病院・病室 ( タ ) 一一人、煙草を吸いながら、中学校を眺め永吉「おい、どした ? 」 ている 治、咳が止まらない。悶え苦しむように、 放心状態で座っている治。 その場に倒れ込む 隣で野呂、サメの軟骨を食べている 治「お前がおった頃、吹奏楽部、何人じゃっ 慌てた永吉、煙草をもみ消し、 治「のお、野呂よ」 た ? 」 永吉「おい、どした ! 何があった ! 」 野呂「はい」 永吉「あー、人くらい ? 」 治、苦しそうに、悶えている 治「おまえ、吹奏楽、好きか ? 」 治「ほうか」 野呂「・ 永吉「何があった」 永吉「まだ矢沢やりよるんじゃの」 永吉、助けを求 0 、治を置き去り」し治「あ〈ま」好きじ ~ な〔じ ~ 」 治「まあ、ワシにや、楽しみが、これくら 走っていく 野呂、コクリと頷く いしかねーけえーのお 治「じゃあ、なんでやっとるんや」 永吉「俺、中学ん時、吹奏楽部って、みんな 野呂「お父さんが、やれって言うけえ」 矢沢やりよるんかと思っとった」 車内 ( タ ) 何食わぬ顔で運転している永吉。 治「・・・ほうか、それは困っちゃうのお」 治「おまえさー、もう、東京帰れや」 後部座席の春子、怒りがこみ上げ、運転 いつもと違う治を、野呂が不思議そうに 永吉「あ ? 」 見ている している永吉の頭を、狂ったようにハタ 治「いちいち、付き合、つことないんじゃ きだす。 治「 : ・野呂よ」 けえーのお」 春子「あんた、ホンマのバカなん ! 」 野呂「はい 永吉「・ 浩二が、春子を止める 治「おまえ、これから、ちよくちよく遊び 治「ちゃんと働け」 ・わかっとるよ」 浩二「危ないって ! 」 永吉「・ 野呂、コクリと頷いた 治「由佳さんだって、仕事あんじやろー春子「二年も禁煙しとったんよ ! 」 由佳が、思わす笑う。 が ? 」 春子「何がおかしい ! 」 永吉「ああ、あいっ仕事辞めた」 田村家・永吉の部屋 ( 夜 ) 帰治「ほうか、何しよったんや ? 」 由佳「あ、すいません」 永吉、何やら押し入れを漁っている 永吉、何も言えず、運転している 中から、埃を被った箱を取り出してくる。 永吉「なんか、ネイルの 故 マジックで子供の文字『田村永吉』。 開けると、中に古いトランペット。 ヒ永吉「爪のや ? 校庭 ( タ ) モ 全速力で走ってくる野呂が見える 永吉、取りだしてみる。だいぶ錆びつい 治、急にむせだす。咳き込む。 ている 永吉、どうしたものか
武田さんは、どんなふうに本作に関わ武田最初の 240 枚のシナリオは、原作武田どこをどう切ったのか、今となって は、よく分からないです。でも膨大な台詞 に忠実で、それはそれで素晴らしいシナリ るようになったんですか ? とト書きをカットしました。一度切りすぎ オだったんですけど、私のミッションは、 武田私はまずシナリオ・センターで学ん て枚位になったんです。さすがにそれは、 それをまず半分にすることでした。 で賞をもらいました : 原作と脚本を拝読して、映画を見ると、映画にならないということで、もう 1 回ハ 矢崎武田さんの準グランプリだったシナ コ書きをやり直して、 100 枚くらいに戻 リオは、回想シーンがなければ、グランプ成海さん演じるヒロイン響子の叔母の家の した感じですかね 物置の首吊りの件りがないなあと思ったく リだったって言われたんだよね。 武田 ( 笑 ) 。当時の審査委員長の堀江史朗らいで、原作に、ほば忠実だと感じました矢崎でも、今回は ( 脚本の ) お二人や、 プロデューサーの川村さん、楠さん、登山 先生にも、そう言っていただいたんですが、どこを中心に切られたんですか ? さん、助監督の塩入さんからの意見も擦り が、それほど回想シーンは難しいんだなと 合わせていって、すごく楽しかったんです。 使っていけないことはないんでしようが、 これが全く、かけ離れていると難しいんで やはり見る人の気持ちの流れを遮断してし すが まうことになるんだろうなと。それから映 ただ、これは約浦年前のお話で、活字 画幻区ので矢崎さんと出会 0 て、デ一 ( み一、 で読む分には問題ないでしようが、いざ画一 ビューさせて頂きました。今回はそのご縁 を撮るとなると、大変でしようね。 で、お声をかけていただきました。 矢崎本当に難しいんですよ。コンビニひ 原作では現在から回想する形になって とつあってもダメだし、監視カメラが写っ いますが、それで映画では、いきなり年 てもダメ。原作の舞台は仙台なので、仙台 の過去から始まることになったんですか ? で撮りたかったんですが、行ってみて驚き 矢崎プロデューサーの登山さんから、現 ました。殆ど、渋谷と変わらない。当時の 代とのサンドイッチ的な回想にせす、あの 面影が残っている場所なんて本当に少なく 当時、生きていた若者を、そのまま描く方 て、フィルムコミッションの方も、すごく が、今の若者にも通じるんじゃないかとい 頑張ってくれて、古い街並みとかも紹介し う意見を出していただき、それで回想に苦 ていただいたんですが、結局、山梨や栃木 い思い出がある、武田さんにお願いしたと に行って、ロケ地は飛び飛びになりました。 いう ( 笑 ) 、まあ、このままでは映画にな 重要な舞台である、バロック喫茶「無 らないので、 100 枚位切ってほしいと。 、イを 02015 「無伴奏」製作委員会
チューリップのアップリケ 〇 〇 〇 誠治、ピールを飲む手を止め、 俊明「 ( 笑いながら ) 何で ? 」 伊丹空港 誠治「誰がそんな事、言っとったんや」 航空会社のカウンターでチケットを購入仁美「つき合うなっていうねん」 俊明「仁美が親に言われたんや。部落やから、 俊明、真顔になる する田之倉。 俺とはっき合うなって」 俊明「何で ? 」 田之倉「仙台まで」 美恵子「仁美ちゃんが」 仁美「俊明の家が部落出身やからって」 修学旅行の団体が入ってくる。 美恵子、料理の手を止めて、夫を見る 女子高生の鞄に、制服を着た人形のキー俊明「え : : : 」 ヒールをグラスに注ぎ足して、 誠治、・ 仁美「ウチのお母さんがそんなん一言うとは思 ホルダーがぶら下がっている 誠治「しようもない。そんな事で差別するよ わんかったわ」 田之倉「・ : うな奴は放っといたらええねん」 田之倉、チケットを受け取る 仁美「勘違いせんといてよ私はそんなんで俊明「じゃあ、何で今まで黙っとってんつ」 振り向くと、もう女子高生はいない 人を差別したりとか、絶対せえへんから」誠治「ええか、明治時代に身分制度はなくなっ たんや。なくなったもんを、何でわざわざ 俊明「・ : 飛行機の中 教えなアカンねん ! 」 仁美「でも、俊明も隠さんと言って欲しかっ 目をつむっている田之倉。 俊明「なくなってないやろ、あるやろ ! 」 た」 誠治「ない ! 」 神戸市長田区 ( 一九九五年 ) 俊明「部落って言葉も差別も残ってるやろ ! 」 仁美、行ってしまう。 線路脇にある小さな公園で田之倉俊明 誠治「じゃあ、どない言って教えるんや。ウ ( ) が、馬を模した遊具に座っている チの先祖が卑しい身分で、お前にもその血 田之倉の家ダイニングキッチン 陽は落ちかけていて、時折寒々とした風〇 が流れてるって教えたらええんか ? 美恵子 ( ) がタ食の支度をし、テープ が吹く。 ルでは誠治 ( ) がモッと菜っ葉の煮物俊明「そうやなくて」 高校の制服を着た少女・仁美 ( ) がやっ 誠治「大体、お前は何に対して怒っとんのや」 をつまみにビールを飲んでいる てくる 俊明「だからっ」 俊明、入ってくる 鞄に同じ制服を着た人形のキーホルダー 誠治「恥すかしいって、思っとんのか ? 」 美恵子「お帰り。今日は早いねんね」 をつけている 俊明「つ : 俊明、父のところへ行く。 俊明、遊具から降りる。 誠治「お前自身が部落の人間を見下しとった 俊明「お父ちゃん」 俊明、笑みを浮かべ、仁美に近づく。 んやろ」 誠治「何や、怖い顔して」 俊明「どないしたん、急に呼び出して」 俊明「ウチの家が部落てホンマか」 仁美「昨日、お母さんとケンカしてん」
チューリップのアップリケ した」 瑞穂、口元を歪めて笑う。 同室内 〇 食堂内がざわめく。 瑞穂「そこ座って、待っててもらっていいで 瑞穂、黙々とカレーを食べ続けている 同外 すか」 警官と事務員が入口から瑞穂を見ている 服を着替え、トートバッグを肩にかけた ローテープルの前に腰を下ろすトモ子。 警官、瑞穂に近づく。 瑞穂が出てくる 本棚の「グレアム・ヤング毒殺日記』 警官「山際瑞穂さん ? 」 に目を留める 瑞穂、顔を上げる。 トモ子の頭部に手斧が振り下ろされる。〇同浴室 ハスタブに横たえられたトモ子の遺体。 瑞穂「 : : : まだ死なない : : : 何でまだ死なな 大阪府警 x x 署廊下 田之倉と小杉が足早に歩いている 大阪府吹田市 x x 大学食堂 何度も手斧を振り下ろす瑞穂。 小杉、手帳を片手に説明している 瑞穂、カレーを食べている すでに動かなくなったトモ子。 テレビ画面に、オレンジ色の囚人服を着小杉「容疑者は山際瑞穂、宮城県出身。府内 肩で息をする瑞穂 の大学に通う一九歳で、勉強会と称して宗 せられた川藤遼二 ( 貯 ) の映像が流れて 床に座り込む。 教の勧誘にやってきた被害者を手斧で殺 : ついに、やった」 キャスター「 : : : 先ほど、イスラム過激派組害」 瑞穂の目、見開いている 視線の先に「グレアム・ヤング毒殺日織に拘東されていたジャーナリスト川藤遼田之倉「一九歳の女の子が何で手斧なんか もっとるねん」 二さんが殺されたとの情報が入って参りま 瑞穂「 : 映画・演劇・演芸・シナリオ・戯曲の専門古書店 矢ロ書店 Eßー 7 F マメ yaguchi@mbk.nifty.com URL http://homepage3.nifty.com/yaguchi、、 記」 〇 〇 り至駿河台下 国 靖地下鉄神保町駅 矢ロ書店 至九段下 地下鉄神保町駅ご利用の方は岩波ホール出口が便利です。 〒 101 ー 0051 東京都千代田区神田神保町二ー五ー一 電話 0 っ 0 ( 3261 ) 5708 03 ( 3261 ) 6350 至水道橋駅 〇 白山通り 請 営業時間日・祭・平日間わず 10 時 ~ 18 時分
くれます。しかし、面白かったのは、ちょうど半ばまで。冒頭の氷 川神社の境内での変な出会い ( ここがなかなかいいのですが ) に始す まった怜美との関係が深まるところあたりから、急速に面白さ半減 します。絵本作家希望だったフアザコンの怜美だとか、急にありき皆川裕美子『藍の記憶』 ストーリーもシーンも人物造形もよく考えられ練られていて、出 たりの展開になって来て、最初に期待が大きかった分、気持が冷め ました。谷川俊太郎の詩に頼りすぎてしまったのが失敗かもしれま来栄えは今回の作品の中で一番かもしれません。上手です。なのに、 なにか古めかしい感じがします。新鮮味に欠けるのは何故でしよう せん。惜しいです か ? 練りすぎたのかもしれません。シナリオは、描きたい素材を みつけたら、あたため、熟成させ ( この間は長く ) 、切り口とテー 荒木智史「ローカルヒーロー』 マがみつかったら一気に書くその一稿目が一番素敵です。プロの 農業が廃れ、広い農地が太陽光発電のソーラーパネルに席巻され 作品でもそうです。いろいろ直しているうちにどんどんつまらなく て、新興部落と化した九州大分の田舎町。そこに住む菊才の母親と 二人の娘の家に、東京から逃げ帰って来た若いチンピラヤクザの男なるものです。頑張ってまた書いてくださいね。次の作品を期待し ています が来て : 面白くなりそうな舞台は整ったのに、そこで起るドラ マがあまりにお粗末。それぞれのキャラクターも弱い。何かといえ ば寝てしまう男と女たち。猪狩りや祭りやたくさんの登場人物をつ神武早智子『父子泥棒』 子供であることを武器に母親に万引きさせられている少年と、妻 ぎこんで、結局、作者は何を書きたかったのか ? 子を失った主人公が富士の裾野で出会う話。シピアなはすの話を詰 め切れず、甘くなってしまったのは惜しいです 藤原真悠「海へ還る道』 あまりにストーリー が淡泊なせいか、得票を得られませんでした 岩楯祐美樹「カシオペア』 が、私はなんだか気になって、捨て難くそれは何故だろうと思っ 寝台特急カシオペアのアイディアだけはいいのですが、大勢の登 たときに、この作品には「悪意」かないからだと思いました。作品 のもっ透明感。この作者は、「ほんとう」が分る人、普遍を理解で場人物、事件、恐怖が全くさばききれていません きる人ではと感じました。それはものを創る上において、とても大 事なことです。ならば尚のこと、夫の残した連れ子の自閉症児をひ き受けることになった主人公の心の動きをもっと掘りさげていく必 要がありました。ホースの切れ端をパタバタさせて走りまわる自閉 症児への主人公の気持が、責任感から愛に変る過程を、綺麗事でな い日常を通して描いてくれればよかったのにと、とても惜しまれま
永吉「・ 望月「あのー」 浩一一「はい ? 」 望月「私、一応シスタ 1 じやけど」 顔を見合わせる浩一一と義男 義男「シスターって、結婚とか誓っていいん ですか ? 」 望月「まあ、他の人より、誓い甲斐はある思 うんですけどねえ 浩一一「お身体のほうは ? 」 望月「ええ、ただの肺炎ですけえ」 同・控室 ストレッチャーの上の治、眠っているの か目を閉じている 春子と手を繋いでいる。 そこへ、永吉が入ってくる 永吉「どう ? 」 春子「寝てしもうたみたい」 永吉「なんか式場、す ) 」い事になっとる」 春子「えー、見てこようかしらねえ」 永吉「おお、見てこいや、見てこいや」 春子、病室からいなくなる 永吉、治の横に座る 父の顔を、じっと見てみる 不安になってきて、脈を図る。 そのまま、父の手を握ってみる その間、数秒 月の前へ。 ふと、誰かが廊下を走る音がすると、慌 演奏が終わる てて手を放す永吉。 望月「えーはじめに、讃美歌 312 番を斉唱 ふーっと息を吐いた。 いたします。皆様御起立ください」 半分くらい立てない。 同・式場 義男、を再生。流れる聖歌 治に、竹原と千葉が付き添っている 歌いだす参列者たち 登、金ャン、重ちゃんたち。恵介、信子 など、親戚たち。野次馬参加の患者たち同・外観 など、皆、式の開始を待っている 豪雨の病院に、歌声がこだまする ージンロードの上で、由佳の登場を待 っ永吉。 佃同・式場 望月が進行をつとめる 望月がアンチョコを読み上げる。 望月「えー、それでは、式をはじめさせてい望月「田村永吉、あなたは神の定めのもと、 ただきます ! 」 夫婦になろうとしています。その健やかな一 「望月さーん」と喝采が飛ぶ。 る時も、病む時もこれを愛し、これを敬い 歓声に応える望月。笑いが飛ぶ これを助け、固く節操を守ることを誓いま 清水の指揮で、プラバン部員たちが、一 すか ? 」 斉に演奏を始める 永吉「はい、 誓いますー 「結婚行進曲』。 望月「会沢由佳、あなたは神の定めのもと、 モヒカンの野呂、トランペットを力強く 夫婦になろうとしています」 由佳、すでに涙ぐんでいる 病室のドアが、横に開く。 望月「その健やかなる時も」 由佳と苑子が、腕を組み入ってくる。 由佳「ばい、ぢ、いばす」 赤い画用紙の上を歩いてくる 由佳の一番下の弟、洋、式に飽きた様子。 永吉のもとへ・ ・立ち止まる。 ふと、何か気付く 苑子と永吉が頭を下げあうと、一一人、望 すぐ横の治が、何やらもがいている。 124 ー
そこへ、治が出てきて、演奏する野呂の 痛い手を打たれたのか、治が騒ぐ 春子「やだ、妊婦が何言いよるんねー 姿勢をグッと正した。 楽しそうな一一人。治の手番 由佳「一嘗め、せめて、一嘗め」 竹原「治ちゃん」 永吉「あ、出た」 春子、ビールを隠す。 千葉たち看護師団が、慌ててやってきて、 治「ん ? 」 由佳「マジ、妊婦つれーわー」 連れ戻される治と野呂。 竹原「これからの事なんじやけどよー」 春子「 : ・由佳ちゃん」 永吉、苦い顔して見上げている。 治「・ 由佳「はい」 竹原「俺、紹介状書くけえさあー」 春子「もう、帰りんさん」 治、聞いているのかいないのか 由佳「 ? 」 同・病室 ( 朝 ) 野呂、困ったように座っている。 竹原「・・・治ちゃん ? 」 春子「向こうで検診とかあるんじやろ ? 」 田村家全員が、野呂を見ている 治「親父ん時、管、通してよ」 由佳「・ 春子「蜜柑、食べる ? 」 竹原「・ 春子「私だったら、絶対、帰りたいもん」 野呂「・・あ、いや、あの、僕、そろそろ」 春子が、笑う 治「嫌じゃのお」 野呂、席を立とうとして、 竹原「・ 由佳、泣きそう。 治「なんじゃあ、来たばっかじやろーが」 由佳「うう優すいー、お母さん、優すいー」治「痛いのは嫌よ」 ・、つん」 ・うん、ええけえ塗って」 竹原「・ 野呂「・・あ、でも、今日は家族でかつば寿一 春子「・ 治「とにかく痛いのだけは、勘弁じやわ 司行くことになっとって」 ・、つん、そ、つな」 竹原「・ 治「おまえ、かつば寿司行きすぎじやろ」 病院・病室 ( 夜 ) ・ワシ、お前でええわ」 野呂「・ ・じゃあ」 布団の中から、治の泣きじゃくる声が聴治「・ こえている と言って、野呂、逃げる 竹原「・ 浩一一「あ、逃げた」 治「あー、家、帰りたいのお 1 」 そこへ、静かに扉の開く音。 ・うん、そうなあ、そうなあ」 治「おい、待てや ! 」 竹原「・ 治、布団から顔を出す。 る 帰 やってくる竹原、その手に将棋盤を持っ ている 郷 同・前 ( 朝 ) 病院・駐車場 ( 朝 ) 永吉、由佳、春子、浩一一、車から降りた 野呂が、小走りで歩いてくる。 ン竹原「おう」 しばらくすると、背後から声がする ・おう」 所で、何やら見上げている。 ヒ治「・ モ 屋上で、トランペットを吹く野呂の姿が永吉の声「おー 振り返ると、永吉が、こっちに向かって、 べッドの上で将棋をする二人。 小さく見える 1 13 ーー
心配そうに見ている部員たち。 べッドの上の治、その手にサメの軟骨や、 横で、治がこっそり、永吉に何か合図を 出している。 治、携帯を取り出すとかける。 アガリクスなどを持たされている 清水の携帯に着信。出る 親戚一同 ( 叔父の田村恵介、信子と、そ永吉「 ? 」 清水「はい」 の息子夫婦とその子供と、叔母の三島小 指を二本、煙草の仕草だ・ 治の声「野呂に代われ」 枝夫婦 ) に囲まれている 永吉・由佳「・ 清水、野呂に携帯を渡す。 恵介「サメの軟骨は、とにかくコンドロイチ 治、そのまま、上を指さす。 野呂「野呂です」 ンが豊富なんじゃと」 永吉「・ 治「男のお前が、ちゃんとラッパ吹かにや治「ああほうか」 由佳、永吉の袖を引っ張る あ始まらんじやろおが ! 」 信子「義兄さん、あんまり落ち込んじやダメ、 永吉、立ち上がり、そのまま外へ 野呂「・・・すいません」 今、昔と違って、癌だって治る病気なんだ春子「どこ行くん ? 」 治「お前、今日、練習終わったら、こっち からさ」 永吉「ああ、ちょっと、トイレ」 浩二、タブレット a-,o の病院資料を、治 永吉、病室を出る。 野呂「え」 に見せる のを、見届けた治、急に起き上がり、 治「えってなんや」 治「お前まで、なんや」 治「やれ、ワシも、いっとくか」 野呂「・・あ、いや、でも今日は、家族で、 浩二「・ ・これ、ど、つ思、つ ? 」 春子「一緒に行こうか ? 安川のかつば寿司行くことになっとって」 治、先生の写真を見つめている。 治「いや、一人で行ってみるわ」 治、いそいそといなくなる 治「カバチタレんなや ! ええのお、走っ治「・・・若いのお」 てこいよ、ちゃんと見とるけえの」 そっと浩二に返す。 由佳が、心配そうに見ている 清水が手を挙げ、地声で叫ぶ。 浩二と春子、困り顔で見合う。 清水「コーチ ! 」 永吉と由佳、蚊帳の外。遠巻きに座って 同・屋上 いる 治「はい、 清水 ! 」 永吉、海風を避けながら、治の煙草に火 清水「海風で、楽器が錆びます ! 」 子供がやたらと寄ってくる。一緒になっ をつけてやる。自分も吸う。 治「・ ・解散 ! 」 治、無理くり吸おうとしている て遊んでいると、ふと由佳に小突かれる 楽器を抱え、慌てて逃げていく部員たち。 永吉。 煙を出すのが精いつばい。 永吉「ん ? 治「ダメじゃ、肺に入ってこんわあ」 病院・病室 由佳が、治の方を小さく指す。 永吉が思わず笑、つ 春子、見舞い品の整理をしている。 親戚たちが、べラベラと喋っているその 治もつられて笑う。 6 1 10 ー
永吉「 : ・ああ」 本堂では、十人程度の中学生が、楽器を治「」 由佳「行くよね ? 持って座っている 部員たち「」 永吉「 : ・ああ」 彼らの前に立つ、田村治 ( ) 、指揮棒 部長の清水 ( ) が手を挙げる。 由佳「えーちゃん、準備は ? を構え、振る 清水「コーチ」 永吉「 : ・ああ」 演奏がはじまる。曲は、矢沢永吉の「ア治「はい、 清水」 由佳「てか、行くよ、これ、ぶっちやけ行く イ・ラヴ・ユー ' O 。 清水「曲を変えたいです」 事になるよ、これ」 集まった老人たち、地蔵のように固まっ治「ホワイ、なせに ? 永吉「行くよ ! 行くってー て聴いている 清水「埼玉のお姉ちゃんが言いよったんです 由佳「ライプ落ち着くまで待ってって言った 女ばかりの部員の中、たった一人、男の けど、中学の吹奏楽で、矢沢は渋すぎるい の、えーちゃんだかんね ! 」 子がいる うて、笑ってました」 永吉、如露を持って戻ってくると、窓を トランペットの野呂清人 (ä) 、まわり治「ヤザワは広島県民の義務教育です」 開ける。 について行くのが精一杯 清水「違います」 べランダにパクチーの鉢が並ぶ その音につられて、治が、野呂をジロッ治「・ 永吉、水をやりながら、 と見る 清水「あと、川人での吹奏楽は、やつばり無 永吉「・・・まあさ、仕方ねーべ、俺もさー 理がある思うんですけど」 こ、つ、まっとうな長男として・ 6 同・境内の一角 治「 : ・行年、ヤザワ、日本人初の武道館」 由佳「髪切ってけば ? 」 部員たち、うんざり。 一列に並ばされた部員たち、皆、俯いて 永吉「絶対やだ」 いる 治「ワシやの、目が合ったんじゃ」 彼らの前、治の顔が近い 清水「知るかあーや ( ポソリと ) 」 4 瀬戸内海をフェリーがゆく 治「おまえらあれか、年寄相手じややる気 そこへ、白衣姿の竹原和夫 ( ) と、登、 メインタイトル せんか」 重ちゃん、金ャンが、酒瓶片手に、ゲラ 部員たち「・ ゲラ笑いながら、やってくる 5 寺・本堂と境内 治「どうなの ? そのへん」 竹原「えかったでえ、治ちゃん、今日、ぶち 人で賑わう境内。豚汁などが振るまわれ、部員たち「・ えかったでえ、まあ、よおわからんけど」 酒を呑むおじさんたちが騒いでいる 治「人生ってさ、自分との闘いなわけ、わ治「ああほうか、ちーと今・ 貼られたポスター「戸鼻中学吹奏楽部かる ? 」 竹原「おおー、向こうで一緒に呑むでえ」 ーライプ』。 部員たち「・ 治「今、大事な話しよるんじやけえ
受話器を戻す渉 響子「 : : : 渉さん」 渉「もちろん、本気じゃないと思ってた。 電話ポックスの向こう、朝日が白い波の 渉は祐之介の後を追う だけど祐之介はちがったんだ。僕がいなけ 飛沫を照らし始める れば、彼はエマを殺さなかった : : : 彼の罪 千葉家・廊下 は僕の罪でもあるんだ」 電話の前に、眠る響子。 千葉家・廊下 ( 明け方 ) 響子の声「だからってあんな嘘を : : : 祐之介 愛子が響子に毛布をかけ、部屋に消える さんを救いたかったのなら、どうして警察 受話器を抱いてうすくまる、響子。 と、ベルが鳴る。受話器をつかむ響子。 に彼との関係を話さなかったの ? 」 響子「 ( コインの落ちる音 ) もしもし ? 」 渉「たとえ拷問を受けたとしても話さない 四どこかの海辺 ( 夜明け ) 闇と光が混じった空。海を見つめる渉。 渉の声「 ( 海の泡のような音 ) 」 よ : : : これは僕らの宿命なんだ」 響子「渉さんなの ? 傍らにあるスケッチブックが、風でめく れてはためく。 渉の声「この番号だけは憶えてたな」 千葉家・廊下 ( 明け方 ) 響子「いまどこにいるの ? 」 受話器を握りしめている響子。 優しい目をした祐之介のデッサン画。 渉の声「海だよ」 響子「わからない : : どうしてそんなに」 渉、掴んだ砂を、砂時計のように祐之介一 の笑顔に落とす。 響子「どこの海 ? 教えて。みんな心配して渉の声「わからなくていいよ。きみみたいな 渉、静かに立ち上がると、海に向って歩一 るのよ、勢津子さんだって」 素敵な女の子は、そんなこと分からなくて しいムマ き出す。 渉の声「みんなのことはどうだって、 いいんだ」 はきみとだけ喋りたい 涙を堪える響子。 響子「遠いところね。どんどんお金が落ちて渉の声「これだけは言いたいんだ : ・ : ・響子。千間堂・勢津子の部屋 いく音がするわ」 渉の小さな自画像の前に、線香が一本立 きみは僕が愛した初めての女性だった。僕 てられている はぶきっちょだったろう ? 許してほしい 手を合わせている響子。 電話ポックス ( 明け方 ) ・ : ああ、もうお金がなくなっちゃったよ」 海辺の近くの電話ポックス 勢津子がお茶を運んでくる。響子にお茶 響子「いやよ。掛け直すわ。お願い、渉さん ! 」 周辺は人影もなく、荒れた海がみえる を出すと向き合って座る勢津子。 コインを入れながら電話している渉 勢津子「これ」 電話ポックス ( 明け方 ) 渉「 : : : 僕と祐之介は、エマを殺す計画を 受話器を握る渉 着物の懐から封書を渡す。 立てていたんだ」 受け取る響子。「遺書」の文字。 渉「 ( 朗らかに ) ありがとう響子。さよなら」 響子の声「え ? 」 ブツリと切れる回線。 勢津子「警察の人が言ってたの。渉が祐之介 一 4 8 一