舞 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年5月号
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1. シナリオ 2016年5月号

チューリップのアップリケ 堀内「何でって、放っとかれへんやん。未曾直美「片付いてなくて、ごめん。こんなに早 : このままで」 美佐子「アカン : く来ると思わんかったから」 有の大震災やで。ずっと希望出してて、やっ 美佐子、田之倉の身体にしがみつく。 堀内、背後から直美の胸をまさぐる と出向できることになってんやん」 田之倉、咄嗟に美佐子の頬を叩く。 江梨香「私のこと、置いてまで行くとこなん」直美「いきなり ? 美佐子、手を離す。 堀内「しばらく出来んようになるから、行く 堀内「じゃあ一緒に行くか ? 」 田之倉、美佐子から身体を離す。 前にたくさんしよ」 江梨香「・ : ・ : 」 美佐子の太腿に精子がかかる 直美「アホ」 田之倉、息を整えながらティッシュで自堀内「たった一年やん」 堀内、直美をベッドに押し倒す。 分の性器と、美佐子の太腿についた精子江梨香「もうええ。婚約解消する」 江梨香、椅子に掛けていたコートを手に を拭き取ると、背中を向けて寝る 仙台 x x 高校、教室 立ち上がると出口へ向かって歩いていく。 美佐子、身体を起き上がらせる。 女子生徒たちに混じって、瑞穂が着替え 堀内「おい、江梨香」 美佐子「アホ」 ている 堀内、お義理程度に腰を浮かせるが、す 美佐子、田之倉を叩く。 に椅子に座る 男子生徒が廊下を通り過ぎ様、ふざけて一 美佐子「アホ、アホ、アホ」 ドアを開けて顔を覗かせる 二人分のパスタを運んできたウェイター 叩いていた手をカなく下ろす美佐子。 女子生徒たちが悲鳴を上げる。 の横を通り過ぎる江梨香。 美佐子「 : : : もう、待ちくたびれたわ」 ドししウェイター「あの、カルポナーラのお客様は女子生徒 1 「コラーっ、松本の変態っー 横たわったままの田之倉、目を用、て、 女子生徒 2 「アイツ、最低だよね」 る。 瑞穂、隣の席を見る。机に掛けられた鞄 堀内「両方食べるから置いといて」 からスポーッドリンクのペットボトルが 堀内、パスタを食べながら電話をする。 〇カフェレストラン のぞいている 自然光がふんだんに差し込む明るく開放堀内「もしもし ? 用事終わったから、もう チャイムが鳴る音に生徒たちは急いで教 ちょっとしたら行くわ」 的な店内はカップルや女性客で賑わって 室を出る。 いる 教室に一人残った瑞穂、粉末の硫酸タリ 今井直美のマンション室内 その中に堀内慎吾 ( ) と前島江梨香〇 ウムをベットボトルに入れ、振ってから 単身者向けのワンルームマンション。 ( 幻 ) がいる 元に戻しておく。 ポールハンガーにはクリーニングのビ 江梨香、険しい顔。 ニール袋に入ったままの派手な服。 江梨香「何でなん。何でわざわざそんなとこ 男子生徒 ( 松本 ) が戻ってくる。 カーテンレールにも服が掛かっている に行くん」 〇

2. シナリオ 2016年5月号

ーリップのアップリケ、ついた を取り出す。 〇神戸市長田区田之倉の家風呂場俊明「八チュ ( 一九八三年 ) スカート持って来て、お父ちゃんも時々、美佐子「それ、無しで」 幼稚園児くらいの子供 ( 田之倉俊明 ) が買うてくれはるけど」 田之倉「危ない日やろ」 母・美恵子 ( ) と一緒に湯船に入って誠治「どこでそんな歌、覚えてきたんや ! 」美佐子「私、もう三十三やで」 いる 俊明、父を見る 田之倉、コンドームの袋を破る。 美恵子、歌を口すさんでいる 美恵子「ごめんごめん。私が歌っとったから、美佐子「早すぎることないと思うねん、妊活」 美恵子「八うちがなんば早よ、起きても、お 田之倉、俯く。 それで : : : 」 父ちゃんはもう、靴トントンたたいてはる」誠治「何、しようもない歌、歌っとんねん。美佐子「 : : : 結婚、してくれるんとちゃう 俊明「靴トントンたたいてはる」 わざわざそんな歌、子供の前で歌わんでも ええやろ」 田之倉、コンドームをつける 〇 同台所 美恵子「たかが歌くらいで、そんなに怒らん美佐子「こうしてる間にも、どんどん卵子減っ 俊明の父・誠治 ( ) が作業服姿で、ビー でもええやん」 ていってまう」 ルを飲んでいる 言い合う両親を見て、俊明がグズりだす。 田之倉、美佐子に覆いかぶさる 続きの居間のテレビでニュースが流れて美恵子「あ 5 ごめんごめん」 美佐子「嫌ゃ。コンド 1 ムつけるんやったら、囲 いる せえへん」 誠治「 ( 不機嫌そうに ) 風呂や」 キャスタ 1 「連続四人射殺事件の被告、永山 誠治、部屋を出ていく。 美佐子、顔を背ける。 則夫の第一次上告審判決で、最高裁が一一審 田之倉、コンドームを外し、ゴミ箱へ向 の無期懲役を棄却しました」 大阪田之倉のマンション三 0 一三年 ) かって投げる 裸の俊明がテレビを横切るように入って 床の上に落ちるコンドーム。 べッドの中で、田之倉俊明 ( ) と美佐 くる 子 ( 芻 ) が向かい合った姿勢で舌を絡め 田之倉、美佐子の中へ挿入する。 美恵子、バスタオルを片手に追いかけて あっている 腰を動かす田之倉。 きて、誠治に気づく。 布団の中でお互いの下半身をまさぐって美佐子「キスして」 いる 美恵子「お帰り。遅かったね」 田之倉、美佐子にロづける。 誠治「内職の奴が飛んでもてな」 カーテンの隙間から、朝日が差す。 田之倉の腰の動きが速くなる 美恵子「この子にパジャマ着したら、すぐご 美佐子が唇を離す。 美佐子、田之倉の首に腕を絡める。 飯するから」 美佐子「来て」 田之倉、美佐子から身体を離そうとする 美恵子、俊明の髪を拭く。 田之倉、サイドテープルからコンドーム 美佐子、絡めた腕を離さない。 〇

3. シナリオ 2016年5月号

一人は親を殺した。この二人で押せばよかった。— co に殺される いく感じがあれば、魅力的な作品になったはずだ。別れた夫と、絣 ジャーナリストは余計だし、タリウム少女も活きていないタリウ の師匠との三角関係にするとか、危うさのようなものがほしい。 久 ム少女は取調室で田之倉に向き合わせるべきだ。そこで田之倉が人留米の自然や方言が生かされていて、作者の愛着がうかがえる を殺すということについて、僕なら考えさせたい。ラストの面会室 『わるくち』書ける人だと思う。セリフ、人物造型ともにセンスを も、もの足りない℃田之倉さん、僕の命の恩人ですやん。このセリ 感じる。しかし、選考会では僕は推さなかった。ラストに至る流れ フのあと、二人の男を正面から向き合わせてほしかった。「天国と で谷川俊太郎の絵本の言葉に頼りすぎていると思ったからだ。今後 地獄』の面会室を想起して。 に期待する 「折り花』匿名の精子から生まれた男の話。父親が誰かを、そこま 『折り花』をのぞく右の四本には、これを書きたいのだという作者 で引きずるものなのか。僕にはわからないのだが、うまく読まされ の思いのようなものを感じた。そういう作品に接することができて た。筆力があるのだろう。育ての親との関係が良好ではないから血 よかった。今年はレベルが高いといえるのではないか最終選考に のつながりのことから抜け出せないのだろうから、そこを考えるの残った皆さん、もっと良いものを書いてください。日本の映画の明 が大事ではないのだろうか伊藤の両親の話が弱いし、銀座のママ 日を自分が切り開いていくのだとの気概を持って書いてください とのラストには首を傾げた。達者な人だと思うが、素材をうまく料切に願います。 理したという感じで終わっていて、作者の顔というか、強いものを 感じさせてほしかった。 「海へ還る道』子連れの男と結婚したあとに男が死に、自閉症の子 をかかえた若い母親が、その子を受けいれる気持ちになるまでの話。 起伏の少ない淡い話だが、なせかひきつけられた。簡潔なト書きで、 読んでいると不思議な温もりに包まれる。好きな作品だ。しかし、 ラストの二度目の行方不明は苦しい。そういう事件がなくても、子 どもと二人で川を下っていくテはなかったのかまた、亡くなった 夫が元気だったときの親子三人の生活も回想ではなく前半にほしい と思った。 『藍の記憶』子供をなくして絣を捨てた女が育児放棄の母とその息 子との交流を通して絣の織り手として認められるまでの話。子ども をいとおしく思う一方で邪魔だと感じる母親のジレンマを見つめて いる。よくまとまっているが、主人公の女が窮屈なままで、弾けて 8

4. シナリオ 2016年5月号

『海へ還る道』 ( 藤原真悠 ) と、父親がきちんと描けていないからだ。惜しい。 登場人物全員が類型的。主人公が、常に自分の前から去っていく 相手の背を見つめているという主体性のなさで、作者の視点が見え 「藍の記憶」 ( 皆川裕美子 ) ない。表題の海と、ラストの川から海への展開も不可解 個人的には好きな世界だが、今回、親子を扱った作品が多数を占 めたので損をしたと思う。「職人が、作家を目指すから悲劇なんで 「ローカルヒーロー』 ( 荒木智史 ) すよ」ってセリフ、まったく同感。 アタマから四まで、要らないのではないかチンピラだったと いう前歴を敢えて隠してドラマに入り、主人公を、脇の人物たちと 「父子泥棒」 ( 神武早智子 ) 主人公側より、こどもに万引きや盗みをさせる病んだ母親側の方同じ視点で客にも不可解な人物として描いた方がよかったと思う。 どこで刺青を見せるか、やくざ映画の脚本家はそこにかなりの力点 が面白い。田村孟大島渚の「少年』のような角度でえぐり出せば、 を置いたものなのです。やくざがあまりにもパターンすぎるのが致 それなりの作品になったのではないか。「日本名作シナリオ選』で 命傷。 読んでくださいね。 形はそれぞれ異なるが、どの作品も「親と子」が重要な要素を占 「わるくち」 ( 初見弘貴 ) 脇の人間たちが生き生きしている。だが、おもろいキャラの元恋めているのが本年度の特徴だった。 老婆心ながら、早く親離れしないと、プロにはなれませんよ 人が途中でいなくなってしまうのが不満だし、切り裂き魔の描写が 中途半端。セリフはハネているし、きちんと地名を記しているのも 良い。人物の履歴書とともに、暮らしている場所の風景論はドラマ に必要不可欠なのである。何を食べ、何を飲んでいるのかもね 「カシオペア」 ( 岩楯祐実樹 ) グランドホテル形式とか密室の列車内とか、難しい舞台設定に挑 戦した意欲は買うが空回りしていて、人物も場所も有機的に活かせ ていない。事件を平和的に解決してしまっているけれど、それまで の鬱憤が犯人へのリンチに向かうとかの暴力性が必要。大江健三郎 の「人間の羊」を読むことをお勧めします。 日本映画の将来を支えてほしい 丸内敏治 「チューリップのアップリケ」書ける人だと思う。東北の震災に 派遣されて出会う二人の警官の話がいい。俺、被災地が好きゃね ん。絆、感じるやん。神戸の震災で一人は親を見殺しにしようとし、

5. シナリオ 2016年5月号

『わるくち』を推したのも、「ローカルヒーロー』と同質の理由か らであるが、こちらの方が完成度も高く、これからの期待値も高い いい描き手になるんじゃないかと思、つ 『藍の記憶』は非常に真面目な作品で好感は持てたが、既視感があ る分、他の作品に埋もれてしまった。「父子泥棒』は設定は面白い のだが、 展開がますかった。『海へ還る道』は、話が展開していな かった。 確かに、佳作が一本だけだった去年と比べれば、今年は豊作だっ たと思う受賞されたみなさんは受賞に満足せず、この先、突き進 んで欲しいと思う。お決まりの〆の言葉ではなく、本当に。、いから 脚本家の底上げがこれまで以上に必要だと痛感している今日この頃 なのです。 『「善意」と「親切」でことに当たれば何でも解決出来るという登場 人物の生き方の幼稚さが、全作品に漂っている : : : 今回の作者は、 いずれも、恥辱にまみれた生き方をしていないように思う」 いやはや、平和で潔癖な世の中なんだなア。 同情するなら金をくれ ヤク 薬が効かないのなら毒をくれ 最終審査で僕が〇を付けたのは、一作だけだった。 身の毛がよだつほど、毒々しかったからだ。 その名は「チュ ーリップのアップリケ』 ( 五藤さや香 ) 喧伝されている「絆」という標語そのものが、現代の病巣ではな いのか ひたすら北へ向かう人たちの大半は、そこに居住し続けなければ ならない人たちを思いやる姿を装って、実は自分自身を「癒して」燔 いるだけではないのか 被災地で「自分探し」なんかするなよな 昨年の佳作『影踏み』も神戸と東日本の大震災を通底する人間の 心を基軸にしていたが、本作のサッカン二人は秀逸である 投石したり火炎瓶投げる僕たちを、サッカンⅱ機動隊は「てめえ ら、学生のくせに ! 」と叫んで私怨でボコボコにした。サッカンな 一昨年が受賞作・佳作ともになく、昨年が佳作のみという流れだ んて元来、そんなものなのだ。なにが「安全な社会を」だ。安全神 けを見るならば、受賞作が一一本も出た今年度は『豊作』と言えるの話は五年前に完全に崩壊したんじゃなかったのか にろ、つ その他の作品 確かに『シナリオ術』は年々上達しているが、一次審査から読む とほとんどの作品が「人間の善意」を描いたもので、どうにもスカ 『折り花』 ( 近藤希実 ) スカ感が否めない。 入りは秀逸だし、テーマは非情に現代的だが、後半、主人公の心 のプレがそのまま脚本のプレになってしまっているなぜかと言う 第回の選評で、僕はこう書いた 栄光は悪魔の毒々モンスター 佐伯俊道

6. シナリオ 2016年5月号

書けるが、それ以外はどうなんだ ? 」と懸念の声があがったが、実 りで、でも愛すべきキャラクターになっている。サプキャラクター の更にダメダメな感じも作者の計算なのか、ツボにはまってしまっ際、受賞した人たちがプロになったという話は聞かない。 ーリップのアップリケ』の五藤さんと『折り花』の近藤さん た。最後、主人公二人がわるくちを言い合うシーン、好きです。た は「プロでも通用する」と評価する声があがった。確かに、両作品 だ全体としては『藍の記憶』とは逆で、良くも悪くもまとまってな とも現代的な素材を巧みに取り込み、ちゃんと作劇している。力の い印象を感じてしまった点が今後の課題かと思う ある書き手であることは間違いないと思う。そこを評価するという 今年の講評は以上です。来年もカ作期待しています ことにおいては私も異論はなかったが、積極的に推す気にはなれな かった。というのも、この二人の作品の登場人物の誰にも共感でき なかったからだ。それも、「自分の周りの話」を越えたところで勝 負している志の高さゆえ消化しきれなかったのだと考えれば受賞は 今年は豊作だったのか ? 順当だとは思う さて、そんな中、私は荒木智史さんの『ローカルヒーロー』を推 黒沢久子 した。どうしてもこの作品を受賞させたかった。ふとしたことから一 組の金を盗んだ下っ端のヤクザが、夫に逃げられた母とラプホテル 最終選考に八本残った今年は豊作だったのか ? 「今年はレベル で働く娘、女の二人暮らしの農家に入り込み農作業を手伝いながら、一 が高い」という審査員が多かったが、私は首を捻る。面白いことに、何となく更生していくという話。「ヤクザなんてこんなもんじゃな レベルが高いと言った審査員たちは「チュ ーリップのアップリケ』 い」という説得力のある反対意見が多数出たし、その意見を論破す ることも出来なかったが、自分でも不思議なほど、しつこく拘り続 と「折り花」を評価し、「本当にそうなのか ? 」と疑問に思った私 けた。筋だけ話すと「こんな人いる ? 」という話なのだが、脚本を と小川さんは「わるくち』と『ローカルヒーロー』を推した。どう 読むと、「なんか、いるよね ? こういう人」と登場人物たちに寄 も選考基準が違うようだ。 り添えたし、じわりと来る奇妙な面白みが、この作品にはあると感 「一本は書ける。それは自分のことを書くことだ」と新藤兼人がい じた。それは前述の二作品には感じられなかったもので、それ故に、 、その言葉は中島丈博の「祭りの準備』にも引用されて、いっし しつこく推し続けたのだ。とはいえ、この作者は自分の面白さに無 か、脚本を目指す者の金言となった。その「祭りの準備』はまさに 自分のことを描いた作品であり、脚本としては、未だに色褪せない 自覚だろうと推測する。自覚して書くには相当の技術がいるし、そ れを身につけることは大変で、その前に大半の人たちがそこに躓き 傑作だ。 「祭りの準備』的な作品が受賞することが続いた時期があった。拙潰れていく将来性を買ったのだから、がむしやらに頑張って欲し いが、説得力のある作品が多かった。その際、「自分のことだから 『チュ 一方、

7. シナリオ 2016年5月号

実際、ムダな台詞が多すぎる 良い所あり甲乙つけがたく思いました。 シナリオコンクールは映画シナリオの新しい才能を顕彰するため 以下、作品ごとの感想です の試みだ 『カシオペア』登場人物が多すぎてキャラクターの整理が行き届い 界には、台本の何ページにもわたる長い台詞で茶の間の視聴ていない印象。事件を起こす不良二人の行動原理の説得力を強化し 者を酔わせる連続ドラマの名手が輩出している 登場人物を絞れば、また違った良さが出たのでは ? しかし、映画は上映時間の制約とギリギリ闘いながら撮りあげて 『ローカルヒーロー』は主人公の冒頭と中盤のキャラクター設定に 差異を感じてしまった。また暴力団員設定にする意味が読み取れな 映画のシナリオを書く仕事と、 e> ドラマを執筆する作業は、別 かった。一般人設定の方がすんなり進んだのでは ? ものだ、と私は思うのだが : 「父子泥棒』は主人公が少年に共感する道程、少年と母親の関係性 をしつかり描いてほしかった。 「チューリップのアップリケ』はシナリオ自体面白く読めた。しか し、震災による人々の心の傷を描く作品に名古屋女子学生タリウム 事件をモデルにした人物が登場し、かの事件の動機に震災の影響が一 選評 あるかのような内容に共感することが出来なかった。 『折り花』は社会派な題材で中々のカ作だと感じた。プロットも登一 川田尚広 場人物も整理されていて、あるレベルには達していると思う。ただ 一つ、話を積み上げてきて尚、最後に主人公が血縁上の父親を訪ね 今年で三度目の審査となりましたが、昨年に引き続き今年もプロ る終わり方が残念に思った デューサーとして関わっている作品の都合で最終審査に立ち会えす、 「海へ還る道』は、自閉症の少年を軸に彼を取り巻く人々の人間模 採点のみで最終意見交換は他の皆様にお願いする形になってしまい 様を描いた作品。しつかりと書かれていると思う。贅沢を言えば、 ました。この場を借りて事務局及び審査員の皆様にお詫び申し上げ ドラマでは何度となく描かれた内容で既視感があったので、この作 ます 品の分かりやすい個性が感じられれば良かったと思う さて、最終に残った 8 作品、今年は例年より読み応えのあるシナ 『藍の記憶』絣を作る人々を描いたドラマ。このシナリオも面白く リオが多かったと思います 読めた。主人公・純子を女・母・妻・作家等様々な角度から描き、 『わるくち』『藍の記憶』『海へ還る道』『折り花』は特に面白く読葛藤・苦悩・よろこびがしつかりと表現出来ていると思う。いい意 めました。その内どれか 1 本と考え『わるくち』を 1 位として推薦味でも悪い意味でもクまとまっていると感じた。 しました。ただ、『藍の記憶』『海へ還る道』『折り花』もそれぞれ 『わるくち』は読んでいて心地よかった。登場人物がダメ人間ばか 4

8. シナリオ 2016年5月号

( 女性 ) は、子どもを産まずして育てるということをどう捉えてい るのだろうか登場人物にただ困難と救いを与えるという、上から そしてみんな上手くなった 目線になっていないだろうか 『父子泥棒』も女性の書き手による、子ども絡みの物語。母親に盗 桂千穂 みを強要されている少年を、亡くしたわが子に重ねてしまう主人公 子どもが大人の都合のいいように描かれている作品には、とても傲 近藤希実さんの『折り花』に感心した。見す知らずの男の精子を 慢な態度を感じてしまう。書き手は自分も子どもだったことを覚え 買ってでも、血をわけた我が子をこの手に抱きたいと願う執念にも ていないのだろうか、と思ってしまう 『藍の記憶』もまた、亡くした子どもがモチーフだが、子どもの話似た母性の希求。結果として何も知らずに生を享け、成人した息子 の懊悩 なのか、久留米絣の話なのか、両方のようで、こなれていないそ 大袈裟に言えば、人間存在の根源に着目した作者の器量の大きさ のせいで読みにくい脚本だった。地元によく取材しているのがわか こしょ に鳥肌が立っ るけれど、いまひとつ、いに伝わってこないのは、何かいい話 ( ーリップのアップリケ』にも感心した。 五藤さや香さんの『チュ うと努力するばかりに、人物が生きた人間でなくなっているせいで 自分の出自を抹消したさに実の親の死を黙視しようとした男、の栄 はないだろうか 『カシオペア』は、はなから人間を描くことを放棄して、列車に乗達を目ざして愛人を殺す青年、他者を殺す行為に異常な意欲を燃や一 三つの殺意の形へのアプローチ。これまた斬新だ " り合わせた人々それぞれの糸を編んで、こみいった絵織物を作ろ、つす女 思春期ものは過去に名作いろいろあったが初見弘貴さんの「わる とでもいうような冒険心を感じた。そうだとするなら、人物たちか くち』ほどヴィヴィッドに、実感の重さをこめて描き切った作品は ときおり見せる人間らしさが、やはり書き手の曖味さを証明してし 稀で、またまた感心させられた。 まっているような気がする 三篇のうちどれが受賞してもいいと思ってたので選考の結果には 書き手はどこに立っているのか 満足している 最終選考に残った八作品を読みながら、今回はそんなことをよく だが、不満もある。登場人物の背景、履歴をはじめとして、何か 考えた。 ら何まで書き込みすぎた作品が多い丁寧なのはいいのだが説明過 多、台詞過剰が感じられる昔『座頭市』の三隅研次監督は脚本家 の星川清司さんにコメントされ、「台詞があってもなくても同じな らばない方がいいー石井輝男監督はある人気監督鏤骨の脚本のト書 きを一瞥、「篠つく豪雨だけでいいんじゃない ? 」と一言。 うま っ 0

9. シナリオ 2016年5月号

流れていった先の展開に無茶苦茶なところはあるにもかかわらず、 ラストまで一気に楽しく読んだ。作者と主人公の距離感、つまり、 どこに立っているのか 書き手の立ち位置なんだと思う。こんな男がどんなことに巻き込ま れたら面白いか逐一プレずに判断して書ききった感がある 川智子 『わるくち」にも同じことを感じた。 ( 丸内さんによると、作者は まさに「自分のことを書いた」らしい。 ) 高校二年のもやっとした 「自分のことを書きなさい」とは、新藤兼人さんの教示のひとっ 焦燥感、ときに傷つけ合うヒリヒリした感じ。撮影所のある大泉学 だった。偉大な先人の言うことに反発するわけではないけれど、私 園界隈の、夜の風景が見えてくる。書き手が脳裏のスクリーンに映 はすっと、自分を書くほど難しいことはないと思っていた。そんな 画を映し、それを書き取ったことが伝わる。惜しいのは、ヒロイン ものが面白いはずがないという自己侮蔑、を乗り越えたとしても、 の彼氏 ( 映画の照明部スタッフ、ここにも書き手の経験が生かされ 客観的に作品として構築することなんか到底できないだろうとそ ているはず ) が、せつかく面白い役柄になりそうなのに、主人公を こにとどまるのは、ただの怠慢だったと今はわかる。「自分のこと阻む存在として記号的になってしまったところ。アル中の母も、や を書きなさい」というシンプルな教えは、書き手としての立ち位置 やステレオタイプに描かれてしまった。 を獲得しろ、そうした上でやっと挑めるものだ、という、ごくごく 『チュ ーリップのアップリケ』は、震災を背景に二人の警察官の生 当たり前のことなのだった。新人ながら、無意識にできる人がいる きざまを描いた堂々たる作品だった。特に若いほうの、壊れていく それを才能ともいうだろう初めからできない人は、私も含め、踏男。「被災地が好きゃねん」と悪びれす、「絆」を求める女を蔑ろに ん張って獲得するしかないそうしなければ、書き続けていくこと していく過程は、ぞくぞくするほど面白かった。二人の男の因縁が、 はできない。 そもそも阪神の震災にあったことを含め、いろいろなエピソードに きちんきちんと整合性がっきすぎているのが、気になるといえば 審査会で評価の高かった『折り花』は、私はよくわからなかった。 なったのだけれど、つじつまを合わせるのが脚本でもあるし、欠点 テーマは明確だし、人物の配置、関係、構成、セリフも工夫が効い ているけれど、人工授精で生まれた子どもの、それを本人が知る ということではない。私も整合性を気にしすぎるタチだけれど、脚 ときの意識というものが深く描かれなかったことに、書き手の曖昧本には時々、理由もなく放り出すような、力点が必要な局面がある とい、つことかもしれない さがあるように思えて仕方なかった。このテーマはとても今日的だ し、踏み込んだドラマが観たいと願っているだけに、残念だった。 『海へ還る道』は、自分の子ではない自閉症児を育てることになっ 夫に不妊治療の出費を咎められ、自分の側に問題がない証明として、 た女性が主人公で、その設定から想像されうるドラマティックな展 離婚後にセルフ授精する女、という設定も、心情がよくわからない。 開は多様にあるはずなのに、説明と予定調和に終始してしまってい る。このことも、書き手の立ち位置の問題ではないかと思う。作者 「ローカルヒーロー』は逆に、人物設定が破綻していたり、田舎に

10. シナリオ 2016年5月号

くれます。しかし、面白かったのは、ちょうど半ばまで。冒頭の氷 川神社の境内での変な出会い ( ここがなかなかいいのですが ) に始す まった怜美との関係が深まるところあたりから、急速に面白さ半減 します。絵本作家希望だったフアザコンの怜美だとか、急にありき皆川裕美子『藍の記憶』 ストーリーもシーンも人物造形もよく考えられ練られていて、出 たりの展開になって来て、最初に期待が大きかった分、気持が冷め ました。谷川俊太郎の詩に頼りすぎてしまったのが失敗かもしれま来栄えは今回の作品の中で一番かもしれません。上手です。なのに、 なにか古めかしい感じがします。新鮮味に欠けるのは何故でしよう せん。惜しいです か ? 練りすぎたのかもしれません。シナリオは、描きたい素材を みつけたら、あたため、熟成させ ( この間は長く ) 、切り口とテー 荒木智史「ローカルヒーロー』 マがみつかったら一気に書くその一稿目が一番素敵です。プロの 農業が廃れ、広い農地が太陽光発電のソーラーパネルに席巻され 作品でもそうです。いろいろ直しているうちにどんどんつまらなく て、新興部落と化した九州大分の田舎町。そこに住む菊才の母親と 二人の娘の家に、東京から逃げ帰って来た若いチンピラヤクザの男なるものです。頑張ってまた書いてくださいね。次の作品を期待し ています が来て : 面白くなりそうな舞台は整ったのに、そこで起るドラ マがあまりにお粗末。それぞれのキャラクターも弱い。何かといえ ば寝てしまう男と女たち。猪狩りや祭りやたくさんの登場人物をつ神武早智子『父子泥棒』 子供であることを武器に母親に万引きさせられている少年と、妻 ぎこんで、結局、作者は何を書きたかったのか ? 子を失った主人公が富士の裾野で出会う話。シピアなはすの話を詰 め切れず、甘くなってしまったのは惜しいです 藤原真悠「海へ還る道』 あまりにストーリー が淡泊なせいか、得票を得られませんでした 岩楯祐美樹「カシオペア』 が、私はなんだか気になって、捨て難くそれは何故だろうと思っ 寝台特急カシオペアのアイディアだけはいいのですが、大勢の登 たときに、この作品には「悪意」かないからだと思いました。作品 のもっ透明感。この作者は、「ほんとう」が分る人、普遍を理解で場人物、事件、恐怖が全くさばききれていません きる人ではと感じました。それはものを創る上において、とても大 事なことです。ならば尚のこと、夫の残した連れ子の自閉症児をひ き受けることになった主人公の心の動きをもっと掘りさげていく必 要がありました。ホースの切れ端をパタバタさせて走りまわる自閉 症児への主人公の気持が、責任感から愛に変る過程を、綺麗事でな い日常を通して描いてくれればよかったのにと、とても惜しまれま