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検索対象: シナリオ 2016年5月号
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1. シナリオ 2016年5月号

無伴奏 歩いてくる響子、立ち止まる。 んにちは」が流れてくる 足にギブスしている浪人生がアジビラを 仙台第三女子高等学校・正門前 ( 朝 ) 炬燵に入って、お粥を食べている響子。引 配っている ク卒業式ツの立て看板 愛子が果物ナイフで林檎を剥いている。 路上のアジビラを一瞥する響子、予備校 「卒業式粉砕』のビラを撒く、響子とジュ 愛子「堂本さんていう方から何度も電話が リーとレイコ に入っていく。 あったわよ」 響子の声「私はどんどん時代から孤立してい 騒然としている正門前。 響子「 : : : そ、つ」 説得しに集まる教師達、遠巻きに応援すく。それが何だというのだろう・ : ・ : 」 愛子「熱を出して寝ている、って言ったら、 る生徒達、眉をひそめる父兄達。 とっても心配してたわ。ポーイフレンドで ビラを撒き終わると互いの腕を組んで学 連れ込み旅館・前 しょ ? 」 渉が手を振っている。 校を後にする三人 黙々と粥を食べる、響子。 駆け寄る響子、渉の手を握る 戻ってきなさい、と声が聞こえる 愛子「お父さんには黙っててあげるから、二 一一人の前をデモ隊が行く。 くすくす笑いながら、やがてはスキップ 度と親子喧嘩したりしないでね」 のように走り去ってゆく三人 響子「もうしないわ。卒業したら四月から予 連れ込み旅館・部屋 備校でみっちり受験勉強するわ」 布団の上に横たわる響子に軽いキスをす一 2 ク無伴奏 : 中 愛子「熱を出したのも、悪くなかったようね。 6 る渉。 ポックス席に響子、レイコ、ジュリー はい、召しあがれ」 渉「じゃあ、好きな作家は ? リー「じゃあね」 ウサギの形に切られた林檎を食べる響子。ジュ 響子「ポリス・ヴィアン、カミュ、倉橋由美子」 、つん、とうなすく響子とレイコ。 店から出てゆく 渉「好きな詩人」 席を立っジュリー、 公衆電話ポックス 響子「金子光晴、ポードレール、それにエリュ レイコも席を立っ 電話している渉 アールも好き」 渉「二、三日したらきっと会おう、約東だレイコ「ごきげんよう」 響子「 ( 微笑 ) レイコのその台詞、好きだった」渉「ミュージシャン よ : : : 響子、愛してるよ」 レイコ、微笑むと軽い足取りで去ってゆ響子「ビージーズ」 渉「マルクスの資本論は ? 」 千葉家・廊下 一人残る響子、壁に頭をもたせかける。響子「本当はよくわからないの。高橋和巳も 電話に出ている響子。 吉本隆明も : ・・ : 」 涙ぐみながらうなすく響子、受話器を置 何度もキスをする渉。笑う響子。 予備校・前 マ /

2. シナリオ 2016年5月号

受賞のことば 新人シナリオコンクール奨励賞 1 位 初見弘貴 この作品は、映画学校卒業時に一度書き、それから 2 年 経って、再び直して出来た作品です。劇中に出てくる「い ちねんせい」という絵本は、僕がまだ小さかった頃、母に 何度も読み聞かせてもらった物です。先日、入学シーズン に向けて、本屋さんでこの絵本が平積みされているのを見 つけました。帯には「世界中の一年生に贈ります」と、書 かれていました。精進し、これからも脚本を書き続けたい と思います 未熟な作品だとは思いますが、賞をいただきうれしく思 います。 2 年前、この作品を書くきっかけを下さった港岳 彦さん、お忙しい中ご指導して下さった丸内敏治さん、い つも自分のつまらない話を聞いてくれる職場の渡辺さん、 選んでくださった審査員の方々、ありがとうございました。 【略歴】 1991 年生まれ。 日本映画学校期卒業。 受賞のことば 新人シナリオコンクール奨励賞 2 位 荒木智史 3 年前に初めて書いた長編シナリオを読み返すと『書き きれなかった』という苦い思いか甦ってくると同時に初め て取り組むことに対してやれる限りをやろうと必死にもが いていた気持ちも思い出す。世阿弥の言葉で「初心忘るべ からず」という言葉があると思うが、その時に書いたシナ これからの創作 リオは自分にとっての初心なのだと思い、 に活かすと決め、 3 年が経った。あれから一歩でも二歩で も前に進めたのか ? 脚本のしつほでも掴むことはできた のか ? と自分に問いかけてみても『先は果てしなく長い』 としか思えない 3 年前と同じように最終稿を書いた後で一 溜まりに溜まったカのなさを痛感する。ただ、反省はある が後悔ではない。これから先も自分が書いた作品として『ロ ーカルヒーロー』を大切にしていく受賞を感謝いたしま す △ 【略歴】 2000 年、 3 月別府青山高 等学校を卒業 複数の職業を経て 2012 年、 4 月日本映画大 学に入学 現在に至る

3. シナリオ 2016年5月号

通せるものって、何かしら」 にじり口の前で響子を招く渉。 渉「 : : : 人を愛してゆくってことじゃない 輪王寺・参道 入ってゆく響子。 か」 並んで歩く響子と渉。 響子「え ? 」 同・中 響子「静かでいいところね」 渉「人と人との愛がなくて、革命なんか起 、つなずく渉。 沓ぬぎ石に、男物の靴とパンプス こせるかな」 響子「祐之介さんは ? 」 響子、靴をぬぎそろえて正面を向く。 眩しげに渉を見上げる、響子。 渉「いるよ」 床の間を背に、祐之介とエマがキスして いる 響子「デートじゃなかったのね」 四千葉家・響子の部屋 ( 早朝 ) 渉「エマもいる。部屋でレコードを聴いて ハッとする響子。 デッサンノートの文字ーー。 る」 唇を離す祐之介とエマ。 『愛がなくては、革命なんか起こせない響子「そう : : : 」 正座する響子。 視線を落とす、響子。 祐之介「かしこまらなくていいよ。ここは茶 鏡の前。片肌を脱ぐ響子。背中を映す。 室じゃないから」 赤い擦り傷や、打撲の痕。 安藤家・前 エマ「そう、バケモノ小屋」 響子「 ( 溜息 ) 」 武家屋敷のような土塀に囲まれた家。 渉「 ( 失笑 ) ひどいな」 血の染みたプラウスを鋏で切る響子。 歩いてくる、渉と響子。 響子「わかる。なんだかひんやりしてるもの」 三人の名前を書いたコースターと血のつ響子「立派なお屋敷ね」 響子に微笑むと台所に行く渉。 いたハンカチ。 渉「ああ。僕らの部屋はここじゃないけど響子「でも冬は暖かそう」 窓を開ける響子、鳥かごの鳥を放っ ね」 祐之介「いや、底冷えがするよ。炬燵にもぐっ と渉、小道を入る。後に続く響子。 て冬眠するしかない」 5 バス・中 前方に孟宗竹の一群があらわれる。 エマ「あたしも一緒に冬眠させて。ダメ ? 車窓から初夏の光が流れる。 その隙間に身をいれる渉。 祐之介、答えず笑う。 風になびく響子の髪。 渉「さあ ( 手をさしのべる ) ー 祐之介「にじり口の意味って知ってる ? 」 渉の手をつかんで向こう側へいく響子。 響子、首を横に振る。 輪王寺・バス停 連なる飛び石の先に、古びた茶室。 祐之介「あそこで俗世と訣別するんだ」 バスから降りる響子。迎える渉。 茶室の板戸に目をやる祐之介。 一一人並んで歩き出す。 茶室・前 エマ「つまりここは異界なの。面白いでしょ ? 0 3 -6

4. シナリオ 2016年5月号

夢の女ュメノヒト 9 走る軽トラの中 ( 浪江町 ) 道宏の膝の上に、卒業アルバムとホワイ トホード ホワイトボードに「東京」と書かれている 風子「自転車で東京に行こうとしてたんです か」 道宏、頷く 風子「電車使えばいいじゃないですかー 道宏「 ( ロバクで ) 乗ったことないー 風子「え ? 道宏「 ( ロバクで ) 乗ったことない」 風子「乗ったことない ? 」 道宏、頷く。 風子「またあ」 A 」夭、つ 道宏は真顔。 前方に、先程の「ここから先、自動一一輪 車は通行できません』の立て看板とマス クをした警備員の姿が見える。 風子「ちょっと暑いけど、すみません」 とエアコンを切り、外気の侵入を防ぐ しんと車内が静かになる。 軽トラが国道六号線 ( 双葉町 ) を走って 行く 風子「 : ・ 道路脇に設置された放射能モニタリン グ測定・表一小装置が「 1 ・ 47 2 』 を表一小している 道路脇に「暴力団追放の町大熊』の大 看板。 営業中のコンビニやガソリンスタンド。 走る軽トラの中 ( 楢葉町 ) 風子、エアコンを付け、外気を入れる音 が聞こえてくる。 『←福島第一原子力発電所』の案内標識。 風子、道宏の首に巻かれた布をチラと見 て、 放射能モニタリング測定・表示装置が 『 3 ・ 962 > 』を表示している。 風子「失礼ですけど、喉の病気ですか」 道宏、頷く 原発作業員を乗せたマイクロバスとすれ風子「喉頭ガン ? 」 道宏、頷く。 違、つ。 風子「やつばり。 ( ホワイトボードを見て ) お父ちゃんも、それ、使ってたから。結局、 家々の玄関前は銀色のバリケードで覆わ れている。 肺に転移して、死んじゃったけど : : : あ、 すみません」 道宏「・ : 風子「手術はいっ ? 道宏、指を三本立てる。 道路脇に山積みのフレコンバック。 風子「三年前 ? 」 道宏、首を振る。 放射能モニタリング測定・表示装置が 風子「三ヶ月前 ? 」 「 3 ・ 368 4 co > 』を表示している。 道宏、頷く。 送電鉄塔がそびえ立ち、南の方角へと送風子「無茶するなあ」 道宏「・ : 電線が伸びている 「富岡」の標識 「楢葉』の標識。 - ー 137 - ー

5. シナリオ 2016年5月号

食事に行ったり : : : 」 幸子「ん」 葵「一緒に帰んなくて」 幸子「永野君がプロポーズして、結婚。子供幸子「 : : : 」 が産まれて、永野君は一生懸命、私と子供葵「じゃ、行ってくんね」 の為に働くの」 葵、自転車を走らせる。 道宏「・ : 幸子、遠くなる葵の背中をじっと見送っ 幸子「子供たちも大きくなって、結婚して家 て、 を出て行く。家には、永野君と私だけ : 私たちは縁側でお茶を飲みながら、静かに 庭を眺める : イキそうになる道宏、眉間に皺を寄せる 幸子の擦る手が早くなる 道宏、子供が母親にすがるように、幸子 に抱きつくと、体を震わせ、射精する。 幸子の手がゆっくりととまる。 幸子「ありがとね。会いに来てくれて」 幸子のマンション・近くの道 ( 朝 ) 自転車に乗った葵、駅へと向かっている。 と、前から幸子が歩いてくる。 葵、幸子の前で、自転車を停め、 葵「朝帰り」 幸子「不良になっちゃった」 一一人、微笑む 葵「オジサンは ? 幸子「帰った」 葵「ふーん。、、 クガタンゴトン、ガタンゴトンクと電車 の音が聞こえてきて 走る電車の中 座席に座っている道宏、窓外の流れる景 色を見ている 道宏、激しく咳込む 道宏「 ( 次第に落ち着いてきて ) ・ 道宏、背もたれに深く寄り掛かり、目を 閉じる。 貶道宏の夢 地面に背の高い影と小さい影 影は道宏の父親と母親のようだ。 母親の手が大きなお腹を擦りながら、 母親の声「早く、出ておいで : とお腹の中の道宏に語りかける。 幸子「・ : 4 4 元の走る電車の中 かすかに微笑んでいる道宏、電車に揺ら れながら、眠っている、眠っている : 常磐線・竜田駅前 道宏が改札を出てくる 放射能モニタリング測定・表示装置が 「 0 ・ 17 6 > 』を表示している 道宏、代行バスに乗り込む。 バスの側面には「原ノ町駅行き』と表示 されている バスが動き出す。 歩いて来る道宏、一本の木の前で、立ち 止まる 道宏、木を見上げる。 それは松の木。下の枝に葉は芽吹いてお らす、かろうじて上の枝に葉が残ってい る。 いずれ朽ち果てるであろう松の木を、目 を細め、見上げている道宏、髪には白髪 が交じり、顔には年相応の皺が刻まれて いる 津波が全てを押し流し、荒地となったそ の場所に、松の木と道宏の姿、ただそれ しかなく 終わり

6. シナリオ 2016年5月号

堀内「府の職員 ? まあ、ウソゃないな」 一軒の居酒屋の前で立ち止まる。 小杉「お、ここやここや」 店内へ入っていく。 〇 居酒屋店内 小杉「あ、おったおった」 月杉がリサやレイコたちに手を振る 小杉、瑞穂を見て、 小杉「一人ピミョウな子がおるな。あの子の 向かい誰が行く ? ジャンケン ? 堀内、瑞穂を見て、 堀内「俺、行ったるわ。 小杉「ええんか ? 残り少ない独身の日々な んやろ」 堀内「まあ美人ちゃうけど、そんな悪ないや ん」 堀内、俯いて座っている瑞穂の前に立つ。 堀内「ここ、ええ ? 瑞穂、驚いて顔を上げる。 ケ 堀内、返事も待たすにさっさと座る プ 瑞穂、不審そうに堀内を見る ア の 堀内、余裕のある笑みを浮かべている ュ〇同外 チ 合コンメンバーたちが店から出てくる 小杉「カラオケ行く人、この指と 5 まれ ! 」 シャワー音が消えて、下半身にタオルを 皆、競うように小杉の指を握る 巻いた堀内が出てくる その場から離れていく瑞穂を、堀内が追 堀内「自分も入って来いや」 瑞穂、タリウム入りのミネラルウォー 堀内「送るわ」 ターをグラスに注ぐ。 瑞穂「結構です」 堀内「自意識過剰ゃなあ。どうせ処女やろ」瑞穂「これ」 堀内にグラスを差し出す瑞穂 瑞穂、堀内を睨み付ける 堀内、瑞穂を見ている 堀内、ニャニヤ笑っている 堀内「さっさと捨てた方がええで。俺、手伝っ瑞穂「 : : : どうしたの ? 」 堀内「いや : : : 何か意外ゃなって思って」 たろか」 瑞穂、笑顔を作って、 瑞穂、再び歩き始める 堀内「アホゃな。見栄やらプライドやら気に瑞穂「飲んで」 堀内、不審そうに瑞穂を見ている しとったら、自分なんか、一生処女のまま 瑞穂の顔に、わずかに焦りの色が見える。 やで」 堀内「やめとこ」 瑞穂、立ち止まる 瑞穂の前を素通りして、ソフアにたたん 堀内、瑞穂の隣に立って肩を抱く で置いてある服を着始める 堀内「行こか」 瑞穂「・・・・ : ど、つして」 瑞穂、堀内を強い視線で見る。 堀内「お金置いていくから。電車なかったら 泊まってったらええやん」 〇ラプホテル室内 シャワー音が聞こえる 瑞穂「どうして ! 」 堀内、瑞穂を見て、 ソフアに座っている瑞穂。 かたわらにはキチンとたたまれた堀内の堀内「俺、意外性って信じへんねん」 瑞穂「意外性 ? 」 衣類が置いてある カバンの中から粉末の硫酸タリウムを取堀内「人が意外な事してると、何か企んでる ような気がして落ち着かへん」 り出すと、ミネラルウォーターのポトル に入れて振る

7. シナリオ 2016年5月号

る 乗っていたカレ 1 皿が床に落ちる 兄「もう、いい加減にしてよ : カレーを口に運びながら、無表情にテレ 瑞穂、慌てて食器を拾おうとしやがみ込 困り果てた兄、涙声になっている む。 祐輔、ポケットから一万円札を取り出し ビ画面を見ている瑞穂 て兄に渡す。 そのはずみにバッグの中から財布や 瑞穂の座っている前のテープルに、リサ、 驚いた兄、受け取れない。 レイコ、アヤがトレイを手にやってくる ティッシュケースを落とす。 祐輔、札を前に突き出す。 テレビ画面が遮られる リサ、小さな紙包みが落ちているのに気 兄、恐る恐る一万円札を受け取ると無言レイコ「ミカの話、聞いた ? 」 が付く で頭を下げて妹のところへ行く。 リサ「聞いた聞いた。髪の毛、めっちゃ抜け リサ「何、これ」 兄「綿菓子、買いに行くぞ」 てんやろ」 瑞穂、慌てて紙包みを取り返そうとする も、リサにかわされる 妹「ホント : ・ レイコ「目えも見えへんよ、つになってもうた 兄、妹の手を引いて来た道を戻る。 らしいで」 瑞穂「返して」 妹「あのね、プリキュアの袋のが欲しいのアヤ「マジで怖つ」 リサ「今日、コンパに来てくれたら返したる 瑞穂、思わず笑みを浮かべる 祐輔、兄妹の後ろ姿を見ている リサ「それより今日のコンパ、どないしよ」瑞穂「・ : ・ : 」 レイコ「人数が足りんのは、幹事の信用問題リサ「梅田のビックマン前に七時。頼むで 5 」 大阪府吹田市 x x 大学食堂 リサ、行ってしまう。 に関わるもんな」 昼時で混雑している食堂で一人、カレー アヤ「とりあえす片っ端から声かけていった 瑞穂、舌打ちする。 ら ? を食べている瑞穂 食堂内のテレビではお昼のニュースが流リサ「そう言われてもなあ : : : 」 阪急東通り商店街 ( 夜 ) れている 食堂を見まわすリサ チェーンの居酒屋が立ち並ぶ通りを、 キャスター「 : : : イスラム過激派組織がシリ 笑みを浮かべていた瑞穂と目が合う 杉と堀内、同僚二人が歩いている アにて邦人男性一人を拘東したとの声明を 瑞穂、慌てて笑みを引っ込める 小杉「もうすぐ、結婚するくせにコンパって、 出しました。拘束されたのはジャーナリス リサ「ちょっと」 ようやるわ」 トの川藤遼二さん ( 貯 ) で、声明と共に拘 瑞穂、トレイを持って立ち上がる 堀内「もうすぐ、結婚するからこそ、残り少 東されている川藤さんの映像がネット上で リサ、追いかける ない独身の日々を謳歌せな」 公開され : : : 」 リサ「山際さん、やろ」 小杉「あ、向うには府の職員って言っとるか テレビ画面に川藤の顔写真が映し出され 瑞穂、ドキッとしてトレイを落とす。 ら」 〇 〇 8

8. シナリオ 2016年5月号

道宏「・ : 1 いわき駅・切符売場 切符販売機の前に、道宏と風子。 風子「上野まででいし 頷く道宏。 ヒ 刈風子「六千三百九十円」 ュ 風子、切符販売機の投入口を指差し、 の風子「ここに入れて」 道宏、札を入れる。 風子「ここ押して」 女、卒業アルバムの幸子と瓜二つ。 道宏、ボタンを押すと、切符が出てくる。 風子「あ : : : 」 道宏、吸い寄せられるように女に近づい 風子「変なの」 道宏、よくわからないまま、擦る ていく 道宏「 ? 風子「指、入れて」 道宏、女の前に立っ 風子「ほんとに乗ったことなかったんだね」 道宏、指を入れ、動かす。 女・片桐葵 ) 。 道宏「 : 風子「痛い 二人、改札へと歩き、改札前で立ち止まる。葵「ドンテンさん ? 道宏、始めはゆっくりと動かし、風子が 感じ始めると、徐々に早く動かしていく。風子「それじゃあ」 道宏、頷く。 葵「行こっか」 風子「ああ ! 」 葵、歩き出す。 風子「初恋の人に悪いことしちゃったかな」 風子、空を見ながら、イク。 訳もわからず、ついていく道宏。 道宏、首を振る 風子の閉じた目から涙があふれ、頬を伝 風子「会えるといいねー 路地 道宏、風子の手を取り、手のひらに人差 歩く葵。 し指で文字を書く。 道宏、愛液で濡れた指を鼻先に近づけ、 少し後ろを歩く道宏。 ニオイを嗅ぐ 風子「 ( 読む ) あ・り・が・と・う : : : 」 葵、ラプホテルに入って行く。 道宏、改札に入ろうとするが、切符の入 道宏、ふと父親の写真を見る。 道宏、立ち止まり、ラプホテルを見上げる。 れ方がわからない。 写真の中の父親、微笑んでいる。 風子が入れてやる 道宏、切符を取り、風子に頭を下げると ラプホテル・一室 葵、バッグをソフアに置くと、 ホームへと歩いて行く 葵「先にお金いいですか ? 」 風子、見送って 道宏「・ : 葵「お金」 上野駅・広小路ロ 道宏、財布から千円出すと、渡す。 雑踏の中、年賀状を手にした道宏が迷い 葵「 : : : ふざけてんの」 子のように辺りを見回している ふと、駅の壁を背に、携帯を見ている女道宏「 : : : 」 を見る。 葵「英世じゃねえよ、諭吉だろ」 道宏、財布から一万円札を取り出す。 道宏「卩 141

9. シナリオ 2016年5月号

の誕生日。大好きな人が死んだ。三島由紀エマ「じゃあね」 エマを背負って歩く、祐之介 夫が、死んだ」 響子「転んだりしちゃだめよ」 祐之介の背中で眠っているようなエマ。 エマ「大丈夫。そばにいるから」 まるで赤ン坊をあやすように揺すって歩 ク無伴奏を前 エマ、祐之介の腕をしつかり掴む いてゆく、祐之介 通りを歩いてくる響子。 祐之介、渉をちらっと見て微笑む 空を見上げる。雪が落ちてくる エマ、無邪気な笑顔で、響子と渉に手を 千葉家・外 ( 夜 ) 立ち止まると、地下への階段を下りる。 振って出てゆく。 すでに雪はあがってる 二人の消えた入口を見つめる渉。 腕を組んで歩いてくる渉と響子。 。無伴奏を中 響子「どうしたの ? 」 響子、雪を集めて門の脇に兎を作る。 店に入る響子。渉を見つける。 : エマに何も話さなかったんだね」 渉も並べて兎を作る。 響子「 : : : あ」 響子「言えないわ。これからも絶対に」 響子、南天の実で目を入れる。 渉の隣に、エマと並んで座る祐之介。 渉「きみは変わった女の子だ」 響子「彼を諦めて」 エマが気付いて手を振る 響子「普通よ」 渉を見上げ、目をそらさない響子。 三人のほうへ歩き出す響子。 笑顔の響子をじっと見る渉 響子「これ以上思っても、何も生まれないわ」 ぎこちなく挨拶を交わすと、渉の隣に座響子「私が何も言わない理由、渉さんならわ渉「わかってるよ」 る響子。 かるでしよ」 響子を強く抱きしめる渉。 エマ「四人そろったのは久しぶりじゃない」渉「 : : : わかるよ」 響子「信じてるわ。忘れないで」 響子「順調なの ? 響子「それにエマは今、幸せなはすよ」 ・ : 忘れない」 エマ「 ( サイン ) バッチリよ」 渉「僕もそ、つ思う : ・・ : 」 雪の兎を眺める二人、キスしようとする。 響子「おめでとう。来年はお父さんね」 が、女子高生が通りがかる 茶室・中 ( 夜 ) 身体を離す一一人 ふふつ、と笑う祐之介、エマに何か囁く エマが顔を輝かせてうなずく。 炬燵に入り、果物ナイフで林檎の皮を剥渉「じゃあまた」 じっと二人を見ている、渉。 く、エマ 去っていく渉の背中を見つめる響子。 祐之介「悪いけど、お先に失礼するよ」 笑顔のエマをみている祐之介。っーっと 涙をこばす。 茶室・前 ( 夜 ) 祐之介は立ち上がり、響子を見る。 渉が飛び石を渡ってやってくる。 エマも席を立つ。 輪王寺・境内 ( 夜 ) にじり口の板戸の前。

10. シナリオ 2016年5月号

三人、無言で食べる。 田之倉「まだ結婚してへんわ」 堀内「先、帰りますわ」 店内のテレビでニュースが流れている。堀内「じゃあ、彼女は ? 」 田之倉「おう、また明日」 アナウンサー「 : : : 全校生徒の約 9 割が死田之倉「こっち来る前に別れてもた」 堀内「気いつけんと、犯罪者ばっかり見とっ 亡・行方不明となった〇〇小学校の保護者堀内「何でですか ? 」 たら、同じような人間になってまいますよ」 が県と市を相手取り損害賠償を求める裁判田之倉「向うが結婚したがって」 堀内、帰っていく。 堀内「結婚しない主義ですか ? 田之倉、グラスを呷って空ける。 田之倉「 : ・ 氷の音に反応するように聖子が顔を上げ 〇ダイニングバー ( 夜 ) 堀内「 : : : 僕ねえ、震災で親、亡くしてから、 て田之倉を見る 客はまばらである ずっと施設暮らしなんですわ。そやから早聖子「ハイボールですか ? 田之倉が一人力ウンターで飲んでいる。 よ結婚して、ちゃんとした家庭作りたいん 田之倉、軽く頷く。 聖子が小皿に盛ったナツツを置くとカウ ですよね」 聖子、ハイボールを作って、田之倉の前 ンターの隅へ行き、グラスを磨き始める 田之倉、堀内を見る。 堀内がやってくる 堀内「ホンマはね、僕、自衛隊に入りたかっ ガャガヤと騒がしい声。 堀内「おった、おった」 たんですよ。地震の時、仮設のお風呂とか、 ドアが開いて二十代前半のヤンキー風の % 田之倉「何や。朱里ちゃんとデートちゃうん チャチャっと組み立てたりして、カッコえ 男女数人が入ってくる えなあって : : : 」 男 1 「コロナ三つと、ジーマ二つ 5 」 堀内「ボランティアの手伝いやって言いまし田之倉「それが何で、警察官に ? 」 テープル席につく男女たち。 たやん。 ( 聖子へ向かって ) ジーマちょう堀内「自衛隊に入ったら、海外とかに行かな 聖子、コロナとジーマの瓶を置く だい」 アカンでしよ。家族と離れ離れになるの嫌 聖子を見た男の一人が目を見開く 聖子、ジーマの瓶を堀内の前に置くと、 やし、それやったら警察かなって : : : 田之男 2 「お前、〇〇小学校の : : : 」 カウンターの隅へ戻る 倉さんは ? 聖子、俯く。 堀内、殺菌ジェルで手を拭いながら聖子田之倉「俺か ? 俺は : : : 罪を犯す人間に、 連れが、男 2 と聖子を見る を見て、 会ってみたかってんなあ」 男 1 「どうしたんだよ」 堀内「彼女、結構ええですやん。田之倉さん、堀内「わかる気がしますわ。罪を犯す人間と男 2 「こいっ〇〇小学校の先生だよ。自分の もしかして狙ってんですか」 犯さん人間の境目って、どこにあるんやろ娘だけ連れて逃げた」 田之倉「アホ」 なって」 女「あんたの弟、通ってたんでしょ」 堀内「奥さん、怖いんですか ? 」 堀内、瓶に残ったジーマを飲み干す。 男 2 「いい気なもんだよな。他の生徒を見殺