深町の背後から、濃い雲が忍び寄る。 同・べースキャンプ アン・ツェリン、不安げに涼子を見る アン・ツェリン「 : ・ ( 無言で首を振る ) 」 涼子「・ : 山頂がみるみるうちに、雲に隠れて見え なくなる 細同・ 8000 メートル地点 先刻までとは打って変わって荒々しく変 貌した山。 身を屈めて風雪と戦いながら深町が登っ て来るが、強風に吹き飛ばされそうにな る。 アン・ツェリンの声「 ( 英 ) すぐに引き返し なさい ! 今すぐ引き返すんだ ! 」 無線の声を無視して岩場を登る深町は、 何かに取り憑かれたようで、まるで別人 である 山アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 聞こえるか : の 々 応答しなさい 神 深町「 ( 日 ) 頂上はもうすぐそこだ : : : あと ス 少し : ・ レ ヴ涼子の声「すぐに降りて ! このままじや死 んでしまいます ! 」 深町「行くぞ : : : 必ず登ってみせる : : : 」 涼子の声「深町さん ! 約東したでしよ、必 小さな布の包みを取り出す。ピスケット ず生きて帰って来るって ! 」 とチョコレートが入っている。それを食 深町「俺は頂上に立っ ! 」 べようとするが、強風に吹き飛ばされて しま、つ 風に煽られ、倒れた深町の手から無線機 が離れ、斜面を落ちて雪煙の向こうに見 深町の顔に、初めて恐怖の色が浮かび上 えなくなる。 かる 深町の「羽生、俺はここに来ちゃいけな かったのか ? ・ 川同・べースキャンプ ・ : お前は、俺を笑っている 涼子、無線機を握り締めている。 くそッ : : : 神でも悪魔でも何で 涼子「深町さん、すぐに戻って ! 」 もいい誰か、俺を助けてくれ : 無線から応答はない。 寒さと恐怖でガクガク震える深町 : 涼子「深町さん ! 深町さん ! 」 涼子、心配そ、つにアン・ツェリンを見る 同・ヘースキャンプ テントの脇に、アン・ツェリンと涼子が 立っている。 同・ 8100 メートル地占 アン・ツェリン、無線機に叫ぶ。 『標高 8100 メートル』 渦を巻くような激しい風が唸りを上げる。アン・ツェリン「 ( 英 ) もしもし : : : もしも 深町、立ち止まっては一歩を踏み出し、 風に吹き飛ばされながら雪の中を仂徨う。 無線の応答はない。 強風に吹き飛ばされ、岩に叩きつけられる アン・ツェリン、表情を曇らせ、荒れ狂っ 深町の「くそツ・ : ・ : 」 た山を見上げる。 深町、這うようにして岩陰に入る。 涼子、憤ったように数歩進み出て山と向 」ムロ、つ ザックを下ろし、右手で、震える左手の 指先を触る。 涼子「いったい何人の命を奪えば気がすむの 左手の指の感覚はない。手を開いたり、 ですか ! もう許して下さい ! 何が悪い 閉じたりするが思うように動かない。 というんですか ! どうしてこんな目に遭 微かにしか動かない手で、ポケットから わなければならないんですか ! 」
エヴェレスト神々の山嶺 深町、石段を降りて、涼子の前に来る 涼子「やつばり、また行くつもりなんですね」 涼子「兄も羽生さんも、私の大切な人は、み んな山で死にました : : : そこまでして登ら なきゃならないんですか」 深町「 : ・ 涼子「何なんですか山って ! 」 涼子「私もこの目で見なきや、納得できませ ん」 深町「・ : 佃ルクラ空港 ( 一ヶ月後 ) 切り立った崖の上に、小さな飛行場がある e 「ルクラ空港標高 2860 メートル』 小型機が、極端に短い滑走路に着陸する 簡イ 全 ク 安 だ末 ッく粉 生と、 微人ー 臭いのお悩みを解決します ! 強力安心 消臭安全 納豆菌がペットの臭い、 オシッコ臭を分解・消臭 ! 化学成分を使っていないので、 人とペットに安全な消臭剤です。 楽天 消臭剤関連部門 通算 148 週 ランキング バイオミックス TWelcome to LUKLAJ の文字がある エヴェレスト街道 ヒマラヤの山々 涼子、深町の後ろを歩いている。 ふたりのすぐ後ろには、荷物を積んだャ クを引き連れたアン・ツェリンが続く 深町を追、つ涼子、ストウーパのマニ車を 回しながら歩く 深町、少し遅れて涼子とアン・ツェリン が高い吊り橋を渡って行く。 涼子、息を切らせながら、急勾配の石段 を登る。 尾根に出て、一気に風景が拓ける。 Q 検索 シナリオ読者特典 ! ! そこに、エヴェレストが見える。 涼子、思わず立ち止まり、緊張した面持 ちでエヴェレストを眺める 荘厳なエヴェレストの山嶺ーー・ 鴈エヴェレスト・ヘースキャンプ 朝日にエヴェレストの銀嶺が輝いている。 風にはためくタルチョ ( 祈祷旗 ) 。 e 「エヴェレストべースキャンプ」 緊張した面持ちの深町、ザックを背負う。 アン・ツェリンと涼子、深町を見守って いる 『 1994 年 2 月』 涼子、深町にストックを渡す。 涼子「必す、無事に帰って来て下さいね」 深町「 : : : ( 頷く ) 」 注文時、「シナリオを見た」と 報告すれば、全品 10 % 0 させていただきます ! ※ネットからの注文の場合は 備考欄に記入してください。 バイオ消臭剤通販専門店・ 境ショッフ コヒタセロイ 回 3 、 . http : / / rakuten. co. jp/koh i tasero i / いただき 第お問い合わせ B0120 ー 4321 ー 80 ( 平日 8 : 側 ~ 16 : 00 ) 4
同・ヘースキャンプ 荒い呼吸で下る深町・ : 凍りついたまま動かない羽生 天候は回復している。 深町の「指が動かなければ歯で雪を噛みな 深町「俺が連れてってやる。約東する。俺は 不安げな涼子が、双眼鏡を覗いている がら歩け : : : 歯もダメになったら、目でゆ 必ず連れて帰る」 け : : : 目でにらみながら歩け : : : 」 凍っている羽生 涼子、双眼鏡を離し、諦めて座り込む : もし 深町「あんたのように俺も休まない : 読経を読んでいるアン・ツェリン、ふと同。べースキャンプ 目を開ける。 休もうとしたら、俺を突き落とせ。俺を殺 深町を視界に捉えた涼子、輝くような表 せ。俺の肉を食らえ」 アン・ツェリン、何かを見つけ、立上がる 情で、 深町、輝く山頂を見上げる アン・ツェリン「リョウコ ! 」 涼子「深町さーん ! 」 深町「 : : : 俺は死なん : : : 俺は生きて帰る アン・ツェリン、遠くを指差す。 涼子の目から涙が溢れる 涼子「え ? 」 凍りついたままの羽生。 涼子、立ち上がり、双眼鏡を構える 同・ 5800 メートル地占 深町、万感の想いで羽生を見る 涼子「どこ ? どこ ? 」 深町、全身を捩るようにして、一歩ずつ一 凍った羽生の頭に、自分の額を押し当て 涼子、必死に双眼鏡で深町の姿を探す ゆっくり足を踏み出している て、 涼子「あ ! 」 虚ろな目で必死に歩み続ける深町。 深町「羽生よ。羽生 : : : 俺に取り憑け ! 取 涼子の視界に小さく動く深町が見える 深町と羽生の「目もダメになって、本当に り憑け、取り憑け、取り憑け ! 取り憑い 双眼鏡を離して、肉眼で深町を確認する。 ダメになったら : : : 」 て俺について来い ! 」 涼子の顔に、喜びが溢れる 深町、全身全霊を込めて、足を踏み出す。 深町、羽生から額を離して立ち上がる。 深町のよく見えるところへ走る涼子。 深町の「思え。ありったけの心で思え。想 深町「羽生 ! 行くぞリ」 アン・ツェリン、手を合わせ、感謝の読 凍りついたまま動かない羽生。 経を詠み始める 気力を振り絞って足を運ぶ深町 深町、岩陰を出たところで羽生を振り返る。 深町の「想え、想え : : : 羽生、俺は生きる 動かない羽生、その腕に掛けられたトル同・ 800056000 メートル地占 ・ : 生きるリ」 コ石のペンダントが揺れている 深町、必死に斜面を下っている 歩き続ける深町 : 羽生を見つめていた深町、覚悟を決めて深町の「足が動かなければ手で歩け : : : 手 神々しいエヴェレストの威容 斜面を降りて行く。 が動かなければ、指でゆけ : クレジットルタイトルが流れ始めて : 終 一 4-
エヴェレスト神々の山嶺 スーツケ 1 スの脇に、涼子が立っている。 涼子「色々とお世話になりました。今日の便 で帰ることにしました」 涼子、トルコ石のペンダントを取り出す。 涼子「これは羽生さんに返していただけます か」 深町、ペンダントを受け取る。 深町「僕は、羽生さんの挑戦を見届けます」 涼子「 ( 頷いて ) それじゃあ」 涼子、玄関を出て行く。 その後ろ姿を眺める深町 ナムチエバザール ( 1993 年材月半ば ) 川の脇にある立派なストウーパのマニ 車を回しながら、深町が歩いている。 山肌に、石造りの家が蝟集している 『ナムチエバザール標高 3 4 4 0 メートル』 吊り橋 ミルクを流したよ、つに白濁したドウ ド・コシ日 高い吊り橋を、深町が渡って行く。 キャンズマ エヴェレスト街道を進む深町。 遠くにエヴェレストの峰が見える。 深町「写真を撮らせてくれ。あんたが登って ペリチェあたり いる姿を」 水たまりに張った薄氷を割って、深町が羽生「 : 歩き続ける 深町「嫌だと言ってもついて行く。ついて行 けるところまで : : : 」 羽生「・ : 8 ロブチェ ( 朝 ) 深町、テントの横で、リンゴを皮のまま深町「 ( 縋りつくように ) 頼む」 囓っている 羽生「勝手にしろ」 e 「ロプチェ標高 490 0 メートル』 深町「そうか ! じゃあいいんだな ? 」 深町の「羽生、どこだ : : : 羽生、早く来いッ 羽生とアン・ツェリン、歩き去る 深町、慌てて荷物をまとめてふたりを追 エヴェレスト・ 5000 メートル地占 深町が岩に腰掛けて、紅茶を飲んでいる 同・キャンプ地点 8 人用の大型テントと、羽生の小型テン e 『標高 5000 メートル』 トが張られてある。べースキャンプでは 視線の先には雪稜、足元には流れる氷河 がある。 なく、羽生のプライベートなキャンプ地 氷河の下流方向を見て、深町が腰を上げ 点で、辺りにほかのテントはない。 る。 e 『べースキャンプ標高 5300 メー サイドモレーンの向こうから、荷を積ん トル』 だヤクを連れた羽生とアン・ツェリンの 『気温マイナス幻度』 羽生、大型テントに荷物を運び込んでい 姿が現れる る。 羽生とアン・ツェリンの姿を見つめる深 町 その様子を深町が撮影している 深町「あのカメラはエヴェレストで見つけた 羽生とアン・ツェリンが来る んだろ」 無言で深町の前に立ち、羽生が睨む 羽生「八千百メートル地点だ。下見で登った 4 ・
見上げる。 紅茶を飲んでいる 深町、歩き出す。 その表情が翳る アン・ツェリン「 ( 英 ) ドウマに子供ができ 涼子、心配そ、つに深町を見送る。 涼子、怪訝そうにアン・ツェリンを見る た時、妻の形見のペンダントを預けました」 アン・ツェリン、涼子の横に並ぶ。 涼子「 ( 英 ) どうしたんです ? 」 深町、振り返ることなく歩みを進める。 アン・ツェリン「 ( 英 ) すると彼は、それを、アン・ツェリン「 ( 英 ) 風向きが変わった しいかと訊ねました : 日本に送っても、 頂上へ向かう深町 ( モンタージュ ) 不気味な雲が迫り、天候は崩れようとし 深町、ストックを使い、雪原を進む ている アン・ツェリン「 ( 英 ) 彼があなたにしてあげ 慎重に、一歩一歩丁寧に進んで行く。 られることは、それが精一杯だったのですー 深町の「なぜ登るんだ、なぜ歩くんだ・ : そんなこと知るか、だから俺に聞くな : 同・ 7900 メートル地点 強い風の中、深町が、岩場を登って来る。 『サウスコル 7900 メートル』 同・ 7000 メートル地占 満月 : ・ 白く輝く頂上が見える 深町、軽快な足取りで登って来る 深町、テントの中で寝袋にくるまってい る 無線機からアン・ツェリンの声。 深町の「あれだ。もうじき俺はあそこに立 つ」 深町の「ここに俺がいるから登るんだ。羽アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 体調は ? 」 深町、山嶺を眺めて、感動に震える 生はそう言った : : : 俺はここにいるのか深町「 ( 英 ) 異常ありません」 : : : ? ここにいるのカ・ アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 現在位置は ? 」深町の「体が軽い : : : やれるぞ、俺は」 クライマーズ・ハイ状態になった深町が、 深町「 ( 英 ) 七千メートルを超えました」 速いペースで進み始める。 夜、激しい風を受けている深町のテント 無線機からアン・ツェリンの声が聞こえ 同・べースキャンプ て来る。 驚いた表情で無線機を持っているアン・ テントの中で寝袋にくるまり、目を開い ツェリン アン・ツェリンの声「 ( 英 ) 天候が崩れる ! 」 ている深町。 深町「 ( 日 ) も、つすぐだ : ・・ : あと少し : : : 」 涼子が、その横にいる。 呼吸の音だけが聞こえる。 アン・ツェリン「 ( 英 ) 速すぎる。もっとゆっアン・ツェリンの声「 ( 英 ) すぐに下りるん くり」 エヴェレスト・べースキャンプ 深町「 ( 日 ) やれる : : : やってやる : : : 」 深町の声「 ( 英 ) 大丈夫です」 風が止んでいる アン・ツェリン、エヴェレストの山頂をアン・ツェリンの声「 ( 英 ) 深町 ! 」 涼子とアン・ツェリンが、岩に腰掛けて
ろ ? 」 利彦「死にたくねえな、俺は」 深町が、写真やネガを流しで次々に燃や 深町「 : 若者たちの会話を聞いている深町、苛 している 宮川「デカいネタを掴んで有名になるんじゃ 立っている。 岩に腰掛けて空を見上げる羽生 なかったのか ? 」 宮川、心配そうに深町を見る べースキャンプを出発する羽生 深町「そんなもんが、何だかバカバカしくなっ佐知子「山で死ねたら本望でしようが」 アイスフォ 1 ルを抜ける羽生 久則「だね。死ぬのが怖きや、山なんかやっ 炎の中に、羽生のイメージが浮かび上が 宮川「 ( 呆れて ) はア ? それじゃあ、羽生を る。 てられねえ」 追いかけたのは、何のためだ」 深町、ふらりと席を立って、いきなり久羽生の声「俺がここにいるから : : : 」 深町「さあ : : : 」 則に殴りかかる 宮川「ふざけるな ! 」 佐知子「何するんですか ! 」 べースキャンプで深町を見る羽生。 深町「 : : : 昨日も夢で見たんです : : : 頂上の宮川「深町」 羽生「俺がいるから山に登るんだ」 岩をよじ登る羽生の姿を : : : 」 宮川、深町の体を押さえる。 宮川「重症だな」 利彦「ちょっと、あんた」 燃え上がる写真を眺める深町の目が、狂一 深町「 : 利彦、深町に挑みかかる 気に揺らめいている 宮川「お前は病気だ」 深町、宮川を振り払って、利彦も殴り倒す。 黒く縮んで燃えてゆく羽生の写真。 佐知子、利彦を介抱する。 隣のテープルの若者たちの声が聞こえて 深町、店内の客の視線を浴びる。 深町、立ち上がり、窓を開ける。 来る。 佐知子「 ( 深町の背に ) 何なんですか、あな 窓から風が吹き込んで来る。 山帰りの利彦 ( 、久則 ( 、佐知子た ! 」 深町の「羽生 : : : 俺にも登る資格はあるの ( ) の三人組 宮川、割って入り、若者たちに鋭い一瞥 利彦「やつば、いい顔してんな。トップクラ をくれる イマーは」 若者たち、宮川の迫力に気圧されるが、 佐和子「けど、ほとんどは山で死んでる」 意味が分からずきよとんとする。 そんな会話を聞きながらウイスキーを呷 宮川が促して、深町とふたりで店を出て る深町。 行く 久則「そりゃあ、こんな山をやってりゃあ、 いっかは死ぬさ」 深町のマンション ( 夜 5 未明 ) 新宿公園 ( 早朝 ) ( 1994 年 2 月 ) まだ薄暗い早朝の公園。 深町、石段を歩いて来る。 公園に来た涼子が深町に気づく。 深町、涼子に気づき、足を止める。 涼子、石段を登って来る。 8
宮川「 ( 感心したように ) 長谷さんはグラン りはどうでもいいって言、つのか ! 」 隊長が無線機を掴んでいる。隊員たちが ドジョラスのてつべんを踏んで栄光を掴み、羽生「俺は南西壁の冬期初登攀をしに来たん 交信を見守っている 羽生丈二は落ちて伝説を作ったってわけ だ。少しでも可能性が残っているなら俺は隊長「一次隊は行けるところまで行ってくれ だ」 諦めない ! 」 ればそれでいいんだ。お前を一一次隊に回し 涼子「 : ・ たのは、確実に頂上を踏むためだ ! 」 深町「八年前のエヴェレスト遠征隊は、ふた 『岳遊社」・編集室 ( 1993 年月 ) りが初めて一緒になるっていうんで、ずい 深町、涼子、宮川が、長谷の話に聞き入っエヴェレスト・ 00 ( 1985 年月 ) ぶん話題になりましたが : : : 」 ている。 無線機を握る羽生。 長谷「冬期南西壁初登攀を狙ったんだ。悪天長谷「結局、隊を一一つに割ったんだ。羽生は羽生「一番目しか意味はないんです ! 誰か 候に悩まされてね : : : 日数も食料もどんど そのまま南西壁のアタック隊、俺はノーマ の後なんて、俺は我慢できない ! 」 んなくなって、南西壁は諦めて、別働隊を ルルートの別働隊を率いることになった」隊長の声「これがベストなんだ ! 羽生、分 編成してノーマルルートを攻めようってこ深町「 : : : 」 かってくれ ! 」 とになったんだ : : : 」 長谷「それからの羽生さんは、荷揚げからルー 羽生「分かりません ! どうしても一一番目だ ト工作まで、ひとりで何人分も働いた」 というのなら、俺は降ります ! 」 エヴェレスト・べースキャンプ ( 1985 涼子「 : : : 」 年月 ) 長谷「それで、再び可能性が見えてきた・ : 「岳遊社』・編集室 ( 1993 年月 ) 吹雪の中、羽生 ( せと長谷 ( 四が立っ ところが : 長谷の話を聞いている深町、涼子、宮川 ている。その周囲を、隊員、シェルバ、ポー 長谷「結局、羽生さんはそのまま山を降りち ターなどが取り囲んでいる。 エヴェレスト・ O(D ( 1985 年貶月 ) まった : : : 頂上へは俺がノーマルルートか 羽生「何度も登られているようなル 1 トに何 羽生が無線機に向かって怒鳴っている ら登攀して、何とか格好はついたんだが 嶺 山 の意味があるんだ ! 」 テントの脇に立ったパ ートナーが心配そ 々長谷「大きなスポンサ 1 がついてるんだ。た うに羽生を眺めている 長谷、何かを想い出したように、車椅子 神 とえノーマルルートでも、頂上を踏んでい 羽生「俺が一番働きました。その俺が、何で でエヴェレストの模型の前に移動する ス レ るのといないのとでは大違いだ ! 」 二番目なんですか ! 」 深町、涼子、宮川も、何事かと模型の周 ヴ羽生「お前は、スポンサーのために山に登っ 囲に来る ているのか ! 」 べースキャンプ・テントの中 ( 1985 長谷、凍傷の後遺症でどす黒く変色した 長谷「じゃああんたは、自分さえ良ければ周 年貶月 ) 指で模型のルートを辿り、一点 ( 付 9
ら取り出したチョコレートと乾し葡萄を、 羽生のザックにそっと忍ばせる 羽生、出発の準備をしている 座っている深町 深町「すまなかった」 羽生「 : 深町「俺のせいで、三泊四日の計画はもう無 理だな」 羽生「そんなことは関係ないー 深町「・ 羽生、頂上を見上げる。その視線の先に、 頂上直下の切り立ったウォール : 深町「・ : ? ( ハッと思い当たって ) もしかし て、頂上直下のウォールを真っ直ぐ : ・ 深町「あんたは最初つから、あそこを : : : ? 」 羽生、無言で頷く 深町、震えるような衝撃を受ける。 頂上まで続く切り立った岩壁の威容。 深町「あんなとこを登るなんて不可能だ ! 」 羽生「 : 深町「死ぬ気か、あんた」 羽生「俺は死なん」 羽生「じゃあな」 羽生、自信に満ちた顔で登り始める。 深町、不安そうに羽生を見送る 軍艦岩 ( 夕方 ) 深町、雪原を下って来る。標高が下がっ て、疲労はかなり回復している。 深町、テントを張っている テント・中 ( 夜 ) 寝袋に入った深町、乾し葡萄を口に入れ て囓る。 風がテントを揺らしている 深町の「羽生よ、生きているか : : : もう眠っ ているか : : : 眠っているなら何の夢を見て いる・ : ・ : 羽生よ : : : 羽生よ : : : 」 深町、無表情に乾し葡萄を噛み続ける。 引雪原 ( 朝 ) ザックを背負った深町が下って行く。 深町の「逃げるのか ? ここまで来て逃げ るのか ? 」 深町、立ち止まる。 羽生の声「俺を撮れ」 べースキャンプを出発する前の羽生。 羽生「俺が逃げ出さないようにな」 深町「 ! 」 深町、振り向いて山を見上げる 頂上直下ウォールが見える 深町、方向を大きく変えて歩き始める。 深町の「帰ってたまるか : : : 羽生が闘って いるんだ : : : 」 南陵 深町、懸命に岩を登って来る。呼吸が速 前方の風景が拓け、エヴェレストの頂上 が見える 深町、慌ただしく望遠カメラを覗く。 ファインダーの中、頂上直下ウォールを 這い上がる羽生の小さな姿がある 深町、カメラから目を離し、山頂付近を 肉眼で確認する 塵のように小さな赤い点が、上へと動い ている 深町、感動に体が震える 深町「羽生ーツ ! 」 碧空にエヴェレストの岩蜂が突き刺さっ ている。 頂上直下ウォール
羽生「・ : 涼子、くるりと背を向けてドアに向かう。 同・表 深町が立っている。 涼子、家から出て来る。立ち止まって畑 を見る アン・ツェリン、畑で作物を収穫してい る。それを手伝うニマ ドウマは、近くの岩に腰を降ろして、赤 ん坊に乳を含ませている 気にするように、涼子を眺めているドウ マ。 涼子、坂道を下って行く。 深町、家のドアに向か、つ 細く開いた隙間から中が見える 薄暗い室内に、椅子に座る羽生の姿があ る。 仏壇の下に置かれた段ボールに、ザイレ ピッケル、アイゼンなどの登山道具があ る 深町、段ボールの登山道具に気づく。 深町「もう一度やるんだな : : : 」 羽生「 : ・ 深町「冬期南西壁 : : : ( 羽生の表情を伺いな がら ) 単独・ : ・ : 無酸素 : : : 」 羽生「 : る。 羽生は無言。だが、深町は羽生の表情で 確信する。 宮川「それで、羽生は何を企んでいるんだ ? 深町の声「冬のエヴェレスト南西壁」 ミニバン・車内 宮川「やつばり南西壁か」 上気した深町、運転席に乗り込んで来る。深町の声「しかも単独・ : : ・無酸素・ : 運転席に座って涼子を見る 宮川「 ( 興奮して ) おおツリ」 涼子、泣いている。 宮川、模型の急峻な南西壁に顔を寄せて 深町、涼子に掛ける言葉も見つからず窓 見つめる。 の外を見る 丘の上のアン・ツェリンの家ーー ホテル・ロビー 涼子、深町の腕を掴む。 深町、国際電話を掛けている。 深町、涼子を見る。 宮川の声「文字通り前人未踏ってわけか」 深町「俺は羽生に食らいついてャツの写真を一 深町、エンジンを掛ける。 撮る」 アン・ツェリンの家・中 8 岳遊社」・編集室 車のエンジン音が遠ざかって行く。 受話器を握った宮川 羽生、薄暗い室内で、登山用品を磨いて深町の声「べースキャンプの近くで待ち受け いる る」 エンジンの音が聞こえなくなる。 宮川「分かった。羽生を追え」 羽生、手を止めて耳を澄ますが、再び磨深町の声「そのためには金が要る」 き始める。 宮川「金は心配するな」 一心不乱に登山の準備を続ける羽生。 ホテル・ロビー 電話を掛けている深町 引「岳遊社・編集室 ( 翌日 ) 受話器を握った宮川が、期待に満ちた目深町「じゃあな」 で、エヴェレストの立体模型を眺めてい 深町、受話器を置いて振り向く。 一 4 一
時、ビバークしたところに古い白人の屍体 があった。カメラはその脇に転がっていた」 深町「 ( 興奮して ) マロリーだったのか ? 羽生「そうだ」 深町「やつばりそうかそれで、カメラの中 」 ~ フィルムは ? ・ 羽生「入ってなかった」 深町、落胆の色を浮かべる アン・ツェリン、空荷のヤクを連れて下っ て行く。 深町「マロリーは頂上を踏んだかな」 羽生「帰って来なかったヤツが頂上を踏んだ かどうか、そんなことは、どうだっていい」 深町「 : ・ 羽生「死ねばゴミだ」 羽生、そう言って作業を続ける 深町「どうして山に登るのかと聞かれて、マ ロリーは、そこに山があるからだと言った」 羽生「違うな、俺は」 深町「・ : 羽生「ここに俺がいるからだ。俺がいるから 山に登るんだ」 同・キャンプ地点 ( 未明 ) 大型テントの上空、エヴェレストの白い 岩肌が、朝陽を浴びて朱に染まっている 羽生「何だ」 深町「 : 同・大型テント・中 ・ ( 言い淀む ) , 羽生、登山用品を並べて、チェックして 羽生、手を止めて深町を見る いる 羽生「 ( 察して ) 岸のことか ? ー 深町、その様子を写真に撮っている 深町「 : : : あんたがザイルを切ったのか ? 」 チョコレートや乾し葡萄の包みを剥ぎ取 羽生、再びザイルを巻き始める り、中味だけをビニールの小袋に入れる。羽生「岸文太郎を殺したのは俺だ」 羽生、トイレットペー ーの芯を抜く。 羽生、平然と作業を続ける。 鉛筆を切って短くして重さを軽くする。 アン・ツェリンが、荷物を背負って戻っ て来る 深町「重さはハンデになるからって、そんな ことまでするのか ? 」 小型ノートの表と裏の表紙を剥ぎ取り軽 5 7 天候待ち ( モンタージュ ) ( 1992 年 くする 貶月 ) スプーンとフォークの柄を切り落とす。 雪の積もったテントから羽生が出て来る。 様々な登山用品が並べられていく。 「天気待ち 3 日目」 それらを、チェックしてリストに印をつ 「気温マイナス度』 ける羽生。 べースキャンプのテントが暴風で激しく 単独登攀の装備をカメラで撮影する深町 揺れる 羽生、腕を組んで天を睨む。 同・キャンプ地点 ( 2 日後 ) 唸るように、風が天を走り抜けてゆく。 雲に包まれている山々 深町、テントから出て来て不安げに羽生 「天気待ち 1 日目』 を見る。 気温マイナス度』 羽生、ザイルを巻き直している。 強風と雪が叩きつけるテントの中、羽生 深町、羽生を写真に撮っている とアン・ツェリンが落ち着いた様子で紅 深町「 ( ファインダーから目を離し ) 一つだけ 茶を飲んでいる 聞かせてくれ」