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検索対象: シナリオ 2016年4月号
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1. シナリオ 2016年4月号

の んと荒井晴彦さんに教わっています。読ん で感じたのは、シナリオというのは色あせ ないんだなと。一番最初に載っている『盤 嶽の一生』が昭和八年の作品で、随分昔な んですけど、今読んでも引き込まれる。映 画を観たことのない作品も何本かあったん で、今回あらためて観たんですが、映画に なると今の気分とマッチしないというか、 入り込んでいけないなと思ったのが不思議 でした。シナリオだと面白かったのに映画 だと今イチ入り込めないなというのがあり ました。 黒沢と、いう若いみなさんの感想でした が、加藤さんはその感想を受けて、どのよ うに田 5 われましたか ? 加藤皆さんの話を聞いて、なるほどなと 思いました。脚本を読んでそれから映画を 観ると、違、つ感じになるとい、つのは誰もが そうだと思います。脚本を読んだ時点で自 分のイメージが出来上がっているので、実 際の映像を見せられると、自分で想像した 映像と必ずズレが生じます。ですから、違 和感を覚えます。けれども、映像が頭の中 に残ってる段階でもう一度脚本を読み直し てみると、なるほどこういうふうに書いて るからああいう映像になるんだなとい、つこ とが分かります。もう一回検証してみると、 文字と映像の距離を知ることができます。 こう書けば他人にはこう伝わるんだ、とい 、つことを知れば、映像的なト書きを書ける ようになります。我々脚本家は、映像を書 いてるつもりでト書きを書いています。だ から、単なる文字ではいけないわけです そういうことが段々分かってきます。だか ら、読んでから映画を観て、違和感を覚え たところは、もう一回読んで検証して下さ シナリオを読み直して、なるほどこう いうことなんだなと納得できれば、一本の イ品が完璧に理解されたことになるんです ・ : というのは私の言葉じゃなくて、池波 正太郎さんがそういう文章を書いています。 6 読んでから観て、もう一度読み直すと一本一 の映画を完璧に理解できると 氏 各 みなさんは、この本を読んで、どれも良 の いシナリオだなと思ったはずです。傑作中 実 の傑作だから当然です。でも、完璧に理解 藤 近 したわけではないんです。僕も完璧に理解 平 できてないところがあると思います。この 山本をぜひ机の傍に置いて、執筆の合間にペ 下 ラベラとめくってみて下さい自分が直面 之 している問題に対する答えを見つけること 智 ロ ができるかも知れません。ああ、こういう 山 ふうに書けば、自分が行き詰まっていると カ ころから抜けられるんだ、とい、つよ、つなヒ 下転や リ

2. シナリオ 2016年4月号

況を考えていくとこ、つなっちゃ、つんでしょ あって。戦争は非日常ですよね。その状況下ろが面白い映画だなと。「天皇と料理番』と で人間はどんなことをしゃべって、どんな関は対照的な作品だなと思って。戦時中および う。あの頃は食べるものもない 一人だけ男 係性が築かれて、どんな思考を持つのか。そ終戦直後における天皇に対してどのようなス か生き残っていた。そういう男か近所に居る ういうことを圧倒的ディテールで描き込んだ タンスでそのキャラクターがいたかっていう と、女の子が惹かれるのは当然だしね。映画 映画だと思うんです。人間って何なんだろ ようなことだと思うんです。結局戦争が起き は、ディテールがきちんと観る者を納得させ うって問いが頭から最後まで一貫してある。 て、みんな兵隊に行っていたり、妻子が疎開 て初めてちゃんとした良い映画になるんだけ 戦争って、あらゆる破壊的なもの、非人間的していたりという状況の中で不倫をはじめる ど、これはそのへんが満点です。戦争を知ら な行為が勃発するわけですよね。そこにおい わけですよね。その一線を越える場所が神社 ない戦後派の人がここまで書いたっていうの て杉並のある一人の女の子はどうだったのつ ですよね。そこで天皇でさえ頭をさげる神社 はね、やつばり荒井さんが荒井流のリアリズ てところに、余々にシフトしていく話だと田 5 でなにやってんのって叱られるみたいな。そムで突き詰めていくとこうなるんだと、感心 います。そこがすごく面白かったですね。た ういう描写で道ならぬ道を描いている。そう したんですがね。だから僕はこれが一番良い しかに渡邉さんか仰るように、ラストでそう いうところが全篇すごく、つまいラストに突作品だと思います。 いうふうに思うのであれば途中から思ったっ き進むくだりでは、喜怒哀楽などの感情に訴 尾崎 作品に何を期待するかって、それは観 ていいんじゃないかってところもあるんですえかけるのではなく本能にじわじわ来る感じ る側の勝手で、それぞれが勝手なことを期待 よ。もっとダイナミックに男女のドラマとし で、里子というキャラクターがどう覚醒してするわけですけれど、で、それが作り手の意 て空襲の中でもひたすらやりまくってる話に いくかというふうな見せ方をしていて、そこ図と合致してるかどうかはわからないんです なったっていいんですけれど、そうはせすに がまさに映画だという感じがするんです。た けれども。僕はこの作品に何を期待したかっ てい、つとラブストーリー 里子の女としての覚醒、つまりビギニング的だセリフが非常に多くて。非日常下における を期待したんですよ なところに振り切っているのが面白かったん 日常やディテールを描くときにセリフか多く 戦時下という枷の中で男女がする恋を描いて ですね。あと、みんな疎開しちゃってるので なってしまうのは仕方ないと思うんですが、 くれるのかなと。僕はそ、つい、つことを描こ、つ 街に子供がいないんですね。なので音が非常会話劇に終始しているところがちょっと退屈としている脚本なのかなと思って読み出して、 に気になるという描写があったりするんです。してしまいました。 ただ脚本からは僕が勝手に期待しているもの 鳥の声なんかがすごく気になってくるとか 僕はこのシナリオが一番感心したんではそれほど読み取れなくて。まだその時点で あと里子が伯母さんとしゃべってる時に、仲す。荒井さんは戦争の体験もないのに、戦争もその期待を捨てきれずに、僕が脚本で読み 良くやりましようよ、いっ死ぬかわかんない の話をきちんと描いています。敗戦を目前 : 」こ切れなかったところもきっと映画では描かれ んだから、ってセリフとか。平時の日常生活控えた日本がどうしようもなかった時代、だ ているに違いないと思って観たら、そうでも では絶対出て来ないものがたくさん出て来る。 したいこ、つい、つ状態で日本人は生きていまし なかった。ひょっとしたら僕は脚本も映画の つまり非日常の日常をひたすら描いてるとこ たよ。荒井さんのリアリズムで登場人物や状方もちゃんと観れていないということなのか

3. シナリオ 2016年4月号

されたセリフを話すのですが、それにどんど だんですけど。作者は監督する前提でこの脚じゃないかなと。そういう意味で物足りな 本を書いていると思います。それもあって脚かったですね。 ん人間味を感じていって。崖に何百年かに一 本だけで評価するのが難しい作品ですね。僕 このシナリオは読んで、頭のなかにク 度花が咲くという設定をうまく使ったシナリ エスチョンマークがいつばい浮かんだシナリ オだなと思いました。ただシナリオを読んだ が一番難しさを感じたのはアンドロイドがど だけではわかりづらいなと。放射能汚染されれぐらい人間っぽいのか文字でわからないと オでした。すごくわかりやすい商業映画では ころです。その度合いで観た印象がかなり変 た近未来の日本で、国外避難のために順番を く、問題提起して考えさせる作品なんだろ わってくると思うので、脚本だけ読んでどう うなとは田 5 いましたが。 近未来でも原発問題 待っている設定とか、社会問題に関するキー ワードなんかがたくさんあって面白くて。実こう一一一口うのは難しいですね。もちろん面白い とかが起きているんだよ、結局この世界は救 は僕の一推しだったんですけど、菊島賞には ところは面白いですけど、この作品は脚本だ いよ、つがないんだよ、このままだと将来は「さ 推しにくいなとちょっと感じています。 けでは判断できないですね。 よなら」ってことになるんだから、今をどう 今井 尾崎さんとまったく同じ意見です。映画 にかしよ、つってい、つメッセージなのかなと思 平田オリザさんが書いた原作の台本を 先に読んで、この発想は凄いなと思って。そも観なければいけないんですが、また言い いました。でも正直、作者の言いたい事かわ の驚きに比べると映像版ではあまり驚きはな訳で、入院していたもんですから。これは僕、からないままです。ただ商業映画としては成 かったのですが、短い原作から工夫して膨ら 一番映像で観たかったシナリオです。でもねり立たないと思いますし、一八〇〇円払って ませていると思いました。ただ、色んなテー え、観ないことには何にも言えないんでね。これを観たら自分がどう思、つかは、正直よく わからないです。 マを盛り込んで深い話にされようとしてい だから棄権するより仕様がないです。 るのですが、映像で観たときに冗漫になるん アンドロイドが活躍する世界を舞台に、 じゃないかなと脚本を読んでいて思いました。原発、テロ、難民、ヘイト問題、ネグレクト 『ソロモンの偽証前篇・事件 / 後篇・裁判 原発の五キロ圏内に人間は誰も入れないので、 なんていう今現在の問題を近未来の世界に託膨大な原作を視覚芸術として脚色する見事な アンドロイドのあなたが詩を読み続けていて して描くという、ある意味きわめて正統的な手腕 ねって原作にあって、私はそこが一番良かっ 作品だと思うんですけど。読んでいて静 今井あれだけの分量がある原作を前篇 / 後 たので、そこを使わず違う話になっていた時かな演劇という感じで淡々と日常的な場面を篇とはいえ四時間半にまとめた手腕はすごい 点で、私としてはどう評価して良いか難しい ですね。私はます映画を観て脚本を読んで最 構成して品が良く深みもあるしセンスも良い なと。もしこれがオリジナルで書かれていた なと思ったのですが。原作の戯曲もそうです後に原作を読んだのですが、情報の取捨選択 ら意欲作として全面的に推せたのですが、平が全篇にわたって詩が引用されていて、でが的確に行われていると思いました。人物の 田オリザさんの着眼点に票を入れたいという も詩を引用するという作品のティストがどう 役割が明確で、主人公の優等生ぶりとか、そ 気持ちになりました。 も僕には響かなくて。言葉でポエジーを表現の父親が刑事であることが短いセリフでわか 僕は映画は観ていなくて、脚本を読んするくだりは映像で見せた方が映画つほいんりやすく入って来る。これはキャラクターの 尾崎 圭 港 渡邉

4. シナリオ 2016年4月号

シナリオを読むとそうなっていたと思ったんなというのが正直な感想でした。何か言いた 険証の相談をしに行って嫌な目にあう場面な です。他にもこの作品にはすごく良いところ いんだけど、その言い方がわからないというんかは、僕も保険では無いですが年収百万以 がいつばいあって。例えば、前の東京オリン か、言いたい事はわかるんだけど、でもそれ下の頃に似たような経験をしているので、彼 ピックの時に建設された首都高がもうポロボ がうまく書けてないよね、っていうような脚の気持ちがよくわかる。あの苛立ち。ほんと ロで、その首都高がどれぐらい壊れているか本だと思ったんです。もし映像を観て初めて火つけていいんじゃないかと思うぐらいのム を橋梁点検するのにアッシは耳で聴いているわかる作品だとしたら、今日の選考会はシナカつきが んですよね。その設定自体で映画表現になっ リオに対しての評価をする場ですよね、だか いわゆるお役所仕事に対する ? ているところがまずすごいと思う。二〇二〇ら映像勝負とはまた違うと考えます。あと映 はい。殳所は別に間一遅ったことは一言って 年にまた東京オリンピックがありますが、ア 画を書く人とドラマを書きたい人っていうの いなかったりする。そのやり場のない苛立ち。 ッシは昔のオリンピックと未来にあるオリン は違うと思いますが、これは完全に映画を書それを抱えてどうして良いかわかんない。そ ピックとの狭間にいて、彼は、もう全部ぶつ きたい人のパターンだなって思いながら読み の感情は痛いくらいよくわかったんです。四 壊れてるよ、とか、このクソみたいな国、つ ました。だからいま港さんの説明を聞いて納ノ宮に関しては本当に嫌な奴ですよ。傲慢で、 て思っている。そういった思いが二〇一五年得することが多くて、その気持ちをどうした嫌味だし。でもあのいやらしさも、わからな の日本を貫いてる感じがするんですね。そう らいいんだろう、評価に入れて良いのかいけ くはないです。自分の中にもああいうところ いうのを破れかぶれの構成で描いてるような ないのかかよくわからなくなったんですけど、 力あると思、つので 気がして感動しました。ただ皆さんが仰るよ脚本だけを評価すると、私は推せないですね。 というか、ああいう人はいるよねって事 うに、現実的に考えると色々おかしい設定が 港さんに訊きたいんですが、もちろん感ですよね あって、そこはちゃんと検証しなきゃいけな情移入だけがドラマや映画を観る基準じゃな まあ階級うんぬんっていうのがどっちか いんじゃないかなとは田 5 いました。 いとは田 5 うけど、この突き放したような距離というと底辺にシフトしてるんですよね。四 渡邉 今、港さんの意見を聞いて、このホン感は計算ですかね。作者でもないのに訊いて ノ宮弁護士はお金持ってる人ですけど、それ はそういうことか書いてあったのかと初めて 申し訳ないけど。 以外は底辺と呼ばれる人たちに焦点を絞って 理解しました。私が審査員のお話をいただい 僕は表現衝動に戻った人の作品のような いる。で、僕はそういう人に共感するところ たときに、ノミネート作の一番上にこの『恋気がします。感情移入って技術的にとても大が多々あります。二〇一五年って、いまだに 人たち』が載っていて、きっと良い脚本なん事なことじゃないですか。アッシに感情移入不況が長引いていて結果的にお金に困ってい だろうなと思って読んでみたら、えっ本当できるかっていうと、できないです。奥さん る人がたくさんいる。憶測ですが、そういっ にプロが書いたのかな、って驚いてしまって。 の遺影に向かって、自分は不器用だからうま た今の状況と書き手個人の精神的な状況が シナリオ学校で教えていたことがありますけ くいかなくて、なんて言うところは自己愛が バッティングした結果、こういう作品が生ま ど、その生徒が書いてくるようなシナリオだ 強すぎてついて行けない。ただ彼が役所に保れたんじゃないかなという印象です。 港 伴 伴 港 伴 港

5. シナリオ 2016年4月号

らですかね。カットバックにしても真正面 あるけど、隠せば匂い立ってきますよね、 黒沢「東京物語』ってオーソドックスな いろんなものが からの切り返しって、普通はやれないです 分かりやすい話でありながら、ひとっ謎の よ。一本のレンズで同じポジションから セリフがあるので有名ですよね。紀子の「私黒沢そうすると、野田さんって秘するも フィックスで、とい、つかたくななスタイル のを描かせるのが上手い脚本家ですよね するいんです」。何がずるいのか全く語ら そういうのに触れると、最近の脚本って貧も特徴的です。 れていない 日本人らしい節度のある付き合いかたも しくなってるなと思わざるを得なくて。少 加藤有名なセリフですね。僕はシンプル 小津映画のスタイルです。決して大きな声 しでも分からないと、ここ分からないん に解釈してます。亡くなった旦那のことを を出さない本来日本人はあまり大きな声 じゃないですか ? と言われる 想わなくなってしまう日もある、でも毎日 出さない民族です。同じアジア人でも、た 加藤プロデューサーで「分からない」と 想ってる振りをしている。ほんとはそんな とえば中国人は大きな声ではっきり主張で に貞淑でもないのだが、そうやって演じて発言する人が多くなった ( 笑 ) 。感じれば いる自分はずるい人間なんだ。いちばんず説明しなくていいんだけども分かりやすきます。でも日本人はそれがなかなかでき くすると、往々にして詰まらなくなりますない感情を内に抱え込んで、相手と向き るくない紀子に「ずるいんです」というセ よね。ある程度まで表現してそれから先は リフを言わせたかったんだと思います。自 合います。小津映画の、親子や家族の静謐一 イメージしてもら、つ。たぶん、こ、つい、つこ な芝居は、海外の人には新鮮に映ったん凵 分の生活が第一で、親をないがしろにしが じゃないですかね : そう思わ とだろうな、そうに違いない : ちなエゴイスティックな子供たちは、決し せるくらいで、表現って丁度いいと思いま有安『東京物語』で好きなのは、紀子さ て「ずるい」とは言いません。「私するい んの役のイメージが最後にガラッと変わる すけどね。嫌でしよう、これはこうですよ、 んですーというセリフは、紀子の気持ちの ところなんですよ映画を見ている間、紀 と解釈を押しつけられたら 美しさを表現しています。でも、もしかし 子さんの役って「こうありたいけど、こう たら、「ずるいんです」というセリフから、 は出来ないよな」とすーっと思ってる。で 外国でも高評価はなせ 実は密かに思いを通じている男かいるんだ も、最後にコロッとああ言われると、あの と受け取る人もいるかも知れません。解釈 天使のような顔がすごく身近に感じる。日 下山でも、『東京物語』が何で外人にウ は自由なんですけどね ケるんですかね。ヨーロッパゃなんかでア本的なテーマでありモチーフなんだけど、 黒沢説明がされていないからこそ、ふく キャラクターとしてもきちんと描かれてい ンケートとると、必ず上位じゃないですか らむ るというところが、外国の人にも分かりや こういう市井の戦後意識も、「家」という 加藤説明しない良さってありますよね ことも日本特有のものだと思うんですけど。すいのかなと。日本的な空気を味わいつつ、 説明すると身も蓋もなくなったりしがちで キャラクターやストーリー が万国共通のも 加藤唯一無二のスタイルを持っているか す。秘すれば花、っていう世阿弥の言葉が

6. シナリオ 2016年4月号

料理番』には、「このセリフがすごい」とか、「こ ナレーションで、申し訳ありませんけれど後 で特攻隊を送り出す仕事をしていて、天皇に のセリフが胸に刺さった」とか、「こんなの に宮中を預かる天皇の料理番になります、と対する憎しみを持っていた。戦争で友達を数 私には書けない」というものが一つも無かっ か言ったり、その変化が毎回面白くてすごく多く亡くしているわけですからね。そういう たんですね。例えば原作とは違いますが、奥楽しく読んでいました。でも最終回がノレな視点というのもあるだろうし、もっと多角的 さんが亡くなるところとか、そ、つい、つシーン かった。昭和天皇の戦争責任を問うのか問わな視点を導入しないと語りきれない事を簡単 を書かせたら本当に泣かせられる人なんですないのかっていう部分が最終回の一番大きな に語りきってしまったような気がしたんです。 けれども、あっさり終わっていたりとか、全 ドラマとして設定されていて、作り手がそこ最終回まではすごく良いドラマだと思って泣 体的に淡々と書いている感じがして。他の作 から逃げなかったのはリスペクトします。が、 き笑いしながら読んだのですが、最終回での 品だと森下さんの情念みたいなものを感じる 主人公はコックなので、料理を使っていか ( こ主題の解決のさせ方に引っかかりを覚えてし まいました。 んですけれども、これは別の人が書いたみたその危機を脱するかというシチュエーション いだなって正直思ってしまったぐらいなんで になっているんですね。別に彼の働きで天皇 桂 僕は港さんの仰ることは全部わかるんで すよね。最終的に主人公のサクセスストー は戦争責任を問われませんでしたという美談すけれども、そんなことをやっていたらこん 丿ーで終わってしまって、ちょっと意外でし にしているわけではないんですよ。でもそんな企画は成り立たないと思いますね。これね な形で語ろうとして良いんだろうかって根本毎回毎回、美味しそうな料理を画面に出すの 『天皇の料理番』は原作を昔読んですご的なことを問い直したいくらい、これは大き が大きな目的なんでしよう。プロデューサー く面白いと思っていたんですよ。今回改めて な問題だと思うんですね。そんなことで話を として大変うまいこと考えたなというのが 読み直して、シナリオも読んでいって、すご解決しようとしてはいけないんじゃないかっ 一つ。もう一つは天皇なんて存在はなるべく テレビマンとして手をつけたくないわけです い脚本だと思ったんですね。脚色が本当に巧て気がして。終戦前後の天皇を巡るドラマっ 、。これは一人の人間の一代記なので、色ん て、もっと多角的な視点が必要で、そうでな よ。そこを原作があったにせよ堂々と売りに なキャラクターが出ては消えていくんですが、 いと語ることすら難しいんじゃないかなと僕している。その二つはすごいと思います。よ 例えば宇佐美だったり新太郎とか辰吉という は思ったんですね。そういう意味では非常に くやり抜いたと思いますよ。それだけでも褒 脇役の存在感を表に出して来ていて、きっち シンプルにまとめていて、字佐美がのめたいと思う。でもシナリオには文句があっ りと役を意味付けしていくのがすごく巧いな将校に、日本人にとって天皇とはいったい何て、僕ねテレビはほとんどやったこと無いん と思いました。あと、この宇佐美のセリフが なんだ、と訊かれて、味噌のようなもんだ、 だけれども、セリフにこの人物はこう田 5 って 良くて、「箒一つ持たせればその人間の仕事という答えを返す。何を代表してそういうセ いるという括弧ト書きが多いんですよ。この はわかる」とか思わずメモしたくなるような リフを言ってるんだろうと僕は思っちゃう。脚本家は偉い人なんで、役者がこの通り演じ ないとまずいと思ったりしたら、自分の演技 言葉がいつばいあって好きでした。あと、主例えば天皇を恨んでる庶民とか絶対居たわけ 人公は元々チンピラみたいな奴なんですが、 ですよね。僕の亡くなった師匠なんかは三沢ができなくなるんじゃないかな 港

7. シナリオ 2016年4月号

したのが『鳩を売る少年』だった。で、そ ないでしよう。今どころか橋本忍だけなの 黒沢映画は観てたんですか ? の『愛と希望の街』を選んで構成表立てて ? かもしれないけれど、感心しましたね。あ 下山ええ。あれが ( 大島監督の ) 最初の 下山そうですね と『夫婦善哉』とか『浮雲』なんかは改め 長編ですもんね。いちばん初めに観たと思 加藤僕が学生の頃は、ああいう衝撃的な て読んでもやつばり良いですよ。ちゃんと います。 エンディング、非常に作家性の強いものが 男と女の話で。好きです 黒沢実は今回、私は『愛と希望の街』 ( 原大好きでした。当時の映画青年は、今よ 黒沢では、近藤さん。 題〕鳩を売る少年 ) を入れたかったんですりも鬱屈していましたから。今の若い映近藤私は先にお芝居の戯曲から入りまし よ。なぜ入れたかったかと言うと、シナリ 画ファンにはなかなか伝わりにくいけど、 た。父親が芝居が好きで、小さい時から オ講座時代に書き写しするのこ、、 ( ししよと一一一口 やつばり観てほしい読んでほしい一本ですちよくちよく連れて行ってもらってたんで ね われて。やるからにはいい作品をやりたい す。家に幾つか戯曲があって、それを読ん と思った。で、いろんな先輩に何を書き写 黒沢でも時代が今、また『鳩を売る少年』 でました。映画の脚本に興味をもったのは したらいいか聞いて回ったんですよ。そう の時代になってる。じゃあ、環境がそうだ大学に入ってからです。最初に足立正生さ したら、『鳩を売る少年』っていうのがけっ から名作シナリオに触れる機会はあった ? んが脚本の基礎みたいな授業をやったんで一 こう多かったんですね。私が最初に書き写下山まあ、授業内でも読みますし。 すけど、その時に今村昌平の『楢山節考』 黒沢今回読んだのは当た をコピーしたものをドサッと。これを読み一 り前の二十一本じゃないか ましよう、じゃあ映画を観ましよう、「ハ 録と ? イ、これが映画です」みたいな ( 笑 ) 。脚 収 下山当たり前とは言わな本を読んで、凄いと思いました。これがど 巻 上 いですけど、どれも映画を 、つやって映像になるんだろうと。主人公と 本勉強していれば一度くらい 後妻が初めての夜でセックスしてる。天井 は見る作品ですし、半分く で蛇がうねってるその音も書いてあっ 本 らいは読んでましたね。橋て、「お前を歓迎してる」みたいなセリフ 橋 本忍脚本が四本入ってますがあるんですけど、これをどうやって画に 澤けど、あれだけ回想をやるするの ? 蛇の音なんて観てる側には分から ということも含め、ああい ないし、どうやって映すのか私は舞台と うふうに構成がそのまま作映画の違いって、映画は時間も場所も、ど 風になるという人って今い こへでも行ける広がりというのかすごいな

8. シナリオ 2016年4月号

て三人の運命が変わったり、人生を考える ちゃったんだろうと言う人と、傑作過ぎて自 明すれよ、 ( しいだけなのに。なぜほったらかし きっかけになるような話だったら観やすかっ分が打ちのめされたと言う人がいて。 た上で冷たい仕打ちをするのかわからなかっ たのに。 僕のまわりでも評価が高くて、「これのた。それとゲイであることがどう関わるのか 私は橋ロ監督の「ハッシュ ! 』三〇〇一 どこが面白いの」なんて一言えなくなっちゃっ もわからない。僕は弁護士ドラマを何本か書 年 ) と「ぐるりのこと。」 ( 二〇〇八年 ) が大たんですよ いたことがあって、弁護士にも会ったことが 好きなんですけが、「恋人たち』は久しぶり でもこれは橋口さんにしか書けない世あるので、たまたま疑問に思ったんですけど。 のオリジナルで期待値が大きすぎたのもあり界だと思う。オリジナリティを感じてはいるそう考えていくと、他にもこの作品には疑問 ますが、過去の作品の方が好きでした。ワー んですがね 点が色々ありますね。 クショップで集まった役者さん達にどこまで 僕は映画も観たんですけど、今回の候 尾崎さんの仰ったことは全くその通りだ 当て書きしたものなのかというところにまず補作の中で、自分が普段テレビドラマを書と思います。でも僕はね、この『恋人たち』 興味があります。篠塚アッシ役が篠塚篤だっ いてる世界とは一番遠いところにある作品だ というタイトルがホモの弁護士とその恋人、 たり高橋瞳子役が成嶋瞳子、黒田大輔役が黒 なと思いました。ます驚いたのは、実際の出それから妻を殺されて鬱屈してる男とその妻、 田大輔と、役名がそのまま役者の名前で。役来上がった映画に見目麗しい人が一人も出てそういう人たちを全部集めて、みんな恋人同 者から物語を発想した部分も大きいのではな来ないこと。それで映画を作るなんてことが志なんだと。そういう感じで括っているとこ いかと。そういう作り方をされているところあるんだと。自分が普段やってる尺度で測れろが斬新だと思って。僕は今まで橋口さんの に私は心意気を感じました。橋口さんは鬱屈るもんじゃないという気がしました。あと映画をそんな良いと思わなかったけど、この を描くのがとても上手ですが、これまでの映僕は四ノ宮弁護士のキャラクターがよくわか 作品で初めて、こんなオリジナリティ溢れる 画ではその鬱屈した人生を送っている人に共らなくて。最初の方で階段から突き落とされ シナリオを書ける人だったんだと感心しまし 感できるものがありました。でも今回、感て、誰が突き落としたのかわからないままで。た。でもこのシナリオが候補作の中で一番良 情移入し辛いというか、この人達が自分か とい、つことは突き落とされるよ、つなことをし いとは言いませんけれども ら閉じてる気がして、物語に入り込むのが難てたのかなと。その原因は描かれない。アッ 僕は今回の候補作で一本選ぶとしたらこ しかったんですよね。私は映画を観ていない シが自分の妻を殺した男を訴えたいと相談にれしかないと思っているぐらいすごいと思い ので、映像だとどう感じたのかわからないの来ても何ヶ月もほったらかした上に、自分が ました。予備審査で一回読んでいますが、そ ですが : ちなみに私のまわりでテレビド 傷つくから訴えるのは止めましようとか。な の時は正直ディテールに引っかかった。なん ラマ、映画問わす監督達は、橋口さんの新作ぜ、どういう論理でこういうことしてるのかでこんなことになってんだとか、人物同士に ということで、かなりの率でこの作品を観にわからないんですね。弁護士なら、それはこ関わりがなさすぎるんじゃないかとか、謎 行っています。でも意見が真っ二つに分か 、つこうこうだから訴えても勝ち目はないからすぎて。その後に映画を観たらシナリオのイ れているんですね。何でこんな駄作を作っ止めといた方かいいですよ、と筋を通して説メージとのあまりの違いにびつくりしました。 今井 今井 尾崎 伴 港 桂

9. シナリオ 2016年4月号

ところが大変新鮮に感じたし、感心しました。 描き分けを教えるときに教材に出 それだけでも存在意義がある映画だと思いま 来るなと。ただ気になったのは普 す。ほく今日はだいたい全部褒めているんで 段使わないような演劇つほいセリ一 すけどね、これだけの作品を揃えると日本映 フ回しです。特に尾野真千子が演 画もなかなか良いなと思いますよ じる大人になった藤野涼子の言い 僕はこの脚本は圧倒された感じがあっ 回しに違和感を覚えました。と て、素晴らしいと思いました。原作を読む いっても藤野涼子は中学時代から と、謎解きを軸にはするけれども純然たるミ かなりの優等生で大人のような独 ステリーではないんですよね。十四歳の少年 特の話し方をしていたので、性格 が死んだことによる周りの人間模様だったり 付けとしてあえてそう描いている バブル当時の社会状況だったりを描くのが主 のなら成功してるのかなとも思い 眼の人間ドラマなんですよ。この膨大な原作 ます。あとこれは商業的にどう を視覚芸術である映画にまとめるのは想像を だったのかな。私は前篇を観た後 絶する作業だったと思います。脚色の工夫と に、後篇が観たくてたまらなくて しては、原作では主人公の藤野涼子以外の子 でも公開が何週間か空くんですよ が雪の日に死体を発見するのですが、映画の ね。世間の人が待てたのかなと気 ヒロインになるので藤野涼子を第一発見者に になりました。前篇を観たのが何 しているのが一つ。あと、彼女がなぜこの裁 人で、後篇も観たのが何人なのか 過ぎという感じがして。まあそれはミステ判を率先してやるのかという動機付けがもの なと個人的に興味があります。 リーとしてこの時間内にまとめるために仕方すごく巧みなんですね。彼女がいじめを見過 僕も前篇 / 後篇と映画を観て脚本を読 ごしてきたという贖罪意識を描いている。そ んで、それで、すみません、原作は全部読が無かったのかなという気もしますが。もち 、ついう構造を作ることで非常に強靱な仕組み めませんでした。前篇を観て後篇も是非観た ろんこの原作を手堅くまとめた手腕はあると になっているのが脚色のすごいところだなと。 いという面白さはありましたが、それは真相思います。 アメリカ映画みたいに法廷を舞台に丁々結局、中学生が裁判をやるのはしよせん茶番 を知りたいというミステリーの面白さで、そ の要素は原作にあるものだと思います。あと、発止とせめぎ合いをする映画は、あまり日本だと思うんです。映画になるとより一層その 大人たちが物わかり良すぎるんですよね。子映画には無いんですよ。脚本家に力がないん茶番感を露呈してしまうはすなんですよ。 かにその裁判が大事で切実なことなのか、ヒ 供たちが裁判するのは、ある種大人への反逆ですね。これは巧くいっているかどうかは別 ロインの贖罪意識をきっちり作ることで茶番 もあると思うのですが、大人たちが受け入れですけど中学生を使って法廷劇をやりぬいた 尾崎 桂 港

10. シナリオ 2016年4月号

様式を模していることは明白だ。だが様式美以外の面か奔放に、大胆不敵かっフェティッシュに脚色する方向性 もあったのかもしれない。でも今回はあくまで室生犀星 らこの幕切れを考えると、これ以上物語を続けると丹念 に縛られているべきだと思ったのだ。犀星の「言葉 , を に造り上げた甘美な理想郷が崩壊してしまう : : : という 作家の畏れを感じ取ることができまいか老作家の傲慢大事にすると、当世風のリアリズム芝居は成り立たない だがあれほど美しい言葉であるから是非いかしたい。台 が、ユーモアを欠落させた余裕のない形で露呈し始めて 詞の発声をどうイメージすればよいのかわからす、縋る いるし、赤子は田村ゆり子との女性としての連帯を通し ように成瀬の映画をいろいろ見直した。そこで高峰秀子 て自我に目覚めつつある。このままではイプセンの「人 の台詞回しを聞いた時に「これだ」と思い、赤井赤子の 形の家』になってしまい、「フランケンシュタイン』さ 言葉はかの大女優が喋るイメージで書いた。そのことは ながらの神と被造物の関係性の逆転劇に突入してしまう。 だから物語はその寸前で終わってしまうわけだ。脚色者誰にも言わなかった。演出や演者の領域だからだ。イマ ジカの試写室で、赤井赤子を演じる二十歳の天才が、こ が取り組むべき仕事は、その「予感された結末」を可視 れでもかと弾ける姿を刻みつけたフィルム ( 比喩ではな 化することだと思った。それに「蜜』の装丁を巡る随 く本当にフィルム撮影なのだ ) を見た時、鳥肌が立った 筆「後記炎の金魚」「火の魚」 ( いずれも講談社文芸文 のは、その台詞回しがどこからきたのかが歴然としてい 庫版「蜜のあわれ』に収録 ) に描かれる赤子の末路を思 たからだ。最高だった。こういう奇跡が起こるから映画 うと、彼女の望み通り、大空を激しく燃えながら飛んで はやめられない 行ってほしいとも思ったのだ : : : 等々、言語表現と視覚 芸術の中間に巣食う自分は、よく考えていくつかの大き な脚色を施したつもりだが、それが正解だったのかどう かはわからない。原作の枠組だけを拝借し、もっと自由 8