫ぶ。 『標高 8100 メートル』 渦を巻くような激しい風が唸りを上げる。アン・ツェリン「 ( 英 ) もしもし : : : もしも 深町、立ち止まっては一歩を踏み出し、 風に吹き飛ばされながら雪の中を仂徨う。 無線の応答はない。 強風に吹き飛ばされ、岩に叩きつけられる アン・ツェリン、表情を曇らせ、荒れ狂っ 深町の「くそツ・ : ・ : 」 た山を見上げる。 深町、這うようにして岩陰に入る。 涼子、憤ったように数歩進み出て山と向 」ムロ、つ ザックを下ろし、右手で、震える左手の 指先を触る。 涼子「いったい何人の命を奪えば気がすむの 左手の指の感覚はない。手を開いたり、 ですか ! もう許して下さい ! 何が悪い 閉じたりするが思うように動かない。 というんですか ! どうしてこんな目に遭 微かにしか動かない手で、ポケットから わなければならないんですか ! 」
羽生の姿が、氷壁の影に消える。 深町、慎重な足取りで羽生の足跡を追う。 深町の「羽生の歩いた跡を追えば見失うこ とはない : : : 逃がすもんか、とことん食ら いついてやる : 深町、氷壁を越えて、やっと羽生の姿を 捕捉する。 しかし、羽生との距離はさらに広がって いる 崖下 ( 夕方 5 夜 ) 「ウエスタンクーム』 「標高 6300 メートル』 羽生のテントがある。 ようやく深町が来て、荒い息で羽生のテ ントを見る。 星空の下、羽生と深町のテントが二つ並 んでいる。 急峻な氷壁 四〇度の傾斜の氷壁を、力強く進んで行 く羽生。 その表情は、自信に満ちている その下の氷壁 8 深町、ピッケルとアイスパイルを氷壁に 打ち込む。 e 「標高 7200 メートル』 荒い呼吸を繰り返してから、ゆっくりと 左足を上げ、アイゼンを氷壁に食い込ま せる。 深町、荒い呼吸のまま下を見る。 アイゼンによって削れた氷が、遥か下方 の雪面に落ちて行く。延々と続く灰色の 氷壁。 深町、強風を受け、氷壁にしがみつく。 四肢が震え始め、歯を噛む 震える足を上げようとするが、できない 氷壁にしがみつく深町の耳にプリザード が唸りを上げて襲いかかる。 急峻な氷壁 ピッケルとアイスパイルを打ち込む羽生。 雲が出てきて視界が悪くなっているが ペースを崩さず慎重に登り続ける。 その下の氷壁 深町、氷壁の瘤の上で、アイスピトンで セルフビレーを取り、強風に耐えている。 上方を見上げる深町、雲で何も見えない。 下方を見ると、氷壁をプリザードが吹き 抜けている。 氷壁にしがみつく深町から、プリザード の音が徐々に薄れていき、目が虚ろに なっていく。 プリザードの向こ、つから、ヒュンとい、つ 音と共に小石が現れ一瞬で後方に飛び 去って行く とっさに首を竦めるが、プンと唸りを上 げて飛んで来た石がヘルメットを直撃し てしま、つ 深町、空中に放り出されて宙吊りになる。 ヘルメットが割れ、一筋の血が流れてい る 登ろうとするが、手足が思うように動か一 動きが鈍くなり、意識が次第に遠ざかっ て行く。 深町の「くそッ : : ・・畜生 : : : 」 深町、空中に仰向けにぶら下がっている。 遠くから微かに羽生の声が聞こえて来る。 羽生の声「深町 ! 大丈夫か ! 」 その声が次第に大きくなる。 「深町、しつかりしろ ! 」という声で深 町が意識を取り戻す。 羽生、隣まで降りてきて、深町の頬を叩 いている 深町、ほんやりと羽生を見る。
同・ヘースキャンプ 荒い呼吸で下る深町・ : 凍りついたまま動かない羽生 天候は回復している。 深町の「指が動かなければ歯で雪を噛みな 深町「俺が連れてってやる。約東する。俺は 不安げな涼子が、双眼鏡を覗いている がら歩け : : : 歯もダメになったら、目でゆ 必ず連れて帰る」 け : : : 目でにらみながら歩け : : : 」 凍っている羽生 涼子、双眼鏡を離し、諦めて座り込む : もし 深町「あんたのように俺も休まない : 読経を読んでいるアン・ツェリン、ふと同。べースキャンプ 目を開ける。 休もうとしたら、俺を突き落とせ。俺を殺 深町を視界に捉えた涼子、輝くような表 せ。俺の肉を食らえ」 アン・ツェリン、何かを見つけ、立上がる 情で、 深町、輝く山頂を見上げる アン・ツェリン「リョウコ ! 」 涼子「深町さーん ! 」 深町「 : : : 俺は死なん : : : 俺は生きて帰る アン・ツェリン、遠くを指差す。 涼子の目から涙が溢れる 涼子「え ? 」 凍りついたままの羽生。 涼子、立ち上がり、双眼鏡を構える 同・ 5800 メートル地占 深町、万感の想いで羽生を見る 涼子「どこ ? どこ ? 」 深町、全身を捩るようにして、一歩ずつ一 凍った羽生の頭に、自分の額を押し当て 涼子、必死に双眼鏡で深町の姿を探す ゆっくり足を踏み出している て、 涼子「あ ! 」 虚ろな目で必死に歩み続ける深町。 深町「羽生よ。羽生 : : : 俺に取り憑け ! 取 涼子の視界に小さく動く深町が見える 深町と羽生の「目もダメになって、本当に り憑け、取り憑け、取り憑け ! 取り憑い 双眼鏡を離して、肉眼で深町を確認する。 ダメになったら : : : 」 て俺について来い ! 」 涼子の顔に、喜びが溢れる 深町、全身全霊を込めて、足を踏み出す。 深町、羽生から額を離して立ち上がる。 深町のよく見えるところへ走る涼子。 深町の「思え。ありったけの心で思え。想 深町「羽生 ! 行くぞリ」 アン・ツェリン、手を合わせ、感謝の読 凍りついたまま動かない羽生。 経を詠み始める 気力を振り絞って足を運ぶ深町 深町、岩陰を出たところで羽生を振り返る。 深町の「想え、想え : : : 羽生、俺は生きる 動かない羽生、その腕に掛けられたトル同・ 800056000 メートル地占 ・ : 生きるリ」 コ石のペンダントが揺れている 深町、必死に斜面を下っている 歩き続ける深町 : 羽生を見つめていた深町、覚悟を決めて深町の「足が動かなければ手で歩け : : : 手 神々しいエヴェレストの威容 斜面を降りて行く。 が動かなければ、指でゆけ : クレジットルタイトルが流れ始めて : 終 一 4-
アン・ツェリン、遠くの山頂を眺める 近くに大きな岩がある アン・ツェリン「 ( ネ ) もうじき、神々の裁羽生の声「深町 : : : 」 同・頂上近くの斜面 ( 一年前 ) ( 1992 きが下る」 怪訝そうな深町、残された力を振り絞っ 年貶月 ) 強風が叩きつける氷壁に、羽生がしがみ 遠くで雪崩が起こり、轟音が響き渡る。 てやっと立ち上がり、声が聞こえて来る ついている。 岩に向かって進む。 不安に満ちた表情で、荒れ狂う山嶺を眺 める涼子 「 1992 年月日』 氷壁と格闘しながら登る羽生の壮絶な姿。 同・岩陰 深町、這うようにして岩陰に回り込む。 羽生の声「休むのは死ぬ時だ。休むな」 惘同・ 8230 メートル地占 羽生、やっとのことで体を持ち上げると、 吹雪の中、深町が幽霊のように歩いている 吹雪の向こうに、ばんやりと黒い影かある 岩の上に這いつくばる 深町、影に向かって進む。 「標高 8230 メートル』 黒い影が次第に明療な姿になる。 羽生の声「生きている間は休まない。休むな 深町、小さな石に躓いて転び、斜面に膝 んて俺は許さないぞ」 をつく。 深町、ギョッと立ち止まり、目を剥く。 ザックを抱え、その上に顎を乗せた男が そのまま、地面を這うようにして前に進 疲労が極限に達し、立ち上がることがで一 きない いる む深町 羽生丈二だ ! 羽生の目の前に、幻想の岸が現れる 深町、カなくその場に座り込み、荒い息 岸、羽生を見ている を繰り返す。 深町、衝撃に胸を衝かれ、ゆっくり羽生 に歩み寄る 羽生の声「岸、岸よオ。そんなに悲しそうな 何とか立ち上がり、数歩ゆっくりと進む 羽生、目を開き、前方を見つめたまま凍顔をするな。そんな目で俺を見るな」 が、すぐに立ち止まって座り込んでしま 岸、羽生に背を向けて歩き出す。 りついて絶命している。 羽生の傍らには、、 羽生、最後の力を振り絞って立ち上がる 深町の目は、生きる希望を無くして力が 月さなノートが落ちて いる しかし、岸は、吹雪の向こうに消えてし ま、つ 深町の「よくやった : : : 充分にやった : 深町、ノートを拾ってページを捲る。 ノートには、ミミズが這、つような文字が羽生の声「おい、岸 ! 岸・ : ・ : 」 だから、も、つ休め : : : 疲れた : : : 眠ろう 吹雪の中に羽生が立ち尽くす。 並んでいる。 「も、ついい力も、ついいカまだか』 深町の表情に、諦観の色が広がる。 羽生の声「深町 : : : 」 羽生の声「もういいかもういいかまだか 同・岩陰 ( 1994 年 2 月 ) 深町、羽生のノートを読んでいる。 深町、ゆっくり辺りを見回す。 いただき
エヴェレスト・標高 8760 メートル地 マロリ 1 、蛇腹を畳み、カメラをポケッ トにしまい、酸素ポンべを二本背負う。 点 雲が流れてゆき、碧空の空の下、エヴェ ちょうれい レストの目映い頂嶺が姿を現す。 酸素ポンべを背負ったマロリーとアー 凍りついた岩の斜面で、ツィードのオー ヴィンが、一歩すっ足を踏み出して山頂 ・コートにスカーフを巻き、ピッケ を目指す。 ルを持った男が、もうひとりの登山家に 濃い雲が空を包み、雪上を進むふたりを、 ゆっくりと覆い隠していく。 記念写真を撮ってもらっている。 写真に収まっているのは、イギリスの登 z 「エヴェレストの初登頂は 195 3 年 5 マロリー 山家のジョ 1 ジ・リー・ 月四日に、エドモンド・ヒラリーとテンジ ートナーのア ン・ノルゲイによって達成される。しか カメラを持っているのはパ し、マロリーとアーヴィンの遭難は、エ ンドルー・アーヴィン ( ) である。 ( そ れぞれに氏名タイトル ) ヴェレストに登頂した後であったという可 Z 「天空に連なるヒマラヤ山脈で、ひとき能性も残されていた。果たしてマロリーと アーヴィンは、頂上を踏んだのであろうか わ威容を放っエヴェレスト。世界最高峰の 山頂は標高 8848 メートル。そこは神々 に最も近い場所である」 撮影を終え、アーヴィンがカメラ ( ヴェ 2 メインタイトル 気高いエヴェレストの威容 スト・ポケット・コダックのモデル CQ) をマロリーに返す。 メインタイトルが浮かび上がる いたたき 「 1924 年 6 月 8 日、 8740 メート 「エヴェレストー神々の山嶺ー』 ル地点にふたりのイギリス人の姿があった ノヨーン・リー・ マロリーとアンド リュー・アーヴィンである : : : 頂上への 登頂は目前であった。だが、同日肥時 分、山頂を目指したふたりは消息を絶った ファインダーに、凍りついた急斜面を登 攀してゆく二つの小さな影が捉えられる。 4 同・急斜面 凍りついた急斜面を登ってゆく井岡弘一 ( 西、その下に船島隆 ( を。 ふたりの下のテラスで、登山隊の隊長工 藤英二 ( 浦 ) 、隊員の滝沢修平 ( ) が 見守っている。 先頭の井岡のアイゼンが雪を噛み損ねる 井岡、雪原を滑り落ちて行く。 5 同・岩場と急斜面 ( カットバック ) 工藤、滝沢、緊張する。 深町、カメラを構える アンザイレンしていたザイルが伸びきり、 船島も岩稜から剥がされ、一緒に斜面を 滑り落ちる ぐんぐんふたりの勢いが増し、切り立っ 3 ヒマラヤ山脈・岩場 ( 1993 年 5 月 ) た岩壁から井岡の体が宙に跳ね上がる カメラマンの深町誠 ( ) 、寒さに耐え工藤「井岡ーツリ」 ながら、望遠レンズを覗き込んでいる 続いて船島も空中に放り出される 空気が薄く、立っているだけで呼吸が荒滝沢「船島ーツリ」 4
『エヴェレスト神々の山嶺』創作ノート 脚本の長い旅 加藤正人 この仕事のオファーを受けたのは、四年前の秋頃で あった。夢枕獏さんの「神々の山嶺」という超弩級の 原作だった。果たしてこの原作が映画になるのだろう かと、一抹の不安もあった。しかし、これほど強烈な 原作に巡り会えるチャンスは一生に一度のことだろう と思い、謹んで引き受けることにした。 さっそく原作を分析し、長いプロットを作成して初 稿に取りかかった。そこから長い脚本の旅が始まった。 翌年、初稿が完成した。ペラ四百枚の長いシナリオ になった。初稿が上がってから、ネパールにシナハン に出かけた。ルクラ空港から、 3880 メートル地点 までエヴェレスト街道を歩いた。五日間の行程は、夢 の中にいるようだった。大げさではなく人生観が変 わった。やっと「神々の山嶺ーという原作を扱わせて もらう資格を得たような感動を覚えた。 帰国してから改訂を重ね、さらに次の年、本腰を入 れて改訂を重ねた。専門家の意見を聞いて、様々な部 分を書き直した。骨太な作品にするために、シンプル な流れに修正した。セリフはどんどん削られ、ごっご っとしたものに変化していった。タフな原作なので、 苦しかった。酸素が薄く息が上がりそうだったが、懸 命に原作という岩場にしがみついた。 初稿から足かけ三年、一一十数稿を重ねてようやく決 定稿にたどり着いた 完成した映画は、私の想像以上に迫力のある映像に 仕上がっていた。映像にするのは非常に困難なシナリ オである。この成功は、平山秀幸監督以下スタッフの 手柄だ 平山監督とは以前仕事をやりかけたことがあった。 一度目はプロットまで書いて中止、二度目は初稿まで 上げて中止になった。今回が三度目の正直ということ になった。 映画が完成し、キネマ旬報に夢枕獏さんが「原作者 の仕事ーという文章を寄せてくれた。 その中に次のような一節があった。 8
エヴェレスト神々の山嶺 森「ザイルを切れば、自分だけは助かるつ生駒「ザイルバ ートナーだぞ」 なら切られたって文句は言わない」 てことか」 羽生「切れる」 挑発的な物言いに、非難がましい視線が 生駒「ああ , 森「そんなに簡単には切れねえだろ」 羽生に集中する 森「やつばり切れねえか : 生駒「下のヤツは、まだ生きてるんだぞ」 岸だけは、感動したように羽生を見てい 生駒「パートナーと心中か : る。 古賀「その場になってみなきや分からねえよ」 森「相手がお前さんなら、簡単に切っちま羽生「その場になったら会長だって切ります井上の声「その時の話は、あっという間に俺 うけどな」 たち山屋の間で広まったよ : : : そして、あ 生駒「うるせえ ! 」 森「てめえ、会長に向かって何て口利いて の事件が起こった : ・ グループが笑いに包まれる んだ ! 」 生駒「会長だったら、どうします ? 」 森、羽生の襟首を掴む。 % 屏風岩・岩壁 ( 1978 年 8 月 ) 古賀「 ( 困って ) ・ : ・ : 考えたくもねえよ」 生駒、必死に止める 岩壁を、ザイルでつながった羽生と岸が 生駒「会長、ホラ」 羽生「いくら綺麗事並べたって結局は切るさ」 登って行く。 古賀「そんなに俺を困らせてえのかー 森「羽生、てめえ ! 」 『北アルプス屏風岩』 羽生、突然口を開く。 森、生駒の腕の中で暴れる。 トップの岸、岩肌にハーケンを打ち込み、引 羽生「切る」 古賀「 ( 羽生に ) お前が下の立場だったらど ザイルを通してオー ハングを越える。一 岸、驚いて羽生を見る。 うなんだよ」 大きくトラバースする岸。足元のすぐ下 山岳会のチームも驚いて羽生を見ている。羽生「そのままならふたりとも助からない、 は、落差二百メートルの何もない空間で 系 私は殺人鬼を解き放ってしまったのか ? ビ」定 ・丿舎 1 以一方卦曜舒ケ香冬。篁 ビナ、時 一タ優 レト毎 1 日 寄粉雫井脩介覊 「〒 2 9 6 べ テオ 2 都 Q) 十し - す 月 サ い人すぎるお隣さんと壊れかけた家族の惨劇 幻冬舎文庫 ドラマ化
エヴェレスト神々の山嶺 深町、石段を降りて、涼子の前に来る 涼子「やつばり、また行くつもりなんですね」 涼子「兄も羽生さんも、私の大切な人は、み んな山で死にました : : : そこまでして登ら なきゃならないんですか」 深町「 : ・ 涼子「何なんですか山って ! 」 涼子「私もこの目で見なきや、納得できませ ん」 深町「・ : 佃ルクラ空港 ( 一ヶ月後 ) 切り立った崖の上に、小さな飛行場がある e 「ルクラ空港標高 2860 メートル』 小型機が、極端に短い滑走路に着陸する 簡イ 全 ク 安 だ末 ッく粉 生と、 微人ー 臭いのお悩みを解決します ! 強力安心 消臭安全 納豆菌がペットの臭い、 オシッコ臭を分解・消臭 ! 化学成分を使っていないので、 人とペットに安全な消臭剤です。 楽天 消臭剤関連部門 通算 148 週 ランキング バイオミックス TWelcome to LUKLAJ の文字がある エヴェレスト街道 ヒマラヤの山々 涼子、深町の後ろを歩いている。 ふたりのすぐ後ろには、荷物を積んだャ クを引き連れたアン・ツェリンが続く 深町を追、つ涼子、ストウーパのマニ車を 回しながら歩く 深町、少し遅れて涼子とアン・ツェリン が高い吊り橋を渡って行く。 涼子、息を切らせながら、急勾配の石段 を登る。 尾根に出て、一気に風景が拓ける。 Q 検索 シナリオ読者特典 ! ! そこに、エヴェレストが見える。 涼子、思わず立ち止まり、緊張した面持 ちでエヴェレストを眺める 荘厳なエヴェレストの山嶺ーー・ 鴈エヴェレスト・ヘースキャンプ 朝日にエヴェレストの銀嶺が輝いている。 風にはためくタルチョ ( 祈祷旗 ) 。 e 「エヴェレストべースキャンプ」 緊張した面持ちの深町、ザックを背負う。 アン・ツェリンと涼子、深町を見守って いる 『 1994 年 2 月』 涼子、深町にストックを渡す。 涼子「必す、無事に帰って来て下さいね」 深町「 : : : ( 頷く ) 」 注文時、「シナリオを見た」と 報告すれば、全品 10 % 0 させていただきます ! ※ネットからの注文の場合は 備考欄に記入してください。 バイオ消臭剤通販専門店・ 境ショッフ コヒタセロイ 回 3 、 . http : / / rakuten. co. jp/koh i tasero i / いただき 第お問い合わせ B0120 ー 4321 ー 80 ( 平日 8 : 側 ~ 16 : 00 ) 4