子供 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年5月号
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1. シナリオ 2016年5月号

感じてるんは分かるけど、そやからって〇同室内 て言ったんですよ。笑わせるわ。何の未練 黒を基調にしたインテリア。 もなくその絆を断ち切って、大阪に出てき 聖子、驚いたように田之倉を見る 部屋の中を興味深そうに見渡している堀たくせに ! 」 内。 聖子「あなたも私が悪いと思ってるの ? 」 田之倉「やめろっ、言い過ぎや ! 」 田之倉「え : : : 」 二つのグラスを持った田之倉が来る。 堀内、微笑む。 聖子「出て行かないわよ。私、何も悪いこと ダイニングテープルに座る二人。 堀内「 : : : 俺、田之倉さんの前では何でか素 なんてしていないんだもの」 田之倉、ビールを二つのグラスに注ぐ 直になってまう」 田之倉「聖子・ : 堀内、殺菌ジェルで手を拭う。 田之倉「素直 ? 」 聖子「誰だって自分と自分の子供の命の方が、堀内「ほんじゃあ、乾杯」 堀内「田之倉さんも被災地好きでしょ ? せ 大切に決まってる ! 」 5 んぶ潰れて、もう一回リセット出来そう 堀内、グラスを持った手を掲げるが、田 聖子、店へ戻っていく 之倉、無視してビールを飲む な気がするでしょ 田之倉、自分の頬を張る 田之倉「お前、ええ加減にしとけよ」 田之倉「 : ・・ : もう、帰れ」 堀内「何がですか」 堀内、残りのビールを飲み干し、立ち上一 がる。 大阪田之倉のマンション外 ( 夜 ) 田之倉「朱里ちゃんや。婚約者おって、よう ポストンバッグを手に、帰って来る田之大阪に呼ぶわ」 堀内「そうそう、朱里とあんまり関わらんと一 倉。 堀内「そやけど、大阪おいでって言うたら、 いてもらえますか」 ビールの六缶パックを持った堀内がマン すごい喜んどったし」 田之倉「向うが勝手に電話して来たんや。俺 ションの入り口で立っている 田之倉「なおさら悪いやろつ。呼ぶだけ呼ん には関係ない」 堀内「あ、田之倉さ 5 ん」 で放ったらかしって : : : 」 堀内、子供の様な笑顔を浮かべ、 堀内、田之倉のポストンバッグを見て、堀内「向うが言い出したんですよ石巻にお堀内「よかったあ。俺、朱里の事も田之倉さ 堀内「石巻ですか ? 」 る限り、ボランティアやめられへんて」 んの事も、大好きなんで」 田之倉「何しに来てん」 田之倉「そうやったとしてもや」 堀内が帰って行く 堀内「何や朱里が迷惑かけたみたいで」 堀内「神戸の看護師さんに感銘うけて、とか 座ったままでいる田之倉。 田之倉「 : : : 」 言っとって。嫌になるんやったら最初つか 田之倉、黙ってマンションへ入っていく。 ら、やらんかったらええのに」 瑞穂のアバート外 堀内、ついていく アンケート用紙を挟んだクリップポード 田之倉「・・ : : 」 を持った林田トモ子 ( 肥 ) がインターホ 堀内「あの女、僕に「絆って大切だよね』っ 〇 〇 4

2. シナリオ 2016年5月号

ーリップのアップリケ、ついた を取り出す。 〇神戸市長田区田之倉の家風呂場俊明「八チュ ( 一九八三年 ) スカート持って来て、お父ちゃんも時々、美佐子「それ、無しで」 幼稚園児くらいの子供 ( 田之倉俊明 ) が買うてくれはるけど」 田之倉「危ない日やろ」 母・美恵子 ( ) と一緒に湯船に入って誠治「どこでそんな歌、覚えてきたんや ! 」美佐子「私、もう三十三やで」 いる 俊明、父を見る 田之倉、コンドームの袋を破る。 美恵子、歌を口すさんでいる 美恵子「ごめんごめん。私が歌っとったから、美佐子「早すぎることないと思うねん、妊活」 美恵子「八うちがなんば早よ、起きても、お 田之倉、俯く。 それで : : : 」 父ちゃんはもう、靴トントンたたいてはる」誠治「何、しようもない歌、歌っとんねん。美佐子「 : : : 結婚、してくれるんとちゃう 俊明「靴トントンたたいてはる」 わざわざそんな歌、子供の前で歌わんでも ええやろ」 田之倉、コンドームをつける 〇 同台所 美恵子「たかが歌くらいで、そんなに怒らん美佐子「こうしてる間にも、どんどん卵子減っ 俊明の父・誠治 ( ) が作業服姿で、ビー でもええやん」 ていってまう」 ルを飲んでいる 言い合う両親を見て、俊明がグズりだす。 田之倉、美佐子に覆いかぶさる 続きの居間のテレビでニュースが流れて美恵子「あ 5 ごめんごめん」 美佐子「嫌ゃ。コンド 1 ムつけるんやったら、囲 いる せえへん」 誠治「 ( 不機嫌そうに ) 風呂や」 キャスタ 1 「連続四人射殺事件の被告、永山 誠治、部屋を出ていく。 美佐子、顔を背ける。 則夫の第一次上告審判決で、最高裁が一一審 田之倉、コンドームを外し、ゴミ箱へ向 の無期懲役を棄却しました」 大阪田之倉のマンション三 0 一三年 ) かって投げる 裸の俊明がテレビを横切るように入って 床の上に落ちるコンドーム。 べッドの中で、田之倉俊明 ( ) と美佐 くる 子 ( 芻 ) が向かい合った姿勢で舌を絡め 田之倉、美佐子の中へ挿入する。 美恵子、バスタオルを片手に追いかけて あっている 腰を動かす田之倉。 きて、誠治に気づく。 布団の中でお互いの下半身をまさぐって美佐子「キスして」 いる 美恵子「お帰り。遅かったね」 田之倉、美佐子にロづける。 誠治「内職の奴が飛んでもてな」 カーテンの隙間から、朝日が差す。 田之倉の腰の動きが速くなる 美恵子「この子にパジャマ着したら、すぐご 美佐子が唇を離す。 美佐子、田之倉の首に腕を絡める。 飯するから」 美佐子「来て」 田之倉、美佐子から身体を離そうとする 美恵子、俊明の髪を拭く。 田之倉、サイドテープルからコンドーム 美佐子、絡めた腕を離さない。 〇

3. シナリオ 2016年5月号

永吉「・ ・うん、そうじゃね」 永吉、握手を求める。 永吉、砂を握る 治、わけもわからず。矢沢が治の手を取 治「したらよ、おまえ、東京行けや」 り、握手する 永吉「は ? 永吉「吹奏楽の演奏、聴かせてもらいました」 治「東京行って、ビッグになって帰ってこ治「・ ・お、お恥ずかしい」 永吉「グレイト」 永吉「・ ・うん、ビッグになって帰ってく治「・ るわ」 永吉「じゃあ、私、ライプがあるんで、これで」 治「そしたら、宴会開いてやるけえ、島の そそくさと帰ろうとする永吉を、引き留 田村家・仏間 みんな集めてからのお、大宴会よ」 める治。 竹原と千葉が、治のバイタルチェックを 永吉「うん、そうじゃね」 している。 治「ま、ま、待って」 治「だってのお、そういう名前にしたんじゃ永吉「 ? 」 永吉、春子、由佳が見守っている。 けえ」 治「な、な・・行年、に・・武道館ー 治、由佳の腹を、じっと見ている 永吉「うん、そうじゃね」 永吉「 ? 」 竹原「なんか、由佳ちゃん見よるのお」 天むすをがつつく、永吉の背中が、小刻治「・・目が、合いましたよね」 由佳「 ( お腹を指さし ) 初孫ですよ」 みに揺れている 永吉「・ 矢沢永吉が、はっきりと頷く。 治の目が涙でにじむ。鼻をすする 同・仏間 ( 夜 ) 治、顔をしわくちゃにして、泣き出した。春子「あー、また泣いてしもうた」 眠っている治、何者かに小突かれ、ふと 永吉、びつくりして、逃げ出す。 笑う一同に、子供のようにあやされる治。 目を覚ます。 何事かと、春子が起きてくる。 治「・ ・でかしたのお、永吉」 目の前に、矢沢永吉 ( 永吉 ) がいる 階段をドタドタ降りてきて、 といって、千葉の肩を叩く。 春子「お父さん、どしたんー 千葉「うんうん」 永吉「矢沢です」 治、ひたすら泣いている ・式は ? 治「・ 慌てる春子、由佳まで起きてくる。 そ、ついえばと皆、永吉と由佳を見る 永吉「矢沢です」 春子「ちょっと、由佳ちゃん、あったかいタ永吉「あ、いや・・・金ないし」 治、びつくりしすぎて言葉が出ない ォルかなんか」 治が、千葉の手を握り、 永吉「矢沢、会いにきましたよ」 由佳「どしたん ! どしたん ! 」 治「・ ・見たいのお , 春子「もう、わからんよ、何んなんこれ ! 」 治、ひたすら泣いている 同・庭 ( 夜 ) 物陰から、騒動を覗いている永吉。 戻れない・ 122 ー -

4. シナリオ 2016年5月号

見ている二人 鰺は、たたきと化している。 浩二「なんか、いい治療法が見つかるかもし 永吉「えさ ? 」 れんし、違う結果になることだって、ある 由佳「は ? かもしれんじゃん」 春子「ええじゃないね、せつかく由佳ちゃん、 春子「せめて、通える所の方がええんじゃな 作ってくれたんじやけえ」 いん ? 」 浩二「うん、食べよ」 いただきますして、食べ始める永吉、春浩一一「兄ちゃんは、どう思う ? 永吉「・ 子、由佳、浩二。 永吉、由佳を一瞥し、いつになく真剣な 浩一一「うん」 顔つきで、 春子「うん」 永吉「・・・俺は・・俺なりに、色々考えた うんしか言わない二人。 んじやけど・ ・やつばなんだかんだあっ 由佳、自分も食べてみるが、微妙 て、なんだかんだ、浩二の言う通りじゃと 浩二、タブレットを取り出し、 思う」 浩一一「あのさ、こんな時になんじやけど」 「頼れる病院ランキング」的なページを春子「・ 由佳「・ 開き、春子たちに見せる 浩二「 春子「なんね ? 」 なんか変な空気になる。 浩一一「肺がんの権威なんと」 春子「食べよ」 先生の顔写真と、綺麗な外観写真。 浩二「うん、なんかごめん」 春子「えらい、若いんじゃね」 由佳が白々しい顔で永吉を見る 永吉と由佳が、横から覗き込む。 帰浩二「俺も、よおわかんのんじやけどさ、も永吉「・ 、つ一回、こういう先生に診てもらうべきな 郷 故 んじゃないん ? 」 ン ヒ春子「え、関西まで出るん ? 」 モ 浩一一「今時、おかしくないじやろ」 春子、タブレットを永吉たちに渡す。 病院・屋上 誰もいない屋上の窓が開く 点滴を持った治が、乗り越えてくる その真向いに見える、中学校の屋上。 プラバン部員たちが、楽器のチューニン グしている 治、ラジオのアンテナで、指揮をはじめる。 中学校・屋上 部員たち、演奏をはじめる 曲は「アイ・ラヴ・ユー ' 隣り合う学校と病院 屋上の演奏に、何事かと、患者や生徒た ちが、窓から顔を出す。 とび 戸鼻島の情景 演奏が聴こえている 漁港で働く漁師たち。 軒先で手仕事をするお婆ちゃんたち。 配達途中の、バイクの郵便局員。 任天堂で遊ぶ、子供たち。 黄昏れるお爺ちゃんたちと釣り人 皆、なんとなく聴いている 中学校と病院・屋上 演奏が終わると、治、ゆっくりと目を開 ける。 治「野呂 ! 」 大声を出し、咳き込む治。 3 109 ・一

5. シナリオ 2016年5月号

じゃん、でもアレ、ただの雑草だからね」 しよ、つかと」 治「なんか、あんま美味うなくてのお」 春子が治を見る 春子「・ それきり会話は続かない 治、永吉をじっと見ている。 そこへ、春子が何やらお盆に乗せて持っ治「・ 、ンドは ? 」 永吉「まあなんていうか、その・・要するに、治「お前 てくる 永吉「ああ」 お茶と、夏蜜柑の砂糖漬けが、皿に盛ら子供が」 永吉、バッグから何やらを取り出す。 春子・治「え ! 」 れている。 永吉「これ、お土産、ニューアルバム」 永吉「できたとか・・できないとか」 春子「今、こんなのしかないけど」 渡された治、をじっと見ている 春子「どっちね ! 」 治、永吉、早速食べる。 「断末魔』というバンドらしい 永吉「できた、できた、できました」 春子「砂糖で漬けてんの、食べてみて」 死神がたくさんの小動物たちを、血みど ヘラへラ笑う永吉を、情けないような顔 由佳「あ、はい」 ろにしているジャケット。 で見ている由佳。 春子「たまに、種あるから」 治「 : ・儲かるんか ? 」 春子、心配そうに、治を窺う。 由佳、食べる。 永吉「あ、儲かるとかでやってないから」 春子「お父さん ? 永吉「なんで、浩二がおるん ? 治「・・・じゃ、お前、どうやって食べよ 2 春子「知らんよーね、あの子、何かあると、すー治「・ んなあ」 治、黙々と、蜜柑を食べはじめる。 ぐ帰ってくるんじやけえ」 永吉、困ったように、由佳を見る 治「おまえ、今、東京で何しょんなら」 お茶を出すと、春子も座る 由佳、小さく手を挙げる。 永吉「あ ? 春子「で ? 由佳「あ、主に私が」 治「仕事は」 永吉「え」 治、イラっときて、夏蜜柑の種を永吉の 永吉「ああ、まあ、ポチボチやってるよ」 春子「ほら」 顔に飛ばした。 治「ポチボチ、何しょんなら」 永吉「は ? 」 永吉「・ : まあ、栽培とか」 春子「は ? じゃのーて」 由佳が、驚きのあまり、固まる。 ・え、何 ? いやじゃ、怖い 春子「・ 帰永吉「・・・ああ」 永吉「あー違う、パクチー、合法」 永吉、改まって、座り直す。 郷 故 永吉、蜜柑の種を探す。 春子「は ? 」 由佳も、座りなおす。 ン ない。もう果肉ごと、治に投げた。 ・このたびは、あ、いや」 永吉「ああいや、パクチーって、実際儲かる ヒ永吉「・ モ ーとかだ カッとなった治、永吉をビンタしようと と思うんだよね、だって、スー 由佳「・ とこんなちょっとで、 2 0 0 円とかすん するが、永吉がかわす。 ・このたびは、その・・結婚を 永吉「えー・ 永吉「 ! 」 永吉「・

6. シナリオ 2016年5月号

〇 忠義「言ってみろ ! 」 田之倉が、ソフアで煙草を吸っている 田之倉「行こか」 政美「あなたっー 洗面所から身支度を整えた聖子が出てく 田之倉、先に部屋を出ていく。 る。 瑞穂「 : : : 脱毛、視力低下、呼吸麻痺 : : : 」 聖子「・ : 忠義「お前のクラスの松本君と、同じ症状じゃ聖子「お待たせ」 ないか」 田之倉「ちょっと気になることがあるんやけ〇 空き地 ( 深夜 ) ど 車に乗っている田之倉と聖子。 忠義「どうなんだ ! 」 聖子「何 ? 聖子「ここで、いいわ 瑞穂「 : : : 私、受験勉強があるから」 田之倉「舞ちゃんの事やねんけど 田之倉「仮設の前まで、行くわ」 忠義、荷物を抱えて部屋を出ようとする 聖子、表情が曇る 聖子「いいの」 瑞穂に向かって、 聖子「 : ・ : 心配しなくても、父親になってな田之倉「・ : ・ : 」 忠義「警察に行く んて言わないから」 田之倉、車を停める 瑞穂「どうして ? 田之倉「 ( 苦笑して ) そうじゃなくて、あの 聖子が降りる ひとがた 忠義「お前の事を相談しに行くんだ」 鞄についてた人形の : : : アップリケ ? 」 空き地へ足を踏み入れる聖子。 瑞穂「別こ、 ( いいけど」 聖子「あれが、どうかしたの ? 」 辺りを見渡して、足を止める 忠義「いいのか」 田之倉「埋めてた」 木で作った幾つもの小さな十字架が地面一 政美「そんな、警察だなんて、あなた、何、言っ聖子「埋めてた ? 」 に刺さっている 田之倉「こないだ、来る途中の空き地で見か聖子「 : ・ 瑞穂「私、家、出るよ。東京の大学へ行く けたんや。聖子の子供やって知らすに : 少し離れたところに田之倉の車が停まっ お金、出してくれるよね」 ている 人形、土に埋めてて : : : 」 政美「そうよ、それがいいわよ環境を変え聖子「 : : : 」 れば、ねえ」 田之倉「十字架がいつばい、あった」 聖子の仮設 ( 朝 ) 忠義「待て、瑞穂。話はまだ : : : 」 背中を向けて靴を履く聖子。 狭い台所で朝食の支度をする聖子。 瑞穂を追いかけようとする忠義を、政美 立ち上がった聖子を背後から抱き寄せ、 電子レンジやトースターは床に置かれて が押しとどめる。 いる 髪に顔を埋める 瑞穂、部屋を出る。 聖子「どうしたの ? 」 中学の制服を着た舞がやってくる 田之倉、ゆっくりと聖子から離れると靴舞「どうしたの、お母さん。めずらしい」 石巻ラプホテル を履く。 聖子「いつもまかせつきりで悪いから、たま 〇

7. シナリオ 2016年5月号

病院・病室 ( タ ) 一一人、煙草を吸いながら、中学校を眺め永吉「おい、どした ? 」 ている 治、咳が止まらない。悶え苦しむように、 放心状態で座っている治。 その場に倒れ込む 隣で野呂、サメの軟骨を食べている 治「お前がおった頃、吹奏楽部、何人じゃっ 慌てた永吉、煙草をもみ消し、 治「のお、野呂よ」 た ? 」 永吉「おい、どした ! 何があった ! 」 野呂「はい」 永吉「あー、人くらい ? 」 治、苦しそうに、悶えている 治「おまえ、吹奏楽、好きか ? 」 治「ほうか」 野呂「・ 永吉「何があった」 永吉「まだ矢沢やりよるんじゃの」 永吉、助けを求 0 、治を置き去り」し治「あ〈ま」好きじ ~ な〔じ ~ 」 治「まあ、ワシにや、楽しみが、これくら 走っていく 野呂、コクリと頷く いしかねーけえーのお 治「じゃあ、なんでやっとるんや」 永吉「俺、中学ん時、吹奏楽部って、みんな 野呂「お父さんが、やれって言うけえ」 矢沢やりよるんかと思っとった」 車内 ( タ ) 何食わぬ顔で運転している永吉。 治「・・・ほうか、それは困っちゃうのお」 治「おまえさー、もう、東京帰れや」 後部座席の春子、怒りがこみ上げ、運転 いつもと違う治を、野呂が不思議そうに 永吉「あ ? 」 見ている している永吉の頭を、狂ったようにハタ 治「いちいち、付き合、つことないんじゃ きだす。 治「 : ・野呂よ」 けえーのお」 春子「あんた、ホンマのバカなん ! 」 野呂「はい 永吉「・ 浩二が、春子を止める 治「おまえ、これから、ちよくちよく遊び 治「ちゃんと働け」 ・わかっとるよ」 浩二「危ないって ! 」 永吉「・ 野呂、コクリと頷いた 治「由佳さんだって、仕事あんじやろー春子「二年も禁煙しとったんよ ! 」 由佳が、思わす笑う。 が ? 」 春子「何がおかしい ! 」 永吉「ああ、あいっ仕事辞めた」 田村家・永吉の部屋 ( 夜 ) 帰治「ほうか、何しよったんや ? 」 由佳「あ、すいません」 永吉、何やら押し入れを漁っている 永吉、何も言えず、運転している 中から、埃を被った箱を取り出してくる。 永吉「なんか、ネイルの 故 マジックで子供の文字『田村永吉』。 開けると、中に古いトランペット。 ヒ永吉「爪のや ? 校庭 ( タ ) モ 全速力で走ってくる野呂が見える 永吉、取りだしてみる。だいぶ錆びつい 治、急にむせだす。咳き込む。 ている 永吉、どうしたものか

8. シナリオ 2016年5月号

祐輔の手の平に乗せる 祐輔「お前ら、母娘そろって頭おかしいぞ ! 」 のか」 金をポケットに入れると踵を返す祐輔 舞「ほんとはお金なんて欲しくないくせに」 舞「帰ったよ」 祐輔の後ろ姿を見ている聖子。 祐輔「帰った ? 」 ポンっと花火が打ち上げられる音がする 舞、起き上がって、再び消しゴムで落書 舞「大阪。元々一年の予定だったから」 客たちは空を見ながら歓声を上げている。 きを消し始める。 祐輔「何だ、捨てられたのかよ」 祐輔、黙ってそれを見ている 祐輔、舞の机の落書きを指でなぞる。 花火会場内海橋 「アンタが死ねばよかったのに ! 」の文字。 人が行きかう橋の上で祐輔が立っている 石巻川開き祭り ( タ ) 舞「 : : : 妹さんの代わりに私が死ねばよ〇 背後では花火が次から次へと打ち上げら 花火見物へ訪れる人々が旧北上川にかか かったね」 れている る内海橋を続々と渡っていく 祐輔「ああ ? 」 中瀬 ( 中洲 ) には石ノ森萬画館も見える。子供の声「お兄ちゃん、綿菓子欲しい ! 」 舞「殺していいよ」 声がする方を振り向くと、小学校高学年 祐輔「何言ってんだよ」 ビアホール 舞、開いている窓を指して、 と思われる兄と低学年の妹が、橋の真ん一 ・ヒールジョッキを両手に持って、店の中 中で立ち尽くしている 舞「あそこから突き落せばいいよ。それか 兄「お金ないから無理」 を行きかう聖子。 カッターで首切る ? 私持ってるよ」 妹「嫌だ ! 買って ! 」 同僚に呼び止められる 舞、カッターをポケットから取り出して 兄「ほら、行くぞ」 同僚「相澤さん、息子さんが来てるけど」 祐輔に手渡す。 妹「買ってくれないと、行かない」 舞「殺していいよ。殺しなよ。そもそも私聖子「息子 ? 指された方を見ると、祐輔が隅に立って兄「じゃあすっとそこにいろ」 が生き残ってることがおかしいんだから」 いる 置いていかれた妹が声を上げて泣き出す。 祐輔「何だ、お前・ : ケ 兄が妹の手を取り、無理やり連れていこ 祐輔は手の平を出す。 舞、祐輔に迫る。 、つとするが、妹は動こ、つとしない 舞「殺してよ。そしたらウチのお母さんも、聖子「どうしてここが」 の 祐輔「あのお巡りさん、帰っちゃったんだっ妹「嫌だあ ! お母さん ! お母さあんー ここで胸張って生きていけるし」 プ ッ 兄「お母さんはもういないだろ ! 」 祐輔「やめろよっ , 妹「じゃあ、お父さん ! 」 ュ 祐輔、舞を突き飛ばす。 チ 祐輔、催促するように手を前に突き出す。兄「いない ! 」 突き飛ばされた舞の体が後ろの机にガタ 妹、ワーン ! と泣きわめく。 聖子、財布から一万円札を取り出して、 ガタとぶつかる 〇 〇

9. シナリオ 2016年5月号

河野「差し入れやって」 袋の中には菓子バンが入っている 田之倉、チョココロネを取る 堀内、メロンパンを手に、 堀内「 : : : 田之倉さん、パン交換してもらえ ませんか」 田之倉「は ? 堀内「自分、チョココロネ、大好きなんですわ」 田之倉「別に、ええけど 田之倉、チョココロネを差し出す。 堀内「わー、ありがとうございます」 田之倉「ええ年して」 堀内「子供の時、人に貰ってから、好きで好 きで : : いただきます」 田之倉「施設におった時か ? 」 堀内、答えすにチョココロネにかぶりつ 口元がチョコで汚れる 田之倉、堀内を見ている。 石巻駅前バス乗り場 仙台行きのバスが停まっている ポストンバッグを持った朱里と朱里の父 が立っている 朱里の父「一人で大丈夫か ? 朱里「うん。関空まで迎えに来てくれるから」 朱里の父「仙台まで一緒に行くよ」 〇 、って。余計に寂しくなるじゃない 朱里「いし ちらにサインと、あとこちらが領収書ー 朱里の父「だけど、お前 : : : 」 書類にサインし、領収書を受け取る朱里。 朱里「お正月には帰ってくるから。ねっー 朱里「ありがとう ) 」ざいました」 朱里、バスに乗り込む 堀内と朱里、引っ越し業者を見送る。 窓越しに手を振る朱里。 朱里「手伝ってくれて、ありがとう」 バスが発車する。 堀内「当たり前やん」 朱里の父、バスを見つめている。 朱里、背伸びして、堀内の頬にキスする 堀内、そのまま朱里を自分の方へ引き寄 関西空港到着ロ せて口づける。 堀内が待っている 朱里にロづけたまま、抱きかかえて立ち 朱里が到着口から出てくる 上がる堀内 笑顔で駆け寄る朱里。 朱里「キャ 5 」 朱里、愉快そうな悲鳴を上げる。 大阪市東住吉区長居公園 堀内、そのまま朱里をまだシーツのか 朱里を助手席に乗せて、車を運転する堀 かっていないべッドへ横たえる 内。 見つめ合う一一人。 朱里「ねえ、ここって何 ? 朱里「すつごく、幸せ」 堀内「長居公園。植物園とか、サッカーもやっ 堀内、何も言わす、朱里の額を指でなぞっ ている てるわ」 朱里「へえ 5 」 携帯の着信音が鳴る。 堀内「家、近いから、散歩に来たらええやん」 朱里から離れる堀内 朱里「うん ! 」 堀内「はい、もしもし : : : わかった。すぐ行 〇 朱里のマンション 堀内、電話を切ると朱里を見て、 の部屋に引っ越し業者が荷物を運堀内「ごめん、仕事や」 び入れている 朱里、べッドの上に座って微笑む 引っ越し業者「お荷物これで全部ですね。こ朱里「いってらっしゃい 〇 〇

10. シナリオ 2016年5月号

宅配業者が小さなダンポールの荷物を ソと話している 田之倉「何でそんなこと : : : 」 持って立っている。 田之倉が振り返ると話すのをやめる 少女、顔を上げ、田之倉を見ると、ニコッ 宅配便の受け取りのハンコを押す政美。 と笑って。 宛先は瑞穂になっている。 同居間 舞「お墓っー こたつの上にすき焼きの用意が出来てい 田之倉「お墓 : ・ る。 〇同リビング 少女、立ち上がると、仮設住宅の方へ走 政美が荷物を手に入って来る 田之倉「おいしそうやな」 り去っていく リピングでは瑞穂の父、忠義 ( 礙 ) がソ 少女がいなくなった後を見ると、マス聖子「食べてから言って」 フアに座って新聞を読んでいる 部屋の隅に学生鞄と補助バッグが置いて コットを埋めたところに木で作った十字 ある 忠義「何だ、その荷物」 架が刺してある ーリップのアップリ 政美「さあ。瑞穂宛てですって」 補助バッグにはチュ 同じような十字架が他にも何本もある 忠義、政美から荷物を奪うと開ける。 ケと、空き地で見たのとよく似たフェル 政美「あなたっ」 トのマスコットがついている 仮設住宅 緩衝材の中から薬液の入った瓶 ( 水酸化 聖子が缶ビールを持ってくる 夕刻で帰宅する人や、近所の人同士で立 ナトリウムや硫酸銅、硫酸ナトリウム ) 田之倉「それ、手作りか ? 上手やなあ」 ち話している人など、人通りが多い と粉末の硫酸タリウムが出てくる。 聖子の仮設の部屋を見つけ、ノックする聖子「この子、アップリケが好きなの。あん 驚きで声が出ない政美。 なにたくさんつけちゃって、子供みたいで 田之倉。 薬品を凝視する忠義 しよ、つ」 舞の声「はーい ドアが開き、先ほどの少女が顔を覗かせ田之倉「あれがアップリケ言うんか : : : 」 瑞穂と忠義、政美がソフアに向かい合っ る。 聖子「さつ、はじめましようか」 ケ て座っている。 聖子、鍋に牛脂をひく 田之倉「あれ : : : 」 プ ローテープルの上には先ほどの薬品が置 舞、卵の殻を持って台所へ立つ。 舞「あ : ・ ア の かれている 田之倉、舞の後ろ姿を見ている 立ち尽くす田之倉と舞。 ッ 瑞穂「実験してみたかっただけだよ」 聖子が手を拭きながらやってくる。 忠義、粉末の硫酸タリウムの瓶を掴んで。 山際家玄関 ュ聖子「どうしたの ? 」 チ インターホンが鳴る 忠義「タリウム中毒の特徴、言ってみろ」 田之倉「田之倉です。お邪魔します , 瑞穂の母、政美 ( 浦 ) がドアを開ける。瑞穂「 : : : 」 やり取りを見ていた近所の人が、ヒソヒ 〇 〇 〇